大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

大阪地方裁判所 昭和58年(行ウ)5号 判決 1983年6月16日

原告

丸善鋼材株式会社

右代表者清算人

岩田敞

原告

加藤庄一

被告

西税務署長

伏木勝

右指定代理人

長野益三

外三名

主文

一  原告らの本件訴えをいずれも却下する。

二  訴訟費用は原告らの負担とする。

事実《省略》

理由

一原告加藤の主位的請求に関する被告の本案前の主張について

<証拠>によると、同原告は、被告に対し、本件以前に、本件各処分の無効確認を求める行政訴訟を提起し(乙事件)、その第一審判決は本件(三)の処分につき第二審判決は、本件各処分につき、同原告には右処分の無効確認を求めるにつき行訴法三六条の要件を欠き原告適格がないとして訴を却下し(本件(三)の処分については一審判決を支持)、右各判決は、昭和五五年一二月四日上告棄却の判決の言渡によつて確定したことが認められる。

右各判決は、いわゆる訴訟判決であるが、訴訟判決も、その標準時(口頭弁論終結時)における訴訟要件の欠缺につき既判力を生ずるものと解すべきであるところ、同原告の本件における訴訟要件(原告適格)に関する主張(請求原因10)は、いずれも甲事件における主張と同様であるか、若しくは、当然に甲事件において主張できた筈のものである。

そうすると、同原告の主位的請求は、甲事件の確定判決の既判力に牴触して不適法であるというほかはない。

二原告会社の主位的請求の原告適格について

1  請求原因3ないし6の各事実は、当事者間に争いがなく、<証拠>によれば、次のとおりの事実が認められる。すなわち、

(一)  原告会社は、鋼材卸売を業とする株式会社であつたが、昭和三九年五月二五日解散し(同年七月一〇日登記)、以後清算法人となつて清算手続が進められ、同年一二月ころ清算事務は一応終了し、昭和四〇年三月五日清算結了の登記が経由された。

(二)  原告会社の資産状態は、前記の清算事務が一応終了した時点で、本件(一)の処分及び本件(二)の処分にかかる国税債務を度外視すると、資産として現金二二〇万〇二二〇円があるのみであり、右金員は、原告会社解散後においてはその唯一の株主であつた原告加藤が、残余財産の分配金として全額これを受領した。

(三)  大阪国税局長は、昭和四一年四月八日、さきに原告加藤が取得した前記金二二〇万〇二二〇円は法律上の原因なくして同原告が取得したから、原告会社は原告加藤に対し同額の不当利得返還請求権を有するとして、本件(一)の処分及び本件(二)の処分にかかる国税債権のうち七一三万五三四〇円につき、原告会社を滞納者、原告加藤を第三債務者として、右不当利得返還請求権を滞納処分として差し押え、同月九日、差押通知書が原告加藤に送達された。

(四)  そして、国は、原告加藤を相手方として、右差押に基づく取立訴訟を提起した(甲事件)。甲事件において、昭和五一年一二月二〇日、同原告は国に対し金二二〇万〇二二〇円とこれに対する昭和四二年一一月二六日から支払ずみまで年五分の割合による遅延損害金を支払えとの第二審判決が言渡され、右判決は、昭和五二年七月八日上告棄却の判決の言渡によつて確定した。

(五)  原告加藤は、昭和五五年一〇月二日、甲事件の確定判決に基づき、国に対し、金二二〇万〇二二〇円と遅延損害金一四一万三九一一円(合計金三六一万四一三一円)を支払つた。

大阪国税局長は、同月九日、国税徴収法の規定に従つて、右支払金の配当手続を行い、右支払金全額が、同日時点での本件(一)の処分及び本件(二)の処分にかかる原告会社に対する国税債権合計金七一三万五二二〇円(以下、本件国税という)の一部に充当された。

その結果、原告会社は、本件国税の一部を納付したことになつたが、残りの金三五二万一〇八九円は未納付のままとなつた。

以上のとおり認められ、これに反する証拠はない。

2  してみると、原告会社は、解散してその清算事務も一応終了し、清算結了の登記も経由されていたところ、その後、本件国税と残余財産金二二〇万〇二二〇円との清算手続が残されていることが判明し、右(三)ないし(五)のとおり滞納処分の手続が進められてそれが終了したが、右滞納処分によつても、結局、本件国税の一部が未納付のままとなつたことになる。そして、原告会社には、現に積極財産のあることを認め得る証拠はなく、却つて弁論の全趣旨によれば、最早積極財産が全く無いことが認められるから、右未納付部分について、原告会社に対して新たな滞納処分が行われる可能性は全くないといわなければならない。

3 ところで、納税者が、課税処分を受け、当該課税処分にかかる税金をいまだ納付していないため滞納処分を受けるおそれがある場合において、右課税処分の無効を主張してこれを争おうとするときは、納税者は、行訴法三六条により、右課税処分の無効確認の訴えを提起することができるものと解するのが相当である(最判昭和五一年四月二七日民集三〇巻三号三八四頁参照)。しかし、当該課税処分にかかる税金を既に納付ずみの場合は、右課税処分の無効を前提として既納税金の返還を求める民事訴訟を提起することにより、その目的を達しうるというべきであるし、また、右税金は未納付のままであつても、特別の事情によつて後に滞納処分を受ける可能性が全くない場合には、課税処分の無効確認を求めるについて、そもそも、行訴法三六条所定の「法律上の利益」自体がないというべきであるから、このような場合は、課税処分の無効確認を求める原告適格がないとしなければならない。

4 これを本件についてみると、原告会社が、本件(一)の処分及び本件(二)の処分(ただし、源泉徴収すべき所得税の納税の告知処分を除く)の無効を主張してこれを争おうとするならば、本件国税のうち既に納付ずみとなつた部分については、国を相手方として既納税金の返還を求める民事訴訟を提起することができ(ただし、勝敗は別である。最判昭和四五年一一月六日民集二四巻一二号一七二一頁参照)、且つ、それで目的を達することができるから、原告会社は右各処分の無効確認を求める原告適格はないというべきであり、未納付の部分についても、原告会社には、積極財産は全くなく、これに対して新たな滞納処分がなされる可能性はないのであるから、やはり、原告会社は右各処分の無効確認を求める原告適格はないといわなければならない。そして、本件(二)の処分のうち、納税の告知処分は、課税処分ではなく、徴収処分であるが、(最判昭和四五年一二月二四日民集二四巻一三号二二四三頁参照)、源泉徴収による所得税について徴収すべき税額を初めて公にする行政処分であり、後に続く滞納処分の不可欠の前提となるものであるから(国税通則法七三条一項三号)、右処分の無効確認を求める原告適格については、本件(一)の処分及び本件(二)のその余の課税処分と同様に解することができ、本件においては、納付の有無にかかわりなく、原告会社は原告適格を有しないといわなければならない。

5  次に、本件(三)の処分についてみると、原告会社は、解散して清算結了の登記を経由しており、最早、事業活動を行うことはあり得ないから、青色申告書提出承認による税法上の各種の特典を享受することもおよそあり得ないというべきであり、また、新たな課税処分或いは徴収処分が原告会社に対して行われる可能性もないことは、4におけると同様である。

したがつて、原告会社は、本件(三)の処分の無効確認を求める原告適格はない。<以下、省略>

(後藤勇 八木良一 小野木等)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例