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大阪地方裁判所 昭和59年(ワ)647号 判決 1986年10月14日

原告

畑山繁夫

ほか一名

被告

丸協運輸株式会社

ほか一名

主文

一  被告らは各自、原告畑山繁夫に対し、金三三一万一〇七九円及びこれに対する昭和六〇年一二月一一日から支払ずみまで年五分の割合による金員を、原告畑山ひろみに対し、金九万六九一〇円及びこれに対する昭和五九年二月一七日から支払ずみまで年五分の割合による金員をそれぞれ支払え。

二  原告らのその余の請求を棄却する。

三  訴訟費用はこれを八分し、その七を原告らの負担とし、その余を被告らの負担とする。

四  この判決は原告ら勝訴の部分に限り仮に執行することができる。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1  被告らは各自、原告畑山繁夫に対し、金二五四八万二四一六円及びうち金二三八二万四六八八円に対する昭和六〇年一二月一一日から支払ずみまで年五分の割合による金員を、原告畑山ひろみに対し、金一一三万九三六九円及びうち金一〇三万五七九〇円に対する昭和五九年二月一七日から支払ずみまで年五分の割合による金員をそれぞれ支払え。

2  訴訟費用は被告らの負担とする。

3  仮執行宣言

二  請求の趣旨に対する答弁

1  原告らの請求をいずれも棄却する。

2  訴訟費用は原告らの負担とする。

第二当事者の主張

一  請求原因

1  事故の発生(以下「本件事故」という。)

(一) 日時 昭和五七年二月六日午前一時三五分頃

(二) 場所 大阪府高石市西取石七丁目一四番先 第二阪和国道

(三) 加害車 被告菊地進一郎(以下「被告菊地」という。)運転の大型貨物自動車(長野一一あ一二九五号)

(四) 被害車 原告畑山繁夫(以下「原告繁夫」という。)運転、原告畑山ひろみ(以下「原告ひろみ」という。)同乗の自動車

(五) 態様 加害車が交差点の停止信号で停止中の被害車に追突し、被害車がその前方で停止中の自動車に玉突き追突した。

2  責任原因

(一) 運行供用者責任(自賠法三条)

被告丸協運輸株式会社(以下「被告会社」という。)は、加害車を所有し、業務用に使用し、自己のために運行の用に供していた。

(二) 使用者責任(民法七一五条一項)

被告会社は、被告菊地を雇用し、同人が被告会社の業務の執行として加害車を運転中、後記過失により本件事故を発生させた。

(三) 一般不法行為責任(民法七〇九条)

被告菊地は、加害車を運転中、前方不注視の過失により本件事故を発生させた。

3  原告繁夫の損害

(一) 受傷及び治療経過

(1) 受傷

原告繁夫は、本件事故により、頸部挫傷、頸椎椎間板ヘルニアの傷害を受けた。

(2) 治療経過

<1> 昭和五七年二月六日 清恵会病院に通院

<2> 昭和五七年二月六日から同月八日まで 好日荘マツサージ指圧部に通院(実日数三日)

<3> 昭和五七年二月六日から同月九日まで 箕面市立病院に通院(実日数二日)

<4> 昭和五七年二月一〇日から同年三月二日まで箕面市立病院に入院(二一日間)

<5> 昭和五七年三月四日から同月一一日まで 春日居温泉病院に通院(実日数七日)

<6> 昭和五七年三月一二日から同年五月一六日まで 春日居温泉病院に入院(六六日間)

<7> 昭和五七年五月一九日から同年七月六日まで箕面市立病院に通院(実日数二九日)

<8> 昭和五七年六月一日から同年八月三日まで柏整骨院に通院(実日数四〇日)

<9> 昭和五七年七月七日から同月一〇日まで 箕面市立病院に入院(四日間)

<10> 昭和五七年七月一一日から昭和五八年二月三日まで 箕面市立病院に通院(実日数二七日)

<11> 昭和五七年九月一六日から昭和五八年一二月三日まで 児島千里園整形外科医院に通院(実日数二七八日)

<12> 昭和五九年三月まで テグレトールという薬剤を服用し、頸部、頭部の痛みが軽減するよう努力する。

<13> 昭和五九年四月中旬から同年七月中旬までアメリカ合衆国でカイロプラクテイツク療法を受け、右手握力がそれまでの二五キログラムから三五キログラムにまで回復する。

<14> 昭和五九年八月二三日 大阪大学医学部附属病院麻酔科のペインクリニツクで神経ブロツクの手術を受け、頸部、頭部の痛みが全快する。

<15> 昭和五九年一〇月一八日 全日空航務本部大阪乗員健康管理センターで身体検査を受け、同月二九日身体検査証明書を受領し、同年一二月一日より復職し訓練期間に入る。

(二) 治療関係費 二八七万九六六五円

(1) 治療費 二一九万六六九五円

<1> 清恵会病院 一万七三〇〇円

<2> 好日荘マツサージ指圧部 一万二〇〇〇円

<3> 箕面市立病院 二五万八〇一五円

<4> 春日居温泉病院 一六三万二三〇〇円

<5> 柏整骨院 二八〇〇円

<6> 児童千里園整形外科医院 八八〇〇円

<7> アメリカ合衆国カイロプラクテイツク療法二四万〇四八〇円(一〇〇二ドルを当時の円・ドル為替相場一ドル二四〇円で換算したもの)

<8> 首の固定器具 二万五〇〇〇円

原告繁夫は、医師の指示により、首の固定器具を購入した。

(2) 入院雑費 三八万九三二〇円

<1> 箕面市立病院入院期間中の諸雑費 二万五〇〇〇円

原告繁夫は、同病院に計二五日間入院し、日用雑貨品購入等のため、一日平均一〇〇〇円を要した。

<2> 春日居温泉病院入院期間中の諸雑費 三六万四三二〇円

原告繁夫は同病院に六六日間入院したが、以前より膵臓病を患つており、特別の膵臓食を必要としたところ、同病院の膵臓食には膵臓食としては不適切な天ぷら、フライ、香辛料を使つた食物が出され、栄養士にも相談したが改善されず、やむなく右入院期間中、甲府市内の妻(原告ひろみ)の実家から、毎日膵臓食を搬入してもらつたため、その製作費などに一日一五〇〇円を要したほか、その搬入のために一日四二〇円(タクシー代およびトンネル通行料)の交通費を要した。

(3) 通院交通費 一五万五六五〇円

<1> 清恵会病院 八九九〇円

タクシー代及び高速代合計(片道)

<2> 箕面市立病院 七万七七二〇円

一日当りタクシー代(往復) 一三四〇円の五八日分

<3> 柏整骨院 四万〇八〇〇円

一日当りタクシー代(往復) 一〇二〇円の四〇日分

<4> 春日居温泉病院 二万八一四〇円

一日当りタクシー代及びトンネル通行料合計(往復)四〇二〇円の七日分

(4) 妻(原告ひろみ)の両親の交通費 一二万円

原告らは二人暮しであつたところ、本件事故により二人とも負傷したため、食事の用意その他身のまわりの世話をしてもらうため、甲府から妻の両親を呼び寄せた。

(5) 通院期間中の家族付添費 一万八〇〇〇円

原告繁夫は、昭和五七年二月七日から同年三月一一日までの三三日間のうち、箕面市立病院に入院中の二一日間を除く一二日間、箕面市内の自宅及び甲府市内の妻の実家で、妻の両親の付添看護を受けたが、その費用は一日一五〇〇円とみるのが相当である。

(三) 休業損害 一七六四万七〇四三円

原告繁夫は、事故当時全日本空輸株式会社(以下「全日空」という。)に操縦士として勤務していたが、本件事故により、昭和五七年二月六日から昭和五九年一一月三〇日まで休業を余儀なくされ、その間次のとおり合計三五九〇万七二〇六円の収入を失つたが、このうち全日空より一〇二二万八八〇六円、全日本空輸健康保険組合(以下「全日空健保」という。)より八〇三万一三五七円の支払を受け、又は受ける予定であるので、これを控除すると、休業損害は一七六四万七〇四三円となる。

(1) 昭和五七年二月六日から昭和五九年九月三〇日までの収入 三三八三万四四五四円

昭和五七年三月ないし七月分の給与として原告繁夫が全日空から支給を受けた金員は、計四〇三万六九九五円であり、これに全日空の計算による昭和五七年八月から昭和五九年九月まで原告繁夫が正常に勤務した場合得られる給与及び昭和五七年夏から昭和五九年夏までに受け得たはずである一時金を加算すれば、合計三〇七五万八五九五円となるが、これは最低額であり、実際に稼働した場合には乗務手当、乗務附加、便乗手当、休日手当、時間外手当、乗務日当、便乗日当等の諸手当があり、原告繁夫の前記期間の収入額としては、右金額に一割加算した三三八三万四四五四円と算定するのが妥当である。

(2) 昭和五九年一〇月一日から一一月三〇日までの収入 二〇七万二七五二円

全日空の計算による原告繁夫の平均月収額八六万三六四七円に二割加算した一〇三万六三七六円の二か月分として算定するのが相当である。

(四) 慰藉料 二二二万円

原告繁夫は、本件事故による傷害の治療のため、計九一日間入院し、受傷後昭和五九年八月までの期間通院治療を受け、渡米による治療、神経ブロツクの手術なども試み、復職のために最大限の努力をし、苦痛を耐え忍んできたものであり、これを慰藉するには二二二万円の支払が相当である。

(五) 物損 一六七万五八〇〇円

(1) 車両損害 六四万円

<1> 修理費 四四万円

<2> 事故減価額 二〇万円

(2) トランク内の物損 一〇三万五八〇〇円

<1> インバーター 八万円

<2> オートヘルム 二七万二〇〇〇円

<3> ラジオ(オールバンド) 六四万円

<4> バツテリー(ヨツト用) 四万三八〇〇円

(六) 弁護士費用 二八六万七七二八円

原告繁夫は、本件訴訟の提起、遂行を原告ら訴訟代理人弁護士両名に委任し、着手金として一二〇万円、成功報酬として一六六万七七二八円の支払を約した。

(七) 損害額合計 二七二九万〇二三六円

4  原告ひろみの損害

(一) 受傷及び治療経過

(1) 受傷

原告ひろみは、本件事故により、頸部挫傷、腰部挫傷の傷害を受けた。

(2) 治療経過

<1> 昭和五七年二月六日 清恵会病院に通院

<2> 昭和五七年二月六日から同年三月一日まで 箕面市立病院に通院(実日数八日)

<3> 昭和五七年三月四日から同月一六日まで 春日居温泉病院に通院(実日数一一日)

<4> 昭和五七年三月一七日から同年四月一三日まで 春日居温泉病院に入院(二八日間)

<5> 昭和五七年四月一四日から同年五月一四日まで 春日居温泉病院に通院(実日数一五日)

(二) 治療関係費 九四万〇九九〇円

(1) 治療費 五四万〇七五〇円

<1> 清恵会病院 一万三六二〇円

<2> 箕面市立病院 三万八六三〇円

<3> 春日居温泉病院 四八万八五〇〇円

(2) 入院雑費 二万八〇〇〇円

原告ひろみは春日居温泉病院に二八日間入院し、日用雑貨品購入等のため、一日平均一〇〇〇円を要した。

(3) 通院交通費 一一万五二四〇円

<1> 箕面市立病院 一万〇七二〇円

一日当りタクシー代(往復)一三四〇円の八日分

<2> 春日居温泉病院 一〇万四五二〇円

一日当りタクシー代及びトンネル通行料合計(往復)四〇二〇円の二六日分

(4) 両親宅への宿泊費 二〇万円

原告両名は、昭和五七年三月三日から同年五月中ごろまで、甲府市内の原告ひろみの両親宅で世話になり入通院治療に専念したが、原告ひろみは、入院中の二八日間を除く期間両親に食費その他につき多くの負担をかけたため、両親に対し宿泊費として二〇万円を支払つた。

(5) 通院期間中の家族付添費 五万七〇〇〇円

原告ひろみは、昭和五七年二月七日から同年三月一六日までの三八日間、箕面市の自宅および甲府市内の実家で、両親の付添看護を受けたが、その費用は一日一五〇〇円とみるのが相当である。

(三) 慰藉料 四五万円

原告ひろみは、本件事故による傷害の治療のため、二八日間入院し、受傷後昭和五七年五月一四日までの期間通院(実日数三五日)による治療を受けたが、これを慰藉するには四五万円の支払が相当である。

(四) 弁護士費用 二〇万三五七九円

原告ひろみは、本件訴訟の提起、遂行を原告ら訴訟代理人弁護士両名に委任し、着手金として一〇万円、成功報酬として一〇万三五七九円の支払を約した。

(五) 損害額合計 一五九万四五六九円

5  損害の填補

原告らは、関東自家用自動車共済協同組合(以下「自動車共済」という。)から、次のとおり支払を受けた。

(一) 原告繁夫

(1) 箕面市立病院での治療費として二一万四三二〇円

(2) 春日居温泉病院での治療費として一五八万三五〇〇円

(二) 原告ひろみ

春日居温泉病院での治療費として四五万五二〇〇円

6  よつて、本件事故に基づく損害賠償として、原告繁夫は被告ら各自に対し、二五四八万二四一六円(残損害額二五四九万二四一六円の内金)及びうち右残損害額から弁護士費用の一部である一六六万七七二八円を除く二三八二万四六八八円に対する右事故日の後の日である昭和六〇年一二月一一日から支払ずみまで年五分の割合による金員の、原告ひろみは被告ら各自に対し、一一三万九三六九円及びうちこれから弁護士費用の一部である一〇万三五七九円を除く一〇三万五七九〇円に対する右事故日の後の日である昭和五九年二月一七日から支払ずみまで年五分の割合による金員の各支払を求める。

二  請求原因に対する認否

1  請求原因1の(一)ないし(五)は認める。

2  同2の(一)ないし(三)は認める。

3  同3のうち、原告繁夫が本件事故により頸部挫傷の傷害を受けた事実は認めるが、その余は不知又は争う。

(一) 原告繁夫は、温泉療法を併用したりリハビリテーシヨンを希望して春日居温泉病院に通院していたものであるが、持病の膵炎に対する食餌療法の必要があつたため同病院に入院することになつたものであり、本件事故による受傷と同病院への入院との間には相当因果関係がない。

(二) 原告繁夫は、春日居温泉病院に入院中、昭和五七年三月一三日頭痛を、同年四月一二日右腕のしびれをそれぞれ訴えた程度であり、これ以外には同年五月一六日に退院するまで特に愁訴が見られない上、右の三月一三日には午後から外出して外泊している。この程度であれば、同原告の症状は右退院時ころまでには固定していたというべきであり、その後愁訴があつたとしても、膵炎の後遺症、パイロツト特有の職業病、あるいは心因性によるものなどが複合しているため、本件事故による受傷に起因しているものかどうか判然としない。

(三) 原告繁夫は、休業損害に関して全日空から一〇〇九万一〇三六円の、全日空健保から一〇四四万二五九二円の各支払を受けている。

4  同4のうち、(一)の(1)は認めるが、その余は不知又は争う。

原告ひろみの症状は、頸部、腰部に痛みがあるものの、神経症状はなく、レントゲンにも異常は認められなかつたため、箕面市立病院の担当医師から家庭での安静を勧められていたものであり、その後の春日居温泉病院への入通院の必要性があつたかどうか疑わしい。

5  同5の(一)及び(二)は認める。

三  抗弁(損害の填補)

1  原告繁夫の請求について

(一) 原告繁夫は、被告会社から五万九一一一円の、自動車共済からは同原告が自認している合計一七九万七八二〇円以外に一万一二一五円の各支払を受けた。

(二) 原告繁夫は、東京海上火災保険株式会社(以下「東京海上」という。)より、昭和五七年二月一三日から昭和五九年二月一二日までの本件事故による休業補償として、一四四二万円の所得補償保険金を受領しているが、同保険の普通保険約款には、実際の収入額が保険金額より少ないときは収入額が支払保険金額になること、超過保険や重複保険の場合にも実際の収入額以上の保険金の支払を禁ずることが定められており、これによれば、所得補償保険は損害保険の一種であると考えられるから、商法六二二条により、原告繁夫は東京海上から支払を受けた一四四二万円の限度で被告らに対する損害賠償請求権を失つているというべきであり、同原告の休業損害額から右受領金額を控除すべきである。

2  原告ひろみの請求について

原告ひろみは、自動車共済から、同原告が自認している四五万五二〇〇円以外に一六万一三〇〇円の支払を受けた。

四  抗弁に対する認否

1  抗弁1の(一)のうち、被告会社から五万九一一一円の支払を受けた事実は認めるが、その余は否認する。

2  抗弁1の(二)のうち、東京海上より一四四二万円の所得補償保険金を受領した事実は認めるが、その余の主張は争う。

所得補償保険金は、原告繁夫が負担した保険料の対価として、保険事故発生により受領するものである上、所得補償保険については、保険実務上加害者に対する請求権を行使していないのが実状であるから、同原告の休業損害額から右保険金額を控除すると、同原告の保険料負担において被告らが不当に利得することになり、法的な公平さを欠く結果となる。

第三証拠

記録中の書証目録及び証人等目録に記載のとおりであるから、これを引用する。

理由

一  事故の発生

請求原因1の(一)ないし(五)の事実は、当事者間に争いがない。

二  責任原因

請求原因2の(一)ないし(三)の事実は、当事者間に争いがない。従つて、被告会社は自賠法三条及び民法七一五条一項により、被告菊地は同法七〇九条により、それぞれ本件事故により原告らに生じた損害を賠償する責任がある。

三  原告繁夫の損害

1  受傷及び治療経過

(一)  受傷

原告繁夫が本件事故により頸部挫傷の傷害を受けた事実は当事者間に争いがなく、その余の点については後記認定のとおりである。

(二)  治療経過

原告繁夫の本人尋問の結果並びにこれにより真正に成立したことが認められる甲第四号証、第七号証、証人児島義介の証言により真正に成立したことが認められる甲第五号証の一ないし三、第八号証の一及び成立に争いがない甲第六号証の一によれば、請求原因3の(一)の(2)の<1>ないし<11>までの治療経過に関する事実を認めることができる。

更に、成立に争いのない甲第三六号証の一ないし三、第三七号証、乙第九号証の一二、一三、一五、一八、三二、三三並びに証人児島義介及び同中田一洋の各証言、原告繁夫の本人尋問の結果によれば、同原告は、

(1) 昭和五七年一一月ころから昭和五九年三月ころまでの間断続的に、東京都立府中病院脳神経外科の医師の勧めで、手のピリピリした痛みに効果があるてんかんの薬テグレトールを服用したが、鎮痛の効果があらわれなかつたこと

(2) 昭和五九年四月一七日から同年六月一八日までの間、叔父の勧めによりアメリカ合衆国において同国の医師から三十数回にわたり、整体術の一種であるカイロプラクテイツク療法を受け、右手の握力がそれまでの二五キログラム位から三五キログラム近くまで回復したこと

(3) 昭和五九年八月二三日、児島千里園整形外科の児島医師の紹介により、大阪大学医学部附属病院麻酔科のペインクリニツクにおいて、大小後頭神経にアルコールを注入して神経を壊死されるアルコールブロツクの治療を受け、その結果後頭神経痛が消滅したこと

(4) 昭和五九年一〇月一日全日空嘱託の社医で同社航空本部大阪乗員健康管理センター所長である中田一洋医師から、運輸大臣指定の医師が行う航空身体検査を受けるよう勧められて、同月一八日身体検査を受けて合格し、同月二九日航空身体検査証明を受け、同年一二月一日同社の航空機関士として復職したこと

を認めることができる。

(三)  本件事故との因果関係原告繁夫の治療及び休業期間が長期に及んでおり、春日居温泉病院退院後の治療と本件事故との因果関係について争いがあるので検討するに、前記甲第五号証の一、第六号証の一、第八号証の一、第三七号証、成立に争いのない甲第一号証、第六号証の三、四、第三一号証、乙第一号証の一ないし七、第五ないし第七号証の各一、二、第九号証の一ないし四二、弁論の全趣旨により真正に成立したことが認められる甲第八号証の三、証人児島義介の証言及びこれにより真正に成立したことが認められる甲第八号証の二、証人麻生弘の証言及びこれにより真正に成立したことが認められる甲第三〇号証の二、原告繁夫の本人尋問の結果及びこれにより真正に成立したことが認められる甲第五号証の四ないし七、第一七号証、証人中田一洋の証言、原告ひろみの本人尋問の結果によれば、次のとおりの事実を認めることができ、右認定を覆すに足りる証拠はない。

(1) 本件事故は、原告繁夫が運転し、原告ひろみが助手席に同乗中の普通乗用自動車が信号待ちのため停止中、被告菊地運転の大型貨物自動車に追突され、原告繁夫は首付近を、原告ひろみは右後頭部をそれぞれ強く打ちつけられるとともに、被害車が前に押し出されて数メートル前方で停止中の普通乗用自動車(タクシー)に追突し、被害車の後部トランク及び前部バンパーに凹損が生じたものであるが、原告ひろみは右事故の時に身体を運転席の方へ斜めに向けて座つていたため、加害者の異常な接近に気がつき、同車の衝突に備えて身構えることができたが、原告繁夫は衝突まで気づかなかつたこと

(2) 原告繁夫は、本件事故後主に箕面市民病院で治療を受けたが、頸部のレントゲン写真及び脳波には異常が認められなかつたものの、頸から肩甲骨、背中、右手にかけて放射痛があるとともに、痛みのため頸が動かしにくい上、下肢の腱反射がやや高く、排尿障害があり、脊髄が軽いシヨツク状態にあることが疑われたため、担当医師に勧められて同病院に入院し、ベツドでの絶対的安静と頸の持続牽引等による治療を約三週間受けたが、痛みが少し軽くなつた程度であつたため、担当医師の同意を得て、知人の勧める温泉療法を試みようと考え妻である原告ひろみの実家近くの山梨県の春日居温泉病院に転院したこと(請求原因3の(一)の(2)の<3><4>)

(3) 原告繁夫は、春日居温泉病院では当初通院により治療を受けていたところ、同病院の方針でリハビリによる治療を受けるためには入院が原則であつたため、同病院に入院して理学療法や投薬による治療を受けたが、入院中同原告には右肩部、右手、右中、環指にかけて及び右大腿より右第一、二趾にかけての激痛発作が一日五、六回あり、その際右上下肢の脱力感がある上、頸部の回旋痛及び右手の握力の低下(左五八キログラム、右二七キログラム)の症状も見られ、これらの症状にあまり改善が見られないまま同病院を退院したこと(同<5><6>)

(4) 原告繁夫は、再び箕面市立病院に通院し、局所温熱療法や頸椎牽引療法などを受けたが、症状が軽快しないため、脊髄に造影剤を注入して検査するため四日間同病院に入院したものの、同原告に右検査の際用いるヨードに対する過敏症が見られたため、右検査ができずに退院し、その後右病院の主治医であつた児島医師が開業した児島千里園整形外科で主に治療を受けるようになり、後頭神経ブロツクや投薬などによる治療を受けていたところ、上肢の腱反射にも異常があらわれ、頸椎神経根症、後頭神経痛、自律神経症状による不定愁訴、椎間板性の肩甲骨内側の痛みなどの症状が一進一退の状態で大きな変化がなかったこと(同<7><9><10><11>)

(5) 原告繁夫は、全日空に勤務する航空機関士であり、航空機関士は技術的な資格のほかに、運輸大臣が指定した航空身体検査医による身体検査を一年ごとに受け、航空法施行規則が定める身体検査基準に適合している旨の航空身体検査証明を受けなければ乗務できないことになつており、右身体検査を受けるにあたつてはまず全日空の社医による健康状態の診察を受け、アドバイスを受けるのが通例であつたところ、社医である前記中田医師は、航空乗務員の握力については右規則に基準はないものの通常四〇キログラム位は必要であると考えており、原告繁夫の治療経過や症状を検討の上、昭和五九年一月一七日ころ、同原告について、「頭痛、頸部痛、右握力低下、右上肢筋力低下等の後遺症は軽減しつつあるが、現在なお運航乗務に支障がある。」と判断していたこと

(6) 原告繁夫は、昭和五七年二月六日から昭和五八年二月五日まで欠勤し、同月六日から昭和五九年一一月三〇日まで休職し、翌一二月一日から復職したこと

右の事実及び前記三の1の(二)において認定した事実によれば、原告繁夫の治療期間は約二年八か月、休業期間は約二年一〇か月に及んでおり、長きに過ぎるとの感を否めないところではあるけれども、同原告の症状が被告ら主張の膵炎の後遺症、パイロツトの職業病、あるいは心因性によるものであると疑わせるに足る証拠はなく、本件事故の態様、同原告の症状の程度、治療経過、治療への努力、航空機関士としての業務の特殊性、航空身体検査制度の実状等の事情を考慮すれば、同原告が右の各期間、医師による各治療を受け、かつ休業したことはやむを得ないものといわざるを得ず、本件事故と右各治療及び休業との間には相当因果関係が存するというべきである。

2  治療関係費 二三三万九二二五円

(一)  治療費(文書料を含む。) 二一八万一五九五円

前記甲第五号証の四ないし七、第六号証の四、第八号証の三、第三六号証の一ないし三、成立に争いのない甲第六号証の五並びに原告繁夫の本人尋問の結果及びこれにより真正な成立が認められる甲第九号証によれば、請求原因3の(二)の(1)の<3>、<4>、<6>ないし<8>の事実及び同原告が清恵会病院での治療費として一万七〇〇〇円を要したことを認めることができる。

ところで、前記甲第四号証、第七号証並びに原告繁夫の本人尋問の結果によれば、同原告、好日荘マツサージ指圧部において筒に熱いものを入れて頸から背中にかけてを押す温炎による治療を受け、更に柏整骨院で電気針及びマツサージによる治療を受けた事実が認められるが、これらの治療については、医師の指示があつたと認められない上、いずれも箕面市立病院での通院治療と並行して受けたものであり、またその医療効果が明らかでなく、現実に同原告の症状が右各治療により改善した事実も認められないから、これらの治療の必要性を認めることはできない。

(二)  入院雑費 二万五〇〇〇円

原告繁夫が箕面市立病院に二五日間入院したことは、前記認定のとおりであり、右入院期間中一日一〇〇〇円の割合による入院雑費を要したことは、経験則上これを認めることができる。

ところで、原告両名は、各本人尋問の中で、請求原因3の(二)の(2)の<2>の事実に沿う供述をしているが、右各供述は前記乙第一号証の一ないし七、証人麻生弘の証言並びに弁論の全趣旨に照らしてにわかに信用し難く、他に右事実を認めるに足りる証拠もない。

(三)  通院交通費 六万八一三〇円

前記乙第一号証の一ないし七、原告繁夫の本人尋問の結果及びこれにより真正に成立したことが認められる甲第一三号証、原告ひろみの本人尋問の結果及びこれにより真正に成立したことが認められる甲第一一、第一二号証の各一ないし三、前記三の1の(二)において認定した事実によれば、請求原因事実3の(二)の(3)の<1>及び<4>の事実が認められる。同<3>については、前記のとおり柏整骨院での治療の必要性は認められないから、これに伴う通院交通費についても、本件事故との相当因果関係を認めることはできない。

次に、同<2>について判断するに、原告ひろみの本人尋問の結果並びにこれによつて真正な成立が認められる甲第一四号証の一ないし三によれば、原告らの自宅から箕面市立病院まではバスによつて通院することも可能であること、タクシーを利用した場合には片道六七〇円を要することが認められるところ、前記認定の原告繁夫の受傷の部位、症状の程度、治療経過等によれば、本件事故直後の通院にタクシーを利用するのはやむを得ないとしても、その後三か月以上経過した時期以降においてはもはやタクシーを利用する必要性に乏しく、バスを利用すれば足りると考えられるから、タクシーを利用した場合の交通費の約四割程度にあたる三万一〇〇〇円を本件事故と相当因果関係のある箕面市立病院への通院交通費とみるのが相当である。

(四)  妻の両親の交通費 六万円

原告繁夫の本人尋問の結果によれば、請求原因3の(二)の(4)の事実が認められるが、原告両名の身の回りの世話をするためには妻の両親のうちどちらか一人を呼び寄せれば足りると考えられるから、一人分の交通費である六万円が本件事故と相当因果関係のある損害というべきである。

(五)  通院期間中の家族付添費 四五〇〇円

原告繁夫が、昭和五七年二月七日から同年三月一一日までの三三日間のうち、箕面市立病院に入院中の二一日間を除く一二日間自宅又は妻の実家から通院したことは前記認定のとおりであり、同原告の症状の程度、治療経過等からみれば、右通院期間のうち同年二月七日から同月九日までの三日間自宅において家族による身の回りの世話等の付添を受ける必要があり、経験則上その間一日一五〇〇円の割合による合計四五〇〇円の損害を被つたことが認められるが、これを超える期間については自宅等における付添の必要性は認められない。

3  休業損害 一三九二万六八一六円

原告繁夫が本件事故により昭和五七年二月六日から昭和五九年一一月三〇日まで休業を余儀なくされたことは前記認定のとおりであり、成立に争いのない甲第三三号証、乙第二号証の一ないし三によれば、原告繁夫が全日空に航空機関士として通常に勤務した場合得られたはずの収入は、昭和五七年二月六日から昭和五八年一二月三一日まで定期昇給及び一時金を含めて二二八七万六一六四円、昭和五九年一月一日から同年九月三〇日まで同じく八六七万〇三四一円であり、同年四月から同年九月までの六か月間の平均月収は八六万五一四七円であるから、同年一〇月分及び一一月分の収入は合計一七三万〇二九四円であると考えられ、原告繁夫が右休業期間に得ることができたと認められる収入は合計三三二七万六七九九円となる。

一方、前掲各証拠及び成立に争いのない甲第三五号証、乙第一〇号証の一並びに原告繁夫の本人尋問の結果によれば、同原告は、全日空より昭和五七年二月六日から昭和五八年二月五日までの欠勤期間中の賃金として一〇〇九万一〇三六円、全日空健保より同月六日から昭和五九年一一月三〇日までの休暇期間中の傷病手当金として九二五万八九四七円の各支払を受けた事実が認められるから、前記認定の同原告が休業期間中に得ることができた収入から右各支払額を差引くと一三九二万六八一六円となる。

ところで、原告繁夫は、前記甲第三三号証等において全日空が算出した同原告の賃金額は最低額であり、実際に稼働した場合には乗務手当等の諸手当がつくため、右賃金額の一割ないし二割増しの金額が同原告の実際の収入額である旨主張し、その本人尋問の中でこれに沿う供述をし、同尋問により真正な成立が認められる甲第一八号証の四によれば、昭和五七年二月分の給与においては乗務手当等が付加されて支給されている事実が認められるが、成立に争いのない甲第三八号証の三、四によれば、昭和六〇年二月分の給与は一三〇万〇三六五円であるのに、同年三月分の給与は九〇万五八八六円であり、各月によつて支給額に大きな差が認められるから、前記昭和五七年二月分の給与の支給内容のみによつて実際の毎月の収入額が全日空の算出した賃金額より多いと認めることはできないし、原告繁夫の右供述もにわかに信用できず、他にこれを認めるに足りる証拠はない。

4  慰藉料 一二〇万円

本件事故の態様、原告繁夫の傷害の部位、程度、治療の経過、その他諸般の事情を考えあわせると、同原告の慰藉料額は一二〇万円とするのが相当であると認められる。

5  物損 一三四万円

本件事故により被害車の後部トランク及び前部バンパーに凹損が生じたことは前記認定のとおりであり、原告繁夫の本人尋問の結果及びこれにより真正に成立したものと認められる甲第一九号証、第二一ないし第二四号証、弁論の全趣旨により真正な成立が認められる甲第二〇号証によれば、請求原因3の(五)の(1)の<1>及び<2>の事実が認められる。

更に、右各証拠によれば、本件事故により後部トランクの中に積み込まれていて壊れたインバーターは右事故に一、二年前に七、八万円で、オートヘルムは同じく一、二年前に二七万円で、ラジオは同じく一年前に六〇万円で原告繁夫が購入したものであり、バツテリーについては購入時期及び価格は不明で新品は四万三八〇〇円である事実が認められるから、右インバーターほか三点の本件事故当時の時価は合計七〇万円程度とみるのが相当である。

6  損害額合計 一八八〇万六〇四一円

四  原告ひろみの損害

1  受傷及び治療経過

(一)  受傷

請求原因4の(一)の(1)の事実は当事者間に争いがない。

(二)  治療経過

成立に争いのない甲第二七号証の一、第二八号証の一、二並びに原告ひろみの本人尋問の結果によれば、請求原因4の(一)の(2)の事実を認めることができる。

(三)  本件事故との因果関係

原告ひろみの春日居温泉病院における入通院治療の必要性について争いがあるので検討するに、前記甲第二七号証の三、四、第二八号証の三、第二九号証並びに証人児島義介、同麻生弘の各証言、原告ひろみの本人尋問の結果によれば、次のとおりの事実が認められ、右認定を覆すに足りる証拠はない。

(1) 原告ひろみは、本件事故後、首から肩甲骨にかけてが重苦しく、首が頭の重みを感じて痛み、腰も痛かつたが、箕面市立病院での診断では、神経症状はなく、頸椎及び腰椎のレントゲン写真にも異常なく、その他の他覚的所見も認められなかつたことから、担当の前記児島医師から症状は軽いと判断されて家庭での安静を勧められ、同病院には理学療法士が二人おり理学療法室はかなり充実し設備が整つているにもかかわらず、投薬及び首と腰への湿布による治療を受け、理学療法は受けなかつたこと(請求原因3の(一)の(2)の<2>)

(2) その後、原告ひろみは、夫である原告繁夫とともに春日居温泉病院へ転院し、頸の疼痛、圧迫感、上肢、腰のしびれ感、腰痛を訴えたが、頸椎の運動に支障なく、頸椎及び腰椎のレントゲン写真上にも異常所見なく、他覚的所見としては、足を持ち上げると痛むという症状が軽度に見られたのみであつたところ、原告繁夫に続いてリハビリテーシヨン等の理学療法を受けることを希望して入院し、約一か月後に軽快して退院し、その後一か月間通院治療を受けたこと(同<3>ないし<5>)

右の事実及び前記三の1の(三)の(1)において認定した本件事故の際の受傷状況に関する事実によれば、原告ひろみの受傷の程度は原告繁夫より軽く、箕面市立病院では入院の必要性が認められなかつたばかりか理学療法も行われなかつたのに、春日居温泉病院においては、さしたる他覚的所見もなく特に症状が悪化したわけでもないのに、原告ひろみの希望により、リハビリテーシヨンを実施するため同原告を入院させているものであつて、同原告については、右病院において継続して治療を受ける必要性は認められるとしても、入院による治療の必要性は疑わしいといわざるを得ず、本件事故と右病院における入院治療との間には相当因果関係が認められないというべきである。

2  治療関係費 三六万三四一〇円

(一)  治療費(文書料を含む。) 二二万四一九〇円

前記甲第二七号証の四並びに原告ひろみの本人尋問の結果によれば、請求原因4の(二)の(1)の<2>の事実及び同原告が清恵会病院での治療費として一万三六〇〇円を要したことを認めることができる。

原告ひろみの春日居温泉病院における入院の必要性が認められないのは前記のとおりであり、前記甲第二八号証の三及び成立に争いのない甲第二八号証の四によつて認められる右病院における治療費四八万八五〇〇円から入院に関する費用三一万六五四〇円を控除した一七万一九六〇円が本件事故と相当因果関係のある右治療費であると認められる。

(二)  入院雑費

前記のとおり原告ひろみの入院の必要性は認められないから、入院雑費も本件事故と相当因果関係のある損害とは認められない。

(三)  通院交通費 一〇万七七二〇円

原告ひろみの箕面市立病院への通院交通費については、前記三の2の(三)において認定した事実及び前記認定の同原告の受傷の部位、症状の程度、治療経過等によれば、右病院への通院にはバスを利用すれば足りると考えられるから、タクシーを利用した場合の交通費の約三割にあたる三二〇〇円を本件事故と相当因果関係のある右通院交通費とみるのが相当である。

前記甲第一一、第一二号証の各一ないし三、乙第一号証の一ないし七によれば、請求原因4の(二)の(3)の<2>の事実が認められる。

(四)  両親宅への宿泊費

原告らが原告ひろみの両親宅から通院して世話になり、食費等の宿泊費を支払つたとしても、食費等は本件事故の有無に関わりなく、原告らが生活する上で必要な費用であることは明らかであるから、本件事故との因果関係は認められない。

(五)  通院期間中の家族付添費 三万一五〇〇円

原告ひろみが昭和五七年二月七日から同年三月一六日まで自宅及び実家から通院したことは前記認定のとおりであり、同原告の症状の程度、治療経過等からみれば、右通院期間のうち同年二月七日から三週間程度自宅において安静を保つたため家族による身の回りの世話等の付添を受ける必要があり、経験則上その間一日一五〇〇円の割合による合計三万一五〇〇円の損害を被つたことが認められるが、これを超える期間については自宅等における付添の必要性は認められない。

3  慰藉料 二〇万円

本件事故の態様、原告ひろみの傷害の部位、程度、治療の経過、その他諸般の事情を考えあわせると、同原告の慰藉料額は二〇万円とするのが相当であると認められる。

4  損害額合計 五六万三四一〇円

五  損害の填補

1  原告繁夫の請求について

(一)  請求原因5の(一)の(1)及び(2)の事実、抗弁1の(一)のうち原告繁夫が被告会社から五万九一一一円の支払を受けたことは、当事者間に争いがない。

(二)  前記甲第六号証の四並びに証人麻生弘の証言によれば、抗弁1の(一)のうち原告繁夫が自動車共済から同原告が自認している分以外に一万一二一五円の支払を受けた事実を認めることができる。

(三)  抗弁1の(二)のうち、原告繁夫が東京海上から本件事故による休業補償として一四四二万円の所得補償保険金を受領したことは、当事者間に争いがない。

成立に争いがない乙第八号証の四によれば、右所得補償保険は、被保険者が傷害又は疾病を被り、そのために就業不能になつたときに被保険者が被る損失について、就業不能期間一か月につき、保険証券記載の保険金額か、あるいは平均月間所得額が右保険金額より小さい時は同所得額を支払う保険であること、同一の危険を担保する他の保険契約があり就業不能期間が重複し、一か月当たりのそれぞれの保険金の合算額が平均月間所得額を超える場合には、同所得額を各保険金の額であん分して保険金を支払うこととされていることを認めることができ、これによれば、右所得補償保険は、被保険者の損害の填補を目的とする損害保険の一種であると考えられる。

ところで、損害保険においては、損害が第三者の行為によつて生じた場合、保険者が被保険者に対しその負担額を支払つた時には、その支払つた保険金の限度で被保険者が第三者に対して有する権利を保険者が取得する(商法六六二条、保険代位)。その結果、被保険者が第三者に対して請求できる額は、右支払を受けた額だけ減少することになる。

そうすると本件の場合、原告繁夫の休業損害額が一三九二万六八一六円であることは前記認定のとおりであるから、これから同原告が所得補償保険金として受領した一四四二万円を控除すべきであるが保険金額が休業損害額を上回るため、同原告が被告らに対し有していた右の休業損害に関する賠責請求権は全額東京海上に移転済みということになることから結局右休業損害額を同原告の前記損害額合計から控除すべきであると考えられる。

(四)  原告繁夫の前記損害額合計一八八〇万六〇四一円から、右(一)ないし(三)の各金額を控除すると、残損害額は三〇一万一〇七九円となる。

2  原告ひろみの請求について

(一)  請求原因5の(二)の事実については当事者間に争いがない。

(二)  前記甲第二八号証の三、成立に争いのない乙第四号証の一ないし三によれば、原告ひろみが自転車共済から同原告が自認している分以外に二万一三〇〇円の支払いを受けた事実が認められるが、その余の支払いについてはこれを認めるに足りる証拠がない。

(三)  原告ひろみの前記損害額合計五六万三四一〇円から右(一)及び(二)の填補額合計四七万六五〇〇円を差引くと、残損害額は八万六九一〇円となる。

六  弁護士費用

本件事案の内容、審理経過、認容額等に照らすと、原告らが被告らに対して本件事故による損害として賠償を求め得る弁護士費用の額は、原告繁夫につき三〇万円、原告ひろみにつき一万円とするのが相当であると認められる。

七  結論

よつて被告らは各自、原告繁夫に対し、三三一万一〇七九円及びこれに対する本件事故の日の後の日である昭和六〇年一二月一一日から支払ずみまで年五分の割合による遅延損害金を、原告ひろみに対し、九万六九一〇円及びこれに対する右事故の日の後の日である昭和五九年二月一七日から支払ずみまで年五分の割合による遅延損害金をそれぞれ支払う義務があり、原告らの本訴請求は右の限度で正当であるからこれを認容し、その余の請求は理由がないから棄却することとし、訴訟費用の負担につき民訴法八九条、九二条、九三条、仮執行宣言につき同法一九六条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 細井正弘)

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