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大阪地方裁判所 昭和61年(ワ)1845号 判決 1987年1月29日

原告

伴工業株式会社

右代表者代表取締役

戸田祐二

右訴訟代理人弁護士

川下清

被告

株式会社三和銀行

右代表者代表取締役

川勝堅二

右訴訟代理人弁護士

久保井一匡

森信静治

宮崎陽子

主文

一  被告は、原告に対し、金七三二万五七三〇円及びこれに対する昭和六一年三月一八日から支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。

二  原告のその余の請求を棄却する。

三  訴訟費用は被告の負担とする。

四  この判決は第一項に限り仮に執行することができる。

事実

第一  当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1  被告は、原告に対し、金七四〇万七七二七円及びこれに対する昭和六一年三月一八日から支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。

2  訴訟費用は被告の負担とする。

3  右1項につき仮執行宣言

二  請求の趣旨に対する答弁

1  原告の請求を棄却する。

2  訴訟費用は原告の負担とする。

第二  当事者の主張

一  請求原因

1  当事者

(一) 原告は、紡織染色整理機械等の販売を主な業務とする株式会社である。

(二) 被告は、銀行法に基づく銀行業務を行なう都市銀行で外国為替公認銀行である。

2  取引経過

(一) 原告は、被告梅田支店との間で銀行取引約定書に基づく銀行取引を継続していたが、その後、被告大阪駅前支店(以下「支店」という場合被告大阪駅前支店のことをいう。)と銀行取引をなすようになつた。

(二) 原告は、昭和五六年七月ころから、訴外大阪日進有限会社(以下「訴外会社」という。)と連続染色機売買の商談が進行していたところ、メーカーの訴外和歌山鉄工に対し右機械を発注するにつき前渡金が必要となつた。そこで、原告は、同年一〇月ころ、被告に対し、右前渡金の一部三〇〇〇万円の融資を求めて交渉に入り、同年一二月ころには借入期間、金利、担保等について右交渉が具体化し、同五七年一月一四日ころには借入を受ける予定で担保差入の手続まで進んだ。

(三) ところで、原告代表者は、昭和五七年一月一四日、被告支店融資係長の矢崎某(以下「矢崎係長」という。)と利息を年八・一パーセントにすること等借入条件の最後の詰めをしていたところ、突然同支店融資課長の菊池某(以下「菊池課長」という。)から「ドルで借りましよう。」等と言われてインパクト・ローンによる借入を勧められた。菊池課長は、外国為替取引の経験がなく外国為替に関する知識のない原告代表者に対し、わずか一〇分程度の時間でインパクト・ローンが外貨建ての貸付方式で、表面金利は高いが実際には円建て融資の場合と変わらなくなるとの簡単な説明をしたのみで、インパクト・ローンについて充分な説明をしないままインパクト・ローンが通常の円貨建ての融資と大差ないかのごとき印象を与えてインパクト・ローンでの借入を勧めた。原告代表者は、原告のような中小企業がドルを借り入れられることに驚き、表面金利と国内の金利との差がいかに埋まるのか不思議に思つたが、銀行の言うことだから間違いないだろうとの信頼によつて、菊池課長から言われるまま同日被告との間に左のとおりの条件でインパクト・ローンによる借入を合意した(以下「本件貸借」という。)。

(1) 借入額   一七万ドル

(2) 受け渡し  昭和五七年一月一八日

(3) 交換レート 一ドル当り二二四円一〇銭

(4) 弁済期   昭和五七年四月一九日

(四) その結果原告は、昭和五七年一月一八日、被告より一七万ドルを借受け、右交換レートで換算した三八〇九万七〇〇〇円を受領し、被告に対し、同日から同年四月一九日までの年一五・三七五〇パーセント、一ドル当り二二七円のレートで換算した一四九万九七八二円の利息及び外貨預金入金手数料一万九三三七円の合計一五一万九一一九円を支払つた。

(五) しかるに、その後、円相場が急落し、原告は被告から為替差損が生じているとの説明を聞き、昭和五七年四月一九日、被告支店長代理の勧めで弁済期を同年七月一九日にまで三ケ月延期する手続をとり、その間年一六・五六二五パーセント、一ドル当り二四七円四〇銭のレートで換算した一七六万〇八一二円の利息を支払つた。そして、同年七月一九日、一ドル当り二五六円九五銭のレートで一七万ドル分、四三六八万一五〇〇円を弁済した。

3  インパクト・ローンの仕組

(一) インパクト・ローンとは、外国為替公認銀行が居住者に対して行なう使途制限のない外貨貸付をいう。従前は、外貨貸付は当局の個別認可のもとに管理されていたが、昭和五五年一一月施行の外国為替及び外国貿易管理法改正により邦銀が居住者に対し外貨貸付をなすことが自由になつたため、インパクト・ローンが普及してきたものである。

(二) 外国為替公認銀行は、インパクト・ローン用の外貨資金をユーローカレンシー市場から調達するのが一般的であるが、近時では、国内の外国為替公認銀行同士が短期のドル資金を国内で無担保で貸借する市場の東京ドルコール市場で調達することが多い。そこでインパクト・ローンの金利は、右各市場での調達金利に一定基準の利ざや(スプレッド)を加算した金利(適用金利)となる。右適用金利は、貸出時の金利が固定している固定金利方式と、数か月ごとに金利を見直す変動金利方式(原告の場合)とがある。そこで、米ドルの場合の様に、国内の一般貸出金利より右適用金利が高い場合には為替相場の変動を除外すればインパクト・ローン借入側は一方的に高金利を負担することになり、しかも変動金利方式を採れば、金利の予測も困難になる。

(三) ところで、インパクト・ローンを利用する意義は、借入(顧客)側としては、外貨建て債権を有する場合に為替相場変動のリスクをヘッジする必要のあること(ただし、そのため高率の金利の支払が必要となる場合もある。)、企業の運営資金調達の方法を多様化しておく場合のあること等が考えられ、また銀行側にとつても、国内の公定歩合の変動等の要因に左右されることなく適用金利に一定の利ざやを盛り込むことができ、その外に円転等の際に為替手数料による収益を別途あげることができること等が考えられる。

(四) しかしながら、顧客(借入先)が外貨建の債権を有していて為替リスクをヘッジする手段としてインパクト・ローンを利用する場合を除き、米ドルによるインパクト・ローンは逆に為替リスクや高金利を伴う危険な取引であり、右危険を防止するためにはインパクト・ローンと先物為替予約(以下「先物予約」ともいう。)を併せて利用することが不可欠となる。先物予約とは、将来の一時点において一定額の外国為替を一定の為替相場で売買することを予約することであり、インパクト・ローンにより米ドルを借りた場合、先物予約をすることにより、右米ドルの返済期において返済用米ドル調達のために支払うべき円貨での金額を予め確定することができ、かつ、国内より高金利の米ドルの場合、先物相場(返済時の為替相場)は直物相場(借入時の為替相場)に対して米ドルと円の金利差に相当する分だけディスカウント(先安)であるから、右両相場の開差(スワップ幅)が加味されることにより、高い表面金利も実質的には国内円貨借入の金利と大差ない線に固定することができる。かくしてインパクト・ローンと先物予約を併用することによつて、借手の実質金利は、米ドル建の場合の高金利が為替相場の価格差により減殺され、国内の一般金利と異ならない金利で借り入れることができ、外国為替等について何の知識、経験のない者であつても安心して利用できるものとなる。逆に、先物予約をしない場合は、全く合理性のない投機行為となり、また、為替相場の変動がなければ国内金利より高金利を払わざるを得ない分の悪い博打である。

4  被告の責任(債務不履行)

右のとおりインパクト・ローンの利用の一般的状況及び危険性、さらに銀行取引は一般に安全で確実であるとの社会的信用を得、投機的要素の少ないものと認識されていることからすれば、外国為替公認銀行は、融資取引にあたり、原告のように外貨建債権のリスクヘッジの為でなく、また外国為替に関する取引についての十分な知識、経験をもたず、為替相場の変動の危険性についての認識が不十分な者に対してインパクト・ローンの利用を勧め、その申込のあつた場合は、顧客から特段の申出のない限り、当然に顧客のために返済時の先物予約をなすべき信義則上の義務を負担しているというべきである。しかるに被告はこれを怠り、先物予約を併用しないインパクト・ローンを原告に勧め、原告をしてこれを応諾せしめて、後記のとおり損害を生じせしめたものである。

仮に然らずとも、被告は、原告に対しインパクト・ローンの仕組、市場金利の内容とその相場性、為替相場の変動に伴う危険性、先物予約をなすことによりリスクを解消できる方策のあることを十分説明して、返済時のための先物予約を併用することが適当である旨を告知すべき義務があるのに、これを怠り、原告をして充分な認識理解のないまま本件インパクト・ローンを応諾せしめて、後記のとおり損害を被らせたものである。

5  損害

前記のとおり、原告は結局、本件貸借により三六五七万七八八一円を受領したところ、被告に対し、昭和五七年四月一九日に利息一七六万〇八一二円を支払い、同年七月一九日に元本四三六八万一五〇〇円を支払つたため、差額八八六万四四三一円が一応の損害であるが、右期間受領金額に対する金利の利益を受けているためこれを損益相殺することとし、被告の申出金利である年八・一パーセントの割合で計算すると一四四万一七八七円となるため、別紙計算書(一)記載のとおり、これを控除した残額七四二万二六四四円が実損害となる。

6  よつて、原告は、被告に対し、債務不履行に基づく損害賠償として内金七四〇万七七二七円及びこれに対する訴状送達の日の翌日である昭和六一年三月一八日から支払ずみまで年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。

二  請求原因に対する認否及び反論

1  請求原因1(当事者)の事実は認める。

2  同2(取引経過)中、

(一) (一)の事実は認める。

(二) (二)の事実中、原告が訴外会社と取引交渉に入つた時期は不知、その余の事実は認める。

(三) (三)の事実中、原告と被告の間で本件貸借が成立した事実(ただし弁済期は否認)は認め、その余の事実は否認する。

本件貸借の弁済期は昭和五七年七月一九日である。すなわち、本件貸借に際し、利息の支払条件等につき三か月ごとに見直す旨の合意が存したので、当初は同年四月一九日までの三か月分の利息を受領していたにすぎず、弁済期は同年四月一九日ではない。

また、菊池課長は、原告主張の一日前である昭和五七年一月一三日に、原告代表者に対し、インパクト・ローンの仕組及びその利害得失について十分時間をかけて説明したのに対し、十分な判断力のある企業家たる原告代表者は一日熟慮したうえ、翌一四日、再度被告支店に赴き、本件貸借をなしたものである。

(四) (四)の事実は認める。

(五) 同(五)の事実中、弁済期延期の点は否認し、その余の事実は認める。

被告は、被告担当者が為替相場の動向をしばらく様子見するよう助言したが、原告はこれを拒否し、強い意思で完済したものである。

3  同3(インパクト・ローンの仕組)の(一)ないし(三)の事実及び(四)のうち先物予約に関する事実は認めるが、その余の主張は争う。

為替による差益を期待して先物予約をしないインパクト・ローンの方式(いわゆるオープン方式)も一般的に利用されているところであり、先物予約併合方式のインパクト・ローンが通常であるというものではない。先物予約をつけることにより原告主張のリスクが回避できることは確かであるが、逆に為替差益獲得のメリットを放棄することにもなつてしまうのである。

4  同4(被告の責任)中、本件貸借の際原告主張の先物予約が付されなかつた事実は認めるが、主張は争う。

原告主張のように、一般的に先物予約をインパクト・ローンと一体のものとなし特段の申出のない限り当然に先物予約をなすべき義務を負うとすることは、銀行が一方的に為替差益の利益を取引先に放棄させるもので妥当ではない。

また、インパクト・ローンの利害得失については十分説明をなして取引先に先物予約を併用するか否かを選択せしめるのが妥当であることは原告主張のとおりであるが、被告は、原告代表者に対し、前記のとおりインパクト・ローンの仕組及びそのリスクについて十分な説明をなしたのであり、原告主張のごとき注意義務違反はない。

5  同5(損害)のうち、原告が損害を被つたことは認めるが、右はたまたま本件貸借後、円安ドル高となりその時期に返済を行つたためであるし、その計算方法も誤つており、争う。

6  同6(結論)の主張は争う。

第三  証拠<省略>

理由

一請求原因1の事実、同2のうち(一)の事実、(二)の事実中原告が訴外会社と取引交渉に入つた時期を除くその余の事実、(三)の事実中原告と被告との間で本件貸借のあつた事実(ただし弁済期の点は除く。)、(四)の事実、(五)の事実(ただし弁済期の点は除く。)、同4のうち先物予約が付されなかつた事実及び原告が損害を被つた事実はいずれも当事者間に争いがない。

そして、右争いない事実のほか、<証拠>によれば、次の各事実が認定できる。

1  原告(資本金四八〇万円)は、昭和五〇年ころ自らの手により一度台湾に機械部品を輸出したことのある他は海外との貿易をしたことがなく、専ら国内での染色整理機械等の販売を業としていたもので、外貨建債権を有するものではなく、もとより外貨建融資を受けた経験もなく、外国為替に関する知識経験もなかつたこと、昭和五六年七月ころから訴外会社との間で連続染色機械売買の商談が進行していたところ、右機械を仕入先(メーカー)へ発注するにつき前渡金約四〇〇〇万円を同五七年一月一五、六日ころ支払う必要があつたが、内約三〇〇〇万円が不足していたため被告に通常の内貨建による融資を求めた結果、利息年八・一パーセント、弁済期同年五月末日ころを目途に原告代表者所有の土地建物に極度額三五〇〇万円の根抵当権を設定し、三〇〇〇万円を借入れる旨の話合が同年一月一四日までに煮つまつていたこと。

2  原告代表者は、昭和五七年一月一四日、右借入の契約書等調印のため被告支店へ赴き、矢崎係長と話をしていたところ、横から突然菊池課長が割つて入り、「それはドルで借りましよう」とインパクト・ローンによる借入の話を切り出してきたこと、原告代表者は外貨建で融資を受けることなど思いもよらず、増してや年商二億ないし三億円、従業員三名程度の中小企業がドル建で融資を受けられることが意外で、これを聞いて当惑したが、菊池課長からわずか十数分程度の説明を聞いて理解できたのは、被告から一七万ドルを借入れ、被告でこれを両替して結局約三八〇〇万円の融資が受けられるが、ドル建で借りると表面金利は円建の場合の年八・一パーセントより高くなるらしいが何らかの方法で結局は円建の場合とほぼ同率になるらしいとの点までで、インパクト・ローンの仕組は理解できないままであつたが、当然これまでの交渉経過の内容を前提にしたうえでの話と考え、何よりも被告への信頼に立つて菊池課長から言われるままに本件貸借(ただし、弁済期は昭和五七年七月一九日、以下同じ。)を承諾したこと、そこで、額面一七万ドル、支払期日を昭和五七年七月一九日とした金融機関借入用の約束手形に記名捺印して被告に交付して帰ろうとした際、菊池課長から初めて「伴さん、まつたく危険がないわけではありませんよ。例えば近辺で、アジアの方で戦争でも起こつて、それに巻き込まれるようなことがあれば、その時には日銀が出てきますから。」等と聞かされたので、多少おかしいとは気付いたがその日はそのまま帰つたこと。

3  原告代表者は、昭和五七年一月一八日、本件貸借に基づき被告から原告主張のとおりの入出金を受けたこと、インパクト・ローンによる本件貸借については先物予約が付されていなかつたところ、右貸借後、円相場が急落し、原告に為替差損が生じる事態となり、原告は同年四月一九日、同日から同年七月一九日までの利息のため原告主張のとおりの金員につき、更にまた、同年七月一九日、元金返済のため原告主張のとおりの金員につき、いずれも支払を余儀なくされ、損害を被つたこと、原告代表者はその後、インパクト・ローンについて自ら調べ、あるいは金融関係者に相談するなどしてその問題点を知つて被告と交渉したが、らちがあかずじまいであつたこと。

およそ以上の事実が認定でき、この認定に反する原告代表者の供述部分は採用できず、他にこれを左右すべき証拠はない。

二請求原因3(インパクト・ローンの仕組)のうち(一)ないし(三)の事実、(四)のうち先物予約に関する事実は当事者間に争いがなく、<証拠>によれば、(四)のその余の事実も認められる。

三そこで、以上の事実に基づき、請求原因4(被告の責任)を検討する。

原告は、先ず、被告がインパクト・ローンによる貸付をなすにつき、原則として貸借時に当然先物予約を併用すべき信義則上の義務があると主張する。しかしながら、先物(為替)予約は、本来インパクト・ローンとは別個、独立の取引であつて、それに基づく手数料等新たな負担を顧客に強いるものであるから顧客から申出のない限り、被告において当然先物予約を併用すべき義務を負担させるのは当を得ない。

しかしながら、前記認定のとおり、先物予約を併用しないインパクト・ローンは債権債務が外貨建であるところから、国内の公定歩合を基準とした円貨建貸付と異なり、為替相場の変動のリスクを顧客が直接的に負担するほか、為替相場に変動のない場合、例えば米ドル建による場合は米国の高金利をそのまま負担し、更に変動金利方式(原告の場合三か月ごとの見直し)によれば金利負担の予測さえもつきにくいという専門的、技術的要素に富み危険性をはらむ融資方法であるから、これに対し十全の対処策をとらねば顧客が不測の損害を被りかねず、例えば顧客が外貨建債権を有しその為替相場の変動によるリスクを回避する目的(リスクヘッジ)でなすとか、右相場の変動による投機目的でなす等のこの種取引に精通するような場合を除き、インパクト・ローンの利用を勧誘する銀行は、その仕組、市場金利、相場性、為替相場の変動による危険性、その対処策として先物予約を併用する方法のあること等を十分に説明してその理解を得るべき信義則上の義務を負担するというべきである。

これを本件についてみるに、前記認定のとおり、原告は専ら国内取引を業務としてドル貨建債権を有するものではないし、過去に一度台湾に直接輸出したことがあるものの外国為替に関する知識経験がなく全く素人に等しいと言つて過言ではなく、しかも、元来が、被告に対し、国内取引のため円貨建融資を依頼し、インパクト・ローンを利用する必然性はまつたくなかつた。しかるに、被告担当者は、被告に対し絶対的な信頼を置いている原告に対し、突然インパクト・ローンによる借入を勧めながら右義務に違背し、いわば御座成りの説明でインパクト・ローンが円貨建借入と実質異ならないかのごとき認識を与えて本件貸借をなさしめ、もつて損害を与えたのであるから、被告は本件貸借により原告の被つた損害を賠償する責任がある。

四そこで、進んで損害額について検討する。

本件において、被告により、前記説明義務が尽されていれば、原告が敢えてインパクト・ローンによる借入方法を採らず、仮に本件貸借をなしたとしてもこれに弁済期における先物予約を併用して、円貨建借入の場合の利息程度の負担にとどめたであろうと推認できるから、本件貸借により原告が被つた損害額は、本件貸借により原告が元金返済、利息等支払のため現実に出捐した金額と、原告が仮に円貨建借入を受けていたとしたら出捐したであろう金額(前記認定のとおり利率は年八・一パーセントが基準となる。)との差額に相当するということができる。そして、右によつて計算すると、別紙計算書(二)記載のとおり、原告の損害額は七三二万五七三〇円となる。

五結論

以上のとおりであつて、原告の被告に対する、債務不履行に基づく損害賠償を理由とする本訴請求は、金七三二万五七三〇円及びこれに対する訴状送達の日の翌日であることが本件訴訟記録上明らかな昭和六一年三月一八日から支払ずみまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があるからこれを認容し、その余は失当であるからこれを棄却することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条、九二条を、仮執行の宣言につき同法一九六条をそれぞれ適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官古川正孝 裁判官渡邉安一 裁判官川口泰司)

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