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大阪地方裁判所 昭和58年(行ウ)18号 判決 1983年6月10日

原告

大西純悟

被告

大阪刑務所長

大住正明

被告

右代表者法務大臣

秦野章

右両名指定代理人

浦野正幸

外四名

主文

一  原告の被告大阪刑務所長に対する主位的請求を棄却する。

二  原告の被告大阪刑務所長に対する予備的請求にかかる訴えを却下する。

三  原告の被告国に対する請求を棄却する。

四  訴訟費用は原告の負担とする。

事実《省略》

理由

一原告が大阪刑務所に服役中の受刑者であり、被告大阪刑務所長が国の行刑施設の長として、監獄法五九条の懲罰権者であること、被告大阪刑務所長が昭和五八年二月一八日原告に対し、本件懲罰を言渡し、即日執行を開始したことは当事者間に争いがない。

二そこで、原告の被告大阪刑務所長に対する主位的請求について判断する。

1  被告大阪刑務所長が軽屏禁はその処分の性質上当然に運動の停止を随伴するものとしていることは弁論の全趣旨により明らかである。

2  監獄法は、受刑者等在監者の紀律違反行為に対する懲罰として、二月以内の軽屏禁を定めている(同法六〇条一項一一号)。屏禁は、受罰者を罰室内に昼夜屏居せしめ、情状によつて就業せしめないことを内容とする懲罰であり(同条二項)、罰室内屏居の性質上当然に戸外運動等の禁止を伴うものと解されるから、原告主張のように運動の五日以内の停止と軽屏禁とが別個の懲罰として定められており、更に種類の異なる懲罰を併科することができる旨の規定があるからといつて、その併科がない以上屏禁罰に戸外運動等の停止が含まれないとみるべきではない。

3 もともと懲罰は、刑務所内の紀律に違反した受刑者に対し、ある程度の精神的肉体的苦痛を与えることにより反省を促し、もつて刑務所の秩序の維持をはかることを目的とするものであり、とりわけ軽屏禁は重い懲罰と考えられるから、その懲罰が科せられた場合、通常の受刑者以上に自由の拘束を受けることはもちろん、より軽度の懲罰における受罰者に対する行動、生活等の規制が一段と厳しくなることは、各種の懲罰を定めている懲罰制度の趣旨からすれば、やむを得ないものと考えられる。

従つて、通常の受刑者に対する定めと考えられる同法三八条、同法施行規則一〇六条の規定は、これがそのまま軽屏禁の受罰者に対して適用されるものではなく、おのずから制約されることとなる。

4 懲罰はあくまでも刑務所内の紀律秩序を維持するためのやむを得ない不利益処分であるから、その目的を超えて、受罰者に対し無用にその健康を侵害する等の不利益、苦痛を与えるべきでないことは当然のことである。そこで、監獄法及び同法施行規則は、軽屏禁罰の執行に際し、事前に刑務所の医師によつて、受罰者に対し健康診断が実施され、その者の健康に害がないと認められなければ右執行を開始できないとし(規則一六〇条二項)、執行中も刑務所の医師をして時時受罰者の健康を診断させ(規則一六一条)、さらに執行終了後においても速やかに刑務所の医師の健康診断を受けることとなつており(規則一六三条)、受罰者に疾病その他執行を継続することが困難な事由があるときには、その執行を停止することができる(同法六二条一項)旨それぞれ定め、その執行手続のうえで軽屏禁の受罰者の健康保持について十分な配慮をしている。

5 以上のとおり、本件懲罰はその執行期間中運動の停止を伴うことについて、監獄法三八条、同法施行規則一〇六条、同法六〇条一項八号、同条三項に違反するものではなく、また、その執行に際して遵守すべき同法及び同法施行規則上の定めによれば、懲罰の内容が憲法三六条の残虐な刑罰にあたるということもできない。

6  原告は、本訴において本件懲罰の処分取消事由を右各法規定違反の違法のみに限定しているから、本件懲罰の事由となる紀律違反行為に対する処分の内容は一応相当なものと推定され、本件懲罰執行の具体的内容はともかくとして、懲罰自体の処分取消を求める主位的請求は理由がない。

三次に、原告の被告大阪刑務所長に対する予備的請求について判断する。

原告が取消を求める運動の停止は、前記二で判断したとおり屏禁という内容に伴うもので、運動の停止という別個独立の懲罰が付加されているものではなく、従つて、本件懲罰の性質上当然に伴う制約にすぎず、本件懲罰とは不可分のものであるといえるから、量的一部の取消という観念を容れる余地がない。

そうすると、原告の被告大阪刑務所長に対する予備的請求は、取消の対象を欠き、不適法であるから却下を免れない。<以下、省略>

(志木義文 紙浦健二 梅山光法)

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