大阪地方裁判所 昭和60年(ワ)6650号 判決
一 原告オツプレヒトが本件特許権を有すること、本件発明の構成要件及び作用効果が請求の原因2記載のとおりであること、被告アルテツクがフアエル社から同社製自動シーム溶接機を購入・輸入してうち一台を被告鬼頭製作所に販売し、被告鬼頭製作所が右機械を昭和六一年二月まで自己の工場で使用していたことは、いずれも当事者間に争いがなく、右のフアエル社製自動シーム溶接機が採用する電気縫合せ抵抗溶接法が別紙(二)記載の方法(被告方法)であることは、原告らの認めて利益に援用するところである。もつとも、原告らは、右機械が採用する電気縫合せ抵抗溶接法は別紙(一)記載の方法であるとも主張するが、被告は、右主張を争つており、原告らは、右方法は基本的には別紙(二)記載の方法と同一であると主張し、後者を利益に援用するのであるから、本件発明と対比すべき被告方法としては別紙(二)記載の方法をもつてすれば十分である。
二 原告らは、別紙(二)記載の方法(被告方法)は本件発明の技術的範囲に属し、被告アルテツクが右方法を採用するフアエル社製自動シール溶接機を販売のため展示・実演し被告鬼頭製作所が右機械を自己の工場で使用したことは本件特許権の侵害にあたると主張する。
そこで、機械の販売のための展示・実演がその機械の採用する方法についての特許法二条三項二号にいう使用にあたるか否かの点はさておき、別紙(二)記載の方法(被告方法)が本件発明の技術的範囲に属するか否かを検討する。
1 前記争いのない事実及び成立に争いのない甲第二号証によれば、本件発明の構成要件は、次の(一)のとおりであり、作用効果は、要するに次の(二)のとおりであると認められる。
(一) 構成要件
(1) 自動溶接機において一つの単線電極と二つの電極支持ローラとを使用して電気縫合せ抵抗溶接する方法であること
(2) 前記二つの電極支持ローラ間の連続溶接電極線として、溶接領域において前記電極支持ローラの圧力により電極線の変形が生じないように、圧延、引抜、成形または硬化等の加工により引張り荷重に対する弾性限度を増加させた電極線を用いるようにしたことを特徴とするものであること(二) 作用効果
自動溶接機において単線電極が電極支持ローラ間でループを形成することを回避し、連続溶接を可能とする。
2 他方、前記別紙(二)の記載及び成立に争いのない乙第一号証によれば、被告方法の構成要件は、次の(一)のとおりであり、作用効果は、次の(二)のとおりであると認められる。
(一) 構成要件
(1)´ 自動溶接機において一つの単線電極と二つの電極支持ローラとを使用して電気縫合せ抵抗溶接する方法であること
(2)´ 前記二つの電極支持ローラ間の連続溶接電極線として、溶接領域における所定の溶接条件のもとにおいて、第一の電極支持ローラを通過する際に最大六パーセント、第二の電極支持ローラを通過する際に最大六パーセント、合計最大一二パーセントの永久的伸長の発生を許容する引張り強さを有する電極線を用いるようにしたことを特徴とするものであること
(二) 作用効果
自動溶接機において単線電極が電極支持ローラ間でループを形成することを予め回避し、連続溶接を可能とするのを電極線を硬質化することにはよらず、弾性限度を越える永久的伸長を生じない硬質電極線を使用する必要がないため、硬質電極線を使用することによつて生ずる(1)電極線が溶接圧力のもとで被溶接体によく合致しない、(2)電極線を電極支持ローラ及び案内転向ローラ上を適切に通過させるのに比較的大きな力従つてまた頑丈な電極支持ローラ及び案内転向ローラを要する、(3)電極線が脆く溶接装置の故障を誘発する危険が大きい、といつた欠点を免れる。
3 本件発明の構成要件(1)(2)と被告方法の構成要件(1)´(2)´とを対比すれば、(1)と(1)´とは同一であるが、(2)と(2)´とは全く相違する。すなわち、本件発明が連続溶接電極線として弾性限度を増加させそれを越える永久的伸長は許容しない電極線を用いる方法であるのに対し、被告方法は連続溶接電極線として最大一二パーセントまで弾性限度を越える永久的伸長を許容する電極線を用いる方法である点で根本的に相違する。従つてまた、本件発明の作用効果と被告方法の作用効果との間には、前記のような差異がみられる。本件発明と被告方法とは全く別の技術的思想に基づくものとみざるを得ない。
4 原告らは、高温を加えることにより電極線に若干の伸長が生ずるのは電極線の銅線としての物性上当然の事柄であり、若干の伸長は電極線と被溶接体との間のスリツプにより吸収されるのであるから、本件発明も電極線の永久的伸長を全く許容しないものではない旨主張する。
しかし、前記本件発明の構成要件及び作用効果、前記甲第二号証(本件発明の特許公報)の発明の詳細な説明中の「引伸されたかあるいは圧延された線は、弾性範囲内で変形されるので、その当初の形状に復帰する、すなわちループを形成しない。」(三欄二七行ないし三〇行)との記載、成立に争いのない甲第一一号証によつて認められる原告オツプレヒトが被告主張の審決取消訴訟において本件発明と右審決で引用されたスイス国特許第三七〇一七五号との差異として本件発明は「電極線として伸張しても当初の形状に復帰するような弾性限度を有する程度に圧延する」という技術的思想である旨述べている事実などからすれば、本件発明が電極線として弾性限度を越える永久的伸長を許容しない線を用いる方法であることは明らかである。原告らの前掲主張は理由がない。
5 また公証人作成部分の成立に争いがなく特に反証もないため全部真正に成立したものと認められる甲第一〇号証の一には、被告鬼頭製作所が使用していたのと同一機種のフアエル社製自動シーム溶接機で使用されている電極線は引張強度が三四・〇四六kg/mm2ないし三六・三kg/mm2である旨の記載があり、同じく公証人作成部分の成立に争いがなく特に反証もないため全部真正に成立したものと認められる甲第一二号証には、前同フアエル社製自動シーム溶接機で使用されている電極線は溶接領域の通過により一・五パーセントの伸長を生ずるが、右の程度の伸長は通常のスリツプで吸収されうる旨の記載がある。
右各記載のとおりだとすると、被告鬼頭製作所が使用していたのと同一機種のフアエル社自動シーム溶接機で使用されている電極線は比較的硬質のものであるとはいえるけれども、それでも溶接領域の通過により一・五パーセントの伸長は生ずるものであるところ、一般に弾性限度における永久ひずみの値として考えられている数値はこれよりはるかに小さな値であるから、右電極線が弾性限度を越える永久的伸長を生ずる線であることは明らかである。したがつて、前記甲号証の記載はなんら原告らの主張を支持するものではない。
6 他に以上の判断を覆し原告らの主張を支持する証拠はない。7 以上のとおりであるとするならば、別紙(二)記載の方法(被告方法)は本件発明の技術的範囲には属しない。
三 そうすると、被告らが本件発明の方法を実施しているとはいえないから、右実施をしていることを前提とする原告らの本訴請求は、そのほかの点について判断するまでもなく、いずれも理由がない。
よつて、原告らの請求をいずれも棄却することとする。
〔編註〕 本件における特許権は左のとおりである。
1 原告パウル・オツプレヒトは、次の特許権(以下「本件特許権」といい、その特許発明を「本件発明」という。)を有する。
発明の名称 電気縫合せ抵抗溶接法
出願日 昭和四七年三月二四日(特願昭四七―二九六四四)
優先権主張 スイス国一九七一年三月二六日
公告日 昭和五五年一月一八日(特公昭五五―二一五八)
登録日 昭和五九年六月二七日
特許番号 第一二一三七五五号
特許請求の範囲別添特許公報該当欄記載のとおり
2 本件発明の構成要件及び作用効果は、次のとおりである。
(一) 構成要件
(1) 自動溶接機において一つの単線電極と二つの電極支持ローラとを使用して電気縫合せ抵抗溶接する方法であること
(2) 前記二つの電極支持ローラ間の連続溶接電極線として、溶接領域において前記電極支持ローラの圧力により電極線の変形が生じないように、圧延、引抜、成形または硬化等の加工により引張り荷重に対する弾性限度を増加させた電極線を用いるようにしたことを特徴とするものであること
(二) 作用効果
(1) 二つの電極支持ローラを介して移動させられる一本の単線電極を使用して行われる電気縫合せ抵抗溶接方法は、右記上下一対の電極支持ローラ間に溶接すべき金属材料の端部を重ね合わせた状態にして導入し、これらの電極支持ローラに掛け渡されて走行移動する二本の電極線によつて該重合部分を溶接するものであるが、溶接工程中に該単線電極が溶接点で高温にさらされるため単線電極が伸長し、この結果両方の電極支持ローラの間にループ(たるみ)が発生することになる。このようなループが蓄積すると連続溶接が行ない得ないこととなる。このため溶接休止期間中にループを伸ばす方法が講じられて来たが、自動溶接機においては右方法を使用することは不可能であつた。
(2) 本件発明の方法は、電極支持ローラ間の連続溶接電極線として前記(一)(2)記載のような加工を施した電極線を用いることにより、ループの形成を回避し、自動且つ連続の溶接を可能とするものである。