大阪地方裁判所 昭和60年(ワ)2525号 判決
一 原告らが本件特許権を有すること、本件発明の構成要件を分説すると請求原因3(一)記載のとおりであること、本件発明の作用効果が請求原因3(二)記載のとおりであること及び被告が昭和五七年春ころからイ号装置を業として製造、販売していることは、いずれも当事者間に争いがない(但し、別紙物件目録のイ号図面説明書には一部争いがあるが、この点はひとまず措く。)。
二 成立に争いのない甲第九号証は、被告製造に係るコイルバネ製造機VF800FT及びVF800MFTのマニユアルのコピーであり、証人釣谷勝秀の証言によれば、右コイルバネ製造機VF800MFTとイ号装置とは、その使用し得る回転駆動制御方法に関して、本質的な差異はないことが認められるところ(被告代表者本人は、本質的な差異があるかのように供述するが、右供述は、具体性を欠くばかりでなく証人釣谷勝秀の証言に照らして措信し難い。)、右甲第九号証によれば、VF800MFTは(したがつてイ号装置も)、ワイヤ送りをコンピユータ制御しており、その使用し得る回転駆動制御方法は、主モーターと補助モーターの組合せが八六通りもあつて、必ずしも本件発明のような主モーターと補助モーターの組合せに限定されるものではないことが認められる。
三 もつとも、いずれも証人釣谷勝秀の証言により成立を認める乙第二、第三号証、いずれも各工程のスプリングを試作した半製品であることに争いのない検乙第一ないし第一二号証及び証人釣谷勝秀の証言によれば、イ号装置の使用において最も高頻度に用いられる回転駆動制御方法は、別紙参考図一記載の引張バネの半製品を製造するための、被告の主張1記載のロ号方法であることが認められる。なお、原告らは、イ号装置が使用する回転駆動制御方法はイ号方法であると主張するが、右主張事実を認めるに足りる証拠はない。成立に争いのない甲第六号証には、イ号装置の機構の概略図があり、弁論の全趣旨により成立を認める甲第五号証には、イ号装置の作動の説明があるが、前者は、原告入江本人尋問の結果によれば、機構の一部を省略して記載した疑いがあり、後者も、これに記載があつて原告主張のイ号方法の説明ではそれが省略されている作動の説明があり、いずれも前記原告の主張を認めるに足りるものではない。
四 そして、本件発明は、本件明細書の特許請求の範囲第一項の記載からも明らかなように、必ずしもコイルバネ製造方法に限定されたものではないけれども、同明細書に実施例としてコイルバネ製造の場合だけしか記載がないことや前記甲第六号証記載の本件発明に至る経緯及び原告入江本人尋問の結果からすれば、元来はコイルバネ製造の方法であることを念頭においてなされた発明であることが認められる。
五 そこで、本件発明とロ号方法とを対比する。
1 本件発明は、前記構成要件の分説から明らかなとおり、主→補助→主という順序での主モーターと補助モーターとの交互切替を骨子とするものである。これに対して、ロ号方法は、前記被告の主張1の工程の説明から明らかなとおり、補助→主→補助→補助→補助→主の順にモーターを切替えるものである。したがつて、両者は、まずこの点で相違する。もつとも、原告らは、この点につき、ロ号方法は単に本件発明の方法を二度繰り返すものであるにすぎない旨主張する。しかし、ロ号方法は、前記被告の主張1の工程の説明から明らかなとおり、一連の工程として行われるのであつて、これを原告ら主張のように分断して捉えることはできない。
2 本件発明においては、少なくとも主モーターから補助モーターへの切替は、主モーターからの回転力の伝達が断たれると「同時に」補助モーターからの回転力の伝達が始まるという形でなされなければならない(構成要件B)。これに対して、ロ号方法においては、前記被告の主張1の工程の説明から明らかなとおり、主モーターから補助モーターに切替えられるまでの間にはワイヤ送りが停止される一定の停止時間が存在するのであつて、主モーターからの回転力の伝達が断たれると同時に補助モーターからの回転力の伝達が始まるというわけではない。したがつて、両者は、この点でも相違する。もつとも、原告らは、右停止時間は僅少のものであり、モーター切替をスムーズに行わせるために必要な準備期間であるにすぎない旨主張する。しかし、右停止時間は、前記被告の主張1の工程の説明(別紙参考図三参照)から明らかなとおり、カム軸が一定の角度回転する時間であつて全工程の所要時間との対比でいえば必ずしも僅少な時間とはいい得ないのみならず、前フツク部の起立作業及び引張バネの切断分離作業に必要不可欠な時間である。
3 したがつて、本件発明とロ号方法とは、その他の点を対比するまでもなく、明らかに相違するものといわなければならない。六 そうだとすると、いずれにしても、イ号装置は本件発明の実施にのみ使用されるものであるなどとは到底いうことができないから、原告らの本訴請求は、その余の点について判断するまでもなく、すべて理由がない。
〔編註〕 本願発明の構成要件は左のとおりである。
A 主モーターによつて駆動回転せしめられている駆動主軸1から、工作部などに連結せしめられている従動軸6への回転力の伝達を断つこと。
B 同時に、別個に設置されている回転数調節自在な補助モーター12からの回転力を従動軸6に伝えること。
C 従動軸6が所定量回転するまで、従動軸6を該補助モーター12によつて回転駆動せしめること。
D 従動軸6の回転量に符合してパルスを発生するパルス発生機9からのパルス計数値が所定量に達した時、前記の如くセツトされている補助モーター12から従動軸6への回転力の伝達を断つこと。
E 再び駆動主軸1からの回転力の伝達に切替えること。
F 工作機械等における回転駆動制御方法であること。