大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

大阪地方裁判所 昭和59年(ヨ)2114号 1984年8月14日

当事者の表示

別紙のとおり

主文

被申請人は別紙賃金一覧表記載の各申請人に対し、同表「認容額」欄記載の金員をそれぞれ仮に支払え。

申請人らのその余の申請を却下する。

申請費用は被申請人の負担とする。

理由

(当事者の求めた裁判)

一  申請人ら

被申請人は別紙賃金一覧表記載の各申請人に対し、同表「請求額」欄記載の金員をそれぞれ支払え。

申請費用は被申請人の負担とする。

二  被申請人

本件申請を却下する。

申請費用は申請人らの負担とする。

(当裁判所の判断)

一  当事者間に争いのない事実及び疎明資料によれば、一応次の事実が認められる。

1  被申請人は生コンクリートの製造販売等を業とする資本金一〇〇〇万円、従業員数約三〇名の会社であり、その勤務時間は八時から一六時まで(ただし、昼一時間の休憩時間あり。)である。申請人らは被申請人の従業員であるとともに全日本運輸一般労働組合関西地区生コン支部(以下「組合支部」という。)茨木統合分会安威川班に所属する組合員である。

2  申請人らは、昭和五九年四月一四日に始業から一時間、四月二〇日に始業から一五分間のストライキを、四月二七日残業拒否を行った。

3  同年四月二八日以降五月一五日までの休業日(四月二九日ないし五月一日、五月三日、五日、六日、一三日)を除く期間、申請人らは就業のため出社した(ただし、後記4の各申請人の休暇日ないし欠勤日を除く。)が、被申請人は申請人らに対し、途中で抜打的ストライキや残業拒否をすることなく最後まで誠実に作業をするよう求めるとともにその旨の書面を差し出すよう求めた。これに対し申請人が、組合支部からストライキや残業拒否の指示があればストライキに入いるので右要求を拒否する旨答えたので、被申請人は申請人らを就労させなかった。

4(一)  左記の申請人らは、それぞれ左記の日(ただし、いずれも昭和五九年五月である。)に年次有給休暇の時季指定をして欠勤した。

佐々木進 二、四日

庄司泰美 四日

曽我部昭 二、四日

松本俊宏 二、四日

松本敏行 四日

森岡義昭 一一日

吉田親 二、四日

脇川盛夫 二、四日

(二)  左記の申請人らは、それぞれ左記の日(ただし、いずれも昭和五九年五月である。)に年次有給休暇の時季指定をすることなく欠勤した。

水野隆之 四、一一、一二、一四日

脇川盛夫 一六日

豊田賀津明 一五日

深尾忠三郎 四、一六、一七日

5  被申請人は、前記3の期間における申請人らの不就労及び前記4の欠勤はいずれも申請人らがストライキをなしたものとして、それぞれの申請人らの賃金をカットして昭和五九年五月分の賃金を申請人らに支払った。

右賃金カットの詳細は次のとおりである。

(一) 基本給、資格給、年令給、熟練給名下のものについては、一日欠勤するごとに基本額の二三分の一を差し引くことになっており、その全体の賃金カット額は左記のとおりである。

佐々木進 一〇万九九四五円

庄司泰美 一一万一八七円

新谷健郎 七万九五九六円

曽我部昭 一一万九〇二円

平木明夫 一〇万九七〇三円

松本俊宏 一一万一八七円

松本敏行 一〇万九七〇三円

水野隆之 一〇万九七〇三円

森岡義昭 八万一九六一円

吉田親 一一万一六一七円

脇川盛夫 一一万九九四〇円

豊田賀津明 一〇万九七〇三円

深尾忠三郎 一三万二一九七円

左記の者の一日のカット額は次のとおりである。

水野隆之 九九七三円

脇川盛夫 九九九五円

豊田賀津明 九九七三円

深尾忠三郎 一万一六九円

(二) 給食代名下のものは、一日出勤することに五〇〇円支給され、早出一時間すれば四〇〇円、一七時以後の残業をすれば四五〇円がこれに加算されることになっているが、これは全く支払われなかった。

(三) 始業八時以前の早出、終業一六時以後の残業をなした場合に支払われることになっている時間外手当も全く支払われなかった。

二  そこで、申請人らが右カットされた賃金請求権を有するか否かについて、以下検討する。

1  前記一3の申請人らの不就労は、申請人らが労務提供したにもかかわらず被申請人が就労させなかったものであるから、右申請人らは右労務提供をなした日の賃金請求権を有する。

なお、被申請人は、被申請人の業務の特殊性からして就労後の抜打的ストライキ・残業拒否の可能性を残した申請人らの労務提供は不誠実なものであるから、賃金支払義務は発生しないと主張する。しかしながら、ストライキ等をする争議権は憲法上認められた労働者の権利であり、将来の抜打的ストライキ等を為さないことを約して労務提供しなければ賃金請求権は発生しないとはいえないのであるから、右被申請人の主張は失当である。

2  前記一4(一)の欠勤は、年次有給休暇が成立するので、同申請人らは同年次有給休暇日の賃金請求権を有する。

被申請人は、被申請人の承認がなければ年次有給休暇は成立しないと主張し、疎明資料によれば、有給休暇を受けようとする時は被申請人の承認を得なければならない旨の就業規則の条項が存するが、年次有給休暇は労働者が休暇の時季指定をすれば使用者が時季変更権の行使をしないかぎり成立するもので、このことは使用者の承認が必要であると定めた就業規則が存しても変わらないと解すべきであるから、右被申請人の主張は失当である。

被申請人はまた、申請人らの年次有給休暇申請はストライキとしての一斉休暇であると主張するが、疎明資料によれば、右申請人らは旅行や家族だんらんの目的で年次有給休暇の時季指定をしたと一応認められるので、右被申請人の主張も失当である。

3  前記一4(二)の欠勤は、労務の提供がなされず、年次有給休暇も成立しないので、欠勤をした申請人らの当該欠勤日の賃金請求権は発生しない。

三  次に、右賃金請求権の範囲及び金額を検討する。

1  基本給、資格給、年令給、熟練給については一日欠勤することに一定額を差し引くことになっている賃金の性格から、水野隆之、脇川盛夫、豊田賀津明、深尾忠三郎以外の申請人らは前記一5(一)記載の賃金カット額の請求権を有する。

水野隆之については四日分、脇川盛夫及び豊田賀津明については各一日分、深尾忠三郎については三日分の賃金カットが許されるので、結局右四名については左記の金額の請求権を有する。

水野隆之 六万九八一一円

脇川盛夫 一〇万九九四五円

豊田賀津明 九万九七三〇円

深尾忠三郎 一〇万一六九〇円

2  時間外手当について、申請人らは、時間外労働が常態となっている場合には賃金請求権のなかに時間外手当も含まれると主張し、被申請人は、被申請人が早出・残業を指示した場合にのみ時間外手当請求権が発生するところ、指示の事実がないので右請求権は発生しないと主張する。

ところで、申請人らの主張は明確ではないが、賃金請求権が雇用契約によって発生することからして、本件時間外手当請求権も被申請人・申請人ら間の雇用契約によって発生している旨の主張と解し得るところ、疎明資料によれば、被申請人会社内においては時間外労働が常態となっていること、及び申請人らと被申請人は残業拒否をストライキと同様に扱っていることが一応認められる。そうすると、被申請人・申請人ら間の雇用契約においては、勤務時間は一応八時から一六時までとなっているが、仕事の必要に応じて一定の範囲で勤務時間が延長され、勤務時間が延長された場合の賃金の計算は延長部分に対し時間外手当名下で加算する内容となっていることが一応推認できるので、申請人らの時間外手当請求権(ただし、額は実際に時間外労働がなされることによって確定する。)は被申請人・申請人ら間の雇用契約によって発生していると言える。そして、前記一3の申請人らの労務提供も時間外労働の労務の提供を含むと一応推認できるので、右申請人らは、被申請人の時間外労働の指示がなくとも時間外手当請求権を有するところ、本件のように時間外労働の提供をしたにもかかわらず就労拒否された場合の同請求権の額は過去三ケ月間の申請人らの時間外労働の実績を基にして算出するのが相当である。

そこで、前記一3の労務提供をした申請人らの時間外手当請求権を計算する。

まず、昭和五九年二月分、三月分、四月分の三ケ月分の一ケ月当たり平均時間外手当支給実績が別表「時間外手当・給食代計算表」の「一ケ月実績額」欄記載のとおりであることは当事者間に争いがない。次にそれらの実績額が何日の出勤日数に対応するものか検討するに、右三ケ月間の各申請人らの出勤日数を疎明する資料は存しない。しかしながら、基本給等が一日欠勤することに基本額の二三分の一を差し引く計算となっていることからすると、被申請人会社内においては一ケ月の平均出勤日数が二三日であると推認できる。そして、各申請人らの時間外労働の労務提供日は同表の「労務提供日」欄記載の日数であるから、同表の「一ケ月実績額」欄記載の金額に二三分の右労務提供日数を乗じた金額が、申請人らの時間外手当請求権の金額となるが、その金額は同表「時間外手当金額」欄記載の金額である。

3  給食代については、一日出勤するごとに五〇〇円支給される部分はその性格上、前記一3の労務提供日数に応じて申請人らにその請求権が発生することとなる。その計算結果は別表「時間外手当・給食代計算表」の「給食代」欄記載のとおりである。その余の給食代については時間外手当と同様の性格を有するものと一応推認できるが、本件全疎明資料によってもその額を推定することはできない。

4  以上疎明された各申請人の賃金の合計額は別紙「賃金一覧表」の「認容額」欄記載の金額となる。

四  疎明資料によれば、申請人らは被申請人からの賃金のみによって自己及び家族の生計を維持していること及び毎月の賃金はほとんど生活費に当てられ預金が存しないことが一応認められる。

そうすると、前記三4記載の賃金額が申請人らに支払われなかったならば、申請人らに回復し難い損害が生ずると一応推認できるので、同賃金額を各申請人に仮払いするよう被申請人に命ずるのが相当である。

被申請人は、本件賃金カットから日時が経過していること及び組合支部から申請人らに資金援助がなされていることを理由に保全の必要性がないと主張するが、日時の経過は回復し難い損害発生のおそれを減少させるものではなく、また資金援助の事実を一応認めるに足りる疎明も存しないから、右被申請人の主張は失当である。

五  以上によれば、申請人らの本件申請は主文一項の限度で理由があるから保証を立てさせないでこれを認容し、その余の申請部分は理由がなく、かつ保証を以て疎明に代えさせることも相当と認められないからこれを却下し、申請費用の負担につき民事訴訟法九二条但書を適用して主文のとおり決定する。

(裁判官 一志泰滋)

当事者目録

申請人 佐々木進

同 庄司泰美

同 新谷健郎

同 曽我部昭

同 平木明夫

同 松本俊宏

同 松本敏行

同 水野隆之

同 森岡義昭

同 吉田親

同 脇川盛夫

同 豊田賀津明

同 深尾忠三郎

右申請人ら代理人弁護士 南野雄二

同 橋本二三夫

同 高橋典明

被申請人 安威川生コンクリート工業株式会社

右代表者代表取締役 田中一郎

右被申請人代理人弁護士 万代彰郎

時間外手当・給食代計算表

<省略>

賃金一覧表

<省略>

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例