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大阪地方裁判所 昭和59年(ワ)2871号 判決 1985年11月21日

原告

近畿交通共済協同組合

右代表者代表理事

柏原庸

右訴訟代理人弁護士

中井康之

川村俊雄

木村保男

的場悠紀

大槻守

松森彬

福田健次

被告

中筋建設株式会社

右代表者代表取締役

中筋政和

右訴訟代理人弁護士

臼田和雄

木村五郎

被告

右代表者法務大臣

嶋崎均

右訴訟代理人弁護士

井野口有市

右指定代理人

笠原嘉人

外四名

主文

一  被告らは、原告に対し、各自四五万九〇三三円及び被告中筋建設株式会社はこれに対する昭和五九年五月一〇日から、被告国はこれに対する昭和五九年五月一一日から支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。

二  原告のその余の請求を棄却する。

三  訴訟費用は、これを一〇分し、その九を原告の、その余を被告らの負担とする。

事実

第一  当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1  被告らは、原告に対し、各自六四三万二〇四〇円及びこれに対する昭和五九年二月二五日から支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。

2  訴訟費用は被告らの負担とする。

3  仮執行宣言。

二  請求の趣旨に対する答弁(被告ら)

1  原告の請求を棄却する。

2  訴訟費用は原告の負担とする。

3  仮執行免脱宣言(被告国のみ)。

第二  当事者の主張

一  請求原因

1  当事者

(一) 原告は、組合員である貨物自動車運送業者が自動車の所有又は使用に起因して他人に損害を与えた場合に組合員の被る損害を共済金の支払いによつて填補すること等の事業を行うことを目的として、中小企業等協同組合法に基づいて設立された協同組合である。

(二) 被告国は、後記事故の発生した大阪府富田林市大字新堂二二一二番地先の国道三〇九号線を設置し管理するものであり、昭和五四年一二月二二日当時、被告中筋建設株式会社に請け負わせて、右道路の東行車線北側に、事故現場の前後約四〇〇メートルにわたつて歩道を新設する工事(以下「本件工事」という。)を実施していた。

(三) 被告中筋建設株式会社(以下「被告中筋建設」という。)は、後記事故発生時に、被告国の注文を受けて右道路につき本件工事を施行していた建設業者である。

2  本件事故の発生と結果

(一) 日時 昭和五四年一二月二二日午後二時二〇分ころ

(二) 場所 大阪府富田林市大字新堂二二一二番地先の国道三〇九号線道路上(以下「本件事故現場」という。)

(三) 加害車 普通貨物自動車(大阪一一く六三〇六号。以下「加害車」という。)

右運転者 曹一文(以下「曹」という。)

右所有者 三愛運輸商事株式会社(以下「三愛運輸」という。)

(四) 被害者 川島功(昭和四六年一二月三日生。以下「功」という。)

(五) 事故の態様及び結果 功は、子供用自転車に乗り、本件事故現場の東側から右道路北側部分の幅約二メートルの路側帯上を西進してきたが、右事故現場の手前から、本件工事のため北側路側帯が掘り起こされて通行できない状態となつていたため、やむなく東行車道に入つてそのまま走行を続けていたところ、折から右道路を西側から東進してきた加害車と本件事故現場においてすれ違つた際、自転車の平衡を失つてその場に転倒したため、頭部を加害車の左後輪に轢圧されて死亡するにいたつた(以下「本件事故」という。)

3  曹と三愛運輸との責任原因

(一) 曹の責任原因(不法行為)

本件加害車はいわゆる大型トラックであるが、このようなトラックを運転して、道路の北側部分において本件工事が実施されているため歩道・路側帯・路肩がなく、しかも工事部分と車道との境目に安全柵が設置されて車線の幅員が狭くなつていた(三・三メートル)右道路上を東進してきた曹としては、右安全柵に沿つて進路前方から東行車線北端を子供用自転車に乗つて西進してきた功を発見した場合、たとえ安全柵と加害車との間に自転車が加害車と接触せずに通ることができるだけの幅があつても、その幅がきわめて狭く、しかも自転車を運転しているのが子供であるところから、大型トラックとの離合に際し、大型トラックによる風圧や安全柵と車との間に挾まれた状態で大型トラックとすれ違うことによる恐怖心等からバランスを崩して転倒し、子供が車線側に倒れてくることもありうることを容易に予測できたはずであり、したがつて、離合に際しては、速度を落として徐行することにより右のような風圧や恐怖心を生じないようにし、もつて事故の発生を未然に防止すべき注意義務があつたのに、これを怠り、時速四〇キロメートルの速度でそのまま進行して功の乗つた自転車と離合しようとした過失により本件事故を発生させたものである。

(二) 三愛運輸の責任原因(運行供用者責任)

三愛運輸は、本件事故当時加害車を所有し、自己のために運行の用に供していた。

4  被告らの責任原因

(一) 被告国の責任原因(国家賠償法二条一項)

本件事故現場付近の道路には、次のとおり通常有すべき安全性が欠けていたものであるから、その設置管理に瑕疵があつたというべきである。

(1) 本件工事の実施に伴い、右道路の東行車線は、路側帯・路肩部分を掘り起こされたため、その幅員が三・三メートル程度に狭められた上、路側帯も路肩もなくなるという、自転車や歩行者(以下「自転車等」という。)が同車線を西進するには極めて危険な状態となつていたのであるから、対向してくる自動車や自動二輪車等の通行する部分と安全柵などで明確に区別され、かつ自転車等が通行できる程度の幅員をもつた仮歩道を東行車線北側に設置しておくのでなければ、工事区域よりも更に東の方から路側帯上を西進してくる自転車等がその部分を安全に通過することができない状況にあつたというべきである。

なお、右のごとき仮歩道を設置するのでなければ通行の安全を確保することができない状況にあつたことは、次の事実からも明らかである。すなわち、被告国(富田林市土木事務所)は、道路交通法八〇条一項に基づき本件工事を実施するについて所轄警察署長に協議したが、その結果、①片側施工時に一・五メートル以上の仮歩道を設置すること、②工事現場の両端に保安要員を配置すること等の施工条件を遵守し実施する旨の合意が成立し、その旨を記載した道路工事等回答書が所轄警察署長から右土木事務所長に交付されていた、という事実である。

しかるに、本件事故現場付近の東行車線北側には、そのような仮歩道は設けられていなかつたのであるから、右道路には通常有すべき安全性が欠けていたといわなければならない。

(2) 仮に、東行車線北側に仮歩道を設置することができない事情があるのであれば、西行車線の南側部分に前記(1)と同様の仮歩道を設置するとともに、東行車線北側の路側帯を工事現場の東方から西進してくる自転車等をその仮歩道に誘導するため、本件事故現場の東方約一二〇メートルの地点にある横断歩道付近に、自転車等は西行車線南側の路側帯を西進して右仮歩道を通行するよう指示する看板等を設け、更に、右看板等が見過ごされる場合に備えて、工事現場の東端に、右仮歩道を西進するよう指示する看板等を設置するか、または、右工事現場東端に保安要員を配置して自転車等を南側仮歩道に誘導させるかするのでなければ、前同様通行の安全は保てない状況にあつたというべきである。

しかるに、右のような仮歩道、看板等は全く設置されていなかつたのであるから、本件道路の設置管理に瑕疵があつたことは明らかであり、その結果本件事故の発生をみるにいたつたものであるから、被告国には、国家賠償法二条一項に基づき、右事故により生じた後記損害を賠償すべき義務がある。

(二) 被告中筋建設の責任原因(不法行為又は使用者責任)

(1) 被告中筋建設は本件工事を請け負つてこれを施行したものであり、本件事故現場付近が自転車等の通行に危険な状況にあつたことは前記のとおりであるから、同被告(又はその被用者)としては、本件工事に際し、前記(一)(1)(2)のごとき仮歩道を設置したうえ工事を実施し、もつて本件道路東行車線を通行する自転車等の交通の安全を確保し事故の発生を未然に防止すべき注意義務を負つていた。

(2) しかるに、被告中筋建設(又はその被用者)が右注意義務を怠つて仮歩道を設置しなかつたため、本件事故の発生をみるにいたつたものであるから、被告中筋建設にも、民法七〇九条又は同法七一五条により、右事故によつて生じた後記損害を賠償すべき義務がある。

(三) 共同不法行為

以上のとおり、本件事故は、三愛運輸及び曹と被告国及び同中筋建設が各自の不法行為によつて惹起させたものであり、右行為は客観的に関連共同しているから、共同不法行為が成立し、被害者に対しては各自が連帯して全損害を賠償する義務を負うとともに、共同不法行為者のうち右賠償義務を履行した者は、各自の過失又は瑕疵が損害の発生に寄与した割合にしたがつて定められるべき負担部分につき他の共同不法行為者に求償権を行使することができるものというべきである。

5  本件事故による損害

(一) 功の損害

(1)① 逸失利益 一五八九万〇一八〇円

功は、本件事故当時八歳の男子であり、本件事故がなければ、一八歳から四九年間は就労可能でその間少なくとも昭和五七年賃金センサス第一巻第一表産業計企業規模計学歴計男子労働者一八歳ないし一九歳の平均年収額一六五万八七〇〇円に相当する収入を得ることができたはずであり、また、同人の生活費は収入の五割と考えられるから、年別ホフマン式計算法により年五分の割合による中間利息を控除して功の死亡による逸失利益の死亡時の現価を算定すると(円未満四捨五入する。以下同じ。)、一五八九万〇一八〇円となる。

(算式)

一六五万八七〇〇円×〇・五×一九・一五九八=一五八九万〇一八〇円

② 慰藉料 六〇〇万円

本件事故により生命を奪われるにいたつた功の精神的苦痛を慰藉するに足る慰藉料の額としては、六〇〇万円が相当である。

(2) 功の両親による権利の承継

川島紘は功の父であり、川島博子は功の母であつて(以下右両名を「川島ら」という。)、他に相続人は存在しないから、川島らは、法定相続分に従い、功の右損害賠償債権(合計二一八九万〇一八〇円)を相続により承継した(各一〇九四万五〇九〇円宛)。

(二) 川島らの固有の損害

(1) 治療費 各六万〇三四五円

川島らは、本件事故による功の治療費として各六万〇三四五円を支出した。

(2) 葬祭費 各二〇万円

川島らは、功の葬儀を執り行い相応の葬祭費の支出を余儀なくされたが、功の年齢、境遇、家族構成等諸般の事情に照らすと、本件事故と相当因果関係に立つ葬祭費の額は、右両名それぞれについて二〇万円とするのが相当である。

(3) 慰藉料 各三〇〇万円

功の死亡によつてその両親である川島らの受けた精神的苦痛を慰藉するに足る慰藉料の額としては、各三〇〇万円が相当である。

(4) 弁護士費用 各三〇万円

川島らは、曹及び三愛運輸らに対し本件事故に基づく損害の賠償を求める訴訟(大阪地方裁判所昭和五五年(ワ)第八七五五号、以下「前訴」という。)の提起及び追行を弁護士に委任し、各自が同じ割合で弁護士費用を支払うことを約したが、その弁護士費用のうち本件事件と相当因果関係のあるのは、各三〇万円の範囲の額である。

以上の(一)、(二)の損害額を合計すると、川島ら各自につき一四五〇万五四三五円となる。

各共同不法行為者の負担部分

本件事故の態様及び各共同不法行為者の過失又は瑕疵の内容は前記のとおりであつて、それによれば、本件事故の発生に寄与した各行為者の過失又は瑕疵の割合は、三愛運輸(曹)と被告国との関係では五割対五割、三愛運輸(曹)と被告中筋建設との関係でも五割対五割とみるべきである。そうすると、本件各共同不法行為者間の求償における各自の負担部分は、三愛運輸(曹)と被告国との関係ではそれぞれ五割ずつ、すなわち本件事故によつて生じた全損害の二分の一に当たる一四五〇万五四三五円(及びこれに対する遅延損害金)ずつであり、三愛運輸(曹)と被告中筋建設との関係においても同様であるといわなければならない。

三愛運輸による損害の填補と求償権の取得

(一) 自動車損害賠償責任保険による川島らへの保険金の支払 一八五八万五二九〇円

三愛運輸は、加害車について、興亜火災海上保険株式会社(以下「興亜火災」という。)との間で、自動車損害賠償責任保険契約を締結していたところ、興亜火災は、右自賠責保険契約に基づき、本件事故による三愛運輸の損害賠償債務の履行として、川島らに対し一八五八万五二九〇円の保険金を支払つた。

(二) 三愛運輸による川島らへの支払 七九七万二〇四〇円

三愛運輸は、昭和五九年二月二四日川島らに対し、本件損害金のうち六七〇万五〇三六円及び内金六一〇万五〇三六円に対する昭和五四年一二月二二日から昭和五九年二月一四日までの年五分の割合による遅延損害金一二六万七〇〇四円(合計七九七万二〇四〇円)を賠償した。

(三) 求償権の取得

右(一)の保険金の支払により本件共同不法行為者間における損害の負担部分のうち三愛運輸の部分は完全に填補されるにいたつたものであるから、同(二)の三愛運輸の支払はその負担部分を超えるものというべきであり、したがつて、三愛運輸は、その全額について他の共同不法行為者である被告らに対し求償権を行使することができることとなつた。

6  保険代位による求償権の取得

(一) 原告は、三愛運輸との間において、本件加害車につき、その運行に起因して他人の生命又は身体を害することにより三愛運輸が損害賠償義務を負担することによつて被る損害を、自賠責保険金等によつて支払われる金額を超える限度で原告が共済金を支払つて填補し、これに対し三愛運輸が共済掛金を支払う旨の自動車共済契約(以下「本件契約」という。)を締結していた。

(二) 本件事故の発生により、原告は三愛運輸に対し本件契約に基づく共済金の支払をなすべきこととなつたところ、原告は、昭和五九年二月一〇日三愛運輸に対し、七九七万二〇四〇円を預託するとともに、将来三愛運輸が右預託金をもつて川島らに対し本件損害を賠償したときは、三愛運輸の原告に対する本件契約に基づく共済金請求権と原告の三愛運輸に対する右預託金返還請求権とを対当額で相殺する旨の条件付相殺契約を締結した。

(三) しかして、三愛運輸が昭和五九年二月二四日川島らに対し本件損害金として七九七万二〇四〇円を支払つたことは前記のとおりであるから、同日右相殺契約は効力を生じたものというべきところ、本件契約が損害保険契約としての性質を有するものであることはその契約内容から明らかであり、かつ、右相殺契約が効力を生じたことは共済金(保険金)を支払つたのと同様の効果を生ぜしめるものであるから、原告は、商法六六二条一項により、被保険者である三愛運輸が被告らに対して有する前記求償権を取得するにいたつたものといわなければならない。

よつて、原告は被告らに対し、それぞれ、三愛運輸が被告らに対して有する本件求償権七九七万二〇四〇円のうち、その後興亜火災から支払を受けた一五四万円を控除した六四三万二〇四〇円及びこれに対する前記相殺契約が効力を生じた日の翌日である昭和五九年二月二五日から支払ずみまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。

二  請求原因に対する被告中筋建設の認否

1  請求原因1(一)の事実は知らない。同1(二)(三)の事実は認める。

2  請求原因2(一)ないし(四)の事実は認める。同(五)の事実のうち、功の自転車が平衡を失つて転倒したとの点は否認する。また、轢圧が左後輪によるものであることは知らない。その余の事実は認める。

3  請求原因4(二)の事実中、被告中筋建設が原告主張のような仮歩道等を設置しなかつたことは認めるが、同被告はそのような仮歩道等を設置すべき注意義務を負つてはいなかつたものである。すなわち、本件道路はもつぱら被告国が管理責任を負つていたもので、被告中筋建設としては、道路管理者である被告国の指示に従い、単にその補助者として右道路につき歩道新設工事等の事実行為を行つたにすぎず、原告主張の仮歩道の設置も、右工事の一環として、道路管理者である被告国の責任に属すべき事柄であつて、被告中筋建設がこのような義務を負うべき筋合のものではない。したがつて、被告中筋建設が本件事故の共同不法行為者となることもありえない。

なお、本件事故が発生したのは工事のため道路幅が狭くなつた場所においてであつて、そこを通過する車両や自転車等は、対向する車両や自転車等の動静に十分注意して適宜減速、停止等の措置をとり、安全に通行する義務があつたというべきであるから、右事故はもつぱら加害者曹及び被害者功の過失によつて生じたものといわなければならない。

4  請求原因5の事実は知らない(但し、(二)(4)の前訴提起の点は認める。)。

5  同6のうち被告中筋建設の負担部分の点は否認する。

6  同7の事実のうち(一)は認めるが、その余は知らない。

なお、被告中筋建設は、川島らとの間の裁判上の和解により、本件事故に基づく損害金として二〇〇万円を右川島らに支払つた。

7  同8の事実は知らない。

三  請求原因に対する被告国の認否

1  請求原因1(一)及び(二)の事実はいずれも認める。

2  同2の事実は認める。

3  同4(一)の(1)及び(2)の事実中、本件事故現場付近の道路の東行車線及び西行車線のいずれにも仮歩道が設置されなかつたことは認める。

しかし、本件道路の管理については何らの瑕疵も存在しなかつたものである。すなわち、本件事故現場付近の東行車線の幅員は、事故当時三・五メートルであり、一般国道として要求される幅員(道路構造令第三条、第五条四号によれば、三・二五メートルである。)を備えていたものであるから、自転車等の通行にとつて何ら危険な道路ではなかつたのであり(このことは、仮に右幅員が原告主張のように三・三メートルであつたとしても同様である)、仮歩道を設けるのでなければ自転車等の通行の安全を確保することができないような状態ではなかつた。

もつとも、本件工事の施行に関して原告主張のような施工条件が付され、その主張のごとき回答書が所轄警察署長から所轄土木事務所長に交付されたことは争わないけれども、本件道路は、自転車等の通行の極めて少ない道路であつて、幅一・五メートル以上の仮歩道を設置すれば道路の幅員が著しく減少し、かえつて自動車の通行にとつて危険な状態を招くことになるので、あえて仮歩道を設置しないこととしたものである。したがつて、右処置により前記施工条件を形式的には充足しないことになるとしても、そのために通行等の安全が高められることは明らかであるから、その点をとらえて道路管理の瑕疵ということはできないはずである。そのことは、仮歩道を設置しないまま本件工事が続行されていたことにつき所轄警察署長から全く警告が発せられなかつたことからも窺うことができる。

4  請求原因5の事実は知らない(但し、(二)(4)の前訴提起の点は認める。)。

5  同6のうち被告国の負担部分は否認する。

6  同7の事実は知らない。なお、被告国は、本件事故につき川島らに三〇万円を支払つたことがあるが、これは、本件道路の管理の瑕疵を認めたためにしたものではない。

7  同8の事実は知らない。

第三  証拠<省略>

理由

一請求原因1の事実(当事者)について

1  同1(一)の事実については、原告と被告国との間では争いがなく、原告と被告中筋建設との間では、<証拠>によつて、これを認めることができる。

2  同1(二)(三)の各事実については、当事者間に争いがない。

二請求原因2の事実(本件事故の発生と結果)については、原告と被告国との間では争いがなく、原告と被告中筋建設との間では、同2(五)の事実中功が自転車の平衡を失つて転倒したとの点及び轢圧が左後輪によるとの点を除いて争いがない。<証拠>によれば、功が自転車の平衡を失つて転倒し、加害車の左後輪によつて轢圧されたことが認められる。

三請求原因3(一)及び(二)の事実(曹と三愛運輸との責任原因)は、被告らにおいてこれを明らかに争わないのでこれを自白したものとみなされるところ、右事実関係によれば、曹は原告主張のような過失によつて本件事故を発生させたものであり、三愛運輸は本件加害車の運行供用者として右事故によつて生じた損害を賠償すべき責任を負うものというべきである。

四被告らの責任について

1  前提となる事実関係

<証拠>によれば、次の事実が認められ、この認定を左右するに足りる証拠はない。

(一)  本件事故現場は、大阪府富田林市内をほぼ東西に通じる国道三〇九号線の新堂東交差点より約五〇〇メートル西側の道路上であり、現場付近の本件道路は、西側が北向きにカーブしているほかはほぼ直線状のアスファルト舗装道路であり、長さ約一七センチメートル、高さ約五センチメートルの金属性チャッターバーの設置された黄線の実線のセンターラインによつて北側東行車線と南側西行車線とに分けられている。本件事故当時、現場付近の本件道路における車両の最高速度は、時速四〇キロメートルに規制されていたところ、右付近での交通状況は、大型車両をはじめ車両の通行量が比較的多く(本件事故発生日の午後に実況見分がされた際には、一〇分間に四〇台の車両が通行した。)、特に年末年始にかけてはそれが更に増加する傾向にあつたが、自転車や歩行者の通行量はそれほど多くはなかつた。

(二)  被告国は、事故現場付近の本件道路の東行車線北側に歩道を新設する工事を計画し、昭和五四年一一月二二日本件道路の管理を管轄する大阪府富田林土木事務所(以下「土木事務所」という。)において、道路交通法八〇条一項に基づく道路工事等の協議を求める書面を所轄の富田林警察署長に提出するとともに、両者の協議を経て合意に達したので、同月三〇日、富田林警察署長より土木事務所長に対し、右合意内容を施工条件として記載した道路工事等回答書を交付した。

右回答書に記載された施工条件のうち主なものは、①工事現場の側方に、片側施工時には車道として六・〇メートル以上、反対側に仮歩道として一・五メートル以上、施工反対側完成時には車道として六・〇メートル以上、完成歩道全幅の各有効幅を一般交通のために確保したうえ工事を行うこと、②一工区の施工延長は、土砂、資材、機具等の置場を含めて七〇メートル以内とすること、③二工区以上を同時に施工する場合は、それぞれの工区の間に一〇〇メートル以上の距離を設けること等であつた。

(三)  同月三〇日、本件工事の入札が行われ、被告中筋建設がこれを落札し、翌一二月一日、土木事務所との間で本件工事に関する請負契約を締結した。その際、被告中筋建設は、土木事務所から前記施工条件を示されたが、前記施工条件①の仮歩道の設置に関して特に話し合いや指示がなされたようなことはなかつた。

(四)  被告中筋建設は、その後本件工事に着手し、本件事故当時、東行車線北側において東西約三八〇メートルにわたつて工事を進めていたところ、本件事故現場付近では、北側端より約一・二ないし二・四メートルの幅で舗装された路面が掘り起こされ、その部分と車道部分との境の車道上に、ほぼ全域にわたつて幅約〇・五メートル、長さ約一・二五メートル、高さ約〇・八メートルの安全柵が約一〇センチメートル前後の出入りはあつたもののほぼ一直線状に並べられ、人や車両はその安全柵の南側のみを通行することができる状態であつた。そして、右通行可能な東行車線の部分の幅員(中央線中心部から安全柵の南端までの距離)は約三・三ないし三・六メートルであり、本件事故現場付近では約三・三メートルであつた。

(五)  本件道路の西行車線の南側には、白線の道路標示によつて区画された路側帯が存在していたが、本件事故現場付近では、中央線中心部から右路側帯までの幅員は約五・一ないし五・四五メートル、白線の中心からアスファルト舗装部分南端までの距離は約三〇センチメートルであり、その南端から更に南側にあるガードレールまでの間には、幅員約一〇ないし一五センチメートルの未舗装部分が存在していた。

(六)  本件道路の東行車線にも、工事によつて掘り起こされた部分を除いて、西行車線南側とほぼ同様の路側帯を区画する白線の道路標示が存在していたところ、前後三八〇メートルにわたる工事現場の東端及び西端から更に東側及び西側へ約一〇〇メートル離れた地点には、それぞれ一〇〇メートル先が工事中であることを示す看板、工事現場の東端及び西端には工事中である旨を示す看板、工事許可条件を示す看板、さらに工区の途中二か所には工事中につき徐行すべき旨を指示する看板がそれぞれ設置されていたが、東行車線北側を通行する自転車等に対し、西行車線南側の路側帯を通行するよう指示する看板は設置されていなかつた。また、保安要員も、本件工事現場に二名配置されていたが、本件事故当時、自転車等に対し、西行車線南側の路側帯を通行するように誘導するようなことはなかつた。

(七)  なお、本件事故の発生にいたるまで、結局仮歩道が設置されないままであつたことは当事者間に争いのないところである。

2  被告国の責任

以上1の事実関係によれば、所轄警察署長より幅員一・五メートル以上の仮歩道を設置すべしとする施工条件を提示されながら、結局その仮歩道は本件事故にいたるまで設置されなかつたものといわなければならないので、次に、右のように施工条件に反して本件事故現場付近に仮歩道を設置しなかつたことが、被告国の管理する本件道路が通常有すべき安全性を欠いていること、すなわち右道路の設置又は管理の瑕疵に当たるものといえるかどうかにつき検討することとする。

右のごとき施工条件は、道路工事に際して、交通安全という見地から可及的に危険発生を回避するために道路管理者に対して示される行政上の指針ともいうべき性質を有するものであるから、道路管理者が、単に形式的にこれに違反したという一事をもつて直ちに道路の設置又は管理の瑕疵にあたるものとすることはできないものの、それが、当該道路の具体的状況に基づいて危険の発生を予測した上で、これを回避するのに適切な措置として指示されるものであるときは、これに違反すれば、それだけ危険の発生の虞が大になることは見易い道理であり、その点から、一般的には、右道路は通常有すべき安全性を欠くに至るものといわざるをえないし、さらにその上、当該道路の構造、場所的条件、利用状況、事故の態様等に照らして、仮歩道を設置しなかつたことが、本件道路を自転車等で通行する者が事故に遭う具体的な危険を発生させたものと認められるのであれば、道路の設置又は管理の瑕疵があることは明らかといわなければならない。

以上のような前提に立つて本件の事実関係を検討するに、本件事故現場付近の東行車線における車両等が通行することのできる部分の幅員が約三・三メートル以上あり、西行車線も舗装部分だけで約五・五メートル、本件道路全体では約九メートルの通行可能な部分があつたこと、自転車等の通行量が比較的少なかつたことはいずれも前記認定のとおりであつて、これらの点から考えると、施工条件どおりの仮歩道を設置しなかつたからといつて、必ずしも自転車等で通行する者が事故に遭う危険が増大するものとはいえず、本件道路が通常有すべき安全性を欠くに至るものとはいえないかのごとくみえないわけではない。

しかしながら、前記認定のとおり、本件道路においては、大型車も含めて車両の通行が比較的多いこと(<証拠>によれば、本件加害車の幅は二・三六メートルである)、本件道路の東行線北側には、工事によつて掘り起こされた部分を除いて路側帯が存在していることから、この路側帯上を走行してきた自転車等が本件工事現場に至つても引き続き東行車線を通行することが十分予測されたこと、更に、本件工事では工区を七〇メートル以内に制限すべしとする施工条件が定められていたにもかかわらず、本件事故当時約三八〇メートルにわたつて工事中であり、その部分に安全柵を設置していたため、右区間全体にわたり東行車線の通行可能部分が狭められ、自転車等の退避場所もなくなつていたこと、本件事故が自転車とトラックとがすれちがう際発生したことなどの諸事実を併せ考えると、本件事故現場付近の東行車線北側は、自転車等が通行する際、対向する車両の走行方法いかんによつては、車両が自転車等に接触するなどの事故が生じてもおかしくない道路状況になつていたものといわざるをえない。更に、西行車線は幅員約五・五メートルで、一・五メートル程度の仮歩道を設ける余地は十分あつたものであり、本件道路管理者たる被告国が、東行車線北側で本件工事を実施する際、その西行車線南側に仮歩道を設置させることは十分可能であり、しかも、これを設置して適切な誘導措置を講じておれば、本件のごとき事故の発生を避け得たものというべきであるから、右仮歩道を設置しなかつたことによつて、本件道路東行車線を自転車等で通行するものにおいて事故に遭う具体的な危険が生ずるに至つたものといわなければならず、したがつて、本件道路は、工事中の道路として通常有すべき安全性を欠いた状態にあつたもの、すなわち、被告国の管理にかかる本件道路の管理に瑕疵があつたということになり、被告国は、国家賠償法二条一項により、右瑕疵があつたために発生した本件事故に基づく損害につき、賠償責任を負うものといわざるをえない。

3  被告中筋建設の責任

被告中筋建設が土木事務所から本件施工条件を示され、これを十分認識した上で本件工事に着手したことは前記認定のとおりであり、また、本件事故の発生に至るまで同被告において右施工条件に従つて仮歩道を設置しなかつたことは当事者間に争いのないところである。

しかして、被告中筋建設がみずから本件工事を実施していたことは前記のとおりであつて、右工事に伴う危険を直接支配する立場にあつた者というべきところ、本件事故現場付近の東行車線が、自転車等の通行の際、対向する車両の走行方法いかんによつては、車両が自転車に接触したり、接触しそうになつたりして事故が発生してもおかしくない道路状況になつていたことは前記2において説示したとおりであり、かつ、被告中筋建設としては、右施工条件を示されることにより、そのことを容易に予見し、それを回避するのに適切な措置まで具体的に明示されていたのであるから、西行車線南側に仮歩道を設置する等の危険回避措置を講ずることにより、東行車線上の自転車等の通行者が車両と接触したり、接触しそうになつたりする状態が生じ、それによつて交通事故が発生することを未然に防止する注意義務を負つていたものというべきである。しかるに、同被告が右義務を尽くすことを怠たり、右のごとき危険回避措置をとらなかつたことは右のとおりであるから、同被告もまた、民法七〇九条により本件事故によつて生じた損害を賠償する義務を負うものというべきである。

なお、被告中筋建設は、単に被告国の補助者として本件工事を施行したものであり、右仮歩道等の設置も道路管理者たる被告国の責任に属すべきことであつて、被告中筋建設には何ら過失はないというけれども、被告中筋建設が被告国から本件工事を請け負つてみずからこれを施行し、その工事に伴つて生ずべき危険を直接支配する立場にあつたことは前記のとおりであつて、そうである以上、その危険を支配する者として右のごとき注意義務を負うことは当然というべきであるから、同被告の右の主張は採用することができない。

4  共同不法行為

以上によれば、本件事故は、一方の側における三愛運輸及び曹と他方の側における被告国及び同中筋建設とがそれぞれ各自の独立した不法行為によつて惹起させたものであり、かつ、右各行為はそれぞれ客観的に相関連し共同して事故を惹起し、損害を発生させたものと認められるから、三愛運輸及び曹と被告国及び同中筋建設とは、共同不法行為者として被害者に対し、各自が連帯して損害賠償責任を負うとともに、共同不法行為者のうち右賠償責任を履行した者は、他の共同不法行為者に対し、各自の過失又は瑕疵が損害の発生に寄与した度合に従つて定められるべき負担部分につき求償権を行使することができる関係に立つものといわなければならない。

五請求原因5の事実(本件事故による損害)について

1  功の損害

(一)(1)  逸失利益 一五八九万〇一八〇円

<証拠>によれば、功は、本件事故当時八歳の健康な男子であつたことが認められるところ、本件事故がなければ、一八歳から四九年間は就労可能であり、その間少なくとも昭和五七年賃金センサス第一巻第一表産業計企業規模計学歴計男子労働者一八歳及び一九歳の平均年収額一六五万八七〇〇円と同程度の収入を得ることができ、かつ、その生活費は収入の五割であると推認することができるから、年別ホフマン式計算法により年五分の割合による中間利息を控除して同人の死亡による逸失利益の死亡時の現価を算定すると、一五八九万〇一八〇円となる。

(算式)

一六五万八七〇〇円×〇・五×一九・一五九八=一五八九万〇一八〇円

(2)  慰藉料 六〇〇万円

本件事故の態様、功の傷害の部位・程度、同人の死亡時の年齢等諸般の事情を併せ考えると、功の死亡による精神的苦痛を慰藉するに足る慰藉料の額としては、六〇〇万円が相当である。

(二)  川島らによる権利の承継

<証拠>によれば、川島らと功との間には原告主張のとおりの身分関係が存在すること及び功には他に相続人がいないことが認められる。したがつて、川島らは、功の死亡により、法定相続分に従い、功の被つた損害(その合計額は二一八九万〇一八〇円)の二分の一に相当する一〇九四万五〇九〇円の損害賠償請求権をそれぞれ相続によつて承継したものである。

2  川島らの固有の損害 各三二六万〇三四五円

(一)  治療費 各六万〇三四五円

<証拠>によれば、功が本件事故によつて受けた傷害の治療のため、功の両親である川島らにおいて、治療費としてそれぞれ六万〇三四五円を支出したことが認められる。

(二)  葬祭費 各二〇万円

<証拠>によれば、功の両親である川島らは功の葬儀を執り行い、相応の支出を余儀なくされたことが認められるところ、功の年齢、境遇、家族構成等諸般の事情に照らすと、本件事故と相当因果関係に立つ葬祭費の額は、川島らそれぞれについて二〇万円と認めるのが相当である。

(三)  慰藉料 各三〇〇万円

本件事故の態様、功の傷害の内容、功の死亡時の年齢、功との身分関係等諸般の事情を考慮すると、功の死亡によつて功の両親である川島らの受けた精神的苦痛を慰藉するに足る慰藉料の額としては、それぞれ三〇〇万円が相当である。

3  過失相殺

前記認定の本件事故の態様及び曹の過失の内容によれば、功が本件事故に遭遇したことについては、同人による自転車のハンドル等の操作が不適切であつたために平衡を失つたこともその一因をなしていたものと推認することができるが、右功の過失と曹の過失との内容・程度を比較すれば、功の過失は極めて小さいものというべきであるから、過失相殺としては、川島らの損害の五分をそれぞれ減ずるのが相当であるというべきところ、右過失相殺の対象となる損害の額は、前記五―(二)及び2の合計額各一四二〇万五四三五円であるから、これから五分を減じて同人らの損害額を算出すると、各一三四九万五一六三円となる。

4  前訴弁護士費用

川島らが、本件事故に関し、曹及び三愛運輸らを被告として損害賠償請求訴訟(前訴)を提起したことは当事者間に争いがなく、前掲甲第一八号証によれば、川島らは右訴訟の提起及び追行を弁護士に委任したことが認められるところ、前訴の事案の内容、審理経過、前訴の認容額等諸般の事情を併せ考えると、川島らにつき各三〇万円が、本件事故と相当因果関係に立つ損害であると認めるのが相当である。

5  以上の1ないし4の損害額を合計すると、川島ら各自につき、それぞれ一三七九万五一六三円となる。

六各共同不法行為者の負担部分について

1  三愛運輸及び曹と被告国及び同中筋建設とが共同不法行為者として被害者に対し、各自が連帯して損害賠償責任を負う関係に立つことは前説示のとおりであるところ、前記認定の本件事故の態様、各共同不法行為者の過失又は瑕疵の内容及び責任根拠によれば、曹と三愛運輸とは有過失の加害車の運転車及び加害車の運行供用者として主観的に共同する関係にあり、一方、被告国と同中筋建設とは瑕疵ある道路の管理者及びその管理者から道路の改修工事を請け負つた請負人として主観的に共同する関係にあり、かつ、「三愛及び曹」と「被告国及び同中筋建設」とはそれぞれ一体となつて単に客観的にのみ共同する関係にあるものとみることができるから、その負担部分も、「三愛運輸及び曹」と「被告国及び同中筋建設」との関係で一体的に決定すべきであり、各主観的共同者は、それぞれの間ではその関係に応じて別途各自の負担部分が定められるものの、客観的にのみ共同する共同不法行為者に対する求償については、その主観的共同等の理由から、連帯して義務を負う関係に立つものと解するのが相当である。

2  そこで、三愛運輸及び曹と被告らとの過失又は瑕疵の割合を検討する。

本件事故が曹の過失によつて発生したものであることは前説示のとおりであつて、トラックを運転して本件事故現場に至つた曹が自転車に乗つて西進して来る功を発見した際、事故発生を未然に回避するため減速徐行をするか、対向車両の状況をみて中央線を越えて進行すべきであつたのに、減速徐行もせず、中央線上に装置されていたチャッターバーを踏むと自車のタイヤが痛むことを嫌つて中央線を越えることもしないで(この点は、<証拠>により認められる。)、そのまま東行車線上を東進したことに本件事故発生の最大の原因があると認められるところ、右のような事故発生回避措置を講ずることは、自動車運転者にとつては、極めて当然かつ容易なことであり、本件事故発生の状況においても、同様であつたと認められるから、曹の過失ないし義務違反(規範違反)の程度は甚だ重大であつたといわなければならない。

しかして、以上の点と本件事故の態様、事故発生現場の状況、被告らの道路管理の瑕疵、注意義務違反の内容・程度等の諸般の事情とを併せ考えると、本件事故の発生に寄与した各共同不法行為者の過失又は瑕疵の割合は、被告らが一体として一割、曹及び三愛運輸が一体として九割であると認めるのが相当といわなければならない。したがつて、被告らの負担部分は本件事故によつて生じた全損害の一割に当たる二七五万九〇三三円(及びこれに対する遅延損害金)、曹及び三愛運輸の負担部分はその九割に当たる二四八三万一二九三円(及びこれに対する遅延損害金)となる。

七請求原因7の事実(三愛運輸による損害の填補と求償権の取得)について

1  請求原因7(一)の事実(自賠責保険による川島らへの保険金の支払)については、原告と被告中筋建設との間においては争いがなく、原告と被告国との間では、<証拠>によつてこれを認めることができる。

2  <証拠>によれば、同7(二)の事実(三愛運輸による川島らへの支払)を認めることができる。

3  そうすると、本件共同不法行為者間における損害の負担部分のうち三愛運輸の部分は、右1の保険金と2の三愛運輸の弁済金のうち遅延損害金及び元金(六七〇万五〇三六円)の内金六二四万六〇〇三円とによつて填補されるにいたつたものであるから、三愛運輸は、その負担部分を超える部分すなわち右弁済金(元金)の内金四五万九〇三三円につき、他の共同不法行為者である被告らに対し求償権を行使することができることとなつたというべきである。

八請求原因8の事実(保険代位による求償権の取得)について

1  <証拠>によれば、請求原因8の(一)及び(二)の事実を認めることができる。

2  ところで、三愛運輸が昭和五九年二月二四日川島らに対し本件損害金として七九七万二〇四〇円を支払つたことは前記のとおりであるから、同日右相殺契約は効力を生じたものというべきところ、右共済契約が損害保険契約としての性質を有することはその契約内容自体から明らかであり、かつ、右相殺契約が効力を生じたことは共済金(保険金)を支払つたのと同様の効果を生ぜしめるものであるから、原告は、商法六六二条一項の類推適用により、被保険者である三愛運輸が被告らに対して有する前項の求償権を取得するにいたつたものといわなければならない。

九結論

以上の次第で、被告らは原告に対し、求償債務の履行として、連帯して四五万九〇三三円及びこれに対する請求を受けた日の翌日から支払ずみまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払をなすべき義務があるので、原告の本訴請求は、被告らに対し連帯して四五万九〇三三円及びこれに対する訴状送達の日の翌日であることが記録上明らかな、被告中筋建設については昭和五九年五月一〇日から、被告国については、昭和五九年五月一一日から各支払ずみまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度において正当としてこれを認容し、その余は失当として棄却し、訴訟費用の負担につき民訴法八九条、九二条本文、九三条一項を適用し、仮執行宣言は相当でないからこれを付さないこととして、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官藤原弘道 裁判官加藤新太郎 裁判官浜 秀樹)

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