大阪地方裁判所 昭和58年(ワ)8749号 判決
一 請求原因1、4項の事実は、別紙目録記載の説明文(但しイ号物件の対象範囲については争いがある。)及び図面を含め、当事者間に争いがない。
成立に争いのない甲第二号証によれば、本件考案の構成要件は請求原因2項の(一)の(1)ないし(5)記載のとおり分説するのが相当と認められ、又本件公報に本件考案の作用効果として同2項の(二)(三)のとおりの記載のあることが認められる。
二 イ号物件の対象範囲とその構成について
本件のような多数の部分からなる一連の装置においては、侵害物件の対象範囲は、侵害が問題となつている権利との対比において客観的に定めるべきである。以下この見地からイ号物件の対象範囲について考察する。
本件考案は、一つのエンドレスコンベアを有し、該コンベア上の被処理体表面の水滴を除去する水滴拭取装置に関するものであり、本案装置の前段において乾燥に寄与する装置等が置かれるとしても、これが被処理体に本案装置の作用効果を要求するほどの水滴を残すことを前提とするものである限り、それは単なる付加部分にすぎないものと解される。従つて、本件考案と対比すべき侵害物件の範囲としては、一つのエンドレスコンベアを有し、該コンベア上の鶏卵表面が水滴除去あるいは乾燥処理される部分を取り上げれば足り、他のコンベアによつて区分された部分に配置されたものまで対比の範囲に含める必要はないと思われる。
当事者間に争いのない別紙目録の記載及び原告友末の本人尋問の結果によれば、被告の鶏卵乾燥処理機の構造は、別紙目録一但書の除外をしないならば次のとおりと認められる。(イ)洗卵部鼓状ローラーコンベア36の上部に高圧フアン30、高圧エアー吹出口31からなる高圧風吹付装置がある。(ロ)次いで右36とは独立に乾燥部鼓状ローラーコンベア1があり、その上流上方に中圧フアン10aからなる中圧風吹付装置が、又コンベア1の下流の上方で上部回転ブラシ11b上部に低圧フアン10bからなる低圧風吹付装置が、それぞれ設けられ、上部回転ブラシ11bの下方には、コンベア1の裏側を摩擦するようにした二本の下部回転ブラシ11aが設けられている。(イ)の高圧風吹付装置は、一つのエンドレスコンベア36によつて区切られた洗卵工程の終端部にあり、カーテン状の強風により鶏卵3表面上の大量の水滴の「水切り」を行う装置であつて、(ロ)の段階のエンドレスコンベア1でまとめられた乾燥工程への前段処理を行うものである。(ロ)の乾燥工程において、鶏卵3表面に付着した水滴ないしは水分の乾燥処理を完結する。これらの事実によれば、高圧風吹付装置はその後の中圧風吹付装置以下の部分とは構造的・機能的にも不可分一体のものではないうえ、鶏卵表面に付着した水滴ないしは水分の乾燥処理は中圧風吹付装置以下の過程で完結されるのであるから、本件考案との対比においてイ号物件の範囲を定めるに当つては、高圧風吹付装置の部分までも含める必要はなく、中圧風吹付装置以下の部分を問題とすれば足りる。
イ号物件の対象範囲についての以上の判断及び別紙目録の記載によれば、イ号物件の構成は、請求原因5項の(一)の(1)ないし(5)記載のとおり分説するのが相当である。
三 イ号物件の上部回転ブラシ11bと本件考案の利用関係の有無について
成立に争いのない甲第二号証によれば、本件公報の詳細な説明には次のとおり記載されていることが認められる。
従来、球状野菜、果実類は、水を用いて洗浄することは比較的容易であるが、そのあと水滴を除去することは容易でなく、大量のものを処理しようとしてブラシにより直接摩擦してその水滴を拭取ると、それらの表面を傷つけ鮮度を犠牲にする危険を伴う(本件公報一欄二六ないし三一行目)という欠点があつたが、本件考案は、右のような従来技術の問題点を解決した球状野菜・果実類の水滴拭取装置の提供を目的とするものである(同一欄二三ないし二五行目、三四行目)。即ち、本件考案は、被処理体の表面をブラシにより直接摩擦して表面を傷つけたり鮮度を犠牲にしたりすることを避けるために、従来技術のように被処理体の表面をブラシにより直接摩擦して水滴を除去するのではなく、被処理体の上に強風を吹付けて表面に付着した水滴を下方に吹き降ろしてローラー面に集め、ローラー下部の回転ブラシによつてローラー面に集まつた水滴を拭取ることにより、被処理体を乾燥する(同二欄二八行目ないし三欄一行目)という間接的な方式をとつた。この方式によつて、被処理体の表面を傷つけたり鮮度に悪影響を及ぼしたりする虞れがない(同四欄一、二行目)という、従来技術にはない優れた効果が得られることとなつた。
このように、本件考案は、被処理体の表面をブラシにより直接摩擦することを避けた水滴拭取装置の提供を目的とし、この目的を達成するために、強風吹付装置による強風により被処理体表面上の水滴を吹き降ろしてローラー面に集め、それを下部回転ブラシで拭取るという技術手段を採用したものである。これに対して、イ号物件は、別紙目録の記載及び原告友末の本人尋問の結果によれば、次のような装置と認められる。中圧フアン10aによる中圧風により鶏卵3表面に付着している水分を吹き飛ばす。その後低圧フアン10bによる低圧風の雰囲気内において、四個の上部回転ブラシ11bにより鶏卵表面を直接摩擦して鶏卵表面上の水分を直接拭取り、又この間に二個の下部回転ブラシ11aによりローラー2面に付着した水分を拭取る。このようにして鶏卵表面に付着した水分を乾燥させる。そうすると、イ号物件は、鶏卵表面を直接摩擦するための上部回転ブラシ11bが四個設けられていることから、本件考案の目的達成を不可能にし、本件考案の技術思想に背反するものである。このようにして、イ号物件の構成(4)<イ>を本件考案の構成要件(4)に単に付加された慣用手段と認めることはできず、イ号物件が本件考案を利用するものであるとする原告らの主張は理由がない。
四 イ号物件の構成(3)・(4)<ロ>と本件考案の構成要件(3)・(4)との対比について
原告らは、イ号物件の「中圧フアン10a」及び「低圧フアン10b」(構成(3))が本件考案の「強風吹付装置」(構成要件(3))に該当し、イ号物件の「二本の下部回転ブラシ11a」(構成(4)<ロ>)が本件考案の「複数個の回転ブラシ」(構成要件(4))に該当すると主張する。以下右主張について考察する。
前述のように、本案装置は、被処理体表面に付着した水滴拭取の手段として、ブラシによる被処理体表面の直接摩擦という手段を一切用いなくとも、強風吹付装置による被処理体表面に付着した水滴のローラー面への吹き降ろし手段と、ローラー下部の回転ブラシによるローラー面に集まつた水滴の拭取手段との相乗作用のみによつて、被処理体全面の乾燥を完結するものである。従つて、本件考案の構成要件(3)の「強風吹付装置」、同(4)の「複数個の回転ブラシ」は、右のような機能を有する強風吹付装置であり、又複数個の回転ブラシでなければならない。
本件公報には、本件考案の目的として、「従来果菜類・芋類・果物類は、水を用いて洗浄することは比較的容易であるが、そのあと水滴を除去することは容易でないのみならず、大量のものを処理しようとしてそれらに熱や衝撃やブラツシングを与えると、それらの表面を傷付け鮮度を犠牲にする危険をさえ伴い、安価にして充分満足すべき此の種装置の出現は極めて要望されている処である。本案装置はこの要望に応えるもの」(一欄二六ないし三四行目)と記載され、本案装置の作用として、「被処理体3はローラー2の間隙4にはまり自ら整然と並ぶ。この並んだ上に強風吹付装置10により強風が吹付けられるので、被処理体の表面に付着した水滴は下方に吹き降ろされローラーの面に集まる。」(二欄二七ないし三一行目)、「ローラー2は回転ブラシ11により摩擦されるから、ローラー面に集まる水滴は回転ブラシ11により容易に拭取られる。ローラー面の水滴が容易に拭取られるため、被処理体とローラーとの接点に頑固に残ろうとする水滴も速やかに除去することができる。」(二欄三三行目ないし三欄一行目)と記載され又本案装置を説明するための図面の第一図には、コンベア1の上側に三台の強風吹付装置10が該コンベアの進行方向に並べられ、それらの強風吹付装置10が並べられた区域内にあるコンベア1の下側には、該区域内にあるコンベアのローラー2に各々接触する六個の回転ブラシ11の記載がある。
以上によれば、本件考案は、強風吹付装置によつて強風を直接被処理体に吹付け、被処理体の表面に付着した水滴を吹き降ろしてローラー面に集め、ローラー面に集められた水滴を回転ブラシにより直ちに拭取る作業を被処理体が乾燥するまで連続して繰り返すものであり、被処理体への強風吹付けは所定の区間に亘つて行われ、且つ該区間内を移動中のローラーはほぼ常に回転ブラシにより摩擦される構成であると解される。従つて、本件考案の構成要件(4)の「コンベアの下側にはコンベアの裏側を摩擦するようになした複数個の回転ブラシを設け」の意義は、回転ブラシがコンベアの下側に単に設けられていさえすれば良いというのではなく、強風吹付装置により強風が吹付けられる区域内の下側に設けられたものであつて、かつ「複数個」も単に複数個あれば足りるものではなく、前記区域内にあるコンベアのローラーの各々をほぼ常時摩擦しうる程度の数を意味するものと認められる。
これに対してイ号物件を見るに、別紙目録の記載、証人藤井幸夫の証言により成立の認められる乙第三号証、弁論の全趣旨により成立の認められる乙第五号証、証人藤井幸夫の証言、原告友末の本人尋問の結果によれば、次の事実が認められる。イ号物件は、コンベア1の上側に一台の中圧フアン10aと二台の低圧フアン10bが並べられ、コンベア1のうち低圧フアン10bによる低圧風吹付区域内の部分の上側には、鶏卵を直接摩擦する上部回転ブラシ11bが低圧フアン10bの一台毎にほぼ対応して二本ずつ合計四本設けられている。コンベア1のうち中圧フアン10aによる中圧風吹付区域内の部分の下側には下部回転ブラシは設置されていない。コンベア1のうち前記低圧風吹付区域内の部分の下側には二本の下部回転ブラシ11aが設置されているが、同区域内のローラー2はこの二本のブラシで間隔を置いて順次摩擦されるにすぎない。上部回転ブラシ四本は低圧風吹付区域の大半を覆うような配置にあつて、低圧風がコンベア1上の鶏卵に吹付けるには大きな障害となつているうえ、低圧風吹付区域入口での鶏卵表面の水分は、高圧フアン30、中圧フアン10aによる風により既に大部分が吹き飛ばされているので、低圧風吹付区域内での鶏卵表面の水分は僅かなものにすぎない。仮に低圧風が直接鶏卵表面にまで届いたとしても、鶏卵表面に付着している水分を積極的に下方に吹き降してローラー面に集める作用を期待するのは困難である。鶏卵表面の水分を四本の上部回転ブラシ11bによつて直接的に拭取ることが必要不可欠であり、二本の下部回転ブラシ11aによるローラー面に集まつた水滴の拭取は、湿度の高い時等に鶏卵表面の乾燥を促進するための補助的な役割を果しているにすぎない。
以上によれば、イ号物件においては、四本の上部回転ブラシによる鶏卵表面の水分の直接的な拭取が必要不可欠であり、中圧フアンの風による鶏卵表面に付着した水滴の下方への吹き降ろし作用(低圧フアンには右作用を期待することは困難である。)と、二本の下部回転ブラシによるローラー面に集まつた水滴の拭取作用との相乗効果のみによつては、鶏卵表面の乾燥を完結できないと認められるから、イ号物件の構成(3)の「中圧フアン10a」及び「低圧フアン10b」が本件考案の構成要件(3)の「強風吹付装置」の要件を充足するとはいえず、又イ号物件の構成(4)<ロ>の「二本の下部回転ブラシ11a」が本件考案の構成要件(4)の「複数個の回転ブラシ」の要件を充足するともいえない。更に、中圧風吹付区域内のコンベアの下側には下部回転ブラシがなく、低圧風吹付区域内のコンベアの下側には僅かに二本の下部回転ブラシがあるのみで、同区域内にあるローラーの各々をこの二本でほぼ常時摩擦しうる構成ではないので、この点からも、イ号物件の構成(4)<ロ>の「二本の下部回転ブラシ11a」が本件考案の構成要件(4)の「複数個の回転ブラシ」の要件を充足するものとは認められない。
五 以上の次第でイ号物件が本件考案の技術的範囲に属するものとは認められない。
よつて、原告らの請求はその余の点にふれるまでもなくすべて理由がないので棄却することとする。
〔編註〕本件における請求原因は左のとおりである。
1 原告友末は次の実用新案権(以下「本件実用新案権」といい、その考案を「本件考案」という。)を有する。
登録番号 第一二一四一二七号
考案の名称 球状野菜・果実類の水滴拭取装置
出願日 昭和四八年五月七日
出願公告日 昭和五二年六月一四日
登録日 昭和五三年二月二八日
実用新案登録請求の範囲
別紙実用新案公報の該当欄記載のとおり
2 本件考案の構成要件及び作用効果は次のとおりである。
(一) 構成要件
(1) 球状野菜・果実類の水滴拭取装置であること。
(2) 回転自在の多数の棒状ローラーを球状野菜・果実類の直径より小なる間隙を保ち梯形且つエンドレスに連鎖してなる広幅コンベアを横架して駆動する様になすこと。
(3) 該コンベアの上方には強風吹付装置を設けること。
(4) コンベアの下側にはコンベアの裏側を摩擦する様になした複数個の回転ブラシを設けること。
(5) コンベアの上側または下側にはコンベアの駆動に伴いローラーに緩やかな回転運動を起こさせる様になした接触抵抗体を設けること。
(二) 作用
大量の濡れた被処理体が駆動されているコンベアの上に供給されると、被処理体はローラーの間隙にはまり自ら整然と並ぶ。この並んだ上に強風吹付装置により強風が吹付けられるので、被処理体の表面に付着した水滴は下方に吹き降ろされローラーの面に集まる。ローラーは接触抵抗体の作用により回転し、これに伴い被処理体も緩やかに回転する。ローラーは回転ブラシにより摩擦されるから、ローラー面に集まる水滴は回転ブラシにより容易に拭取られる。ローラー面の水滴が容易に拭取られるため、被処理体とローラーとの接点に頑固に残ろうとする水滴も速やかに除去することができ、被処理体全面の乾燥を完結することができる。
(三) 効果
大量の球状野菜・果実類を洗浄したあと直ちに水滴を取り去ることができ、しかも表面を傷つけたり鮮度に悪影響を及ぼしたりする虞れがなく、構造的にも極めて簡単で安価に提供することができる。
3 原告友末はその出願公告時から原告会社に対し、無償の独占的通常実施権(以下「本件通常実施権」という。)を許諾した。
原告会社はこれに基づき本件考案を実施して、その実施品である装置を現在まで製造・販売している。
4 被告南部電機はイ号物件を業として製造・販売し、その余の被告三社はいずれも同物件を業として販売している。
5 イ号物件の構成及び作用効果は次のとおりである(イ号物件に関する番号等は別紙目録記載のものを指す。以下同じ。)
(一) 構成
(1) 鶏卵の乾燥処理機であること。
(2) 中間部に卵座用のクビレ22を有する六個の鼓状ロール21をシヤフト23に対して一体に固着したローラー2を回転自在とし、多数の該ローラー2を鶏卵3の直径より小なる間隙4を保ち、該ローラーの両端部を各々エンドレスチエンによつて駆動するようにした鶏卵搬送用広幅コンベア1を横架して駆動する様になすこと。
(3) 該乾燥部鼓状ローラーコンベア1の上方には、搬送入口部より中圧フアン10a、続いて低圧フアン10bを設けること。
(4)<イ> 搬送される鶏卵3と前記低圧フアン10bとの中間には鶏卵3の表面を摩擦するようになした四本の上部回転ブラシ11bを設け、
<ロ> 乾燥部鼓状ローラーコンベア1の下側には該コンベアの裏側を摩擦するようになした二本の下部回転ブラシ11aを設けること。
(5) コンベア1の下側には、コンベアの駆動に伴いローラー2に緩やかな回転運動を起こさせるようになしたレール状の接触抵抗体12を設けること。
(二) 作用
洗卵工程の終端部において高圧風吹付装置から送られる高圧風によつて水切りをされた鶏卵(一応の水切りをされただけで、この段階では未だ濡れた状態である。)が、駆動されている乾燥部鼓状ローラーコンベア1の上に供給されると、鶏卵はローラー2の間隙の卵産にはまり自ら整然と並ぶ。この並んだ鶏卵の上にまず中圧フアン10aにより強風が吹きつけられ、鶏卵の表面に付着した水滴は下方に吹き降ろされてローラー2の表面に集まる。次いで鶏卵は四本の上部回転ブラシ11bにより順次表面を摩擦されるとともに、低圧フアン10b(低圧フアンとはいつても、その風力からして強風吹付装置であることにはかわりない。)からの強風を受け、鶏卵の表面に付着した水滴は、一部は上部回転ブラシ11bにより分散ないしははね飛ばされる(上部回転ブラシには吸水効果はほとんどない)とともに、一部は低圧フアン10bからの強風により吹き降ろされてローラー2の表面に集まる。ローラー2は接触抵抗体12の作用により回転し、これに伴い鶏卵3も緩やかに回転する。ローラー2は下部回転ブラシ11aにより摩擦されるから、ローラー2の面に集まる水滴は下部回転ブラシ11aにより容易に拭取られる。ローラー2の面の水滴が容易に拭取られるため、鶏卵とローラー2との接点に頑固に残ろうとする水滴も速やかに除去することができ、鶏卵全面の乾燥を完結することができる。
(三) 効果
乾燥部鼓状ローラーコンベア1の下側に、該コンベアの裏側を摩擦するようになした二本の下部回転ブラシ11aを設けることにより、鶏卵とローラー2との接点に頑固に残ろうとする水滴を速やかに除去し、鶏卵全面の乾燥を完結することができるため、大量の鶏卵を洗浄したあと直ちに水滴を取り去ることができるとともに、構造的に簡単で安価な水滴拭取装置を提供することができる。