大阪地方裁判所 昭和58年(ワ)6517号 判決
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【判旨】
2 訴外人死亡による逸失利益
当事者間に争いのない事実によれば、訴外人は事故当時九才の男子であつたことが認められ、昭和五七年度の賃金センサスによれば、同年度の一八才ないし一九才の男子労働者の平均給与額は一か年一六五万八七〇〇円であることが認められるところ、同人は事故がなければ一八才から六七才まで四九年間就労が可能であり、同人の生活費は収入の五〇%と考えられるから、同人の死亡による逸失利益を年別のホフマン式により年五分の割合による中間利息を控除して算定すると、一六二三万三一九九円(円未満切捨て)となる。
なお、原告らは、訴外人の逸失利益を算定するにあたり、その基礎となる収入につき、全年令男子労働者平均賃金を用い、かつ、ライプニッツ式により中間利息を控除する方法によるべき旨主張する。
ところで、幼児・児童の逸失利益の算定は、本来、具体的・個別的算定ではなく、その職業、家族構成、生活状況、余命など将来の不確定要素を秘めた事項について、あえてこれを予測し、将来の収入を推計しなければならない性質のものであつて、幼児・児童の将来の収入を的確に把握することに困難性をともなう以上、被害者に不当に利益を与え、加害者に不当の損失を及ぼすことのないように、できる限り被害者側に控え目な算定方法を採用すべきものであるところ、幼児・児童においても、少なくとも稼働可能期間中、一八歳ないし一九歳時の平均初任給相当額程度の収入を得られることは確実なのであるから、初任給固定方式を採用すべきであり、本件訴外人の逸失利益を算定するにあたつても、その基礎となる収入につき、同人の稼働可能期間中、統計による一八歳ないし一九歳時の男子労働者平均賃金を固定して算定した(参照最判昭和五四年六月二六日交民集一二巻三号)。この点に関する原告らの主張は、要するに、稼働可能期間を通じ、全年令男子労働者平均賃金と同額の収入を得ているであろうことを前提にするのであるが、前記の如く、不確定要素を秘めた幼児・児童の将来の収入を認定するにあたつて、常に困難性をともなう以上、全稼働可能期間にわたり、より確実なものとして、全年令男子労働者平均賃金以上の収入を得ることができるものとするには、転職が少なく、同一職種で永年勤務し、かつ、段階に応じて年令とともに昇任し、健康を保持して健全な家庭生活を営むなどの擬制を多く積み重ねなければならない点で、その採用に、躊躇せざるをえないうえ、原告ら主張の、いわゆる全年令(男・女)労働者平均賃金固定方式は、初任給固定方式に比し、男女間に賃金較差の存在する現行賃金制度下においては、被害者の性別により、逸失利益の較差が拡大する点で、体系的にも無理が生じて妥当ではなく、また、収入のある若年労働者が死亡した場合に比し、いかにも不公平な結果を招来することとなり、この点でも妥当性を欠くのであつて、少なくとも、現在の社会・経済状況を前提とする以上、原告らの右主張は採用できない。幼児・児童の逸失利益を相続する者が、通常、幼児・児童の監護・教育の権利を有し、義務をも負う両親であることを考慮すれば、初任給固定方式の妥当性がより強く認識されるのである。
また、中間利息の控除については、事故発生日より年五分(民事法定利率)の割合で発生する遅延損害金が複利でなく単利であること、被害者は、賠償金入手までの間、利殖不能であること、損害賠償金は損害の填補にあてられるべきであつて、複利の貯蓄を予定したものでないこと及び近時における貨幣価値の低落傾向などの諸事情を考慮すれば、ホフマン方式により中間利息を控除すべきであつて、ライプニッツ方式は採用しえない。
以上の理由により、前記認定のとおり、訴外人の逸失利益を算定した。
(坂井良和)