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大阪地方裁判所 昭和59年(ヨ)4389号 1985年5月16日

申請人

日東運輸株式会社

右代表者代表取締役

中村敬

右代理人弁護士

田辺満

石田好孝

久岡英樹

被申請人

全日本港湾労働組合関西地方本部(以下「地本」という)

右代表者執行委員長

山本敬一

被申請人

全日本港湾労働組合関西地方阪神支部(以下「支部」という)

右代表者執行委員長

藤本弘和

被申請人

全日本港湾労働組合関西地方阪神支部日東運輸分会(以下「分会」という)

右代表者分会長

長岡明義

被申請人

大西正治

中川博文

戸田征宏

正木康彦

長岡明義

阪本健二

滝谷英一郎

右一〇名代理人弁護士

西元信夫

前田修

右当事者間の頭書事件について、当裁判所は、申請人が被申請人らに対し一括して金一〇〇万円の保証を立てることを条件に、次のとおり決定する。

主文

被申請人地本、同支部及び同分会はその所属組合員をして、その余の被申請人らは自ら、この決定送達の日から昭和六一年三月三一日までの間、別紙(略)車両目録(二)、(三)記載の車両のうち種別番号四〇一ないし四二一及び二〇一ないし二二七の車両に対しビラを貼付させ又は貼付してはならない。

申請人のその余の申請を却下する。

申請費用はこれを二分し、その一を申請人、その余を被申請人らの各負担とする。

理由

第一申立

申請人は、「被申請人地本、同支部、同分会はその所属する組合員又は第三者をして、その余の被申請人らは自ら、別紙車両目録(一)ないし(三)記載の車両に対しビラを貼付させ又は貼付してはならない。申請費用は被申請人らの負担とする。」との裁判を求めた。

被申請人らは、「本件申請を却下する。申請費用は申請人の負担とする。」との裁判を求めた。

第二当裁判所の判断

一  被保全権利について

1  当事者間に争いのない事実及び疎明資料によれば、次の事実が一応認められる。

(一) 申請人は海運代理店業・船舶運航事業・海上運送取扱業・コンテナターミナル業を目的とする資本金二億五〇〇〇万円、従業員約八〇〇名の株式会社である。

被申請人地本は海上コンテナー輸送のトレーラー運転手等によって組織された産業別労働組合であり(その組織形態は労働者が直接加入しその構成員となっているいわゆる単一組合である)、被申請人支部及び被申請人分会はいずれもその下部組織たる労働組合であって(以下、右三労働組合を一括して「被申請人三組合」という)、被申請人分会は昭和五九年二月二日結成され、申請人神戸支店陸運部所属従業員(トラック運転手)である被申請人三組合を除くその余の被申請人七名(以下「被申請人七名」という)により構成されている。

(二) 申請人は遅くとも昭和五九年七月一九日までには別紙車両目録(一)ないし(三)記載の車両(以下「本件車両」という)の全部につき所有権又は使用権限を取得し、以後本件車両を権限に基づいて管理し申請人の業務のために使用してきている。

(三) 被申請人三組合は申請人が被申請人地本の行なういわゆる統一集団交渉及び被申請人支部の行う支部統一集団交渉に応じないことをもって団体交渉拒否の不当労働行為にあたるとして、申請人に対し昭和五九年三月以降種々の抗議行動をするとともに、右各統一集団交渉への出席を要求してきたが、被申請人七名は被申請人三組合の指示支援を受けて右抗議行動及び出席要求の一環として、昭和五九年七月九日以降、連日、本件車両(但し、当時申請人が所有権又は使用権限を取得していなかった一部の車両を除く)に対し「川崎汽船の天下り社長中村敬は不当労働行為をするな!」(顔写真入り)、「川汽の天下り中村敬社長は集団交渉に出ろ!」などと記載された多種類のビラを貼付し、遅くとも同年一〇月末までには本件車両全部に対しビラが貼付されるに至った。

右ビラ貼付(以下「本件ビラ貼付」という)にかかるビラの枚数及び貼付態様等は次のとおりである。

(1) 申請人の車庫に帰って来た車両に貼付されているビラの枚数は後述のような申請人によるビラの除去作業にも関係して日々異っているが、申請人の調査によると、昭和五九年八月から昭和六〇年三月までの各月の第二金曜日及び同月二八日(木)(調査最終日)においては次のとおりであって、昭和五九年一〇月下旬ころから著しく増加し、昭和六〇年二月下旬以後はかなり減少しているものの、未だ相当枚数のビラが貼付されている。

<省略>

(2) 本件車両に貼付されたビラの大きさは、縦約三五・四センチ・横約二一・七センチのもの、縦約二五・七センチ・横約一八・二センチのもの、縦約一三・四センチ・横約一六・八センチのものなど種々であり、貼付態様は、車両の至るところに乱雑に、しかも化学糊を裏面全体に塗って貼付した上、ビラの上からさらに化学糊を一面に塗りつける方法によっている。

(3) 本件ビラ貼付にかかるビラの記載内容はほぼ前記のとおりであり、申請人が前記統一集団交渉に応じないことに抗議し、同交渉への出席を要求する内容となっていて、一部には穏当を欠くと思われる表現もあるものの、申請人やその役員等の名誉信用を著しく毀損する程度の内容のものはない。

(4) 本件ビラ貼付によって本件車両は外観上相当見苦しい状態となっているし、貼付ビラの除去は容易でなく、除去作業によって車体ペイントが剥離するなどの損傷が生じた車両もある。

(四) 申請人は本件車両に対するビラの貼付を承認したことはなく、かえって被申請人七名に対して再三にわたって貼付ビラの撤去を求めるとともにビラ貼付の禁止を通告する一方、昭和五九年一〇月一七日までは車庫に帰って来た車両につき、毎朝、輸送業の開始前に管理職の手によって貼付ビラの除去作業をしていたが、被申請人七名は申請人の顧客先の構内等において本件車両に対するビラ貼付を繰り返すため、同月一八日以降は車両にビラの貼付されていることについて苦情を寄せてきた取引先に出向く車両(シャーシ)のみを対象としてビラの除去作業をするにとどまるようになった。

被申請人七名による本件車両に対するビラの貼付は今後とも繰り返されるおそれがある。

2  以上によれば、本件ビラ貼付は申請人の本件車両に対する所有権又は使用権限に基づく管理権(占有権)を侵害していること明らかであり、被申請人七名は被申請人三組合の指示支援のもとに右侵害を将来も継続するおそれがあるものということができるので、申請人は被申請人らに対し本件車両に対するビラの貼付の禁止を求める権利がある。

ところで、被申請人らは、本件ビラ貼付は申請人が前記統一集団交渉を拒否することに対する抗議を目的とする正当な組合活動である旨の主張をするので考えるに、疎明資料及び審尋の全趣旨によれば、被申請人地本ではかねてよりいわゆる春闘などにおいて統一集団交渉の名のもとに被申請人地本所属の組合員を雇用する多数の企業の代表者と被申請人地本及びその傘下の各支部、分会の執行委員又は代表者が一堂に会して集団的に団体交渉を行ってきたもので、申請人も被申請人地本及びその支部である築港支部に所属する申請人従業員の艀乗組員の労働条件に関しては従前から右統一集団交渉に申立人海運部の職員を交渉担当者として出席させてこれに応じ、被申請人地本との間に労働協約を締結してきたものであること、被申請人地本は昭和五九年二月以降申請人に対し被申請人七名の関係でも右統一集団交渉に応ずるよう要求し、同年四月中旬以降は被申請人地本が被申請人支部に交渉権限を委譲したとして被申請人地本又は被申請人支部の名において支部統一集団交渉に応ずるよう要求したが、申請人は右各統一集団交渉に応じなければならない法的義務まではないとの立場をとってこれを拒否して右各統一集団交渉に出席せず、かえって被申請人地本又は被申請人支部に対し申請人との個別的な団体交渉の申入れをしていること、被申請人三組合は申請人が右各統一集団交渉に応じないことが団体交渉拒否であるとして兵庫県地方労働委員会に対し救済の申立をし(昭和五九年(不)第八号事件)、同委員会において審理中であることが一応認められる。しかして、申請人に被申請人地本及び被申請人支部の申入れにかかる統一集団交渉に応ずる法的義務があるか否かについては、統一集交団渉についての従来の経緯や統一集団交渉の実態などをふまえた上で、申請人が従来被申請人地本及びその築港支部に加入している申請人従業員の関係では被申請人地本の行う統一集団交渉に出席して被申請人地本との間に労働協約を締結してきた事実も考慮して慎重に判断されるべきであるが、仮に被申請人らの主張するとおり申請人が統一集団交渉に応じないことが団体交渉拒否として不当労働行為にあたるためこれに抗議する組合活動がその目的において正当であるとしても、申請人の許諾を得ずその禁止を無視してなされている本件車両に対する本件ビラ貼付を申請人において当然に受認(ママ)しなければならないいわれはなく、前認定にかかる貼付ビラの枚数、貼付態様等に鑑みると、本件ビラ貼付は不当な組合活動としての(ママ)手段の相当性を欠く違法な組合活動というほかない。

二  保全の必要について

1  本件仮処分申請は申請人に本案で勝訴したのと同様の結果を享受せしめることを内容とする満足的仮処分の発令を求めるものであるから、申請人において本案訴訟における解決を待っていては申請人に著しい損害の生ずるおそれのあること(保全の必要)につき疎明することを要する。

2  そこで、本件仮処分申請における保全の必要について検討する。

(一) 本件車両に対する本件ビラ貼付については前記一、1、(三)のとおりであって、本件ビラ貼付によって本件車両は外観上相当見苦しい状態におかれているものといえる。

(二) そして、疎明資料によれば、本件車両は海上コンテナーを搬送するためのトラクター(牽引車)とシャーシ(被牽引車)であって、その性質上外観の美醜が特に重視される車両ではなく、その保管も露天に駐車させてするのが一般的であること、別紙車両目録(一)記載の車両(以下「本件(一)車両」という)は被申請人七名が専ら運転するトラクターで申請人の運送業務のみに使用されるし、別紙車両目録(二)、(三)記載の車両(以下「本件(二)、(三)車両」という)はシャーシであって、そのうち種別番号四二二ないし四二七及び二二八ないし二三七の一六台は申請人の運送業務のみに使用されているが、本件(二)、(三)車両のその余の車両四八台は、申請人の運送業務に使用されているほかに、申請人と同業他社との間の相互使用に関する協定によって同業他社に現に貸与(有償)されあるいは将来貸与される可能性のもとにおかれていること、右協定によって申請人の車両(シャーシ)を使用している同業他社からはビラの貼付されていることにつき苦情が寄せられ申請人はその対応に苦慮していることが一応認められる。

(三) (一)及び(二)の事実関係のもとに保全の必要につき考えるに、本件車両のうち前記相互使用に関する協定の対象となっている車両(シャーシ)四八台については、ビラ貼付による前認定の如き外観上の見苦しい状態が今後とも続くときは、同業他社との間の右協定の維持存続に悪影響を及ぼし、ひいては申請人に著しい損害が生ずるおそれがあるものと推認できないではない。

しかし、右四八台を除くその余の本件車両については、申請人の業務内容(前記一、1、(一))、右車両の用途、保管状況、貼付ビラの記載内容などよりして申請人がその所有又は管理する右車両がビラの貼付によって外観上相当見苦しい状態にあることによって当然に重大な悪影響を受けるとは認め難いので、右車両に貼付されるビラの枚数が近時減少してきていることも考慮すると、右車両がビラの貼付によって相当見苦しい状態となっていることをもっては申請人に本案での解決を待つまでの間に著しい損害を生ずるおそれがあるとまではいうことができないし、他に右車両につき前記1の意味における保全の必要を具体的に疎明するに足りる資料はない。

3  以上によれば、被申請人らに対し本件(二)、(三)車両のうち種別番号四〇一ないし四二一及び二〇一ないし二二七の車両(シャーシ)についてビラの貼付を禁止する仮処分の必要が一応肯定しうるところ、労使関係の流動性及び被申請人三組合が兵庫県地方労働委員会に対し申請人が統一集団交渉に応じないのは団体交渉拒否の不当労働行為であるとして救済申立をして現に審理中であることなど本件に顕われた諸般の事情を考慮すると、右禁止は昭和六一年三月末日までに限定するのが相当である。そして、右四八台を除くその余の本件車両については現時点においてビラ貼付の禁止を求める仮処分の必要まではないというべきである。

三  よって、本件仮処分申請は、申請人が被申請人らに対し一括して金一〇〇万円の保証を立てることを条件に、主文第一項の限度で認容し、その余は却下することとし、申請費用につき民事訴訟法九二条を適用して、主文のとおり決定する。

(裁判官 長門栄吉)

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