大阪地方裁判所 昭和61年(わ)1000号 判決 1988年4月21日
本籍
大阪府堺市堀上緑町一丁三番地の五
住居
同右
会社役員
村上淳
昭和三年四月一八日生
本籍
兵庫県養父郡養父町養父市場四四五番地
住居
大阪市阿倍野区王子町四丁目一番九-五〇九号
防犯器具輸入販売業
平山成信
昭和一六年一月十一日生
本籍
大阪府堺市西湊町四丁六八番地
住居
同市宮園町三番一-五〇六号
会社員
西田明敏
昭和一四年一〇月一〇日生
本籍
大阪府堺市中三国ケ丘町六丁一七三番地
住居
同市中三国ケ丘町六丁五番二二号
会社員
秦勝義
昭和一九年一〇月二七日生
右の者らに対する相続税法違反被告事件について、当裁判所は検察官柳瀬治夫出席の上審理して、次のとおり判決する。
主文
被告人村上淳を懲役一年及び罰金五〇〇〇万円に、
被告人平山成信を懲役一〇月及び罰金四〇〇万円に、
被告人西田明敏を懲役八月及び罰金六〇万円に、
被告人秦勝義を懲役一〇月及び罰金六〇〇万円に
それぞれ処する。
被告人村上において右罰金を完納することができないときは、金八万円に一日に換算した期間同被告人を労役場に留置する。
被告人平山成信、同西田明敏、同秦勝義において右各罰金を完納することができないときは、金二万五〇〇〇円を一日に換算した期間当該被告人を労役場に留置する。
被告人らに対しこの裁判確定の日からいずれも三年間、その懲役刑の執行を猶予する。
理由
(罪となるべき事実)
被告人村上淳は村上勇の長男で、同人が昭和五八年七月二八日に死亡したことにより、その財産を共同相続した者、同平山成信は被告人村上淳の妻の妹婿であり、同西田明敏は部落解放同志会大阪府連合会本部会計責任者をしていた者、同秦勝義は右本部の理事長をしていた環秀雄の知人で、被告人平山成信とも交際があった者であるが、被告人らは右環秀雄と共謀の上、被告人村上淳が自己の相続財産にかかる相続税については納税義務者として、また、自己の実姉森下房江、実妹小牧和江、同西昌江及び自己の長男で右村上勇と養子縁組をした村上茂の各相続財産にかかる相続税については各納税義務者の代理人として相続税の申告をするに当たり、相続税を免れもしくは免れさせようと企て、被告人村上淳の実際の相続財産の課税価格が三億三六四七万二九八四円で、これに対する相続税額は一億二七四二万一三〇〇円であり、右森下房江の実際の相続財産の課税価格が七一七一万二六六〇円で、これに対する相続税額は二六九九万九三〇〇円であり、右小牧和江の実際の相続財産の課税価格が六八九五万二六六〇円で、これに対する相続税額は二五九一万二〇〇円であり、右西昌江の実際の相続財産の課税価格が六九〇六万九六五五円で、これに対する相続税額が二五九一万二〇〇円であり、右村上茂の実際の相続財産の課税価格が二八四九万六三六九円で、これに対する相続税額が一〇三二万三九〇〇円であるにもかかわらず、被相続人の村上勇が前記環秀雄に対し三億五〇〇〇万円の債務を負担しており、そのうち、被告人村上淳において一億七四三〇万円を、右森下房江において五二八五万円を、右小牧和江において五〇七五万円を、右西昌江において五一一〇万円を、右村上茂において二一〇〇万円をそれぞれ承継したように仮装するなどした上、同五八年九月二六日、大阪府堺市南瓦町二番二〇号所在の堺税務署において、同税務署長に対し、被告人村上淳の相続財産の課税価格が六二〇七万九七七〇円で、これに対する相続税額は八七九万八一〇〇円であり、右森下房江の相続財産の課税価格が一八八六万二六六〇円で、これに対する相続税額は二六六万二三〇〇円であり、右小牧和江の相続財産の課税価格が一八二〇万二六六〇円で、これに対する相続税額は二五七万四一〇〇円であり、右西昌江の相続財産の課税価格が一七九六万九六五五円で、これに対する相続税額は二五三万八九〇〇円であり、右村上茂の相続財産の課税価格が七四九万六三六九円で、これに対する相続税額は一〇五万七八〇〇円である旨の内容虚偽の相続税の申告書を提出し、もって、不正の行為により被告人村上淳の右相続にかかる正規の相続税額一億二七四二万一三〇〇円との差額一億一八六二万三二〇〇円を免れ、かつ右森下房江をして右相続にかかる正規の相続税額二六九九万九三〇〇円との差額二四三三万七〇〇〇円を、右小牧和江をして右相続にかかる正規の相続税額二五九一万〇二〇〇円との差額二三三三万六一〇〇円を、右西昌江をして右相続にかかる正規の相続税額二五九一万〇二〇〇円との差額二三三七万一三〇〇円を、右村上茂をして右相続にかかる正規の相続税額一〇三二万三九〇〇円との差額九二六万六一〇〇円をそれぞれ免れさせたものである。
(証拠の標目)
被告人全員に対する関係で
一 被告人らの各公判廷の供述
一 被告人らの検察官に対する各供述調書(検甲二九ないし三四、三七ないし四二、四六ないし四九、五二ないし六〇号。但し被告人西田、同秦の関係では三一号の一七項一六ないし二一行、三八号の三項全部、一〇丁裏一二行ないし一一丁裏三行、一二丁裏六行ないし一三丁表六行、四〇号の五項を除く。)
被告人村上に対する関係で
一 被告人村上淳の検察官に対する供述調書(同二八号)
被告人西田、同秦に対する関係で
一 証人環秀雄、同久次米昭の各公判廷の供述
被告人全員に対する関係で
一 環秀雄の検察官に対する各供述調書謄本(同一七ないし二五号。但し被告人西田、同秦の関係では一七号の一三項、一八号の七項の終わりから二一行目ないし七項の終わりまで、一九号の二項の終わりから八行目ないし四項の一四行、二〇号の三丁裏七、八行、七丁裏七行ないし一二行、一六丁裏一二行ないし一七丁表四行、一七丁裏四ないし一一行、二一号の三丁表六行ないし四丁裏八行、六丁裏二行ないし七丁表五行、五項全部、二二号の九丁表一一行ないし一〇丁裏終わりまで、二〇丁表一一行ないし二一丁裏八行、二三号の二項全部、二五号の三項初めから三丁表八行まで、六項全部、七項全部を除く。)
一 久次米昭の検察官に対する各供述調書(同二六号。被告人西田、同秦の関係では五丁表一〇ないし一二行、二二丁裏八行ないし二三丁表四行を除く。)
一 大蔵事務官作成の各証明書(同一、二号)
一 同作成の脱税額計算書(同三号)
一 同作成の各査察官調査書(同四ないし一三号)
一 国税査察官作成の各写真撮影報告書(同一四ないし一六号)
(事実認定の補足説明)
被告人西田、同秦の弁護人は、被告人西田においては、被告人村上が相続財産中申告漏れにした約二億円分については知らなかったから、この分について責任はなく、そのほか、相続財産の総額、脱税額、被相続人が三億五〇〇〇万円の債務を負担しているように仮装したことなどは知らず、金銭借用証書を作成したり、申告書を提出した時も、脱税に使うとの認識はあったものの、被告人村上方の件であるとの認識はなかったのであって、自己が作成した金銭借用証書の元本二億五〇〇〇万円の限度で虚偽債務を作ったという同被告人の認識の限度でしか責任はない。また、被告人秦においても、相続財産の総額、脱税額について明確な認識はなく、被告人村上が前記のように申告漏れにした約二億円分についての責任もない。本件のように相続財産に二億円の差を生じ、約一・五倍になるような場合に包括故意説をとることは許されない旨を主張する。
関係証拠によると、被告人西田、同秦とも、同村上が申告漏れにした有価証券、債権等の相続財産があることは知らなかったことが認められるものの、被告人西田は、環に依頼されて脱税に使用する二億五〇〇〇万円の金銭借用証書を作成したのち、これに基づいて三億五〇〇〇万円の債権債務確認書が作られた際に、環の事務員の水口から、右確認書が村上名義のものであることを聞き、その後に自分が相続税申告書を堺税務署に提出したときにも、その第一面を見る機会があり、右申告書を環から預かった時には、これは先ごろ借用書を作った件である旨を聞いたもので、これらの事情から、自分が被告人村上方の相続税脱税に関与していることを知っていたものと認めるのが相当であるが、その作成した証書の金額の大きさなどから、本件脱税の金額の規模が大きいことは察知したと推認できるにとどまり、脱税する金額について特に限定して考えるなどしたことは認めがたく、脱税金額については、むしろ具体的な認識を持っていなかったことが認められる。
次に、同証拠によると、被告人秦においては、被告人平山とともに、環と被告人村上の脱税手段等の協議にもよく同席し、環や久次米昭が申告の資料や脱税手段としての架空債務の作出などについて説明するのを聞き、虚偽申告によって税額を一七〇〇万円程度に抑えること、そのため架空の保証債務三億五〇〇〇万円を計上することなどを知っており、本件脱税の規模は認識していたものの、被告人村上が前記のとおり相続財産の一部を申告漏れとし、その存在を環にも告げなかったことや、被告人秦としては脱税額を知る必要もなかったことから、同被告人においても、脱税する金額については具体的な認識がなかったことが認められる。
そして、脱税の不正行為に加担した者が、その結果免れることとなる税額の規模を認識したにとどまり、その具体的な金額を意に介さず、これを認識していなかったとしても、不正行為の結果免れた税額の全部につき刑事責任を負うことは明らかであり、被告人西田、同秦の両名においても、本件の脱税額の全部についてその責任を負うものである。
(被告人秦の確定裁判)
被告人秦は、昭和五七年四月一四日大阪地方裁判所において恐喝未遂罪により懲役一年、三年間執行猶予の刑に処せられ、右裁判は同五八年一二月一七日確定したもので、右事実は検察事務官作成の前科調書によってこれを認める。
(法令の適用)
被告人らの判示所為中、被告人村上を納税義務者とする相続税の脱税の点は相続税法六八条、刑法六〇条(被告人平山、同西田、同秦につきなお同法六五条一項)に、被告人村上を納税義務者の代理人とする各相続税の脱税の点はいずれも相続税法六八条、七一条一項、刑法六〇条(被告人平山、同西田、同秦につきなお同法六五条一項)に該当するが、被告人秦につき判示の罪と前記確定裁判のあった罪とは刑法四五条後段の併合罪であるから、同法五〇条により、まだ裁判を経ない判示の罪について処断することとし、以上は各被告人につきそれぞれ一個の行為で数個の罪名に触れる場合であるから、刑法五四条前段、一〇条により、犯情の最も重い被告人村上を納税義務者とする相続税の脱税の罪の刑で処断することとし、所定刑中懲役刑及び罰金刑を併科し、所定刑期及び罰金額の範囲内で被告人らをそれぞれ主文掲記のとおり懲役刑及び罰金刑に処し、刑法一八条により罰金の換刑処分をし、犯情を考慮して同法二五条一項により、各被告人に対し主文掲記のとおりいずれもその懲役刑の執行を猶予することとする。
(量刑の事情について)
本件は、その犯行の動機に特に酌量すべきものはなく、計画的に架空文書を作るなどした上、同和関係団体の名を用いて適正な税務行政に影響を与えようとした点で犯行態様も悪質であり、免れた税額は合計二億円に近く、税を免れた割合を見ても約九二パーセントに達するもので、その結果も相当重大であるから、被告人らの刑事責任は軽視できない。
しかし、被告人村上は、本件の発覚後に各相続税の修正申告をし、延滞税・加算税等を含む正当税額が完納されていること、各被告人がそれぞれ反省していること、前歴の有無、状況などを考慮し、各被告人に対し、応分の罰金刑を科することはやむを得ないが、懲役刑についてはその執行を猶予し、それぞれ社会において自ら改善の実をあげさせるのが適当であると考える(なお、被告人村上は、本件脱税の報酬として、環に七三〇〇万円を現金で交付したのであるが、関係証拠によると、右七三〇〇万円中、八〇〇万円が被告人平山に、一〇〇万円が同西田に、一〇〇〇万円が同秦に渡されたものと認めるのが相当であり、その余の金額が分配されたかどうかを明確にする証拠は十分でない。また、被告人西田は、公判廷で、受領金額は七〇万円であると記憶する旨を述べるのであるが、同被告人の捜査官に対する供述の内容その他の証拠上、当時同被告人が述べていたように、上記一〇〇万円を受領したものと認めるほかはない。更に、同証拠によると、環は、本件脱税への加担を理由の一つとして、被告人西田に対しその環に対する二五〇万円の保証債務を免除し、同秦に対しては環に対する従来の一二〇〇万円の債務を免除したものと認めるのが相当である。)
よって、主文のとおり判決する。
(裁判官 加藤光康)