大阪地方裁判所 昭和59年(わ)857号 判決 1985年3月18日
本籍
京都府八幡市橋本北ノ町三三番地
住居
大阪府茨木市永代町九番六号
医師
小島重信
昭和五年八月八日生
右の者に対する所得税法違反被告事件につき、当裁判所は検察官竹下勇夫出席のうえ審理し、次のとおり判決する。
主文
被告人を懲役一年六月及び罰金一億三〇〇〇万円に処する。
右罰金を完納することができないときは、金二〇万円を一日に換算した期間、被告人を労役場に留置する。
理由
(罪となるべき事実)
被告人は、医師で茨木市永代町九番六号等四か所において、医院、病院を経営するものであるが、自己の所得税を免れようと企て、
第一 昭和五五年分の所得金額が別紙一の一のとおり三一〇、六七〇、五七五円で、これに対する所得税額が別紙一の二のとおり一八三、九八三、九〇〇円であるにもかかわらず、診療報酬等の一部を除外し、医薬品の架空仕入れを計上するなどの行為により右所得の一部を秘匿した上、同五六年三月一六日、茨木市上中条一丁目九番二一号所在の所轄茨木税務署において、同税務署長に対し、同年分の所得金額が一二五、三九一、九六二円で、これに対する所得税額が四五、〇八五、二〇〇円である旨の虚偽の所得税確定申告書を提出し、もって不正の行為により、所得税一三八、八九八、七〇〇円を免れ、
第二 昭和五六年分の所得金額が別紙二の一のとおり四七九、四八七、六一八円で、これに対する所得税額が別紙二の二のとおり三〇四、六〇四、二〇〇円であるにもかかわらず、前同様の行為により、右所得の一部を秘匿した上、同五七年三月一五日、前記茨木税務署において、同税務署長に対し、同年分の所得金額が一三八、八六四、三四四円で、これに対する所得税額が四九、一五〇、五〇〇円である旨の虚偽の所得税確定申告書を提出し、もって不正の行為により所得税二五五、四五三、七〇〇円を免れ、
第三 昭和五七年分の所得金額が別紙三の一のとおり四九〇、五九八、九五二円で、これに対する所得税額が別紙三の二のとおり三一一、一四一、四〇〇円であるのにもかかわらず、前同様の行為により、右所得の一部を秘匿した上、同五八年三月一五日、前記茨木税務署において、同税務署長に対し、同年分の所得金額が一三一、〇四六、四〇九円で、これに対する所得税額が四一、六八四、九〇〇円である旨の虚偽の所得税確定申告書を提出し、もって不正の行為により所得税二六九、四四六、五〇〇円を免れ
たものである。
(証拠の標目)
判示全事実につき
一 第一回公判調書中の被告人の供述部分
一 被告人の検察官に対する供述調書二通及び大蔵事務官に対する質問てん末書一三通
一 得丸秀幸の検察官に対する供述調書二通及び大蔵事務官に対する質問てん末書一一通
一 武田政子、加藤信幸、中山多門、榎本正男の検察官に対する各供述調書
一 大蔵事務官作成の査察官調査書九通(但し昭和五九年一月二七日付のものについては、判示第一の事実のみ)
一 川畑美洋子、得丸秀幸(二通)作成の各確認書
一 大蔵事務官作成の青色申告書提出承認の取消し証明書
判示第一の事実につき
一 大蔵事務官作成の昭和五五年分所得税確定申告書謄本
判示第二の事実につき
一 大蔵事務官作成の昭和五六年分所得税確定申告書謄本
判示第三の事実につき
一 大蔵事務官作成の昭和五七年分所得税確定申告書謄本
(法令の適用)
被告人の判示第一の行為は、行為時においては昭和五六年法律第五四号による改正前の所得税法二三八条一項に、裁判時においては右改正後の同法二三八条一項に該当するが、右は犯罪後の法令により刑の変更があったときにあたるから刑法六条、一〇条により軽い行為時法によることとし、判示第二、第三の各所為は右改正後の所得税法二三八条一項に該当するところ、各所定刑中懲役刑と罰金刑を併科し、罰金刑につき情状によりそれぞれ前記法条の二項を各適用し、以上は刑法四五条前段の併合罪であるから、懲役刑については同法四七条本文、一〇条により最も犯情の重い判示第三の罪の刑に法定の加重をし、罰金刑については同法四八条二項により各罪所定の加重をし、罰金額を合算し、その刑期及び金額の範囲内で被告人を懲役一年六月及び罰金一億三〇〇〇万円に処し、同法一八条により右罰金を完納することができないときは、金二〇万円を一日に換算した期間、被告人を労役場に留置することとする。
(量刑の理由)
本件ほ脱税額は、昭和五五年分一三八、八九八、七〇〇円、同五六年分二五五、四五三、七〇〇円、同五七年分二六九、四四六、五〇〇円、合計六六三、七九八、九〇〇円と巨額である。ほ脱率も各年分順に、約七五パーセント、約八三パーセント、約八六パーセントと順次上昇し、いずれも高率である。
犯行態様は、被告人自身診療収入の一部を除外したほか、総務部長得丸秀幸に指示して、付添料収入等を除外するほか、薬品衛生材料費、外注費、給食材料費について架空の仕入を計上したり、給料賃金について架空経費を計上したものである。主たる方法である右薬品衛生材料費の架空仕入においては、予め薬品会社名のゴム印を調達し、仮装の第三者と納品書や領収証を作成するなどの方法を用いており、犯情は軽視できない。
犯行に至る経緯は、被告人は昭和五四年一〇月国税局の調査を受け、被告人がハワイに取得した不動産が判明するなどし、その資金出所を追求され、そのころ他にも所得があるとして修正申告をなし、かたわらマリブ商事株式会社を設立し、従前被告人がなしてきた株式売買や錦鯉の販売管理等を右会社で行うなどの処置をとった。しかし、被告人は、その後、反省することなく、前記方法を用いて所得を隠し、錦鯉の取得や株式売買等に多額の金員を費出したほか、ハワイのマンション建設にかかわったり、ダリの絵画を購入する等したものである。
犯行の動機は、高額な税金を支払うと自由に処分できる金員が少なくなることを述べている。そして、被告人は、医療法人ではなく、個人病院として医療業務に従事しているため、所得税法における累進課税により、高額の所得に対し多額の納税をしなければならないため、本件を犯した面があると述べるが、この点には、格別斟酌すべき事由があるとはいえない。
これら諸事情を考慮すれば、被告人の刑事責任は重いと言わざるを得ない。
被告人は、本件摘発後十分反省し、本件犯行を自供し、修正申告をなし、本税及び加算税につき、自己の財産を一部処分したり、借入れをする等したうえ、昭和六〇年三月に至り完納したこと、被告人経営病院の経理を改善し、同種事犯の発生に至らない方法を採用したこと、被告人自身医者として医療活動をなし、地域の医療や老人医療等に貢献し、今後も貢献したいと考えていることなど本件の審理にあらわれた被告人のため有利に斟酌すべき一切の情状を十二分に考慮しても、主文掲記の刑は已むを得ないものと思料する。
よって、主文のとおり判決する。
(裁判官 柴田秀樹)
別紙一の一
昭和55年分
<省略>
別紙一の二
税額計算書
<省略>
別表1
修正損益計算書(事業所得)
自昭和55年1月1日
至昭和55年12月31日
<省略>
修正損益計算書
<省略>
別紙二の一
昭和56年分
<省略>
別紙二の二
税額計算書
<省略>
別表2
修正損益計算書(事業所得)
自昭和56年1月1日
至昭和56年12月31日
<省略>
修正損益計算書
<省略>
別紙三の一
昭和57年分
<省略>
別紙三の二
税額計算書
<省略>
別表3
修正損益計算書(事業所得)
自昭和57年1月1日
至昭和57年12月31日
<省略>
修正損益計算書
<省略>