大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

大阪地方裁判所 昭和60年(ワ)3515号 判決 1986年5月23日

原告 小西萬右衛門

被告 ノーザンウール株式会社 外一名

主文

原告の被告らに対する請求をいずれも棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実

一  当事者の求めた裁判

1  原告

(一)  被告らは別紙イ号物件説明書記載の物件を製造し、販売してはならない。

(二)  被告らは原告に対し、各々金五〇〇万円及びこれに対する昭和六〇年五月一九日から完済まで年五分の割合による金員を支払え。

(三)  訴訟費用は被告らの負担とする。

(四)  右(二)項はこれを仮に執行することができる。

2  被告ら

主文と同旨

二  原告の請求原因

1  原告は次の特許権(以下「本件特許権」といい、その発明を「本件発明」という。)の共有権者である。

特許番号    第一一九四〇九九号

発明の名称   繊維分離装置

出願日     昭和五三年一月八日

出願公告日   昭和五八年五月三〇日

登録日     昭和五九年三月一二日

特許請求の範囲 別紙特許公報の該当欄記載のとおり

2  本件発明の構成要件及び作用効果

(一)  構成要件

(1) 繊維原料若しくは繊維処理装置から排出される処理繊維を取り入れ、該取り入れ繊維群中に含まれる夾雑物及び繊維塊等の重量物を取り除いて再利用可能な有効繊維を回収するための繊維分離装置であつて、

(2) 該装置は、取り入れ繊維群を集綿しながら送り込む繊維供給装置と、該繊維供給装置の繊維群送り出し部に隣接した開繊分離ローラ装置と、該開繊分離ローラ装置の上方に配設し且つ集綿タンクに接続した分離繊維取出吸引装置とから成り、

(3) 開繊分離ローラ装置は、繊維供給装置に設けた固定台から送り出される繊維群を下部方向へ開繊作用するような歯形材を周面に配設した開繊分離ローラで構成し、

(4) 分離繊維取出吸引装置は、吸引フアンに連結した主吸引ダクトを下向延長させて開繊分離ローラの開繊作用反対側へ接線方向で且つ開繊分離ローラの軸方向周面にわたつて開口させて構成し、

(5) 吸引ダクトと開繊分離ローラとの接合部は、先端側にほぼ三角状断面の分離板を設けた覆板を開繊分離ローラの軸に揺動可能に取り付けて回収繊維通路を形成し、

(6) 該回収繊維通路は、分離板の先端側において開繊分離ローラと僅かの間隙を形成して吸引ダクト側へ近づくに従つて順次間隙を広く形成するとともに、吸引ダクトとの接続部には空気導入調節板を開閉自在に設けて構成したこと

(7) を特徴とする繊維分離装置

(二)  作用効果

分離ローラが高速回転し、固定台とフイードローラで把持した繊維をフイードローラの回転によつて分離ローラ側に繊維群を供給し、供給された繊維群は分離ローラによつて開繊作用を受け、ネツプ夾雑物等の重量物は遠心方向に飛散して落下し、他のものと別れて取り除かれる。また、この開繊作用によつて一部の繊維は分離ローラの歯に保持され、一部の繊維はフリスペースから分離室内に浮遊しながら離脱する。しかるに、このフリスペースに吸引気流を積極的に形成し、浮遊離脱繊維を吸引気流で回収する。

しかして、このような吸引気流は、分離ローラの高速回転による随伴気流だけでも構成できるが極めて僅かであり、しかも間隙の近傍のみである。従つて吸引流は他の吸引力で補う必要がある。よつて、このような分離ローラの繊維剥離作用と吸引気流の形成を、吸引ダクトの吸引で同時に行うように構成したものである。

従つて、供給原料は分離ローラで開繊作用を受け、その中に含まれるネツプ夾雑物等の重量物を分離室の底面に堆積し、有効繊維は分離ローラで運ばれ、離脱した浮遊繊維は吸引気流で回収される。そして、吸引ダクトの開口部に至つた分離ローラ面は、吸引ダクトの吸引気流によつて保持した繊維を吸引ダクト内で剥離される。また、浮遊した繊維も覆板と分離ローラの間を介して吸引ダクトで回収され、繊維原料中に含まれる夾雑物を有効に取り除いたうえ、不必要な繊維原料の落下を防止する。

3  被告らは、別紙イ号物件説明書記載の繊維分離装置(以下「イ号物件」という。)を業として製造販売し、その所有に係るイ号物件を占有している。

4  イ号物件の構成及び作用効果

(一)  構成

(1) 別紙イ号物件説明書の三の(1)と同旨。

(2) 同三の(2)と同旨。

(3) 同三の(3)と同旨。

(4) 同三の(4)と同旨。

(5) 同三の(5)と同旨。

(6) 同三の(6)と同旨。

(7) 同三の(7)と同旨。

(二)  作用効果

本件発明と全く同様の作用効果を奏する。

5  イ号物件と本件発明との対比

(一)  イ号物件の構成と本件発明の構成要件との対比

(1) イ号物件の構成(1)ないし(4)は、本件発明の構成要件(1)ないし(4)と同一である。

(2) 本件発明の構成要件(5)は、覆板を開繊分離ローラの軸に揺動自在に取り付けているのに対し、イ号物件の構成(5)は、覆板を吸引ダクトの下端に連結して取り付けている点が相違する。

しかし、両者は覆板によつて分離ローラを外気より遮断するために配設されるものであり、この目的を達成する手段として有する作用効果が本質的に同一であつて、相互に転換可能な手段である。

従つて、イ号物件の構成(5)と本件発明の構成要件(5)とは実質的に同一である。

(3) 本件発明の構成要件(6)とイ号物件の構成(6)との相違は、本件発明においては、空気導入調節手段を吸引ダクトとの接続部に設けるとしてその配設位置を特定しているのに対し、イ号物件においてはその位置が不明である。

しかし、吸引機構などにおいて空気量を調整することは周知の手段であり、吸引ダクト内の空気吸引力の調整を行う上において両者は均等構造である。

(4) イ号物件の構成(7)は本件発明の構成要件(7)と同一である。

(二)  イ号物件と本件発明とはその作用効果も同一である。

(三)  よつて、イ号物件は本件発明の技術的範囲に属するものである。

6  被告らは、イ号物件にはストリツピングローラ及びそれに接続する吸引ダクトが存在せず、本件発明の構成要件を具備しないと主張する。しかし、ストリツピングローラ及びそれに接続する吸引ダクトは本件発明の構成要件ではない。

(一)  本件明細書には次のとおり記載されており、ストリツピングローラは選択可能なものにすぎず、本件発明の構成に欠くことのできない構成要件ではない。

(1) 「該分離装置には、繊維剥離吸引用のダクトおよび必要によつて設けられるストリツピングローラの繊維剥離吸引ダクトが連設される。」(本件公報4欄17~19行)。

(2) 「開繊分離装置は主として開繊分離ローラで構成され、」(4欄38~39行)。

(3) 「ストリツピングローラを取り除いて構成することができる。」(7欄13~14行)。

(二)  ストリツピングローラを必ずしも必要としない以上、右ローラに接続する吸引ダクトも当然本件発明の構成に欠くことのできない事項ではない。

(三)  特許発明の技術的範囲は、明細書中の特許請求の範囲の記載に基づいて判断すべきことは一般論としては妥当するが、右請求の範囲の記載に明らかな余事記載がある場合には、発明の詳細な説明等を参考として特許発明の要部を決定すべきである。

本件の場合は、原告が弁理士に依頼することなく本人自身で出願書類を作成したため、特許請求の範囲の記載が極めて拙劣となり、その記載中には発明の構成に欠くことのできない事項以外の事項を記載したものと解すべきである。

7  仮に、ストリツピングローラ及びそれに接続する吸引ダクトが本件発明の構成要件であるとしても、イ号物件は本件発明の不完全利用であつて、本件発明の技術的範囲に属する。

(一)  洗毛後の残脂率の高い原料や細くて長い繊維は巻きつき易いため、これらを加工する場合にはストリツピングローラは必須のものとなるが、原料のなかでもテイーカインローラに繊維が巻きつかずに加工できる場合には、ストリツピングローラの設置の必要はない。

本件発明はストリツピングローラを設置しておき、巻きつき易い原料の場合は作動させ、巻きつかない原料の場合には作動しないように使い分ける。このようにストリツピングローラを設置した目的は、繊維分離機が色々な種類や品質の原料に対応して、安全且つ能率的に使用できるようにすることにある。

(二)  本件発明の最重要部分は、先端側に断面三角形状の分離板を設けた覆板を開繊分離ローラの軸に揺動可能に取り付けて回収繊維通路を形成し、該回収繊維通路は、吸引装置に直接接続していると共に、分離板の先端側において開繊分離ローラと僅かの間隙を形成して吸引ダクト側に近づくに従つて徐々に間隙を広く形成し、繊維分離機能を著しく向上させた点にあり、この技術構成が本件発明の基本的な構成部分となつている。本件発明は、この最重要部分の技術構成に新規性・進歩性が認められて登録となつたものである。

ストリツピングローラは繊維分離機能を持つておらず、テイーカインローラに繊維が巻きつくのを防ぐための補助的な機能であることは周知のことであり、ストリツピングローラの設置により本件発明が成立するものではない。ストリツピングローラは本件発明の重要な要件ではなく付随的な要件であり、本件発明の重要な作用効果は前記基本的な構成要件によつて達成し得るものである。

(三)  イ号物件は、原告が設計製作し、本件特許権を取得している繊維分離装置と、形状・寸法・大きさその他の重要細部においても全く同一であり、原告と同じ部品メーカーで全く同じ部品を使つており、ストリツピングローラとそのための吸引装置のみを外している点を除けば、原告機械の丸写しである。

イ号物件がストリツピングローラを外しているのは、被告が原毛の洗滌後に残る残脂量を低く押えることによつてテイーカインローラに繊維が巻きつくのを回避しているか、あるいは残脂量が高いままでの分離をなすことによつて、結果的に繊維分離機能の低下、加工製品の品質低下を甘受しているかのいずれかである。

このような点からみても、ストリツピングローラは本件発明の付随的構成要件であり、本件発明の基本的な構成要件を総て備えて付随的な構成要件のみを欠如するイ号物件は、本件発明の不完全利用であつてその技術的範囲に属するものである。

8  被告らは、イ号物件が本件特許権を侵害することを知りながら、昭和五六年以降イ号物件を製造販売し、これを付した大量の繊維処理装置をモンゴルや中国へ輸出している。その総売上高は被告ら各々につき一億円以上である。

本件発明の実施料率は売上高の五パーセントが相当であるので、被告らは各々原告に対し、損害賠償金五〇〇万円以上の支払義務がある(特許法一〇二条二項)。

9  よつて、原告は被告らに対し次の各裁判を求める。

(一)  イ号物件の製造販売の差止め。

(二)  各々損害賠償金の一部五〇〇万円、及びこれに対する不法行為後である昭和六〇年五月一九日から完済まで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払。

三  請求原因に対する被告らの認否

1  請求原因1項は認める。

2  同2項は否認する。

3  同3項は認める。

4  同4項の(一)は認めるが、(二)は争う。

5  同5項ないし7項は争う。

6  同8項は否認する。

四  被告らの主張

1  本件発明の構成要件は次のとおりである。

(1)  繊維原料若しくは繊維処理装置から排出される処理繊維を取り入れ、該取り入れ繊維群中に含まれる夾雑物及び繊維塊等の重量物を取り除いて再利用可能な有効繊維を回収するための繊維分離装置であつて、

(2)  該装置は、取り入れ繊維群を集綿しながら送り込む繊維供給装置と、該繊維供給装置の繊維群送り出し部に隣接した開繊分離ローラ装置と、該開繊分離ローラ装置の上方に配設し且つ集綿タンクに接続した分離繊維取出吸引装置とから成り、

(3)  開繊分離ローラ装置は、繊維供給装置に設けた固定台から送り出される繊維群を下部方向へ開繊作用するような歯形材を周面に配設した開繊分離ローラと、

(4)  該開繊分離ローラのほぼ垂直状上部に該分離ローラの歯形材と僅かに接して回転するストリツピングローラとで構成し、

(5)  分離繊維取出吸引装置は、吸引フアンに連結した主吸引ダクトを下向延長させて開繊分離ローラの開繊作用反対面側へ接線方向で且つ開繊分離ローラの軸方向周面にわたつて開口させると共に、

(6)  該吸引ダクトの根元部から吸引ダクトを分岐させて前記ストリツピングローラの繊維供給装置側の上方に接線方向で且つストリツピングローラ軸方向周面にわたつて開口させて構成し、

(7)  吸引ダクトと開繊分離ローラとの接合部は、先端側にほぼ三角状断面の分離板を設けた覆板を開繊分離ローラの軸に揺動可能に取り付けて回収繊維通路を形成し、

(8)  該回収繊維通路は、分離板の先端側において開繊分離ローラと僅かの間隙を形成して吸引ダクト側へ近づくに従つて順次間隙を広く形成すると共に、吸引ダクトとの接続部には空気導入調節板を開閉自在に設けて構成したこと

(9)  を特徴とする繊繊分離装置。

2  イ号物件は、本件発明の構成要件(4)と(6)を欠いており、その技術的範囲に属さないものである。

(一)  本件特許出願の審査過程において、特許庁より二回にわたり拒絶理由通知書が出され、原告はその都度手続補正書及び意見書を提出した。

(二)  第一回の拒絶理由は、「本願発明は、特公昭三一―二三七七号広報に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものと認められるから、特許を受けることができない。」というものである。

原告は、右拒絶理由通知に対し、本件発明の構成要件(7)(8)を主張して引例発明と異なる要素がある旨の意見書を提出し、手続の補正を行つた。

(三)  特許庁はこれに対し再度拒絶理由通知をしたが、その理由は、「本願発明は、特開昭五二―一〇三五三一号広報、特開昭五一―一三三五三六号広報に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものと認められるから、特許を受けることができない。」というものである。前者の引用例は本件発明の構成要件(8)に関するものであり、後者の引用例は同(7)に関するものである。

原告は、これに対し再度手続補正書及び意見書を提出し、本件発明の構成要件(4)(6)において右引用例と異なる要素があると主張した。即ち、原告は右意見書の中で、「開繊作用の主要部となる開繊分離ローラ装置を、分離ローラとストリツピングローラの組み合わせで構成すると共に、分離繊維の取出吸引装置を、開繊分離ローラ装置の上方高く配置した吸引フアンから下向きに長く延長させた吸引ダクトを開繊分離ローラに対接させ、且つこの吸引ダクトの根元部から分岐させた吸引ダクトをストリツピングローラの前側上部に対接させて構成し、これによつて開繊分離した処理繊維群中の有効繊維を効率よく回収する様にした。」「引用例には、吸引ダクトを開繊分離ローラの直上に配置したストリツピングローラに分岐させて対設構成することも示していない。」と主張した。

その結果、本件発明の公告に至つた。

(四)  このように、本件発明では構成要件(4)(6)が最も重要な部分、即ち必須の構成要件である。

(五)  イ号物件には、本件発明の構成要件(4)のストリツピングローラがなく、従つて同(6)の吸引ダクトもない。

イ号物件は、本件発明の二つの必須の構成要件を完全に欠如しているのであるから、本件発明の技術的範囲に属せざることは明らかである。

五  証拠<省略>

理由

一  請求原因1項の事実は当事者間に争いがない。

二  本件発明の構成要件について

1  成立に争いのない甲第二号証によれば、本件発明の構成要件は次のとおり分説するのが相当である。

(一)  被告らの主張1の(1)に同じ。

(二)  同(2)に同じ。

(三)  同(3)及び(4)に同じ。

(四)  同(5)及び(6)に同じ。

(五)  同(7)に同じ。

(六)  同(8)に同じ。

(七)  同(9)に同じ。

2  原告は、本件明細書には請求原因6項の(一)の(1)ないし(3)のとおり記載されていて、ストリツピングローラ及びそれに接続する吸引ダクトは、本件発明の構成に欠くことのできない構成要件ではないと主張する。しかし、原告の右主張は以下説示するとおり失当である。即ち、

特許法は、「特許請求の範囲には、発明の詳細な説明に記載した発明の構成に欠くことができない事項のみを記載しなければならない。」(三六条五項本文)、「特許発明の技術的範囲は、願書に添付した明細書の特許請求の範囲の記載に基いて定めなければならない。」(七〇条)と定める。従つて、特許発明の技術的範囲は、明細書の特許請求の範囲のなかで表現された発明の範囲に限定されるのであり、特許請求の範囲に記載された事項は発明の構成に欠くことのできない必須要件であるから、これを付随的要件、即ちあつてもなくてもよい事項であると主張することは許されない。特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とが矛盾する場合は、特許請求の範囲の記載が優先する。

本件明細書の特許請求の範囲には、ストリツピングローラ及びそれに接続する吸引ダクトに関する構成が明記されている。しかるに、明細書の発明の詳細な説明には請求原因6項の(一)の(1)ないし(3)のとおり記載されていて、ストリツピングローラは分離ローラのみでは開繊繊維を完全に剥離できないときに併設するものであり(本件公報6欄28~31行)、本件発明はストリツピングローラを取り除いて構成することもできる旨明記されている(同7欄8~14行)。このように、本件明細書では、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とが矛盾するので、特許請求の範囲の記載に従い、ストリツピングローラ及びそれに接続する吸引ダクトに関する事項も本件発明の必須構成要件とすべきである。

三  本件発明の出願経過について

原本の存在・成立に争いのない乙第一ないし九号証によれば、被告ら主張2の(一)ないし(三)の事実経過のあつたことが認められる。

四  イ号物件の構成

1  請求原因3項の事実は、別紙イ号物件説明書記載の説明文及び図面を含め、当事者間に争いがない。

2  同説明書の記載によれば、イ号物件の構成は次の(一)ないし(七)のとおり分説するのが相当である。

(一)ないし(七)――それぞれ右説明書三の(1)ないし(7)と同旨。

五  イ号物件の構成(三)(四)と本件発明の構成要件(三)(四)との対比

1  イ号物件の構成(三)(四)は、本件発明の構成要件(三)(四)中のストリツピングローラ及びそれに接続する吸引ダクトに関する構成を欠如している。

2  前掲乙第八、九号証によれば、原告は、第二回目の拒絶理由通知に対する意見書の中で次のように主張すると共に、この主張に対応して、本件発明の構成要件(三)(四)中のストリツピングローラ及びそれに接続する吸引ダクトに関する構成を追加補正したことが認められる。

(一)  本願は、別途手続補正書によつて発明の要旨を明確にしましたように、特別に形成した開繊分離ローラ装置を構成すると共に、開繊繊維中の有効繊維を特別に形成した分離繊維取出吸引装置によつて有効に回収する様にしたものであります。

(二)  即ち、開繊作用の主要部となる開繊分離ローラ装置を分離ローラとストリツピングローラの組み合わせで構成すると共に、分離繊維の取出吸引装置を開繊分離ローラ装置の上方高く配置した吸引フアンから下向きに長く延長させた吸引ダクトを開繊分離ローラに対接させ、且つこの吸引ダクトの根元部から分岐させた吸引ダクトをストリツピングローラの前側上部に対接させて構成し、これによつて開繊分離した処理繊維群中の有効繊維を効率よく回収するようにしたものであります。

(三)  しかるに、今回ご引用下さいました前記第一引例(特開昭五二―一〇三五三一号公報)は、……吸引ダクトを開繊分離ローラの直上に配置したストリツピングローラに分岐させて対設構成することも示しておりません。

3  原告は、ストリツピングローラ及びそれに接続する吸引ダクトは本件発明の付随的構成要件であるとし、イ号物件がこの付随的構成要件を欠くのみで本件発明の基本的な構成要件を総て備えるとして、イ号物件は本件発明の不完全利用であつてその技術的範囲に属すると主張する。

しかし、前記三、五の2の出願経過によれば、原告は、第二回目の拒絶理由通知に対し、新たにストリツピングローラ及びそれに接続する吸引ダクトに関する構成を追加する補正をなし、意見書の中で、引用例にはストリツピングローラ及びそれに接続する吸引ダクトに関する構成が欠如しており、本願発明は同構成を具備しているため引用例にはない顕著な効果を奏する旨強調した結果、本件発明の登録が認められるに至つたのである。

そうすると、原告の本訴での前記主張は、原告の右出願手続での主張と矛盾し、包袋禁反言の原則上許されないものである。

4  よつて、イ号物件の構成(三)(四)は本件発明の構成要件(三)(四)を充足せず、不完全利用の主張も失当である。

六  イ号物件の構成(五)(六)と本件発明の構成要件(五)(六)との対比

1  本件発明の構成要件(五)は、覆板を開繊分離ローラの軸に揺動可能に取り付けるものであるのに対し、イ号物件の構成(五)は、覆板を吸引ダクトの下端に取り付けており、覆板の取り付け態様において両者相違する。

本件発明の構成要件(六)は、回収繊維通路で吸引ダクトとの接続部には空気導入調節板を開閉自在に設けているのに対し、イ号物件の構成(六)は、回収繊維通路には空気導入調節板が設けられておらず、両者は相違する。

2  前掲乙第三、四号証によれば、原告は、第一回目の拒絶理由通知に対する意見書の中で次のように主張すると共に、この主張に対応して、本件発明の構成要件(五)(六)に関する事項を追加補正したことが認められる。

(一)  本願発明は、別途手続補正書で明瞭にしましたように、………先端側にほぼ三角状断面の分離板を固設した覆板を、開繊ローラに対して同心的に揺動調整可能に設けて回収繊維通路を形成し、………吸引ダクトとの接続部には空気導入調節板を設けて、開繊ローラと分離板との接点部間隙の吸込圧を調整し、前記空所(フリースペース)に吸い込み曲線(F)、直接(E)を形成して、開繊ローラ表面について流れる繊維、夾雑物吸込み調量を調整して分離するように構成したものであります。

(二)  しかるに、この様に構成することについては、前記引用発明(特公昭三一―二三七七号公報)には全く示されておらず、単に前記空所部に吸引気流を構成して回収すること、並びに回収部に特別な少量空気流入隙間を設けたものであつて、三角状断面の分離板を設けた覆板を揺動可能に設けること………等については、引用発明には全く示されず、またこれらを示唆する記載も見当りません。更に本願では、………調整板によつて吸込圧を調整することができる。

(三)  以上のように、本願発明と引用発明とは、同じ繊維分離装置であつても、特別な構成とすることによつて従来装置では達成し得ない優れた効果が得られたもので、該引用発明からは当業者といえども決して容易に発明をすることはできないものであり、新規性を有するものと信じております。

2  以上によれば、本件発明における覆板を開繊分離ローラの軸に揺動可能に取り付けること(構成要件(五))、回収繊維通路で吸引ダクトとの接続部には空気導入調節板を開閉自在に設けること(構成要件(六))は、いずれも、第一回目の拒絶理由通知を受けた際に、開繊分離ローラ表面について流れる繊維、夾雑物吸込み量を調整して分離するための技術的手段として特定したものである。

しかるに、イ号物件は、本件発明とは覆板の取り付け態様が異なり(構成(五))、回収繊維通路には空気導入調節板が設けられていない(構成(六))。イ号物件は、吸引ダクト内の空気吸引力を調整可能に構成されてはいるが、そのための技術的手段が本件発明とは明らかに異なるものである。

4  よつて、イ号物件の構成(五)(六)は本件発明の構成要件(五)(六)を充足しない。

七  以上によれば、イ号物件は本件発明の技術的範囲に属さないので、その余の点にふれるまでもなく原告の被告らに対する本訴請求はすべて理由のないものとして棄却することとし、訴訟費用の負担につき民訴法八九条を適用のうえ、主文のとおり判決する。

(裁判官 横畠典夫 紙浦健二 大泉一夫)

イ号物件説明書

一 名称

繊維分離装置

二 図面の簡単な説明

第一図は全体の側面図、第二図は要部の断面図である。

三 装置の構成

(1) 繊維原料若しくは繊維処理装置から排出される処理繊維を取り入れ、該取り入れ繊維群中に含まれる夾雑物及び繊維塊等の重量物を取り除いて再利用可能な有効繊維を回収するための繊維分離装置であつて、

(2) 該装置は、取り入れ繊維群を集綿しながら送り込む繊維供給装置2と、該繊維供給装置の繊維群送り出し部に隣接した開繊分離ローラ装置3と、該開繊分離ローラ装置の上方に配設し且つ集綿タンクに接続した分離繊維取出吸引装置5とから成り、

(3) 開繊分離ローラ装置3は、繊維供給装置2に設けた固定台17から送り出される繊維群を下部方向へ開繊作用するような歯形材を周面に配設した開繊分離ローラ12で構成し、

(4) 分離繊維取出吸引装置5は、吸引フアンに連結した主吸引ダクト8を下向延長させて開繊分離ローラ12の開繊作用反対側へ接線方向で且つ開繊分離ローラの軸方向周面にわたつて開口させて構成し、

(5) 吸引ダクト8と開繊分離ローラ12との接合部は、先端側にほぼ三角状分離板20を設けた覆板22を開繊分離ローラ12の周面に沿うように、吸引ダクト8の下端に取り付けて、該分離板20と開繊分離ローラ間に回収繊維通路を形成し、

(6) 該回収繊維通路は、分離板20の先端側において開繊分離ローラと僅かの間隙を形成して吸引ダクト8側へ近づくに従つて順次間隙を広く形成すると共に、吸引ダクト8内に空気吸引力を調整可能に構成したこと

(7) を特徴とする繊維分離装置

図中、18は分離ローラ12のほぼ中央部前面に配設したフイードローラ、26は分離板20と分離ローラ12との周面間で形成した間隙、30は分離ローラ12の下方に設けた空所で形成した分離室である。

イ号図面

第1図

第2図

特許公報

特許出願公告  昭五八―二五七六九

公告      昭和五八年(一九八三)五月三〇日

発明の数    一

繊維分離装置

特願      昭五三―九五二

出願      昭五三(一九七八)一月八日

公開      昭五四―九六一二九

昭五四(一九七九)七月三〇日

発明者     小西萬右衛門

大阪市住吉区粉浜東之町四丁目一一番一五号

出願人     小西萬右衛門

大阪市住吉区粉浜東之町四丁目一一番一五号

出願人     長井太郎

大阪府泉北郡忠岡町南二丁目四番一六号

引用文献

特公      昭三一―二三七七(JP、B1)

特開      昭五一―一三三五三六(JP、A)

特開      昭五二―一〇三五三一(JP、A)

特許請求の範囲

繊維原料若しくは繊維処理装置から排出される処理繊維を取り入れ、該取り入れ繊維群中に含まれる夾雑物及び繊維塊等の重量物を取り除いて再利用可能な有効繊維を回収するための繊維分離装置であつて、該装置は、取り入れ繊維群を集綿しながら送り込む繊維供給装置2と、該繊維供給装置の繊維群送り出し部に隣設した開繊分離ローラ装置3と、該開繊分離ローラ装置の上方に配設し且つ集綿タンクに接続した分離繊維取出吸引装置5とから成り、開繊分離ローラ装置3は、繊維供給装置2に設けた固定台17から送り出される繊維群を下部方向へ開繊作用するような歯形材を周面に配設した開繊分離ローラ12と該開繊分離ローラのほぼ垂直状上部に該分離ローラの歯形材と僅かに接して回転するストリツピングローラ13とで構成し、分離繊維取出吸引装置5は、吸引フアンに連結した主吸引ダクト8を下向延長させて開繊分離ローラ12の開繊作用反対面側へ接線方向で且つ開繊分離ローラの軸方向周面にわたつて開口させると共に該吸引ダクト8の根元部から吸引ダクト7を分岐させて前記ストリツピングローラ13の繊維供給装置2側の上方に接線方向で且つストリツピングローラ軸方向周面にわたつて開口させて構成し、吸引ダクト8と開繊分離ローラ12との接合部は、先端側にほぼ三角状断面の分離板20を設けた覆板22を開繊分離ローラ12の軸に揺動可能に取り付けて回収繊維通路を形成し、該回収繊維通路は、分離板20の先端側において開繊分離ローラと僅かの間隙を形成して吸引ダクト8側へ近づくに従つて順次間隙を広く形成すると共に吸引ダクト8との接続部には空気導入調節板24を開閉自在に設けて構成したことを特徴とする繊維分離装置。

発明の詳細な説明

本発明は繊維原料中に含まれる夾雑物若しくは繊維塊等の重量物を取り除く装置に関し、特に単独の繊維処理装置として利用できると共に紡機若しくは繊維処理装置に連結してこれらの装置から排出される除去繊維を分離して前記したような重量物特に繊維塊(以下ネツプという)を分離して有効繊維のみを取り出すようにした繊維分離装置の構成に関するものである。

従来原料繊維中の夾雑物或はネツプを除去するために除塵装置が利用され、単独の機械装置として開発されたり、或は混打綿機若しくは梳綿機、精梳綿機にこれらの装置を併設して処理中の繊維中から除去するように構成されている。即ち前者の単独除塵装置は大量の繊維原料を処理する装置として設計され、装置が大形化して他の機械に併設できるものでなかつた。また処理手段も処理能力本位に設計されてネツプ等の分離にもなお不満足な点が多かつた。一方後者の併設型のものは併設される機械装置に組み付けられ、その処理作用は機械装置と相たずさえて除塵能力を発揮するものであつて当然に単独装置としては利用できないものであつた。またこれらの除塵装置の処理能力は主として併設する機械の処理能力に適合するように設計されている。そしてこれらの代表的なものは開繊度の高い梳綿機に併設されるものであつて特にテーカインローラとシリンダの周辺に設けられるものが多い。またこれらの分離手段の多くは繊維を開繊してネツプ等の重量物を遠心力で飛散させると共に吸引気流を形成して飛散繊維中の有効繊維を吸引回収するものであるが、仕掛繊維の処理速度と分離能力とが一致せず、しかも満足するような分離ができず除塵効果はよくなかつた。またこれらの除塵装置の併設によつて機械の構造を複雑にすると共にその管理保全に手数を多く要して満足するものが少なかつた。これらの事実は前記した除塵装置が二〇年も前から提案され、各種の改善改良がなされたにもかかわらず未だ実用機として大体的に利用されていないことでも理解されるものである。これから除塵分離装置はこれらの混打綿機或は梳綿機から積極的に屑繊維を取り出して併設されない別体で構成された分離装置で除塵して回収することが考えられる。

本発明はこれらに着目してなされたもので前記したように繊維処理機械から排出される屑物繊維を直接若しくは一旦貯留堆積して供給し、効率よく分離除塵するように構成すると共に特に分離回収を効率よく行なえる装置を提供しようとするものである。しかしてこのような装置とは開繊分離ローラに直接繊維吸引ダクトを開口して接続すると共にこの吸引力で開繊分離部側の回収吸引気流を調整しながら開繊分離ローラ上の繊維および回収有効繊維を吸引剥離するように構成したものである。以下図面に基づいて本発明を詳細に説明するが図は本発明の具体例を示すものであつて、本発明は図示例に限定されず、前記若しくは後述する記載の趣旨に徴して形状を変更したり、組付を変更したり或は設計を変更しても同様に実施できる。

第一図は本発明にかかる繊維分離装置の具体例を示した側面図で、図は原料(屑物繊維)を貯留堆積状態で供給し、分離回収した有効繊維を集積タンクに収納してシート状で取り出すように構成したものを例示する。図において1はサイドフレームを示し該サイドフレーム1はそれぞれ両側に配置されて前後側をクロスレールで接続して機枠が形成され、本発明分離装置はこれらの機枠上に組み付けて構成される。2は原料供給装置で図はこれらの装置がラチスコンベアで構成されたものを示したが、前記したように原料が他の繊維処理機から連続して排出されるときはこのコンベアを繊維屑堆積ダクトで形成したり、或はリターンエヤダクトの集綿装置に連設して形成することもあり、任意の形状で構成することができる。そしてこれらの原料供給装置2には堆積繊維をほぼ均等厚にして送り出すようなフイードローラ装置が併設され、これらのフイードローラは後述するような梳綿機形のものであつたり、或は単に一対のローラをもつて送り出すような形式であつてもよい。3は本発明の要部を構成する開繊分離装置を示し該分離装置3には繊維剥離吸引用のダクト8および必要によつて設けられるストリツピングローラの繊維剥離吸引ダクト7が連設される。そしてこれらのダクト8、7はフレーム1上に設けられた架台4上に設置された吸引装置5から分岐吸引管6を介して接続され、それぞれ吸引気流が働くように構成される。そして吸引装置5の排出側には繊維回収タンク9が接続され、該回収タンク9は有孔板で形成された濾過型のものや、フイルターバツグ或はケージローラ等自由なものが選択される。また必要によつては、この回収繊維を直ちにダクトで繊維処理機に返還するように構成することもできる。図は堆積タンク形を例示しその下部には一対の繰出ローラを設けて回収繊維をシート状で取り出すものを示した。10はサイドフレーム1に開閉自在に設けた扉を示す。本発明の要部は前記したように開繊分離装置3の構成に関するものであり、以下これらについて詳記する。第2図は開繊分離装置を拡大して示す側面図でサイドフレーム1を破断して示したもの、第3図は中央断面でその構成ならびに作用を示すものである。これらの図において、開繊分離装置3は主として開繊分離ローラ12で構成され、該分離ローラ12は梳綿機に設けられるテーカインローラおよびシリンダーのようにその表面に歯形ワイヤを巻着したり、或は精梳綿機のシリンダーのように歯部材を植設若しくは嵌合して全面に歯部を形成する。そしてこれらの歯は繊維原料に応じてこれを開繊すると共に繊維を引掛けて搬送するに適当な歯形および作用するものが利用される。なお原料によつてはピンシリンダーであることもあり、この場合は特に開繊部でピンが突出し繊維剥離部で退入するようなシリンダーであることが推奨される。しかしてこのような分離ローラ12はサイドフレーム1、1上に固定して設けたサイドスタンド11、11(いずれも一方は図示せず)に遊支され、図示しない駆動装置で駆動される。そして分離ローラ12のほぼ中央部前面側には前記した原料供給装置2に併設された供給台17およびフイードローラ18が配設され、下部側には分離板20を介して覆板22が分離ローラ12を外気より遮蔽するように配設される。そして分離板20は分離ローラ12の両側側にほぼ同心的でかつ旋回可能に設けた側板21、21(一方は示さず)に固定して設け、分離ローラ12の周面と僅かの間隙26を形成してその周面を移動できるように構成する。また前記覆板22もこれらの側板21に設けることができる。そして分離ローラ12の周面で前記供給台17と分離板20との間はフリースペースとして空所を形成する。一方分離ローラ12の供給台17と反対側には前記した吸引ダクト8がローラ12の幅に対応して開口し、その方向は第3図に示すように分離ローラ12に接線方向に対向する。そしてダクト8の底側8′の先端部は開閉調節板24を形成して空気導入路25を形成して前記覆い板22と対応し、調整レバー27でこの空気導入路25の開度が調節される。また吸引ダクト8の分離ローラ対向上側はその先端部に分離片23を形成して分離ローラ12と僅かな間隙を構成し、該間隙も調節自在に構成される。14は分離ローラカバー、19はクリヤラーローラである。そしてこれらの分離ローラ12の下部は空所となして分離室30を形成し、前壁28および後壁29を設けて外気流の流入を防止する。なお必要によつては前壁28の頂部は積極的に空所を形成して外気の流入を構成してもよい。

このように構成した本発明繊維分離装置は分離ローラ12が矢印A方向に高速で回転し、供給台17とフイードローラ18で把持した繊維をフイードローラ18の回転によつて分離ローラ12側に供給する。供給された繊維群は分離ローラ12によつて開繊作用を受け、前述したネツプ夾雑物等の重量物は線Eで示すように遠心方向に飛散して落下し他のものと別れて取り除かれる。またこの開繊作用によつて一部の繊維は分離ローラ12の歯に保持され、一部の繊維はフリスペースから分離室30内に浮遊しながら離脱する。しかるに本発明装置ではこのフリスペースに曲線F或は直線Jで示すような吸引気流を積極的に形成し、前記浮遊離脱繊維を該吸引気流F、Jで回収する。しかしこのような吸引気流F、Jは分離ローラ12の高速回転による随伴気流だけでも構成できるが極めて僅かであり、しかも間隙26の近傍のみである。従つてF、Jで示すような吸引流は他の吸引力で補なう必要がある。よつて本発明ではこのような分離ローラの繊維剥離作用とそして前記した吸引気流F、Jの形成を前記吸引ダクト8の吸引で同時に行なうように構成したものである。従つて供給原料は分離ローラ12で開繊作用を受け、その中に含まれるネツプ夾雑物等の重量物を31で示すように分離室30の底面に堆積し、有効(使用に耐えるような)繊維は分離ローラ12で運ばれ、離脱した浮遊繊維は吸引気流で回収される。そして吸引ダクト8の開口部に至つた分離ローラ面は吸引ダクト8の吸引気流によつて保持した繊維を該吸引ダクト8内にGで示すように剥離される。また浮遊した繊維も覆板22と分離ローラ12の間を介して吸引ダクト8で回収され、前記したように回収タンク9に集綿される。ところで分離ローラ12はその歯形若しくは原料繊維の種別によつて開繊繊維を完全に剥離させないときがある。従つて図示するようにストリツピングローラ13を併設する。即ちストリツピングローラ13はその周面にワイヤを植設若しくはこれらのワイヤを植え付けた部材を取り付けて形成し、分離ローラ12の頂面にほぼ垂直状に配置し、矢印Bで示すように積極的に回転させ分離片23で完全に離脱されないで分離ローラに付着した繊維を完全に剥離する。そしてストリツピングローラ13はトツプカバー15およびバツクカバー16でその周辺を殆んど囲みその一部に吸引ダクト7を開口して設ける。また該吸引ダクト7も第1図に示すように吸引装置5から分岐吸引管6を介して吸引気流が作用し、ストリツピングローラ13に付着する繊維を剥離する。Hはこの剥離繊維を示す。即ち第3図に示すように原料繊維は分離ローラ12でバラバラに開繊作用を受けて重量物を除去し有効繊維のみが吸引ダクト8の吸引気流Dで剥離されると共に回収気流F、Jを形成して浮遊繊維も同時に吸引する。またストリツピングローラ13に付着した繊維は吸引ダクト7の吸引気流Cで剥離除去し、これらの剥離繊維は前記したように回収タンク9若しくは他の適当な装置に供給される。なお必要によつては吸引ダクト8の開口部に形成する分離片23を小径のストリツピングローラに置換して分離ローラ12に付着した繊維を積極的に払い落として吸引ダクト8に吸引させるように構成することもでき、このようにするときはストリツピングローラ13を取除いて構成することができる。

以上述べたように本発明繊維分離装置は独立した分離装置として構成され、しかもその分離回収手段は開繊分離ローラ群と該ローラ群に開口して形成した吸引ダクトで剥離すると共に浮遊繊維の回収気流を形成して回収するように構成したから、簡単な構成で確実な重量物の除去ができ、しかも有効な繊維を確実に回収することができる。またこれらの装置は繊維処理装置に簡単に接続することができ、これらの装置から取り出される屑物例えば梳綿機における落綿、鎧綿、或は混打綿機のピータ下等の落綿等を処理して、夾雑物のない綿帯を得ることができその利用は極めて効果的である。

図面の簡単な説明

第1図は本発明装置の具体例を示す側面図、第2図は第1図の要部を拡大し一部を破断して示した側面図、第3図は第2図の構成を示した断面図である。

1…サイドフレーム、2…原料供給装置、3…開繊分離装置、4…架台、5…吸引装置、6…分岐吸引管、7、8…吸引ダクト、9…繊維回収タンク、10…扉、11…サイドスタンド、12…開繊分離ローラ、13…ストリツピングローラ、14…カバー、15…トツプカバー、16…バツクカバー、17…供給台、18…フイードローラ、19…クリヤラーローラ、20…分離板、21…側板、22…覆板、23…分離片、24…調節板、25…空気導入路、26…間隙、27…調整レバー、28…前壁、29…後壁、30…分離室、31…重量物。

第1図

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例