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大阪地方裁判所 昭和60年(ワ)5353号 判決

一 原告が本件特許権を有していること、本件発明の構成要件を分説すると請求原因2記載のとおりであること、本件明細書に本件発明の目的及び作用効果として請求原因3のとおりの記載があることは、当事者間に争いがない。

二 被告が業として商品名「赤外線自動シヤツター制御装置」を製造販売していることは、当事者間に争いがない。

右商品の構成が、別紙イ号物件目録の説明部分の記載のうち、「フリツプフロツプに入力してこれをセツトすることにより」とある部分、「該タイマーにより該フリツプフロツプをリセツトして」とある部分、「前記フリツプフロツプに接続した」とある部分、「有体物3が除去されるまで」とある部分及び「又はそれ以上繰り返させる」とある部分を除いて、右説明部分記載のとおりであることは、当事者間に争いがない。

右争いのある部分のうち、「フリツプフロツプ」に関する部分について、原告は、イ号物件においてフリツプフロツプはタイマーとは別個のものとして存在し、フリツプフロツプが自己保持の機能を有するものであると主張するのに対し、被告は、イ号物件のタイマーはフリツプフロツプと別個の構成と機能を持つものではなく、フリツプフロツプを一つの構成要素として取り入れ、これと不可分一体となつているものであり、イ号物件で自己保持を行つているのはタイマーであると主張する。そこで、検討するに、成立に争いのない乙第二、第三号証によれば、イ号物件のタイマーは、プログラマブル・タイマーと呼ばれるもので、フリツプフロツプ・タイムデイレイ決定素子及びシユミツト回路が一体として構成されており、それ自体が自己保持機能を有するものであることが認められる(なお、抵抗R80、可変抵抗VR、コンデンサーC32は、これらのみでタイマーを構成するのではなく、タイムデイレイ(遅延時間)を決定するための素子群であると認められる。)から、フリツプフロツプをタイマーと別異のものとすることは相当でない。

したがつて、別紙イ号物件目録の説明部分の記載のうち、「フリツプフロツプに入力してこれをセツトすることによりタイマー及び」とある部分は「自己保持機能を有するタイマーに入力し該タイマーにより」と、「該タイマーにより該フリツプフロツプをリセツトして」とある部分は「該タイマーが作動して」と、「前記フリツプフロツプに接続した」とある部分は「前記タイマーに接続した」と、それぞれ訂正すべきものと認められる。

次に、イ号物件によるシヤツターの上昇、下降動作につき、原告は、「この上昇、下降動作を有体物3が除去されるまで一回半(下降、停止、上昇、停止、再下降、停止)又は二回(下降、停止、上昇、停止、再下降、停止、再上昇、停止)又はそれ以上繰り返させる」ものであると主張するところ、右のうち「有体物3が除去されるまで」の部分と、「又はそれ以上繰り返させる」の部分に争いがある。

ところで、被告は、はじめ昭和六一年一〇月九日の本件口頭弁論期日に陳述した右同日付準備書面においては「つまみを敢えて通常の使用範囲を超えて回した場合、上下動を繰り返すことは認める。」としていたところ、昭和六二年八月二六日の本件口頭弁論期日に陳述した同年同月二〇日付準備書面でこれを撤回したが、原告は右自白の撤回に異議を述べるので、右撤回の可否について検討する。

検証の結果によれば、イ号物件であることにつき争いのない検乙第一号証、それぞれイ号物件の検出送信ユニツト、受信センサー及び受信制御ユニツトであることにつき争いのない検甲第六号証の一ないし三、それぞれ訴外株式会社ケン・シンから入手したイ号物件の検出送信ユニツト、受信センサー及び受信制御ユニツトであることにつき争いのない検甲第七号証の一ないし三、シヤツター本体であることにつき争いのない検甲第八号証を使用してイ号物件によるシヤツターの上下動の状況を実験したところ、フロアー面に障害物を置きシヤツターを下降させた場合、上昇距離調整用VRを最大にセツトしても最小にセツトしても、シヤツターは障害物と接触すると同時に停止し、上昇して或る高さの位置で停止し、再下降し、障害物に再度接触すると同時に停止し、さらに再上昇して前と同じ位置で停止して動かなくなるか、又は前記の下降、停止、上昇、停止の後再下降して障害物に再接触して停止し動かなくなるかのいずれかであること(後者は検乙第一号証を使用して上昇距離調整用VRを最小にセツトした場合)、ただ、フロアー面に障害物を置きシヤツターを下降させる途中で障害物検知器に手を接触させ、シヤツターが停止、上昇、停止して再下降を開始した後手を除いた場合には、シヤツターは障害物と接触して停止した後再上昇し、或る高さの位置で停止し、その後再下降し、同様の上昇、下降動作を停止ボタンを押してシヤツターを停止させるまで続けたこと(受信制御ユニツトとして検甲第六号証の三又は検乙第一号証のものを使用したときは、上昇距離調整用VRを最大にセツトした場合のみ、右のように上昇、下降動作を繰り返し、同VRを最小にセツトした場合には、障害物に接触した後停止、再上昇、停止したところで動かなくなつたが、受信制御ユニツトとして検乙第七号証の三を使用したときは、同VRを最小にセツトした場合にも上昇、下降動作を繰り返した。)が認められる。右検証の際の、シヤツターの下降中に手を接触させ、シヤツターが停止、上昇、停止して再下降を開始した後手を除くという条件は、換言すれば、シヤツター下に高さの異なる有体物が二個あつて、シヤツターが一旦高い方の障害物に接触して停止、上昇、停止、再下降する間に高い方の有体物のみを取り除くというもので、通常のシヤツター閉鎖時に予想される状況とは著しく異なることが明らかである。成立に争いのない甲第一号証によれば、本件明細書中にも右のようなシヤツター閉鎖時の状況をも本件発明が予定していたことを窺わせる記載は何ら存在しないことが認められる。したがつて、右検証の結果によれば、通常のシヤツター閉鎖時の状況を前提とする限り、イ号物件の制御回路は、上昇距離調整用VRの調整いかんにかかわらず、シヤツターを有体物との接触後一回半又は二回、上昇、下降動作を繰り返した後停止させてその状態でロツクさせるようになつているものであると認められ、他に右認定を左右するに足りる証拠はない。右認定の事実によれば、被告の前記自白は真実に反するものと認められ、かつ特段の反証もないから右自白は錯誤に基づいたものと推認される。したがつて、右自白の撤回は許されるものというべきである。

そうすると、原告主張の「有体物3が除去されるまで」及び「又はそれ以上繰り返させる」との各記載部分はこれを認めるに足りる証拠がないから相当ではなく、前者は削除すべきものであり、後者は「繰り返した後シヤツターを停止させてその状態でロツクする」と訂正すべきものと認められる。

三 そこで、イ号物件が本件発明の技術的範囲に属するか否かについて検討する。

1 本件発明は、下降中のシヤツターの安全スイツチが有体物に接触して作動した時点でシヤツターを直ちに停止させるとともに、「それと同時に自己保時するリレー及びタイマーを併設した上昇用のリレーが作動して前記シヤツターを一定の高さまで上昇させて再停止させ」(構成要件(5))、「続いて自己保持するリレーの自己保持を解除するタイマーによつてその自己保持を解除し通常の下降回路となり前記シヤツターを再び下降させ」(同(6))るものである。本件発明は、右のとおり、シヤツターを一定の高さまで上昇させて再停止させ、一定時間経過後にシヤツターを再下降させるという課題を達成するための具体的手段として、自己保持するリレー、上昇用リレー、上昇時間を設定するタイマー及び一定時間経過後に自己保持を解除する別のタイマーから成る構成としたものである。そして、本件発明の「自己保持するリレー」は、本件明細書の発明の詳細な説明及び図面を参酌すれば、下降中のシヤツターの安全スイツチが有体物に接触して作動することにより作動し、安全スイツチが有体物から離れた後も作動を続けるようにしたものであり(同時に、右リレーの作動継続中は、通常の上昇、下降回路は作動しないようになつている。、シヤツターが一定の高さまで上昇して再停止した後、「自己保持するリレーの自己保持を解除するタイマー」の作動によつて、その設定時間経過とともに解除されるものであることが認められる。すなわち、本件発明においては、下降回路の作動によりシヤツターが下降中に安全スイツチが有体物との接触を検知したことを、シヤツターが一旦停止、上昇、再停止後一定時間を経過する時点まで「自己保持するリレー」によつて記憶させるとともに、「自己保持するリレーの自己保持を解除するタイマー」を作動させて右記憶状態を解除することにより、通常の下降回路によるシヤツターの下降状態に復帰させるという技術的構成をとつたものである。

これに対して、イ号物件は、前項認定のイ号物件の構成のとおり、下降中のシヤツターの障害物検知器が有体物に接触すると、その作動によりパルス信号を発生させてシヤツターを直ちに停止させ、それと同時にそのパルス信号を遅延回路を介して自己保持機能を有するタイマーに入力し該タイマーにより上昇用リレーを作動させてシヤツターを一定の高さまで上昇させて再停止させ、続いて該タイマーに接続した別の遅延回路を介してシヤツターを下降させるものである。すなわち、イ号物件は、シヤツターを一定の高さまで上昇させて再停止させ、一定時間経過後にシヤツターを再下降させるという本件発明と同様の課題を達成するための具体的手段として、遅延回路、自己保持機能を有するタイマー 上昇用リレー及び別の遅延回路から成る構成としたものである。ところで、イ号物件のタイマーは、前認定のとおり、自己保持機能を有するものであるが、前掲乙第二、第三号証によれば、右自己保持の内容は、タイマーを構成するフリツプフロツプによつて、障害物検知器の作動によつて発生したパルス信号が入力された状態を該タイマーの設定時間中保持するにすぎないものであることが認められる。したがつて、右タイマーの自己保持機能は、シヤツターの上昇時間を規定するタイマーの作動中だけ維持されるものであることが明らかであり、右タイマーの設定時間経過後は、右タイマーからの出力信号を別の遅延回路に入力し、この遅延回路による設定時間経過後の出力信号によつてシヤツターを再下降させているのである。換言すれば、イ号物件においては、下降中のシヤツターの障害物検知器が有体物との接触を検知したことは、前記タイマーの設定時間すなわちシヤツターの上昇中記憶されているにすぎない。右のとおり、イ号物件においては、下降中のシヤツターの障害物検知器が有体物との接触を検知したことを、シヤツターが一旦停止、上昇、再停止後一定時間を経過するまでの間継続して或るリレー又は回路に記憶させ、その後右記憶状態を解除することによつてシヤツターをもとの下降回路による下降状態に復帰させるという技術的思想は存在せず、そのような技術的構成をとつてはいないのである。したがつて、イ号物件には、本件発明の「自己保持するリレー」及び「自己保持するリレーの自己保持を解除するタイマー」に相当するものは存在しない。

以上のとおり、本件発明とイ号物件とは、いずれもシヤツターを一定の高さまで上昇させて再停止させ、一定時間経過後に再下降させるという課題を達成せんとするものである点では共通するけれども、その課題達成のための技術構成において明らかに相違し、技術的思想を異にするものというべきである。

したがつて、イ号物件は、本件発明の構成要件(5)、(6)を充足しない。

2 本件発明は、「上記有体物が取り除されるまで前記動作を繰り返して行わせる」(構成要件(7))ようにしたものであるところ、イ号物件は、前記のとおり、シヤツター閉鎖時の通常予想される状況を前提とする限り、有体物が取り除かれないでも上昇、下降動作を一回半又は二回繰り返した後シヤツターを停止させてその状態でロツクするようにしたものであるから、この点でも本件発明とイ号物件とは異なつている。

原告は、本件発明においても、右動作を永久に繰り返すということは明細書のどこにも記載されておらず、シヤツター駆動用モーターが焼き切れないうちに停止させることを設計上当然の前提としていることは、当業者にとつて自明であると主張する。しかし、本件発明の特許請求の範囲には、単に「上記有体物が取り除かれるまで上記動作を繰返して行わせる」と記載されており、何ら留保が付されていないし、前掲甲第一号証によつて明細書の発明の詳細な記載を検討しても、文字どおり有体物が取り除かれるまでシヤツターの上昇、下降動作を繰り返して行わせる構成が開示されているのみであつて、イ号物件のように、有体物が取り除かれないでも数回の上昇、下降動作の後にシヤツターを停止させるとの構成又は技術的思想は全く開示されていない。

したがつて、イ号物件は、本件発明の構成要件(7)を充足しない。

3 よつて、イ号物件は、本件発明の技術的範囲に属しない。

四 以上の次第で、原告の本訴請求は、その余の点につき判断するまでもなくいずれも理由がないから、これを棄却することとする。

〔編註〕 本件発明の構成要件は次のとおりである。

(1) 電動シヤツターの下端に設けられた座板の下面に取着された有体物との接触時に作動する安全スイツチと、

(2) 上昇起動信号を受けてリレーが作動し上限用のリミツトスイツチによつて上限停止するようにした上昇回路、

(3) 下降起動信号を受けてリレーが作動し下限用リミツトスイツチによつて下限停止するようにした下降回路、

(4) そしてシヤツター下降中上記安全スイツチが作動した場合に一旦停止用のリレーが作動して上記シヤツターを直ちに停止させ、

(5) それと同時に自己保持するリレー及びタイマーを併設した上昇用のリレーが作動して上記シヤツターを一定の高さまで上昇させて再停止させ、

(6) 続いて上記自己保持するリレーの自己保持を解除するタイマーによつてその自己保持を解除し通常の下降回路となり上記シヤツターを再び下降させて

(7) 上記有体物が取り除かれるまで上記動作を繰り返して行わせるような安全制御回路を有する制御盤とから構成された

(8) シヤツターの無人自動閉鎖における安全制御装置

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