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大阪地方裁判所 昭和61年(ワ)11046号 判決 1987年8月27日

原告

津川榮一郎

ほか一名

被告

株式会社村田運輸

ほか一名

主文

原告らの請求をいずれも棄却する。

訴訟費用は原告らの負担とする。

事実

第一当事者の求める裁判

一  請求の趣旨

1  被告らは各自、原告らそれぞれに対し金一〇〇〇万円及びこれに対する昭和六一年一二月一〇日から支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。

2  訴訟費用は被告らの負担とする。

3  仮執行の宣言

二  請求の趣旨に対する答弁

1  原告らの請求をいずれも棄却する。

2  訴訟費用は原告らの負担とする。

第二当事者の主張

一  請求の原因

1  事故の発生

訴外津川府子(以下「亡府子」という。)は、昭和五九年一〇月二一日午前零時二〇分ころ、訴外石原幸二(以下「訴外石原」という。)運転の普通貨物自動車(大阪四五つ三一―三二号、以下「石原車」という。)に同乗して大阪市北区扇町一丁目一番先の直線道路を西から東に向かつて進行中、右道路左側に停止していた被告児玉日出海(以下「被告児玉」という。)運転の大型貨物自動車(水戸一一あ二八―六五号、以下「児玉車」という。)の右後部に石原車の左前部が衝突した(以下「本件事故」という。)右事故により、亡府子は、頸椎骨折、脊髄損傷等の障害を負い、そのころ同所において右傷害により死亡するに至つた。

2  責任

被告児玉が児玉車を停止させていた前記場所は、比較的暗い公園の傍らであり、駐車禁止の道路規制がなされていたのであるから、同被告は、右場所に児玉車を駐車させてはならない注意義務を負つていたことはいうまでもないところである。しかるに、被告児玉は、前記場所に児玉車を停止させて車内で休養をとつていたものであるから、右場所に児玉車を駐車させておいたものというべきであり、仮に同被告は、右場所に児玉車を停止させて道路を調べるため運転席で地図を見ていたものであり、右停止後二、三分して本件事故が発生したのであるとしても、道路の確認が終わるまで継続して右場所に児玉車を停止させる意思を有していたものであるから、右の停止はまさに駐車に当たるものというべきである。そして、本件事故は、被告児玉が右場所に児玉車を駐車させておいたことにより発生したものであるから、同被告は、民法七〇九条に基づき、本件事故により生じた後記損害を賠償する責任がある。

また、被告会社は、児玉車を所有し、これを運行の用に供していたものであるから、自賠法三条に基づき、児玉車の運行によつて生じた後記損害を賠償する責任がある。

3  損害

(一) 逸失利益

亡府子は、昭和四一年一一月一四生れの死亡当時一七歳の健康な女子で、高校二年に在学中であつた。したがつて、同人は、本件事故に遭わなければ、一八歳から就労可能な六七歳までの四九年間にわたり、少なくとも昭和五九年度賃金センサス第一巻第一表、産業計・企業規模計・学歴計女子労働者(全年齢平均)の平均年収である金二一八万七九〇〇円の収入を得られたはずである。そこで、同人が右の期間中に失うことになる収入総額から、同人の生活費としてその四割を控除したうえ、ホフマン式計算法により年五分の割合による中間利息を控除して右逸失利益の死亡時における現価を求めると、その額は金三二〇五万一八五九円となる。

(二) 慰謝料

亡府子は、本件事故により一七歳の若さであえない最期を遂げたものであつて、その受けた精神的、肉体的苦痛は甚大であり、これらを慰謝するに足りる慰謝料の額は、金一四〇〇万円が相当である。

(三) 葬儀費用

原告津川榮一郎は、亡府子の葬儀を執り行い、その費用として金一五八万二五〇〇円を支出した。

4  相続による権利の承継

原告津川榮一郎は亡府子の父、原告津川不二子は亡府子の母であるから、亡府子の死亡に伴い、同人の被告らに対する前記3(一)及び(二)の各損害賠償請求権を各二分の一の割合で相続により承継した。

5  損害の填補

原告らは、自賠責保険等から各一一三八万〇六五〇円の支払を受けた。

6  結論

よつて、被告らに対し、原告津川榮一郎は、3(一)(二)の合計額四六〇五万一八五九円の二分の一である金二三〇二万五九二九円に3(三)の葬儀費用を加え、これから5記載の既払額を控除した金一三二二万七七七九円の損害賠償請求権を有し、原告津川不二子は、3(一)(二)の合計額の二分の一である金二三〇二万五九二九円から5記載の既払額を控除した金一一六四万五二七九円の損害賠償請求権を有するところ、そのうち各金一〇〇〇万円の損害賠償金及びこれに対する被告らに対し訴状が送達された日ののちである昭和六一年一二月一〇日から支払ずみまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。

二  請求の原因に対する認否

1  請求の原因1の事実中、本件事故が発生したことは認めるが、その余の事実は知らない。

2  同2の事実は否認する。

3  同3及び4の事実は知らない。

4  同5の事実は認める。

三  抗弁

1  免責(被告会社につき)

本件事故は、訴外石原と亡府子の過失によつて生じたもので、被告児玉及び被告会社に過失はなく、被告会社は自賠法三条の責任を負わない。すなわち、亡府子は、訴外石原ほか二名とともにビール一四本を飲んだうえで酒気を帯びた訴外石原が運転する石原車の後部左側座席に乗り込み、本件事故現場の手前約二四〇メートルの地点付近から最高速度を四〇キロメートル毎時と指定された片側三車線、その幅員約一一メートルの前記道路を一杯に使つて時速約七〇キロメートルの速度で蛇行運転していた石原車の左後部窓から上半身を外部に出して窓枠の下方に腰をかけるいわゆる箱乗りをしていたところ、訴外石原は、本件事故直前、事故現場の手前約八〇メートルの右側車線から中央車線に進入したところで前方の道路左側車線上に停止していた児玉車を認めたが、そのままの速度で蛇行運転を続け、事故現場の手前約二七・二メートルの右側車線と中央車線の分離線付近を走行していた時、その約一五メートル前方の右側車線を東進していた他の車両を追い越そうとしてハンドルを急に左に切るや、自車が振られて操縦の自由を失い、そのため自車を児玉車に衝突させたものである。これに対し、被告児玉は、道に迷つたので地図を見るため付近に水銀灯があつて明かるく見通しのよい前記道路の左側左側車線上に後部の点滅灯をつけて二、三分児玉車を停止させ、運転席で地図を見ていたにすぎないのであつて、同被告には何らの過失がなく、したがつて、被告会社にも何らの過失がなく、本件事故は専ら訴外石原と亡府子の過失によつて生じたものである。

2  過失相殺

仮に被告らに何らかの過失があつたとしても、亡府子に重大な過失があつたことは前記のとおりであるから、本件事故により被つた損害の額を算定するに当たつては、被害者の前記過失を斟酌して相当額の減額がなされるべきである。

四  抗弁に対する認否

抗弁事実は否認する。

第三証拠

本件記録中の書証及び証人等目録記載のとおりであるからこれを引用する。

理由

一  本件事故の発生は当事者間に争いがないところ、成立に争いのない乙第一六、第一七号証によれば、亡府子はそのころ同所において頸椎骨折、脊髄損傷等の傷害を負い、これにより死亡するに至つたことが認められ、右の事実によれば、亡府子の死亡の結果は本件事故によるものと認められる。

二  原告らは、被告児玉は駐車禁止の規制がなされた前記場所に児玉車を駐車させて本件事故を発生させた過失があり、被告会社はその所有にかかる児玉車の運行によつて本件事故を発生させたものであるから、本件事故により生じた損害を賠償する責任がある旨主張し、被告らはこれを争うとともに、被告会社は自賠法三条但書の免責を主張するので、まずこの点につき判断する。

成立に争いのない乙第一一ないし第一五、第一九ないし第三五、第三七ないし第四一号証、前掲同第一六、第一七号証及び証人児玉日出海の証言によれば、次の事実が認められ、これを左右するに足りる証拠はない。

1  本件事故現場付近の道路は、その幅員が約一一メートルの片側三車線の道路で、最高速度は四〇キロメートル毎時と指定され、駐車禁止の道路規制がなされていた。

2  亡府子は、本件事故の直前約二時間ほどの間に、訴外石原ほか二名とともにビール一四本を飲んだうえ、酒気を帯びた訴外石原が運転する石原車の後部左側座席に乗り込み、本件事故現場の手前約二四〇メートルの地点付近から前記道路を一杯に使つて時速約七〇キロメートルの速度で蛇行運転していた石原車の左後部窓から上半身を外部に出して窓枠の下方に腰をかけるいわゆる箱乗りをしていて本件事故に遭つた。

3  訴外石原は、本件事故直前、事故現場の手前約八〇メートルの右側車線から中央車線に進入したところで前方の道路左側左側車線上に停止していた児玉車を認めたが、そのままの速度で蛇行運転を続け、事故現場の手前約二七・二メートルの右側車線と中央車線の分離線付近を走行していた時、その約一五メートル前方の右側車線を東進していた他の車両を追い越そうとしてハンドルを急に左に切つたところ、自車が振られて操縦の自由を失い、そのため自車を児玉車に衝突させた。

4  被告児玉は、道に迷つたので地図を見るため、後部の点滅灯をつけ、付近の水銀灯により明かるく見通しもよい前記道路の左側左側車線上に二、三分児玉車を停止させて運転席で地図を見ていたところ、本件事故が発生した。右の事実によれば、被告児玉は、道に迷つたので地図を見るため前記場所に二、三分児玉車を停止させて、運転席から移動することもなく地図を見ていたものであつて、道が判明し次第直ちに発車する予定のものであつたのであるから(原告らは、被告児玉は休養をとるために児玉車を停止させていたものであると主張するが、右主張は、何ら証拠に基づかない単なる臆測にすぎないものであつて、採ることができない。)、いまだ車両を継続的に停止させたもの(道路交通法二条一項一八号)ということはできず、児玉車を停止させていたにすぎないもの(同条項一九号)というべきところ、被告児玉は、付近の水銀灯により明かるく見通しもよい前記道路の左側左側車線上に自車を寄せ、中央車線及び右側車線を他の車両が通行できる状態で後部の点滅灯をつけて自車を停止させていたものである。これに対し、訴外石原は、酒気を帯び、制限速度を三〇キロメートル毎時も超える高速で自車を蛇行運転させ、相当前方で児玉車を認めながらも右のような運転を続け、前車を追い越そうとしてハンドル操作を誤つて本件事故を発生させたものであり、亡府子は、右のような事情を熟知したうえで、訴外石原の暴走行為に関与し、自らもまたいわゆる箱乗りをしていて本件事故に遭つたものである。そうすると、本件事故は、専ら右のような訴外石原と亡府子の無謀な行為によつて生じたものというほかなく、被告児玉には、前記の措置以上に、右のような異常な車両の運行をすることがある事態まで予見してこれを避けるため児玉車の停止をしないように注意する義務はなかつたものというべきである。したがつて、被告児玉には、本件事故の発生につき過失はなかつたというべきであり、被告会社にも、何らの過失がなかつたものといわざるを得ないものである。

三  以上の次第であるから、原告らの被告らに対する本訴各請求は、その余の点につき判断を加えるまでもなくいずれも失当であるからこれを棄却し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条、九三条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 山下滿)

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