大阪地方裁判所 昭和61年(行ウ)39号 判決 1987年7月30日
豊中市中桜塚三丁目二番三〇号
原告
寺田昌義
右訴訟代理人弁護士
岩崎昭徳
大阪市西淀川区野里三丁目三番三号
被告
西淀川税務署長
北山忠男
右指定代理人
松本佳典
同
足立孝和
同
曽谷義和
同
林俊生
主文
一 本件訴えをいずれも却下する。
二 訴訟費用は原告の負担とする。
事実
第一当事者の求めた裁判
一 請求の趣旨
1 被告が、原告に対し、昭和五九年一二月一九日付でした原告の昭和五六年分ないし昭和五八年分の所得税についての各更正の請求に対する更正すべき理由がない旨の各通知処分を取消す。
2 訴訟費用は被告の負担とする。
二 請求の趣旨に対する答弁
1 本案前の答弁
主文同旨
2 本案の答弁
(一) 原告の請求をいずれも棄却する。
(二) 訴訟費用は原告の負担とする。
第二当事者の主張
一 請求原因
1 原告は、寺田印刷の名称で、印刷業を営むものである。
2(一) 原告は、法定申告期限までに、被告に対し、昭和五六年分ないし昭和五八年分(以下「本件係争各年分」という。)の所得税について、別表(1)記載のとおり、青色申告をした。
(二) 原告は、昭和五九年五月一八日、被告に対し、昭和五八年分の所得税について、別表(2)記載のとおり、修正申告をし、昭和五九年五月二五日、被告から、この分につき、税額一万二五〇〇円とする過少申告加算税賦課決定処分を受けた。
(三) 原告は、同年七月三〇日、被告に対し、本件係争各年分の所得税について、別表(3)記載のとおり、修正申告をし、同年八月二七日、被告から、税額を、昭和五六年分については一万六〇〇〇円、昭和五七年分については一万九〇〇〇円、昭和五八年分については五万二四〇〇円とする各過少申告加算税賦課決定処分を受けた。
(四) 原告は、昭和五九年九月一八日、被告に対し、本件係争各年分の所得税について、原告が妻である寺田正子(以下「正子」という。)に対して支払つた本件係争各年分の正子の給与を、それぞれ青色事業専従者給与として必要経費に算入すべきであるとして、別表(4)記載のとおり、更正請求をしたところ、被告は、同年一二月一九日、原告に対し、更正すべき理由がない旨の各通知処分(以下「本件各処分」という。)をした。
3 そこで、原告は、昭和六〇年二月一二日、異議申立をすることなく、直接、国税不服審判所長に対し、審査請求をしたところ、同所長は、昭和六一年四月九日審査請求をいずれも棄却する旨の裁決(以下「本件裁決」という。)をなし、その裁決書謄本(以下「本件裁決謄本」という。)は、同月二五日、原告に配達され、原告は、同年五月六日、本件裁決えあつたことを知つた。原告が、本件裁決のあったことを知った経緯は、次のとおりである。
(一) 大阪国税不服審判所から原告及び正子のそれぞれに宛てたダンボール箱製の小包二個(以下「本件各小包」という。)が、昭和六一年四月二五日、原告の経営する寺田印刷の工場に配達され、原告の従業員である森俊三(以下「森」という。)が、同日、これらを受取った。しかし本件各小包は、開封されないまま、同月三〇日、原告によって、寺田印刷の請求書等は一緒に正子の経営する喫茶店ベルケに持参され、正子に手渡された。
(二) 正子は、早速、大阪国税不服審判所の担当者に架電し、同人に対し、「立会いもなしに小包を開封して、もし足りない場合はどうするのですか。」などと詰問したところ、同人は、正子に対し、「開封して足りないものがあれば電話をして下さい。」と返事したが、正子は、右各小包に「裁決書謄本在中」等の表示もなく、この中に、本件裁決書謄本が入つているとは思ってもいなかったので、右各小包を開封せず、そのままにしておいた。
(三) 正子は、同年五月六日、はじめて本件各小包を開封したところ、一方の小包に、本件裁決書謄本が在中していることを知った。
(四) ところで、正子は、寺田印刷では、製版、印刷加工等以外の仕事をすべて行っていたから、原告が本件裁決のあったことを知らなくても、正子が本件裁決のあったことを知つた日を原告が本件裁決のあったことを知った日と同視してよいところ、正子が本件裁決のあったことを知つた日は、右のとおり、同年五月六日であるから、原告も同日これを知ったというべきである。
(五) 本件裁決書謄本の送達は、返還すべき書類と一緒に小包に入れ、裁決書謄本の在中していることを示す表示もなく送付されたもので、方式違背である。
4 被告が本件各処分の理由とし、本件裁決でも維持された理由の要旨は、次の通りである。
(一) 昭和五六年分及び昭和五七年分の所得税についての各更正の請求は、国税通則法二三条一項に規定する法定申告期限から一年を徒過してなされた不適法なものであり、また、右期限内に更正の請求をすることができなかったことについて、同条二項に規定するやむを得ない理由があると認めるべき資料もない。
(二) 昭和五八年分の所得税についての更正処分は、正子につき、所得税法施行令一六五条二項二号に規定する「その職業に従事する時間が短い者その他当該事業に専ら従事することが妨げられないと認められるもの」に該当すると認めることはできず、理由がない。
5 しかしながら、被告がなした本件各処分は、次のとおりいずれも違法である。
(一) 昭和五八年分についての被告の通知処分の違法
(1) 原告の所得を過大に認定した違法
寺田印刷においては、原告が印刷工場内での製版、印刷加工等の業務に専念していたのに対し、正子は、開業以来、銀行との取引、交渉、顧客との営業上の取引、交渉、集金と諸経費の支払及び帳簿の作成等経費全般を把握していたのであるから、正子は青色事業専従者であり、また、原告が正子に対して支払った給与は、原告の事業と同種、同規模の事業の専従者の一人当たりの平均給与額に照らして労務の対価として相当なものであるから、これを必要経費に算入すべきであるのにこれをしなかったのは、原告の所得を過大に認定した違法がある。
(2) 原告は、昭和三六年の寺田印刷の開業以来、継続して青色申告によっており、昭和五二年二月三日に正子が喫茶店を開業した際、豊能税務署から、寺田印刷の関係では、正子は、専従者ではなく、従業員として申告するように指導されたので、右指導にしたがって、申告してきたが昭和五七年度の申告分に至るまで、税務署から何ら指示、更正処分をうけたことがなかった(正子も、右税務署に対し、寺田印刷給与と明記のうえ、これを喫茶店営業の所得と合わせて申告してきたが、右税務署は、これまで何ら更正処分をしなかつた。)にもかかわらず、被告は、原告の昭和五八年分の所得税についての更正の請求に対し、原告が正子に対して支払った給与が、従業員給与にあたることを否認し、また、青色事業専従者給与にあたることも否認して、原告に対し、更正すべき理由がない旨の通知処分をしたのは、税法上の信義則に違反する。
(二) 昭和五六年分及び昭和五七年分についての被告の各通知処分の違法
税務署長による課税処分は遡ることができるのに、課税処分の実体を争う納税者の更正の請求は遡ることができないというのは明らかに公平に反するから右二年分の所得税についての各更正の請求についても、正子の給与額が必要経費と認められるべきである。
6 よって、原告は、被告に対し、本件各処分の取消を求める。
二 被告の本案前の主張
本件訴えは、出訴期間を徒過したもので不適法である。
行訴法一四条四項によれば、審査請求をした者は、裁決があつたことを知つた日から起算して三か月以内に取消訴訟を提起しなければならないと規定されており、この場合の三か月の期間には初日が算入されることになつている。(最高裁判所昭和五二年二月一七日判決民集三一巻一号五〇頁。)。ところで、本件裁決がなされたのは、昭和六一年四月九日であり、本件裁決書謄本は、同月二五日、原告に対し、送達されたところ、裁決書の送達を受けた者は、特段の事情のないかぎり、右送達の日に裁決のあったことを知つたと推定すべきであるから、本件においても、原告は、裁決書謄本の送達のあった右の日に、本件裁決があったことを知ったと推定すべきである。また、本件裁決書謄本が、返還される書類と一緒に小包の中に入っていたとしても、小包の表面には「裁決書謄本在中」との表示がなされているから、右の事実は前記推定を覆すに足りる特段の事情とは到底いえない。そうすると、原告は、昭和六一年七月二四日までに本件訴えを提起すべきであったのに、同月二五日にこれを提起したのであるから、本件訴えは、出訴期間を徒過した不適法なものとして却下されるべきである。
第三証拠
証拠関係は、本件記録中の書証目録及び証人等目録記載のとりであるから、これを引用する。
理由
一 本件訴えが出訴期間内に提起された適法なものといえるかどうかについて判断する。
1 成立に争いのない乙第一号証、調査嘱託の結果、証人寺田正子の証言並びに弁論の全趣旨を総合すると、次の事実が認められる。
(一) 原告は、寺田印刷の名で印刷業を営み、大阪市西淀川区姫島二丁目五番一五号所在の工場で、主に製版、印刷等の仕事に従事していた。
(二) 本件裁決は、昭和六一年四月九日になされ、本件裁決書謄本は、同月二五日、原告が証拠書類として大阪国税不服審判所に提出していた寺田印刷の帳簿などとともに、縦横が、大学ノート大で、厚さ約一〇センチメートル位の大きさの段ボール箱に入られ、原告宛の小包郵便物として、原告の前記印刷工場に配達さた。原告の従業員である森は、右郵便物を受領し、同日、右工場内でこれを原告に手渡した。
(三) 右郵便物には、表面にゴム印で押捺された縦約一・二センチメートル、横約五・五センチメートルの黒線の枠の中一杯に横書で黒字の「裁決書謄本在中」との記載があつた。
以上の事実が認められ、右認定を覆すに足りる証拠はない。
2 原告は、本件裁決書謄本の送達は返還すべき書類と一緒に小包に入れ、裁決書謄本の在中していることを示す表示もなく送付されたもので、方式違背である旨主張するが、前記1の認定事実によれば本件裁決書謄本は、表面に「裁決書謄本在中」と表示した小包郵便物として、送達を受けるべき原告の事業所たる印刷工場に昭和六一年四月二五日、配達され、原告の従業員が同日これを受取ったのであるから、本件裁決書謄本は、同日、原告に対し、郵便によって適法に送達されたものというべきであつて、本件裁決書謄本が返還を受けるべき証拠書類とともに小包郵便物に在中していたからといって、その送達が違法となるということはできない。
3 ところで、取消訴訟は、処分または裁決があったことを知った日から三か月以内に提起しなければならないものであり、処分または裁決につき審査請求をした者については、右期間は審査請求に対する裁決があったことを知った日から起算すべきである(行訴法一四条一項、四項)。そして、右にいう裁決があつたことを知った日とは、審査請求者が裁決書の謄本を受領するなどして裁決のあつたことを現実に知つた日を指すものであり、また、右出訴期間は、裁決があつたことを知つた日を初日とし、これを期間に算入して計算すべきものを解するのが相当である。
これを本件についてみると、前記1の認定事実によれば、本件裁決書謄本は、昭和六一年四月二五日、郵便によって原告の事業所に送達され、原告は、同日、右郵便物を従業員の森から受取ったものであって、右郵便物は、原告に返還される帳簿などとともに小包とされてはいたが、その大きさは、たかだか大学ノート大で、約一〇センチメートルの厚さのものであり、その表面には、ゴム印で押捺された縦約一・二センチメートル、横約五・五センチメートルの黒線の枠の中一杯に黒字の「裁決書謄本在中」との表示があったのであり、右小包の大きさ・形状、その表面の表示の大きさ・方式に照らせば、原告は、森から右郵便物を受取つた際に当然右表示を認識し、右郵便物に本件裁決書謄本が在中していることを知ったものと認めるのが相当である。
そうすると、原告は、昭和六一年四月二五日に本件裁決の存在を現実に知ったものというべきであり、本件訴えの出訴期間は、同日から起算すべきところ、本件訴えは、右の日から三か月を経過した後である同年七月二五日に提起されたことは本件記録上明らかである。
二 よって、本件訴えはいずれも不適法であるから、これを却下することとし、訴訟費用の負担について行訴法七条、民訴法八九条を適用して、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 山本矩夫 裁判官 佐々木洋一 裁判官 植屋伸一)
別表 (注)△印は損失金額を示す。
(1)
<省略>
(2)
<省略>
(3)
<省略>
(4)
<省略>