大阪地方裁判所 昭和61年(ワ)2562号 判決
一 請求原因1の事実は<証拠略>によりこれを認めることができる。
二 同3の事実は、当事者間に争いがない。
三 そこで、請求原因4について判断する。
1 原告商標と被告商標(1)の類否について
(一) 外観について
原告商標及び被告商標(1)がそれぞれ請求原因4(一)(1)及び同4(二)(1)の態様で使用されていることは、当事者間に争いがない。
そこで両商標を対比するに、各商標の「MON」と「more」、「<省略>」と「Cheri」を比較するならば、それぞれ類似していると言えなくもない。
しかしながら、これは、一語として表記されている被告商標(1)を二分して前後を入れ替え、しかもその綴りだけを分析的に比較した結果にすぎない。本来、商品表示を対比するにあたつては、特段の事情のない限り、具体的使用態様を全体的に考察して判断すべきものであつて、この観点から検討すれば、被告商標(1)の綴りを本来の不可分一体のものとして捉えると原告商標の綴りと異なるほか、原告商標は「<省略>」の語が「MON」の語よりも大きく表示されているため、二行に表示した場合はもとより、一行に表示した場合においても右の二語から成ることが一見して明らかであり、且つ「<省略>」の語が観者の注意を惹きつけるのに対し、被告商標(1)は全体が不可分の一語として構成されていて、且つ、その一部が特に観者の注意を惹くこともないこと、原告商標は活字体の大文字から成るのに対し、被告商標(1)はやや筆記体に近い形で、「C」のみが大文字でその余は小文字であることなどが大きく異なり、離隔的観察によつても両商標の外観は類似しないものと言わなければならない。
(二) 称呼について
原告商標の称呼について、被告は「マンチエリー」であると主張するが、いずれも成立に争いのない乙第二七ないし第二一三号証、同第二一六ないし第二五九号証によると、一般需要家層による原告商標の称呼は「モンシェリ(ー)」又は「モンチェリ(ー)」であると認められ、他にこれを覆すに足る証拠はない。
被告商標(1)の称呼が「チェリモア」であることは当事者間に争いがない。
そこで、「モンシェリ(ー)」又は「モンチェリ(ー)」と「チェリモア」を対比するに、各称呼の「モン」と「モア」、「シェリ(ー)」又は「チェリ(ー)」と「チェリ」を比較するならば、それぞれ類似していると言えなくもない(「モンチェリ」の「チェリ」と「チェリモア」の「チェリ」は同一であると言える)。しかし、これまた本来不可分一体の称呼を殊更に二分して分析的に比較した結果であつて、本来の全体的称呼において比較するときは、両商標の称呼は類似しているものとは言えない。
(三) 観念について
原告商標の本来の観念は、原告が主張し被告も認めるように、「最愛の人」、「いとしい人」、「私の愛する貴方」であるが、前掲乙第二七ないし第二一三号証、同第二一六ないし第二五九号証及び証人滝沢栄治の証言によると、原被告製品の主な需要家層は十代半ば以上の者であることが認められるものの、特にフランス語の素養のある層であることを窺わせる証拠はなく、我が国におけるフランス語の普及度を勘案すると、原被告製品の平均的な需要家層は、右の本来の観念を抱くだけのフランス語の素養はなく、これらの者が原告商標に接した場合は、全体として特に明確な観念を抱かないか、むしろ「<省略>」を英語の「cherry」と同義であると誤解して「私のサクランボ」との観念を抱くのではないかと解される。
他方、被告商標(1)の観念を検討すると、被告商標(1)は「cherry」と「more」を結合させた造語であつて、本来は格別の観念を有するものではないが、前述のとおり、原被告製品の主な需要家層は十代半ば以上の者であることが認められ、我が国における英語の普及度を勘案すると、これらの者の多くは「cherry」が「サクランボ」を、「more」が「より多くの」を意味する英語であると理解するものと解されることから、被告商標(1)について、「より多くのサクランボ」又はこれに近似する観念を抱くものと解するのが相当である。被告商標(1)の観念を「サクランボと私」又は「サクランボは私のもの」とする原告の主張は牽強付会の感を免れない。
してみると、原告商標を「私のサクランボ」と観念した場合は、被告商標(1)の観念と「サクランボ」の点では共通することになるが、その「サクランボ」について抱く観念が、原告商標は主体を問題とするものであるのに対し、被告商標(1)は量を問題とするものであつて、彼此相違する。
(四) およそ商品表示の類否を判断するにあたつては、外観、称呼、観念の三要素を総合的に考慮して商品の出所についての混同を生ずる可能性を判断すべきであるが、本件においては、右に述べたように、原告商標につき「私のサクランボ」との観念を抱くとした場合に被告商標(1)の観念との間にある程度の共通性を生じるものの、その共通性の程度は決定的なものではなく、外観、称呼の相違性をもあわせて考慮すると、両商標は類似しているものと言うことはできない。
2 原告商標と被告商標(2)の類否について
(一) 外観において両者が類似しないことは一見して明らかである。
(二) 称呼及び観念については、被告商標(2)は、「チョコレート」の部分は商品を表わす普通名詞であることから、その要部は「チェリモア」の部分であると解されるので、これと原告商標とを対比すると、その類否についての判断は、被告商標(1)について述べたところと同様である。
(三) そして、外観、称呼、観念の三者を総合的に考慮すれば、原告商標と被告商標(2)も類似しているとは言えない。
四 そうすると、請求原因4の事実はこれを認めることができないから、原告の本訴請求は、そのほかの点について判断するまでもなくいずれも理由がない。
よつて、原告の請求をいずれも棄却する。
〔編註その一〕 本件における当事者の主張は左のとおりである。
第一 当事者の求めた裁判
一 請求の趣旨
1 被告は、別紙目録(一)記載の表示を別紙目録(二)記載の物件の包紙、容器、包装に附してはならない。
2 被告は、別紙目録(一)記載の表示を別紙目録(二)記載の物件の包紙、容器、包装に附して譲渡、展示、頒布してはならない。
3 被告は、別紙目録(一)記載の表示を別紙目録(二)記載の物件の包紙、容器、包装に附したものを広告、定価表又は取引書類に附して展示、頒布してはならない。
4 被告は、その所有に係る、第1項記載の包紙、容器、包装並びに第3項記載の広告、定価表、取引書類を廃棄しなければならない。
5 訴訟費用は被告の負担とする。
6 仮執行宣言
二 請求の趣旨に対する答弁
主文同旨
第二 当事者の主張
一 請求原因
1 原告は、世界屈指のチョコレートメーカーであるイタリー国法人であつて、リキュール漬けのサクランボを一粒宛内部に封入したチョコレートに別紙写真1ないし3に示すとおり「<省略>」なる商標(以下、「原告商標」という)を附した製品(以下、「原告製品」という)を製造し、子会社である日本フェレロ株式会社(以下、「日本フェレロ」という)を通じて、日本国内で販売している。
2 原告製品は、昭和五一年頃から、原告の西独における子会社であるフェレロ・ゲー・エム・ベー・ハーを通じて、神戸の輸入業者によつて日本国内に輸入され、販売されていたが、昭和五三年に日本フェレロが設立されると、原告は直ちに同社をして原告製品の輸入・販売を開始させ、同社の宣伝普及活動の結果、原告商標は原告製品を示す表示として流通業者にも需要者にも周知のものとなつている。
3 被告は、昭和五八年一一月から、リキュールとサクランボ一粒宛とを中に封入したチョコレートに別紙写真4及び5に示すように「Cherimore」(別紙目録(一)(1)記載のとおり。以下、「被告商標(1)」という。なお、昭和六〇年までは「Cherry More」であつた)ないし「チェリモアチョコレート」(別紙目録(一)(2)記載のとおり。以下、「被告商標(2)」という)の商標を附したチョコレート製品(以下、「被告製品」という)を製造・販売している。
4(一)(1) 原告製品は、別紙写真1に示すように、長方形の白地の中央に茶褐色で原告商標「<省略>」なる欧文字を横二行に示したものをピンク地の包紙に打抜き、長方形の白地の左肩に右上から左下に斜に原告商標と同色の花結びのリボン模様を描いた包紙で一粒毎に包装した製品であつて、別紙写真2及び3に示すように、そのような包紙で包装されたチョコレート粒が外箱に複数個箱詰めされ、外箱にも原告商標「<省略>」が大きく一行又は二行に横書きして表示されている。
(2) 原告商標の称呼は「モンシェリ」である。
(3) 「<省略>」の「<省略>(シェリ)」は「最愛の人」「いとしい人」というフランス語であり、「<省略>」は「私の愛する貴方」と呼びかける語であつて、「<省略>」にはサクランボの意味はない。しかし、これをチェリと発音すると、その発音語は英語の「cherry(サクランボ)」の意味となる。しかも、「サクランボの実のなる頃、私は貴方を思い出して唄います…」という「<省略>」に呼びかけるフランスの民謡があつて、フランス語系の国民も「<省略>」の語からしばしばサクランボを連想するのである。リキュール漬けのサクランボを封入したチョコレートに「<省略>」の名称を附したのは、「<省略>」と「cherry」を巧みに結びつけたものである。
日本においては、「<省略>」の語を直ちに「私の愛する貴方」と解し得る人は数少ないであろうが、「mon」の語が「私の」というフランス語であることは、少なくともリキュール入りのチョコレートを購買しようとする需要者層にとつては常識に属すると言える。そして、別紙写真2にも示されているように、原告製品は「チェリーとリキュール。熟成の一粒。」というようなキャッチフレーズによつて、チェリーの封入されていることを永らく宣伝広告し来つた商品であり、現にそのチョコレート粒の中にはリキュール漬けのチェリーが一粒宛封入されている。従つて、日本の需要者は「<省略>」の語がサクランボを意味すると理解するのが通常である。
それ故、原告商標から日本の需要者の抱く観念は、「私のサクランボ」である。
(二)(1) 被告製品は、別紙写真4に示すように、ピンク地の包紙の上に白地の円を描き、それよりやや直径の小さいピンク色の円を同心円に描いた上、円の中心よりやや下に、白地の円の直径幅ほとんど一杯に茶褐色で被告商標(1)「Cherimore」なる欧文字を横一行に示し、白地の円の右上方と左下方に、同じく茶褐色で二本のリボン模様を白地の円の裏で連なるよう見える如く描いた包紙で一粒毎に包装した製品であつて、別紙写真5に示すように、そのような包紙で包装されたチョコレート粒が外箱に複数個箱詰めされ、外箱にも被告商標(1)「Cherimore」、同(2)「チェリモアチョコレート」と各々一行に横書きして表示されている。
(2) 被告商標(1)の称呼は「チェリモア」、同(2)の称呼は「チェリモアチョコレート」である。
(3) 「Cherimore」、「チェリモア」なる語は造語であつて、本来、格別の観念を観者に生ぜしめる語ではない。しかし、その中の「Cheri」は、「e」にアクサンテギユ(´)を施すと、原告商標「<省略>」の「<省略>」と同一となり、「最愛の人」、「いとしい人」というフランス語となる。又、これを「チェリー」と発音すると、その発音語が「サクランボ」を意味することも原告商標における「<省略>」と同一である。
一方、「more」はモアと発音されるが、この発音はフランス語の「moi」と共通する。そして、モア(moi)は「私」を示すフランス語として既に日本人の常識となつている。
それ故、被告商標(1)及び(2)から日本の需要者の抱く観念は「サクランボと私」又は「サクランボは私のもの」である。
(三) 従つて、被告商標(1)及び(2)は原告商標に類似する商品表示である。
5 右に述べたとおり、別紙目録(二)に記載のチョコレート製品に別紙目録(一)に記載の表示を附した被告製品は、その表示が原告の製品と類似する表示であるので、両商品の混同を生じ、日本フェレロは少なからざる被害を被り、そのことによつて原告は営業上の利益を害せられている。
よつて、原告は被告に対し、不正競争防止法一条一項一号に基づき不正競争行為の差止を求める。
二 請求原因に対する認否
1 請求原因1の事実は不知。
2 同2は、原告商標が周知のものとなつているとの主張は争い、その余の事実は不知。
3 同3の事実は認める。
4(一)(1) 同4(一)(1)の事実は認める。
(2) 同4(一)(2)の事実は否認する。確かに、「<省略>」をフランス語読みすれば「モンシェリ」であるが、一般需要家は所謂横文字を英語読みで称呼するのが普通であり、原告商標の称呼は「マンチェリー」である。
(3) 同4(一)(3)の事実は、「<省略>」のフランス語としての意味が原告主張の意味であること及び日本においては「<省略>」の語を直ちに「私の愛する貴方」と解し得る人は数少ないことを認め、原告商標から日本の需要家層の抱く観念が「私のサクランボ」であることを否認し、その余は不知。一般需要家は所謂横文字を英語で観念するのが普通であり、原告商標の観念は無観念である。
(二)(1) 同4(二)(1)の事実は認める。
(2) 同4(二)(2)の事実は認める。
(3) 同4(二)(3)の事実は、「Cherimore」、「チェリモア」の語が造語であつて本来格別の観念を観者に生ぜしめる語ではないことを認め、その余の事実は否認する。
(三) 同4(三)の主張は争う。原告商標と各被告商標は、外観、称呼、観念のいずれにおいても類似しない。
5 同5の事実は否認する。原告製品は被告製品と違つて輸入品として高級イメージを有し、売場も異なること及び被告の各商標は周知、著名であることから、誤認混同は生じない。
〔編註その二〕 本件に関する商標は左のとおりである。
被告商標目録(一)
<省略>
登録商標(別紙写真1)
<省略>