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大阪地方裁判所 昭和60年(ワ)429号 判決 1985年9月27日

第四二九号事件原告(第三三一七号事件被告)

穐田俊齊

第四二九号事件被告(第三三一七号事件原告)

山本保夫

主文

一  原告は被告山本に対し、金五五万〇一九二円及びこれに対する昭和五七年二月四日から支払済まで年五分の割合による金員を支払え。

二  原告の請求及び被告山本のその余の請求をいずれも棄却する。

三  訴訟費用は原告の負担とする。

四  この判決は第一項に限り仮に執行することができる。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  原告の請求の趣旨

1  被告らは各自原告に対し、金二一六万七一五四円及び内金一九六万七一五四円に対する昭和六〇年一月三一日から支払済まで年五分の割合による金員を支払え。

2  訴訟費用は被告らの負担とする。

3  第一項につき仮執行の宣言。

二  原告の請求の趣旨に対する被告らの答弁

1  原告の請求を棄却する。

2  主文第三項と同旨。

三  被告山本の請求の趣旨

1  原告は被告山本に対し、金五七万九一五〇円及びこれに対する昭和五七年二月四日から支払済まで年五分の割合による金員を支払え。

2  主文第三項と同旨。

3  仮執行の宣言。

四  被告山本の請求の趣旨に対する原告の答弁

1  被告山本の請求を棄却する

2  訴訟費用は被告山本の負担とする。

第二当事者の主張

一  原告の請求の原因

1  事故の発生

別紙記載のとおりの交通事故(以下「本件事故」という。)が発生した。

2  責任原因

(一) 運行供用者責任(自賠法三条)

被告山本は被告車を所有し、被告株式会社大和測量設計事務所(以下「被告会社」という。)は被告車をその業務用に使用し、いずれも自己のために運行の用に供していた。

(二) 使用者責任(民法七一五条一項)

被告会社は、被告山本を雇用し、同人が被告会社の業務の執行として被告車を通勤運転中、後記過失により本件事故を発生させた。

(三) 一般不法行為責任(民法七〇九条)

被告山本は、被告車を運転し、南進走行してきて本件交差点に進入するに当たり、対面信号が赤色表示であるのにこれを注視せず、あるいは無視した過失がある。

3  損害

(一) 受傷、治療経過等

(1) 受傷

頭部、右肩、右胸及び右腸骨部打撲、右第三ないし第九肋骨々折、頸部及び腰部捻挫

(2) 治療経過

昭和五七年二月三日から同年四月三日まで入院昭和五七年四月四日から同年一二月二四日まで(実日数三八日)及びその後昭和五九年一二月一八日まで

(実日数二日)各通院

(二) 治療関係費

(1) 治療費 一〇一万七六六八円

(2) 入院雑費

入院中一日一〇〇〇円の割合による六〇日分の六万円

(3) 通院交通費

通院一日当り五〇〇円の割合による四〇日分の二万円

(三) 逸失利益(休業損害)

原告は、事故当時一か月平均二六万四〇〇〇円の給与を得ていたが、本件事故により少なくとも一〇〇日間休業を余儀なくされ、その間八八万円の給与を失い、また、賞与を三五万三〇〇〇円減額された。

(四) 慰藉料 一四〇万円

(五) 自動車損壊 二〇万円

(6) 弁護士費用 二〇万円

4  損害の填補

原告は次のとおり支払を受けた。

(一) 自賠責保険金 一一一万一八四〇円

(二) 労災保険給付金 六五万一六七四円

5  よつて、原告は被告ら各自に対し、損害賠償金二一六万七一五四円及びこれに対する本件不法行為の日の後の日である昭和六〇年一月三一日から支払済まで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。

二  原告の請求原因に対する被告らの認否

1  原告の請求原因1は認める。

2  同2(一)は被告山本が被告車を所有し、自己の運行の用に供していたことは認めるが、その余は否認もしくは争う。(二)は被告会社が被告山本を雇用していたことは認めるが、その余は否認もしくは争う。(三)は否認もしくは争う。

3  同3はいずれも不知。

4  同4は認める。

5  同5は争う。

三  被告らの主張

1  免責

本件事故は、原告が原告車を運行し西進してきて、対面信号が赤色表示であるのにこれを無視して本件交差点に進入したため発生したものであり、被告車を運転し南進してきて、対面信号の青色表示に従つて本件交差点に進入した被告山本には何ら過失がなかつた。かつ、被告車には構造上の欠陥または機能の障害がなかつたから、被告らには損害賠償責任がない。

2  過失相殺

仮りに免責の主張が認められないとしても、本件事故の発生については原告にも前記1のとおりの過失があるから、損害賠償額の算定にあたり過失相殺されるべきである。

四  被告らの主張に対する原告の認否

被告らの主張1、2はいずれも否認もしくは争う。

五  被告山本の請求の原因

1  事故の発生

別紙記載のとおり本件事故が発生した。

2  責任原因(一般不法行為責任、民法七〇九条)

原告は、原告車を運転し南進してきて、対面信号が赤色表示であるのにこれを無視して本件交差点に進入した過失がある。

3  損害

本件事故により被告山本所有の被告車が損傷し、被告山本は修理代として五七万九一五〇円を要した。

4  よつて、被告山本は原告に対し、損害賠償金五七万九一五〇円及びこれに対する本件不法行為の日の後の日である昭和五七年二月四日から支払済まで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。

六  被告山本の請求原因に対する原告の認否

1  被告山本の請求原因1は認める。

2  同2は否認もしくは争う。

3  同3及び4はいずれも争う。

七  原告の主張(過失相殺)

本件事故の発生については被告山本にも前記一2(三)のとおりの過失があるから、損害賠償額の算定にあたり過失相殺されるべきである。

八  原告の主張に対する被告山本の認否

原告の主張は否認もしくは争う。

第三証拠

本件訴訟記録中の書証目録及び証人等目録記載のとおりであるから、これを引用する。

理由

第一原告の請求について

一  事故の発生

原告の請求原因1の事実は、各当事者間に争いがない(なお、事故の態様の詳細については後記二1(二)で認定のとおりである。)。

二  責任原因

1  被告山本

(一) 運行供用者責任

被告山本が被告車を所有し、自己のため運行の用に供していたことは関係当事者間に争いがない。従つて、被告山本は、自賠法三条により、免責の主張が認められない限り、原告が本件事故によつて被つた損害(三4を除く。)を賠償する責任があるところ、被告山本に過失が存することは(二)で認定のとおりであるから、その余について判断するまでもなく被告山本の免責の主張は理由がない。

(二) 一般不法行為責任

(1) いずれも成立に争いのない甲第一一号証、乙第三号証の二及び第四号証の二、弁論の全趣旨により真正に成立したと認められる乙第一号証、証人津留勇二郎の証言、原告及び被告山本各本人尋問の結果並びに弁論の全趣旨によれば(甲第一一号証及び乙第三号証の二の記載中並びに原告本人尋問の結果中後記採用しない部分を除く。)、次の事実が認められる。

本件交差点は、南北に通じる車道幅員約一六・八メートルないし一七・四メートル(ただし、東側の約一〇メートルの部分はガードレールで囲まれて使用されておらず、使用されているのは西側の幅員約六・八メートルないし七・四メートルの二車線の部分である。)の道路(以下「甲道路」という。)と東西に通じる幅員約八メートルの二車線の道路(以下「乙道路」という。)とが交差しており、信号機により交通整理が行なわれている。甲道路及び乙道路はいずれも右方及び左方の見通しが悪く、最高速度は、甲道路が時速四〇キロメートル、乙道路はいずれも右方及び左方の見通しが悪く、最高速度は、甲道路が時速四〇キロメートル、乙道路が時速三〇キロメートルと指定されている。

本件事故当時、被告山本は、被告車を運転して甲道路上を南進走行してきて、本件交差点の手前(北側)の交差点に設置されていた対面信号が進入直前に赤色から青色表示に変わつたのでそのまま時速約五〇キロメートルで進行し続け、本件交差点に進入する前に対面信号が青であることを確認し、減速することなく本件交差点内を走行し始めたところ、左前方約一〇メートルの地点を西進走行してくる原告車を発見し、急制動の措置を講じたが及ばず約八・六メートル前進した(その間原告車も約七メートル前進している。)地点で被告車前部を原告車右側面に衝突させ、原告に後記障害を負わせ、原告車を損壊した。他方、原告は、原告車を運転して乙道路上を本件交差点に向かつて西進走行してきて、対面信号が赤色表示であるのにこれに従わず、少なくとも時速約四〇キロで本件交差点内に進入して走行していたため、右方から南進してくる被害車に気づいた直後に、前記のとおり原告車を被告車に衝突させ、被告車を損壊した。

前掲甲第一一号証及び乙第三号証の二の記載中並びに原告本人尋問の結果中には右認定に反し、原告は対面信号が青色であることを確認して、本件交差点に進入したとする部分があるが、前掲各証拠(特に、証人津留勇二郎の証言によれば、津留勇二郎は、本件事故当時、自動車を運転して、本件交差点西南角の給油所で給油した後、本件交差点の西側の乙道路南端付近で、乙道路の車両(東西方向)用の信号が青色になつたら東進走行しようと考えていたが、同信号が赤色表示であつたので青色に変わるのを待つていたところ、東方から被告車が赤色信号を無視して本件交差点に進入したのを目撃したというのであり、また、被告山本も本件事故後一貫して対面信号の青色表示を確認して本件交差点に進入したと供述している。)に照らし、採用することができず、他に右認定を左右するに足りる証拠はない。

(2) 右認定によれば、被告山本は、本件交差点に進入するに当り、対面信号が青色表示であることに気を許し、前側方を注視せず、制限速度を超える時速約五〇キロメートルのまま減速もしないで走行した過失があると認められるから、民法七〇九条により、原告が本件事故によつて被つた損害を賠償する責任がある。

2  被告会社

原告は、本件事故当時、被告会社が被告車を自己の事業の用に供していたものであり、被告山本は通勤途上であつたとして、被告会社は運行供用者責任(自賠法三条)及び使用者責任(民法七一五条)を負うと主張する。

被告山本が被告会社の従業員であることは関係当事者間に争いがなく、被告山本本人尋問の結果によれば、本件事故の発生時被告山本は被告会社から帰宅する途中であつたことが認められる。しかしながら、被告車が被告山本の所有するものであることは前記のとおりであり、本件においては、被告車が日頃から被告会社の業務の用に供されていたことなどを認めるに足りる証拠もないから、本件事故時、被告会社が被告車を自己の運行の用に供していたとも被告山本が被告会社の事業の執行中であつたとも認められない。

従つて、その余について判断するまでもなく、原告の被告会社に対する請求は理由がない。

三  損害

1  受傷、治療経過等

いずれも成立に争いのない甲第二号証ないし第七号証及び原告本人尋問の結果によれば、原告の請求原因3(一)の各事実が認められる。

2  治療関係費

(一) 治療費

前掲甲第三号証ないし第六号証によれば、原告は、右受傷の治療費として一〇一万七六六八円を要したことが認められる。

(二) 入院雑費

原告が六〇日間入院したことは、前記のとおりであり、右入院期間中一日一〇〇〇円の割合による合計六万円の入院雑費を要したことは、弁論の全趣旨及び経験則によりこれを認めることができる。

(三) 通院交通費

弁論の全趣旨によれば、原告は前記通院のため一日当り五〇〇円合計二万円の通院交通費を要したことが認められる。

3  逸失利益(休業損害)

成立に争いのない甲第八号証及び第一八号証、原告本人尋問の結果並びに弁論の全趣旨によれば、原告は、本件事故当時三七歳で、建設会社に勤務し、現場監督等として稼働して、一か月当り二六万四〇〇〇円(すなわち一日当り八八〇〇円)の給与及び年二回の賞与を得ていたところ、本件事故により休業したが、前記認定の原告の受傷の程度及び治療状況等の諸般の事情を考慮すると、賞与減額分三五万三〇〇〇円並びに給与の逸失の内、昭和五七年二月三日から同年四月三日までの入院期間(六〇日)中の一〇〇パーセント分及び通院期間中同年四月四日から同年一二月二四日まで(二六五日間)の一五パーセント分(左記算式のとおり八七万七八〇〇円となる。)が本件事故と相当因果関係のある休業損害であると認められる。

(算式)

八八〇〇×(六〇+二六五×〇・一五)=八七万七八〇〇

4  車両損害

成立に争いのない甲第一三号証、原告主張のとおりの写真であることに争いのない甲第一〇号証の一ないし四及び弁論の全趣旨によれば、原告の所有する原告車は本件事故前一八万五〇〇〇円相当の価値を有していたが、本件事故により損壊し、右価格を上まわる修理費を必要とするようになつたものであるから、原告には、少なくとも事故前の価格相当の一八万五〇〇〇円の損害が生じたものと認められる。

5  慰藉料

本件事故の態様、原告の障害の部位、程度、治療の経過その他諸般の事情を考えあわせると、原告の慰藉料額は九六万円とするのが相当であると認められる。

四  過失相殺

前記二1(二)認定の事実によれば、本件事故の発生については原告にも、本件交差点に進入するに当り、対面信号が赤色表示であるのに、これに従わず、制限速度を超える時速約四〇キロメートルで走行し過失が認められるところ、前記認定の被告山本の過失の態様等諸般の事情を考慮すると、過失相殺として原告の損害の九割五分を減ずるのが相当と認められる。

従つて、前記損害額合計三四七万三四六八円から九割五分を減じて原告の損害額を算出すると一七万三六七三円となる(端数切り捨て、以下同じ)。

五  損害の填補

原告が本件事故による損害の填補として右損害額一七万三六七三円を上回る一七六万三五一四円の支払いを受けたことは当事者間に争いがない。

六  弁護士費用

本件事案の内容、審理経過及び結果等に照すと、原告は被告に対して本件事故による損害賠償として弁護士費用を請求することはできない。

第二被告山本の請求について

一  事故の発生

被告山本の請求原因1の事実は、当事者間に争いがない(なお、事故の態様の詳細については前記第一の二1(二)で認定のとおりである。)。

二  責任原因(一般不法行為責任)

本件事故の発生については、原告には前記第一の四で認定のとおりの過失が認められるから、原告は、民法七〇九条により被告山本が本件事故によつて被つた損害を賠償する責任がある。

三  被告山本の損害

被告山本尋問の結果及びこれにより真正に成立したと認められる乙第五号証によれば、被告山本は、本件事故により、その所有する被告車が破損し、修理費として五七万九一五〇円を要したことが認められる。

四  過失相殺

前記認定の本件事故の発生についての原告及び被告山本の各過失の態様等諸般の事情を考慮すると、過失相殺として被告山本の損害の五分を減ずるのが相当と認められる。

従つて、前記損害額五七万九一五〇円から五分を減じて被告山本の損害額を算出すると五五万〇一九二円となる。

第三結論

よつて、原告は被告山本に対し、金五五万〇一九二円及びこれに対する本件不法行為の日の後の日である昭和五七年二月四日から支払済まで民法所定の年五分の割合による遅延損害金を支払う義務があり、被告山本の本訴請求は右の限度で正当であるからこれを認容し、被告山本のその余の請求及び原告の請求はいずれも理由がないから棄却することとし、訴訟費用の負担につき民訴法八九条、九二条但書、仮執行宣言につき同法一九六条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 長谷川誠)

別紙

日時 昭和五七年二月三日午後七時三〇分頃

場所 大阪府摂津市鳥飼中六一七番地先

交差点(以下「本件交差点」という。)

事故車(一) 普通乗用自動車(大阪五九そ五六九〇号、以下「被告車」という。)

運転者 被告山本

事故車(二) 普通乗用自動車(大阪五八ら三一四号、以下「原告車」という。)

運転者 原告

態様 南進してきた被告車と西進してきた原告車が本件交差点において衝突したもの

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