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大阪地方裁判所 昭和59年(ワ)1872号 判決 1985年9月27日

原告

源内修

被告

金本こと金宏美

主文

一  原告の被告に対する別紙記載の交通事故に基づく損害賠償債務は、金一一四万二七二〇円及び内金一〇四万二七二〇円に対する昭和五八年八月二三日から支払済まで年五分の割合による金員を超えて存在しないことを確認する。

二  原告のその余の請求を棄却する。

三  訴訟費用はこれを五分し、その一を原告の負担とし、その余を被告の負担とする。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1  原告の被告に対する別紙記載の交通事故に基づく損害賠償債務は存在しないことを確認する。

2  訴訟費用は被告の負担とする。

二  請求の趣旨に対する答弁

1  原告の請求を棄却する。

2  訴訟費用は原告の負担とする。

第二当事者の主張

一  請求の原因

1  事故の発生

別紙記載のとおりの交通事故(以下「本件事故」という。)が発生した。

2  原告は、被告に対し既に七五万五〇〇〇円を支払つており、もはや本件事故に基づく損害賠償債務は存しないところ、被告法定代理人親権者父の金仙郎は、原告に対しさらに損害賠償を請求している。

3  よつて、請求の趣旨記載のとおりの判決を求める。

二  請求の原因に対する認否

1  請求の原因1は認める。

2  同2及び3は争う。

三  抗弁

1  責任原因(一般不法行為責任、民法七〇九条)

原告は、原告車を運転し、本件交差点に進入するに当り、前方を注視することを怠り、制限時速二〇キロメートルを超える時速三〇キロメートル(原告は、当初これを認めながら、後に時速一五キロメートルであつたと訂正するが、右は自白の撤回であつて、被告はこれに異議がある。)で走行した過失がある。

2  損害

(一) 受傷、治療経過等

(1) 受傷

口腔内挫創、外傷性歯牙脱臼、脱落、破折、動揺、下唇部裂傷

(2) 治療経過

昭和五八年八月二二日から昭和五九年三月二日まで(実日数一八日)及び同月一三日から同年六月二二日まで

樋口歯科診療所に通院

(3) 後遺症

歯牙欠損、発声、発音能力及びそしやく能力低下

(二) 治療関係費

(1) 治療費

ア 昭和五八年八月二二日から昭和五九年三月二日までの分 一二万四一〇〇円

イ 昭和五九年三月一三日から同年六月二二日までの分 一万二〇〇〇円

ウ 将来の義歯代及び処置料 一七〇万円

(2) 通院付添費

通院中被告の父が付添い、一日二五〇〇円の割合による二四日分の六万円

(三) 慰藉料

(1) 本人

通院分 八六万四〇〇〇円

後遺症分 一〇〇万円

(2) 両親 二〇〇万円

(四) 弁護士費用 二五万円

4  よつて、前記損害額合計六〇一万〇一〇〇円から既払額七五万五〇〇〇円を控除すると、被告の残損害額は、損害賠償金五二五万五一〇〇円及び内弁護士費用を除く金五〇〇万五一〇〇円に対する本件不法行為の日の後の日である昭和五八年八月二三日から支払済まで民法所定の年五分の割合による遅延損害金となる。

四  抗弁に対する認否

1  抗弁1は、原告車の速度の点を除き認める。原告車の速度は時速一五キロメートルであり、原告が、当初、原告車の速度を時速三〇キロメートルと主張したのは錯誤に基づくものである。

2  同2は(一)(1)及び(2)の内昭和五九年三月二日までの通院状況は認める。

(二)(1)アは認める。その余はいずれも争う。

慰藉料については通院分二〇万円、後遺症分六〇万円が相当である。

五  再抗弁

(過失相殺)

本件事故の発生については原告にも折からのにわか雨を避けるため帰宅を急ぎ、左右を確認することなく、全力で本件交差点を通過しようとした過失があるから、損害賠償額の算定にあたり過失相殺されるべきである。

六  再抗弁に対する認否

再抗弁は争う。本件事故当時七歳であつた被告に過失を認めるのは酷である。

第三証拠

本件訴訟記録中の書証目録及び証人等目録記載のとおりであるから、これを引用する。

理由

一  事故の発生

請求原因1の事実は、当事者間に争いがない(事故の態様の詳細については後記四で認定のとおりである。)。

二  責任原因

抗弁1の事実は、原告車の速度の点を除き当事者間に争いがない。従つて、被告は民法七〇九条により、原告が本件事故によつて被つた損害を賠償する責任がある。

三  損害

1  受傷、治療経過

被告が、本件事故により、抗弁2(一)(1)のとおりの傷害を負つたこと及び昭和五八年八月二二日から昭和五九年三月二日まで樋口歯科診療所に通院(実日数一八日)したことは、当事者間に争いがない。

成立に争いのない乙第五号証の一一ないし一六によれば、被告は、さらに昭和五九年三月一三日から同年六月二二日まで(実日数六日)同診療所に通院して治療を受けていることが認められる。

2  後遺症

いずれも成立に争いのない甲第三号証、乙第二号証及び第三号証、弁論の全趣旨により真正に成立したと認められる甲第一一号証の一、二、被告主張のとおりの写真であることに争いのない検乙第九号証及び第一〇号証によれば、被告は、前記のとおり歯牙喪失したが、前記通院中の昭和五九年三月二日ころには、本件事故当時七歳であつたため、他の永久歯の萠出後右喪失した永久歯三歯の補てつが必要となつたとの歯科医師の判断がされるようになり、自賠責保険手続上、自賠法施行令二条別表等級一四級二号に該当するとの事前認定がなされたことが認められ、右認定を左右する証拠はない。

従つて、被告は、昭和五九年三月二日ころ、一応後遺症状が固定したものと認められる。

3  治療関係費

(一)  後遺症状固定までの治療費

被告が、昭和五八年八月二二日から前記後遺症状の一応固定した昭和五九年三月二日までの治療費として一二万四一〇〇円を要したことは当事者間に争いがない。

右後遺症状の固定後の治療費については、左記のとおり、義歯装着のため必要な限度で認められ、その他は本件事故と相当因果関係がないものと認める。

(二)  義歯装着処置料

前掲乙第二号証及び第三号証、証人飯塚峻作の証言並びに弁論の全趣旨によれば、次の事実が認められ、右認定を左右するに足りる証拠はない。

被告は、永久歯三歯が欠損喪失したが、これについては被告が一七、八歳になり歯根端の完成した段階で義歯を装着することができるようになり、そのためにはその間の約一〇年間歯間を保つ等の治療が必要であり、その費用としては少なくとも五〇万円(すなわち平均一年間五万円となる。)を要し、また、一〇年後に装着する義歯としてはメタルボンド・ポーセレンブリツジ方式によることが、プラスチツク使用の場合よりも審美性のみならず耐久性にすぐれているので、一回で済み、妥当であり、その費用は少なくとも七〇万円となる。従つて、被告の要する義歯装着のための費用につき年別のホフマン方式により年五分の中間利息を控除してその現価を算定すれば、左記算式のとおり合計八六万三八六五円となる。

(算式)

五万×七・九四四九=二九万七二四五

七〇万×〇・六六六六=四六万六六二〇

(三)  通院付添費

前記認定の被告の年齢、受傷の内容及び程度並びに証人徐正美の証言、弁論の全趣旨及び経験則によれば、被告は、前記一八日間の通院につき父または母の付添を要し、その費用は一日当り一五〇〇円の合計二万七〇〇〇円であると認められる。右認容額を超える部分は本件事故と相当因果関係がないものと認める。

4  慰藉料

本件事故の態様、被告の傷害の部位、程度、治療の経過、後遺障害の内容程度(前記のとおり将来の義歯装着費用も損害として認めている。)、年齢その他諸般の事情を考えあわせると、被告の慰藉料額は一一〇万円とするのが相当であると認められるが、右諸事情を考えあわせると、本件において、本人の慰藉料と別個に両親固有の慰藉料を認めることはできない。

四  過失相殺

1  いずれも成立に争いのない甲第七号証ないし第九号証、被告主張のとおりの写真であることに争いのない検乙第一号証ないし第八号証、証人徐正美の証言並びに弁論の全趣旨によれば、次の事実が認められ、右認定を左右するに足りる証拠はない。

本件交差点は、東西に通じる道路(本件交差点東側の幅員約六・〇メートル、西側の幅員約五・七メートル、以下「甲道路」という。)と南北に通じる道路(本件交差点の南側の幅員約五・〇メートル、北側の幅員約六・〇メートル、以下「乙道路」という。)とが交差するアスフアルト舗装の道路であり、信号機は設置されていない。本件交差点の周囲は建物が密集しており、乙道路を北進してくる車両運転者にとつて右側(東側)の、また、甲道路を西進してくる車両運転者にとつて左側(南側)の見直しは不良である。本件事故当時、原告は、原告車を運転し、乙道路上を時速約二〇キロメートルで北進走行してきて、本件交差点手前に至り、時速約一五キロメートルに減速したものの、前方交差点に車両等がなかつたので、そのまま本件交差点内に進入したところ、右前方約一・五メートルの地点に西進してきた被告自転車を発見し、急制動の措置を講じたが、及ばず衝突し、約二二・二メートル前進して、原告車右側部を被告自転車前部に衝突させ、さらに約一・四メートル進行して停止した。他方、被告は、被告自転車に乗車し、帰宅のため甲道路上を西進走行してきて、雨が降つていたので早く家に帰ろうとして時速約一〇キロメートルまで速度をあげ、前方交差点内に車両がなかつたので、そのまま本件交差点内に進入したところ、前記のとおり原告車と衝突したものである。

なお、原告は、当初、原告車の速度を時速三〇キロメートルと主張しており、後にこれを撤回したが、前記のとおり、前掲甲第八号証によれば、真実は時速一五キロメートルであつたのであるから、右自白は真実に合致せず、かつ、それが錯誤に出たものと認められ、右自白の撤回は有効である。

2  右認定によれば、原告は、原告車を運転して見通しの悪い本件交差点に進入するに当り、一時停止もしくは最徐行のうえ、右方を注視して進行すべき注意義務があるのにこれを怠り、時速一五キロメートルに減速したのみで、右方を注視せず、漫然本件交差点に進入した過失があり、他方、被告は、被告自転車に乗車して、本件交差点に進入するに当り、左方を注視しないまま、漫然時速約一〇キロメートルで、本件交差点に進入した過失があると認められる。

3  右認定の原告及び被告の各過失の態様、車種の相異、被告の年齢等諸般の事情を考慮すると、過失相殺として、被告の損害の一割五分を減ずるのが相当と認められる。

従つて、前記損害額二一一万四九六五円から一割五分を減じて被告の損害額を算出すると、一七九万七七二〇円となる。

五  損害の填補

被告が、損害の填補として七五万五〇〇〇円の支払を受けたことは、当事者間に争いがない。

従つて、被告の前記損害額から右填補分を差引くと、残損害額は一〇四万二七二〇円となる。

六  弁護士費用

本件事案の内容、審理経過、認容額等に照すと、被告が原告に対して本件事故による損害として賠償を求め得る弁護士費用の額は一〇万円とするのが相当であると認められる。

七  結論

よつて、原告の本訴請求は、原告の被告に対する本件事故に基づく損害賠償債務が、金一一四万二七二〇円及び内弁護士費用を除く金一〇四万二七二〇円に対する本件不法行為の日の後の日である昭和五八年八月二三日から支払済まで民法所定の年五分の割合による遅延損害金を超えて存在しないことの確認を求める限度で正当であるからこれを認容し、その余の請求は理由がないから棄却することとし、訴訟費用の負担につき民訴法八九条、九二条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 長谷川誠)

日時 昭和五八年八月二二日午後一時三〇分頃

場所 大阪市住之江区柴谷二丁目四番三七号先交差点(以下「本件交差点」という。)

加害車 普通貨物自動車(大阪四六は三〇五〇号、以下「原告車」という。)

右運転者 原告

被害者 被告

態様 北進してきた原告車右側面と西進してきた被告運転の足踏自転車(以下「被告自転車」という。)前輪が衝突したもの

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