大阪地方裁判所 昭和61年(行ウ)29号 判決 1989年7月06日
原告
松田勲
右訴訟代理人弁護士
仲田隆明
同
後藤貞人
被告
大阪府教育委員会
右代表者委員長
若槻哲雄
右訴訟代理人弁護士
比嘉廉丈
右指定代理人
西村嘉一
同
辻田宣伸
同
中田敏夫
同
谷口廣司
主文
原告の請求を棄却する。
訴訟費用は原告の負担とする。
事実
第一当事者の求めた裁判
一 請求の趣旨
1 被告が昭和六〇年一二月一九日付で原告に対してなした懲戒免職処分を取消す。
2 訴訟費用は被告の負担とする。
二 請求の趣旨に対する答弁
主文同旨
第二当事者の主張
一 請求原因
1 原告は、大阪府立東豊中高等学校(以下「東豊中高校」という)の教員であったところ、被告は原告に対し昭和六〇年一二月一九日付で懲戒免職処分(以下「本件処分」という)をなした。原告は、本件処分を不服として、同六一年一月二二日大阪府人事委員会に対して不服申立をし、三箇月以上経過したが、同委員会は裁決または決定をしない。
2 よって、本件処分の取消を求める。
二 請求原因に対する認否
請求原因1は認める。
三 抗弁
本件処分は以下述べるとおり正当である。
1 新東京国際空港建設第二期工事の実力阻止を標榜する三里塚芝山連合空港反対同盟北原派グループ及び中核派等の極左暴力集団併せて約四〇〇〇名は、昭和六〇年一〇月二〇日「成田闘争二期工事阻止、不法収用法弾劾、東峰十字路裁判闘争勝利」全国総決起集会を三里塚第一公園(以下「第一公園」という)で開き、デモ行進を行った。右集会及びデモ行進は千葉県公安委員会の許可を受けていたが、集会終了後、中核派を中心とする数百名は、同委員会へ届け出たデモコースから外れて第三ゲートから空港内突入を図り、付近を警戒中の警察部隊に対し石や火炎びんを投てきし、丸太・角材・鉄パイプを使用する等街頭武装闘争を行い、二四一名が凶器準備集合罪、公務執行妨害罪、火炎びんの使用等の処罰に関する法律違反、傷害罪により現行犯逮捕された。このことはテレビ・新聞等で大きく報道されたが、特に右逮捕者の中に教員四名が含まれていたことは大きな社会的反響を呼び、その父母等に激しい不安と動揺を与え、右四名の教員に対して激しい非難の声が起きた。
2 原告は右集会に参加していたが、集会終了後第一右公園内で集団の一部が警察部隊に対し石・火炎びん・角材・鉄パイプ等による武装行動に及んでも当該集団の一員として行動をともにしたため、凶器準備集合罪、公務執行妨害罪により現行犯逮捕され、引き続き同年一一月一一日まで千葉県船橋西署に勾留された。
原告は、逮捕された場合の対処を事前に同僚に依頼していたこと等から、少なくともある程度は機動隊とデモ隊の衝突や逮捕される可能性を認識して集会、デモ行進に参加したというべきであり、逮捕当日の行動に徴しても、デモ隊が鉄パイプ、角材等を持って機動隊に応戦することを容認し、デモ隊と行動をともにしたものである。
3 一般に公務員は全体の奉仕者として厳格な服務上の義務の履行が求められるが、教育公務員特例法が制定されていること等に照らせば、とりわけ教育公務員たる教員は、その職務と責任の特殊性から他の公務員より一層高度な服務上の義務が課せられており、かつ、右義務違反の行為に対する責任は厳格でなければならないと考えられる。原告の右行為は、教育公務員としての社会的信用を著しく損なうものであるから地方公務員法(以下「地公法」という)三三条に違反するとともに、逮捕勾留期間中、東豊中高校に勤務せず同校の校務運営に多大な支障を与えたことに鑑みれば、同法三五条にも違反するというべきである。そこで、被告は、原告の右行為は同法二九条一号ないし三号に該当するとして、本件処分に及んだものである。
原告は右欠勤は原告自身の帰責事由によるものでなく、かつ有給休暇の承認を得ていると主張するが、原告に対する逮捕勾留は、原告自身の行為に対するものであるから、これに伴う欠勤の責任が問われるのは当然である。なお、原告提出の年休届について東豊中高校豊田校長は、不承認の意思表示を行っている。
四 抗弁に対する認否
1 抗弁1のうち、被告主張の集会、デモ行進が行われたこと、右集会及びデモ行進は公安委員会の許可を受けていたこと、右集会参加者のうち二四一名が凶器準備集合罪、公務執行妨害罪、火炎びんの使用等の処罰に関する法律違反、傷害罪により現行犯逮捕されたこと、このことがテレビ・新聞等で大きく報道されたことは認め、右集会参加者が約四〇〇〇名であったことは否認し、その余は不知。右集会参加者は約一万名であった。
2 同2のうち、原告が右集会に参加したこと、集会終了後、集団の一部が警察部隊に対し石・火炎びん・角材・鉄パイプ等により応戦したこと、原告が凶器準備集合罪、公務執行妨害罪により現行犯逮捕され、同年一一月一一日まで勾留されたことは認め、原告が右集団の一員として行動をともにしたことは否認し、その余は争う。
3 同3は争う。
五 抗弁に対する反論
本件処分は以下述べるとおり違法・無効である。
1 非行事実の不存在
原告は被告主張の集会に参加したが、角材で機動隊に殴りかかったこともなければ、投石をしたこともない。集団の先頭部分の者らが角材等により機動隊に応戦したことは、機動隊が攻撃を始めたため突発的に生じたものであり、原告が事前に角材所持者らと共謀したことはなく、さらに突発的、かつ、混乱の中で、現場共謀の成立するような状況でもなかった。
当日のデモ参加者のうち二四一名もが逮捕され、このうち第一公園での逮捕者が一〇〇名にのぼっているが、警察は現場の混乱から逃げていく集会参加者をも無差別に逮捕したのである。被告は本件処分に際して警察官や検察官から事情聴取をしているが、原告の行動について具体的説明がなされた形跡はなく、逮捕後の写真以外の証拠を示された形跡もないから、原告の非行を認定すべき具体的証拠資料は、ないものと推認される。そして検察官は十字路付近で逮捕した者のうち五六名を起訴したが、第一公園内で逮捕した一〇〇名全員を不起訴にしていること、十字路付近では火炎びん、角材、鉄パイプ、投石等による激しい衝突があったのに対して、第一公園付近では角材を所持していた者が一部にすぎなかったこと、原告は角材、石等を所持していなかったこと等の事実によると、原告が実行行為に及んだと認めることはできず、さらに、原告と十字路付近の者らとの共謀は勿論、第一公園付近で角材で応戦した者らとの間でも共謀を認めることはできない。したがって、原告の不起訴の理由が「起訴猶予」になっていたとしても、実質は証拠上原告の起訴事実の認定が困難であったからに相違ない。
被告は、原告の責任は十字路付近で警察官と衝突した者の行為にも及ぶというが、失当であることは検察官の右取扱に徴しても明らかである。
被告は、警察官や検察官の伝聞による説明、推測のみをもとに原告の非行事実を確定し、本件処分に及んだのであり、不当である。なお、地公法二八条二項はいわゆる起訴休職を定めているが、原告は不起訴となったにもかかわらず、被告は右のように証拠ともいえないような情報に基づき免職という重大な本件処分をしたものである。
2 校務運営上の支障
いかなる職業であれ、職員が休めば何らかの支障は生ずるにもかかわらず、法は有給休暇の制度を認めている。原告は岡島こと宮武章治を通じて豊田校長宛に有給休暇の申請をし、同校長はこれを受理した。ところが同校長は被告と協議のうえ「校務運営上の支障」を理由に承認できない旨の通知を一一月二日付け内容証明郵便で山下弁護士宛に送付した。しかし被告及び同校長は、一旦承認した有給休暇を取消す訳にもいかないから、一一月五日までは有給休暇を承認し、翌六日から同月一二日まで欠勤扱いにすることにした。したがって右五日までに生じた校務運営上の支障は処分理由にならない。ところが豊田校長の挙げる右支障とは、一〇月二二日から二六日までの中間考査とか、同月三〇日の全校遠足など一一月五日以前のことが中心になっている。逆に同校長は釈放された原告に自宅待機を命じているが、校長がことさら校務運営上の支障を生ぜしめることはしないはずであるから、原告の右欠勤により校務運営上の支障が生じたとはいえないというべきである。仮に右支障があったとしても、有給休暇の場合と比較して、ことさら大きなものではなかったというべきである。したがって、校務運営上の支障を理由に原告を処分することは著しく不当である。
3 三里塚における集会に参加したこと自体の問題
被告は原告が三里塚闘争に参加したこと自体、教育公務員としてふさわしくない非行であり、府民の信頼を失墜する行為と考えているのであろう。原告が新東京国際空港建設反対の意見を有し、それに基づき集会やデモに参加することは国民の基本的な権利である。
右集会参加者の一部が犯罪行為をしたからといって集会あるいはデモ自体が違法になるものではなく、また、原告が集会参加者の一部が犯罪を犯すかもしれないことを予見していたとしても、集会あるいはデモに参加したことが違法になるものではない。したがって、三里塚闘争に参加したこと自体、教育公務員としてふさわしくない非行であり、府民の信頼を失墜する行為であったとはいえない。
原告は現行犯逮捕されたが、逮捕事実にあたる行為をしていないから、逮捕勾留されたこと自体を非行と評価することはできない。原告は逮捕されることを予期して集会等に参加したわけではなく、今までの経験から不当逮捕されるかもしれない可能性を認識していたにすぎない。
以上のとおり、原告が本件集会に参加し、デモに出ようとしていたことは何ら問題にならない。
4 原告の職務能力
原告は、極めて真面目で優秀かつ熱心な教師であった。また本件処分に対して、同僚教師、卒業生等から原告の早期職場復帰の要望が出されている。原告に対する本件処分が過酷であり違法であることは、明らかである。
第三証拠(略)
理由
一 請求原因1の事実(府立高校の教員であった原告が本件処分を受けたこと及び訴訟要件)は、当事者間に争いがない。
二 そこで、本件処分の当否につき判断する。
1 抗弁1のうち、昭和六〇年一〇月二〇日「成田闘争二期工事阻止、不法収用法弾劾、東峰十字路裁判闘争勝利」全国総決起集会が第一公園で開かれ、デモ行進が行われたこと、右集会及びデモ行進は予め千葉県公安委員会の許可を受けていたこと、右集会参加者のうち二四一名が凶器準備集合罪、公務執行妨害罪、火炎びんの使用等の処罰に関する法律違反、傷害罪等により現行犯逮捕されたこと、このことがテレビ・新聞等で大きく報道されたこと、同2のうち、原告が右集会に参加したこと、集会終了後、第一公園内で集団の一部が警察部隊に対し石・火炎びん・角材・鉄パイプ等により応戦したこと、原告が凶器準備集合罪、公務執行妨害罪により現行犯逮捕され引き続き同年一一月一一日まで千葉県船橋西署に勾留されたことは、当事者間に争いがない。
2 右当事者間に争いのない事実に、(証拠略)原告本人尋問の結果、並びに弁論の全趣旨を総合すれば、以下の事実が認められる。
(1) 新東京国際空港建設第二期工事の実力阻止を標榜する三里塚芝山連合空港反対同盟北原派グループ及び中核派全学連等併せて約四〇〇〇名は、昭和六〇年一〇月二〇日午後〇時ころから千葉県成田市所在の第一公園において「成田闘争二期工事阻止、不法収用法弾劾、東峰十字路裁判闘争勝利」全国総決起集会を開き、同四時すぎころから、デモ行進に移った。右集会及びデモ行進は予め千葉県公安委員会の許可を受けていたが、集会では「機動隊をせん滅し、空港に突入せよ」等のスローガンが掲げられ不穏な空気に包まれており、デモ行進の先頭に立って第一公園を出発した中核派を中心とする約一〇〇名は、そのほとんどがデモ行進開始直前にトラックで運ばれてきた鉄パイプ、角材、火炎びん等を手にし、第一公園から東北東約二〇〇メートル先の三里塚交差点を右折するという同委員会へ届け出たデモコースから外れて、「空港突入」と叫び同交差点を直進して第三ゲートから右空港内突入を図り、付近を警戒中の警視庁機動隊に突入し、これを阻止しようとした機動隊員に対し石や火炎ビンを投てきし、丸太・角材・鉄パイプを使用した。これに対し機動隊は、催涙ガス、放水を浴びせて対抗し、約二時間後にこれを鎮圧したが、付近の街頭は大混乱となった。このとき同交差点から第一公園付近にかけての地域において、原告ら四名の教員を含む二四一名が凶器準備集合罪、公務執行妨害罪、火炎びんの使用等の処罰に関する法律違反、傷害罪等により現行犯逮捕されたが、このうち同交差点付近で逮捕された五六名が千葉地方裁判所に起訴された。なおこれらの事実は、いわゆる三里塚闘争として新聞、テレビ、週刊誌等により広く報道され大きな社会的反響を呼んだ。
(2) 原告ら集団は、右集会終了後、先頭に立って出発した約一〇〇名に続いてデモ行進を開始しようとしたところ、前記のとおり同交差点付近で機動隊と衝突が起こったため前進することができず第一公園付近に止まっていたが、同公園付近においても警備中の機動隊員に対し角材等を使用し、また投石を行う者があり、原告ら集団と機動隊員との間で衝突が起こった。そして原告は、同公園内で凶器準備集合罪、公務執行妨害罪により現行犯逮捕され、引き続き右二罪のほか火炎びんの使用等の処罰に関する法律違反として千葉県船橋西署に勾留され警察官及び検察官の取調べを受けたが、不起訴処分(起訴猶予)になり、同年一一月一一日釈放された。なお第一公園付近で逮捕された約一〇〇名は全員不起訴処分に付された。
以上の事実が認められ、これを左右するに足りる証拠はない。
3 右認定事実によれば、原告はいわゆる三里塚闘争の場において凶器準備集合罪、公務執行妨害罪により現行犯逮捕され、右二罪のほか火炎びんの使用等の処罰に関する法律違反として勾留されたものである。
もっとも、原告は不起訴処分になったため、刑事裁判において犯罪事実が確定されたわけではなく、また、原告が逮捕時において鉄パイプ、角材等の凶器を所持していたこと、自ら機動隊員に対し角材等を振るい、または石や火炎びんを投てきしたことを認めるに足りる証拠はない。
しかしながら、(証拠略)原告本人尋問の結果、弁論の全趣旨を総合すれば、原告は昭和六〇年一〇月八日三里塚芝山連合空港反対同盟等の主催で大阪府豊中市において開催された一〇・八三里塚大集会に参加したこと、右集会はいわゆる三里塚闘争の関西における前夜祭的性格をもっておりそのプログラム(<証拠略>)には機動隊のガス弾を浴びた場合の対策が記載されていること、そこに寄せられたメッセージの中には、「実力闘争」とか「一〇・二〇空港突入」との記載があること、原告は予め、総決起集会にともに参加した宮武章治と自らが逮捕された場合の有給休暇の申出等の手続きについて相談していたのみならず、同僚の教師にも右手続きを依頼していたこと、さらに、原告が逮捕された当日、総決起集会が予定されていた第一公園付近は集会開始前から多数の機動隊員が厳重に警備していたこと、集会前に原告ら参加者に対しヘルメットが配布され原告はこれを着用していたこと、右集会は「機動隊をせん滅し、空港に突入せよ」等のスローガンが掲げられ不穏な空気に包まれていたこと、原告は、デモ行進の先頭集団の多くの者たちがデモ行進開始直前にトラックで運ばれてきた鉄パイプ、角材等を手にして出発したこと及び第一公園付近の原告の周辺にも鉄パイプ、角材等を手にして待機している者が多くいたことを現認していたこと、原告はこれらの者とともに先頭集団に続いてデモ行進に出かける意思であり、集団を難脱する意思を有していなかったこと、機動隊と集会参加者の衝突が最も激しかった三里塚交差点と原告が逮捕された第一公園とは約二〇〇メートルしか離れておらず、同公園付近においても機動隊員との間で衝突が起こったこと、以上の事実が認められ、他にこれを左右するに足りる証拠はない。
右事実によれば、鉄パイプ等の凶器を手にしてデモ行進の先頭に立ち三里塚交差点付近で警備中の機動隊員に対して暴行をふるった者ら及び第一公園付近において角材を手にして機動隊員に対して暴行をふるった者らに凶器準備集合罪及び公務執行妨害罪の実行共同正犯が成立することは明らかである。そして、前記認定のとおり、原告の参加した一〇・八三里塚第集会において、既に「実力闘争」とか「一〇・二〇空港突入」が謳われ、当日の総決起集会においても「機動隊をせん滅し、空港に突入せよ」とのスローガンが掲げられており、また、デモ行進に先立っては、そもそも政治的意見表明の手段たるデモ行進には不要である鉄パイプ、角材等の凶器が配られたことに照らせば、総決起集会後に行われるデモ行進は、最初から、機動隊の警備に対し鉄パイプ、角材等の凶器を用いて実力で抵抗し、公安委員会に届け出たコースを逸脱して空港に突入することを目的としていたと認められるから、右実行正犯者らは原告ら背後に待機していたデモ参加者らの意思、行為と無関係に突発的犯行に及んだのでないというべきこと、原告は一〇・八三里塚大集会及び当日の総決起集会に参加し、空港突入を図るデモ行進が機動隊の規制を受け、右凶器を所持したデモ参加者らがこれに抵抗し、機動隊員に暴行を振るうことは不可避であると認識、認容しながら、第一公園付近の集団を難脱する意思なくここに待機していたと認められ、これらの事情を総合すれば、原告と、デモ行進の先頭に立って鉄パイプ、角材等の凶器を手にして出発した者ら及び第一公園付近において角材等の凶器を手にして待機していた者らとの間で、明示の意思連絡はともかく黙示のそれは肯定できるというべきであり、これらの者らとの間で凶器準備集合罪、公務執行妨害罪における共謀関係を認めるのが相当である。そうすると、原告が前記のとおり現行犯逮捕され、勾留されたことは、適法である。してみれば、原告の右行為は、たとえ休日ないしは有給休暇期間中になされたとしても、地公法三三条に違反する信用失墜行為に該当するとともに同法二九条一号及び三号に該当するものと認められる。
4 懲戒権者は、公務員に懲戒事由がある場合、当該公務員を懲戒処分に付すべきかどうか、また、いかなる懲戒処分に付すべきかについては、裁量権を有しており、懲戒権の行使が、その付与された裁量権の目的を逸脱し、これを濫用したと認められる場合でない限り、当該懲戒処分は適法であると解される。これを本件処分についてみるに、その処分理由は、いやしくも教員たる原告が凶器準備集合罪、公務執行妨害罪を理由として適法に現行犯逮捕、勾留されたことであるところ、かかる原告の行為は、教職の信用を傷つけ、教職全体の不名誉になることは明らかであるから地公法三三条に違反し、しかもその程度は重大であるといわざるを得ないから同法二九条一項所定の「この法律に違反した」程度もまた重大であり、かつ、同条三項所定の「全体の奉仕者たるにふさわしくない非行」の程度も著しいものといわねばならない。そうすると、本件処分が免職処分という重大な結果を生ぜしめることから、その選択に当たっては懲戒権者たる被告に特に慎重な配慮が要請されること、(証拠略)及び弁論の全趣旨から原告が熱心で真面目な国語教師であったと認められることを考慮しても、被告が本件処分をなすに際して、その付与された裁量権の目的を逸脱し、これを濫用したとは認められない。
5 よって、被告が原告に対してなした本件処分は正当であると認められる。
三 以上の次第で、原告の本訴請求は理由がないから棄却し、訴訟費用の負担につき行訴法七条、民訴法八九条を適用して、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 蒲原範明 裁判官 市村弘 裁判官 鹿島久義)