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大阪地方裁判所 昭和59年(ワ)1675号 判決

一 請求原因1及び2の事実は当事者間に争いがない。

いずれも成立に争いのない甲第一号証(本件特許公報)、第一六号証(訂正公報)によれば、本件発明の構成要件は請求原因3(一)において原告の主張するとおりと認められる。

二 被告が昭和五七年一月ころからニフエジピンカプセル剤を製造し、これを「コロジレートカプセル」という商品名で販売していることは当事者間に争いがない。

三 被告のニフエジピンカプセル剤の製造方法が本件発明の技術的範囲に属するか否かを検討する。

1 被告がニフエジピンカプセル剤製造のために別紙目録記載の方法のうち、(一)、(二)、(三)の工程を実施していることは、当事者間に争いがない。

2 右によると、被告のニフエジピンカプセル剤の製造方法において、カプセル殻に直接充填される液状組成物に、グリセリンが含まれていないことが明らかである。

3 ニフエジピンカプセル剤の製造工程中においてカプセル殻中のグリセリンが溶出して内容液中に含有されることが、本件発明の構成要件(2)の充填にあたるか否かを検討する。

(一) 明細書の記載

(1) 前記当事者間に争いのない事実によれば、本件明細書の特許請求の範囲には「少なくとも下記の三成分を下記の割合で含有する液状組成物、すなわち……を含有する液状組成物を充填する」と明記されている。

(2) 前掲甲第一六号証によると、本件明細書の発明の詳細な説明欄の記載に関して次の各事実が認められる。

イ 特許請求の範囲と同様に「少なくとも下記の三成分を下記の割合で含有する液状組成物、すなわち……を含有する液状組成物を充填する」(別添訂正公報訂七頁一九行目から二六行目まで)との記載がある。

また各成分のカプセル殻への充填の仕方について「前記カプセル殻への各種成分の充填は常法に従つて行なうことができる。例えば、上記活性成分(a)をいずれかの順序でポリアルキレングリコール(b)およびグリセリン(c)と混合し、この混合物を、」「カプセル殻(d)中に充填し、そして場合により他の常用の調合補助剤(e)を添加することによりつくられる。」(同訂七頁下から三行目から訂九頁二行目まで)との記載がある。

カプセル殻に充填するための調合物(混合物)の調製とその後の調合物(混合物)のカプセル殻への充填について、「上記のカプセル殻に充填するための調合物の調製は、4―(2´―ニトロフエニル)―2、6―ジメチル―3、5―ジカルボメトキシ―1、4―ジヒドロピリジンを、僅かに加熱し且つ攪拌しながら、グリセリンおよびポリアルキレングリコールに溶解させることによつて行なわれる。ゼラチンカプセルへの充填は公知の方法、例えばシエーラー(SCHERER)、ライナー(REINER)、ノートン(NORTON)、またはアクコゲル(ACCOGEL)機を用いて行なわれる。」(同訂九頁下から四行目から訂一一頁一行目まで)との記載がある。

さらに「次に、本発明のカプセル剤に充填することのできる液状組成物の配合例を示す。」として、以下実施例1ないし4には、少なくともニフエジピン、ポリエチレングリコール、グリセリンの三種を含む液状組成物の配合例が示されている(同訂一一頁下から八行目から訂一三頁下から一四行目まで)。

ロ これに対し、右詳細な説明の欄には、「少なくともニフエジピン、ポリアルキレングリコール及びグリセリンの液状混合物がカプセル殻中に含有されておりさえすれば良く、その含有のさせ方はいかなる手段でも良い」旨の記載はなく、そのことを示唆する記載もない。また「充填」という言葉について特別の意義を持たせるような定義づけもなされていない。

以上によると、明細書の記載からは、本件発明の構成要件(2)の意義を特許請求の範囲の字句どおり「少なくともニフエジピン一重量部、所定のポリアルキレングリコール六ないし五〇重量部、グリセリン〇・五ないし五重量部を含む液状組成物を(カプセル殻中に)充填する」との趣旨に解するのが相当である。

なお前掲甲第一六号証によると、本件明細書の発明の詳細な説明欄には、本件発明のカプセル剤の製造方法について、カプセル殻の原料溶液の組成及び内容液を充填し乾燥した後の出来あい状態のカプセル殻の組成が、別紙表Aに示すとおりである旨記載されている(訂正公報訂九頁下から一三行目から訂一一頁二行目まで)ことが認められる。右記載によれば湿潤カプセルの乾燥中にカプセル殻原料溶液中の水分が減少し、これに伴つてゼラチン含量(相対的濃度)が増加するにもかかわらず、出来あい状態のカプセル殻のグリセリン含量(相対的濃度)がその原料溶液中のグリセリン含量(相対的濃度)とほぼ同程度であることが示されている。このことは、乾燥等により出来あい状態のカプセル殻が出来あがるまでの製造期間中に、カプセル殻原料溶液中のグリセリンの一部がカプセル内容液中に溶出することを示すと認められる。

しかし、前掲甲一六号証によると本件明細書の発明の詳細な説明欄の記載に関し次の事実も認められる。

(1) 実施例のすべてにおいてカプセル剤に充填される液状組成物に配合すべきグリセリン量は、カプセル殻中のグリセリン量とは関係なく定められている(訂正公報訂一一頁下から八行目から訂一三頁下から一四行目まで)。

(2) 右実施例に示された組成の内容液をカプセル殻中に充填した後の、乾燥等により出来あい状態になつたカプセル剤の内容液の組成については記載がない。

右事実によると、本件明細書では内容液にグリセリンを含ませる方法としてのカプセル殻からの溶出については、データ等に基づいた技術の開示がなされていないと認められる。

よつて、本件発明においては、カプセル殻からのグリセリンの溶出が開示されているとしても、それはカプセル内容液の成分の充填方法としては把握されていないものと認められる。

(二) 出願の経過

(1) 成立に争いのない乙第一五号証(意見書)によると、本件発明の特許出願拒絶理由通知に対応して原告が特許庁に提出した意見書の記載に関し、次の各事実が認められる。

イ 「本願発明によれば、ニフエジピンを、(a)ニフエジピン一重量部に対して、

(b) アルキレン部分に二又は三個の炭素原子を有し且つ平均分子量が二〇〇乃至四〇〇〇のポリアルキレングリコール六乃至八五重量部及び

(c) グリセリン〇・五乃至一〇重量部

からなる溶媒系に混入して液状組成物とし、これを……カプセル殻に充填するようにすれば、ニフエジピンを舌下投与可能なカプセル剤に製剤することができることが見い出されたのであります。」(意見書 一九頁末行から二〇頁一二行まで)と記載され、(a)(b)(c)から成る液状組成物をカプセル殻に充填することが明確にされている。しかしこの液状組成物がカプセル殻中に含有されてさえおれば良く、その含有のさせ方はいかなる手段でも良い」旨の記載はなく、その事を示唆する記載もない。

ロ 「従つて、前記要求(目的)を満たすニフエジピン製剤の製造において解決されなければならない第一の技術的課題は、多数の生理学的に許容しうる溶媒の中からニフエジピンをよく溶解し且つ舌下より迅速に吸収される溶液形態であつて、しかもそれを充填する軟カプセル殻を溶解したりもろくしたりすることのない溶液形態を見つけ出すことであります。

ところが、上記の如くニフエジピンは生理学的に許容し得る通常の溶媒に対する溶解性の低い物質であるために、適当な溶媒の選択は極めて困難なことであります。例えば、医薬にしばしば使用されている水やグリセリンは、ニフエジピンをほとんど溶解せず、ニフエジピンの溶媒としては不適当であり、また、アルコール/水、例えばエタノール/水の一対一の混合溶液は、カプセル殻を溶解するので使用できません。同様に、ポリアルキレングリコールもまた、カプセル殻をもろくするので不適当であります。」(同八頁二行から末行まで)「ポリグリコール四〇〇は吸収及び効力発現効果は良好であるが、酸素圧が最大となる迄に時間がかかり、しかもカプセル殻をもろくするという欠点があつて使用できない。

これに対して、本願発明に従い、ポリグリコール四〇〇/水/グリセロール(例えば一八対一・五対一)の混合溶液を使用した場合には、ニフエジピンは迅速に吸収されて投与後一~三分で効力が現われ、酸素圧が最大になるのは僅か一五分後で、心臓の酸素圧は一五~四四mmHgも増加し、しかもカプセル殻を溶解したりもろくすることがなく、ニフエジピン製剤として非常に優れたものとなる。」(同一一頁七行から一二頁一行まで)との記載がある。

(2) 以上のとおり、意見書ではニフエジピンの溶媒として、カプセル殻を溶解するものは不適当であるとする。このことからすれば、これとは反対に、ニフエジピンの溶媒となる物質をカプセル殻から溶出せしめようとする思想は、少なくとも本件発明には存在しなかつたものと認められる。

(3) また前記のとおり意見書では、カプセル殻を溶解するため不適当な溶媒としてポリアルキレングリコールのみからなる溶媒を挙げる。従つて、このことからカプセル殻にニフエジピン、ポリアルキレングリコールを含有しグリセリンを含有しない液状組成物を充填することは、本件発明から意識的に除外されているものと認められる。

(三) 以上(一)、(二)によると、本件発明の構成要件(2)の「少なくとも下記の三成分を……含有する液状組成物を充填する」とは、字句どおり所定の液状組成物を充填する意味であると認められる。原告主張のように「少なくとも(a)ニフエジピン一重量部、(b)ポリアルキレングリコール六ないし五〇重量部、(c)グリセリン〇・五ないし五重量部を含有する液状組成物を含有せしめる」ことを意味するものとは認められない。また本件発明の構成要件(2)に、カプセル殻からの溶出により液状組成物中にグリセリンを含有せしめる方法をも含むとは認められない。

(四) 本件発明の構成要件(2)の意味は前記認定のとおりであるから、ニフエジピンカプセル剤の製剤工程中においてカプセル殻中のグリセリンが溶出して内溶液中に含有されることは、本件発明の構成要件(2)の充填にあたらない。

4 以上によれば、仮にカプセル殻中のグリセリンが製剤工程中に溶出してカプセル殻内に含有されるとしても、被告のニフエジピンカプセル剤の製造方法は本件発明の技術的範囲に属しない。四 よつて原告の本訴各請求は、その余の点について判断するまでもなく理由がないからこれを棄却する。

〔編註その一〕 本件特許発明の構成要件は左のとおりである。

(1) ゼラチンと、該ゼラチン中に均一に分散された、二五〇ないし四六〇ナノメートルの波長の光を吸収する食品用染料及び不透明化剤とから成るカプセル殻に、

(2) 少なくとも下記の三成分を下記の割合で含有する液状組成物、すなわち

イ 4―(<省略>―ニトロフエニル)―2・6―ジメチル―3・5―ジカルボメトキシ―1・4―ジヒドロピリジン(ニフエジピン) 一重量部、

ロ アルキレン部分に二または三個の炭素原子を有しかつ平均分子量が二〇〇ないし六〇〇のポリアルキレングリコール 六ないし五〇重量部、及び

ハ グリセリン 〇・五ないし五重量部

を含有する液状組成物を充填することを特徴とする

(3) 冠血管拡張作用をもつ瞬間口中放出性舌下カプセル剤の製造方法。

〔編註その二〕 本件に関する目録は左のとおりである。

(一) 左記(2)の組成のカプセル殻に、

(二) 左記(1)の組成の液状組成物を充填し、

(三) タンブラードライヤによつて約二四時間乾燥し(一次乾燥)、ついで常温低湿度で乾燥し、

(四) ニフエジピン一重量部、平均分子量四〇〇のポリエチレングリコール約三三重量部、グリセリン約一ないし約二・五重量部を含む液状組成物が充填されたカプセル剤とする

(五) 冠血管拡張作用をもつ瞬間口中放出性舌下カプセル剤を製造する方法。

<省略>

<省略>

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