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大阪地方裁判所 昭和59年(わ)5084号 判決 1985年11月01日

本店所在地

大阪府豊中市岡上の町二丁目五番三一号

大共開発観光株式会社

右代表者

夏川正昭こと 曺永守

本籍

韓国慶尚北道迎日郡延日面柳江洞五三〇番地

住居

大阪府豊中市東豊中町三丁目二八番三二号

会社役員

夏川正昭こと曺永守

昭和四年二月一一日生

本籍

韓国慶尚北道迎日郡延日面柳江洞五三〇番地

住居

大阪府豊中市東豊中町三丁目二八番三二号

会社役員

夏川信子こと柳桂順

昭和八年三月七日生

右大共開発観光株式会社に対する法人税法違反、右曺永守及び柳桂順に対する各法人税法違反、所得税法違反被告事件につき、当裁判所は検察官加藤敏員出席のうえ審理し、次のとおり判決する。

主文

被告人大共開発観光株式会社を罰金八〇〇〇万円に、

被告人曺永守を懲役二年及び罰金一四〇〇万円に、

被告人柳桂順を懲役一〇月に処する。

被告人曺永守において、その罰金を完納することができないときは、金五万円を一日に換算した期間被告人曺永守を労役場に留置する。

この裁判の確定した日から、被告人曺永守に対し四年間、被告人柳桂順に対し三年間、それぞれの懲役刑の執行を猶予する。

理由

(罪となるべき事実)

被告人大共開発観光株式会社(以下被告人会社という。)は、大阪府豊中市岡上の町二丁目五番三一号に本店を置き、パチンコ店の経営及び不動産売買業を営むもの、被告人夏川正昭こと曺永守は、被告人会社の代表取締役としてその業務全般を統括するとともに、個人でパチンコ店の経営及び不動産賃貸業を営むもの、被告人夏川信子こと柳桂順は、被告人会社の取締役で、被告人曺永守を補佐して被告人会社あるいは被告人曺永守個人が経営する各パチンコ店の売上金の管理等に従事していたものであるが、被告人曺永守及び同柳桂順の両名は共謀の上、

第一  被告人会社の業務に関し、法人税を免れようと企て、

一  被告人会社の昭和五五年九月一日から同五六年八月三一日までの事業年度において、その所得金額が八〇、四四三、一二九円(別表(一)修正貸借対照表参照)で、これに対する法人税額が三二、四九〇、一〇〇円であるにもかかわらず、パチンコ店の売上の一部を除外するなどの行為により右所得の一部を秘匿した上、昭和五六年一〇月二九日、大阪府池田市城南二丁目一番八号所在の豊能税務署において、同税務署長に対し、右事業年度の所得金額が七、六二八、五六三円、これに対する法人税額が一、九五二、五〇〇円である旨の虚偽の法人税確定申告書を提出し、もつて不正の行為により、法人税三〇、五三七、六〇〇円(別表(四)法人税脱税額計算表参照)を免れ、

二  被告人会社の同五六年九月一日から同五七年八月三一日までの事業年度において、その所得金額が六二七、五四六、三一九円(別表(二)修正貸借対照表参照)で、これに対する法人税額が二六二、一二六、九〇〇円であるのにかかわらず、前同様の不正行為により右所得の一部を秘匿した上、同五七年一〇月二九日、前記豊能税務署において、同税務署長に対し、右事業年度の所得金額が一一一、一八五、七〇一円、これに対する法人税額が四五、二五五、三〇〇円である旨の虚偽の法人税確定申告書を提出し、もつて不正の行為により、法人税二一六、八七一、六〇〇円(別表(四)法人税脱税額計算表参照)を免れ、

三  被告人会社の同五七年九月一日から同五八年八月三一日までの事業年度において、その所得金額が三九一、一一〇、四四〇円(別表(三)修正貸借対照表参照)で、これに対する法人税額が一六二、八二〇、八〇〇円であるのにかかわらず、前同様の不正行為により右所得の一部を秘匿した上、同五八年一〇月二八日、前記豊能税務署において、同税務署長に対し、右事業年度の所得金額が八七、五三二、一一九円、これに対する法人税額が三五、三一八、一〇〇円である旨の虚偽の法人税確定申告書を提出し、もつて不正の行為により、法人税一二七、五〇二、七〇〇円(別表(四)法人税脱税額計算表参照)を免れ

第二被告人曺永守の所得税を免れようと企て、

一  昭和五六年分の所得金額が六三、八五二、五〇四円(別表(五)修正損益計算書参照)で、これに対する所得税額が三三、二七五、六〇〇円であるのにかかわらず、パチンコ店の売上の一部を除外するなどの行為により右所得の一部を秘匿した上、同五七年三月一一日、前記豊能税務署において、同税務署長に対し、同年分の所得金額が二六、七九〇、六八一円、これに対する所得税額が一〇、〇四六、八〇〇円である旨の虚偽の所得税確定申告書を提出し、もつて不正の行為により、所得税二三、二二八、八〇〇円(別表(七)所得税脱税額計算書参照)を免れ、

二  昭和五七年分の所得金額が一一三、八七四、四四〇円(別表(六)修正損益計算書参照)で、これに対する所得税額が七〇、〇〇九、四〇〇円であるのにかかわらず、前同様の不正行為により右所得の一部を秘匿した上、同五八年三月一四日、前記豊能税務署において、同税務署長に対し、同年分の所得金額が五六、〇二五、九七〇円、これに対する所得税額が二八、〇三四、〇〇〇円である旨の虚偽の所得税確定申告書を提出し、もつて不正の行為により、所得税四一、七八六、九〇〇円(別表(七)所得税脱税額計算書参照)を免れたものである。

(証拠の標目)

判示全事実につき

一  被告人曺永守、同柳桂順の当公判廷における各供述

一  被告人柳桂順の検察官に対する供述調書四通及び大蔵事務官に対する質問てん末書二二通

一  被告人曺永守の検察官に対する供述調書三通及び大蔵事務官に対する質問てん末書三通

一  畑中美伸の検察官に対する供述調書及び大蔵事務官に対する質問てん末書

一  山武七郎の検察官に対する供述調書及び大蔵事務官に対する質問てん末書

一  中田一美の検察官に対する供述調書及び大蔵事務官に対する質問てん末書

一  野田康夫の検察官に対する供述調書二通及び大蔵事務官に対する質問てん末書二通

一  西尾利夫の検察官に対する供述調書及び大蔵事務官に対する質問てん末書二通

一  芝崎武司の検察官に対する供述調書及び大蔵事務官に対する質問てん末書

一  石黒元治、今泉義一、小寺哲男、宮内勉、木本克志、朴在鶴の検察官に対する各供述調書

一  大蔵事務官作成の昭和五九年四月二八日付、同年五月一二日付(仮名預金分)の査察官調査書

判示第一の各事実につき

一  姜達億、野上栄子の大蔵事務官に対する各質問てん末書

一  大蔵事務官作成の昭和五九年三月一〇日付、同月二八日付、同年四月一六日付、同年五月一二日付(B/S元帳)の査察官調査書

一  登記官作成の被告人会社の法人登記簿謄本

一  被告人会社の定款

判示第一の一の事実につき

一  豊能税務署長作成の被告人会社の昭和五六年一〇月申告の法人税確定申告書謄本

判示第一の二の事実につき

一  豊能税務署長作成の被告人会社の昭和五七年一〇月申告の法人税確定申告書謄本

判示第一の三の事実につき

一  豊能税務署長作成の被告人会社の昭和五八年一〇月申告の法人税確定申告書謄本

判示第二の各事実につき

一  大蔵事務官作成の昭和五九年三月二七日付、同月三〇日付、同月三一日付、同年一二月一〇日(二通)査察官調査書

一  豊能税務署長作成の被告人曺永守の青色申告承認取消の証明書

判示第二の一の事実につき

一  豊能税務署長作成の被告人曺永守の昭和五六年分所得税確定申告書謄本

判示第二の二の事実につき

一  豊能税務署長作成の昭和五七年分所得税確定申告書謄本

(弁護人の主張に対する判断)

被告人三名の弁護人は、ほ脱金額の確定、ほ脱の犯意乃至共謀関係について、種々主張するので、順次検討する。

なお、昭和は省略し、被告人らの当公判廷における供述は、公判供述、被告人曺の大蔵事務官に対する昭和五八年一一月二八日付質問てん末書は、被告人曺の58・11・28付てん末書、同被告人の検察官に対する同年一一月二五日付供述調書は、被告人曺の58・11・25付検面調書、大蔵事務官作成の昭和五九年三月一〇日付査察官調査書は、59・3・10付調査書等と略記する。

一  ほ脱金額の確定

1  現金

(1) 被告人柳の弁護人は、助松店の大金庫内にあつた現金の額はあいまいであり、客観的裏付がない旨主張する。

しかし、被告人柳の59・1・12てん末書問4、59・2・3付同問13、14、15、59・2・10付同問3、7、59・3・8付同(第二回)問9、59・3・17付同問2乃至16、59・3・22付同問8乃至11、59・3・28付同問13、59・4・2付同問12乃至19、59・4・11付同問7乃至11、畑中美伸の検面調書及びてん末書、石黒元治、今泉義一の検面調書、芝崎武司の検面調書及びてん末書、小寺哲男、宮内勉、木本克志の検面調書を総合すれば、次の事実は明らかに認められる。即ち、被告人柳は五二年ころには助松店の大金庫に被告人会社乃至被告人曺個人の簿外の現金を入れて管理してきたが、五六年ころからは金員の出し入れはなく、五七年八月(被告人柳の公判供述(四回24丁)によると、五七年八月二三日)助松店マネージャーに金員を持ち逃げされた後、同年九月二日、三日に大和信用金庫本店に合計一億円を預け、同年九月二日から翌五八年三月一七日までの間に近畿相互銀行助松支店に合計八七一〇万円(内訳五七年九月二日一〇〇〇万円、同月三日一三〇〇万円、同月七日一〇〇〇万円、同月二四日三〇〇万円、一〇月六日四〇〇万円、同月八日四〇〇万円、同月一九日六〇〇万円、同年一一月一五日八五〇万円、同年一二月六日一〇〇〇万円、五八年一月一八日九六〇万円、同年三月一七日九〇〇万円)を預け、五七年一〇月五日から五八年一月一月四日までの間に大阪産業信用金庫南支店に合計二九九〇万円(内訳五七年一〇月五日八九〇万円、同月一八日一一〇〇万円、五八年一月四日一〇〇〇万円)を預けていることが認められる。右金員の預け入れは期間的にも集中し、かつ預け入れ金額も一〇〇万円単位であり、本件係争年度中の他の仮名預金とも金額において差異がある。そして被告人柳は公判廷において(五回1丁)、最後の預け入金は五八年三月ころ九〇〇万円であつたとも述べている。

以上によれば、被告人柳の助松店大金庫の現金高は、合計二億一七〇〇万円であつた旨の供述は、十分措信できるものと認められる。

本件全証拠によるも、右金額以上に現金が保管されていたものとは認められない。

(2) 被告人曺は、検察官主張以上に多額の簿外現金を有していた旨述べる。

検察官は、現金の勘定科目において、被告人会社の公表現金の外、簿外の現金(但し、被告人会社及び被告人曺の帰属分)を調査している。右は、被告人柳の被告人会社店舗、被告人曺個人の店舗の各期末の簿外現金合計額についての供述に基づいている。ところで、被告人柳の59・3・6付てん末書問12、59・3・28付同問10乃至12、59・4・11付同問4、6の供述記載部分は、同被告人が右の各店舗を実質上とりしきつていたことからして十分措信することができ、他方右以上の手持現金があつたとの証拠はない。

次に、被告人曺個人帰属の財産状況をみる。被告人曺は被告人会社の資本金一〇〇〇万円を支出している。五六年度法人税確定申告書によれば、被告人曺は、被告人会社に対し、五五年八月三一日段階で二億五一〇七万四〇九〇円の貸付をしている旨申告している。また被告人曺の公判供述(六回4乃至6丁、28 29丁)によれば、被告人曺は、同人名義乃至家族名義の預金や建物店舗、賃貸マンションなどを所持していた。従って、被告人曺が五五年八月三一日前多額の収入を得ていたが、その相当部分が現金以外の資産にかわっているものである。そうすると、五五年八月三一日段階で、二億一七〇〇万円を超えるものがあった旨の右供述部分は、措信できない。

右主張は採用できない。

2  仮名預金

(1) 被告人会社の弁護人、被告人柳の弁護人は、期前収益分が仮名預金に混入している旨主張する。

被告人柳において、被告人曺個人の助松店や被告人会社の玉造店、東三国店の期間中の売上除外金等を仮名預金したことは明らかである。そして、右仮名預金が、被告人会社の営業収益から預金されたものか、被告人曺の営業収益から預金されたものが区分けできず、かつ、右営業収益がいつ発生したものか、不明である。

かかる場合、被告人会社及び被告人曺の各営業により入金されたと認められる仮名預金の五五年八月三一日、五六年八月三一日、五七年八月三一日、五八年八月三一日段階の仮名預金額を調査し、各期の増加額を算出すれば同額が各営業により仮名預金されたものと認められる。そして、期前収益分が、期首の段階で仮名預金されているならば、その金額は減算の対象となるから、当期中の仮名預金の増加分に混入することはない。なお、期前収益が現金として保管されていれば、右は簿外現金としてとらえるべきであり、前1説示のとおり他に簿外現金があったものとは認められない。

(2) 被告人柳の弁護人は、期間中の被告人会社や被告人曺個人の営業収益以外のものが、仮名預金に混入しした旨主張する。

被告人曺の不動産所得、雑所得において、収入の除外、あるいは経費が架装計上された事実はない。また、後記判断のとおり簿外借入金があるほかは、他に簿外借入の事実はない。従って、右仮名預金の増加分中、弁護人指摘の事実は認められない。

(3) 被告人会社の弁護人は、仮名預金中、被告人曺、被告人柳の給料が混入している旨主張する。

検察官指摘の仮名預金中には、被告人両名乃至その家族名義の預金は含まれていない。ところで、被告人柳の59・3・29付てん末書問5乃至11、59・4・2付同問15等によれば、被告人柳は、同被告人や被告人曺の給料、報酬等を右の家族名義の預金へ入金し、同預金から日常の生活費、子供らの学費等を支出し、生活費が不足するとき、被告人会社や被告人曺個人の店舗の売上金を除外した「Kの現金」から一時借りて後に返還するようにし、逆に生活費の残りを「Kの現金」へ入れ、後日仮名預金したものもありうるが、具体的には答えられない旨述べている。

右のとおり確かに、給料等の個人所得が残り、「Kの現金」に入れられた後これが仮名預金される可能性は否定しがたいとしても、その逆に「Kの現金」を生活費として費消し、「Kの現金」へ返済されず、かつ、被告人会社の被告人曺への貸付金として帳簿上記載されていないこともありうる。ところで、右の各てん末書によれば、被告人柳らは、右給料等からその生活費の他、子供の留学費、教育費、貴金属購入、被告人曺の渡韓費のため相当額以上を支出しており、その生活費の残りを「Kの現金」を通じ仮名預金されたものとは認められない。

(4) 被告人会社の弁護人は、仮名預金中に、被告人曺らの子供の夏川日栄の結婚祝金等の個人収入が混入している旨主張する。

被告人柳の59・3・16付てん末書問1乃至16によれば、結婚祝金として三七四万四〇〇〇円を得たが、他方五八年三月結納金三三〇万円の他、コート代五〇万円、指輪代一五〇万円、同年四月宝石類で一九一万円支出しており、結婚式代、新婚旅行費、装身具代等を考慮すれば、右結婚に際し、その祝金の収入が、支出を上回り「Kの現金」を通じて仮名預金されたものとは認められない。

(5) 被告人柳は、公判廷において(五回4乃至6丁)、被告人曺は不動産営業の際期首前に客のためローンを設定するため仮名預金をもうけ、その満期後解約されたものが、期中に仮名預金にされたものもある旨述べる。また被告人曺は、公判廷において(六回14丁)同旨の供述をしている。

しかし、被告人曺は、59・2・9付てん末書問2乃至4で、建売住宅に関連してお客のために定期預金を銀行に提供し、「古市」や「布市」の不動産取引をしたころ、右の仮名預金も被告人柳に保管を依頼したと述べている。また、被告人柳は、59・2・10付てん末書問6で、代表者が病気になった後、自己が右仮名預金を管理していたと述べるとともに、同てん末書問4で右「古市」「布市」の取引後、「實面」、「上野東」、「春日町」の取引をするようになったが、それからは客のローンの担保に預金を提供することがなくなった、同問11で、担保に提供した後二、三年で拘束が解除されたと述べている。

右諸事実によれば、右担保に供した仮名の定期預金相当額は、五五年八月まで解約され、現金化された後、改めて仮名預金されていたものと認められ、期中に仮名預金されたものとは認められない。

3  長期借入金

(1) 被告人柳の弁護人は、被告人会社の五七年度の七三〇〇万円分、五八年度の二〇八〇万円分につき、法人税確定申告調整のため決算操作をする際現実に現金の移動があったが問題である旨主張する。

被告人会社の五七年度、五八年度の法人税確定申告書、被告人曺の58・11・25付検面調書6項、58・11・24付てん末書問4、5、被告人柳の59・1・12付てん末書問3、59・3・28付同問1乃至4、野田康夫の58・11・26付検面調書6項、59・9・18付同問2乃至4項、58・11・22付てん末書問6乃至9、58・11・26付同問2乃至5によれば、被告人曺は、被告人会社の法人税確定申告の際、その所得を減ずるため、五七年度分につき七三〇〇万円、五八年度分につき二〇八〇万円の架空の社長借入金を計上し、同額分を被告人柳の管理する「Kの現金」等から大阪産業信用金庫南支店の被告人会社の口座へ入金されたものである。従って、資産が借入金に振替られたもので貸借対照表中、右各金額分は架空のものとして借入金からこれを減ずるのは正当である。

右主張は、採用できない。

(2) 被告人曺の弁護人は、右長期借入金は架空の机上計算である旨主張する。

しかし、架空の借入金及び簿外の借入金(助松店大金庫の現金、個人の譲渡収入除外金)は、関係証拠により十分認められ、公表借入金額から架空分を減じ、簿外分を増加させるその計算方法に誤りは認められない。

右主張は、採用できない。

(3) なお、被告人曺の59・2・9付てん末書問9によれば、被告人会社は、五三年峰山健次方居宅建設工事をした際、大阪興銀天六支店に峰山健次名義で二〇〇〇万円預金したが、その後被告人会社の営業資金が不足した際、五五年一〇月ころ一〇〇〇万円を解約し、同月三一日被告人会社に同額を貸付け、また五六年四月ころ一〇〇〇万円を解約し、同月三〇日被告人会社に同額を貸付けた旨述べている。

しかし、59・3・28付調査書によれば、右のごとき事情は窺われず、五五年一〇月三一日被告人会社前記口座に一〇〇万円入金されたが、他方大阪産業信用金庫南支店の仮名預金二口合計四〇〇万円が解約されている。また、五六年四月三〇日一〇〇〇万円入金されているが、右南支店の仮名預金五口合計一一〇〇万円が解約されている。

従って、右の四〇〇万円、一〇〇〇万円は、被告人会社乃至被告人曺の仮名預金からなされたもので、社長借入金にはあたらない。

4  助松店勘定、助松店の売上除外

(1) 被告人三名の各弁護人は、助松店の売上の推計方法はそ雑で合理性がない旨主張する。

しかし、検察官が用いた推計方法は、それ自体合理性があると認められる。検察官は、実際売上額が物証により把握できる期間は、右物証により認定し、右物証によりえないときは、物証で判明する出玉交換金額を、割数で除す方法を用いて算出し、その割数は、判明している類似時期の期間の実際割数を当該期間の公表割数で除した公表計上割合を基礎にして、これに算出すべき期間の公表割数を乗じて算定するものであり、その方法はそれ自体合理性がある。

なお、右の方法で算出された適用割数に基づき算出された助松店における売上の推計総額は次のとおりである。

五六年分 七六一、一〇一、〇七六円

五七年分 一、四〇七、五四四、八八五円(前年の約一・八四倍)

他方、被告人曺の所得税確定申告書の青色申告決算書によれば、公表売上金額は次のとおりである。

五六年分 七二一、四四九、九七六円

五七年分 一、三三六、二五三、五八五円(前年の約一・八五倍)

右推計売上総額の前年比率と、公表売上金額の前年比とは酷似しており、右は推計方法の相当性を裏付けるものである。

また、右推計売上総額から、公表売上金額を控除した売上除外額と、その売上除外額を推計売上総額で除した売上除外率は、次のとおりである。

五六年分 三九、六五一、一〇〇円 約五・二一パーセント

五七年分 七一、二九一、三〇〇円 約五・〇六パーセント

右の売上除外率は、それ自体疑問の点はない。

五六年分、五七年分の年間営業日数が仮りに各三三〇日とすれば、一日当りの売上除外額は、五六年分一二〇、一五四円、五七年分二一六、〇三四円である。ところで、被告人柳の58・12・13付てん末書問9、同添付書類によれば、助松店において、五八年四月二九日パチスロで二〇万円、パチンコで二〇万円の合計四〇万円、同月三〇日パチンコで三〇万円、パチスロで二〇万円の合計五〇万円を売上除外していたことが認められる。右五八年四月の一日当りの実売上除外額と対比し、前記算出された一日当りの売上除外額は、十分納得できるものである。また、被告人柳は、59・3・22付てん末書問4で、フィーバー機導入後の五六年五月から同年一二月まで、売上除外額は少くとも月三〇〇万円、フィーバー機を本格的に導入した五七年一月から五八年四月まで少くとも月五〇〇万円除外した旨述べている。

以上によれば、右算出方法には、合理性がある。

(2) 被告人会社の弁護人は、フィーバー機の導入時期を考慮していない旨主張する。

被告人柳の59・3・6付てん末書問13によれば、助松店には五六年五月からフィーバー機が導入された。従って、フィーバー機導入前は、導入前の適用割数を適用し、導入後は導入後の適用割数から算出すべきことはもとよりである。

右導入前については、関係物証により、五五年一月から同年九月までの間、実際売上額が算出でき、その間の実際割数、公表計上割合が算出できる。また右導入後では、五八年二月五日、同年四月二九日、三〇日、同年五月から同年一一月二一日までは、残されている資料に基づき、実際売上額が把握できる。

検察官は、フィーバー機導入前の実際売上額が判明しない五五年一月から同年九月までの公表計上割合に基づき、五五年一〇月から五六年四月までの公表割合を乗じて適用割数を算出している。そして、フィバー機導入後の五六年五月から五七年一二月までは、物証で判明する五八年二月から同年一一月までの実際割数を、同年一月から同年四月までの公表割数で除した公表計上割合をもとに、五六年五月から同年一二月につき、同期間中の公表割数を、五七年一月から同年一二月につき、同期間中の公表割数を算出している。そして、五八年一月から四月までは、五八年二月五日、同年四月二九、三〇日、同年五月から同年一一月二一日の実際割数に従っている。右のとおりフィーバー機導入後は、導入後判明している時期の実際割数をもとに、適用割数を算出している。

右主張は、前提を欠く。

なお、被告人柳は、59・3・6付てん末書問14で、助松店では五六年五月に、フィーバー機を導入し、同年一二月末、同機が一〇五台になった旨、同被告人は公判廷で(四回20丁)で一列一五台ずつ入れかえられ、同年一〇月一〇五台になった旨述べる。右のとおりフィーバー機が順次導入されていったものである。

しかし、その間の実際売上額の推移を的確に示す物証がない以上、右五八年段階の判明している実際割数をもとに算出したとしても、その推計に誤りがあるとはいえない。

結局、右主張は、採用できない。

(3) 被告人会社の弁護人は、フィーバー機導入後の台数制限等の各種規制を考慮していない旨主張する。

被告人柳の公判供述(四回21、22丁)によれば、五七年一〇月ころ、フィーバー時間三〇秒、一日一〇回の規制がなされたこと、同被告人の59・3・6付てん末書問14によれば、五八年一月ごろフィーバー機の出玉が四〇〇〇個から三〇〇〇個に規制されたことが認められる。

しかし、前説示のとおり、その間の実際売上額を示す証拠はないうえ、同てん末書問14によれば、五七年九月にはパチスロ二二台を新しく設置、五八年一月には三一台にふやしたほか、五八年三月から同年の間にルーキージェツトというフィーバー機を導入し、営業努力をしている。従って、これらの期間に、右規制によりある期間出玉合計数に影響があるとしても、右営業努力により売上の減少を防いでいたものと窺われ、右適用割数を用いるに支障があるものとは窺われない。

右主張は、採用できない。

(4) 被告人会社の弁護人は、新店舗開店等の影響を考慮していない旨主張する。

期間中に助松店の近隣に新店舗が開店したとの証拠はない。

被告人柳は、59・3・6付てん末書問14で、係争期間中助松店近くの店舗が何回となく改装された旨述べている。しかし右近隣店舗の改装の具体的影響を的確に示す証拠はない。他方前説示のとおりフィーバー機を導入するなどの対抗措置もとられていること、被告人柳の公判供述(五回18乃至20丁)によれば、競争店舗が生じたときなど客寄せの歩をうち、助松店では係争期間中年に二〇回位歩をうち営業努力をした旨述べている。朴在鶴は、検面調書3、4項で、五七年終りころから助松店の釘の調整をしたが、機械の入替の際客集めのため出玉率を高くするが、二、三日目位から順次出玉を調整して平常の出玉率にもどした旨述べている。

右事実によれば、助松店では、営業努力として恒常的に歩うちがなされていたことからすれば、適用割数も平均化していたと考えられる。従って、右の事情を考慮しないからといつて、合理性に欠けるとはいえない。

(5) 被告人会社の弁護人は、店舗改装時の客寄せの歩うちによる出玉率の上昇を加味していない旨主張する。

被告人柳の公判供述(五回15丁)によれば、助松店は、五四年一二月大改装された後、大きな改装はされなかったことが認められる。右の主張は、前提を欠く。なお、前説示のとおり、歩うちがひんぱんに行われていたから、その影響は少ないと判断できる。

(6) 被告人三名の各弁護人は、助松店の推計方法から算出される被告人曺個人の事業所得と、被告人会社の所得との間には著しい差があるが、同種パチンコ営業でかかる事態は考えられず、従って右推計計算の方法も誤りである旨主張する。

<1> まず、被告人会社につき、損益計算法によらず、財産増減法を用いた点につき、判断する。

本件では、多額の仮名預金があるが、被告人会社か被告人曺個人のいずれに帰属するか、証拠上不明である。そして、被告人会社の玉造店、東三国店、被告人曺個人の助松店の実際売上額を確定することはできない。従って、各所得を証拠により推計するほかないが、被告人会社の東三国店は五六年一二月に新たに開店されたこと、五八年五月、東三国店の近くに他のパチンコ店が開店したこと(被告人柳59・1・21付てん末書問11)、被告人会社の両店では期間中年一〇回位歩うちがなされ、その回数は助松店より少ないこと(被告人柳の公判供述五回19丁)、被告人会社では被告人曺から多額の借受をしていることからすれば、被告人曺個人の助松店と対比し、営業収益を算出するにあたり変動的要素が多いと認められる。そうすると、被告人会社の店舗の売上額を、助松店と同様出玉交換金額から推計することも可能とは思われるが、右の変動的要素をもつて、その推計額を修正することは著しく困難と思われる。

従って、被告人曺の所得(事業所得)につき、損益計算法を用い、売上除外金額につき前記推計方法を用いて算出し、他方被告人会社については、財産増減法を適用し、被告人会社の営業若しくは被告人曺の事業所得による多額の仮名預金を、一応被告人会社のものとし、被告人曺個人の助松店の簿外売上金を混入財産としてこれを減額する方法自体、合理性がある。

<2> 右の方法を用いて算出された被告人会社の認定所得金額(上段)、その所得除外金(下段)は次のとおりである。

五六年度 八〇、四四三、一二九円 七二、八一四、五六六円

五七年度 六二七、五四六、三一九円 五一六、三六〇、六一八円

五八年度 三九一、一一〇、四四〇円 三〇三、五七八、三二一円

なお、被告人会社は公表売上額として、五七年度が二、八六八、九七一、一五〇円、五八年度四、一一三、九〇七、六〇〇円と五八年度相当増加しているが、その所得については、五七年度一一一、一八五、七〇一円、五八年度八七、五三二、一一九円と申告し、所得が減っている。右は被告人会社の被告人曺の借入金が著しく増加(五七年度末四八六、七八七、八二二円、五八年度末八〇四、八六五、〇八八円)したためである。そして、右公表帳簿借入金中架空借入金及び簿外借入金を増減させた認定長期借入金は、五七年度末五九九、三九四、八二二円、五八年度末は八九六、六七二、〇八八円である。

従って、売上額の多い五八年度の認定所得が、五七年度認定所得を下回っているが、右は助松店の売上除外金に誤りがあるものではない。

<3> 被告人三名の各弁護人は、被告人会社の営業収益から、一日当り一五〇万円から二〇〇万円を除外することは不可能であり、右推計方法は著しく疑問である旨主張する。

被告人会社は、パチンコ経営のほか不動産売買業をしているが、不動産売買業ではほ脱がなされていなかったから、前記除外金を仮に単にパチンコ店の経営によるもので、一年に三三〇日営業したとすれば、一日当たりの売上除外は次のとおりである。

五六年度 二二〇、六五〇円

五七年度 一、五六四、七二九円

五八年度 九一九、九三四円

右被告人会社の一日当りの売上除外額を示す的確な資料はない。しかし、被告人柳は58・12・13付てん末書問8、10で、売上除外を毎日したわけではないが、三店舗で五〇〇万円位した旨述べている。そして、前説示のとおり被告人曺個人の助松店では、五八年四月二八日合計四〇万円、同月二九日五〇万円除外している。その点を考慮すれば、一日当り先の金額程度の除外は可能であると窺われる。

なお、被告人会社の公表売上額と、前記単純に仮定した売上除外額との合計は、次のとおり(上段)であり、右売上除外額を右合計額で除した仮定の売上除外率は、下段のとおりである。

五八年度 六八二、四四三、二九六円、 一〇・六六パーセント

五七年度三、三八五、三三一、七六八円 一五・二五パーセント

五八年度四、四一七、四八五、九二一円 六・八七パーセント

ところで、助松店の売上除外率(認定売上除外額を認定売上額で除したもの、五六年分五・二一パーセント、五七年分五・〇六パーセント)に対し、被告人会社のそれは相当高いか、被告人会社の五七年度、五八年度の公表売上金額の増加度を考えれば、被告人会社において助松店より高い割合で売上を除外したとしても、疑問ではない。また、被告人柳の公判供述(四回7乃至9丁)によれば、助松店の近くに地の利のよいパチンコ店があり、同店は一時は営業困難な時期もあり、同被告人の努力により利益をあけるに至ったのに対し、被告人会社の二店舗は営業条件のよいところにあつたことが認められる。かかる点からすれば、被告人会社では助松店より高い割合で売上除外をしたことに疑問はない。

<4> 被告人会社の五七年度、五八年度の認定所得につき、被告人柳の弁護人は、五六年度、五九年度の申告所得と比較し、被告人会社の弁護人は、五九年度の所得に比較し、異常に高過ぎる旨主張する。

しかし、五七年度にフィーバーブームが高まり、かつ、五六年一二月東三国店が開店したことからして、五七年度、五八年度に所得が急増しても疑問はない。

次に、本件査察着手後、経営の先頭に立っていた被告人柳は、被告人会社及び被告人曺個人の営業に携わらなくなったこと、フィーバー機の規制が徐々に厳しくなり、そのブームも沈静化したこと、売上が安定していた玉造店も改装をするに至った(被告人柳の59・10・2付検面調書3項)ことからして、五九年度売上が減少し所得が下ったとしても、疑問ではない。

二  ほ脱犯の成否

被告人曺の弁護人は、被告人曺は、被告人会社及び被告人曺自身の簿外現金や仮名預金の存在やその金額は明確に知らず、かつ、法人と個人の区別も不明確なまま経理担当者に会計を委ねていたから、五七年度五八年度の法人税確定申告の際、申告調整をした金額を除き、ほ脱の故意はなく、かつ、被告人柳と共謀した事実はない旨主張する。

被告人柳の弁護人は、被告人柳は、被告人曺の意図を考え余剰金を管理したが、被告人曺とほ脱の手段、方法等を協議したことはなく、共謀していない、むしろ被告人柳は各店舗からの売上金の集計業務、現金の管理業務、記帳の基礎となる出納簿の作成をしたにとどまり、記帳、決算、各申告には関与していなかったから、ほ脱の幇助的立場にあるといえる、前記申告調整分については、全く知らされておらず、単に被告人曺が適宜申告するとの気持であつたもので、もとより被告人曺とは共謀していない旨主張する。

(1)  被告人柳のてん末書及び検面調書によれば、被告人柳は、被告人会社の取締役で被告人曺の妻であり、各パチンコ店の店頭に立ち従業員に指示を与えるほか、被告人会社及び被告人曺のため、売上金を一部除外し、「Kの現金」を通じて仮名預金をし、除外分を減額した上帳面に転記し、その後の記帳等を経理担当職員に委ねていたものである。右事情からすれば、被告人柳の行為はほ脱犯の幇助犯ではなく、正犯の行為であり、被告人曺と共謀の上犯した(ただし、申告調整分については後に判断する。)ものである。

(2)  (1)掲記の証拠、被告人曺のてん末書、検面調書によれば、被告人曺は、被告人柳と共謀の上、ほ脱をしたものと認められる。即ち、右証拠によれば、被告人曺は、五七年末山口県下のゴルフ場買収に際し、二億円余の預金をする必要にせまられ、被告人柳から一五〇口の仮名預金証書を受取り大和信用金庫の行員に交付していること、被告人曺自身東三国店を新たに建設したこと、本件査察後から被告人曺に帰属すべき多額の金員がある旨述べていることが認められ、被告人曺は、被告人柳によりその金額はともかく売上金の除外がなされていたことは十分知っていたものであるそして、被告人曺は、自ら被告人会社及び被告人曺個人の各確定申告書を確認作成し、右五七年度、五八年度には申告調整として架空借受金の計上を指示したことを自認している。右事実からすれば、被告人曺は、被告人柳が被告人会社及び被告人曺のためになした一連の売上の除外行為を認識認容したものと認められる。なお、被告人曺は、五二年ころから被告人柳に対し、被告人会社及び被告人曺個人の各店舗の運営、会計を全て委ねていたから、右売上の除外金が予想外に多かったとしても、犯罪の成否には影響がない。

以上によれば、被告人曺は、被告人会社及び被告人曺個人のほ脱の共同正犯の責任は免れない。

(3)  次に、右の申告調整分につき検討する。

被告人曺に、その刑事責任があることは明らかである。

被告人柳は、被告人曺が各申告調整をする際、相談を受けたりしたなどの事実は認められない。しかし、前説示のとおり被告人柳は、自ら被告人会社及び被告人曺のため、日々売上を除外し、仮名預金などをしたが、その記帳や申告は被告人曺らに委ねていたものであり、五七年度、五八年度の法人税確定申告に際しても被告人柳が除外した後の売上金の範囲内で被告人曺において申告する認識はあったものである。そうすると、被告人柳は、右申告調整分についても、共同正犯としてその刑事責任は免れない。

(法令の適用)

被告人曺永守、同柳桂順の判示第一の各所為は、いずれも刑法六〇条、法人税法一五九条一項に該当するもので、各所定刑中各懲役刑を選択し、被告人曺永守、同柳桂順の判示第二の各所為は、いずれも刑法六〇条、所得税法二三八条一項に該当するので、各所定刑中、被告人曺永守については、懲役刑及び罰金刑を各併科し、罰金刑につき、情状により所得税法二三八条二項をそれぞれ適用し、被告人柳桂順については、懲役刑を各選択することとし、以上はそれぞれ刑法四五条前段の併合罪であるから、被告人曺永守については、懲役刑については同法四七条、一〇条により最も犯情の重い判示第一の二の罪の刑に法定の加重をし、判示第二の罰金刑については同法四八条一項によりこれを右懲役刑と併科することとし、同法四八条二項により判示第二の一、二の各罪所定の罰金額を合算し、被告人柳桂順については、同法四七条、一〇条により最も犯情の重い判示第一の二の罪の刑に法定の加重をし、被告人曺永守の刑期及び金額の範囲内で同被告人を懲役二年及び罰金一四〇〇万円に処し、被告人柳桂順の刑期の範囲内で同被告人を懲役一〇月に処し、被告人曺永守が右罰金を完納することができないときは、同法一八条により金五万円を一日に換算した期間同被告人を労役場に留置することとし、被告人両名に対し同法二五条一項を各適用して、被告人曺永守についてはこの裁判の確定の日から四年間右懲役刑の執行を、被告人柳桂順については、この裁判の確定の日から三年間右刑の執行を猶予することとする。

被告人会社に対しては、法人税法一六四条一項により、被告人曺永守、同柳桂順の前記同法一五九条一項の違反行為につき、いずれも同条項の罰金刑に処すべきところ、それぞれにつき同法一五九条二項を適用し、以上は刑法四五条前段の併合罪であるから、同法四八条二項により各罰金額の範囲内で、被告人会社を罰金八〇〇〇万円に処することとする。

(量刑の事由)

被告人会社のほ脱金額合計三億七三九一万一九〇〇〇円、被告人曺個人のほ脱税額六五〇一万五七〇〇円とその金額は相当高額である。ほ脱税率も、被告人会社においては、相当高率である。かかる諸点を考慮すれば、被告人三名の刑事責任は、軽視できない。

しかし、被告人曺及び被告人柳の両名は、本件係争期間中、被告人会社及び被告人曺個人の脱税額を十二分に把握しておらず、仮名預金の状況についても正確には認識していなかった。

被告人柳は、被告人会社及び被告人曺個人の各店舗の売上金を除外し、「Kの現金」とし、その後仮名預金としたが、右各営業上必要な際には「Kの現金」、仮名預金を随時引出しその支払いにあてていたもので、公表と簿外とを明確に区別していなかった上、被告人会社と被告人曺個人の営業をも経理上区別していなかったことからすると、必ずしも計画的になしたものとは言い難い。そして、被告人柳にも責任があるとはいえ、被告人曺のなした申告調整分について、直接関与していない。

被告人曺は、被告人会社及び被告人曺個人の営業の現金管理を被告人柳にゆだねており、その営業にも関与することが多くなく、売上金の管理も十二分には承知しておらず、被告人柳との意思疎通が不十分の状態で、それぞれの確定申告を出している。

被告人会社及び被告人曺は、本件査察後、法人税、所得税、事業税、市民税を、合計六億九〇〇〇万円位納付し、残余についても納税の努力をしている。そして被告人会社及び被告人曺は、本件を反省し、一連のコンピューター化により売上金額の明確化をはかり、税理士に依頼して経理処理及び税申告の適正化を図っている。また、被告人柳は、本件発覚後、十分反省し査察官らに事情を説明したほか、被告人会社や被告人曺個人の事業に関わることを一切やめている。

かかる諸事情を総合考慮して、主文のとおり量刑した。

よって、主文のとおり判決する。

(裁判官 柴田秀樹)

別表(一)

修正貸借対照表

大共開発観光株式会社

昭和56年8月31日現在

<省略>

<省略>

<省略>

別表(二)

修正貸借対照表

大共開発観光株式会社

昭和57年8月31日現在

<省略>

<省略>

<省略>

<省略>

別表(三)

修正貸借対照表

大共開発観光株式会社

昭和58年8月31日

<省略>

<省略>

<省略>

<省略>

別表(四)

法人税脱税額計算表

<省略>

別表(五)

修正損益計算書

曺永守

自 昭和56年1月1日

至 昭和56年12月31日

(総所得)

<省略>

別表1

修正損益計算書

曺永守

自 昭和56年1月1日

至 昭和56年12月31日

(事業所得)

<省略>

<省略>

別表2

修正損益計算書

曺永守

自 昭和56年1月1日

至 昭和56年12月31日

(不動産所得)

<省略>

別表(六)

修正損益計算書

曺永守

自 昭和57年1月1日

至 昭和57年12月31日

(総所得)

<省略>

別表3

修正損益計算書

曺永守

自 昭和57年1月1日

至 昭和57年12月31日

(事業所得)

<省略>

<省略>

別表4

修正損益計算書

曺永守

自 昭和57年1月1日

至 昭和57年12月31日

(不動産所得)

<省略>

別表(七)

所得税脱税額計算書

<省略>

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