大阪地方裁判所 昭和61年(ヨ)617号 1986年12月05日
申請人
松本信義
同
古高末光
同
福元甲一
同
伊藤克彦
申請人ら訴訟代理人弁護士
大澤龍司
同
村田喬
被申請人
代々木運送株式会社
右代表者代表取締役
山本忠雄
右訴訟代理人弁護士
津谷信治
主文
一 申請人らが被申請人に対し雇用契約上の権利を有する地位にあることを仮に定める。
二 被申請人は申請人らに対し、昭和六一年二月以降本案事件の第一審判決言渡しに至るまで、毎月末日限り、別紙賃金一覧表の各申請人の賃金欄記載の金員をそれぞれ仮に支払え。
三 申請人らのその余の申請を却下する。
四 申請費用は被申請人の負担とする。
事実
第一当事者の求めた裁判
一 申請の趣旨
1 申請人らが被申請人の従業員たる地位にあることを仮に定める。
2 被申請人は申請人らに対し、昭和六一年二月以降本案判決確定に至るまで、毎月末日限り、別紙賃金一覧表の各申請人の賃金欄記載の金員をそれぞれ仮に支払え。
3 申請費用は被申請人の負担とする。
二 申請の趣旨に対する答弁
1 申請人らの申請を却下する。
2 申請費用は申請人らの負担とする。
第二当事者の主張
一 申請人の主張
1 当事者
(一) 被申請人は、貨物自動車による運送を業とする会社であり、千葉県浦安市に本社、東京都町田市に東京支店を、大阪府摂津市に大阪支店(以下、大阪支店という)、滋賀県甲賀郡甲賀町に、大阪支店滋賀営業所(以下、滋賀営業所という)をそれぞれ置いている。
(二) 申請人らは、いずれも被申請人大阪支店に運転手として勤務する従業員であって、いずれも毎月末日に別紙賃金表記載の賃金の支払いを受けていた。
2 解雇の意思表示
昭和六一年一月三〇日頃、被申請人は、申請人らに対し「一月末日で大阪支店を閉鎖する。一月分給料、解雇予告手当と退職金を支払う」と記載された通告確認書なる文書を郵送し、その頃申請人らを解雇した(以下、本件解雇という)。なお大阪支店の営業は同月二四日で停止されており、同月二五日までの給料は支払われたが、解雇予告手当及び退職金は現在に至るも支払われていない。
3 本件解雇の無効
(一) 不当労働行為による無効
申請人らは昭和六一年九月七日、当時大阪支店に勤務していた運転手四名と共に全日本港湾労働組合関西地方大阪支部(以下、全港湾大阪支部という)に加入し、同支部代々木運送分会(以下、分会という)を結成し(その後滋賀営業所の二名の運転手も全港湾大阪支部に加入するとともに分会の一員に加わった。)、同年一一月二六日組合結成の事実を大阪支店の営業所長である小野寺順一(以下、小野寺という)に通告し、組合活動の自由を認めること、不当労働行為を行わないこと、団体交渉に応ずること、などを申し入れた。
しかしながら、被申請人は、組合からの団交申入れを無視し、実質的な話合いを殆どしないまま、突然、大阪支店は採算がとれないと言い出し資料も提供せず、組合に合理化の提案をすることもなく、一方的に大阪支店の営業を廃止し、大阪支店及び滋賀営業所の従業員全員の解雇に及んだ。
即ち、本件においては、組合結成から二か月足らずの間に大阪支店及び滋賀営業所の従業員全員が解雇されたのであり、その経過からしても、申請人らが組合に加入したことを嫌悪した被申請人が、被申請人から組合自体を排除する目的で大阪支店を閉鎖したことは明らかであって、本件解雇は不当労働行為により無効である。
(二) 解雇理由の不存在
被申請人は、大阪支店は営業不振のため閉鎖のやむなきに至ったもので、本件解雇は整理解雇として行ったものであるとするが、本件解雇は整理解雇の要件を全て欠いており、その無効であることは明らかである。
すなわち、いわゆる整理解雇においては以下の四要件を満たすことが必要である。
(1) 整理解雇の必要性が客観的に存在すること。
(2) 整理解雇以外のより労働者に苦痛の少い方策によって余剰労働力を吸収する努力がされたこと。
(3) 被解雇者の選択及び運用基準が客観的合理性を有すること。
(4) 解雇に至る過程において、従業員またはその組織する労働組合と十分協議を尽くしたこと。
被申請人は右要件のうち、第二、第四についてはその主張さえしていない。
第一要件の解雇の客観的必要性については、被申請人全体としては、過去五年間黒字を計上していたのであって、果たして大阪支店閉鎖の必要性があったのか否か、疑問であり、大阪支店の収支状況についても、期別損益計算書、得意先別売上実績表が提出されたのみであり、帳簿等会計書類の提出はなく、右書証が真実を記載したものかどうかは不明である。
4 保全の必要性
申請人らは、いずれも被申請人に勤務し、被申請人からの賃金のみによって生活を維持している労働者である。
大阪支店は一月二五日以降完全に業務を停止しており、申請人らは唯一の収入源を失ったため生活は逼迫しており、本案判決確定に至るまで生活を維持することは極めて困難であって、回復しがたい損害を蒙ることは明らかである。
二 被申請人の主張
1 大阪支店の業績はもともと不振であったところ、昭和五八年四月、大手得意先で、専属的に受注していた朝日機材株式会社が廃業したことから更に売上が落ち込み採算も取れない事態となった。
被申請人としては、業績の維持回復に努めたが、大阪支店は事実上倒産の一途をたどり、昭和六〇年九月には閉鎖を検討せざるを得ない状況となり、同年一〇月二二日大阪支店の全従業員に対し、昭和六一年一月限り大阪支店を閉鎖する旨通告し、昭和六〇年一二月三〇日申請人らを含む大阪支店の全従業員に対し、口頭で解雇の意思表示をしたものである。
2 被申請人の運送部門では同業他社と同じく、主要取引先からの受注が激減し、減車、車種変更等、減量輸送化への改善が急務となっており人員整理を検討中であり、被申請人のもう一つの営業部門である鋼材加工部門においても、人員整理の必要がある上、この部門は運送とは全く異質の業務であるため、この部門への配置転換は不可能である。
3 東京高等裁判所は、本件と同種の事例において整理解雇の要件として、(一)一事業部門を閉鎖することが企業の合理的運営上やむを得ない必要に基づくものと認められること、(二)右事業部門の従業員を同一又は遠隔でない他の事業所の同一又は類似職種に充当する余地がないこと、又は右配置転換を行ってもなお全企業的に見て剰員の発生が避けられない場合で、かつ、解雇が使用者の恣意によってなされるものでないこと、(三)解雇対象者の選定が客観的、合理的な基準に基づくものであること、(昭和五四年一〇月二九日)を掲げているが、本件においては、(三)は無関係として(一)(二)は充足されている。
4 更に労働力不足の業界においては、被解雇者は容易に再就職ができるから、解雇による打撃は少なく、解雇権濫用の法理の適用にあたり、この事実が考慮されるべきである(東京地判昭和四三年七月一八日参照)。
申請人らと同時に解雇された大阪支店、滋賀営業所の他の従業員は解雇後直ちに同種の職場に再就職しており、この事実は、本件において保全の必要性がないことも推認させるものである。
理由
一 使用者の解雇権の行使が客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当として是認することができない場合は、権利の濫用として無効になると解するのが相当である。
本件解雇は、事業所の閉鎖に伴う、使用者側の事情によるいわゆる整理解雇であり、このような場合に社会通念上相当として是認すべき合理的な理由の存否を判断するためには、(一)人員整理をしなければならない経営上の必要性、(二)解雇を回避するための努力、(三)被解雇者選定の合理性、(四)組合との協議等の点を総合的に考慮すべきである。
二 当事者間に争いのない事実及び疏明によれば、本件解雇の経緯について、次の事実が一応認められる。
1 大阪支店の運転手のうち申請人らを含む八名が、昭和六〇年九月全港湾大阪支部に加入し、分会を結成した。同年一〇月には、滋賀営業所の二名の運転手も分会に加わり、同年一一月二六日、大阪支店の小野寺に対し、組合結成の事実を通告し、団体交渉に応ずるよう要求した。
2 小野寺は、自分には権限がないとの理由で団体交渉に応ずることを拒み、同月三〇日本社から来阪した被申請人取締役営業部長の原田義忠(以下、原田部長という)も、被申請人の代表として来たが、組合結成の事実を認める権限はない、との態度に終始した。
3 大阪支店での交渉が進展しないため、同月九日分会長の申請人古高は、全港湾大阪支部役員二名と共に上京し、被申請人本社で被申請人代表者山本忠雄等役員と折衝し、被甲請人と全港湾大阪支部との間に、被申請人は今後不当労働行為は行わない、被申請人は労使問題については事前協議を行い、合意が整わない場合は実施しない、同月一二日に、同年の冬季一時金、組合確認等についての交渉を行うとの合意が成立した。
このとき、大阪支店が赤字であるという話も出たが、閉鎖についての具体的な話はなかった。
4 その後の交渉において、冬季一時金の支給額につき、昨年並を主張する被申請人と、上積みを主張する申請人らとの間に合意は成立しなかったものの(この間も、大阪支店の閉鎖についての具体的な話はなかった。)、同月三〇日、申請人らは被申請人から支払いのあった一律金四万七〇〇〇円を、冬季一時金の仮払いとして受領した。
5 同日、原田部長から申請人らに対し、被申請人としては、大阪支店は不採算部門であるので、一月末に閉鎖の意向であるとの話があったものの、依然として具体性に欠けるものであった。
6 翌昭和六一年一月一〇日、被申請人は、全港湾大阪支部に対し、大阪支店の閉鎖を考えていることを明らかにした。全港湾大阪支部は、閉鎖には反対し、赤字であれば組合としても協力する用意があると述べ被申請人に対し、判断のための資料を要求した。
7 同月二三日、原田部長が全港湾大阪支部の役員に対し、大阪支店を閉鎖するとの記載のある通告確認書を手交しようとしたが、抗議を受け、右書面を持ち帰った。
8 被申請人は同月三〇日頃、申請人らを含む大阪支店及び滋賀営業所の全従業員に対し、申請人の主張2記載の通告確認書を郵送し、右通告確認書はそのころ申請人らに到達し、申請人らは解雇された。
三 右二に認定した本件解雇に至る経緯を、一で述べた判断基準に照らして考えるに、被申請人が、昭和六〇年末にわずかながらも冬季一時金を支払っていることからすると、整理解雇の必要性そのものについても疑問があるというべきであるが、本件解雇は、回避努力を欠き、組合との協議も尽くしていない点で、社会通念上相当として是認すべき客観的に合理的な理由を欠き、権利の濫用として無効であり、申請人らは、被申請人に対し、雇用契約上の権利を有するものである。
四 疏明によれば、申請人らは被申請人から毎月末に別紙賃金表記載の賃金の支払いを受け、これにより申請人ら及びその家族の生活を支えてきたものであることが一応認められるので、その仮払いの必要性(ただし、本案の第一審判決言渡まで)を認めることができる。
五 よって本件仮処分申請は、主文第一項及び第二項の限度で理由があるから事案の性質上保証を立てさせないでこれを認容し、その余の申請は理由がないから却下し、申請費用の負担について民訴法八九条、九二条を適用して、主文のとおり決定する。
(裁判官 丸地明子)
賃金一覧表
<省略>