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大阪地方裁判所 昭和61年(ワ)3188号 1987年8月25日

原告(反訴被告)

中田厚生

被告(反訴原告)

牧原涼子

右訴訟代理人弁護士

小西清茂

須知雄造

主文

一  被告(反訴原告)は、原告(反訴被告)に対し、金四一万一三五〇円及びこれに対する昭和六一年六月六日から支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。

二  原告(反訴被告)のその余の請求を棄却する。

三  原告(反訴被告)は、被告(反訴原告)に対し、金四四二万一六五〇円及びこれに対する昭和六一年九月三日から支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。

四  被告(反訴原告)のその余の請求を棄却する。

五  訴訟費用は、本訴反訴ともに、これを一〇分し、その九を原告(反訴被告)の負担とし、その余を被告(反訴原告)の負担とする。

六  この判決は、第一、三項に限り仮に執行することができる。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  本訴請求の趣旨

1  被告(反訴原告、以下被告という。)は原告(反訴被告、以下原告という。)に対し、金一四八万六八〇〇円及びこれに対する昭和六一年六月六日から支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。

2  訴訟費用は被告の負担とする。

3  仮執行宣言

二  本訴請求の趣旨に対する答弁

1  原告の請求を棄却する。

2  訴訟費用は原告の負担とする。

三  反訴請求の趣旨

1  原告は、被告に対し、金四八二万一六五〇円及びこれに対する昭和六一年九月三日から支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。

2  訴訟費用は原告の負担とする。

3  仮執行宣言

四  反訴請求の趣旨に対する答弁

1  被告の請求を棄却する。

2  訴訟費用は被告の負担とする。

第二当事者の主張

一  本訴請求原因

1  原告は、昭和六〇年一〇月、被告との契約により被告の経営する大阪市南区笠屋町三八アムハウス二階メンバーズクラブアプローズに店長として、給料基本給一か月七〇万円の約定で入店し、昭和六一年二月一四日、被告から解雇された。

2  以下のとおり、原告は被告から、昭和六一年一月分及び同年二月分の給料並びに解雇予告手当合計一四八万六八〇〇円の支払を受けていない。

(一) 昭和六一年一月分給料

支給額 基本給 七〇万〇〇〇〇円

払戻金 九万〇四五〇円

合計 七九万〇四五〇円

控除額 前借金 三〇万〇〇〇〇円

未収花代 一〇万〇〇〇〇円

積立金 一万〇〇〇〇円

雑費 五〇〇〇円

合計 四一万五〇〇〇円

差引支給額 三七万五四五〇円

(二) 昭和六一年二月分給料

(二月一四日までの分)

支給額 基本給 三五万〇〇〇〇円

払戻金 六万四八〇〇円

積立金払戻 三万〇〇〇〇円

合計 四四万四八〇〇円

控除額 未収サイド切れ返金 二万八四五〇円

雑費 五〇〇〇円

合計 三万三四五〇円

差引支給額 四一万一三五〇円

(三) 解雇予告手当 七〇万〇〇〇〇円

3  よって、原告は被告に対し、未払給料等合計一四八万六八〇〇円及びこれに対する弁済期の後である昭和六一年六月六日から支払ずみまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。

二  本訴請求原因に対する認否

すべて認める。

三  本訴請求に対する抗弁

1  昭和六一年一月分の給料について

昭和六一年一月分の給料のうち差引支給額三七万五四五〇円については、被告より原告に対し、後記のとおり、前店未収立替の一部返済に充当する旨申し入れ原告もこれを了承したものである。

2  昭和六一年二月分の給料について

昭和六一年二月分の給料のうち差引支給額五六万一三五〇円(基本給を原告主張の三五万円ではなく、五〇万円として計算)については、事前の原告と被告との合意に基づき、後記のとおり、当店未収金の一部返済に充当処理したものである。

3  解雇予告手当について

被告は、原告が、後記のとおり、ホステス契約金を被告より受け取っているにもかかわらずホステスに支払っていない事実や、顧客より集金した金員を横領している事実が判明したため解雇したものであるので、原告の責に帰すべき事由に基づく解雇であり、被告は解雇予告手当を払う義務はない。

四  右抗弁に対する認否

本訴請求に対する抗弁1の事実は否認する。同2、3の事実は否認または不知。

五  反訴請求原因

1  原告は、昭和六〇年一一月七日、被告経営のメンバーズクラブアプローズに店長として採用されるに際し業界の慣例により、左記内容の金銭交付及び金員借用を含む雇用契約をし、左記金員を被告は原告に交付した。

(一) 契約金 一〇〇万〇〇〇〇円

(二) バンス(前貸金) 二〇〇万〇〇〇〇円

(三) 前店未収立替(貸金) 四二〇万七六七〇円

合計 七二〇万七六七〇円

原告と被告は、右契約金交付の際、同契約金については、原告が雇用契約締結後半年以上継続して勤務した場合には、原告は、返還義務を負わないが、そうでない場合には返還する旨約した。

原告は前記のとおり、自己の責に帰すべき事由により解雇された。

2  原告は被告に対し、店長たる原告が自らの客を来店させ飲食させた代金については、その支払を保証する旨約した。

客の飲食代金については、店長たる原告に当月分の歩合として一定額が加算されて店より客に対する請求以前に先払されることになっており、この点からも後日客の不払の責任を原告が負うのは不合理ではない。

原告の客の飲食代金のうち別紙当店未収金明細記載のとおり、合計一六二万六三五〇円が未払である(右金員を当店未収金という。)。

3  被告は、原告に対し、昭和六〇年一二月三〇日、一〇万円を貸し付けた。

4  被告は、原告に対し、昭和六〇年一〇月一四日より同月三一日までの間、被告が、ホステスを雇い入れるについての契約支度金、ホステスの前店未収分清算金等の名目の下、ホステスに渡すよう金員を渡したが、そのうち別紙ホステス契約金明細表記載の金員合計四六四万二三三〇円については、原告は、ホステスに渡していないので、その返還を求める(右金員をホステス契約金という。)。

5  原告は、別紙集金済未入金明細表記載のとおり、被告の顧客に対する売上金合計八三万二一〇〇円について、顧客より集金ずみであるにもかかわらず、被告に入金しない(右金員を集金済未入金という。)。

6  以下のとおり、原告から被告に対し、毎月の給料から返済がなされた。

昭和六〇年一一月分より 前貸金の一部として 四〇万〇〇〇〇円

昭和六〇年一二月分より 前店未収立替の一部として 二五万〇〇〇〇円

昭和六一年一月分より 前貸金の一部として 三〇万〇〇〇〇円

前店未収立替の一部として 三七万五四五〇円

昭和六一年二月分より 当店未収金の一部として 五六万一三五〇円

7  以上を差し引いた残額は次のとおりになる。

契約金 一〇〇万〇〇〇〇円

バンス(前貸金) 一三〇万〇〇〇〇円

前店未収立替(貸金) 三五八万二二二〇円

昭和六〇年一二月三〇日付け貸付金 一〇万〇〇〇〇円

当店未収金 一〇六万五〇〇〇円

ホステス契約金 四六四万二三三〇円

集金済未入金 八三万二一〇〇円

合計 一二五二万一六五〇円

8  右合計金に対し、原告から被告に、次のとおり返済がなされた。

昭和六〇年一二月二八日 三〇〇万〇〇〇〇円

昭和六一年一月三一日 七〇万〇〇〇〇円

昭和六一年二月二〇日 三五〇万〇〇〇〇円

昭和六一年三月二〇日 五〇万〇〇〇〇円

合計 七七〇万〇〇〇〇円

9  よって、被告は原告に対し、差引残高金四八二万一六五〇円及びこれに対する反訴状送達の日の翌日である昭和六一年九月三日から支払ずみまで民法所定年五部の割合による遅延損害金の支払を求める。

六  反訴請求原因に対する認否

1  反訴請求原因1の事実のうち、原告が被告経営のメンバーズクラブアプローズに店長として採用されたことは認めるが、その時期は昭和六〇年一〇月二〇日ころである。その余の事実は否認する。ただし採用時に原告は被告より名目を定めることなく金六〇〇万円を借り受けた。

2  同2の事実は否認する。

3  同3の事実は認める。

4  同4、5の事実は否認する。

5  同6の事実のうち、昭和六〇年一一月分の給料より金四〇万円、同年一二月分の給料より金二五万円、昭和六一年一月分の給料より金三〇万円、原告が被告に返済したことは認めるが、その余の事実は否認する。

6  同8の事実は認める。

七  反訴請求に対する抗弁

反訴請求原因3の貸金については、昭和六一年一月分の給料から未収花代として差し引かれている。

八  右抗弁に対する認否

否認する。

第三証拠(略)

理由

一  本訴請求原因について

本訴請求原因事実は当事者間に争いがない。

二  本訴請求に対する抗弁並びに反訴請求原因について

反訴請求原因3、8の事実、同1の事実のうち原告が被告経営のメンバーズクラブアプローズに店長として採用されたこと、同6の事実のうち、昭和六〇年一一月分の給料より金四〇万円、同年一二月分の給料より二五万円、昭和六一年一月分の給料より金三〇万円、原告が被告に返済したことは、いずれも当事者間に争いがない。

(証拠略)を総合すれば、反訴請求原因1のうちその余の事実、同2、4及び5の事実並びに本訴請求に対する抗弁1及び3の事実が認められる(ただし、ホステス契約金中ユリに対する前店未収分四〇万円については認めるに足る証拠はない。)。

なお、反訴請求原因2記載のような契約が、公序良俗に反するか否かについては、議論の存するところであるが、原告から、その旨の主張がないので判断しない。

本訴請求に対する抗弁2の事実のうち、給料を当店未収金の一部返済に充当処理する旨の事前の原被告間の合意がなされたことを認めるに足る証拠はなく、その他、賃金全額払の原則にもかかわらず、このような充当処理が許容される事情は認められない。

三  反訴請求に対する抗弁について

同抗弁事実を認めるに足る証拠はない。

四  よって、原告の本訴請求は、昭和六一年二月分の未払給料四一万一三五〇円及びこれに対する弁済期の後である昭和六一年六月六日から支払ずみまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度において理由があるからこれを認容し、その余は失当であるからこれを棄却することとし、被告の反訴請求のうちホステス契約金中ユリに対する前店未収分四〇万円を除いた分については理由があるのでこれを認容し、その余は失当であるからこれを棄却することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条九二条本文を、仮執行の宣言につき同法一九六条を(主文第五項につき仮執行宣言の申立については、相当でないからこれを却下する。)それぞれ適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 土屋哲夫)

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