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大阪地方裁判所 昭和61年(ワ)1596号 判決 1987年4月28日

第一五九六号事件原告

山田常美

ほか一名

第一〇八一八号事件原告

武島貴代美

主文

一  原告らの請求をいずれも棄却する。

二  訴訟費用は原告らの負担とする。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1  被告は、原告山田常美に対し、金七三〇万九五〇〇円及び内金六六四万五〇〇〇円に対する昭和六〇年二月五日から支払ずみまで年五分の割合による金員を、原告山田貴人及び同武島貴代美に対し、各金三六五万四七五〇円及び内金三三二万二五〇〇円に対する前同日から支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。

2  訴訟費用は被告の負担とする。

3  仮執行宣言

二  請求の趣旨に対する答弁

主文と同旨

第二当事者の主張

一  請求原因

1  事故の発生(以下「本件事故」という。)

(一) 日時 昭和六〇年二月五日午前六時二六分頃

(二) 場所 大阪府八尾市太田二丁目九二番地先路上

(三) 加害車 被告運転の軽四輪貨物自動車(なにわ四〇あ第一六五号)

(四) 被害車 亡山田武(以下「亡武」という。)運転の原動機付自転車

(五) 態様 加害車と被害車とが出合い頭に衝突した。

2  責任原因(運行供用者責任、自賠法三条)

被告は、加害車を所有し、自己のために運行の用に供していた。

3  損害

(一) 亡武の死亡

亡武は本件事故により即死した。

(二) 死亡による逸失利益 四五六八万円

亡武は事故当時四九歳であつたところ、事故がなければ四九歳から六七歳まで一八年間就労が可能であり、その間少くとも年間約五一八万円の昭和五九年賃金センサス四五歳から四九歳までの男子平均賃金相当額の収入を得ることができ、同人の生活費は収入の三〇%と考えられるから、同人の死亡による逸失利益を年別のホフマン式により年五分の割合による中間利息を控除して算定すると、約四五六八万円となる。

(計算式)

518万円×(1-0.3)×12.6≒4568万円

(三) 原告らの慰藉料 合計二〇〇〇万円

亡武は世帯主として一家を支えてきた者であつて、亡武の死亡により原告山田常美の経営する飲食店の営業が一時困難に陥つたのみならず、原告山田貴人は亡武死亡当時一八歳であり、原告らの被つた精神的苦痛は甚大である。

(四) 葬祭費 九〇万円

(五) 合計 六六五八万円

4  過失相殺

本件事故の発生にあたつては、亡武にも五割の過失があるから、原告らの損害額を五割減額すると三三二九万円となる。

5  損害の填補

原告らは自賠責保険金として二〇〇〇万円の支払を受けた。

6  権利の承継

原告山田常美は亡武の妻、原告山田貴人及び同武島貴代美はいずれも亡武の子であるが、他に亡武の相続人はいないから、法定相続分に従い、亡武の死亡により、原告山田常美は亡武の被告に対する損害賠償請求権の二分の一を、原告山田貴人及び同武島貴代美はそれぞれその四分の一を相続により承継取得した。

7  弁護士費用

原告山田常美につき六六万四五〇〇円、原告山田貴人及び同武島貴代美につき各三三万二二五〇円

8  本訴請求

よつて請求の趣旨記載のとおりの判決(遅延損害金は本件不法行為の日である昭和六〇年二月五日から支払ずみまで民法所定の年五分の割合による。ただし弁護士費用に対する遅延損害金は請求しない。)を求める。

二  請求原因に対する認否

1  請求原因1の(一)ないし(五)は認める。

2  同2は認める。

3  同3の(一)は認めるが、(二)ないし(五)は不知。

4  同4は争う。

5  同5は認める。

6  同6は不知。

7  同7は不知。

三  抗弁

1  免責

本件事故は亡武の一方的過失によつて発生したものであり、被告には何ら過失がなかつた。かつ加害車には構造上の欠陥または機能の障害がなかつたから、被告には損害賠償責任がない。

すなわち、被告は加害車を運転して青色信号に従い直進したのに対し、亡武は被害車を運転して赤色信号を無視して交差点に進入した過失により、本件事故をひき起こしたものである。

2  過失相殺

仮に免責の主張が認められないとしても、本件事故の発生については亡武にも前記1のとおりの過失があるから、損害賠償額の算定にあたり一〇割近く過失相殺されるべきである。

四  抗弁に対する認否

抗弁1及び2はいずれも争う。

被告には、制限時速四〇キロメートルのところを時速八〇キロメートルで走行し、かつ日出前であるのに加害車の前照灯をつけなかつた過失がある。

第三証拠

記録中の書証目録及び証人等目録に記載のとおりであるから、これを引用する。

理由

一  事故の発生

請求原因1の(一)ないし(五)の事実は、当事者間に争いがない。

二  責任原因(運行供用者責任)

請求原因2の事実は、当事者間に争いがない。従つて、被告は自賠法三条により、後記免責の抗弁が認められない限り、本件事故による原告ら及び亡武の損害を賠償する責任がある。

三  損害

1  亡武の死亡

請求原因3の(一)は、当事者間に争いがない。

2  亡武の死亡による逸失利益 三九二四万八〇二八円

原告山田常美の本人尋問の結果により真正な成立が認められる甲第七ないし第九号証によれば、亡武は事故当時四九歳で、植松運輸株式会社に勤務し、一か月平均三七万〇七三〇円の収入を得ていたことが認められるところ、同人の就労可能年数は死亡時から一八年、生活費は収入の三〇%と考えられるから、同人の死亡による逸失利益を年別のホフマン式により年五分の割合による中間利息を控除して算定すると、三九二四万八〇二八円となる。

(計算式)

37万0730円×12×0.7×12.6032=3924万8028円(1円未満切捨て)

ところで、原告らは、亡武が本件事故当時植松運輸株式会社に勤務する傍ら、妻である原告山田常美名義で営業する飲食店の営業に右会社勤務終了後殆ど毎日同原告とともに従事していたことから、亡武の逸失利益の算定に際しては右会社での収入額を基礎とすべきではなく、同年令の男子労働者の平均賃金額を基礎とすべきである旨主張し、同原告は、その本人尋問の中で、亡武はタンクローリーの大型トラツク運転手として勤務し、長距離運送に出る場合には翌日の夕方帰宅していたが、長距離運送に出ない時が一週間に二回位あり、そういう時などに週四回位一回三時間程同原告が経営するスタンド「春日」を手伝つてくれていたところ、同店の収入は月に三〇万円位あつた旨供述するが、他にこれを裏付けるに足る証拠はなく、右供述も信用性に乏しくにわかにこれを採用し難いから、亡武の逸失利益の算定にあたつては右会社での収入額を基礎とすべきであると考える。

3  原告らの慰藉料

本件事故の態様、亡武の年齢、親族関係、その他諸般の事情を考えあわせると、原告山田常美の慰藉料額は七〇〇万円、原告山田貴人及び同武島貴代美の慰藉料額は各三五〇万円とするのが相当であると認められる。

4  葬祭費 七〇万円

原告山田常美の本人尋問の結果によれば、同原告は亡武の葬儀費用として一〇〇万円を超える金員を支出したことが認められるが、内七〇万円を本件事故と相当因果関係のある葬儀費用とみるのが相当である。

四  権利の承継

成立に争いのない甲第一〇、第一一号証及び原告山田常美の本人尋問の結果によれば、請求原因6の事実が認められるから、原告山田常美は前記三の2の亡武の被告に対する損害賠償請求権の二分の一(一九六二万四〇一四円)を、原告山田貴人及び同武島貴代美はその各四分の一(九八一万二〇〇七円)宛相続により承継取得した。

従つて、原告山田常美の損害額は合計二七三二万四〇一四円に、原告山田貴人及び同武島貴代美の損害額は各合計一三三一万二〇〇七円になる。

五  免責及び過失相殺

成立に争いのない甲第三、第四、第六号証並びに証人川元孝之の証言及び被告本人尋問の結果によれば、本件事故現場は東西道路と北方道路、南方道路及び南東方向へ伸びる道路とが交差する交差点中央付近であり、最高速度は時速四〇キロメートルに制限され、アスフアルト舗装で本件事故当時路面は乾燥していたこと、被告は加害車を運転して右東西道路を西進中、右交差点中央付近の手前約八六メートルの地点で同交差点の対面信号が赤であつたため減速し、手前約四二メートルの地点で右信号が青に変わつたため加速して進行したところ、手前約一七・六メートルの地点で南方から対面の赤信号を無視あるいは見落として右交差点に進入してくる被害車を右前方約二二メートルの地点に発見し、急ブレーキをかけたが及ばず、右交差点中央付近で前部を被害車に衝突させ、更に一六・八メートル進行した地点で加害車を停止させたこと、本件事故当日の日出は午前六時五三分で、事故当日は日出の三〇分程前で少し薄暗かつたが、被告は加害車のヘツドライトを点灯していなかつたことを認めることができ、右事実によれば、被告には制限時速を相当超過した速度で進行していたことが窺われる上、ヘツドライトを点灯していなかつた落度も認められるから、被告が無過失であるとは認められず、被告の免責の主張には理由がないが、他方において、本件事故は専ら亡武が対面の赤信号を無視あるいは見落とした過失により発生したものであることが認められるから、原告ら及び亡武の損害賠償額の算定にあたつては過失相殺によりその八割を減ずるのが相当である。

そうすると、原告山田常美の損害額は五四六万四八〇二円に、原告山田貴人及び同武島貴代美の各損害額は二六六万二四〇一円になる。

六  損害の填補

請求原因5の事実は、当事者間に争いがないところ、前記四において認定した事実を併せ考えれば、原告山田常美に対し一〇〇〇万円、原告山田貴人及び同武島貴代美に対し各五〇〇万円がそれぞれ支払われたとみるのが相当である。

よつて原告らの前記各損害額から右各填補分を差引くと、原告らの各損害はいずれも填補ずみとなる。

七  弁護士費用

本件事案の内容、審理経過、結果等に照らすと、原告らが被告に対し本件事故による損害として弁護士費用を請求することはできないというべきである。

八  結論

よつて、原告らの被告に対する請求は理由がないからこれをいずれも棄却し、訴訟費用の負担につき民訴法八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 細井正弘)

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