大阪地方裁判所 昭和60年(ワ)6062号 判決 1987年4月30日
原告 破産者豊田商事株式会社破産管財人 中坊公平
補助参加人 佐藤吉太郎 外一二名
被告 岩切秀憲 外一九名
主文
一 被告らは、原告に対し、それぞれ別表Iの1の各被告に対応する同表「F請求額」欄記載の金員及びこれに対する昭和六〇年一二月一日からいずれも支払済まで年五分の割合による金員を支払え。
二 訴訟費用は被告らの負担とする。
三 この判決は、第一項に限り仮に執行することができる。
事実
第一当事者の求めた裁判
一 請求の趣旨
主文同旨
二 請求の趣旨に対する答弁
(被告藤原孝信及び同山本勝也を除くその余の被告ら)
1 原告の請求を棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
(被告山田省子)
3 担保を条件とする仮執行免脱の宣言
第二当事者の主張
一 請求原因
1 当事者
原告は、昭和六〇年七月一日午後一時に大阪地方裁判所で破産宣言を受けた豊田商事株式会社(以下「破産会社」という)の破産管財人である(同庁同年(フ)第七六九号破産事件)。
被告らは、いずれも破産会社の元営業担当の従業員である。
2 歩合報酬契約
(一) 破産会社は、昭和五六年四月の設立後間もなくから破産に至るまでの間、金地金の売買と純金フアミリー契約とを組み合わせた商法(以下「本件商法」という)をその営業内容としていたが、純金フアミリー契約とは、客が破産会社から購入する金地金を同社に預け(契約書上は賃貸借とされている)、同社は一年又は五年後にこれ(契約書上は同種、同量の純金と表示されている)を返還するとともに、その間毎年賃借料として、一年契約の場合購入価格の一〇パーセント相当額を契約時に、五年契約の場合購入価格の一五パーセント相当額を契約時及びその後の各年の各始期にそれぞれ支払うとの契約である。
(二) 被告らは、別表Iの1の「A営業配属日」欄記載の各年月日に前項記載の営業を担当する者として各部門に配属され、右各同日破産会社との間で、右営業に対する歩合報酬の額は破産会社の定める基準によるとの合意(以下「本件歩合報酬契約」という)をしたうえ、昭和五九年一〇月一日から昭和六〇年四月末日迄の間(以下「本件期間」という)同表「B職位」欄記載の各職位において右営業に従事した。
(三) 破産会社の歩合報酬額算定の方法はしばしば改訂されているが、本件期間当時のそれは大要次のようなものであつた。
(1) 客から金地金売買代金として受け入れた金額を導入額、従前からの純金フアミリー契約を更新継続させた金額を継続額と称し、月間の導入額及び継続額のうち、期間五年の純金フアミリー契約分の全額と期間一年の同契約分の半額を合計した額を総合ゲージと称する。
(2) 営業担当従業員のうち支店長、営業所長、部長席、課長席にある者を営業管理職と称し、これらの者に対しては、自己の管理下における営業担当従業員の月間総合ゲージの合計額の〇・五パーセントないし一パーセントが営業管理職手当と称する歩合報酬として支給される。
(3) 係長席以下の者を外勤営業社員と称し、自己の月間総合ゲージのうち四〇〇万円を越える部分の、昭和五九年一〇月末日では一五パーセント、それ以降は一二パーセントが営業歩合として支給される。
(4) 各支店・営業所毎に月間及び日割のノルマが定められており、日割ノルマ達成の場合は、当該支店・営業所の営業管理職である各人に各達成日につき六万円づつの日割ノルマ達成賞が支給される。日割ノルマの二倍以上を達成した場合は、その達成倍率により、この賞金額は三倍ないし一〇倍まで増額される。月間ノルマを達成した場合は、同じく営業管理職である各人に、前記営業管理職手当と同額の月間ノルマ達成賞金が支給される。歩合報酬が一挙に二倍になるわけである。そのほかにも、月間導入ゲージ額全国一ないし二〇位の営業社員等には別途の賞金が支給されるし、会社が適当と認める時期に獲得契約数に応じて与えられる賞金もあつた。
(5) 営業社員のうち係長席にある者に対しては、自己の係の月間総合ゲージから一五〇〇万円を控除した残額の二パーセントが係長席手当として支給される。
(6) 歩合報酬は、その者がある月中に達成した総合ゲージに対する額を、その月と翌二か月に分割し、それを各月毎に集計して当月分固定給とともにその翌月二〇日に支払つていた。たとえば、昭和六〇年四月に現実に支払われた分は三月分であつて、その中には同年一月から三月までの各月に発生した歩合報酬の各三分の一と三月分固定給が含まれているわけである。
(四) 被告らは、それぞれ、本件期間中において、破産会社の営業管理職または営業社員(以下併せて「営業担当者」という)として破産会社の営業に従事し、客から資金を受け入れ、あるいは継続させたことに基づき、(三)の算定方法により、別表Iの1の「D歩合報酬」欄各記載の額の歩合報酬(各種賞金及び係長席手当を含む、以下「本件歩合報酬」という)を支給されることになり、これに対する同表「E源泉税額」欄各記載の源泉徴収所得税相当額を控除された同表「F請求額」欄各記載の残額(以下「本件請求額」という)を破産会社から支給され、これを受領した(なお、その集計月及び支払月別の内訳は別表Iの2に記載の通りであり、内容別内訳は別表Iの3の歩合報酬内訳表に記載の通りである。)。
なお、被告らは、本件期間中、それぞれ前記職位にあつたことにより、基本給及び各種手当からなる固定給を支給されており、その額は別表Iの1の「C固定給」欄記載の通りであつた(ただし、期間中変動のあつた者については最終額を記載した)。
3 本件歩合報酬契約の無効
本件歩合報酬契約は、以下に主張するとおり契約成立時から公序良俗に違反し無効なものである。仮に、そうでないとしても、遅くとも本件期間の始期までに公序良俗に違反する事実が具備されたから無効になつたというべきである。
(一) 本件商法の概要
本件商法は次に述べるような経過で展開されていた。
まず、破産会社の女子社員が、一般大衆に対し、電話帳を調べるなどしたうえ無差別に電話して金地金への投資を勧誘し、多少とも見込みのある反応が得られた客を営業社員に連絡する(この仕事を行う女子従業員は「テレホンレデイ」と呼ばれていた。以下同様に呼称する)。すると営業社員は早速その家を訪問し、金の三大利点と称して金地金に対する投資が安全、有利である旨を説いてその購入を勧め、客が金地金購入に乗り気になると、その購入する金地金を破産会社に賃貸した方がさらに安全かつ有利であると説いて、純金フアミリー契約の締結を勧める。客がこの勧めに応じると、破産会社所定の用紙により金地金の売買契約と純金フアミリー契約とを併せて締結させ、客から、当日の時価による金地金代金及び手数料(取引量に応じて二ないし五パーセント)の合計額から前記の契約時に支払われるべき賃借料額を差し引いた金額を受領し、代わりに破産会社発行の純金フアミリー契約証券を客に交付する(なお、金地金のほかに白金等を対象としたものもあつたが、内容は金地金の場合と同様であり、量的には僅かなので、以下では、すべて金地金について記述し、また、右の契約を「フアミリー契約」と、右証券を「フアミリー証券」ということがある)。
破産会社は、全国数十か所の各一流場所に豪華な設備、調度類を整えた支店、営業所を設置し(倒産時において三五支店、二五営業所であつた)、各支店、各営業所にテレホンレデイを数十ないし百数十名、内勤及び外勤の営業社員を数十名配置して、その営業にあたらせた。
(二) 本件商法の反社会性
本件商法は、以下に述べるとおり著しく反社会的、犯罪的なもので、法秩序上容認できないものである。
(1) 現物まがい性
ア 前記の通り、本件商法は、金地金の売買と同時もしくはこれに引き続きファミリー契約を締結させるという点に特徴がある。両者は、形式的には別個のものであり、客に対する説明もそのようなものとして行われるが、両者は当初からワンセツトとして計画され、実際にも連続して行われたから、結局、客は金地金の現物を受け取ることはなく、フアミリー契約証券という紙切れを受け取るのみである。いわば現物を伴わない現物取引であり、その意味で現物まがい取引と呼ぶべきものである。
イ 破産会社が本件商法を開発した最大の狙いは、金の持つ投資イメージを利用して客を誘引し、資金を拠出させるところにあつた。昭和五三年に金の内外取引が完全に自由化され、しかもその後の一時期金価格が高騰したこともあつて、金は、安全、確実、有利な投資対象というイメージを持つていたのであり、本件商法は、金の持つこのイメージを最大限に利用したものである。
破産会社の営業社員は、客への勧誘にあたつては、もつぱら金投資の安全、有利性を強調して純金フアミリー契約が金現物への投資である旨を説明していたから、客のほとんどは、自分は金地金の現物を買いこれを破産会社に賃貸し、破産会社はこれを保管しているものと信じ込んでいたのである。この金イメージの利用がなかつたならば、破産会社が巨額の資金を集め得なかつたことは明らかである。
ウ また、純金フアミリー契約証券裏面には約款が記載され、第九条には「同種・同銘柄・同数量の純金をもつて返還します」との記載があるものの、同第一条は「純金フアミリー契約とは(中略)純金賃貸借契約です」と明言し、これ以外の条項中にも「賃貸」、「賃借」、「賃借料」等の記載があり、同契約が賃貸借契約であるとの印象を与える形式になつていたし、ほとんどの客は、事前に約款を示されてもおらず、かつ営業社員の説明は前記の通りであつたから、純金フアミリー契約は自己が購入した金地金の賃貸借契約と考えていたのである。
エ しかし、破産会社は、全体として、客に売り渡し、同時に賃借したとする金地金の現物を仕入れて保有していなかつたし、する意思もなかつた。またそれだけの量の現物を仕入れ、保有することは不可能でもあつた。支店、営業所に備え置く見本として僅かの量の金地金を保有してはいたが、その量は到底客から集めた資金の総額に見合うものではなかつた。
もつとも、フアミリー契約の総額に見合う量の金地金を常時保有していなくても、客に返還すべきときにそれに要するだけの金地金を確実に準備しているのであれば、客に損害を与えることはないのであるが、その場合には、つまるところ金現物の安全、確実さは預かる会社の安全、確実さに転化してしまうところ、破産会社は、後記の通り預かる会社としても安全、確実ではなかつたのであるから、本件商法は、金現物の安全、確実を力説強調してその魅力で客を誘引しながら、実際には全く安全性、確実性の存しないフアミリー契約を締結させることに帰し、本質的に欺罔性、詐欺性を具有するものというべきである。
オ また、本件商法の現物まがい性は、出資の受入れ、預り金及び金利等の取締りに関する法律(以下「出資法」という)を潜脱するためのものであつた。すなわち、結局は証券を交付して金銭を預かるのであるけれども、形式上、前記の二段構えをすることにより、出資法所定の預り金ではないとの弁解を用意したのである。
(2) セールス手法
破産会社の営業社員は、客を勧誘するため、巧妙なセールス手法を駆使した。その手法について、破産会社は、営業社員に対し、当初入社時に七日ないし一〇日程度の研修を行い、その後も、毎日の朝礼をはじめ様々な機会に上司から指導、訓練を受けさせていた。営業社員同士が教え合い、あるいは情報を交換することもあつた。こうして、本件商法におけるセールス手法には、欺罔的、欺瞞的、強要的なものなど、反社会的な手段が多く織り込まれていた。
ア まず、前記の通り無差別の電話勧誘をし、その結果の見込客へ訪問販売するという方法は、金の販売方法としては是認されていないものである。
イ 訪問先としては、老人、主婦等を特に狙い、殊にそれらの客が一人で居る時を選んで訪問していたが、これは、本来社会的に保護されるべき弱者に狙いをつけ、その無知、無経験、無防備、あるいは善良さにつけ込もうとするものであつて、極めて反社会的な手法である。
ウ 訪問先では、最初は世間話等をしながら、客の警戒心をゆるめ(破産会社では「アプローチ」と称していた)、その間、家庭内で財産の処分や保有方法につき誰が決定権を有するか、資金の状況如何を探つたうえ、まず、金の三大利点と称し、<1>金は現金と同じ、何時でも何処でも公正な価格で換金できる、<2>金投資には税金がかからない、<3>金は必ず値上がりするとの三点を説明して、金地金を購入することは、投資としても安全でかつ有利である旨説いたが、<1>は、金の現物を保有している場合にはそういえても、フアミリー契約を締結したときはその契約期間中は原則として換金不能となること、<2>については、金の譲渡所得には原則として課税されること、そして<3>については、金価格は多くの経済的、社会的要因により変動し、値下がりすることも多く、現に国内の金小売価格は、昭和五五年一月の一グラム六四九五円を頂点として、以後現在の二〇〇〇円前後までほぼ一貫して下落してきたことから必ず値上がりするとはいえないこと等いずれも虚偽の説明を含むものであつた。
エ 現金や預金を両替するだけである、あるいは銀行預金を移すだけであるという表現もしばしば用いられたが、これは、法令に基づき大蔵省、日本銀行等の厳重な監督下で経営、資産の安全を確保されている銀行等と、いわゆる金ブラツク業者からの転進で、業界団体(社団法人日本金地金流通協会)への加盟も認められず、公的な批判、糾弾すら受けている破産会社を同一とするもので、著しい欺瞞である。
オ その他、営業社員のなかには、スイスの銀行に預けて有利に運用している、トヨタ自動車の系列会社である、デノミネーシヨンになれば預金の価値がなくなる、田中貴金属などで買うとすぐ換金できない、通産省などから認められている、日本銀行に委託金を出してあり政府の保証がある、中曾根首相が後援しているなど虚構のセールストークを用いる者もあつた。
カ 更に、最初のアプローチの段階で善良な老人等との間に、或る種の親近感を作出したうえ、これにつけ込んで、ノルマがあるので是非買つてくれ、買つてもらえば課長になれる、買つてくれないと首になる等と泣き落としたり、客が買うというまで土下座を続けたり、逆に、長い間話をさせておいて買わないのはけしからんと脅かす等、客の正常な判断力を失わしめる方法も多用された。
キ 長時間粘ることも手法として重視された。五時間トークが基本とされ、ときにはそれ以上に及ぶことも稀でなかつた。客が応対に疲れ、根負けし、正常な判断力を失つて遂に契約するに至るまで座り込むのである。
ク こうして客が契約に応じる様子を少しでも見せると、クロージングと称する最後の追込みに入る段階となるが、客が資金が無いというと銀行等へ連れ出して預金や保険を解約させたり、家人に相談するというと秘密にしておけと説得する等、社会的に正常な程度を越える方法で客の逃げ道を塞ぐのである。
ケ また、キヤツチボール、あるいはあおりと称する手法もしばしば利用された。これは、訪問中の客宅から破産会社へ電話し、これを受ける上司との間で、その事実がないのに、今なら安い価格の現物が残つているが他の客も買いたいと言つているのですぐに契約しないと損をする等の会話をして芝居をし、客に最後の踏み切りをさせるのである。
コ こうして、客の心理を金地金購入のところまで巧みに追込んだうえ、金現物では利息も付かないし、盗難の危険もあるなどと言つてフアミリー契約へのすり替えをする。この段階は、営業社員がベテランでない場合や、客にまだ逡巡が残つている場合には、客を来社させて行うのが原則であつた。客は、支店等の豪華なしつらえに優良会社の錯覚を持ち、丁重な接待にますます断り難い心理状態となる。そこへ、ベテランの営業管理職が出てきて、長時間にわたり更に巧妙なトークを浴びせるとともに、金の現物を客の手に持たせる等の手法も用いて、客をますます精神的麻痺状態にしてしまう。こうして、客にフアミリー契約を締結させるのである。
サ 以上の経過の途中で、営業担当者は、破産会社作成の極めて立派なパンフレツトを客に見せるが、しかし、その内容は、金についての一般的知識と破産会社の店舗の写真、美しいが無関係な写真に美辞麗句を連ねたもの等で、客を麻酔にかける小道具にすぎなかつた。商品たるフアミリー契約について正確な説明をしたパンフレツト等は存在せず、営業社員が都合のよいところを強調するだけであつた。その際、メモやグラフを書いて示すことはあつたが、それらは、客宅を出るとき必ず持ち帰るように指示されていた。最後の契約締結時には、客に純金注文書、純金フアミリー契約書に署名させるが、これらには、契約条項が印刷されているものの、その活字は小さく、内容も一般人には難解なものであつて、既にそれまでの経過で麻酔にかかつている客には到底正確に理解し得るものではなかつた。
シ 以上のごとく、破産会社が開発、計画し、営業社員をして駆使せしめたセールス手法は、違法、不当、反社会的なテクニツクを多用し、全体として、客の正常な判断力を奪い、一種の麻酔状態に陥れて、フアミリー契約を締結させるものであつた。
金地金等の商品取引については、それに伴う危険性に鑑み、一般のセールスとは異なる特別の規制が必要であり、各地の商品取引所は、その業界団体の自主規制として、「商品取引員の受託業務に関する取引所指示事項」を制定しているところ、破産会社のセールス手法は、無差別電話勧誘、不適格者の勧誘、深夜の見込客宅訪問、面会強要等の諸点で右の規定にそのまま抵触するし、フアミリー契約締結を「預金の移し替え」または「両替」と説明する点は同規定の「投機性等の説明の欠如」に、銀行に同道して預金を解約させる等の行為は同規定の「融資のあつ旋」に、それぞれ類似し、規制の趣旨に反することは明らかである。そして、この規定は、形式上、破産会社の営業に直接適用されるものではないとしても、金のような投機性のある商品販売について一般に守られるべき社会規範を示すものであるというべきところ、その社会規範に違反するという意味においても、本件セールス手法は反社会的であつた。
更に、本件に触発されて、特定商品等の預託等取引契約に関する法律(昭和六一年五月二三日法律第六二号)が制定されたが、破産会社のセールス手法は、少なくとも、契約締結までの説明書類不交付(同法第三条第一項、第二項)、故意の事実不告知または不実の告知(同法第四条第一項、同法施行令第三条第一項一号、四号)等の諸点において、同法に違反する内容であり、同法施行後であれば、刑罰の対象となるものであつた(同法第一四条ないし第一六条)。したがつて、同法の制定により、少なくとも本件商法の右諸点の犯罪的悪性は、公権的に確定したのである。
(3) 本件商法の破綻の必然性
破産会社は、前記の通り、各店舗に豪華な設備、調度、パンフレツト類を備え、多数のテレホンレデイや営業社員を雇用してフアミリー契約の締結に当たらせたのであるが、本件商法は、極めて効率の悪いものであつたうえ、当初から、客から受け入れた資金そのものを費消することによつてのみ存在しうる性質のものであつたから、構造的、内在的に破綻することが必然のものであつた。
ア 本件商法は、前記の通り、客との間で金地金の売買契約とフアミリー契約を同時に締結し、金地金代金として現金を受領するのであるが、フアミリー契約の賃借期間が満了するまでは金地金を客に渡さず、仕入れもしないので、その間は金地金売買未完結として会計処理していた。そうすると、右受領金は前受金または預り金たる性質を有するので、その受入年度の決算では受入金と称する負債項目に計上しておき、フアミリー契約の期間が満了して、金現物を客に引渡し、または、現物引渡に代えて満了時における金地金の時価相当額を支払つたときに、その時点で当初契約時の売買が契約価格で実行されたことにして、その当初契約価格をインゴツト売上と称し、その契約価格と返還時の時価(支払額)との差額をインゴツト差益(損)と称して、右期間満了年度の損益に各計上していた。
イ 別表IIは、破産会社の決算報告書に基づいて第一期から第四期までの損益及び資産内容の推移を要約したものである。
同表の上段は損益の要約であつて、売上高の主たるものは、インゴツト売上とインゴツト差益であり、他には、当初契約時に計上される手数料、中途解約の場合に徴収する取消手数料、それに若干の不動産売上、家賃、利息収入等である。
売上原価は、インゴツト売上に対応するインゴツト原価が主たるものであり、その他インゴツト差損、不動産仕入れ等のほか、破産会社独自の処理科目である賃借金償却を含んでいる。これは、客に支払つた賃借料を直ちに経費に算入せず、繰延資金に計上しておき、年度末に既経過分を償却したとして、売上原価に算入しているのである。売上利益は、売上高から同原価を差し引いた額である。
営業経費は、販売費及び一般管理費の合計である。その内の従業員に対する固定給、歩合報酬等を給与として示したが、人件費としては、その他に役員報酬、法定福利費、福利厚生費、交通費、募集採用費等がある。売上利益と営業経費の差額が営業損失であつて、破産会社がその営業、すなわち本件商法によつて毎年膨大な損失を生じていることが明らかである。経常損失は、営業損失に受取利息等の営業外収支を加減したものである。
同表中段は、資産内容の大要である。資産のうち最大のものは貸付金であるが、そのほとんどが関連会社に対するもので、実際の資産価値は乏しい。これに次ぐのが前記繰延勘定としての賃借料未経過分で、もとより資産性はない。負債の大部分は、前記受入金であつて、その各期末における残高を内訳として示した。
破産会社は毎年損失を重ねてきたから、当期未処理損失はその損失の累計ということになる。
同表下段の当期受入金は、右各期末受入金残高の年度間差額、すなわち当期純増額であつて、結局、当期中に新たに受け入れた金額から解約、満期により返還した額を控除した額に相当する。
その当期受入金の内のどれだけが経費として費消され、殊に歩合報酬を含めた従業員給与となつているかを、それぞれ経費率、給与率として示した。四期を通算した経費率は五五・九パーセントであり、給与率は三七・四パーセントである。すなわち、本件商法により客から金地金購入代金として受け入れ、預かり中の資金のうち、右割合が経費に流用され、従業員に配分されたのである。
ウ 破産会社は、本件商法以外の事業をほとんど行つていない。僅かに、たまたま持ち込まれた不動産を購入して転売したり、一時的に商品、株式等の取引に手を染めたことがあつたが、何れも、継続的、本格的に行つたものではなく、量、金額とも微々たるものであつた。すなわち、破産会社の業務は、もつぱら、本件商法により資金を集めてくることであり、それが全てであつた。その資金を集める経費に、集めた資金の過半を費消してきたのである。そうしながら、当初集めた資金の全額を返済し、高率の利息相当額を支払う約束をしているのである。
しかし、かかる約束(フアミリー契約に基づく客との約束)の履行を継続できるはずがない。ごく単純な試算をしても、客から五年契約で一〇〇万円の資金を受け入れたとして、通算経費率五五・九パーセントにより五五万円以上は経費として消え、更に前払賃借料一五パーセント一五万円も消えるから、残りの三〇万円足らずを運用して、毎年一五万円の賃借料を支払い続けたうえ、五年後に一〇〇万円の元本を確保しなければならない。そのためには、年複利で計算しても、年率六〇パーセント以上の高利回りで運用しなければならないことになる。現在の我が国の経済事情において、そのような高利運用が不可能なことは、公知の事実である。
破産会社は、受入金から経費を費消した残高を、関連会社に貸し付け、または投資して運用すると称していたが、それら関連会社においても多大な経費を要し、かつ、その行つていた事業はゴルフ場の経営等であつて、実際には赤字続きであつた。少なくとも、破産会社を存続せしめるに足るだけの異常な高利益を還元できるような事業はしていない。そもそも、そのような事業はあり得ないのである。
エ 破産会社が今日まで存続し得たのは、巧妙なセールス手法により、次々と客からの受入金を拡大し、それによつて従前の損失から生じる資金不足を補つてきたからである。しかし、拡大すればするほど、経費及び客への支払金は増大するから、この拡大は幾何級数的にしなければならないが、客となり得る者に限界がある以上、拡大には限界がある。その限界に達したとき、新受入金による損失補充は不可能となつて、経営は破綻する。のみならず、かかる営業を継続する間には、本件商法の反社会的、犯罪的性格が明らかになり、各方面から非難、攻撃が始まるから、やがて新たな客の獲得は急激に困難となり、反面、従前の客からの返還要求は急増する結果、右限界の到来を早め、かつその時期には一気に破産会社を破滅させるに至る。このように、破産会社の本件商法による経営が早晩破綻せざるを得ないことは、経済的、社会的必然であり、現にそのとおり破綻したのである。そのことは、もちろん、倒産前から予測されていた。しかるに、破産会社は、これを秘し、金地金の返還と賃借料の支払を確約して本件商法を推進していたのであつて、その点においても、本件商法は著しく反社会的、犯罪的なものであつた。
(4) 返還引き延ばし
破産会社は、客の求めにもかかわらず、フアミリー契約に基づく金地金返還(または時価相当金額の返還、以下同じ)をあらゆる方法で引き延ばしたが、これはその破綻の時期を出来るだけ遅らせ、その間に出来るだけ多額の資金を集めるためであつた。
ア 昭和五六年春に売り出したフアミリー契約は期間一年であつたが、昭和五八年夏から期間五年のものを売出し、かつ、新規の契約はもちろん、旧来の一年物も、できるだけ五年物に切り替えさせようとした。そのため、一年物の賃借料が年一〇パーセントであつたのに対し、五年物のそれを一五パーセントとし、他方、営業社員の歩合報酬についても、新規、継続とも一年物獲得の評価に比し、五年物のそれを二倍にした。
イ 一年物の契約期限が列来しても(五年物の契約期限は、破産会社倒産までには到来しなかつた。)直ちに返還を履行せず、執拗にその継続、殊に五年物への切り替えを求めた。担当社員の説得で効がなければ係長が、それでも駄目なら課長、次は支店長と、入れ替わり立ち替わり、前記セールス手法と同様の手法を用いてこれを行つた。最後は、トラブル担当の管理部員、あるいは特にこの処理をさせるために養成訓練をした専門チームまで繰り出す異常さであつた。
ウ また、契約期間中の解約には応じないことを鉄則とし、やむを得ない事情のため解約する場合は、既払の賃借料の全額返還を求め、かつ契約金額の三〇パーセントの違約金を控除することとした。かかる高率の違約金にはなんの合理性もなく、全く中途解約を妨圧するためだけの不当な手段であつた。
エ 客が公的機関や弁護士に依頼したため満期ないし解約時にその返還要求に応じざるを得なくなつた場合でも、一括しては返還せず、できるだけ長期の分割払にしようとした。そのため、裁判上の和解により弁済が約されながら、分割払の途中で破産となり、結局弁済されなかつた例も少なくない。
破産会社の右のような返還引き延ばしの手法は、前記の特定商品等の預託等取引契約に関する法律の施行後であれば、返還、解約の遅延(同法第五条)に該当するもので違法なものというべきであり、この点においても本件商法の犯罪的悪性は公権的に確定しているのである。
(5) 以上によれば、破産会社は、前記のごとく欺罔性、強要性の著しい手段により大衆から資金を収奪していたものというべきであつて、その行為は、仮に直ちに実定刑法上の構成要件には該当しないとしても、極度に反社会的であり、犯罪行為に準じる悪性を具備するものというべきである。
(三) 本件商法と本件歩合報酬契約
被告らは、営業担当者の中核ないし第一線として、前記の反社会的、犯罪的行為の最も中心となる部分を直接担当し遂行していたのであつて、2(二)及び(四)記載の本件歩合報酬契約に基づく歩合報酬は、被告らが、自ら、または部下を指揮監督して、客(被害者)との間でフアミリー契約を締結して客から多額の資金を受け入れたことに基づいて支給され、その額も受入金額に直接連動して定められていた。被告ら営業担当者は、この歩合報酬を得んがために、困難なセールス活動に精勤したのであつて、被告らにはこの他に十分な額の固定給が支給されていたことを考え併せると、本件歩合報酬は、通常の労働ないし労働力の提供に対する対価、あるいは労働者の生活維持のための給付たる性質を有さず、もつぱら、被告ら営業担当者が破産会社の反社会的、犯罪的行為に加担したことに対する対価であり、同時に、被告らをしてそれに精励せしめるための奨励金であつたというべきである。
また、この歩合報酬は、前記3(二)(3)に記載の通り、客(被害者)からの受入金・金地金購入代金としての預り金を、その約旨に反して流用し、直接配分したものというべきであつて、破産会社の犯罪的行為による取得金の「山分け」的一部である。しかして、その山分けによつて客からの受入金の相当部分が直ちに費消される結果、破産会社の資産状態は著しく悪化し、客に対するフアミリー契約債務の履行はますます不可能となつた。すなわち、本件歩合報酬契約は、第三者たる客の犠牲において、高額の利得を被告ら営業担当者に取得せしめるものであつたのである。
(四) 公序良俗違反
(1) 以上を総合すると、本件歩合報酬契約は、反社会的、犯罪的な本件商法に加担することに対する対価支払合意、ないしはこれを奨励するための奨励金支払合意というべきものであつて、しかも第三者たる客の犠牲において客からの受入金を配分して被告らに高額の利得を取得させるものであるから、このような法律行為の効力を承認することは、社会的妥当性を欠き公序良俗を害する結果を導くことが極めて明らかである。してみると、本件歩合報酬契約は、被告らの主観的認識の如何を問わず契約成立時から公序良俗に違反し無効であつたというべきである。
(2) 仮に、民法第九〇条の解釈上、受益者の側の何らかの主観的事情が要件とされるとしても、当該法律行為が公序良俗に違反すること自体の認識まで必要でないことはいうまでもなく、当該行為の公序良俗違反性を基礎づける事実の全部を認識している場合はもちろん、全部ではなくても主要な部分を認識している場合並びにその認識はないが、その認識の欠如につき少なくとも重過失があると認められる場合にも、当該行為の悪性の程度を併せ考慮して、右要件を満たすものと解すべきである。
ア 被告ら営業担当者は、本件商法の中核を担当し遂行する者として、当然前記3(一)及び同(二)記載の本件商法の内容、特質を知悉していた。殊に、本件期間の前後には、本件商法に対する非難攻撃が、多数の客(被害者)からはもとより、新聞、テレビ等のマスコミや、国会、官庁、弁護士グループ等からも、広く、激しく、かつ継続して加えられていた(以下まとめて「外圧」という場合がある)。本件歩合報酬に生活を託していた被告らとしては、当然この外圧に無関心でおれるはずがなく、その指摘するところを、自らの目で見、当否を判断しようとした。しかして、外圧の指摘は、前記本件商法の内容、特質の各点にわたつていたから、必然的に、これらの諸点の全てを知るに至つたのである。
イ さらに具体的に検討すると、原告が本件商法の概要(3(一))、現物まがい性(3(二)(1))、セールス手法(3(二)(2))、返還引き延ばし(3(二)(4))として主張している事実関係は、それを自ら遂行し、あるいは部下を指揮督励して遂行せしめ、同時に、破産会社の一員として、全体としてのその遂行状況を日々見聞していた被告らとしては、これを知悉していたことはほとんど自明である。本件商法の破綻の必然性についても、多くの営業担当者は、これを認識していた。少なくとも、その必然性の原因たる本件商法の非効率性、異常に高い経費率と劣悪な資産内容及びそれを補うに足りる高利運用がされていないことを認識していた。すなわち、破産会社は、被告ら営業担当者を駆り立てて資金獲得に邁進させるため、支店、営業所ごと、月日ごとにノルマを定め、その達成度に応じて賞金を支給し、かつその詳細を社内に公表して営業担当者を督励していた。その結果としての全社の売上高も、同じ目的で知らされていたし、支店ごと、社員ごとの成績も知らされていた。破産会社全体及び各支店、営業所の人員数、構成も分かつていたし、歩合報酬も含め、その給与額ないし給与体系も分かつていた。会社はむしろ社員を駆り立てるために、絶えずこれを調整して、その都度社内に周知せしめていたのである。客に支払うべき賃借料の割合は定められているから、導入額が分かれば、その総額も分かる。電話代、店舗の家賃、設備、調度の償却費等の諸経費も、営業担当者としての常識的知識と経験で、おおむねの見当はつく。このように、原告主張の経費率算出の基礎となる数字または事実は、全て被告ら営業担当者の身の回りにあつたから、それによつて、正確ではなくても経費率につき、大体の見当をつけることはできたし、見当をつけていた。そうすると、本件期間前後の我国において、右のような異常に高い経費を賄つてなお利益のあがるような事業がありえないことは公知の事実であり、多少とも経済社会に関与している者にとつては当然にわきまえている常識であつたから、少々の誤差はあつても、原告主張の破綻の必然性は避け難い結果として認識することができ、認識していたのである。
被告らが前記2(三)記載の歩合報酬算定方法を知悉していたこともいうまでもなく、その歩合報酬の目的と機能(本項(三))も十分承知していた。また、前記破綻の必然性ないしそれをもたらす基礎事実を知れば、自ら、自己の取得する歩合報酬金の源資が客から受け入れた金地金購入代金であること、すなわち、客からの取得資金の山分け的一部であり、それによつて客への債務履行をますます不可能ならしめることを認識し得たし、認識していたのである。
ウ 仮に、右事実の全てを認識していなかつた者があるとしても、前記3(二)(1)の現物まがい性、同(2)のセールス手法、または同(3)の破綻の必然性のうちのいずれかは認識していた。これら三要素は、それぞれ単独ででも強度の反社会性を有するものというべきであるから、そのいずれかを認識することは、その程度において本件商法の反社会性を認識していたことを意味するのであつて、本件商法の客観的悪性及びそれと歩合報酬との前記密接な関係を併せ考えれば、その認識を有しながら、なお、本件商法の遂行に積極的に加担し、それによつて歩合報酬を受領することは、同じく公序良俗に違反し、是認できないというべきである。
エ のみならず、仮に右三要素のいずれについても現実の認識を欠く者があつたとしても、それは同人の重過失によるものである。けだし、被告ら営業担当者は、本件商法の直接的、かつ中核的な遂行者として、その内容はもとより、前記の諸特質、したがつてそれらの反社会性を容易に知りうる立場にあつた。殊に、本件期間前後の前記外圧にさらされていた状況において、被告らと同様の立場に置かれていたとするならば、通常の職業人であれば、誰でもその外圧の指摘する本件商法の反社会性の少なくとも主要な点を認識するに至るのは当然であるからである。しかして、この場合にも、前同様、本件商法の客観的悪性等を併せ考慮すれば、本件歩合報酬契約は、公序良俗に違反するものとして、その効力を否定すべきである。
(3) なお、本件歩合報酬契約が無効となる時期について付言するに、本項(1)に記載したように本件歩合報酬契約は、被告らの主観的認識の如何を問わず契約成立時から無効であつたと解すべきであるが、仮に、そうでないとしても、本項(2)に記載したように、被告らは、遅くとも本件期間の始期までには、前記の公序良俗違反性を基礎づける事実を認識し、若しくは認識する可能性を有するに至つていたから、少なくとも本件期間の始期までには、本件歩合報酬契約は無効になつたと解すべきである。このように解した場合、法律行為はその成立後に無効となることになるが、これを認めることは背理ではない。法律行為が効力を有するための要件は、成立要件と効力要件とに区分して考えることができるが、成立要件の存否は、原則として行為時を基準として判断されるが、一旦成立した法律行為が効力を持続し得るかについては、必ずしも成立時のみに着目して判断すべき理由はなく、その行為によつて一定の法律関係が継続することになり、かつそれに基づく債権の行使が繰り返されるような場合には、むしろ、その期間の全てにわたつて、効力要件を具備しているか否かを判断するのが合理的であるからである。例えば、一定の継続的法律関係を生むべき法律行為が有効に成立した後、その内容を禁圧する法律が制定されたとすれば、そのときから当該行為は無効となると考えざるを得ない。公序良俗違反についても同様である。被告らが入社時点において本件商法の悪性に気付いていない限り、その後それに気付き悪性を十分に認識しながら、若しくは重過失により認識しないまま、本件商法を担当し遂行した場合でも、被告らに歩合報酬請求権を肯定しなければならないとすることの不当性は、極めて明らかであり誰もが認めるところである。
4 不当利得返還請求
破産会社が本件期間の分として被告らに支給した本件請求額の歩合報酬は、前記の通り無効な支払合意に基づくものであるから、法律上の原因を欠き、かつ、被告らは、少なくとも右無効を招来する基礎事実を知り、または重過失により知らなかつたこと前記の通りである。
よつて、原告は、民法第七〇四条により、各被告らに対し、本件歩合報酬(別表「D歩合報酬」欄記載)からこれに対する源泉徴収所得税相当額として破産会社が預かり中の額(同表「E源泉税額」欄記載)を控除した額(各被告手取額、同表「F請求額」欄記載)の返還と、これに対する本訴状送達の後である昭和六〇年一二月一日から支払済まで年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。
なお、不当利得の発生は事実問題であり、発生した不当利得を損失者に返還させることは、衡平を根源とする法の基本的要請である。民法第七〇八条は、この原則の例外として、給付者にも同じく非難されるべき事情があるときは、彼に対する制裁として、その返還請求権の行使を否定するにすぎない。したがつて、仮に、本件歩合報酬の支払が不法原因給付に当たり、破産会社としては返還請求権を行使し得ないとしても、原告は、破産会社とは異なる公正中立な第三者的立場で独自にその破産手続上の職務を遂行するものであるから、右権利を行使するのになんらの支障もない。民法第七〇八条が破産管財人である原告の右請求権行使まで拒むものと解するならば、結局、被告らの反社会的行為によつて収奪させた利権を、被害者である破産債権者への還元を否定してまで、そのまま被告らに保有せしめることになつて、その不当、不合理なることは何人の目にも明らかである。
二 補助参加人らの主張
原告は、請求原因3(一)において破産会社の商法の概要について、同(二)(2)においてセールス手法について主張しているが、原告補助参加人らは、更に、金売買の基本的形態と破産会社の沿革の両面から、被告らのセールス方法が極めて違法性の強いものであつたことを以下に述べる。
1 財産保全を目的とする金売買の基本的形態
我国では、昭和五三年四月以降金の輸出入の完全自由化が実現された結果、金が財産保全の一方法として考えられるようになつた。そして、金地金の健全な流通機構の整備と正しい金知識の普及を目的として、昭和五五年一月政府の認可のもと、社団法人日本金地金流通協会が発足した。右協会は、会員登録業者の厳重な審査を行い、金の正しい流通の範を示し、事実上悪徳業者を締め出すことを目的としていた。そして、信用ある会員登録業者は、一般消費者に対し、店頭販売をするのみで、電話とか訪問による金の売買は全く行つていない。これは、財産保全のための金取引は業者の店頭における現物取引が鉄則とされていること及び一般消費者との間において万が一にでも苦情が発生することのないようにするために業者が厳格な姿勢を示していることによるものである。しかるに、破産会社の企画実施した本件商法は、一般顧客に対し無差別に電話勧誘をし、次いで見込客の訪問勧誘を行い、更に現物を伴わないフアミリー契約を締結させるものであるから、金の取引方法としては社会的に許容されない違法なものというべきである。
2 破産会社の沿革と本件商法の組織的展開
破産会社の前身は、昭和五三年七月に設立された豊田商事株式会社(以下「旧豊田商事」という)に遡る。旧豊田商事は、設立来、昭和五六年九月金が商品取引所法に基づき政令指定されるまで東京貴金属市場と称する私設の金先物市場等を仮装して、先物取引の手口で詐欺的商法を大々的に展開し、被害を多発させた会社であり、金の政令指定後金先物取引が出来なくなつたため転じたのが本件の現物まがい商法である。そして、前記社団法人日本金地金流通協会は、定款でもつて、金地金予約取引を一般消費者との間に行つていないものないし人的物的援助等の関与のないことを会員の資格要件として謳つているから、旧豊田商事及び破産会社はこれにより会員にも登録業者にもなり得なかつたのである。
以上のごとく、破産会社が元々金ブラツク業者の出身であり金を保有せずして金の現物まがい業者に転じた沿革をみれば、破産会社が最初から最後まで金業者として認知されていなかつたことは明らかである。
三 請求原因に対する認否
1 被告岩切、同佐々木、同堀之内、同阪東及び同竹内
(一) 請求原因1の事実は認める。
(二) 同2(一)のうち、破産会社が昭和五六年四月の設立後間もなくから本件商法を営業内容としていたことは知らない。その余の事実は認める。同2(二)ないし(四)の事実は認める。
(三)(1) 同3前段の主張は争う。
(2) 同3(一)の事実は認める。
(3) 同3(二)前段の主張は争う。同(1)の事実はいずれも知らず、主張は争う。同(2)前段の事実は否認し、主張は争う。同(2)アないしシの事実は否認し、主張は争う。同(3)前段の主張は争う。同(3)アないしエの事実は知らず、主張は争う。同(4)の事実は否認し、主張は争う。同(5)の主張は争う。
(4) 同3(三)の事実は否認し、主張は争う。
(5) 同3(四)のうち、(1)の主張は争い、(2)の事実は否認し、主張は争い、(3)の主張は争う。
(四) 同4の主張は争う。
(五) 補助参加人らの主張は争う。
2 被告二渡
(一) 請求原因1の事実は認める。
(二) 同2(一)ないし(四)の事実は認める。
(三)(1) 同3前段の主張は争う。
(2) 同3(一)の前、中段の事実は概ね認め、後段の事実は認める。
(3) 同3(二)の前段の主張は争う。同(1)の事実はいずれも知らず、主張は争う。同(2)前段の事実は否認し、主張は争う。同(2)アないしシの事実は否認し、主張は争う。同(3)前段の主張は争う。同(3)アないしエの事実は知らず、主張は争う。同(4)の事実は否認し、主張は争う。同(5)の主張は争う。
(4) 同3(三)の事実は否認し、主張は争う。
(5) 同3(四)のうち、(1)の主張は争い、(2)の事実は否認し、主張は争い、(3)の主張は争う。
(四) 同4の主張は争う。
(五) 補助参加人らの主張は争う。
3 被告青柳
(一) 請求原因1の事実は、同被告が元営業担当の従業員であるとの点を除き認める。同被告は管理職であつた。
(二) 同2(一)の事実は認める。同(二)のうち、本件歩合報酬契約の締結日は知らず、その余の事実は認める。同(三)の事実は認める。同(四)のうち、同被告が破産会社から固定給及び歩合報酬として受領した金額及びその内訳が原告の主張するとおりであることは認めるが、歩合報酬として受領した金額のうち経費等として支出した部分は本件請求額から控除されるべきである。その詳細は後に主張する。
(三)(1) 同3前段の主張は争う。
(2) 同3(一)の事実は認める。
(3) 同3(二)前段の主張は争う。同(1)の事実は否認し、主張は争う。同(2)前段の事実は否認し、主張は争う。
同(2)アないしシの事実は否認し、主張は争う。同(3)の前段の主張は争う。同(3)アないしエの事実は知らず、主張は争う。同(4)の事実は否認し、主張は争う。同(5)の主張は争う。
(4) 同3(三)の事実は否認し、主張は争う。
(5) 同3(四)のうち、(1)の主張は争い、(2)の事実は否認し、主張は争い、(3)の主張は争う。
(四) 同4の主張は争う。
(五) 補助参加人らの主張は争う。
4 被告石川及び同河野
(一) 請求原因1の事実は認める。
(二) 同2(一)ないし(四)の事実は認める。
(三)(1) 同3前段の主張は争う。
(2) 同3(一)の事実は認める。
(3) 同3(二)前段の主張は争う。同(1)の事実はいずれも知らず、主張は争う。同(2)前段の事実は否認し、主張は争う。同(2)アないしシの事実は否認し、主張は争う。同(3)前段の主張は争う。同(3)アないしエの事実は知らず、主張は争う。同(4)の事実は否認し、主張は争う。同(5)の主張は争う。
(4) 同3(三)の事実は否認し、主張は争う。
(5) 同3(四)のうち、(1)の主張は争い、(2)の事実は否認し、主張は争い、(3)の主張は争う。
(四) 同4の主張は争う。
(五) 補助参加人らの主張は争う。
5 被告和田、同藤原義久、同竹本及び同高島こと高(以下「被告和田ら)という)
(一) 請求原因1の事実は認める。
(二) 同2(一)の事実は認める。同(二)の事実は概ね認める。同(三)の事実は認める。同(四)のうち、同被告らが固定給として受領した金額が原告の主張するとおりであることは認め、その余の受領した金額及び歩合報酬金額についての認否は別表IIIのとおりである。
(三)(1) 同3前段の主張は争う。
(2) 同3(一)の事実は認める。
(3) 同3(二)前段の主張は争う。同(1)の事実はいずれも知らず、主張は争う。同(2)前段の事実は否認し、主張は争う。同(2)アないしシの事実は知らず、主張は争う。同(3)前段の主張は争う。同(3)アないしエの事実は知らず、主張は争う。同(4)の事実は否認し、主張は争う。同(5)の主張は争う。
(4) 同3(三)の事実は否認し、主張は争う。
(5) 同3(四)のうち、(1)の主張は争い、(2)の事実は否認し、主張は争い、(3)の主張は争う。
(四) 同4の主張は争う。
(五) 補助参加人らの主張は争う。
6 被告東、同武田、同西田及び同川口(以下「被告東ら」という)
(一) 請求原因1の事実は認める。
(二) 同2(一)ないし(三)の事実は認める。同(四)のうち、被告らが破産会社から固定給及び歩合報酬として受領した金額及びその内訳が原告の主張するとおりであることは認めるが、歩合報酬として受領した金額のうち経費として支出した部分は本件請求額から控除されるべきである。
(三)(1) 同3前段の主張は争う。
(2) 同3(一)の事実は概ね認める。
(3) 同3(二)の前段の主張は争う。同(1)の事実は否認し、主張は争う。同(2)前段の主張は争う。同(2)アないしシの事実はいずれも知らず、主張は争う。同(3)前段の主張は争う。同(3)アないしエの事実はいずれも知らず、主張は争う。同(4)の事実はいずれも知らず、主張は争う。同(5)の主張は争う。
(4) 同3(三)の事実は否認し、主張は争う。
(5) 同3(四)のうち、(1)の主張は争い、(2)の事実は否認し、主張は争い、(3)の主張は争う。
(四) 同4の主張は争う。
(五) 補助参加人らの主張は争う。
7 被告山田
(一) 請求原因1の事実は認める。
(二) 同2(一)及び(二)の事実は認め、(三)の事実は明らかに争わない。同(四)の事実は否認する。
(三)(1) 同3前段の主張は争う。
(2) 同3(一)の事実は認めるが、現物取引もあつた。
(3) 同3(二)前段の主張は争う。同(1)の事実は知らず、主張は争う。同(2)前段の事実は否認し、主張は争う。同(2)アないしシの事実はいずれも知らず、主張は争う。同(3)前段の主張は争う。同(3)アないしエの事実はいずれも知らず、主張は争う。同(4)の事実はいずれも知らず、主張は争う。同(5)の主張は争う。
(4) 同3(三)の事実は否認し、主張は争う。
(5) 同3(四)のうち、(1)の主張は争い、(2)の事実は否認し、主張は争い、(3)の主張は争う。
(四) 同4の主張は争う。
(五) 補助参加人らの主張は争う。
8 被告藤原孝信及び同山本
右被告らは、公示送達による呼び出しを受けたが、いずれも本件口頭弁論期日に出頭しない。
四 被告らの反論
1 被告らが受領した歩合報酬金額について
(一) 被告青柳及び被告和田ら
破産会社においては、支社長、支店長らの管理職への経費(販売促進費)支給が一切認められておらず、したがつて営業管理職手当は、支社長、支店長らの販売促進費をも含めたものとして支給されていたのであつて、このため、支社長、支店長は、営業管理職手当の中から、成績優秀な営業社員に対する賞金、賞品、毎月一度の「打ち上げ」と称する会合の経費、部課長や一般社員等を飲食に連れていく費用、テレホン部や、テレホンレデイに対する賞金、賞品等の販売促進費を支払うこととされていた。したがつて、歩合報酬額は、これらの経費を差し引いて算出すべきである。以下各被告について述べる。
(1) 被告青柳
同被告は、昭和五九年一二月から昭和六〇年六月までの間前記経費として八四〇万円を支払つた。
また、昭和六〇年一月から同年五月までの支給額から六か月分の経費を差し引いた金額に対する所得税六三万八八〇〇円、昭和五九年度分住民税一八〇万円及び昭和六〇年一月から同年五月までの住民税予定額一五〇万円の支払義務もあるから、以上の合計金額一二三三万八八〇〇円を差し引くべきである。
(2) 被告和田ら
(被告和田)
ア 部下の社員に対する景品(サイフ、ライター、時計、印鑑箱、いずれも一個三万円ないし五万円)及び部下の社員を慰労するため彼らを飲食に連れていく費用として昭和五九年一二月から同六〇年四月までの五か月間で合計四〇〇ないし五〇〇万円
イ 顧客を訪問する場合、手ぶらで行くわけにはいかないので一回最低三〇〇〇ないし五〇〇〇円のお菓子等を持参していたが、この費用として月二〇ないし三〇万円、前記五か月間で一〇〇ないし一五〇万円
ウ 金を購入してくれた客に対し、金のクルーガーランドやネイブルのネツクレス、特に一キログラム以上買つてくれた人には一〇万円程度のアクセサリーをプレゼントしていたが、その費用として月二〇ないし三〇万円、前記五か月間で一〇〇ないし一五〇万円
エ 昭和六〇年二月二〇日ころ、破産会社から半ば強制的に上客を三泊四日の韓国旅行に接待するように指示され、右接待をしたが、その費用一五〇ないし一六〇万円は一切被告の自己負担であつた。
(被告藤原義久)
昭和五九年一二月ないし同六〇年一月の間
ア 社員に対する賞金月八〇万円(営業に対し五〇万円、テレホンに対し三〇万円)
イ 支店経費(来客時のお茶代、菓子代、コーヒー代、女子社員に対する残業食事代等)として月三〇ないし四〇万円
ウ セールスマンが客を訪問する場合や追加注文を受ける場合等には、セールスマンの手土産とは別に支店長としてカステラ等の手土産を用意する費用月五万円
エ 営業社員の会議打合せ、社員の慰安のための飲食費用月一〇〇万円
オ 客の契約に対するバツクマージン。これは客の一人(村上某)が破産会社において歩合が幾らつくか知つており、同人からバツクマージンとして要求され同人に支払つたもので一二月と一月に各三〇万円、二〇万円の合計五〇万円
カ 本社工作費として本社の役員や営業本部社員に対し月三〇ないし四〇万円を接待ないし金銭交付
昭和六〇年二月ないし四月の間
キ 営業社員に対し月一〇〇ないし一二〇万円の賞品(ビデオ、テレビ、ステレオ等の電化製品、貴金属、家庭用品)。これは被告藤原義久が大阪第一支店に赴任したことに伴い先行投資のつもりで行つた。
ク 新任営業社員に対する交通費、奨励金として月二〇万円
ケ テレホン社員に対し賞金、賞品月五〇ないし七〇万円。内賞金三〇ないし三五万円、賞品二五ないし三〇万円(バツク、時計、貴金属等)
コ 営業社員に対する賞金月二〇ないし三〇万円
サ 支店経費として月三〇ないし四〇万円(毎朝支店社員全員に対しモーニングコーヒーを出しており、この費用として一日三〇〇〇ないし五〇〇〇円。このほか、管理職、内勤営業マンに対する食事、コーヒー代。また、テレホンレデイに対し週一回ないし一〇日に一回程度午後三時にコーヒーとケーキを出していたが、この費用として月五ないし一〇万円)
シ 客の接待費用月一〇ないし二〇万円。例えば客である上野某と契約をしたが、同人が金貨の収集家であつたので五〇万円相当の金貨を贈つた。
ス 部下の慰労、会議費等として月一五〇万円
セ ノルマ達成時の祝賀会(打ち上げ)の費用。昭和六〇年二、三月の支店ノルマ達成時に中華料理「味園」、ビヤホール「ミユンヘン」にて各五〇万円。また、この際二次会の費用として各係の長にそれぞれ五ないし一〇万円を手渡すとともに、役職者の慰労として二月度は四〇万円、三月度は二〇ないし三〇万円を支給した。
ソ 本社の管理、総務担当の上役に対し食事代名目で月一五ないし二〇万円、接待費として月一五ないし二〇万円合計三〇ないし四〇万円。これは社員に対する健康保険証の交付が通常二か月かかるのを二週間位でしてもらつたり、車で通勤する社員に対し車両交通費として会社が認めれば月五万円(車両費二万円、ガソリン代三万円)支給されるので、これを認めて貰うため等の支店社員のための工作費用として支出していたものである。
(被告竹本)
ア 営業社員やテレホンレデイに対する賞金、賞品として月八〇万円(営業五〇万円、テレホン三〇万円)
イ 支店ノルマ達成の賞金等。昭和六〇年二月には京都支店初めてのノルマ達成で同支店の全社員に対し各一万円ずつ合計八〇万円を支給した。営業社員に対しては、ノルマ達成時には売上げに対する一パーセントを賞金としたので、二、三月は各二〇〇万円、四月は二五〇万円を支出した。打ち上げ費用として、二月中華料理「味園」、三月炉端焼店、四月鳥丸京都ホテルで各五〇万円、打ち上げの二次会の費用として二、三、四月に営業、総務、テレホンにも各三〇万円ずつ渡して打ち上げをさせている。以上合計一一五〇万円
ウ 支店経費(被告藤原義久の昭和六〇年二月ないし四月のサに同じ)として毎月三〇ないし四〇万円、五か月で一五〇ないし二〇〇万円
(被告高島こと高)
ア 部下の社員を慰労するため及び会議等のための飲食費として月一五〇万円、五か月間で七五〇万円
イ ノルマ達成のための月間賞金として月一〇〇万円(内七〇万円は営業に対し、内三〇万円はテレホン部に対し支払われた)、五か月間で五〇〇万円
ウ ノルマ達成の祝賀会の費用合計二五〇万円。昭和六〇年一月の支店ノルマ達成時に中華料理「隋園」にて一〇〇万円、同年三月支店ノルマ達成時に中華料理「味園」にて一五〇万円(内七〇万円はゲストとして出演したオール阪神巨人の出演料)
エ 昭和六〇年三月支店ノルマ達成時、支社長として支社管内の営業社員に一〇〇万円、テレホン社員に三〇万円合計一三〇万円支出
オ 支社への来客に対するコーヒー代や残業した女子社員の食事代として毎月一五万円、五か月間で合計七五万円。これは、破産会社では一切支社経費、支店経費が認められておらず、客が来社した際のコーヒー代さえも支社長、支店長の経費から負担することになつていたからである。
カ 本社の役員及び営業本部の社員を接待したり、便宜を計つて貰うために金銭を包んだりしたが、その費用として月五〇万円、五か月間で二五〇万円
以上の被告らの各経費の合計額は、別表IIIの「受領金員のうちの歩合報酬としての認否」欄中の「否認(経費)」部分に記載の金額となる。
(二) 被告東ら
同被告らが支給を受けた歩合報酬は営業経費をも含むものであつて、経費の額は極めて高額であつた。それは、部下従業員に対する奨励金、客に対するサービス物資の購入費、サービスによる値引の負担金、客への接待費、被告らの営業上の交通費(主としてタクシー代)等多種にわたつていた。したがつて、被告らの所得となるのはこれらの諸経費を控除した後の金額である。
(三) 被告山田
同被告が受領した歩合報酬金額は、原告が主張する金額よりもはるかに少ないものである。
(1) 同被告の歩合報酬の一部分は、被告が破産会社との間でフアミリー契約を結んだものと扱われて当該契約金の支払に充てられた結果、全く受領していない。その内訳は、別表IVの同被告の欄に記載のとおりである。
すなわち、第一に、同被告が投資として自らの意思で契約した部分が控除された。第二に、ノルマ達成のため、他人名義で純金フアミリー契約を締結させられ、その他人との間でフアミリー契約を実際に締結できなかつたときは、各営業社員がこれを引き受けるものとされ、その金額を控除された。全くの架空人名義で契約書が作成されたこともあるが、これは、当初から営業社員が引き受けさせられた。第三に、契約した客が入金できない場合にこれを引き受けた。別表IVの同被告の欄に記載したもののうち、イケエヒデエ名義の五〇〇グラム、マツハシ名義の一〇〇グラム、クラウチサカエ名義の一〇〇グラム及びトミタニシズエ名義の六〇〇グラムが第三のものにあたり、右以外のものが第一、第二のものにあたる。
かくして、同被告は、合計約三〇〇〇万円を歩合報酬から控除された。
(2) 同被告は、新規契約の獲得で忙しく、継続契約は管理職や営業各係の長がしていた。そして、継続になつた場合には、形式的には、当初の担当者が継続契約をしたものと扱われ、この分も歩合報酬算定の基礎にされて歩合報酬が決められたが、支給の段階では、この金額が控除されて、実際に継続契約を締結した者にこれが支給されていた。この金額は、少なくとも、昭和六〇年一月から四月までの間に一八〇万円にはなつている。
2 純金フアミリー契約の法的性質
〔被告岩切、同佐々木、同二渡、同青柳、同石川、同堀之内、同河野、同阪東及び同竹内(以下「被告岩切ら」という)並びに被告和田ら並びに被告東ら〕
本件商法は、金地金の売買と純金フアミリー契約の二段構成となつているものであるところ、破産会社のフアミリー契約証券等によれば、第一条には「純金フアミリー契約とは、純金賃貸借契約です」とあり、第七条には「賃借料を支払う」とあつて、金地金の賃貸借契約である旨表現されているものの、第九条には「同種、同銘柄、同数量の純金を以て返還します」とあり、全体の契約約旨と契約当事者の合理的な意思解釈からすると、その実質は金地金の消費寄託もしくは金地金の引渡債務をもつて消費寄託の目的とした準消費寄託契約と解すべきである。すなわち、破産会社は、顧客から純金売買代金を受領することにより、顧客に対し一定量の純金を引き渡すべき債務を負担し、この引渡債務をもつて消費寄託の目的とし、一定期間の経過後に同種、同量の金地金の返還を約したものが純金フアミリー契約である。そして、金地金の売買契約との不可分一体性に鑑みるときは、本件商法の法的性質は、金地金の売買とその消費寄託とが一体となつた混合契約と解すべきである。
以上によれば、純金フアミリー契約においては、返還時期の到来する時点までは金地金の現物の存在は必要でなく、右時期において顧客に対し金地金の現物を引き渡せば足りるというべきである。
3 本件商法の現物まがい性について
(一) 被告岩切ら
純金フアミリー契約の法的性質は前記のとおりであるから、本件商法にあつては、契約締結後返還時期が到来するまでの間は金地金を保有する必要はなく、返還時期において金地金の現物を引き渡せば足りるものであるところ、実際、客には金地金の現物を引き渡していたし、支店、営業所に置いてない場合には、本社から直ぐに送られてきていた。したがつて、この点についての原告の主張は失当である。
(二) 被告和田ら
原告は、破産会社がフアミリー契約は純金の賃貸借契約であると称しながら金の現物を保有していないとして、これをもつて本質的に詐欺的であると主張するのであるが、本件商法にあつては、契約締結後返還時期が到来するまでの間は金地金を保有する必要はなく、返還時期において金地金の現物を引き渡せば足りるものであることは、被告岩切らも主張するところである。そして、売却した金地金をそのまま預かつてきて金庫に入れて保管していても、何の利益も生まないことも明らかであつて、これを換金して運用する必要があるのである。このように、本件商法は、金の運用に重点があるのであるから、金を保有していないこと自体は直ちには詐欺に結びつかないというべきである。
そして、破産会社においては、金地金を集中管理しており、各支店、営業所には最低限度の金地金しか置いていなかつたが、各支店、各営業所において必要なときは本社に電話をすれば、翌日には金地金が直送されていた。また、破産会社においては、返還時期の到来した客に対しては、最低でも月六〇〇キログラム以上の金地金を返還していたのである。
以上のとおりであるから、原告の現物まがい性についての主張は失当である。
(三) 被告東ら
被告岩切ら及び被告和田らの主張を援用する。
4 セールス手法について
(一) 被告岩切ら
破産会社の本件商法における現場のセールスのやり方は、各営業所に所属するテレホンレデイが客となりそうな者に対して、無差別に電話をかけて金地金の売買に関する話を持ち掛け、その相手方が反応を示せば、その相手方の住所、氏名、通話所要時間、通話内容、家族構成等を記入した面談用紙を作成し、これをテレホン係責任者に取次ぎ、同人において担当課長に引継ぐことから開始されるのが通例であつた。課長は、部下の営業社員に右面談用紙を交付して、興味を示した客の勧誘に当たらせた。
破産会社にあつては、テレホンレデイや営業社員に対し、一定期間、金地金の特性や金地金売買の利益性等についての一般知識を植え付けるとともに、特に外交にかかる営業社員に対しては、一定のセールストークや接客方法と態度等につき、一般教育をするのが常であつたようである。外交にかかる営業社員の場合にあつては、破産会社の各営業所(現場)での社員募集に応募した者につき、営業見習いとして仮入社させ、一〇日間位の講習を行い、見習い中に月間三〇〇万円の売上をあげた者を営業正社員として登用していた。右講習と称するものが、指導の主たるものであるが、その任に当たるのは営業所の所長や課長職にあつたものであり、その指導内容の大要は、前記セールストークや金の利殖性に付いての一般的知識の習得であつたようである。指導されたセールストークの内容は、純金の現物トークと純金フアミリートークに大別される。
前者は、純金は現金と同一であり、何時でも、何処でも、直ちにその日の市場価格で換金できるものであること、金地金売買による金保有は原則として無税であること、値上がりが期待されるものであることとその根拠等についてであり、後者は、フアミリー契約は定期性の賃貸借契約であること、一年物と五年物があり五年物の方が利殖性に富むものであること、特に銀行との定期預金との対比において利回りが良いこと等に関するものである。
更に、前記講習にあつては、接客の方法も指導されたのであり、その主たる内容は、客を訪問した場合、客が警戒心を解くまで一時間から一時間半位世間話をすること、その間に客の資金把握をすべく客の生活費、一か月の収入、利用金融機関、高齢者の場合は年金の有無とその支給金額等につき簡単に事情聴取すること、その上で金地金の売買やフアミリー契約の話をし、資料やパンフレツトの類を使用して客の理解度を把握しながら順次説明をすること、最後には会社のガイダンスを見せながら会社に対する安心と信用を持たせること等の手順を教えるものであつた。
以上のセールス手法は、原告が主張するような、違法、不当、反社会的なテクニツクを含むものとはいえないというべきであるし、被告岩切らは顧客に対し、金の値上がりが予想されるので儲かること、金投資の利益には原則的に課税されないこと、今なら安い現物があること、客のために現物を預かり保有すること、賃借料を間違いなく支払うこと、中途解約が出来ないこと等の話をして勧誘をしたことはあるも、原告が主張するような違法、不当、反社会的なセールス手法を用いたことはない。
(二) 被告和田ら
原告は、詐欺的、強引なセールストークとして多数のトークを列挙して主張するが、被告和田らもそのような事実の存在自体を否定するものではない。しかし、その大部分は、個々のセールスにおけるトークであり、破産会社が組織的に命令、教育したものではない。破産会社において、セールス方法の組織性に関連するものとしては、新入社員に対する入社時における教育ビデオ、上司、先輩からの新入社員に対する説明、本社からの各支店ないし社員に対する通達、支店長会議等があるが、いずれも原告が主張するような内容のものではなかつた。
(1) 新入社員に対する入社時における教育ビデオ
新入社員の入社に際しては、会社は、ビデオを見せて初歩的な教育を行つていた。ビデオには、会社の概要の他、教育ビデオ、金の知識があつた。教育ビデオの内容は、営業社員の心得、服装、身だしなみ、礼儀作法、切り返しの話法等であつた。金の知識は、金の鉱物的性質を説明したものである。
以上は、原告の主張するような違法なセールストークを指導、教育したものではない。
(2) 上司、先輩からの新入社員に対する説明
これらの説明は、主に、<1>金の換金性(金は現金と同じ役割をしており即日換金できること)、<2>税金面での有利性(他の金融商品との比較)、<3>金は値上がりが期待できること(過去の年度別の変動状況等)の三点である。これらの説明は、いずれも新聞のコピーに基づいて行われていた。
<1>については、フアミリー証券は換金できないから虚偽であるとの主張があるが、それは中途解約条項をセールスマンが説明したのか否かの問題であり、金の換金性の問題とは次元が異なる。<2>については、所得を捕捉されにくいという意味においてむしろ真実をついているのである。<3>については、現在でも一般的には金が値上がりするものと考えられているのであり、昭和五六年以降金価格は値下がり傾向にあるが、金価格が上昇傾向にあつたのは歴史的事実である。
以上のとおりであつて、これらの点について、違法なセールストークを指導した事実はない。
(3) 本社からの各支店ないし社員に対する通達について
破産会社においては、営業本部通達、業務総務部通達、管理本部通達、永野社長通達の四種類の通達が出されていたが、違法なセールストークを命令、教育、訓練するものは全くなく、逆に違法なセールスを禁止するものばかりであつた。例えば、詐欺的行為の禁止、詐欺的勧誘をして契約をした者は解雇のうえ歩合報酬全額を返還させ、客にも金を返還すること、上司の指示で詐欺的契約をしたときは上司も解雇すること等である。このような通達は破産前の一年間などは年に五回程度出されていた。
(4) 支店長会議
支店長会議は、月一回会社幹部も出席して行われたが、この会議の際には、その月の契約率、解約率(解約の理由も検討された)の他、弁護士や消費者センターの介入率等が発表された。そして、この場合においても、幹部が違法なセールスをしないようにとの指導をしていたのである。更に、原告は、破産会社が老人、主婦等の本来社会的に保護されるべき弱者を狙い打ちにしたとの主張をしているが、そのようなことはない。テレホンレデイは無差別に電話をしていたのであつて、老人会の名簿等を使用していたのではない。営業社員もテレホン部から回された面談用紙に記載された客宅へセールスするのであり、営業社員が自分で電話を架けたりセールス先を選択することはできなかつた。現実には、契約者の中に老人や主婦が多くの割合を占めていたようであるが、これはあくまでも結果にすぎない。更に、破産会社においては、判断能力の劣るような客へのセールスは禁止されていたし、テレホンの段階でも、あまりの高齢者や耳が遠い人、ぼけている人、七〇歳以上の人等は除外せよとの指示があつたのである。
以上の次第で、原告の主張は何れも失当である。
(三) 被告東ら
被告岩切ら及び被告和田らの主張を援用するとともに、次のとおりこれに付加して主張する。原告は、破産会社がセールストークとして営業社員に教育した金の三大利点は、詐欺的であり、かつ虚偽的である旨主張するが、投機的要素を持つ金地金の購入については、この程度の言動は、投資家たる者も十分検討するべき要素を含んでいるのであり、一般商品の広告販売にあたり、多少の誇張が広告宣伝に随伴しているのは常識である。若し、破産会社のセールストークが虚偽というなら、今日の経済社会で行われている広告宣伝文言はすべて虚偽であり、欺瞞といわざるを得ないであろう。
5 本件歩合報酬契約の公序良俗違反性について
(一) 被告岩切ら
原告は、本件歩合報酬契約は、極度に反社会的な本件商法に加担したことに対する対価支払合意、ないしはこれを奨励するための奨励金の支払合意というべきもので、しかも、破産会社から受領した歩合報酬は客からの受入金を山分けした一部であるから、本件歩合報酬契約は、被告らの認識の如何を問わず公序良俗に違反し無効である、仮に、被告らに何らかの主観的事情が具備される必要があるとしても、被告らは、本件歩合報酬契約の公序良俗違反性を基礎づける事実の全部ないしは主要な部分を認識していたし、認識していなかつたとしてもそのことに重大な過失があるから、同様に本件歩合報酬契約は公序良俗に違反し無効である旨主張する。
しかしながら、本件歩合報酬契約は、その基準内容等からして、それ自体は何ら問題がないものであるから、これが公序良俗に違反し無効であるというためには、被告らにおいて、本件歩合報酬契約が、原告が主張するところの反社会的な本件商法に加担したことに対する対価支払合意ないしはこれを奨励するための奨励金支払合意に該当し、かつ受領した歩合報酬が客からの受入金を山分けした一部であることを認識していることが必要であると解すべきである。そして、被告岩切らは、以下のとおりその認識がなかつたのである。
(1) 現物まがい性について
四3(一)に記載の通り、被告らが経験し、かつ見聞した範囲においては、客に対し金地金の現物を引き渡していたし、支店、営業所に置いてない場合には、本社から直ぐに送られてきていたのであるから、同被告らは、フアミリー契約に見合う金地金の総量が破産会社に存在したとの認識はともかく、それ相応の、また、引渡要求のある客に対する必要量の金地金の現物は、常に存在し、したがつて何時でも現物を引き渡すことができるものと考え、かつ認識していたのである。だからこそ、後に主張するとおり同被告らの一部の者は自らもフアミリー契約の契約当事者になつたのである。
以上によれば、被告岩切らが原告が主張するところの現物まがい性の内容たる事実を認識していたことはあり得ず、かつ認識し得るはずもなかつたのである。
(2) セールス手法について
四4(一)に記載の通りである。
(3) 破綻の必然性について
被告岩切らは、破産会社における現場出先の第一線の営業担当者にすぎず、破産会社の経営の根幹に参画するものではない。そして、本件期間までの在職年数は、満四年から一年であり、二、三年の者が大半を占めている。したがつて、被告岩切らが、破産会社の経営実態、業務実態、損益状況等を認識していたとか、認識し得たとかいうことはあり得るはずがないのである。そればかりか、被告岩切らは、破産会社幹部の説明、マスコミの報道、破産会社のパンフレツト等に基づき、破産会社は新興商社として、貴金属の販売、ゴルフ場等遊興施設の運営その他多方面にわたる各種事業を営み、その業績は好調で、いわゆる豊田グループが順調に推進している旨の宣伝を信じ込んでいたのである。
(4) 被告佐々木、同二渡、同青柳、同石川及び同河野は、別表IVの各被告欄に記載の通り、自己の兄弟、子供等の名義でフアミリー契約の契約当事者になつており、この事実は、被告らが本件商法を破産会社がいうとおり適法、妥当なものと信じていたことの証左である。
以上の次第で、被告岩切らは、原告が主張するような本件歩合報酬契約の公序良俗違反性の内容たる事実についての認識を欠き、かつこれを認識し得るはずもなかつたのであるから、原告の主張は失当というべきである。
(二) 被告和田ら
原告は、四5(一)前段記載の通り、本件歩合報酬契約は公序良俗に違反し無効である旨主張する。しかしながら、本件歩合報酬契約が公序良俗に違反し無効とされるためには、本件商法が法秩序からして容認し得ないほどに反社会的、犯罪的であること(この点についての主張は、四2、同3(二)及び同4(二)に記載した通りである。)及び被告和田らにおいて、本件歩合報酬は反社会的、犯罪的な本件商法を遂行することにより支給されるものであることを認識していた(違法性の認識を含む)ことが必要であると解すべきである。本件歩合報酬契約それ自体は、もともと無色透明な法律行為であつて、これに違法性を与えるのは本件商法が反社会的、犯罪的であることの認識であると考えられ、また、被告らは破産会社の一員にすぎず、会社の命令に従つて仕事をしてきただけであることからすると、本件商法の反社会性、犯罪性についての明確な認識がない場合にまで法秩序上容認し得ないとされるいわれはないからである。そして、主観的認識が必要であるとする以上は、被告ら各人の認識を具体的に検討すべきは当然のことである。
(1) 本件商法の現物まがい性について
本件商法は金の運用に重点があるため、金を保有していないこと自体をもつて直ちに詐欺に結び付けることのできないことは既に主張したとおりであり、その意味では、この点についての認識の有無は問題にならないと解されるから、原告のこの点に関する主張は既に失当というべきであるが、更に付言するに、被告和田らは、破産会社は必要な量の金地金を保有していると認識していた。すなわち、破産会社においては金地金を集中管理しており、各支店、営業所には最低限度の金地金しか置いていなかつたものの、各支店、営業所において必要なときは本社に電話をすれば、翌日には金地金が直送されていたこと、破産会社においては、返還時期の到来した客に対しては、最低でも月六〇〇キログラム以上の金地金を返還していたことを見聞していたのである。また、破産会社は、昭和五八年二月二五日に船上フエステイバルを開催したが、その際、総額五〇億円以上の金、プラチナ等が飾られていたのであり、これは、マスコミによつて報道されたのである。
以上のような事実を被告和田らは認識していたのであるから、同被告らが現物まがい性の内容たる事実を認識し、または認識し得たなどとは到底いえないものである。
(2) セールス手法について
四4(二)において主張したとおりの認識をしていたので、原告のこの点についての主張は失当である。
(3) 本件商法の破綻の必然性について
被告和田らは、破産会社の経営者ではなく、単なる一般社員であり、破産会社の経費がどの位かかるか、人件費や店舗の賃借料がどの程度か等を知るはずもないのである。これらは、経営者や財務、経理の担当者の仕事であり、一般社員の考えることではない。更に、破産会社は、全国四〇数支店、従業員数八〇〇〇人にのぼる規模であつたことからすると、一社員が全体を把握するなど不可能である。したがつて、この点について被告和田らが知り得る手段は、破産会社幹部からの説明や社内報の記事がほとんどであり、これ以外には若干のマスコミ報道があるにすぎない。
破産会社幹部からの説明、社内報の記事、若干のマスコミ報道から被告和田らが認識したことは次のようなことである。
破産会社の関連企業も収益を上げているし、活発に事業に取り組んでいる。すなわち、レジヤー部門として、ゴルフ場(豊田ゴルフクラブ)、マリーン、テニスクラブ、スキー場等を経営、海外投資部門として、エバーウエルシーインターナシヨナルが中国広東省との合弁で六八階建の貿易センタービルを建設する(日本経済新聞昭和六〇年二月二日)、同じく同社が、ホンコン、シンガポール、バンコク、ジヤカルタで先物取引を行う、ムサシノエンタープライスがパラオに大レジヤーランドを建設する、商品取引部門として商品取引を行つていた、医療機関部門として総合病院一〇箇所程度を経営していた、航空事業部門としてジエツト機を所有して航空運送事業を経営し、北日本航空大学校を経営していた、このほかに、ベルギーダイヤモンド、ジヤパンフアイナンス、海外タイムス、レストランを経営、沖縄の観光開発、トヨタゴールド等が活躍している等である。
また、被告和田らが破産会社に入社した当時は破産会社の規模は六店舗、従業員数百名であつたのに、昭和六〇年四月ころには全国六〇店舗、従業員数七〇〇〇名を数える程に拡大しており、被告和田らは、この発展を見ながら業務に従事していたのである。
以上の事実によれば、被告和田らが、破産会社の破綻を認識していたことなどあり得ず、認識の可能性もなかつたのである。よつて、この点についての原告の主張も失当というべきである。
(4) 別表IVに記載の被告らは、同表に記載の通り、自ら、親兄弟、子供等の名義でフアミリー契約の契約当事者になつており、この事実は、被告らが本件商法を破産会社がいうとおり適法、妥当なものと信じていたことの証左である。
(5) 破産会社においては、予防法学に異常ともいえる注意を払つていた。十数名の顧問弁護団を擁し、この弁護団が本件商法が合法であるとのお墨付きを与え、被告ら社員は、その旨を何度も説明されていたのである。一般社員としては、本件商法の法的判断についての弁護士の意見を信じるのが当然であり、そうでなければ弁護士の存在意義などないであろう。したがつて、被告和田らには、違法性の認識もなかつたのである。
以上の次第で、被告和田らは、何れも本件歩合報酬契約が反社会的、犯罪的な本件商法を遂行することに対する対価支払合意であるとの認識を有していなかつたのであり、その可能性もなかつた。よつて、原告の主張は失当というべきである。
(三) 被告東ら
次に付加して主張する他、被告岩切ら及び被告和田らの主張を援用する。
被告川口、同武田及び同西田は、別表IVに記載の通り破産会社との間で純金フアミリー契約を締結し、その代金の払込も完了している。右被告らがこのような契約を締結したのは、破産会社がその契約の安全、有利さを被告らに説いており、被告らがこれを信じて、多額の投資をしたことによるものである。
(四) 被告山田
被告山田が勤務していた鹿児島営業所においては、返還時期の来た客に対しては、金地金を引き渡していたし、現金を希望する客に対しては、その支払をしていた。また、賃借料も遅れることなく支払われていた。
被告山田は、破産会社のパンフレツト、ビデオ、破産会社の規模、設備等を見聞し、また、破産会社の上司の、会社は多業種にて事業を行い、経営状態は良好で黒字であるとの説明を信じていた。それだからこそ、被告山田は、自ら、別表IVに記載の通り純金フアミリー契約の契約当事者になつている。更に、同被告は、客の賃借料を立替払いしているし、本件期間後においても賃借料合計約一八八万円を破産会社に代わり支払つた。
また、鹿児島営業所においても、破産会社について新聞報道等があると、上司が朝礼時に当該記事について説明をしていたが、それによると、会社が大きくなればなるほど、周りの反発や足の引つ張り合い、ライバル会社の中傷等が出てくるのであつて、破産会社が注目されるということは、それだけ金融界にとつても脅威になつてきた証拠であり、破産会社も近い将来日本一の大会社になり得るということであつて何の心配もいらない、今日も信念をもつて仕事に励むようにとのことであつたので、被告山田はその言をすつかり信じ込んでいたのである。
6 不当利得返還請求について
(被告岩切ら、被告和田ら、被告東ら)
破産管財人は、実体法上破産者が第三者に対して有する権利を主張し、あるいは手続上特に認められた権利を行使して破産財団の組成に努め、もつて破産債権者等に対して公平かつ妥当な配当手続をなす破産法上の機関にすぎないものである。しかるに、原告は、本件歩合報酬の支給が不法原因給付にあたるとしても、破産管財人は、その返還を求めることができると主張するのであるが、破産者自体が民法第七〇八条によつて返還請求し得ないものを、破産という一事によつて何故破産管財人が返還請求することができるのか理解に苦しむところである。
五 被告らの反論に対する原告の主張
被告ら(被告藤原孝信及び同山本を除く、以下この項につき同じ)は、被告らは破産会社の第一線の営業担当者にすぎないから、破産会社の経営実態、業務実態、損益状況等の詳細を知るはずがなく、却つて、破産会社発行のパンフレツト、社内誌あるいは幹部、上司の説明によれば、破産会社は、客から集めた金を関連会社で運用し、それによつて収益を上げ、これを客に対して償還しているとのことであり、被告らはこれをその儘信じ込んでいたのであつて、したがつて、本件商法の破綻の必然性についての認識はなく、その認識の可能性もなかつた旨主張し、その証左として、被告らが自ら純金フアミリー契約の契約当事者になつていると主張するので、以下この点について反論する。
1 この点についての被告らの認識については、請求原因3(四)(2)アないしウにおいて詳細に主張したとおりであるが、更に、本件期間当時、被告らを含めた破産会社は、激しい外圧の嵐のもとにあつた。まず、本件商法に引つ掛かつた客の不安、苦情は各営業担当者や破産会社へ向けられ、そこでは勿論解決しなかつたので、通産省や地方自治体の公的相談機関あるいは民間の救済団体の窓口へ向かつた。その動きをマスコミが知り報道した。昭和五六年一一月には、実名こそ伏されていたが、破産会社を知るものには同社と分かる内容で、本件商法を疑問とする記事が現れた。昭和五八年八月には、全国紙が破産会社の実名を挙げて、本件商法に疑問を呈し、これを批判するキヤンペーンを展開した。同年一〇月以来、国会両院の各種委員会においてもしばしば本件商法が問題とされ、その現状や対策が審議された。全国の弁護士グループが、二回にわたり破産会社に対し公開質問状を突き付け、名を連ねて告訴もした。個別的な告訴も全国で行われたし、何人かの破産会社従業員が取り調べを受け、逮捕もされた。民事訴訟も全国で頻発し、仮差押、差押、証拠保全手続で執行官が破産会社の支店、営業所へ立ち入ることも何回かあつた。そして、これらの出来事は、その都度マスコミに取り上げられ、新聞のみならずテレビ、雑誌等でも報道された。こうした外圧が破産会社の倒産に至るまで大波小波となつて押し寄せていたのである。
これらの外圧は、破産会社の金保有の有無とともに経営と資産の内容をも常に問題としてきた。しかし、破産会社は、これに対し何の返答もせず本件商法が成り立ち得る理由も全く説明しなかつた。外部に向かつてだけでなく、内部の営業担当者らに対しても、せいぜいゴルフ場等へ投資して運用しているという程度の具体性、合理性のない説明をするのみであり、むしろその点を深く問題とすることを制圧し、代わりに臨時の賞金を出すような方法で、ともかくも資金集めに狂奔することを求めるのみであつた。
このような破産会社の資金の運用について疑問と釈明を求める声が、広く、激しく、かつ継続して突き付けられている状況を目の当たりに見れば、何人であつても、そのような高利運用がされているとの破産会社の説明は虚偽であり、したがつて、結局本件商法は必ず破綻するという判断に行き着くしかないのである。
現に、破産会社の社員の多くが、本件商法の必然的破綻を予測し、認識していたのであつて、そのため破産会社の従業員の定着率は極めて悪く、給与の支払を三か月の分割払としてまでこれを引き止めようとしても、入社後すぐに退職するものが後を断たなかつた。それにもかかわらず破産会社に残つていた者は、各人の事情はともかく、結局、高額の給与、歩合報酬を得んがために破綻の認識を有しながら、あるいはこれに目を覆つて意識しないようにしながら、本件商法に没頭していたものと考えるよりほかない。
2 被告らは、自ら純金フアミリー契約の契約当事者になつていることをもつて、破綻の必然性について善意であつたと主張するが、原告は、別表IV記載の契約締結の事実を否認する。殊に他人名義のものについては、破産会社の破産後に客から買い戻さざるを得なかつたものが含まれている疑いがある。
また、破産会社の場合、次のような事情があつたので、営業担当者は自らの地位と目前の歩合報酬を維持するために契約高を伸ばすことに邁進し、契約高と歩合報酬額との兼ね合いで自ら契約当事者になつたものもあり、したがつて自ら契約当事者になつていることと破綻の必然性についての善意とは直ちに結びつくものではない。すなわち、被告ら営業担当者については、一定の成績をあげることにより有利な処遇を受ける制度が種々設けられており、歩合報酬の基礎控除、ノルマとその達成賞金はもとより、正社員としての身分取得、その後の昇級、昇格等も全て成績を基本として行われた。しかもその有利な取り扱いの程度差が著しく大きかつたので、もう少しで基準の契約高に達する場合、敢えて自ら契約当事者となつたのであり、このことは、その購入月日が月末ないし月初めに集中していることからも明らかである。更に、早過ぎた売上報告やその他自らの行為により何らかの責任をとらされてやむを得ず購入した場合もあるであろう。
六 被告らの抗弁
1 利得消滅の抗弁
(被告和田ら)
仮に、本件歩合報酬契約が公序良俗に違反し無効であるとしても、被告和田らは、四5(二)で詳細に主張したとおり、本件歩合報酬契約が反社会的、犯罪的な本件商法を遂行することに対する対価支払合意であるとの認識を有しておらず、したがつて、本件歩合報酬契約が公序良俗に違反し無効であるということを知らなかつた。そして、被告和田らは、四1(一)(2)に記載の通り、それぞれ経費の支出をしているから、被告和田らが受領した本件歩合報酬のうち右支出した経費に相当する金額の利得は消滅したものというべきである。
2 相殺の抗弁
(一) 被告和田
被告和田は、破産会社に対し、次のとおり立替債権を有している。
(1) 被告和田は、森崎満子の担当セールスマンであつたが、昭和六〇年四月三〇日破産会社から同女に支払うべき純金フアミリー契約の賃借料合計二〇四万円を支払つておいてくれと依頼されたので、同年五月二九日右金員を立替払いした。
(2) 根尾和子は、昭和六〇年一月に破産会社とフアミリー契約を締結したが、同女に手持ちがなかつたので、被告和田が同女の依頼で、破産会社に対し、一〇八八万二一四〇円(二五〇一円/グラム×四キログラムと手数料二パーセント)を支払つた。
(3) 被告和田は、土井賀代子と同僚であつたが、昭和六〇年三月、破産会社の依頼により同女に対し四二五万四九二〇円を貸与した。
(4) 被告和田は、川野真治という客にセールスして二三万円で契約締結に至つたが、同人に手持ちが三万円しかなかつたので破産会社に相談したところ、破産会社の依頼により被告が同人に残額二〇万円を貸与した。
被告和田は、昭和六〇年一二月一九日の第三回口頭弁論期日において、右債権と本件請求にかかる歩合報酬返還債務とを対当額において相殺する旨の意思表示をした。
(二) 被告石川、同河野、同川口、同武田及び同西田
右被告らは、別表IVに記載の通りの内容で破産会社との間で純金フアミリー契約を締結し、破産会社に対し、各金額欄記載のフアミリー契約債権を有している。そして、被告石川及び同河野は、昭和六〇年一〇月一七日の本件第一回口頭弁論期日において、被告川口、同武田及び同西田は、昭和六二年一月二九日の本件第一五回口頭弁論期日において、右フアミリー契約債権と本件請求にかかる歩合報酬返還債務とを対当額において相殺する旨の意思表示をした。
七 抗弁に対する認否
1 抗弁1の事実は否認し、主張は争う。
2 (一) 抗弁2(一)のうち、その主張の日時に相殺の意思表示がなされたことは認めるが、その余の事実は否認し、主張は争う。(2)ないし(4)は破産会社に対する立替債権でないことはその主張自体から明らかである。
(二) 抗弁2(二)のうち、その主張の日時に相殺の意思表示がなされたことは認めるが、その余の事実は否認し、主張は争う。被告石川、同河野、同川口、同武田及び同西田が有すると主張するフアミリー契約債権の目的は、金地金の引渡請求権であつて、金銭債権たる本件請求債権とその目的を異にするから、右主張は失当である。
八 再抗弁
1 被告和田の相殺の抗弁について
六2(一)(1)記載の立替支払は、昭和六〇年五月二九日になされたというところ、破産会社は、そのときまでには支払停止の状態に陥つていた。賃借料や被害者との和解に基づく分割弁済金はもとより、同月二〇日に支給されるべき従業員給与も支払われていない状態であつた。よつて、破産法第一〇四条四号によりその相殺は許されない。
2 被告石川、同河野、同川口、同武田及び同西田の相殺の抗弁について
原告の本件請求債権は民法第七〇四条に基づくものであり、殊に本件の場合、反社会的、犯罪的商法により被害者から収奪した資金の山分け分を、故意または重大な過失をもつて取得した者に対して返還を求める請求権であり、しかもその行使者は、もつぱら被害者の損害回復を職務とする破産管財人であるから、民法第五〇九条の法意からしても、同法第一条第三項の趣旨からしても、また衡平の観点からしても、右被告らにのみ破産債権の全額弁済をする結果となる相殺は許されるべきでない。
九 再抗弁に対する認否
再抗弁事実はいずれも否認し、主張は争う。
第三証拠<省略>
理由
第一書証の成立について
別紙「書証の成立について」に記載の通りである。
第二_被告藤原孝信及び同山本(公示送達関係者)を除くその余の被告らに対する請求について
一 当事者
請求原因1の事実は当事者間に争いがない(但し、被告青柳との間においては、同被告が営業を担当していたことは、原告本人尋問の結果により認められ、これを左右する証拠はない。)。
二 本件歩合報酬契約
1 請求原因2(一)の事実(本件商法)は当事者間に争いがない(但し、被告岩切、同佐々木、同堀之内、同阪東及び同竹内との間においては、破産会社が昭和五六年四月の設立後間もなくから本件商法を営業内容としていたことは、甲イ第四号証及び原告本人尋問の結果により認められ、右認定を左右する証拠はない。)。
2 同2(二)の事実(被告らの業務及び本件歩合報酬契約)は当事者間に争いがない(但し、被告青柳との間においては、同被告の営業配属日は、甲イ第二九号証及び乙A第八号証によれば、別表Iの1の「A営業配属日」欄記載の通りであることが認められ、右認定を左右する証拠はない。)。
3 同2(三)の事実(歩合算定方式等)は被告山田を除くその余の被告らとの間においては争いがなく、被告山田は、右事実を明らかに争わないから、これを自白したものとみなす。
4 同2(四)(本件請求金額等)について判断する。
(一) 右事実は被告岩切、同佐々木、同堀之内、同阪東、同竹内、同二渡、同石川及び同河野との間においては争いがない。
(二) 被告青柳が破産会社から固定給及び歩合報酬として受領した金額及びその内訳が原告の主張するとおりであることは当事者間に争いがない。
同被告は、受領した金員のうち販売促進費等の経費として支出した部分についての歩合報酬性を否定するほか、所得税、住民税等の支払義務があるからその金額を控除すべきである旨反論するが、甲ホ第一号証及び同第四号証の二によれば、破産会社の給与体系においては、所長、支店長、部長席及び課長席に支給される営業管理職手当は、明確に外務員報酬として規定され、しかも営業所、支店ないし担当する課の月間総合ゲージの変動によつて支給額が変動するようになつていることが認められ、右認定を覆すに足りる証拠はない。そうすると、営業管理職手当は、その全額が歩合報酬であると認められ、経費をも含めて支給されていたものと解することはできない。また、仮に、同被告が所得税、住民税等の公租公課の支払義務を負つているとしても、それは公法上の義務であつて、右義務の存在自体は私法上の請求たる本件請求になんらの影響をも及ぼさないというべきである。してみると、被告青柳の反論は理由がない。
(三) 被告和田らが固定給として受領した金額が原告の主張するとおりであることは当事者間に争いがないが、同被告らは、受領した金額を一部否認し、且つ被告青柳と同様に、受領した金員のうち経費として支出した部分についての歩合報酬性を否定するところ、営業管理職手当の全額が歩合報酬と認められ、経費をも含めて支給されていたものと解することができないことは既に説示したとおりであり、また、甲ホ第六ないし第九証の各一ないし五の各一及び二並びに弁論の全趣旨によれば、同被告らに支給されることになつた歩合報酬額は、別表Iの1の「D歩合報酬」欄記載の通りであること、これに対する同表「E源泉税額」欄記載の源泉徴収所得税相当額を控除された同表「F請求額」欄記載の金額を破産会社から支給され、同被告らはこれを受領したこと並びにその集計月及び支払月別の内訳が別表Iの2記載のとおりであり、内容別内訳が別表Iの3の歩合報酬内訳表に記載のとおりであることが認められ、右認定を覆すに足りる証拠はない。してみると、同被告らの反論は理由がない。
(四) 被告東らが破産会社から固定給及び歩合報酬として受領した金額及びその内訳が原告の主張するとおりであることは当事者間に争いがないが、同被告らも、被告青柳及び被告和田らと同様に、受領した金員のうち経費として支出した部分についての歩合報酬性を否定するところ、営業管理職手当の全額が歩合報酬と認められ、経費をも含めて支給されていたものと解することができないことは既に説示したとおりであるから、被告東らの反論も同様に理由がない。
(五) 被告山田の受領した固定給及び歩合報酬について判断するに、甲ホ第一〇号証の一ないし五の各一及び二並びに弁論の全趣旨によれば、同被告に支給されることになつた歩合報酬額は、別表Iの1の「D歩合報酬」欄記載の通りであること、これに対する同表「E源泉税額」欄記載の源泉徴収所得税相当額を控除された同表「F請求額」欄記載の金額を破産会社から支給され、同被告は、これを受領したこと、その集計月及び支払月別の内訳が別表Iの2記載の通りであり、内容別内訳が別表Iの3の歩合報酬内訳表に記載の通りであること並びに同被告の受領した固定給(但し、本件期間の最終のもの)が別表Iの1の「C固定給」欄に記載の通りの金額であることが認められ、右認定を覆すに足りる証拠はない。
同被告は、支給されるべき歩合報酬の一部(合計約三〇〇〇万円)は、同被告が破産会社との間で純金フアミリー契約を締結したものとして取り扱われ当該契約金の支払に充てられたので、全く受領していない、また、同被告がかつて担当した客との継続契約の締結は、管理課や営業各係の長がしていたところ、形式上は右継続契約締結分の歩合報酬も同被告のものとして計上されているが、現実に支給される段階では右継続契約に係る歩合報酬金額は、実際に右契約を締結した者に支給されていたので、この部分を同被告は受領していない旨の反論をするが、右反論に係る事実を窺わせるに足りる証拠はなく、弁論の全趣旨によつてもこれを窺わせるに足りない。してみると同被告の反論は理由がない。
三 本件歩合報酬契約の公序良俗違反性
原告は、本件歩合報酬契約は、反社会的、犯罪的な本件商法に加担することに対する対価支払合意、ないしはこれを奨励するための奨励金支払合意であり、しかも、第三者たる客の犠牲において被告らに高額の利得を取得させるものであるから、このような法律行為の効力を承認することは社会的妥当性を欠き公序良俗を害することは極めて明らかであつて、本件歩合報酬契約は公序良俗に違反し無効である旨の主張をするので、以下この点について判断する。
1 本件商法の概要
請求原因3(一)の事実(本件商法の概要)は概ね当事者間に争いがない。
2 本件商法の反社会性について
(一) 現物まがい性(請求原因3(二)(1))について
(1) 前示の当事者間に争いのない事実、甲イ第四号証、同第六号証の一ないし六、同第八、同第一〇、同第一八号証、甲ニ第一ないし第五号証、同第八号証の一、同第九及び第一一号証、甲ホ第一号証、乙A第二ないし第八号証、丙第一七号証の一ないし三八、検証の結果、証人山田及び同三木の証言並びに原告本人尋問の結果を総合すると、次の事実が認められ、右認定を左右する証拠はない。
ア 本件商法は、金地金の売買と純金フアミリー契約とを結びつけた形で展開されていた。破産会社の大半の営業担当者は、客の家を訪問したうえ、金の三大利点なるものを説明して、金地金に対する投資の安全、有利性を説いて、その購入を勧誘し、客が金地金を購入する気になると、その金地金を破産会社に預けると購入価格につき一年間で一〇パーセント、五年間で各年一五パーセントの割合による利息がつき(なお、期間五年の純金フアミリー契約は、昭和五八年七月ころから始められ、それ以前は、期間一、二及び三年のものだけであり、賃借料はそれぞれ一〇、一七、二二パーセントであつた。)、一年ないし五年の契約期間の経過後には、預かつた金地金は確実に返還されるから、もつと有利である旨を説明して、純金フアミリー契約を締結させたうえ、フアミリー証券を客に渡していた(勧誘方法の詳細は、後に説示するとおりである。)。このように破産会社は金地金の現物取引の存在及びその安全、有利性を強調して純金フアミリー契約を締結していたため、客の意識としては、自分は破産会社に金の現物を預け、破産会社はこれをそのままの形で保管していると考えていた者がほとんどであつた。
イ 破産会社は、一時期、僅かに金地金の現物取引もしていたようであるが、現物取引は、売買の時点において金の現物を用意しておかなければならず、破産会社に入る利益もせいぜい売買手数料程度であるのに比し、純金フアミリー契約の場合は、後に説示するとおり金地金の返還時期が到来するまでは客から受け入れた金銭を自由に運用できたから、破産会社は、現物取引にはほとんど意義を認めていなかつた。このため、営業担当者の歩合報酬の算定にあたつては、現物取引はその基礎にされていなかつたし、各支店、営業所に課せられていたノルマも、純金フアミリー契約のそれであつた。
ウ 破産会社発行の「純金フアミリー契約書」及び「純金フアミリー契約証券」の裏面には契約条項が印刷されているが、それによると、「純金フアミリー契約とは注文者、受注者間においての純金賃貸借契約です」(第一条)、「純金を賃貸するものを注文者、賃借するものを受注者と各称します」(第二条)、「純金フアミリー契約の賃貸借金額の基準となる(以下略)」(第四条)、「………証券表記の賃貸借料を………支払うことにします」(第七条)、「注文者は受注者より受け取つた賃借料を返還し(以下略)」(第一〇条あるいは第一一条)と記載されており、一方、「純金フアミリー契約の純金の返還については同種、同銘柄、同数量の純金を以て返還します」(第九条)とも記載されている。
(2) 以上の事実をもとに、まず純金フアミリー契約の法的性質について検討する。
純金フアミリー契約条項によれば、同契約は賃貸借契約と明確に定義され、また、「賃貸」、「賃借」、「賃貸借料」等の用語も使われているところ、純金それ自体は代替物であるから、これを賃貸借の目的物とするためには、当該純金を他の純金と区別できる程度に特定しなければならないが、純金フアミリー契約書を検討してもそのような特定をすべき欄はないうえ、「純金フアミリー契約の純金の返還については同種、同銘柄、同数量の純金を以て返還します」(第九条)とされ、返還時においては純金の個性が全く問題にされていないから、契約条項の記載にもかかわらず、純金フアミリー契約は賃貸借契約ではないというべきで、むしろ、売買契約に基づく金地金の引渡請求権をもつて消費寄託の目的とした準消費寄託契約と解すべきである(もつとも、金地金の売買と純金フアミリー契約との一体性を重視すると、売買と準消費寄託との混合契約ということになろう。)。
そうすると、破産会社としては、純金フアミリー契約の性質上、金地金の返還時期が到来するまでは、契約に見合う金地金の総量を保管している必要はなく、返還時期の到来するものについてのみ金地金を何らかの方法で調達すればよいということになる。
(3) 純金フアミリー契約の法的性質は右のように解されるから、破産会社は、契約締結時点以後返還時期が到来するまでの間金地金を保管していなくとも契約不履行責任を負わないと解さざるを得ないが、純金フアミリー契約を締結する客にとつては、契約しても金地金の現物を入手することはなく、単に純金フアミリー契約証券という紙切れ一枚を受け取るだけであるから、金地金返還の確実性、すなわち、返還時期における破産会社の金地金調達資力は、客にとつては決定的に重要である。しかるに、破産会社の営業担当者は、前示のとおり金地金に対する投資の安全、有利性を説き、純金フアミリー契約を締結すると利息もつき確実に金地金も返還されるから更に有利であると説明して、純金フアミリー契約の現物取引性を非常に強調していたのであるが、純金フアミリー契約は、右によれば金地金に対する投資というよりも、むしろ実体は破産会社に対する投資ともいうべきものであるのに、営業担当者らは、そのような説明をしていなかつたし、純金フアミリー契約書上も賃貸借契約であるかのような紛らわしい表示をしていたのである。
(4) 破産会社がこのような方式の契約を考え出したのは、一般大衆の金地金に対するイメージを利用しようとしたこと、出資の受入れ、預り金及び金利等の取締りに関する法律(以下「出資法」という。)の適用関係を考慮したことによるものと推認し得る。
純金フアミリー契約を締結した場合、客の手元に残るのが純金フアミリー契約証券のみであることは前示のとおりであるが、仮に、破産会社の営業担当者が、同契約の前示の性質を説明していたとすれば、一般には、現物の裏付けが保証されない取引に客が容易に参加することは考えにくいから、客のこの抵抗感を払拭するために、金地金は投資対象として安全、確実であるという一般大衆のイメージ(このようなイメージがあることは公知の事実である。)を利用するため、純金フアミリー契約の現物取引性を標傍したものと推認し得る。この点において、本件商法には詐欺的要素があると認められるが、それでも破産会社が返還時期の到来する客に対し金地金を返還することが可能な限りにおいては、すなわち、返還時において破産会社に金地金の調達資力がある限りにおいては、その違法性は強度とはいえないというべきであるが、後に説示するとおり、破産会社の損益及び資産状態は極度に劣悪で、返還時期における金地金の引渡は、純金フアミリー契約の契約総量のほとんどについて、極めて不確実ないしは不可能であつたから、その違法性は重大であるというべきである。
また、出資法第二条は、預り金の禁止を規定しているが、預り金とは、不特定且つ多数の者からの金銭の受入で、預金、貯金又は定期積金の受入及び、借入金その他何らの名義をもつてするを問わず、これらと同様の経済的性質を有するものをいうところ、純金フアミリー契約は、少なくとも客の意識としては、金銭交付は売買代金の支払いであつて、預貯金の受入とは異なること、また契約上は、返還時期が到来すれば金地金の返還を受けられること等から、同法第二条に該当するとは直ちには断定できない。しかしながら、前掲証拠によれば、当初の純金フミリー契約書の契約条項第一〇条には、「純金フアミリー契約期間が終了した時は受注者は純金フアミリー契約の純金を純金フアミリー契約証券と引換に金銭でお支払いする事もあります。但しこの場合は、満了日の純金フアミリー契約取引価格により換算します。」との規定があつたところ、破産会社は、この規定が出資法第二条に違反する余地があることを慮つてその後削除したことが認められ、右認定を左右する証拠はないから、破産会社としては、同法をかなり意識していたことは疑いがない。
(5) 以上の次第で、本件商法は、破産会社による返還時期における金地金の引渡が極めて不確実ないしは不可能であつたのに、金地金の現物取引の安全、確実性を強調し、且つ純金フアミリー契約が金地金の現物取引を前提とするかのように仮装した点において違法であり、違法性の程度も大きいというべきである。よつて、被告岩切ら、被告和田ら及び被告東らのこの点に関する反論は理由がない。
(二) セールス手法(請求原因3(二)(2))について
(1) 前示の当事者間に争いがない事実、甲イ第四号証、同第六号証の二及び三、同第八ないし第一〇号証、同第一三ないし第一六号証、同第一八号証、同第一九号証の一ないし四、同第二〇、同第三一号証、甲ハ第一及び第二号証、甲ニ第一ないし第七号証、同第八号証の一、同第九号証、同第一〇号証の一及び二、同第一一号証、甲ホ第一号証、甲ヘ第三号証、乙A第二ないし第八号証、丙第五及び第九ないし第一一号証、同第一七号証の一ないし三八、検証の結果、証人堺、同山田及び同三木の各証言並びに原告本人尋問の結果を総合すると、次の事実が認められ、右認定を左右する証拠はない。
ア 本件商法の概要は前示のとおりであるが、破産会社は、全社的にはほぼ同一の方法、内容で、本件商法のセールス手法についての社員教育を実施していた。このため、セールス手法については、個々の営業社員ごとに若干の差異はあつたものの、その基本は皆同じであつた。
まず、営業社員は、破産会社に入社すると一週間ないし一〇日間程度の研修を受けさせられた。研修の内容は、大まかにいつて、破産会社の業務内容、職制、金についての様々な知識(金の生産、流通過程、金市場、価格形成過程等)、金の三大利点(これは破産会社のセールス手法の中では基本中の基本であり、最も重要なセールス手法であつた。)、顧客勧誘の技術、勧誘の実演等である。これらの研修は、支店長や営業所長あるいは部長等が行つたり、ビデオを上演することによつて行われたが、勧誘の実演は、研修生同士で、または講師、他の営業社員を相手にして暗記する程度に徹底的に行われ、相互に是正すべき点を指摘し合うことも行われた。そして、研修が終了した後においても、折りに触れて同僚、上司を相手に研修で教え込まれた内容を基本にしてセールス手法の向上に努めさせられた。
イ 破産会社が指導していたセールス手法の概略は次のようなものであつた。
テレホンレデイの場合、まず、客に対し、無差別に電話をかけて金地金の話をして客に興味をもたせるように努力し、少しでも興味を示した客をチエツクし、テレホン面談用紙なるものを作成する。その際に、架電した時の在宅者の人数、同居者の有無及び架電時に不在の同居者がいるときはその行く先及び帰宅時間、投資経験の有無、持ち家の有無、二〇歳前半及び七〇歳以上の客に対しては手持ち資金の有無(これは必ず行う)、家庭内において誰が財産等の形成、処分について決定権を有するのか等の事情については特に注意して記載するように指導されていた。こうして作成された面談用紙は、営業に回され、各営業社員に割り当てられる。営業社員は、この面談用紙に記載された客宅を個別訪問する。
営業社員の場合、昼ころから客宅を訪問するが、まず客宅へ入る前に必ず会社へ電話を入れる。客に対しては、金の話はしないで世間話をしながら客の警戒心を解き(この段階はアプローチと称されていた。)、とにかく客宅へ上げて貰うように努力する。一旦上げて貰つたら契約を締結するまでは何と言われようと居座つて粘る。客の警戒心がとれるまで充分な時間をかけてから、おもむろに財産保全のアドバイザー風情を装い、預貯金等の話をして客の資金の把握をする。この後商品説明に入る。金地金についてパンフレツト等を示しながら説明するが、金地金を売りに来たと思わせないようにする。金地金の三大利点として、純金は現金と同じであり、何時でも何処でもその日の相場で現金に替えられる、純金には税金がかからない(純金自体は無記名であるから申告しなければ税務署には分からないという説明やそもそも税金がかからないという説明であつた。)、純金は値上がりが大きく、平均すると年に二〇パーセントは値上がりするから他の利殖より有利である等の説明をする。そして、ひとしきり純金の説明をして客が理解を示してきたところで、クロージングと称する追込みの段階に入る。この段階になつて初めて売り込みに入るのであるが、この段階では、金地金の購入は、今行つている預貯金の移し替えをするにすぎないとか、あるいは預貯金の目減りを防止する有効な手段であるというような点を非常に強調し、客の抵抗感を払拭するように努める。金相場は毎日変動するから買おうと思つたそのときがチヤンスであるといつて勧誘する。客が、「お金がない」、「忙しい」、「時間がない」、「主人と相談する」、「興味がない」、「検討する」、「考えてみる」、「他で投資しているからもう結構だ」、「土地のほうが良い」等の逃げ口上を言つた場合にはこれを切り返し、拒絶できないように追込む。また、嘘も方便であり、実害のない嘘は大いについてもよい。そして、キヤツチボール、あるいは煽りという手法も試みる。これは、客が購入を未だ決意していない段階で、営業社員が、客宅から破産会社に架電し、会社で待機している上司との間で、客の注文が沢山出ていて現物は残り少ないから買うのなら今しかない、今なら何とかできる等の虚偽の会話をし、これを客に聞かせて客の気持ちを煽る手段である。更に、これでも購入する気にならない客に対しては土下座する等の泣き落とし戦術を用いる。ここまでやつても駄目な客の場合には諦めることになるが、客宅を辞すときには破産会社に電話を入れる。諦めるような場合でも最低五時間はトークに時間をかけなければならない(五時間トークが破産会社の基本である。)。営業社員の粘りが足りないと上司が判断したときはもつと粘れと叱責する。かくして、客が購入しても良い気になつたり、弱気を見せてくると、一度会社を見てくれと勧める。客が来社すると、過剰ともいえるサービスをし、更に、この間手練手管にたけた上司が同様のセールストークを客に対して浴びせかけ、金地金の現物を客の手に持たせる等の手段も用い、客が購入すると言うまで帰宅させないようにしたうえ、客を根負けさせて遂に購入を決意させる。また、来社の時点で購入を決意している客に対しては、追加購入を引き出すように努める(以上は来社トークといわれていた。)。そして、客が購入を決めると、代金の授受を行うが、この際代金を用意していない客がいる場合には、郵便局、保険会社、証券会社、銀行、信託銀行、その他の金融機関の区別に従い、払戻、解約、借入の方法により代金を調達させ、客がこれを渋るときは、営業社員が、客と手続に同行したり、営業社員が印鑑、通帳等必要書類を受け取り、委任状等を徴したうえで手続を代行する。そして代金の授受が終わると純金フアミリー契約の勧誘に入る(純金フアミリー契約の勧誘は会社内で行うことも客宅で行うこともある。経験の浅い営業社員は客を来社させて上司に勧誘をしてもらう。)。現物をそのまま保管していてもそれはそれで利益だが、盗難の危険もある、破産会社にこれを預けると一年間で一〇パーセント、五年間で毎年一五パーセント(前示のとおり五年物の純金フアミリー契約ができた後のトークである。それ以前は一、二及び三年物の純金フアミリー契約であつたからトーク内容もそのような内容である。)の利息がつき、更にこれを前払いする、返還時期がくれば金地金も確実に返還するので純金フアミリー契約は他の利殖手段より有利であると勧誘し、これまた客が純金フアミリー契約を締結するというまで、粘りづよく勧誘して契約を締結させる。
ウ 破産会社は、主として本件商法の対象者を、一人暮らしで資産を有する老人、家庭の主婦等においていた。このため、無差別電話勧誘の際にも、このような対象者であるかどうかを確認すべく、年齢、同居家族の有無、同居者の帰宅時間、持ち家の有無、投資経験の有無、資産状況等をチエツクするように指導されていたのである。
エ 破産会社においては、来社トークが原則とされていたが、各支店、営業所は、何れも各地の一流場所にあり、豪華な設備、調度類を備えており、また客に示されるパンフレツト類も内外の奇麗な風景写真や立派なビルデイング(破産会社の支店・営業所等が写されている。)、コンピユーター、海外の事務所の光景等の写真が写されており、かつ美辞麗句が書き連ねられている。しかし、これらのパンフレツトは、よく読むと、破産会社の業務内容を分かり易く説明したものではないことは勿論のこと、意味のない言葉を書き連ねるのに終始したものであつた。そして、営業社員は、勧誘した後客宅を辞すときには、説明に使用したパンフレツトや書き込みをした社用箋等を持ち帰るように指導されていた。したがつて、客の手元には純金注文書、純金フアミリー契約書、純金フアミリー契約証券等が残るだけで、説明を受けた内容を記載した書面等は残されなかつたのである。
オ 我が国においては、昭和四八年四月に金地金の民間輸入自由化が行われ、同五三年には輸出の自由化も行われたが、金地金に対する知識や取引形態についての理解の不足などから、無秩序に出現した私設の金市場による一般消費者の被害も多発し社会的な問題になつた。このような背景の中で、金地金の健全な流通機構の整備と正しい知識の普及を目的として、通産省の許可のもと同五四年一二月社団法人日本金地金流通協会が設立され、同五五年一月から発足した。右協会の主な事業の中には、金販売業に従事する者の指導、訓練、金販売業の登録も含まれており、右協会の正会員店、登録店、賛助会員店においては、電話や訪問による販売は一切行つておらず、店頭における現金販売を行うのみである。
カ 金相場(国内小売り価格)は、昭和五三年の輸入自由化後急激に上昇し、同年一月の平均が一グラム一四二九円程度であつたのに、同五五年一月の平均では五二八六円程度にまで上昇した(最高値は六四九五円)。しかしこの後は下落を続け、最近では二〇〇〇円前後にまでなつている。
キ 商品取引所の全国団体である社団法人全国商品取引所連合会と商品取引員の全国団体である全国商品取引員協会連合会は、業界の自主規制として外務員の不都合な行為を規制すべく、「商品取引員の受託業務に関する取引所指示事項」を定めているが、これによると、新規委託者の開拓を目的として面識のない不特定多数者に対して無差別電話勧誘を行うこと、不適格者(恩給・年金・退職金・保険金等により主として生計を営む者及び主婦等家事に従事する者等)の勧誘を行うこと、商品取引参加の意思がほとんどない者に無差別あるいは執拗な勧誘を行うこと、見込み客といえども相手の都合を無視した早朝または深夜の訪問及び面会の強要等行き過ぎた勧誘を行うことは禁止されている。
(2) 以上の認定事実に基づき、本件商法のセールス手法について検討する。
金相場は、世界各国の政治情勢、経済情勢等によつて複雑に変動し、金相場の変動を把握することは専門家でも容易ではないことは公知の事実であつて、このために、一般大衆が金に対する投資をする場合には、その目的が金の保有自体にあるような場合を除いては、慎重な考慮が望まれるべきであるところ、業者においても右事情を知悉していることは当然であるから、業者は、取引の不適格者を引き入れないようその勧誘自体を慎重に行うべきである。このことは、社団法人日本金地金流通協会の正会員店、登録店、賛助会員店が電話や訪問による金地金の販売を一切行わないで店頭における現金販売を行つているだけであることからも明らかである。また、金投資と商品先物取引とは対象物や取引形態の点で差異があるのはいうまでもないが、勧誘に慎重さが要求されるという意味においては共通の基礎があるといえるから、商品先物取引業界における自主規制も勧誘行為の相当性を判断する基準として参考になるというべきである。
右の観点から破産会社の勧誘方法を検討するに、第一に、テレホンレデイによる無差別電話勧誘及び営業担当者による訪問販売は、金投資の危険性から取引不適格者と判断される者を引き込む可能性を有する行為であるから、それ自体として相当性を欠く勧誘行為というべきである。
第二に、破産会社は、主として本件商法の対象者を、一人暮らしで資産を有する老人、家庭の主婦等においていたが、老人や主婦は、一般的には金投資からはもつとも離れたところにいる人々であり、金投資に必要な知識を有するものとはいえないから、このような人々を特に対象とすることは、著しく不当というべきである。被告和田らは、破産会社が老人、主婦等を狙い打ちにしたことはなく、顧客に老人、主婦等が多かつたのはたまたまそうなつただけで結果にすぎない旨の反論をするが、破産会社は、テレホンレデイが無差別電話勧誘をする段階で、架電した時の在宅者の人数、同居者の有無及び架電時に不在の同居者がいるときはその行く先及び帰宅時間をチエツクし、客の年齢を確認したうえ、七〇歳以上の客に対しては手持ち資金の有無をも聞き出すように指導していたことは前示のとおりであり、このことは、破産会社が客の年齢及び同居者の有無に特別な注意を払つていたことを如実に示すものであるし、営業担当者が昼ころから客宅を訪問していたのも、平日の昼に在宅している人は、自営業者(仕事で忙しいであろうから勧誘しにくい)、無職者(失業者、退職者、老人、年金生活者、生活保護受給者等であるが、失業者や生活保護受給者が勧誘の対象にならないことは見易い道理である。)、休暇をとつて休んでいるサラリーマン、主婦等であり、在宅している可能性が最も高く、かつ勧誘し易いのは主婦、老人であることも充分予測がつくから、結局右の者らを勧誘するためであつたと考えるのが自然である。また、甲ハ第二号証は、金沢支店におけるテレホン面談ノートであるが、その記載を見ると、電話勧誘の相手方はほとんどが老人、主婦であつて、これだけでも破産会社が老人、主婦を主として対象にしていたことは明らかである。以上の次第で、被告和田らの反論は理由がない。
第三に、破産会社は、勧誘方法として、純金の三大利点のトークを基本中の基本に据えていたが、その第一点の、純金は現金と同じであり何時でも何処でもその日の相場で現金に替えられるとの説明は、純金をそのまま保有しているのであれば真実といえようが、破産会社の場合、純金の現物取引がほとんどなかつたことは前示のとおりであり、純金フアミリー契約は原則として中途解約ができず、やむをえない事情で解約する場合でも契約金の三〇パーセントもの違約金を支払わねばならなかつたこと(甲イ第六号証の二の純金フアミリー契約条項第一一条、同号証の三の純金フアミリー契約条項第一〇条)及び後に説示するとおり純金フアミリー契約は、純金の返還の裏付けがなく単なる紙切れといつてもよい代物であつたことを考慮すると、この説明は客観的には虚偽のものであつたといわざるを得ない。第二点の、純金には税金がかからないという説明も、純金の譲渡益にも課税要件を満たすかぎり課税されることは公知の事実であるから、この説明は不正確というべきである。第三点の、純金は値上がりが大きく他の利殖より有利であるとの説明は虚偽を含むものというべきである。すなわち、純金フアミリー契約が純金の返還の裏付けを有していなかつたことは後に説示するとおりであるし、金相場は昭和五五年一月に最高値をつけてから最近に至るまで下落を続けていることから、平均すると年二〇パーセントは値上がりするということは、希望的観測に過ぎず、なんの根拠もないものというべきである。また、金地金の購入は、今行つている預貯金の移し替えにすぎないとか、預貯金の目減りを防止する有効な手段であるという説明も右に説示したところからすると虚偽というべきである。以上の次第で、被告岩切ら、被告和田ら及び被告東らのこの点に関する反論は全て理由がない。
第四に、五時間トークを頂点とする粘り、居座りの手法、キヤツチボールと称する煽りの手法、泣き落とし戦術は、いずれも客の正常かつ冷静な判断力を失わせるものというべきで、金地金のセールス手法としては常識を逸したものというべきである。
第五に、客が金地金の売買代金を、金融機関において払戻、解約、借入により調達する場合に、営業社員が客に同行したり、客に代わつてこれらの手続を代行することは、客に後戻りをさせないために有効であつたし、何よりも、客の手持ち資金を把握しこれを全て吐き出させるために極めて有効であつたというべきで、このような方法は客の資産を散逸させ、ひいては生計の資まで奪うことに帰着する可能性のある手法であるから不当というべきである。
第六に、破産会社は、営業社員が客の手元に資料を残さないように指導していたが、これは、客に対する的確な情報の不供与を意味し、客の判断を制約するものというべきで、不当な手法というべきである。
第七に、破産会社は、豪華な設備、調度を整えた支店、営業所に客を案内し、そこで奇麗ではあるが無内容なパンフレツトを示して来社トークを行つていたが、以上に説示したような各種の手法と関連付けて考察すれば、これらは客の正常な判断力を失わせるための小道具の役割を果たしていたものというべきである。
(3) 要するに、破産会社の指導、教育してきたセールス手法は、金取引の不適格者を殊更対象にして、客観的には虚偽の内容による勧誘文言を駆使して、客の自由な意思に誘惑的、あるいは強要的な不相当、不当な手段で影響を与えたうえ、資金を徹底的に拠出させるものであつたというべきで、違法であり、その程度も大きいというべきである。
なお、昭和六一年五月二三日法律第六二号特定商品等の預託等取引契約に関する法律が制定公布され、これに伴う関係法令も整備されたが、純金フアミリー契約は、同法の施行後であれば、預託等取引契約に該当し(同法第二条第一項一号、同法施行令第一条、同法施行規則第二条)、破産会社は、預託等取引業者にあたる(同法第二条第二項)から、純金フアミリー契約の勧誘にあたつては、契約締結前に契約の内容、業務・財産の状況等を記載した書面を交付すること(同法第三条第一項、同法施行規則第三条第一項、第二項)、契約締結時において契約の内容等を記載した書面を交付すること(同法第三条第二項、同法施行規則第四条)が要求され、顧客及び預託者の判断に影響を与えることとなる重要な事項についての不実告知等(同法第四条第一項、同法施行令第三条第一項)及び勧誘等における不当な行為等(同法第五条)は禁止され、同法第五条関係を除き罰則をもつて規制がなされるところ、破産会社の前示のセールス手法は、同法に違反し、またそのおそれがあるものというべきであつて、現時点においては、違法であるとの評価が与えられるものである。
以上の次第で、被告岩切ら、被告和田ら及び被告東らの反論はいずれも理由がないが、被告和田らの、破産会社は、営業本部通達、業務総務部通達、管理本部通達、永野社長通達を通じ、あるいは支店長会議等において、違法なセールスを禁止し、これを社内に周知させていた旨の反論について一言するに、証人藪内博はこれに沿う趣旨の証言をしているが、同証人の右証言部分は曖昧な部分や伝聞にわたる部分が多く、前示認定事実に照らし信用できず、他に被告和田らの右反論にかかる事実を窺わせるに足りる証拠はないというべきである。
(三) 本件商法の破綻の必然性(請求原因3(二)(3))について
(1) 甲イ第四号証、同第五号証の一ないし四、同第二四及び第二五号証、証人藪内博の証言(後記措信しない部分を除く)並びに原告本人尋問の結果を総合すると、請求原因3(二)(3)ア及びイの事実(破産会社の会計処理方法並びに第一期から第四期までの損失及び資産内容の推移等)が認められる(但し、イのうち経費率及び給与率に関する部分を除く)ほか、更に次の事実が認められ、他に右認定を左右する証拠はない。
ア 破産会社の第一期(昭和五六年四月二一日ないし同五七年三月三一日)決算について
資産合計一〇三億九二九〇万〇九〇一円のうち流動資産は五〇億三二七一万〇六七〇円、固定資産は四三億五五八〇万九三七六円、繰延資産は一〇億〇四三八万〇八五五円である。
資産についてみるに、流動資産においては、金地金等の現物と見られる棚卸商品、貯蔵品の合計は八億四一六七万六〇七一円で、当期受入金の約一〇・五パーセントにすぎないこと、現金預金、受取手形及び有価証券は直ちに支払に充てられうるものであるが、これが三億八四一三万〇七二六円しかないこと、貸付金一三億一一五八万四二七一円を計上し、これが流動資産に占める割合が約二六・六パーセントにもなつていること等が特徴である。
固定資産においては、約七五・七パーセントの三二億九七六六万六〇八一円が投資等で占められており、その中でも差入保証金が二二億九〇五二万八九五九円を占めている。
繰延資産においては、約九九・六パーセントの一〇億〇〇一五万五〇〇〇円は、純金フアミリー契約証券発行時に支払つた賃借料のうち償還期日未到来分にかかる賃借金であつて、決算期には経費処理されるもので、資産性が全くない。
負債合計は一一〇億八〇五三万一七九〇円であり、このうち約七二・四パーセントの八〇億二三四三万三二〇八円が、客からの受入金である。
資本についてみるに、設立の初年度から八億八七六三万〇八八九円の赤字を計上している。
損益計算書についてみるに、手数料収入は、四億七〇六三万八九〇六円で、売上高五二億七六三四万二八一二円に占める販売費及び一般管理費の割合は約五五・二パーセントの二九億一二四一万〇五九六円であり、同じく給与の占める割合は、約三四・〇パーセントの一七億九六〇七万九六五九円である。給与の販売費及び一般管理費に占める割合は約六一・七パーセントである。
イ 破産会社の第二期(昭和五七年四月一日ないし同五八年三月三一日)決算について
資産合計は、三三四億一七五四万三一〇六円で、前期より二三〇億二四六四万二二〇五円増加した。流動資産は、一二三億五六一二万〇三九四円、固定資産は一八四億〇〇三三万三四九二円、繰延資産は二六億六一〇八万八七七〇円である。
流動資産についてみるに、棚卸商品及び貯蔵品は一七億〇八五一万七四八六円であり、前期より八億六六八四万一四一五円増加しているが、当期受入金に占める割合は約九・七パーセントにすぎず、受入金に占める割合は前期より低下している。現金預金、受取手形及び有価証券は五億四七三九万一九九六円であり、前期より微増したにすぎない。貸付金は、五五億一八八〇万四〇四四円となり、前期の約四・二一倍、流動資産全体に占める割合は約四四・七パーセントにもなる。
固定資産についてみるに、前期より一四〇億四四五二万四五六六円増加したが、増加分の内訳は、有形固定資産四二億一七二六万八二四二円、無形固定資産一億七七二六万一四〇六円、投資等九六億四九九九万四九一八円である。投資等の固定資産全体に占める割合は約七〇・四パーセントに上昇した。投資等の約七九・七パーセントは差入保証金である。
繰延資産二六億六一〇八万八七七〇円の約九九・五パーセント二六億四六七六万二九一五円は賃借金である。
負債合計は三七〇億八四九六万四四〇六円であり、前期より二六〇億〇四四三万二六一六円増加した。負債の約六九・一パーセント二五六億三九三三万三二四五円が受入金である。
資本については、当期損失が三〇億二九七〇万九四一一円、当期未処理損失は三九億一七四二万一三〇〇円になつた。
損益計算書についてみるに、売上高二二六億七四六〇万三三七七円に占める販売費及び一般管理費の割合は、約五三・二パーセントの一二〇億七〇二六万四六七五円であり、同じく給与の占める割合は、約三四・一パーセントの七七億三九九三万四〇五二円、給与の販売費及び一般管理費に占める割合は、約六四・一パーセントである。売上高の前期に対する伸び率は約四・三〇倍、販売費及び一般管理費のそれは約四・一四倍、給与のそれは約四・三一倍である。
ウ 破産会社の第三期(昭和五八年四月一日ないし同五九年三月三一日)決算について
資産合計三七四億二〇九一万三八九三円であり、前期より四〇億〇三七七万〇七八七円の増加である。このうち流動資産は三七億五二五一万六四〇五円、固定資産は二五三億六〇四九万三一四八円、繰延資産は八三億〇七九〇万四三四〇円である。
流動資産は前期より八六億〇三六〇万三九八九円減少したが、これは貸付金の項目がなくなつたこと等によるものである。棚卸商品、貯蔵品の合計は六億八九九三万六四三九円で、前期より一〇億一八五八万一〇四七円も減少している。当期受入金の約一・四パーセントにすぎない。現金預金、受取手形及び有価証券は、一三億九三三七万〇七一五円で、前期より八億四五九七万八七一九円増加した。
固定資産は、前期より六九億六〇一五万九二〇六円増加したが、有形固定資産が一二億六二八四万六九三〇円の減少、無形固定資産が五三二二万五八八〇円の減少、投資等が八二億七六二三万二〇一六円の増加であるから、結局投資等だけが増加したことになる。投資等の固定資産に占める割合は、約八三・七パーセントであり、前期より一四パーセント弱増加した。投資等のうち約七八・二パーセント一六五億九九八三万五〇八四円が貸付金である。この貸付金項目は前期にはなかつたものであり、流動資産中の貸付金項目がなくなつたことを考え併せると、短期貸付を長期貸付に切り替えたものと考えられる。そうすると貸付金の増加は、一一〇億八一〇三万一〇四〇円となり、前期の約三・〇一倍である。貸付先は、破産会社の関連会社であるベルギーダイヤモンド株式会社、海外タイムス株式会社、トヨタワールドツーリスト株式会社、日本高原開発株式会社、白馬高原開発株式会社、豊田航空株式会社及び株式会社豊田マリーンクラブに計三三億七七五九万九八四二円、その他として一三二億二二二三万五二四二円である。
繰延資産は八三億〇七九〇万四三四〇円で、ほぼ全額が賃借金である。
負債合計は七八八億八四五〇万七六二〇円であり、前期より四一七億九九五四万三二一四円と飛躍的に増加している。負債に占める受入金の割合は約九五・九パーセントで、七五六億六八二七万八三〇〇円である。
資本については、当期損失が三三八億七八七五万一一二七円、当期未処理損失は三七七億九六一七万二四二七円で、前期損失より三〇八億四九〇四万一七一六円も赤字が増大しているが、これは特別損失として、前期損益修正損を一五三億九六五四万〇一五九円計上しているためで、これを除外した当期純損失金は一八四億八二二一万〇九六八円である。また、実質的には、前期の未処理損失は、右の前期損益修正損一五三億九六五四万〇一五九円を三九億一七四二万一三〇〇円に加えた一九三億一三九六万一四五九円であつたことになる。
損益計算書についてみるに、売上高三四一億〇三一一万七二七八円に占める販売費及び一般管理費の割合は約六七・八パーセントの二三一億二四四六万三四三二円であり、同じく給与の占める割合は約四一・八パーセントの一四二億五三八三万六一四五円である。給与の販売費及び一般管理費に占める割合は約六一・六パーセントである。売上高の前期に対する伸び率は約一・五〇倍、販売費及び一般管理費のそれは約一・九二倍、給与のそれは約一・八四倍である。
エ 破産会社の第四期(昭和五九年四月一日ないし同六〇年三月三一日)決算について
資産合計は七三七億二四九八万六二二五円であり、前期より三六三億〇四〇七万二三三二円増加している。流動資産は八五億三七八一万一九六一円、固定資産は四四七億七一一九万二六一四円、繰延資産は二〇四億一五九八万一六五〇円である。
流動資産についてみるに、前期より四七億八五二九万五五五六円増加した。棚卸商品及び貯蔵品は、五億九七四八万九二六二円であり、当期受入金の約〇・九パーセントにすぎない。現金預金、受取手形及び有価証券は三七億四四〇三万七四二〇円であり、前期より二三億五〇六六万六七〇五円増加している。
固定資産についてみるに、前期より一九四億一〇六九万九四六六円増加しているが、有形固定資産、無形固定資産いずれも前期と比較して余り変化はないが、投資等は、前期と比較して一九四億一八一五万八三七一円増加して四〇六億四二〇五万一三八六円となつた。このうち貸付金が三六九億七五九三万九一四四円であり、投資等に占める割合は約九一・〇パーセントである。また、投資等の固定資産に占める割合は約九〇・八パーセントであり、前期よりその比率は更に上昇している。貸付金の約九六・七パーセントの三五七億六九三八万八一六六円は銀河計画株式会社に対するものである。
繰延資産は二〇四億一五九八万一六五〇円でそのほとんどが賃借金であることは前期と同様である。
負債合計は一四七七億九六四五万一一六一円であり、前期より六八九億一一九四万三五四一円増加している。このなかの約九六・六パーセント一四二八億〇一七四万一四〇〇円が受入金である。
資本については、当期損失は三一九億九〇九二万〇六〇二円、当期未処理損失は六九七億八七〇九万三〇二九円である。
損益計算書についてみるに、売上高四九一億八九八〇万八三一六円に占める販売費及び一般管理費の割合は約八四・七パーセントの四一六億七八八二万七五四七円、同じく給与の占める割合は約六〇・一パーセントの二九五億五六一八万〇六〇六円、給与の販売費及び一般管理費に占める割合は約七〇・九パーセントである。売上高の前期に対する伸び率は約一・四四倍、販売費及び一般管理費のそれは約一・八〇倍、給与のそれは約二・〇七倍である。
オ 破産会社の第五期(昭和六〇年四月一日ないし同年七月一日)決算について
別表IIの記載にしたがつて説示する。
売上高 七八億四八九四万七九一二円
売上原価 七一億四〇四九万九二〇二円
売上利益 七億〇八四四万八七一〇円
営業経費 一四八億〇六六一万六六〇五円
(内給与) 不明
営業損失 一四〇億九八一六万七八九五円
経常損失 一四二億〇六二〇万五四三二円
資産 七七三億七三三一万九七六七円
(内貸付金) 四四八億一九九四万八〇四五円
(内賃借金) 二二〇億八九六八万九七一〇円
負債 一六五七億九二七〇万一一四四円
(内受入金) 一五三七億三四六九万八四〇〇円
当期未処理損失 八三九億九三二九万八四六一円
当期受入金 一〇九億三二九五万七〇〇〇円
資産合計は七七三億七三三一万九七六七円であり、前期より三六億四八三三万三五四二円増加している。流動資産は二七億七三五七万一二五六円、固定資産は五二五億一〇〇五万八八〇一円、繰延資産は二二〇億八九六八万九七一〇円である。
流動資産については、棚卸商品、貯蔵品はなく、現金預金、受取手形及び有価証券は、三億八五七六万七三一五円であり、前期より三三億五八二七万〇一〇五円も減少した。流動資産の約七五・〇パーセント、二〇億七九九六万一〇三六円が未収入金であり、これは銀河計画株式会社に対する未収利息がほとんどである。
固定資産の内訳は、有形固定資産が三五億〇八六九万九四五八円、無形固定資産が三億九四六〇万四〇〇〇円、投資等が四八六億〇六七五万五三四三円である。有形固定資産及び無形固定資産は、前期と比較しても余り変化はないが、投資等は、前期より七九億六四七〇万三九五七円増加し、貸付金は七八億四四〇〇万八九〇一円の増加で四四八億一九九四万八〇四五円である。投資等の固定資産に占める割合は約九二・六パーセント、貸付金の投資等に占める割合は約九二・二パーセントである。貸付先は、銀河計画株式会社に対し約三九〇億円、エバーウエルシーインターナシヨナル株式会社に対し約四六億円、白道株式会社他一三件に約一三億円である。
繰延資産は全部が賃借金である。
負債合計は、一六五七億九二七〇万一一四四円であり、前期より一七九億九六二四万九九八三円増加した。このうち受入金が一五三七億三四六九万八四〇〇円であり、負債合計に占める割合は約九二・七パーセントである。
資本については、当期損失は一四二億〇六二〇万五四三二円、当期未処理損失は八三九億九三二九万八四六一円である。
損益計算書についてみるに、売上高七八億四八九四万七九一二円に占める販売費及び一般管理費の割合は約一八八・六パーセントの一四八億〇六六一万六六〇五円である。
カ 破産会社の資産項目においては、第三期以降貸付金の比重が非常に大きくなつているが、第三期においては、破産会社の関連会社であるベルギーダイヤモンド株式会社、海外タイムス株式会社、トヨタワールドツーリスト株式会社、日本高原開発株式会社、白馬高原開発株式会社、豊田航空株式会社及び株式会社豊田マリーンクラブに計三三億七七五九万九八四二円、その他に一三二億二二二三万五二四二円を、第四期においては、約九六・七パーセントの三五七億六九三八万八一六六円を銀河計画株式会社に、第五期においては、銀河計画株式会社に対し約三九〇億円、エバーウエルシーインターナシヨナル株式会社に対し約四六億円、白道株式会社他一三件に約一三億円を貸し付けていることは前示のとおりである。
破産会社は、設立当初から海外事業部を設置して海外投資事業を行い、また自らゴルフ場等のレジヤー施設を買収するなどして前示のベルギーダイヤモンド株式会社等のいわゆる豊田商事グループ各社を設立買収して、前示貸付をして投資活動を行つてきたが、昭和五九年四月一四日には、豊田商事グループ傘下の各社の育成、経営管理を目的として破産会社の経営陣によつて銀河計画株式会社が設立された。同社は、破産会社やベルギーダイヤモンド株式会社等から資金を吸い上げ、いわゆる豊田商事グループ約一二〇社(このうち実働していたのは約三〇社程度でその余はいわゆるペーパーカンパニーであつた。)に対しこれを配分し、グループ各社からは月利〇・五ないし二パーセントの利息及び経営コンサルタント料を徴することをその業務内容としていた。これを破産会社のほうから見ると、グループ各社ないし銀河計画からは貸付金利息が破産会社に入るはずであつた。ところが、グループ各社は、ペーパーカンパニーが多いうえに赤字の会社が多く、そこからの利息収入は全く期待できず、また、期待されてもいなかつた。
他方で、破産会社は、前示のごとく各期とも損失を計上し、特に第三期は膨大な損失を計上している状態であり、客に対する純金フアミリー契約の償還を行うのもかなりの財政的負担になつていた。そこで破産会社は、客に対する償還を要しない新たな証券商法を計画し、この証券商法によつて資金を調達して純金フアミリー契約の償還を行ない(純金フアミリー契約の客に購入させるのが最良の方法であつた)、窮状を乗り切ろうとした。これが昭和五九年夏ころから計画化されてきたレジヤー会員証券商法である。
レジヤー会員証券商法とは、客との間で、破産会社あるいはグループ各社が経営するレジヤー施設の利用権を客に対し設定する契約を締結し(メンバーズ契約という。)、この利用権を会社が一〇年間賃借しその間年一二パーセントの賃借料を客に支払い一〇年後に利用権を返還する旨の契約を同時に締結し、その旨の記載のある証券を交付する(オーナーズ契約という。)形の商法であり、これによると、破産会社あるいはグループ各社としては、レジヤー施設を建設しなければならないことは別論として、一〇年後になつても利用権の価格を償還する必要はないのである。なお客から賃借した利用権を更に他の者に年一二パーセントの賃貸料を徴して賃貸する契約(マスターズ契約という。)も考えられていた。この事業計画がまとまつてきたのは昭和六〇年二月ころであるが、これによると、利用権の価格を一〇〇万円程度とし、会員を五年間で五万人、計約五〇〇億円を販売するというもので、ゴルフ場は内外で三〇箇所、マリーナは一五、六箇所、テニスクラブは五箇所、サバイバル施設を二箇所取得するというものであつた。
豊田商事グループは、昭和六〇年に入つてからレジヤー会員証券のうちゴルフ関係及び海洋レジヤー関係を売り出した。前者は、株式会社豊田ゴルフクラブが経営するゴルフ場の利用権についてのもので、販売は鹿島商事株式会社が担当し、後者は、破産会社や日本海洋開発株式会社の経営するマリーナの利用権についてのもので、大洋商事株式会社が販売を担当するものであつた。しかし、このレジヤー会員証券は、その内容となるレジヤー施設を伴つていなかつた。すなわち、ゴルフ場は、営業中のものが僻地や海外に数コース存しているほかはほとんどが計画中若しくは造成中であり、営業予定ゴルフ場にしても、過去何度も倒産劇が繰り返され造成の目途もなく放置されていたり、多額の債務と大量の預託会員が存在し、しかもその償還時期が到来しているため経営困難の状況にあるようなものばかりであつた。マリーナは、二ないし三箇所を取得していたが、その余は準備中ないしは計画中であつた。テニスクラブは、一箇所を入手したのみであつた。スキー場は用地取得の段階であつた。このような状態であつたのでレジヤー会員証券は売れず、後に説示するとおり破産会社の本件商法に対する社会的批判が非常に高まつたので、破産会社は更に苦しい立場に追込まれた。
かくして、レジヤー部門への進出は、不良資産や過剰な人的物的設備への投資のためにかえつて破産会社の資金繰りを悪化させ、昭和六〇年三月には従業員の源泉所得税が払えなくなり、同年四月には高利の金融業者から借金をし、五月には従業員の給料の遅配を生じ、以後破産への途を歩んで行つたのである。
(2) 以上の事実に基づき、破産会社の損益の状況について検討する。
破産会社の損益計算についての最大の特徴は、同社が設立の当初から損失を計上し続けている点にあり、その額も第一期から第四期まで順に、八億八七六三万〇八八九円、三〇億二九七九万〇四一一円、三三八億七八七五万一一二七円、三一九億九〇九二万〇六〇二円と飛躍的に増大している(なお、前示のとおり、第二期の損失は、実質的には、三〇億二九七九万〇四一一円に第三期における前期損益修正損の一五三億九六五四万〇一五九円を加えた一八四億二六三三万〇五七〇円となり、第三期の損失は、一八四億八二二一万〇九六八円となる。)。そして、第五期までの未処理損失は、八三九億九三二九万八四六一円と膨大な数字になつており、これらのことから、破産会社の経営状態が極めて劣悪であつたことは明らかである。
損失の原因が、販売費及び一般管理費の売上高・売上利益に対する割合が過大であることにあるのも明白である。販売費及び一般管理費の売上高に占める割合は、第一期約五五・二パーセント、第二期約五三・二パーセント、第三期約六七・八パーセント、第四期約八四・七パーセント、第五期約一八八・六パーセントであり、第一期から第四期までを通算すると平均約七一・二パーセントにもなる。また、販売費及び一般管理費の中で高い位置を占める給与の売上高に占める割合は、第一期約三四・〇パーセント、第二期約三四・一パーセント、第三期約四一・八パーセント、第四期約六〇・一パーセント(第五期は不明)であり、これを通算すると平均約四八・一パーセントの高率になる。そして売上高の各前期に対する伸び率と給与のそれを比較すると、第一期から第二期にかけては両者ともほぼ同率であるが、第二期から第三期にかけては、売上高のそれが約一・五〇倍に対して、給与のそれは約一・八四倍、第三期から第四期にかけては、売上高のそれは約一・四四倍に対して、給与のそれは約二・〇七倍であつて、給与の伸びの方が売上高の伸びよりも大きいのである。更に、販売費及び一般管理費は、売上利益をもはるかに上回っている。第一期は約一・五倍、第二期は約一・三倍、第三期は約五・〇倍、第四期は約五・二倍、第五期は約二〇・九倍である。給与と売上利益とを比較しても、第一期及び第二期の各給与は各売上利益の約〇・九倍であつたのが、第三期は約三・一倍、第四期は約三・七倍になつている。
以上を要するに、破産会社は、売上利益をはるかに上回る販売費及び一般管理費を支出し、特に第三期からは、販売費及び一般管理費は五倍以上も、給与は三倍以上も売上利益を上回る状態になつていたのであるから、売上利益を給与で食い潰しても全く足りない状態であつたし、営業を続ければ続けるほど赤字が累積する体質になつていたというべきである。破産会社は、その営業自体によつては収益を上げておらず、純金フアミリー契約をレジヤー社員証券に切り替える計画も、その計画内容からして、利用権の評価、すなわち証券の価値において純金フアミリー契約以上に問題があるからこれが成功する可能性もなかつたというべきであり、結局のところ各当期未処理損失は、新たに純金フアミリー契約を締結して、客からこれを上回る資金を受け入れることによつてのみ処理が可能であつたと考えるほかはなく、その意味ではまさに自転車操業をしていたというべきである。
(3) 次に、(1)の事実に基づき、破産会社の資産関係について検討する。
破産会社の資産の特徴は、第一に資産構成の点である(繰延資産の九九パーセント以上は純金フアミリー契約締結による客に対する賃借金の償還分であり、全く資産性がないというべきであるから、以下においては繰延資産を資産から控除した数値をもつて資産とみなして考察する。)。すなわち、流動資産対固定資産の比率は、第一期は五三・六対四六・四、第二期は四〇・二対五九・八、第三期は一二・九対八七・一、第四期は一六・〇対八四・〇、第五期は五・〇対九五・〇となつており(以上は概数である)、第二期から第三期にかけて流動資産の比率が激減している。これは、短期貸付を長期貸付にしたこと及びこの時期に長期貸付が急増したことによるものである(この点は後に説示する)。このように流動資産の比率が低いということは、支払に充てられるべき資金が乏しいことを示すものである。
特徴の第二は、棚卸商品及び貯蔵品(金銀の地金、プラチナ等と推認される)の全資産に占める比率が低い点である。第一期は約九パーセント、第二期は約五・六パーセント、第三期は約二・四パーセント、第四期は約一・一パーセント、第五期は〇パーセントである。期末受入金(純金フアミリー契約の締結により客から受け入れた金銭の総額から、満期、解約により返還した金銭を控除した残高である)と対比しても、第一期は約一〇・五パーセント、第二期は約九・七パーセント、第三期は約一・四パーセント、第四期は約〇・九パーセント、第五期は〇パーセントである。右資産に占める比率によれば、破産会社は、少なくとも第三期以降は、金銀の地金、プラチナ等を極めて少量しか保有していなかつたことが明らかであり、右期末受入金に対する比率からすると、純金フアミリー契約を締結した客の返還もしくは解約の要求にほとんど応じることができない状況にあつたことが極めて明らかである。
特徴の第三は、現金預金、受取手形及び有価証券の額が極めて少ない点である。これが全資産に占める比率は、第一期が約四・一パーセント、第二期が約一・八パーセント、第三期が約四・八パーセント、第四期が約七・〇パーセント、第五期が約〇・七パーセントであり、期末受入金と対比すると、第一期が約四・八パーセント、第二期が約二・一パーセント、第三期が約一・八パーセント、第四期が約二・六パーセント、第五期が約〇・三パーセントである。現金預金、受取手形及び有価証券は、直ちに支払に充てることのできる源資と考えることができるから、これらの期末受入金に対する比率からすると、純金フアミリー契約を締結した客の金地金の返還、解約に応じうるのは、第五期を除いて、右現金預金、受取手形及び有価証券を全部費やしても約一・八パーセントないし約四・八パーセントにすぎないことになる。結局、前記棚卸商品及び貯蔵品が全て金地金であるとして、その量と右現金等で他から調達する量を合わせても、破産会社が客の右要求に応じうるのは、最大で、第一期は約一五・三パーセント、第二期は約一一・八パーセント、第三期は約三・二パーセント、第四期は約三・五パーセント、第五期は約〇・三パーセントにすぎなかつたものと推認し得る。
特徴の第四は、貸付金の全資産に占める比率が非常に高い点である。第一期は約一四・〇パーセント、第二期は約一七・九パーセント、第三期は約五七・〇パーセント、第四期は約六九・四パーセント、第五期は約八一・一パーセントである。期末受入金と対比すると、第一期は約一六・三パーセント、第二期は約二一・五パーセント、第三期は約二一・九パーセント、第四期は約二五・九パーセント、第五期は約二九・二パーセントである。その貸付先は、第一期、第二期は不明であり、第三期は破産会社の関連会社数社に三三億七七五九万九八四二円、その余の一三二億二二二三万五二四二円は不明、第四期は銀河計画株式会社に対し約九六・七パーセントの三五七億六九三八万八一六六円(その余の一二億〇六五五万〇九七八円も判明している)、第五期は、銀河計画株式会社に対し約三九〇億円、エバーウエルシーインターナシヨナル株式会社に対し約四六億円、白道株式会社他一三件に約一三億円である。そして前示のとおりこの貸付金からの利息収入は全く期待できなかつたし、元本の返還も覚束ない状況にあつたのであり、破産会社自身もこれには期待していなかつたのである。
破産会社の負債の特徴は、負債総額のほとんどが純金フアミリー契約の締結による客からの受入金であることである。期末受入金は、純金フアミリー契約の締結により客から受け入れた金銭の総額から、満期、解約により返還した金銭を控除した残金であることは前示のとおりであるが、これの負債に占める比率は、第一期は約七二・四パーセント、第二期は約六九・一パーセント、第三期は約九五・九パーセント、第四期は約九六・六パーセント、第五期は約九二・七パーセントであつて、第三期以降は極めて高率になつている。更に、破産会社は、第一期から第五期まで全て債務超過の状態にあるところ、第一期及び第二期を除いては資産全部をもつてしても期末受入金の総額にはるかに及ばない程の債務超過の状態であり、第三期は期末受入金が資産の約二・六倍、第四期は同じく約二・七倍、第五期は同じく約二・八倍にもなつている。
(4) 以上を要するに、破産会社は、多額の経費を使つて純金フアミリー契約を締結して客から金を集め、これを豊田商事グループ各社に配分し、かかつた経費を賄うために更に純金フアミリー契約を締結して客から金を集めるという自転車操業を行い、営業面で利益を上げることができなかつたばかりでなく、資産形成の面においても、毎期とも債務超過の状態であり、資産内容も、現金預金、受取手形及び有価証券並びに棚卸商品及び貯蔵品等の流動資産の比率が少なく、長期貸付金の比率は非常に大きくその回収の見通しもなかつたから、少なくとも第三期以降は、いかなる意味においても、高率の賃借金を支払つた上に金地金ないし受入金を返還することができる資産状態になかつたことは明らかというべきで、破産会社の経営陣の経営方針は常識では考えられないという他には評価する言葉がない。なお、証人藪内は、破産会社の将来の経営見通しについて、レジヤー会員券の販売によつて十分やつていけると判断していた旨の証言をするが、レジヤー会員券の内容をなすレジヤー施設の現状や破産会社の損益状況及び資産状態に照らし右証言は到底信用することができない。
(四) 返還引き延ばし(請求原因3(二)(4))について
前示認定事実、甲イ第九号証、甲ホ第一号証、丙第一七号証の一ないし三八、証人堺、同山田及び同三木の各証言並びに原告本人尋問の結果を総合すると、次の事実が認められ、右認定を左右する証拠はない。
(1) 破産会社は、昭和五六年四月の営業開始以来、期間一、二及び三年の純金フアミリー契約を設定して営業していたが、二年物及び三年物の純金フアミリー契約は、いわゆる賃借料がそれぞれ一七パーセント、二二パーセントであり、一年物を二ないし三年継続したほうが率がよく、しかも期間が長かつたことも影響して、実際に締結された契約の大部分は一年物であつた。ところが、一年物の純金フアミリー契約では、すぐに返還時期が到来するので、それまでには金地金を調達しなければならず、前示のごとき経営状態の破産会社にとつては、これは極めて負担であつた。そこで、破産会社は、金地金の返融時期をなるべく先送りするために、昭和五八年七月ころから期間五年の純金フアミリー契約を売出し、従来のものも極力五年物の純金フアミリー契約に切り替えようとした。そして、五年物純金フアミリー契約の締結を推進すべく、歩合報酬算定の基礎となる総合ゲージにおいて、一年物は、五年物の半分の評価しか与えなかつた。
(2) そして、返還時期が到来した場合には、従来の担当者が、新規の契約を獲得する場合と同様に、粘り、泣き落とし等の戦術等を用いて、執拗に継続を求め、効を奏しない場合には、担当者を更迭し、別人をして、入れ代わり立ち代わり客の元に赴かせ、継続を求めた。客のほうから元の担当者に会わせてほしい旨を申し立てた場合には転勤したと言つて会わせなかつた。
(3) また、中途解約には原則として応じない方針であつた。このために、中途解約の際には、既に受領しているいわゆる賃借料を返還させたうえ、契約金額の三〇パーセントにも及ぶ違約金を徴することを契約条項に定めていた。
(4) 客が中途解約あるいは満期返還を弁護士に委任したり、消費者相談室等の公的機関が仲介に入つた場合には、やむを得ずこれに応じていたが、それでもできるだけ引き延ばそうとして、長期の分割返済に持ち込もうとした。
(5) かくして、破産会社は、従来の一年物の純金フアミリー契約の約八五パーセントを継続させることに成功した。そして、五年物の純金フアミリー契約の返還時期は破産会社の破産前には到来しなかつたのである。
ところで、前示の特定商品等の預託等取引契約に関する法律によれば、預託者は、将来に向かつて預託等取引契約を解除することができ、この場合の違約金条項においては、契約締結時における当該特定商品の価額の一〇パーセントを越える違約金の定めをしても無効であり(同法第九条)、また、預託等取引業者又は勧誘者は、威迫する言動を交えて預託等取引契約の更新についての勧誘をし、又は預託等取引契約の解除を妨げること並びに預託等取引契約に基づく債務又は預託等取引契約の解除によつて生ずる債務の全部又は一部の履行を拒否し、又は不当に遅延させることを禁止されている(同法第五条一号、三号)ところ、純金フアミリー契約が現時においては同法にいう特定商品等の預託等取引契約に該当することは前示のとおりであるから、破産会社の前示の返還引き延ばしの手法は、同法施行後においては、違法なものと評価されるべきものであることは勿論、前示の破産会社の損益並びに資産状況をも総合して勘案すると、破産会社にとつて返還の引き延ばしが非常に重要な課題であつたことは明白であつて、このような状態にある破産会社が、純金フアミリー契約の継続の勧誘を、前示の様な手法で行うことの違法性は極めて大きいというべきである。
(五) 本件商法に対する国の対応
甲ロ第二七二及び第二七三号証、丙第二、第三及び第五号証、同第一二ないし第一四号証並びに証人堺の証言によれば、次の事実が認められ、右認定を左右する証拠はない。
(1) 国会においては、昭和五七年四月二七日の第九六回国会衆議院商工委員会において、破産会社の商法について初めて質疑が交わされた。これ以後、本件期間の始期までに、主として衆議院の商工委員会、予算委員会、物価問題等に関する特別委員会において計七回にわたつて質疑がなされた。そして、本件期間中には、右各委員会のほか、法務委員会、決算委員会において計九回質疑が交わされた。この中で、本件商法の基本的問題についての指摘は既になされていた。すなわち、本件商法の現物まがい性、破産会社の金保有の有無、破産会社の営業担当者の勧誘行為の是非、客から集めた資金を破産会社がどのように運用しているのか等の問題である。
(2) 本件期間の始期までの行政官庁の答弁、対応は次のようなものである。
通商産業省・・・本件商法については通産省本省、各地通産局の消費者相談室等に苦情が寄せられ、その相談業務を行つているが、通産省としては、金地金を購入するときには、社団法人日本金地金流通協会加盟の登録店から購入するようにすること、それ以外の業者とは契約しないようにすること、既に契約しているときは解約したほうがよいこと、いわゆる現物まがい商法の手口等を新聞、雑誌等に公報として掲載し、また右内容の冊子を作り、各地の通産局の消費者相談室等の窓口に置き、一般の閲覧に供する等して消費者の注意を促している。また、破産会社に対しては、その資産の状況、企業経営の状況、金の保有量等を質したこともあるが、企業秘密と称して質問には答えない態度をとり、立入調査権能もないことから、この点についてはそれ以上追及することはできない。
大蔵省・・・出資法に規定する預り金になるかどうかは実際の勧誘行為あるいは契約者の意識等の実態の解明が必要であり、今後情報の収集を積極的に行い、必要に応じて関係当局とも十分相談していきたい。
経済企画庁・・・被害が多発していることは国民生活センターにおける相談業務等を通じ承知している。重要な問題なので、関係法令の厳格な適用を行うことによつて事業者の規制を行うとともに、消費者の啓発を行い、消費者被害の事前防止、消費者利益の擁護に努めるべく、関係省庁と協力しながら進めたい。
警察庁・・・破産会社については大変関心を持つており、現在その実態、会社の運営状況あるいは個々の勧誘行為の態様等について慎重に調査している。
法務省・・・昭和五九年三月二四日に大阪地方検察庁に対して被害者が破産会社関係者を詐欺罪等で告訴しているが、右告訴事件を迅速的確に処理していきたい。
(3) 本件期間中の行政官庁の対応は、各省庁とも本件期間の始期までのそれと同内容であるが、これとともに本件商法のとの関連で、鹿島商事株式会社の販売しているゴルフ会員券商法の問題性についての質疑も交わされた。
(4) 本件期間後の国の対応は次のとおりである。
行政側は、引き続き前示の様な内容の対応をしていたが、破産会社の破産前後から、国会においては被害者救済等に関する質疑も交わされるようになつた。
また、これまで大蔵省、通商産業省、経済企画庁、警察庁、法務省、公正取引委員会において、各所管の法律に基づいて本件商法について有効な規制をすることができるかどうか検討がなされ、この検討結果を右六省庁が持ち寄つて協議をしたが、現行法では本件商法のような商法に対しては有効な対処はできず、消費者保護のためには新立法が必要であるとの結論に至つた。このような経過で、前示の特定商品等の預託等取引契約に関する法律が制定された。
(5) 以上の経過の中では、破産会社の商法が適法であるというような議論は全くされておらず、むしろ違法である、あるいは好ましくないのでこれを規制すべきであるとする意見の方が強く、全般的には本件商法については否定的評価がされていた。
(六) 小括―本件商法に対する評価
純金フアミリー契約は、前示のとおり売買契約に基づく金地金の引渡請求権をもつて消費寄託の目的とした準消費寄託契約あるいは金地金の売買と金地金の準消費寄託が結合した混合契約と解されるから、破産会社は、金地金の返還時期が到来するまでは必ずしも金地金を保有しなくともよく、したがつて金地金の返還は返還時期における破産会社の金地金調達資力、つまりは破産会社の資産状態に大きく依存するものであつたところ、破産会社は、金投資についての判断能力を必ずしも有しているとはいえないが故に取引不適格といわれている家庭の主婦や老人等を殊更対象にして、営業社員をして、純金フアミリー契約の右の性質を正しく説明させずに、純金フアミリー契約は金地金の現物取引を前提にした契約であり安全確実であるかのような錯覚を与えさせ、かつ、客観的には虚偽の内容による勧誘文言を駆使させてこれらの客の自由な意思に誘惑的、あるいは強要的で不相当、不当な手段で影響を与えたうえで純金フアミリー契約を締結させ、しかも一度契約に漕ぎつけると客が解約、返還を申し入れてもこれにはできるだけ応じないようにして返還を拒否したばかりか、そもそも破産会社の損益並びに資産状態は極めて劣悪であり返還時期における金地金の返還など設立当初から不確実で、第三期(昭和五八年四月一日ないし同五九年三月三一日まで)中には不可態ともいうべき状態になつていたから、このような状態にあることを経営陣が認識しながら営業担当者をして勧誘を続けさせたことは、返還の意思も能力もなかつたことを強く疑わしめるのであつて、以上の事情に、国会における質疑の状況、行政側の対応、その後の立法の経緯等を総合して勘案すると、本件商法の違法性は極めて強いと評価するほかはないというべきである。
3 本件商法と本件歩合報酬契約(請求原因3(三))について
請求原因3(三)について判断するに、本件期間当時の本件歩合報酬契約の内容は、被告らに対し、本件商法の営業活動に携わつたことに対する報酬として被告ら又はその部下の契約した純金フアミリー契約の契約金額を基礎に一定の割合による歩合報酬金を支給し、またノルマを達成したとき等に賞金を支給するというものであつたこと、被告らは本件期間中別表Iの1の「B職位」欄記載の各職位において本件商法の営業活動に従事し、その結果同表「D歩合報酬」欄記載の各歩合報酬を支給されることになり、これに対する同表「E源泉税額」欄記載の各源泉徴収所得税額を控除した同表「F請求額」欄記載の本件請求額を破産会社から支給されこれを受領したこと、被告らはこれとは別に同表「C固定給」欄記載の各固定給を支給されていたことは二1ないし4に説示したとおりであるところ、本件商法は、テレホンレデイによる無差別電話勧誘及び営業担当者による訪問販売を基本にして展開されていたことも前示のとおりであるから、客からの受入金は全て被告らを含む破産会社の営業担当者によつて獲得されたものというべきであつて、このように営業担当者を稼働させたものは、前示の固定給はもとより、本件歩合報酬契約と同一内容の、破産会社と各営業担当者との間の歩合報酬契約にあることは疑いがなく、これなくしては破産会社が客から巨額の資金を受け入れることができなかつたことも見やすい道理である。そして、従業員の給与が破産会社の赤字の大きな原因になつていたことも既に説示したとおりである。因に、事実摘示四(被告等の反論)1記載の被告らの主張によると、被告らは、客と契約を締結して契約金を取得することにより、契約金に対する相当な割合でもつて多額の歩合報酬を取得し、更なる多額の歩合報酬を得るためにこれを湯水のように費消していた様子を窺うことができる。
以上によれば、本件歩合報酬契約は、前示のとおりの極めて違法性の強い本件商法を推進することに対して対価を支払う旨の契約であり、その推進にとつて必要不可欠なものであり、かつ、その原動力になつていたうえ、客からの受入金を食い潰すという実質を有していたというべきである。してみると、本件歩合報酬契約は、本件商法の違法性を相当程度受け継いでいるものというべきである。
4 本件歩合報酬契約の公序良俗違反性(請求原因3(四))について
本件歩合報酬契約の目的は、抽象的にみると一定額の金銭の支払であるから、それ自体では何ら違法性の問題を生じないのであるが、前示のとおり本件歩合報酬契約は極めて違法性の強い本件商法を推進することに対して対価を支払う旨の契約であり、その推進にとつて必要不可欠なものであり、かつ、その原動力になつていたうえ、客からの受入金を食い潰すという実質を有しており、違法性の強い本件商法と密着していることから、民法第九〇条により無効となり得る余地がある。そして、原告は、本件歩合報酬契約は、主位的には、被告らの本件商法の違法性を基礎付ける事実についての主観的認識の如何を問わず無効であると主張し、他方、被告ら(被告山田は、明示的には主張していないけれども、被告岩切ら、同和田ら及び同東らと同様の主張をしているものと善解しうる。)は、本件歩合報酬契約が公序良俗に違反し無効であるというためには、被告らにおいて本件歩合報酬契約が、原告が主張するところの反社会的な本件商法に加担したことに対する対価支払合意ないしはこれを奨励するための奨励金の支払合意に該当し、かつ受領した歩合報酬が客からの受入金を山分けした一部であることまで認識している必要があり、更に被告和田らは、違法性の認識も必要である旨反論する。
思うに民法第九〇条は、法律行為の当事者の企図した法律効果の発生を認めることが、国家生活の重要な秩序維持の観点から、あるいは社会生活上もしくは社会倫理上の観点から容認することができない場合に、これに対して法的保護を与えない、すなわち当該法律行為を有効なものと認めないということを規定したものであるから、法律行為の有効無効の判断は、当事者の違法性の認識の有無によつて制約される性質のものではないと解すべきである。したがつて、被告和田らのこの点に関する反論は理由がない。
次に、本件歩合報酬契約は、客から契約を取つてくることに対する報酬支払約束であるから、そのこと自体違法を目的とするものではなく、したがつて、本来公序良俗違反を問われるものではないが、右の客から契約を取つてくる行為が、違法性の強い本件商法に加担するものであることから、かかる加担者を保護することは公序良俗に反するとの観点からこれが民法第九〇条に違反し無効であるというにある。そうすると、右加担者であるとの点に関する被告らの認識、言い換えると被告らの悪性の有無を全く度外視して本件歩合報酬契約の有効無効を決することはできない筋合いである。したがつて、この点に関する原告の主張も採用できない。
そこで、本件歩合報酬契約を無効とするためには、被告らがいかなる事実を認識していたことを要するかが問題となるが、これは被告らを保護するに値しないか否かの観点から判断することになる。そして、右認識の有無は客観的事実も考慮して判断されるべきところ、既に説示のとおり、本件歩合報酬契約は極めて違法性の強い本件商法を推進することに対する対価支払合意であり、かつ、本件商法の原動力になつていたものであるうえ、客からの受入金を食い潰すという実質を有していたものであり、しかも被告らは本件商法の主要な部分の実行行為を担当していた者であるとの客観的事実からすると、右必要とされる被告らの認識は、本件商法の違法性を基礎づける事実の主要な部分を認識していることで足りるものと解する。以下、この点につき、更に検討を加える。
(一) 被告らの破産会社における地位等
前示の当事者間に争いのない事実及び甲イ第二九号証によれば次の事実が認められ、右認定を左右する証拠はない。
被告らの営業配属日は、前示のとおり別表Iの1の「A営業配属日」欄に、本件期間中の職位は、別表Iの1の「B職位」欄に各記載のとおりであり、破産会社に入社以後の勤務地、勤務場所、社内歴等は別紙社内歴等一覧表に記載の通りである。本件期間の始期までの勤務期間は、最短のものが被告二渡の四か月、以下順に、被告堀之内及び同山田の六か月、被告竹内の七か月、被告西田の一〇か月、その余の被告らは、一年ないし三年八か月である。
(二) 被告ら各人の勧誘行為について
乙A第二ないし第八号証及び丙第一七号証の一ないし三八並びに弁論の全趣旨を総合すると、次の事実が認められ、右認定を左右する証拠はない。
(1) 前示のとおり破産会社は、全社的にほぼ同一の方法、内容で本件商法についての社員教育を実施していたため、セールス手法は、個々の営業担当者ごとに若干の差異はあつたものの、その基本は皆同じであり、被告らもその例外ではなかつた。
(2) 被告らの過去の勧誘行為(純金フアミリー契約の継続を含む)のうち特に問題となるものは次のとおりである。
被告岩切は、大阪第一支店に在勤中、昭和五八年暮れに返還時期が到来した客から金地金の返還を求められると、一〇キログラムの証券には二キログラムしか返せない、一〇〇グラムづつ返還する等と述べて一向に金地金を返還せず、何度も交渉をした結果ようやく同五九年一月及び二月に分けて返還に応じた。
被告佐々木は、昭和五七年一二月ころ函館支店に在勤中、客に対し、金は絶対もうかる、破産会社は外国とも取引があり、純金フアミリー契約証券と印鑑さえ持つていれば世界中何処でも売ることができる、買つてくれるなら破産会社がチヤーターした豪華客船で慰安旅行もできる等の勧誘をしたほか、同五八年三月末ころ客に対し、破産会社はトヨタ自動車の系列会社であり間違いはない、もともとは貿易会社で外国から物を入れていたが今は金などの売買委託を商売にしている、客が購入した金はその番号の入つたものがスイスから大阪本社に送られてきて、本社で保管される等の勧誘をした。
被告二渡は、前橋支店に在勤中の同五九年一〇月ころ客に対し、白金は金より値上がりする可能性が大きい、白金を売り出すのはこれが最後である、また、被告佐々木と共に、金は値下がりしない、今が一番安いときで、これから値上がりこそすれ絶対損をすることはない等の勧誘をした。
被告堀之内は、奈良支店在勤中の同五九年一二月ころ客に対し、金は値上がりしても下がることはない、破産会社は大蔵省、通産省からも認められている等の勧誘をしたほか、同六〇年六月ころ客に対し、もし破産会社が潰れてもゴルフ会員証券に代えておけば大丈夫だからそれと交換すると称して客の純金フアミリー契約証券と印鑑を持ち去つてしまい、その後印鑑を戻したが純金フアミリー契約証券を返還しない。
被告藤原義久は、神戸支店在勤中の同五九年九月下旬ころ客に対し、金相場は上がり下がりはあるが五年持てば大丈夫、破産会社はロンドン、ニユーヨーク等の海外支店に優秀なコンピユーターシステムがあり全ての情報はすぐ分かる、来年は二〇〇〇円、将来は四〇〇〇円になる、損は絶対にしないと勧誘した。
被告竹本は、京都支店在勤中の同六〇年三月ころ、テレホンレデイの求人広告を見て応募してきた女性に対し、上司の立場を利用して研修一日目に、破産会社は政府の認めた会社であり現物取引が基本である、これまでトラブルを起こしたことは一度もない、五年ないし一〇年の気持ちで持つていれば必ず倍になる等の説明をし、二日目には、同被告が部下に指示して純金フアミリー契約を勧めさせ、その夫まで破産会社に案内して勧誘をして、結局契約させた。
被告高島こと高は、堺支店在勤中の同五七年三月ころ客に対し、田中貴金属では金は直ぐには現金に替えられない、破産会社の金はスイスの金貨だから何時でも直ぐに現金に替えられると勧誘した。
被告武田は、サンシヤイン第二支店在勤中の同六〇年三月ころ客に対し、破産会社の客は金を五キログラム一〇キログラムとまとめ買いする人がほとんどである、国会議員や地主も買つている、現物取引の破産会社は非常に安全である、破産会社は近々株を上場することになつており二〇キログラム以上純金フアミリー契約証券をもつている人には株券を無償交付する等の勧誘をし、契約した客が四月になつて新聞報道等を知つて解約を申し入れると、絶対安全である、マスコミを騒がせているのは、破産会社をねたんでいるライバル会社がマスコミや政党と結託しているからだ、どこの会社でも些細な事件はあるが、それをマスコミが大げさに取り上げている、文句を言つている契約者は小口の老人等で金が必要になつたときに解約料を取られるので弁護士を頼んでぐずぐず言つているだけだと言明した。
被告西田は、サンシヤイン第二支店に在勤中の同六〇年二月ころ契約した客から破産会社の記事が新聞に掲載されたことを追及されると、朝日新聞と破産会社は犬猿の仲で、新聞に掲載されてもこちらが訴えれば名誉毀損が成立するので心配は要らないと言明したが、その数日後に客が解約を申し入れると同被告は居留守を使つて会おうとしなかつた。
被告川口は、サンシヤイン第一支店に在勤中の同六〇年二月ころ返還時期の到来した客が換金を申し入れると、金は今安くなつており今換金すると損だ、金の現物も大阪の本社に申請して許可を得ないといけないので返還には時間がかかる、何時になるか分からないと言つて返還を拒否し、客が仕方なく一年物の純金フアミリー契約の締結に応じるや会社に電話をかけ、一年物の枠はないとの芝居を打つて五年物の純金フアミリー契約を締結させた。
被告阪東は、札幌支店在勤中の同五九年一月末ころ客に対し、新聞には発表になつていないが近々デノミがあり敗戦後と同じように預金の価値がなくなつてしまうと言つて勧誘した。
被告竹内は、札幌支店在勤中の同六〇年五月初めころ解約を申し入れた客に対し、新聞報道は全部出鱈目だ、破産会社としては逆に新聞を訴えてやりたい、札幌市役所の人も五、六人買つているので絶対心配は要らないと言つて解約に応じなかつた。
(三) 外圧について
甲ロ第一ないし第二七一、第二七七ないし第三〇八号証、丙第一号証の一ないし一〇五、同第六、第七号証、同第一五号証、証人堺及び同三木の各証言並びに原告本人尋問の結果を総合すると、次の事実が認められ、右認定を左右する証拠はない。
(1) 本件商法については、国会で質疑がなされ行政側も種々対応していたことは既に説示したとおりであるが、このほか、新聞等のマスコミも継続的、かつ広汎に批判的な報道を行ない、また各地の弁護士等も本件商法を批判する様々な活動を行つていた。これらの批判的活動は、本件商法の問題点の全てに及んでいた。
(2) 破産会社の商法について、本件期間の始期までの新聞報道及び弁護士らの活動の一端を摘示すると、次のとおりである。
本件商法が始まつて以来新聞は、当初破産会社の実名を挙げてはいないものの、金取引をめぐる詐欺まがいの商法の問題性についての記事を掲載し、昭和五八年八月一〇日(朝日新聞)には、破産会社は詐欺まがいの金販売を大々的に行つており、「解約をめぐつて名古屋通産局をはじめ全国の通産局や弁護士事務所などに苦情が相次いでいる。同社の販売額はこれまでに三〇〇億円とも五〇〇億円ともいわれるが、通産省によると、同社が預り金に見合うだけの金地金を購入した事実はなく、客が一斉に金地金の返済を迫ると、支払不能になり、ネズミ講に似た大衆を巻き込んだ被害の出ることが心配されている。既に国会でも、この問題がたびたび取り上げられ、警察庁も重大な関心を表明。京都では同社を相手取つた訴訟も起き、全国各地で弁護士らが先物取引被害研究会を結成するなど、大きな社会問題になつている。」との記事が掲載された。
同年八月一四日(朝日新聞)には、破産会社の詐欺まがい金商法に対し、〔同社の従業員と元従業員から「この会社は、お客をだますようなことばかりしている」との内部告発が一三日、朝日新聞に寄せられた。それによると、豊田商事社内ではほんのわずかの金地金しか見たことがなく、契約が満期になつても客に現物を渡さないよう、セールスマンに強制しているという。〕との記事が掲載された。
同年九月九日(朝日新聞)には、苦情殺到豊田商事の金商法との見出しで、〔客の多くは老人、主婦のためか、契約後「満期になつても強引に更新された」「中途解約になかなか応じてくれず、高額の違約金を取られた」など、解約をめぐるトラブル、苦情がこのところ、全国の通産局などに多数持ち込まれている。弁護士による研究団体は「同社が取引に見合う金地金を購入した形跡はなく、利回りのよい運用益を上げられるはずもない。ネズミ講に似た、悪質な詐欺的商法だ」と追及を始め、京都では詐欺容疑の刑事告訴まで行われた。国会でもこの問題が取り上げられ、通産省が、こうした商法に乗せられないよう啓発活動に乗り出すなど、社会問題化する様相を見せてきている。〕との記事を掲載した。
同年一〇月六日先物取引被害全国研究会の弁護士ら二一八名が破産会社に対し、金現物まがい商法はもはや重大な社会問題であつて今後も勧誘を続けるなら十分な説明をする社会的義務があるとして、破産会社が現在発行している証券に表示されている純金等の各総重量、現在保管している純金等の各総重量、最近一年間における純金等の新規契約の各総重量及び破産会社の各購入総重量、純金等の購入先及び購入方法、純金等の運用先及び運用方法、仮に運用していないのであれば契約者に支払う賃料等及び経費の調達方法、満期前の解約について三〇パーセントの違約金を取ることの合理的根拠、先物取引及び不動産売買に対する投資額及び損益額、株式会社トヨタゴールド、豊田観光株式会社、トヨタツーリスト株式会社及び日本高原開発株式会社に対する投資額について資料を添付して一〇日以内に回答するよう公開質問を行つたが、その翌日ほとんど全国の新聞がこれを報道した。
同年一〇月八日(朝日新聞、日本経済新聞、読売新聞等多数)には、岡山市内の女性が破産会社に騙されて契約したと約一二〇〇万円の仮差押の申請をしてこれが認められ、前日の七日破産会社岡山支店において仮差押執行をしたところ、一〇〇グラムの金地金があつただけであつたと報道した。
同年一〇月二二日には全国紙を始め多数の新聞が、詐欺まがいの商法と国会でも問題になつている破産会社に対し、主婦ら七人が詐欺的な勧誘に乗せられて金を騙し取られたとして総額三五八〇万円の損害賠償請求訴訟を東京地裁に提起したと報道した。
破産会社は同年一〇月一五日付けで先の公開質問に対して回答をしたが、「我が社は顧客との契約は完全に履行いたしております。約束通りの事以外の要求は一切いたしておりません。又社会問題につきましても、去る五七年七月六日の参院商工委員会で警察庁仲村保安課長も犯罪に該当しないと答弁いたしております。従いまして他の御質問の内容につきましては企業秘密でもあり右の理由に依り回答の義務はありません。」との簡単なものであつたので、前示の弁護士らは、同年一二月八日破産会社に対し、再度同じ内容で公開質問状を出したが、翌九日及び一〇日の各紙は、これを報道した。
同年一二月二三日の北海道新聞等主として北海道版は、破産会社の商法は国会でも取り上げられ、詐欺まがいだと損害賠償請求訴訟が全国各地で提起されているが、北海道内でも二二日七五〇余万円をつぎ込んだ札幌市内の老人が総額約八四〇万円の損害賠償を求める訴えを札幌地裁に提起したと報道した。
同五九年一月二三日全国紙を始め多数の新聞は、先物取引被害全国研究会は、破産会社が証券の発行額に見合う金地金を保有しておらず、また運用してもおらず、客から集めた現金は勝手に内外の商品先物市場での投機資金に流用しているのが現実であると断定したうえで、金地金を売ると言いながら実際には代金と引換に証券だけを渡すという破産会社の商法は、詐欺罪や出資法違反に当たるとして、東京大阪を中心に刑事告訴をすることを決めたと報道した。
同年三月二四日の全国紙は、金先物取引被害問題研究会の弁護士ら一三二名が代理人になつて、大阪府の女性が同日破産会社は実際は顧客との取引高に相当する金地金を保有していないうえ、客から受け取つた現金を営業経費につぎ込むなど経営がおもわしくないのに、これを隠して勧誘したのは詐欺罪と出資法違反に該当するとして、破産会社の永野会長や同社幹部一〇人を大阪地検に告訴したと報道した。
同年八月一一及び一二日の日本経済新聞及び読売新聞は、破産会社の商法で神戸地裁は明石市内の老人が被害を受けたと認め、同社神戸支店に執行官を派遣、申請どおり動産仮差押を執行したと報道した。
(四) 外圧に対する破産会社の対応、従業員の認識について
甲イ第八ないし第一〇号証、同第一二及び第一八号証、甲ヘ第三号証、丙第一号証の八二、同第一六号証、証人堺、同山田及び同三木の各証言並びに原告本人尋問の結果を総合すると、次の事実が認められ、右認定を左右する証拠はない。
(1) 破産会社の社員の中には、本件商法の問題性に気付いたり、前示の新聞報道等の外圧に不安を抱いた者がおり、これらの者は、あるいは内部告発に走つたり、退職したり、また破産会社に対して犯罪行為を行つたりした。
(2) 昭和四九年二月ころから悪徳商法からの被害を未然に防止し、これに関する法律の制定改正運動を行うとともに被害者の相談に応じることを目的に活動を行つていた悪徳商法被害者対策委員会のもとにも破産会社の従業員からの内部告発が同五七年以降数多く寄せられた。これらの内部告発の要点は、破産会社は金地金の現物を用意していないこと、高率の賃借金の支払を約束し返還時期が到来したときは金地金を返還しなければならないのに高額の給与を支払つていることは疑問であり結局客からの受入金を食い潰していること、自分は破産会社を辞めたいのだが金に困つているので辞めるに辞められないこと等であつた。
内部告発の具体例を挙げると次のようなものである。昭和五七年六月一八日破産会社のサンシヤイン支店(第何支店かは不明)に勤務する営業社員は、一年物の純金フアミリー契約の返還時期が続々と到来するが破産会社は返還するつもりがなく、返還の引き延ばしを専門にする管理部を設置している、破産会社の社員は皆破産会社の商法をおかしいと感じているが、金銭のために心を鬼にして働いている、このために新人の定着率も非常に悪いとの趣旨の電話をかけてきた。同五八年五月一六日銀座支店(第何支店かは不明)において営業社員の研修をうけて九日目の女性は、右委員会を訪れたうえ、破産会社は金を売ると言いながら証券を渡すだけであるので疑問を持つた人は研修が終わらないうちから次々と辞めていつている、給料が良すぎるのではないかと質問をすると研修に当たつた部長は、金が欲しくはないのか、とやかく聞くなと言つて返答をしなかつたと研修の実際を説明した。
(3) 昭和五七年一一月三〇日まで破産会社に勤務していたある営業社員は、破産会社の商法に疑問を持ち破産会社の取締役に内容証明で質問状を出しその回答次第で客からの契約金を入金するかどうか決めると通告して金銭を入金しなかつたので破産会社から告訴されたが、同人は、破産会社が契約に見合う純金を買い付けているのであればその買い付け資料を提示すること、純金フアミリー契約に関するパンフレツトがいかなる理由で存在しないのか釈明すること、永野社長は個人で商品先物取引に手を出しているようだがその資金は客からの預り金を流用していると思われるがこの点について釈明すること、関連会社に対する資金の流れ及びその出所を明らかにすること、客に対して営業社員をして出鱈目な勧誘文言を言わせているがこのことについて釈明すること、いかなる方法で収入を上回る経費を賄つているのか釈明すること、破産会社はその存在自体虚構であり詐欺会社以外の何物でもないと考えるがこの点についても釈明すること、以上の七点を要求した。この社員は、一般の営業社員であつた。
(4) 破産会社の元総務部長は、破産会社の決算書類等を持ち出し、これを公表すると申し向けて破産会社から二〇〇〇万円を喝取したが、同人は弁護人に対して、営業社員が入社して二、三か月して多額の給与及び賞金の支給を受け店舗の豪華な設備造作をみて、破産会社の経営状態が悪いのではないかとの不安を抱き管理職に質問をしたりすると、管理職はそんなことは考える必要はない等と返答するだけで明確な説明をしない、このため不安は解消されず成績の悪い社員は直ぐに退社し、成績の良い社員も顧客に対する罪悪感から退社あるいは内勤への配置転換を希望し、ただ金がもうかりさえすればよいという社員だけが営業社員あるいは営業管理職として残る、このため破産会社の社員の定着率は極めて悪く昭和五九年だけでも一万三〇〇〇人が入退社した旨を供述した。
(5) 昭和五八年八月下旬ころ大阪第二支店に入社したある営業社員は、入社後四か月程度で、同支店内で見本以外の金地金を見たことがなく上司に尋ねても返答がなかつたこと、上司が朝礼等の際にマスコミ報道を取り上げ、稼げるときに稼げばよいではないか等と発言したこと、多数の営業社員に高額の給与を支給し、事務所関係経費も膨大になつていたこと等の事情を総合して破産会社は顧客からの受入金を食い潰しているとの確信を抱くようになつた。同支店の社員はその多くが同じ様な認識をしており、顧客を訪問しに行くときは「さあまた騙しに行つてくるか」と言つて出掛けるような状態であつた。
(6) 大阪支店に昭和五八年九月から同五九年一〇月まで勤務していた証人山田は、入社して半年位したころから、前示のような新聞報道がなされていたこと、新聞報道がなされた日には特別の賞金が支給されていたこと、同支店では返還時期の到来した客に対して異常ともいえるほど契約の継続を勧めており、返還する場合でも数か月も遅らせたり弁護士が入る場合もあつたこと、豪華な設備調度を揃えていることあるいは営業担当者に対して高額の給与を支給していること等の事情から破産会社の商法に疑問を持ち出し、他の営業社員とも新聞報道がなされたりする度に話し合つたが、同様の疑問を持つている者が数多くおり、同五九年五月ころには破産会社はいつか倒産すると思うようになつた。
(7) 原告が破産会社の破産後に多数の関係者から事情を聴取した結果、破産会社は、営業担当者らに対して、資産運用についての具体的説明をほとんどしておらず、営業担当者らは破産会社発行のパンフレツト、社内報、表彰式の際の役員の話、一部マスコミの報道等を通じて断片的知識を得るにすぎなかつたこと、ほとんどの支店、営業所においては、管理職は、営業社員から破産会社の資産運用についての質問を受けてもまともに返答することはせず、これだけの高給を貰える会社は他にはないではないか等と反問してはぐらかしたり、新聞等に破産会社を批判する記事が掲載されたときは臨時の賞金を支給したりして金銭の力で不安や疑問を封殺しようとしていたことが明らかになつた。
以上の事実に基づき、被告らの認識について検討する。
破産会社の本件商法は、三2(六)に説示したとおり家庭の主婦、老人等を殊更対象にして、純金フアミリー契約は真実は現物取引を前提にせず金地金の返還は不確実なものであつたのに(第三期以降は全体的には不可能であつた)安全確実であるかのような錯覚を与え、かつ客観的には虚偽の内容による勧誘文言を駆使して客の自由な意思に誘惑的、強要的で不相当、不当な手段で影響を与えたうえで契約させ、一旦契約に漕ぎつけると客の解約・返還要求を拒否してこれを引き延ばすという手法で組み立てられていたところ、被告らが破産会社から指導教育を受けたセールス手法に忠実に従つて純金フアミリー契約の勧誘に携わつていたことも前示のとおりであり、一部の被告らについては4(二)(2)で説示したような勧誘方法を行つていたのであるから、被告らは極めて違法性の強い本件商法に直接加担していたものというべきであつて、被告らは、当然前示のいわゆる現物まがい性、セールス手法及び返還引き延ばしを基礎付ける事実の主要な部分を認識していたものと推認し得る。
また、被告らは、日常的に豪華な設備、調度を揃えた支店、営業所で勤務し、各支店等に課せられていたノルマを達成すべく自らあるいは部下をして、客に対して純金フアミリー契約の勧誘を行い、勧誘に際しては賃借料の説明もし、契約の上は契約金を受領してこれを破産会社に納入し、客から受け入れた金額に応じて本件請求額の歩合報酬を受領し、且つ他の営業社員が同様に歩合報酬を受領していたことを当然見聞していたというべきであるから、少なくとも、各支店、営業所における受入金額、賃借金の総額、支給された歩合報酬総額の概数、営業担当者の歩合報酬支給基準等のいわゆる経費の構成要素たる事実を認識していたものと推認し得る。したがつて、被告らは破綻の必然性を基礎付ける事実の相当な部分を認識していたものというべきである。
更に、破産会社は、その設立以来前示のとおり国会、行政官庁、弁護士グループ、マスコミ、市民運動団体等から幾度となく前示の本件商法の現物まがい性、セールス手法の問題性、金地金返還の不確実性、解約・返還の拒否等の問題について批判、指摘を受け続け、また、本件商法に関して各地で民事訴訟や刑事告訴、裁判所による仮差押等が行われ、これらが新聞等によつて継続的、かつ広汎に報道されていたから、営業担当者が客を訪問した際に本件商法に対する不安や批判を訴えられることがあつたことも想像に難くない。そして、破産会社は、これらの外圧に対してはまともに対応することをせず、新聞報道があつたときは臨時の賞金を支給する等して営業社員の動揺を押さえようとしたり、営業社員が不安を抱いて管理職らに質問してもまともに返答せずに逆にこれを封じるような姿勢であつたから、退職者も非常に多く、従業員の中には内部告発に走つたり破産会社に対して恐喝事件、構領事件を引き起こす者も出たし、従業員同士も、しばしば破産会社には将来はない等の会話を交わしていたのである。
以上の事情に被告らの破産会社における本件期間の始期までの勤務期間、社内における経歴、本件期間中に支給された歩合報酬金額等の諸事情をも総合して勘案すると、被告らは、破産会社の破産という事態を認識していたかどうかはともかく、少なくとも自らが加担している本件商法が国や社会全体から前示の諸点において批判されていることの認識を有し、かつ自ら破産会社の行く末や本件商法に対して不安、疑問を有していたことも十分推認し得るから、右の程度の主観的認識がある以上、他に特段の反証のない限りは本件商法の違法性を基礎付ける事実の主要な部分を認識していたものと認められ、その態様からして本件歩合報酬契約を有効として被告らを保護することは公序良俗に反し許されないものというべきである。
そこで、以下においては特段の反証の有無について検討する。
被告らは、各勤務していた支店、営業所において被告らの見聞している範囲においては、客に対して金の現物を引き渡していたし、支店、営業所に置いてない場合には本社に言えば直ぐ送られてきたので、純金フアミリー契約の総量に見合う金地金が存在したかどうかはともかく、それ相応の金地金は何時でも客に引き渡すことができると認識していた旨反論する。しかしながら、いわゆる現物まがい性を構成する事実の主要な部分は、純金フアミリー契約が真実は準消費寄託契約ないしは売買と準消費寄託契約が結合した混合契約であり破産会社は金地金の返還時期が到来するまでは金地金の引渡しの手段を何ら講じないものであるのに、この事実を秘し純金フアミリー契約が安全確実な現物取引を前提にした金地金の保管契約であるかのごとき勧誘方法及びその外観を取ることにあるのであつて、被告らが何れも破産会社の指導、教育したセールス手法に従つて右のような勧誘を行つたことは前示のとおりであるから、仮に被告らがその主張のような認識を有していたとしても、現物まがい性の内容たる事実を認識していなかつたとすることはできない。
次に、被告らは、原告の主張するようなセールス手法を行つたことはないし、そのようなセールス手法が行われていることも知らなかつた旨反論するが、破産会社の指導、教育していたセールス手法が違法性の強いものであつたことは前示のとおりであつて、被告らがこれに従つて勧誘していた以上、被告らの反論は失当で、到底採用することができない。
被告らは、現場出先の第一線の営業担当者にすぎず破産会社の経営を担当するものではないから、原告主張の破産会社の損益の状況や資産状態を知りうるはずがなく、逆に破産会社幹部の説明あるいはパンフレツト等によりいわゆる豊田商事グループの業績は好調であると認識していたし、それだからこそ別表IV記載の被告らは自ら純金フアミリー契約を締結した旨反論する。いわゆる豊田商事グループ各社の業績については既に説示したとおり大半の会社がペーパーカンパニーであり営業している会社も赤字のものが多く破産会社に利益を還元するほどの収益を上げていなかつたのであるが、その点はおくとしても、単なる民間の一会社にすぎない破産会社が前示のような外圧の批判に曝され続けたということは、それだけでも極めて異常な事態であるというべきところ、右外圧が批判する問題についての不安や疑問を幹部の口頭の説明のみでは到底氷解させることはできなかつたと推認せざるを得ない。また、別表IV記載の取引については、被告高島こと高及び同藤原義久の主張する分は証拠がない。被告佐々木の主張する分については、これを認めるに足りる証拠がない。被告河野の主張する分については、乙A第五、第一三及び第一四号証、同第一五号証の一ないし五、同第一六号証の一及び二並びに同第一七号証により、同表「契約名義人」欄記載の名義で「契約年月日」欄記載の日に「数量」欄記載の数量の純金フアミリー契約が締結されていること、河野妙子が被告の妻、河野ケイ及び井草優代が被告の同居人であることが認められるが、右各契約を被告が締結したことを認めるに足りる証拠はない。被告石川の主張する分については、乙A第六号証、同第九号証の一ないし六、同第一〇号証の一ないし五並びに同第一一及び第一二号証により、同表「契約名義人」欄記載の名義で「契約年月日」欄記載の日に「数量」欄記載の数量の純金フアミリー契約が締結されていること、石川忠男が被告の実父であることが認められるが、右各契約を被告が締結したことを認めるに足りる証拠はない。被告二渡の主張する分については、乙A第七号証、同第一九号証の一ないし六、同第二〇号証の一ないし三、同第二一及び第二三号証の各一及び二、同第二二号証並びに同第二四ないし第二七号証により、同表「契約名義人」欄記載の名義で「契約年月日」欄記載の日に「数量」欄記載の数量の純金フアミリー契約が締結されていること、二渡里佳、同タカ及び同美和が被告と同居していること並びに宇野充代が元同居人であることが認められるが、右各契約を被告が締結したことを認めるに足りる証拠はない。被告青柳の主張する分については、これを認めるに足りる証拠がない。被告川口の主張する分については、乙C第一〇ないし第一五号証の各一及び二により、同表「契約名義人」欄記載の名義で「契約年月日」欄記載の日に「数量」欄記載の数量の純金フアミリー契約が締結されていること、右各契約のうち同被告名義のものは同被告が契約を締結したことが認められるが、その余の契約について同被告が契約を締結したことを認めるに足りる証拠はない。被告武田の主張する分については、証拠がない。被告西田の主張する分については、乙C第一六ないし第二一号証の各一及び二により、同表「契約名義人」欄記載の名義で「契約年月日」欄記載の日に「数量」欄記載の数量の純金フアミリー契約が締結されていること、右各契約のうち同被告名義のものは同被告が契約を締結したことが認められるが、その余の契約について同被告が契約を締結したことを認めるに足りる証拠はない。被告山田の主張する分については、証拠がない。以上を要するに、被告らが自ら契約を締結したものと認められるものは、僅かに被告川口の昭和五九年一〇月一日の二〇〇グラム及び被告西田の昭和六〇年三月二三日の二〇〇グラムだけであつて、金額は被告らの主張するとおりであるとすれば、被告川口が四九万九〇二〇円、同西田が五四万七八九〇円にすぎない。そして、甲ホ第一号証、証人山田の証言及び原告本人尋問の結果によれば、営業担当者が自ら純金フアミリー契約を締結する目的は、新入社員の場合は月間導入ゲージを達成して正社員資格を取得するため、あるいは破産会社に対する忠誠を示して上司から評価されたいため、正社員の場合はノルマを達成して歩合報酬を取得するため(被告東らは、昭和六二年一月二九日付準備書面において、客が純金フアミリー契約の解約を申し入れた際に営業担当者が客に代わつてこれを引き受けることがあることを自認し、破産会社の履行を信じているから引き受けることができると主張する。また、被告山田は、ノルマ達成のために自ら、また、客が解約を申し入れたり入金できなかつたときには客に代わり、営業担当者が純金フアミリー契約を締結させられたことを自認している。)等様々であることが認められ、被告川口及び同西田が締結したものと認められる純金フアミリー契約の金額と同被告らが受領した本件請求額に係る歩合報酬額を対比すると前者は極めて小額であるから、被告らは自己の地位、したがつて高額の歩合報酬を維持するために自らフアミリー契約を締結したとも解される余地が十分にあり、結局同被告らがいかなる目的で純金フアミリー契約を締結したのかは判然としないものというべく、同被告らが純金フアミリー契約を自ら締結しているということのみでは前示の認識があることを覆すに足りないというべきである。
被告和田らは、破産会社は予防法学に異常な注意を払つており、同被告らも顧問弁護団の本件商法が合法であるとの説明を受けていた旨反論するが、右は、本件歩合報酬契約が公序良俗に違反し無効となるためには被告らが本件商法の違法性をも認識している必要があるとの立場に立つのであれば意味がありうるかもしれないが、そのような違法性の認識が必要でないことは既に説示したとおりであるから、右反論は失当というべきである。
以上の次第で、本件においては特段の反証があるとはいえないから、本件歩合報酬契約は、遅くとも破産会社の損益及び資産状況が決定的に悪化し客に対する金地金の返還が全体的に不可能となつた第三期の決算を破産会社の経営陣が認識し、その窮状をレジヤー会員証券商法によつて乗り切ろうと計画を始めた昭和五九年夏ころには、要件を具備し公序良俗に違反する状態になり、無効になつたというべきである(なお、法律行為の有効・無効の判断は行為時を基準にしてなされるべきであるとする解釈が一般であり、当裁判所もこれを否定するものではないが、本件歩合報酬契約のような継続的契約の場合には、時の経過によりその付随内容や当事者の認識が変化するのであるから、同契約につき民法第九〇条の無効要件が具備するか否かの判断は、当然、契約の全過程を対象にして判断することになるのであつて、このことは右一般解釈とは矛盾するものではない。そして、この場合の無効の効果は遡及しないと解すべきである。)。
四 不当利得返還請求権の成否(請求原因4)について
本件歩合報酬契約が昭和五九年夏ころから無効になつたことは前段に説示したとおりであるから、被告らは、それ以降の歩合報酬を利得し保有する権限を欠くに至つたものというべきであるが、被告岩切ら、同和田ら及び同東らは、本件請求は不法原因給付の返還を求めるもので民法第七〇八条により許されないとの趣旨の反論をするのでこの点について判断する。
民法第七〇八条は「不法ノ原因ノ為メ給付ヲ為シタル者ハ其給付シタルモノノ返還ヲ請求スルコトヲ得ス(以下省略)」と規定するところ、その立法趣旨は、ある行為の実質が社会生活及び社会感情に照らし真に倫理、道徳に反する醜悪なものと認められる場合に、そのような行為をした者に対する制裁として、右行為に基づき給付したものの返還請求につき法的救済を拒否する、すなわち、不法に給付したものの回復を認めないことによつて、不法な行為の発生を妨圧することを目的としているものと解される。
これを本件についてみるに、本件歩合報酬契約は公序良俗に違反し無効であるから、これに基づく歩合報酬の支給は一応「不法ノ原因ノ為給付ヲ為シタ」ものであるとの前提で検討すると、破産会社は被告らに対し、右給付した歩合報酬の返還を請求することができないことになる。そして、破産管財人は破産者が破産宣告の時において有する一切の財産(破産財団)の管理及び処分権を専有する者であるから(破産法第六条第一項、第七条)、原則として、破産者が破産宣告時において有していなかつた権利を取得することはできない筋合いである。そうすると、破産管財人も、破産者と同様に、被告らに対し歩合報酬の返還を求めることができないようにみえる。しかし、破産者のなした返還請求が不法原因給付として許容されないときでも、不当利得返還請求権自体はその発生要件を具備することにより当然に発生しており、ただ、同法第七〇八条に該当するゆえにその行使が許されないにすぎないから、本件歩合報酬返還請求権も客観的には破産財団に属しているものということができる。
次に、破産管財人は、同条により破産者が行使できない返還請求権を行使できるか否かにつき考えるに、結論として、破産者が行使できないときは、即管財人も行使できないと解するべきではなく、管財人の権利行使の許否については、その態様等一切の事情を考慮して、同条の立法趣旨に照らし別途判断されるべきものと解する。けだし、破産管財人は、裁判所によつて選任され(同法第一五七条)、裁判所の監督のもとに(同法第一六一条)、総債権者に公平な満足を得させることを目的として、破産法に基づき固有の権限をもつて管財業務を執行する独立した法主体であつて、その権利行使は破産者の権利承継人または代理人としてするものでないからである。そして、このように解することは、民法第七〇八条の立法趣旨にそうものと解する。
そこで、本件の場合につき検討するに、原告管財人が被告らに対して本件歩合報酬の返還を求めることは、本件商法による被害者である破産債権者の損害の一部を回復する結果にこそなれ、同立法趣旨に照らし許容し得ないとする事情は全くない(破産債権者からするとき、自己の出資金を取り戻すものであつて、いかなる意味においても汚れた金銭を手にすることにならない。)から、原告の本件請求は許容されてしかるべきである。
よつて、被告岩切ら、同和田ら及び同東らの反論は理由がない。
五 遅延損害金の起算日について
昭和六〇年一二月一日が被告らに対する本件訴状の送達がなされた日の後の日であることは、当裁判所に顕著な事実である。
六 抗弁1(利得消滅の抗弁)について判断する。
被告和田らがその主張のような経費を支出したことを認めるに足りる証拠は全くないから、同被告らの主張はその余を判断するまでもなく理由がない。
七 抗弁2(相殺の抗弁)について判断する。
1 被告和田の立替金債権を自働債権とする相殺の抗弁について判断するに、同被告がその主張のような立替払をしたことを認めるに足りる証拠は全くないから、その余を判断するまでもなく同被告の主張は理由がない。
2 被告石川、同河野、同川口、同武田及び同西田の純金フアミリー契約債権を自働債権とする相殺の抗弁について判断するに、前示のとおり別表IV記載の契約のうち被告川口の昭和五九年一〇月一日の二〇〇グラム及び同西田の昭和六〇年三月二三日の二〇〇グラムの各純金フアミリー契約は同被告らが自ら締結したものと認められるものの、その余は右被告らが自ら契約を締結したことを認めるに足りる証拠がない(被告武田についてはその主張の純金フアミリー契約の存在自体を認めるに足りる証拠が全くない。)。そして、被告川口及び同西田が昭和六二年一月二九日の本件第一五回口頭弁論期日において右純金フアミリー契約債権と本件請求額に係る歩合報酬返還債務を対当額において相殺する旨の意思表示をしたことは当事者間に争いがない。
原告は、純金フアミリー契約債権の目的は金地金の引渡請求権であつて金銭債権たる本件請求権と同種の目的を有するとはいえないから相殺は許されない旨主張するが、一方原告は、破産会社は純金フアミリー契約の返還時期が到来したときは金地金を返還するかこれに代えて返還時期における金地金の時価相当額を支払つていたことを自認しており、原告本人尋問の結果によつても右事実が認められるから、純金フアミリー契約債権と本訴請求権が同種の目的を有しないとはいえないというべきである。
八 再抗弁2について
本件歩合報酬契約に基づく歩合報酬の支給が「不法ノ原因ノ為給付ヲ為シタ」場合にあたるしても原告がその返還を求めることができることは既に説示したとおりであるところ、破産会社が返還請求できないものを破産管財人である原告が返還請求できるということは、否認権の行使等と同様に、破産宣告後に破産管財人の手元で具体的請求権として生じた債権ということができ、これを被告川口及び同西田の側から見ると破産宣告の後に破産財団に対して債務を負担したものということができる。そして、同被告らが本件歩合報酬返還債務に担保的機能を予定していなかつたことは、これまで説示してきた事実関係に照らし明らかであるから、右実質的な法律状態に破産法第一〇四条一号の趣旨を類推適用し、右相殺は許されないものと解するのが相当である。
九 以上の次第で、原告の被告藤原孝信及び同山本を除くその余の被告らに対する本件請求は理由がある。
第三被告藤原孝信及び同山本に対する請求について
以下において認定説示する以外は、全て第二において認定説示したとおりである(但し、当事者間に争いのない事実として説示する部分及び被告藤原孝信及び同山本以外の被告らの主張について説示する部分を除く)。
よつて、原告の被告藤原孝信及び同山本に対する本件請求は理由がある。
一 当事者
請求原因1の事実は、甲イ第一、第二七及び第二八号証の各一及び二、同第三、第四及び第二九号証並びに原告本人尋問の結果により認められる。
二 本件歩合報酬契約
請求原因2の各事実は、甲イ第四号証、同第六号証の一ないし六、同第二七及び第二八号証の各一及び二、同第二九号証、甲ハ第四号証の一ないし九の各一及び二、甲ホ第一号証、同第一一及び第一二号証の各一ないし五の各一及び二、原告本人尋問の結果並びに弁論の全趣旨により認められる。
三 本件歩合報酬契約の公序良俗違反性
1 本件商法の概要
請求原因3(一)の事実は、甲イ第四号証、同第六号証の一ないし六、同第八号証、同第一三ないし第一六号証及び原告本人尋問の結果により認められる。
2 被告らの破産会社における地位等
甲イ第二七及び第二八号証の各一及び二並びに第二九号証によれば、被告らの営業配属日は、別表Iの1の「A営業配属日」欄に、本件期間中の職位は、同表の「B職位」欄に各記載のとおりであり、破産会社に入社以後の勤務地、勤務場所、社内歴等は別紙社内歴等一覧表に記載のとおりである。本件期間の始期までの勤務期間は、被告藤原孝信が通算して約二年三か月、被告山本が通算して一年四か月である。
第四結論
以上の次第で、原告の被告らに対する本件請求は、全て理由があるからこれを認容することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八九条、第九三条第一項を、仮執行の宣言につき同法第一九六条を適用して、主文のとおり判決する。なお、被告山田の担保を条件とする仮執行免脱宣言の申立ては、その必要があるとは認め難いので、却下する。
(裁判官 中田耕三 木村修治 下野恭裕)
別表Iの2~IV、「書証の成立について」、社内歴等一覧表(省略)
別表Iの1
番号
被告氏名
A 営業配属日
B 職位
C 固定給
D 歩合報酬
E 源泉税額
F 請求額
1
岩切 秀憲
S.56.2.9
係長課長待遇・係長席
490,850
63,784,494
6,318,446
57,466,048
2
佐々木 清友
S.57.10.15
課長・課長席→部長・支店長
1,456,160
31,413,133
3,141,311
28,271,822
3
藤原 孝信
※1
S.59.3.1
係長課長待遇・係長席
500,000
29,590,160
2,959,014
26,631,146
4
和田 康生
S.56.4.22
係長課長待遇→係長→係長課長待遇→係長・課長席
507,970
29,230,357
2,923,034
26,307,323
5
藤原 義久
S.56.10.1
部長・部長席→部長・支店長代理→部長・支店長
1,315,290
28,783,829
2,878,380
25,905,449
6
東 大龍
S.57.9.1
次長・支店長→部長・支店長
1,362,540
28,205,888
2,820,586
25,385,320
7
二渡 せつ子
S.59.6.14
主任→係長・係長席→係長課長待遇・係長席
470,000
26,917,021
2,691,700
24,225,321
8
山本 勝也
S.58.12.1
係長・係長席→係長課長待遇・係長席
※2
450,000
24,834,034
2,483,401
22,350,637
9
武田 盛昭
S.57.7.5
係長課長待遇・係長席
495,300
24,286,946
2,428,693
21,858,253
10
竹本 成幸
S.5.4.22
課長・支店長→次長・支店長
950,000
24,201,647
2,420,162
21,781,485
11
阪東 順二
S.58.1.12
次長・支店長
1,094,160
23,738,421
2,373,840
21,364,581
12
青柳 和俊
S.57.3.15
次長・所長→部長・所長→部長・支店長
1,355,880
22,858,740
2,285,873
20,572,867
13
高 広志
S.57.1.25
部長・支店長→支社長代理→支社長
2,211,160
22,647,064
2,264,705
20,382,359
14
石川 雅代
S.58.2.1
係長・係長席
※3
420,000
22,309,890
2,220,987
20,088,903
15
堀之内 斉
S.59.3.26
ヘッド→主任→係長・係長席→係長課長待遇・係長
470,000
21,161,692
2,116,167
19,045,525
16
竹内 健三
S.59.3.1
ヘッド→係長・係長席→係長課長待遇・係長席→係長・課長席
510,500
21,056,926
2,105,691
18,951,235
17
河野 浩通
S.57.9.8
係長・係長席→係長・課長席→係長・係長席→係長・課長席→課長・課長席
711,340
20,572,795
2,057,277
18,515,518
18
西田 幸子
S.58.12.15
係長・係長席
471,140
20,309,047
2,030,903
18,278,144
19
川口 誠一郎
S.56.6.19
部長・支店長
1,410,230
20,211,233
2,021,122
18,190,111
20
山田 省子
※4
S.59.3.1
係長・係長席→係長課長待遇・係長席
457,560
20,196,100
2,019,606
18,176,494
※1 S.56.9入社,S.58.5退社後の再入社
※2 遅早欠控除は未控除
※3 退社のため60.2分を示す
※4 入社はS.57.9テレフォンパートとして