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大阪地方裁判所 昭和60年(ワ)6507号 判決 1986年9月30日

原告

上野みち子

被告

三輪俊夫

ほか一名

主文

一  被告三輪宣之は、原告に対し、九九三万九八四〇円及びこれに対する昭和五八年一二月一九日以降完済まで年五分の割合による金員を支払え。

二  原告の被告三輪宣之に対するその余の請求を棄却する。

三  原告の被告三輪俊夫に対する請求を棄却する。

四  訴訟費用は、原告に生じた費用の四分の一と被告三輪宣之に生じた費用の二分の一を被告三輪宣之の負担とし、原告に生じたその余の費用と被告三輪宣之に生じた費用の二分の一及び被告三輪俊夫に生じた費用を原告の負担とし、参加によつて生じた費用を補助参加人の負担とする。

五  この判決は、主文第一項に限り、仮に執行することができる。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1  被告らは、原告に対し、連帯して二〇〇〇万円及びこれに対する昭和五八年一二月一九日以降完済まで年五分の割合による金員を支払え。

2  訴訟費用は被告らの負担とする。

3  1項につき仮執行宣言。

二  請求の趣旨に対する答弁

1  原告の請求をいずれも棄却する。

2  訴訟費用は原告の負担とする。

第二当事者の主張

一  請求原因

1  原告は、次の交通事故(以下本件事故という。)により受傷した。

(一) 日時 昭和五八年一二月四日

(二) 場所 大阪府豊中市上野西一丁目六番一号先路上(以下本件現場という。)

(三) 加害車 普通乗用自動車(大阪五九ゆ一〇五八)

(四) 運転者 被告三輪宣之(以下被告宣之という。)

(五) 被害者(原告)の事情 加害車に同乗

(六) 事故態様 被告宣之が加害車を運転して本件現場の交差点を右折しようとしたところ、速度を出しすぎていたためハンドル操作を誤つて加害車を逸走させ、道路側壁及び郵便ポストに衝突させた。

(七) 受傷内容 頭部外傷Ⅱ型、右膝打撲、顔面挫滅創、異物混入

2  責任原因

(一) 被告三輪俊夫(以下被告俊夫という。)に対する責任原因及び被告宣之に対する主位的責任原因―示談契約に基づく責任

被告宣之及びその実父である被告俊夫は、昭和五八年一二月一八日、原告との間で、「(1) 被告らは連帯して原告に対し治療費、車両修理費及び慰藉料を支払うものとする。(2) 原告に後遺障害が生じた場合には、被告らは連帯して損害賠償に応ずるものとする。」等を内容とする示談書に署名押印して、原告に対し、本件事故による原告の損害を賠償する旨約した。

(二) 原告の後遺障害による損害についての被告宣之に対する予備的責任原因

仮に、前記示談契約(以下本件示談契約という。)に基づいては原告の後遺障害による損害について被告宣之の責任が認められないとしても、被告宣之には右損害について次のとおりの責任がある。

(1) 民法七〇九条に基づく責任

本件事故は、前記1(六)事故態様記載のとおり、被告宣之の過失により発生したものである。

(2) 自動車損害賠償保障法三条に基づく責任

以下の事情に鑑みれば、被告宣之は、本件事故当時、加害車を自己のために運行の用に供していたものであることは明らかである。すなわち、

(イ) 原告は、加害車の保有者である原告の父・訴外上野幸男から同車を借り受け、これを運転して豊中市内の飲食店まで被告宣之を迎えに行つた。

(ロ) 被告宣之は、酔余、原告に対し、その頭髪を引張つて頭部を加害車後部座席ガラスに打ちつけ、その肩を掴んで引きずり、原告を路上に引き倒すなどの暴行を加えた。

(ハ) 被告宣之は、原告に運転を替わるよう要求したが、同被告が飲酒酩酊していたので、原告はこれを拒絶した。

(ニ) 被告宣之は、いやがる原告をむりやり助手席に押しのけて自ら運転席に乗り込み、原告の指をこじあけて加害車のキーを奪い取つた。

(ホ) 被告宣之は、加害車を運転して豊中市内の友人宅へ赴き、右友人を同乗させ、さらに自己の自宅へ帰る途中に本件事故を起こしたものである

3  損害

(一) 車両修理費 五二万五四七〇円

(二) 入院慰藉料 二〇万円

(三) 逸失利益 二六二七万七六八七円

原告は、本件事故に基づく顔面外傷により前額部に瘢痕拘縮を残し、その障害の部位程度及び原告が二一歳の未婚女性であること等を勘案すると、右後遺障害は自賠法施行令二条別表(以下別表という。)七級一二号に該当する。

(計算式)

199万3,900(昭和58年賃金センセス女子労働者・短大卒・20歳~24歳)×0.56(別表7級の労働能力喪失率)×23.534(21歳の就労可能年数46年に対応する新ホフマン係数)=2,627万7,687

(四) 後遺症慰藉料 六六八万八〇〇〇円

(五) 損益相殺 七八万五六三〇円

原告は被告らより七八万五六三〇円の支払を受けた。

よつて、原告は、被告らに対し、示談契約に基づき(被告宣之に対してはさらに予備的に民法七〇九条または自賠法三条に基づき)、連帯して、三二九〇万五五二七円の損害賠償請求権を有するので、右内金二〇〇〇万円及びこれに対する本件示談契約の成立した日の翌日である昭和五八年一二月一九日以降完済まで年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。

二  請求原因に対する認否

1  請求原因1の事実は全て認める。

2  請求原因2の事実は全て認める。但し、同(一)については、後記「三 抗弁(被告宣之に対する予備的責任原因に基づく請求に対するもの)」の項に記載するとおりである。

3  請求原因3の事実中、(一)ないし(四)はいずれも不知、同(五)は認める。

三  抗弁(被告宣之に対する予備的責任原因に基づく請求に対するもの)

原告と被告らは、昭和五八年一二月一八日、本件示談契約において、被告らは、将来原告に本件受傷を原因として機能的な後遺症(例えば、視力の低下、頑固な頭痛症状、あるいは、腕その他の部分の運動機能障害など)が生じた場合には、その損害を賠償する。右以外の後遺症による損害については、原告は被告らにその賠償を請求しない旨の約束をした。

原告が本訴で主張している顔面醜状は右機能的な後遺症ではなく、それ以外の後遺症である。

被告宣之と原告は当時親密な間柄であつたので、本件示談契約をしたものである。

四  抗弁に対する認否

抗弁事実は否認する。

五  補助参加人の主張

1  加害車は原告の父名義のものであるが、時として原告が使用していたものであるところ、本件事故当時、原告は被告宣之と会うため同車を運転して出かけたのであるから、原告は同車の運行供用者であつて自賠法三条の他人ではない。

2  原告は、いやいやながらとはいえ自己が運転してきた加害車のキーを被告宣之に渡して同車の運転を同被告に委ね、自らは助手席に同乗していたものであるから、未だ同車に対する運行支配及び運行利益を失つていない。したがつて、原告は自賠法三条の「他人」性を取得していない。

六  補助参加人の主張に対する反論

原告が加害車の所有者の長女にあたり本来は共同運行供用者に該当する場合であつても、本件事故当時における加害車の具体的運行に対する支配の程度及び態様が、「間接的、潜在的、抽象的」であれば他人として保護され、それが「直接的、顕在的、具体的」であれば他人として保護されないというべきところ、本件事故発生までの状況は、前記一2(二)(2)の(イ)ないし(ホ)に記載したとおりであつて、原告が被告宣之から受けた右暴行の態様及び当時原告が一九歳の女性であり、同被告が二二歳の男性であつたことなどを勘案すると、原告が同被告から右暴行を受けた直後にはすでに原告は加害車の運行に対する具体的支配を失つていたというべく、本件事故当時における原告の加害車の具体的運行に対する支配の程度及び態様が「間接的、潜在的、抽象的」であつたことは明らかである。したがつて、原告は、自賠法三条の「他人」として保護されるべきである。

第三証拠

本件訴訟記録中の書証目録及び証人等目録記載のとおりであるから、ここにこれを引用する。

理由

一  請求原因1の各事実は当事者間に争いがない。

二  請求原因2(一)(示談契約に基づく責任)及び抗弁(被告宣之に対する予備的責任原因に基づく請求に対するもの)について

1  請求原因2(一)の事実は当事者間に争いがないところ、後遺障害につき、原告は、本訴請求にかかる原告の顔面醜状の後遺症は本件示談契約にいう後遺障害に含まれると主張し、被告らはこれに含まれないと主張するので、以下、本件示談契約の合意内容につき検討する。

(一)  後遺症によるもの以外の損害賠償の合意について

成立に争いのない甲第六号証、証人上野幸男及び同三輪和子の各証言に弁論の全趣旨を総合すれば、昭和五八年一二月二八日、同日までに発生したことが明らかとなつた原告の損害、すなわち、右同日までの治療費、車両修理費及び入通院慰藉料につき、原告と被告らとの間において、それぞれ六万〇一六〇円、五二万五四七〇円及び二〇万円と定め、右合計七八万五六三〇円を被告らが連帯して原告に支払い、後遺症に基づくもの以外の賠償について原告は右金額をもつて満足することとし、被告らは原告に右同日その支払をしたこと(被告らが原告に右金額を支払つたことは当事者間に争いがない。)が認められ、他にこの認定を左右するに足りる証拠はない。

(二)  後遺症による損害賠償の合意について

(1) いずれも成立に争いのない甲第四号証の一及び三原告本人尋問の結果及び前記証人両名の各証言に弁論の全趣旨を総合すれば、以下の事実を認めることができ、他にこの認定を左右するに足りる証拠はない。

(イ) 原告は、本件事故当日から昭和五八年一二月一一日までの八日間、頭部外傷Ⅱ型、右膝打撲、顔面挫滅創(大)、異物混入の傷病名で入院し、その後、昭和五九年三月三日から同月九日までの七日間、顔面外傷后瘢痕拘縮の傷病名で入院して瘢痕拘縮形成術等(額の傷跡を目立たなくする手術)を受け、翌昭和六〇年一月にも同様の手術を受けた。したがつて、本件示談契約がなされた昭和五八年一二月一八日時点では、原告の額にどの程度の後遺症が残るかは不明であつた。

(ロ) 昭和五八年一二月一七日、被告俊夫は原告方に架電し、明日示談の話合に伺いたい旨を伝え、翌一八日、被告側から被告俊夫、妻和子及び被告宣之の姉容子の三名が原告方を訪れた。原告側では原告の父母が応対した。

(ハ) 原告の父訴外上野幸男は、原告の額の傷については専門病院で形成手術を受ける必要があることを被告側に話した。

(ニ) 被告側は、原告の額にフロントガラスの破片が入つていたため額に傷跡が残るであろうことは了解していたが、それが重大な後遺障害となるとは考えていなかつた。

(ホ) 被告側は、将来原告に、頭痛、視力低下、首や肩の痛みあるいは手足のしびれなどの機能障害が生じた場合、後日双方で話合つてこれに対応する賠償額を決めるという考えで後遺症についての賠償条項の申入を原告側になし、右考えに沿う内容の話をした。

(ヘ) しかし、その際、被告側は前記(ニ)のとおり考えていたので、原告の額の傷跡が後日賠償の対象となる後遺症に含まれるか否かの話合は当事者間でなされなかつた。

(ト) しかして、原告側は、どういう内容のものが後日賠償の対象となる後遺症に該るものとして被告側が右申入をしたのか了解せず、原告の額の傷跡が右後遺症に該らないものとは考えないで本件示談契約をなした。

(2) ところで、前記甲第六号証には、原告に今後、後遺症が生じたときは、被告らは連帯して損害賠償に対応するものとする旨の記載がある。そして、前記(1)(イ)(ハ)(ヘ)(ト)の事実を前提として、右文言を形式的に解釈すれば、後日賠償の対象となる後遺症について文言上何らの制限も付されていないのであるから、本訴で原告が主張している顔面醜状は右後遺症に該るものであり、これについて被告らが連帯して損害賠償に対応するとの合意が当事者間になされたものというべきこととなる。しかしながら、前記(1)(ニ)(ホ)の事実に鑑みれば、被告側の原告側に対する原告の後遺症による損害の賠償についての申入は、本訴で原告が主張している顔面醜状は、後日賠償を要すべき後遺症に該らないことを前提とし、不十分ながらもその旨を原告側に示してなされたものと認めるのが相当である。そうすると、本件示談契約をするに際し、被告側は、機能障害を伴う後遺症による損害については被告らが原告に対し連帯して賠償責任を負い、その余の後遺症(原告が本訴で主張している顔面醜状はこれに含まれる。)による損害については原告は被告らに賠償請求をしないこととするとの趣旨を表示して、その旨の申入を原告側になしたのに対し、原告側は、右申入を、原告の顔面醜状を含む全ての後遺症による損害について被告らが原告に対し、連帯して賠償責任を負う趣旨のものと理解して右申入に応じ、甲第六号証記載の前記文言は、その趣旨を表示しているものであると考えていたものと認められる。

そうすると、原告が本訴で請求している顔面醜状による損害賠償を如何にすべきかという点について本件示談契約においては、原告及び被告らの間に何らの合意もないというべく、被告らが原告に対し、右損害を連帯して賠償するとの合意が当事者間に成立したことを前提とする原告の主張(前記事実摘示一2(一))は失当であり、また、原告は右損害について被告らに賠償請求をしないとの合意が当事者間に成立したことを前提とする被告らの主張(前記事実摘示三)も同じく失当である。

2  したがつて、(一) 右1(一)によれば、原告の後遺症によるもの以外の損害のうちで本訴において原告が主張している車両修理費五二万五四七〇円、入院慰藉料二〇万円については、被告らは原告に対し連帯して賠償すべき責任があり(治療費六万〇一六〇円については原告は本訴において損害として主張していない。)。(二) 右1(二)によれば、原告の後遺症による損害については、本件示談契約をその責任原因としては被告らに賠償責任はない。

三  請求原因2(二)(原告の後遺障害による損害についての被告宣之に対する予備的責任原因)について

請求原因2(二)(1)(2)の各事実は原告と被告宣之との間に争いがなく(補助参加人は前記事実摘示五のとおり主張するけれども、この主張は前記事実摘示二2の被参加人たる被告宣之の主張に牴触するので、民事訴訟法六九条二項により、その効力を有しない。)、また、被告宣之の抗弁は、前記二1(二)(2)のとおり失当であるので、原告に後遺障害による損害があれば、被告宣之は、原告に対し、民法七〇九条に基づき、また、自賠法三条に基づき右損害を賠償すべき責任がある。

四  請求原因3について

1  請求原因3(一)(二)の損害の賠償については前記二2(一)のとおりである。

2  請求原因3(三)(四)について検討する。

(一)  弁論の全趣旨により真正に成立したものと認められる甲第五号証、いずれも昭和六〇年三月二〇日当時の原告本人の写真であることに争いのない検甲第一、二号証、証人三輪和子の証言及び原告本人尋問の結果に弁論の全趣旨を総合すれば、以下の事実を認めることができ、他にこの認定を左右するに足りる証拠はない。

(1) 原告には、後遺障害として、まゆ毛より上で髪の生え際より下の額部分に、幅がいずれも約一ないし二ミリメートル、長さがそれぞれ六センチメートル、三・五センチメートル、三センチメートル、一センチメートル各一本、二・五センチメートル二本の各線状瘢痕及びこれに伴う瘢痕拘縮がある。

(2) 右線状瘢痕及び瘢痕拘縮は、前髪を額に垂すことによつて隠すことができ、原告は、本件事故前、額に前髪がかかる髪型をしていたこともあり、右髪型は、原告にとつて格別不自然なものではない。

(3) 原告は、昭和三九年三月一〇日生れ、症状固定時(昭和五九年六月四日)二〇歳の未婚の女性であり、本件事故後、短大を卒業し、昭和五九年に池田銀行に就職した。原告は額を髪で隠しているため、額の傷跡は、就職の際に世話になつた特定の人を除いて同僚や上司には知られていない。前記後遺症は原告の担当している業務上、具体的な支障にはなつておらず、原告は、同時期に入行した他の女子職員と比し入行当初から給与及び昇給に関して格別の不利益を受けていない。原告は、将来結婚すれば、池田銀行を退職するつもりでいる。

(二)  逸失利益について

原告は、前記後遺障害は別表七級一二号に該当し、これにより原告は、その労働能力の五六パーセントを四六年間にわたり喪失したものであると主張する。

ところで、前記後遺障害が別表の後遺障害に該当するか否か、該当するとした場合には、別表七級一二号の「女子の外貌に著しい醜状を残すもの」に該当するか、別表一二級一四号の「女子の外貌に醜状を残すもの」に該当するかが問題となる。そして、別表の後遺障害の認定については労働災害「障害等級認定基準」(以下労災基準という。)に準拠して取扱うこととされている(昭和五一年一月一九日医調五〇―二五五号自動車保険料率算定会医療費調査部長通知)ので、当裁判所も右労災基準に準拠して検討することとする。右労災基準によれば、原則として、顔面部にあつては、鶏卵大面以上の瘢痕、長さ五センチメートル以上の線状痕又は一〇円銅貨大以上の組織陥凹に該当する場合で、人目につく程度以上のものは「著しい醜状を残すもの」に該当するとされているので、原告の後遺障害は、前記(一)(1)で認定したその部位・程度によれば、これを髪型によつて隠すことが可能であるけれども、別表七級一二号に該当するものであると認められる。

しかるところ、顔面醜状は、それ自体として本来身体的な機能障害をもたらすものではないけれども、これによる逸失利益については、被害者の性別、年齢、醜状痕の部位・程度、職業の有無、有職の場合はその職歴・職種等具体的事情を総合検討し醜状痕のない場合に比して将来の収入の減少が蓋然性として見込まれる場合にはこれを肯定すべきであると考える。しかして、本件の場合、原告の後遺障害は右のとおり別表七級一二号に該当するものであるけれども、前記(一)(2)(3)で認定した事情に鑑みれば、前記醜状痕のない場合に比して原告の将来の収入の減少が蓋然性として見込まれる場合に該るとは認められないところであり、本件が右場合に該るものと認定判断すべき特段の具体的事情については主張及び立証がない。

したがつて、逸失利益についての原告の主張は失当である。

(三)  後遺症慰藉料について

前記(一)(1)で認定した後遺障害の部位・程度、これが別表七級一二号に該当するものであること、前記(一)(2)(3)で認定した事情及び右のとおり逸失利益は認められないことなどその他本件に顕われた諸般の事情を総合考慮すれば、一〇〇〇万円とするのが相当である。

3  請求原因3(五)は当事者間に争いがない。したがつて、原告が被告らに対し請求しうべき金額から七八万五六三〇円を控除すべきである。

五  以上によれば、前記二2(一)のとおり、被告らは、本件示談契約に基づき、原告に対し連帯して、後遺症によるもの以外の損害賠償として七二万五四七〇円を支払うべき責任があり、また、前記三、四2(三)のとおり、被告宣之は、右の他にさらに、民法七〇九条に基づき、また、自賠法三条に基づき、原告に対し、後遺症による損害賠償として、一〇〇〇万円を支払うべき責任があるというべきところ、前記四3のとおり右金額から七八万五六三〇円を控除すると、結局、原告が被告俊夫に対し請求することのできる金額はなくなり、被告宣之に対しては一〇七二万五四七〇円から七八万五六三〇円を控除した九九三万九八四〇円を請求することができるものである(なお、被告らが原告に支払つた七八万五六三〇円のうち六万〇一六〇円は前記二1(一)のとおり治療費として支払われたものであるが、原告は本訴において右治療費を損害として主張していないので右のとおり解する他ない。)。

右によれば、原告の本訴請求のうち、被告宣之に対する請求は九九三万九八四〇円及びこれに対する本件不法行為の日の後である昭和五八年一二月一九日以降完済まで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があるからこれを認容し、その余は失当であるからこれを棄却し、被告俊夫に対する請求は失当であるからこれを棄却し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条、九二条本文、九四条を、仮執行の宣言につき同法一九六条一項を、各適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 佐堅哲生)

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