大阪地方裁判所 昭和59年(ワ)561号 判決
【判旨】
1 <証拠>によれば、次の事実が認められる。
茂樹は、昭和五六年八月に本件事故車を実質上の所有者であつた訴外北口時平から購入し、右購入代金は茂樹が負担して支払つた。茂樹の家庭ではその妻原告佐和子が昭和五四年五月ころに運転免許を取得していたが、昭和五六年夏になつて、その居住する公団住宅の付近の駐車場が利用できるようになつたので、右のとおり事故車を購入したものであるところ、右駐車場の借主も茂樹であり、以後本件事故に至るまで、駐車場の使用料、ガソリン代及び修理費用は全て茂樹が負担していた。茂樹は、本件事故当時は無免許であつたが、昭和三九年に原告佐和子と結婚する以前には運転免許を有していたのであつて、事実上自動車を運転する技術は有していた。茂樹は、生前室内装飾業を営むかたわら、不動産の仲介をして手数料を得ており、そのため不動産業者の訴外川口正夫や司法書士のかたわら不動産の仲介をしていた訴外平井朝己の事務所をしばしば訪れ、不動産取引の話をして、時には平井と共同して不動産仲介の仕事をすることもあつた。茂樹は、妻の原告佐和子と共に事故車を利用して外出する場合は必ず原告佐和子に運転させ、自らは同乗するのみであつたが、一人で平井朝己の事務所などを訪れるときは殆んど茂樹自らが事故車を運転して出かけていた。ただし、平井朝己や川口正夫と共に行動するときは自らは運転しないで同乗していることが大半であつた。茂樹は、昭和五八年一月一六日、自宅から事故車を自ら運転していき、平井の事務所を訪れ、同日は帰宅せず、翌一七日、平井と共に事故車に乗車して、平井が仲介を目論でいた宇治付近の不動産の見分に出かけたところ、平井が運転し、茂樹が助手席に同乗していた際前記一のとおり、本件事故が発生したものである。
<証拠判断省略>
2 右認定事実によれば、茂樹は、本件事故当時、事故車の実質上の所有者であり、ガソリン代等の費用も負担し、自ら運転もして、事故車を自己の運行の用に供していたものであるが、本件事故の発生日に、共同して不動産の仲介の仕事をしていた知人の平井朝己が不動産の見分する目的で宇治方面へ出かけるために事故車の使用を許し、自らも同乗していたのであるから、本件事故当時、茂樹は平井と共に事故車の運行を支配し、その利益も享受していたものであり、茂樹は、事故の防止につき中心的な責任を負う所有者として同乗していたのであつて、いつでも平井朝己に対し運転につき具体的に指示することができる立場にあつたものであり、平井朝己が茂樹の運行支配に服さず同人の指示を守らなかつた等の特段の事情があつたことを認めるに足りる証拠はないから、事故車の具体的運行に対する茂樹の支配の程度は、平井朝己のそれに比し優るとも劣らなかつたものというべきである。従つて茂樹は、平井朝己に対する関係において自賠法三条本文の規定する「他人」に該当するということはできない(最高裁判所昭和五七年一一月二六日第二小法廷判決民集三六巻一一号二三一八頁参照)。
原告らは、自賠法一六条に基づく損害賠償請求をするが、右のとおり同法三条の規定による保有者の損害賠償責任が発生していないから、その余について判断するまでもなく、原告らの請求は失当である。 (長谷川誠)