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大阪地方裁判所 昭和61年(ワ)9876号 判決 1987年6月23日

原告

大阪市街地開発株式会社

右代表者代表取締役

山下正行

右訴訟代理人弁護士

長谷川豊次

被告

株式会社マックス商事

右代表者代表取締役

角野博光

右訴訟代理人弁護士

清水敦

高村順久

被告

岩上武雄

右訴訟代理人弁護士

岡時寿

白根潤

被告

山崎鉄朗

右訴訟代理人弁護士

千田適

西口徹

寺内清視

主文

一  被告株式会社マックス商事及び同岩上武雄は各自原告に対し、金一、二七〇、二八四円及びこれに対する別表A(イ)「滞納管理費・納期限並びに延滞金起算日一覧表」の昭和五二年一一月分から昭和五四年一一月分までの「管理費」欄記載の各金員に対する「延滞金起算日」欄記載の日より各完済まで、昭和五二年一一月分から昭和五三年一月分までは年一〇・九五パーセント、同年二月から昭和五四年一一月分までは年一四・六パーセントの割合による金員を加算して支払え。

二  被告岩上武雄は原告に対し、金八五八、三〇八円及びこれに対する別表A(ロ)「滞納光熱水費・納期限並びに延滞金起算日一覧表」の昭和五二年一〇月分から昭和五四年一一月分までの「光熱水費」欄記載の各金員に対する「延滞金起算日」欄記載の日より各完済まで、昭和五二年一〇月分から昭和五三年一月分までは年一〇・九五パーセント、同年二月分から昭和五四年一一月分までは年一四・六パーセントの割合による金員を加算して支払え。

三  被告株式会社マックス商事及び被告山崎鉄朗は各自原告に対し、金九七五、八四三円及びこれに対する別表B(イ)「滞納管理費・納期限並びに延滞金起算日一覧表」の昭和五七年八月分から昭和五八年一〇月分までの「管理費」欄記載の各金員に対する「延滞金起算日」欄記載の日より各完済まで年一四・六パーセントの割合による金員を加算して支払え。

四  被告山崎鉄朗は原告に対し、金三二六、六二五円及びこれに対する別表B(ロ)「滞納光熱水費・納期限並びに延滞金起算日一覧表」の昭和五八年四月分から昭和五八年一〇月までの「光熱水費」欄記載の各金員に対する「延滞金起算日」欄記載の日より各完済まで年一四・六パーセントの割合による金員を加算して支払え。

五  被告株式会社マックス商事は原告に対し金四、四五〇、九七七円及び、

1  うち金一、九七八、二九六円については、別表A(イ)「滞納管理費・納期限並びに延滞金起算日一覧表」の昭和四九年四月分から昭和五二年一〇月分までの「管理費」欄記載の各金員に対する「延滞金起算日」欄記載の日より各完済まで年一割五厘の割合による金員を加算して、

2  うち金一、七二五、九六四円については、別表C(イ)「滞納管理費・納期限並びに延滞金起算日一覧表」の昭和五九年八月分から昭和六一年八月分までの「管理費」欄記載の各金員に対する「延滞金起算日」欄記載の日より各完済まで、年一四・六パーセントの割合による金員を加算して、

3  うち金七四六、七一七円については別表C(ロ)「滞納光熱水費・納期限並びに延滞金起算日一覧表」の昭和五九年七月分から昭和六一年八月分までの「光熱水費」欄記載の各金員に対する「延滞金起算日」欄記載の日より各完済まで、年一四・六パーセントの割合による金員を加算して支払え。

六  原告の被告山崎鉄朗及び同株式会社マックス商事に対するその余の請求は棄却する。

七  訴訟費用は原告と被告岩上武雄との間においてはすべて同被告の負担とし、原告と被告山崎鉄朗との間においてはこれを一〇分しその八を原告の、その二を同被告の各負担とし、原告と被告株式会社マックス商事との間においてはこれを四分しその一を原告の、その三を同被告の負担とする。

八  この判決は原告勝訴部分に限り仮に執行することができる。

事実

第一  当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1  被告らは、各自原告に対し金二、一二八、五九二円及び

(一) うち金一、二七〇、二八四円について主文第一項記載の附帯金を加算して、

(二) うち金八五八、三〇八円について主文第二項記載の附帯金を加算して支払え。

2  被告山崎及び被告会社は、各自原告に対し金四、二八四、〇一〇円及び

(一) うち金九七五、八四三円については主文第三項記載の附帯金を加算して、

(二) うち金三二六、六二五円については主文第四項記載の附帯金を加算して、

(三) うち金一、九七八、二九六円については主文第五項1記載の附帯金を加算して、

(四) うち金一、〇〇三、二四六円については別表A(ロ)一覧表の昭和四九年一一月分から同五二年九月分までの「光熱水費」欄記載の各金員に対する「延滞金起算日」欄記載の日より各完済まで年一〇・五パーセントの割合による金員を加算して支払え。

3  被告会社は原告に対し、金二、四七二、六八一円及び

(一) うち金一、七二五、九六四円については主文第五項2記載の附帯金を加算して、

(二) うち金七四六、七一七円については主文第五項3記載の附帯金を加算して支払え。

4  訴訟費用は、被告らの負担とする。

との判決及び仮執行宣言。

二  請求の趣旨に対する答弁

1  原告の請求を棄却する。

2  訴訟費用は原告の負担とする。

第二  当事者の主張

一  請求原因

1(一)  原告は、大阪市が市街地開発事業により建築した建築物の管理運営並びに市街地再開発事業に関連する施設の建設及び経営を主たる事業目的として、昭和四四年四月一日に設立された株式会社である。

(二)  別紙目録の物件(以下本件物件と称する。)は、建物区分所有等に関する法律の適用をうける大阪駅前第一ビル(以下第一ビルと称する。)の一階の一部にある。

(三)  昭和四四年四月二一日、原告は、第一ビル区分所有者から第一ビルの建物及び敷地の管理を委託された。

(四)  昭和五九年六月二八日改正、同日施行された、駅前第一ビル管理規約第二三条において「管理者はその職務に関し、区分所有者のために原告又は被告となることができる。ただし、原告となるには運営協議会の決議を得なければならない。」と規定しており、原告は右規定にもとづいて運営協議会の決議を得た。

(五)(1)  本件物件については、昭和四四年五月一六日、被告岩上武雄が所有権を取得し、同日同被告が、所有権保存登記をした。

(2)  次いで昭和五四年五月一日訴外朝山昌遠が本件物件を競落し、昭和五四年一一月一五日所有権移転登記を経由した。

(3)  次いで昭和五四年八月八日、売買により被告山崎鉄朗が、本件物件を譲り受け、同年一二月五日所有権移転登記を経由した。

(4)  次いで昭和五八年一〇月三一日売買により、被告会社が、本件物件を譲り受け、同年一一月四日所有権移転登記を経由した。

2(一)  昭和四四年四月二一日制定の管理規約を定める際、区分所有者間で以下の事項が合意された。

(1) 各区分所有者は第一ビル建物の共有部分及び、その敷地の管理費を負担する。

(2) 管理費は、集会の決議で決定され、本件物件に関する額は各別表管理費らん記載のとおりである。

(3) 毎月の管理費をその月末に原告に支払う。

(4) 区分所有者が専有している部分のガス、電気、水道料(以下光熱水費と略称する。)も、毎月末日までに前月分の光熱水費を原告に支払う。

(5) 右(2)(3)の各費用を、所定期日までに支払わなかつた場合、支払期日の翌日から完済に至るまで年一〇・九五パーセント以下の延滞損害金を支払うこと。

(二)  昭和五三年二月一日、同管理規約が以下の様に変更、改正され同日施行され現在に至つている。

(1) 管理費は、毎月二〇日に当月分を原告に支払うこと。

(2) 光熱水費は、毎月二〇日に前月分を原告に支払うこと。

(3) 右(1)(2)の各費用を所定期日に支払わなかつた場合、支払期日の翌日から完済まで、年一四・六パーセントの延滞損害金を支払うこと。

3  第一ビル管理規約において、区分所有者は専有部分に直接使用される電気、ガス、水道などの使用料を負担し、管理者に支払う、と規定され、専有部分の光熱水費の徴収については、管理者が取り扱う業務とされている。

4  被告岩上は、昭和五二年一一月分から昭和五四年一一月分まで、別紙A(イ)一覧表の管理費欄記載の各管理費合計金一、二七〇、二八四円及び昭和五二年一〇月分から昭和五四年一一月分まで、別紙A(ロ)一覧表の光熱水費欄記載の、各光熱水費合計八五八、三〇八円を滞納した。

5  被告岩上は、昭和四九年四月分から、昭和五二年一〇月分まで別紙A(イ)一覧表の、管理費欄記載の各管理費、合計一、九七八、二九六円を滞納し、昭和四七年一一月分から昭和五二年九月分まで、別紙A(ロ)一覧表の光熱水費記載の各光熱水費合計一、〇〇三、二四六円を滞納した。

右滞納金については、原告は被告岩上に対し訴えを提起し、昭和五二年(ワ)第六七四〇号管理費等請求事件としてすでに本案判決がなされ確定した。

6  被告山崎は、本件物件の所有者であつた期間のうち、昭和五七年八月分から、昭和五八年一〇月分まで別紙B(イ)一覧表の管理費欄記載の各管理費合計九七五、八四三円及び昭和五八年四月分から同年一〇月分までの別紙B(ロ)一覧表の光熱費欄記載の各光熱費合計三二六、六二五円を滞納した。

7  被告会社は、昭和五九年八月より昭和六一年八月まで別紙C(イ)一覧表記載の管理費欄記載の各管理費合計一、七二五、九六四円及び別紙C(ロ)一覧表記載の光熱水費記載の各光熱水費合計七四六、七一七円を滞納した。

8(一)  本件光熱水費は次のような特殊性を有している。

第一ビルは大阪駅前市街地改造事業によつて建築された大規模複合用途ビルであつて地上三階から地下二階までと地上一二階が店舗階、地上四階から地上一一階までが事務所階で、入居戸数は総数三〇一戸におよんでおり、その建築完成は昭和四四年である。

第一ビルは、その構造上及び設備の実体から建設当初より、電気、ガス、水道のすべてが原供給者との一括受給方式を採用してきたものである。

第一ビルがこのような一括需給契約を採用している主な理由は次のとおりである。

水道の供給については、ビルの構造上、給水装置の設備は建物内部の店舗事務所の構造や数に関係なく、ビル全体に対して受水槽方式による一括給水装置として定められており、法令等の制約を受けている為である。

次に電気については昭和四八年九月に、電気事業法の規定に基づく電気供給契約の一部が改正され、集合ビルの場合に於ても各戸の所有者が異なる場合には、各部分を一需要場所とすることができることになつたが、従来の一括需給方式を個別需給方式に変更するには、既存の設備(受変電設備等)計量器等を区分所有者の負担で、しかも一斉に変更する必要があるが、各区分所有者の営業を継続させながら、これらの工事を実施するとなれば経済的にも物理的にも困難であるため、一括需給方式を継続せざるを得ない状況である。

このように電気、ガス、水道の供給については、それぞれ法令等の定めがあるだけでなく、ビルそのものの構造上、或は既に設置されている受変電設備・計量器・共同設備(共同便所・炊事場)等の実態から制約を受け、一括需給方式を採用せざるを得ないためビル発足当初から、これらの業務を管理者の取扱う業務として管理規約で定め、行つているものである。

第一ビルの電気、ガス、水道の検針は、ビル全体が一括受給しているため、主メーター(取引メーター)により行い、区分所有者の専有部分に於ける光熱水費は、各戸メーター(私設メーター)に基づいて管理者が計算し、その残りの部分の光熱水費が、管理費用に組み込まれているのである。管理者は主メーターの検針に基づいて専有部分及び共用部分の請求総額を一括して原供給者に立て替え支払いをした後、各区分所有者に請求しているものである。即ち当ビルの光熱水費は、当ビルの構造上及び設備上、相互に切り放すことのできない、一体的な要素をもつており、専有部分の光熱水費もいわば広義の管理費というべきものである。

このように管理者がその費用を全体で一括して取扱わなければならない関係にあるため、この業務を管理規約において管理者の取扱う業務として規定し、更に管理費とともに専有部分の光熱水費についても毎年度の区分所有者集会において、その決算等につき区分所有者の決議を得ているものであつて、まさに区分所有法第七条一項に規定する「規約若しくは集会の決議に基づき他の区分所有者に対して有する債権」である。

(二)  本件光熱水費は右に述べたとおり極めて公共性の強い費用であつて共用部分の管理費と全く同一の取扱いを受けるべきものであるので、本件管理費及び光熱水費は区分所有法第八条(改正前第一五条)により、その支払義務は、本件物件の特定承継人にそれぞれ承継されるべきものである。したがつて、被告岩上のそれは、同山崎及び被告会社が、被告山崎のそれは被告会社がいずれも承継する。

(三)  よつて原告は被告らに請求の趣旨記載のとおりの判決を求める。

三  請求原因に対する認否

1  被告会社

請求原因1(一)、(二)、(三)、(五)及び7の事実は認め、同3及び8(二)(三)の事実は否認し、その余の事実は不知。(同1(四)、8(一)の事実は明らかに争わない)

2  被告岩上

請求原因1(一)、(二)、(三)、(五)及び2(二)の事実は認める。同4の事実中被告岩上が管理費、光熱水費の支払を怠つていることは認めるが光熱水費の金額は不知。同3及び8(二)(三)の事実は争う。その余の請求原因事実は不知。(同1(四)、8(一)の事実は明らかに争わない)

3  被告山崎

請求原因1(一)、(二)、(三)、(五)及び6の事実は認め、同3及び8(二)(三)の事実は争う。その余の請求原因事実は不知。(同1(四)、8(一)の事実は明らかに争わない)

四  被告山崎の抗弁及び主張

1  区分所有法第八条によれば、区分所有者や管理者は、債務者の特定承継人に対して請求することができる、と規定するのみで支払義務を承継するとは規定していない。同条の立法趣旨は、管理費等は区分所有権の価値に化体しているか、団体的に帰属する財産を構成しているのであるから、これらの債権は、特定承継人に対して行使できることとするのが相当である、と考えられるからである。従つて同条の特定承継人とは、現に価値や財産を享受する現在の区分所有者に限られるべきである。

2  仮に、被告山崎に対して被告岩上の債務を請求できるとしても管理費や光熱費等は民法一六九条の定期給付債権に該当するのであつて五年の短期消滅時効にかかるものである。

従つて昭和五六年一〇月二九日以前の管理費や、光熱費等は消滅時効が完成しているので時効を援用する。

五  被告山崎の主張、抗弁に対する認否、反論

1  区分所有法八条に定める特定承継によつて承継人に発生した債務は免責的債務引受けなど特別の免責事由のないかぎり消滅することはないのであるが、被告山崎においてこのような事由が生じていない。

2  民法一六九条にもとづく消滅時効の主張は否認する。本件請求に係る債権は民法一六七条所定の債権である。

第三  証拠関係<省略>

理由

一請求原因1(一)、(二)、(三)及び(五)の事実は当事者間に争いがなく、同1(四)の事実は被告らにおいて明らかに争わないので自白したものとみなす。

<証拠>によれば請求原因2ないし7の事実を認めることができる(但し、被告会社は同7の事実、被告山崎は同6の事実につき争わない)。

請求原因8(一)の事実中、光熱水費に関し本件ビルにおいて原告主張の事情から原供給者との一括受給方式がとられ、本件光熱水費が各戸メーターにもとづいて管理者が計算したものであることは被告らにおいて明らかに争わないので自白したものとみなす。

二以上認定事実にもとづいて原告の本訴請求の当否について検討する。

本件において法の適用上問題となるのは、昭和四九年四月から同五八年一〇月までの本件管理費及び同四七年一一月から同五八年一〇月までの本件光熱水費に関し、第一に、右本件光熱水費は区分所有権者の特定承継人の負担となるか否かということ、並びに本件管理費及び光熱水費は特定承継が輾々となされた場合にその中間者たる特定承継人の負担ともなるか否かということである。

建物区分所有法は昭和五八年法律第五一号をもつて改正され、同五九年一月一日に施行されたのであり、右問題点に関し現行の同法八条(以下新規定八条という)があり、これは新設規定であるが、右改正前に同種類の規定として同法一五条(以下旧規定一五条という)があつた。

まず、本件光熱水費が区分所有権者の特定承継人の負担となるか否かという点についてみる。

新規定八条及びその引用する右改正後の同法七条一項をみると、本件光熱水費のごとき光熱水費は区分所有者が規約若しくは集会の決議にもとづき他の区分所有者に対して有する債権に当たり、区分所有者の特定承継人の負担となるものと解せられるけれども、旧規定一五条をみると「共有者が共用部分につき他の共有者に対して有する債権は、その特定承継人に対しても行なうことができる。」と定められ、同規定は民法二五四条と同趣旨に出たものである。それゆえ、旧規定一五条の立法趣旨をみると、それは共用部分につき出費を余儀なくされた場合に他の区分所有者が自己の区分所有権を他に売却する等特定承継に当る行為をなして責任を回避することを防止するにあるというべきであるが、他方、右費用につき公示を欠くために生じる特定承継人の不利益をも考慮すべきであるというべきである。そうすると右の共用部分についての債権は限定的に解すべきであり、旧規定一五条の共用部分につき有する債権は文言どおり共用部分について生じたものというべきであり、本件光熱水費のように各区分所有者の専用部分における営業、居住等のために生じたものまで含めるべきではないというべきである。

そして、右改正法附則二条但書によると、改正前の規定によつて生じた効力を妨げるべきではないので、旧規定一五条によつて生じた本件光熱水費に関する右効力は妨げられないものというべきである。

前記法の適用上問題となる本件光熱水費が改正法施行前に生じたものであることは前記のとおりであるので、原告の被告山崎及び被告会社に対する本件光熱水費に関する区分所有権者の特定承継人としての責任追及に係る請求は理由がないこととなる。

次に、中間者たる特定承継人が旧規定一五条の特定承継人に当たるか否かについてみる。

旧規定一五条が民法二五四条と同趣旨に出た規定であつて、同条の立法趣旨が前記のとおりであると解するとき、負担となるべき共用部分についての債権は区分所有権がそのひき当てとなつており、かつ特定承継人の債務負担はその限りにおいてのみ意味があるものと解すべきである(民法二五四条に関する、石田文次郎・物権法論四九三頁及び横田秀雄・改訂増補物権法四〇二頁参照)。それゆえ、旧規定一五条に定める特定承継人はその負担を支える区分所有権を現に有する特定承継人に限られると解すべきである。

そして、このことわりは、新規定八条に定める特定承継人についても妥当することであり、経過措置に関する前記改正法附則について論じる余地はない。

それゆえ、原告の本件管理費についての右の中間者たる特定承継人に当たる被告山崎に対する請求は理由がないことに帰する。

三消滅時効の抗弁についてみるに、原告の請求に係る本件管理費及び本件光熱水費の請求権は区分所有者が区分所有権を有すること及び光熱水費相当額の立替払を受けたことにもとづいて、その都度生じる債権であり、基本たる債権にもとづいて毎期に生じる支分権たる債権ではない。それゆえ、これら債権が民法一六九条にいう定期給付債権にあたることを前提とする消滅時効の抗弁は、その余の点について判断するまでもなく採用しえない。

四以上の次第で、原告の被告岩上に対するすべての本訴請求、被告山崎に対する同被告の所有期間に発生した管理費及び光熱水費に関する本訴請求、被告会社に対する同被告所有期間に発生した管理費及び光熱水費並びに被告岩上及び同山崎の所有期間に生じた管理費に関する本訴請求は理由があるのでこの限度で認容すべきであるが、被告山崎及び被告会社に対するその余の本訴請求は棄却を免れない。

よつて、民事訴訟法八九条、九二条、九三条、一九六条を適用し主文のとおり判決する。

(裁判官東 孝行)

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