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大阪地方裁判所 昭和59年(ワ)8157号 判決 1985年12月24日

原告

杉本岩夫こと

呉福守

右訴訟代理人

岡田隆芳

被告

松尾享一

右法定代理人

松尾綾子

右訴訟代理人

岩崎英世

右訴訟復代理人

臼田寛司

主文

一  被告は原告に対し、金一二五万七五二〇円及びこれに対する昭和五九年一一月一一日から支払済まで年五分の割合による金員を支払え。

二  原告のその余の請求を棄却する。

三  訴訟費用はこれを二分し、その一を原告の負担とし、その余を被告の負担とする。

四  この判決は第一項に限り仮に執行することができる。

理由

一事故の発生

請求原因1の(一)ないし(四)及び(五)の受傷の点を除く事実は、当事者間に争いがない。同(五)の受傷については後記三1で認定のとおりである。

二責任原因(一般不法行為責任)

<証拠>によれば、被告は、被告車を運転するに当り、前方を注視することを怠つた過失があると認められるから、民法七〇九条の規定により、原告が本件事故によつて被つた損害を賠償する責任がある。

三損害

1  受傷、治療経過

<証拠>並びに原告本人尋問の結果によれば、請求原因3(一)の事実が認められる。

2  治療費(嶋整骨院)

(一)  <証拠>並びに原告本人尋問の結果によれば、原告は、前記認定の嶋整骨院にて受けた施術料等として合計二三五万円四〇〇〇円を支払つたことが認められる。

(二)  被告は、嶋整骨院の施療は、医師の指示もしくは同意に基づかないから本件事故と相当因果関係がないと主張する(被告の主張5(一))ところ、<証拠>並びに原告本人尋問の結果によれば、原告は、前記のとおり山家クリニックにて山家健一医師の診療を受けていたが、原告自らの判断で山家クリニックへの通院をやめ、以後嶋整骨院に通院し、柔道整復師嶋寛一、嶋寛二の施療を受けるようになつたものであり、これにつき山家医師は何ら指示もしくは同意をしていないことが認められる。しかしながら<証拠>並びに証人村田歳光の証言によれば、原告の前記症状は、右山家クリニックから嶋整骨院への転院時には更に治療を加える必要が認められる状態であつたことが認められるところ、柔道整復師は捻挫(原告の症状もこれに当る。)に治療を施すことについては医師の同意を要するといつた制限もないのであるから、原告が嶋整骨院で施術を受けることは本件事故と相当因果関係があるというべきであり、被告の右主張は理由がない。

(三)  次に、被告は、嶋整骨院では身体の六部位に施療がなされているが、その内一ないし二部位を超える施療は本件事故と相当因果関係がないと主張する(被告の主張5(二))。証人村田歳光の証言によれば、柔道整復師である村田歳光は原告の前記傷病名については身体の一ないし二部位に施療することが多いこと、また、一般的には施療の必要な部位は治療を重ねていけば減少していくものと考えていることが認められるが、原告自身の施療必要部位については原告を直接診療していないので断言できないと考えていることが認められ、証人嶋寛一の証言によれば、嶋寛一は、原告を診療し、原告の症状は第三頸椎の捻挫による神経圧迫から発生する痛みが頸、左右の肩、背筋部、左右上肢、指先にまで放散しており、左右の肩、腕、腰の筋肉に硬縮感があると判断して、六部位に対する施療をしたものであると認められるから、嶋整骨院における施療はいずれも本件事故と相当因果関係があるものと認められ、被告の右主張は理由がない。

(四)  更に、被告は、嶋整骨院の治療費が健保基準等と比較して高額に過ぎると主張する(被告の認否及び主張5(三))。

<証拠>によれば、嶋整骨院の治療費の内訳は、初検料二〇〇〇円、初回処置料が二部位各五〇〇〇円、四部位各三〇〇〇円合計二万二〇〇〇円、後療料が二部位各三〇〇〇円、四部位各二〇〇〇円の一一六回分合計一六二万四〇〇〇円、電療料が六部位各一〇〇〇円の一一七回分合計七〇万二〇〇〇円、文書料四〇〇〇円であることが認められ、これに対し、<証拠>並びに証人兼頭篤弘及び同村田歳光の各証言によれば、柔道整復師会と協定を結んでいる健康保険の保険者に属する被保険者等は、その協定の相手方である柔道整復師会に所属する柔道整復師(嶋寛一及び寛二もその一員である。)については、一般の保険医療機関に受診すると同様の形で、その施術を受けることができ、嶋整骨院での右施術の費用につき社会保険における診療報酬基準に従つて算定した場合は、初検料七二〇円、初回処置料六部位各六六〇円(合計三九六〇円)、後療料六部位各四〇五円の一一六回分合計二八万一八八〇円、電療料六部位各一〇〇円の一一七回分合計七万〇二〇〇円の合計三五万六七六〇円となり、文書料四〇〇〇円との合計額は三六万〇七六〇円となることが認められる。

ところで、自由診療契約における治療費については、健保基準等と照らし、常にその一定倍を超えれば不当に高額であるとまではいえないが、交通事故の被害者の受傷の程度、治療内容等の諸事情を勘案して、一定額を超える部分は交通事故に基づく損害としては相当因果関係が認められず、加害者に請求することができないと考えられる場合がある。

そこで、本件について検討するに、原告は、本件追突事故により頸部及び腰部捻挫というべき傷害を負い、右受傷につき延四五日間(実日数一二日)通院して医師の治療を受けた後の段階で、自己の判断により整骨院に転院して五か月余り身体の六部位に柔道整復師の施術を受けたものであること前記認定のとおりであり、右認定事実を勘案すれば、嶋整骨院の治療費の内本件事故の加害者である被告の負担すべき部分は、前記社会保険における診療報酬算定基準額(文書料を除き三五万六七六〇円)の二倍に当る七一万三五二〇円及び文書料四〇〇〇円の合計七一万七五二〇円にとどまり、右額を超える部分は本件事故と相当因果関係のある損害ではないというべきである。

(五)  原告は、請求原因2(三)のとおり、原告が嶋整骨院において自由診療を受けることにつき原、被告間で合意したと主張し、弁論の全趣旨により真正に成立したものと認められる<証拠>並びに原告本人尋問の結果によれば、原告は、嶋整骨院に転院して治療を受けることを保険会社に通知し、保険会社の担当社員がこれを了解したことが認められるが、これのみをもつて、自由診療による施療費を全額支払うことを合意したとまでは認められず、他に右合意がなされたことを認めるに足りる証拠もない。

3  慰藉料

本件事故の態様、原告の傷害の部位、程度、治療の経過その他諸般の事情を考えあわせると、原告の慰藉料額は四二万円とするのが相当であると認められる。

四弁護士費用

本件事案の内容、審理経過、認容額等に照すと、原告が被告に対して本件事故による損害として賠償を求め得る弁護士費用の額は一二万円とするのが相当であると認められる。

五結論

よつて、被告は原告に対し、損害賠償金一二五万七五二〇円及びこれに対する本件不法行為の日の後の日である昭和五九年一一月一一日から支払済まで民法所定の年五分の割合による遅延損害金を、それぞれ支払う義務があり、原告の本訴請求は右の限度で正当であるからこれを認容し、その余の請求は理由がないから棄却することとし、訴訟費用の負担につき民訴法八九条、九二条、仮執行宣言につき同法一九六条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官長谷川 誠)

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