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大阪地方裁判所 昭和60年(ワ)8291号 判決 1987年7月16日

原告

木村義明こと

安義明

右訴訟代理人弁護士

鳩谷邦丸

被告

株式会社三和銀行

右代表者代表取締役

川勝堅二

右訴訟代理人弁護士

三宅一夫

長谷川宅司

主文

一  原告の請求を棄却する。

二  訴訟費用は原告の負担とする。

事実<省略>

理由

一<省略>

二<省略>

三原告は、野崎建設がいわゆる「指名決済」として本件手形を優先して決済する旨指示したにもかかわらず、被告支店がこれを無視して別口の手形を決済したのは違法であると主張するので、この点について判断する。

<証拠>によれば、被告銀行の当座勘定規定第一〇条に「同日に数通の手形、小切手等の支払いをする場合にその総額が当座勘定の支払資金を超えるときは、そのいずれを支払うかは当行の任意とする」との規定のあることが認められるが、一般に銀行が当座勘定規定にこのような規定を設けている趣旨は、支払資金が、呈示された全部の手形・小切手を支払うのに不足する場合の支払の選択については、取引先の意向を尊重するのが支払委託の本旨にかなうものというべきではあるけれども、一方で大量の支払事務を短時間で処理することが要請される銀行に対し、かような場合にいちいち取引先の意向を確認させることは困難を強いることとなつて相当ではないから(通常このような事態に直面した取引先は経営が破綻し大混乱に陥つているから指示を得られないことも予想される)、かかる場合には取引先の指示をいちいち仰ぐことなく銀行が任意に合理的に支払の選択をしうることとして、取引の円滑を図つたものと解するのが相当である。したがつて、取引先からいわゆる「指名決済」として優先決済する手形の指示があつたとしても、銀行がそれを承諾した場合は格別として、そうでない限り銀行としては右指示に拘束されることなく諸般の事情を考慮して合理的な選択を任意に行うことができるといわねばならない。右の趣旨に照らせば、とりわけ大量の支払事務を短時間で処理する必要が顕著な手形交換所において同時に呈示される交換手形については、そのうちのどれを支払選択したとしても合理的選択の範囲を逸脱したものとまではいえない筋合いとなる。そうすると、交換手形に限つてみると、選択の結果、いわゆる指名決済の指示のあつた手形が支払拒絶され、別口の手形が決済される結果が生じたとしても、合理的な選択の範囲内にあるというほかはなく、これを目して違法なものということはできない。

本件についてこれをみるに<証拠>を総合すると、昭和五八年六月二〇日、被告支店において北川広一が同支店市橋次長に対し本件手形を指名決済するよう申し入れた(ただし右申し入れが有効と判断するものではない)けれども、同次長は「どの手形を決済するかは銀行の方で決めさせて頂く」旨返答して、その承諾をしなかつたことが認められ、また、<証拠>を総合すると、野崎建設が昭和五八年六月二〇日満期で同時に交換呈示を受けていた約束手形は別紙手形目録記載の一二通額面合計金一六一五万三〇〇〇円であり、野崎建設の当座預金残高は金四〇〇万四二六〇円であつたため、被告支店としては、同時に呈示された交換手形について、銀行の通常の事務手順に従つて、同目録一ないし三記載の手形を選択して決済し、本件手形を含むその余の手形の支払を拒絶したことが認められる。以上の各事実を総合すると被告支店のなした右支払選択は合理的な選択の範囲を逸脱したものではないということができる。

したがつて、仮に野崎建設が被告支店に対しいわゆる指名決済として本件手形を優先的に決済する旨指示していた事実が認められるとしても、以上認定の事実関係のもとでは被告支店が別口を選択して決済したことは違法ではない。

四以上の次第であるから、その余の判断をするまでもなく、本訴請求は理由がないからこれを棄却し、訴訟費用の負担につき民訴法八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官渡邊雅文)

別紙約束手形目録<省略>

別紙手形目録<省略>

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