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大阪地方裁判所 昭和61年(行ウ)43号 判決 1989年11月14日

堺市出島海岸通り一丁二番六号

原告

小田中貞

同所

小田中順

右両名訴訟代理人弁護士

大江洋一

堺市南瓦町二丁二〇番

被告

堺税務署長

毛家村光司

右指定代理人

下野恭裕

山越基博

石川幸助

堀秀行

主文

一  原告らの請求をいずれも棄却する。

二  訴訟費用は原告らの負担とする。

事実

第一当事者の求める裁判

一  請求の趣旨

1  被告が、原告小田中貞に対し、昭和五九年七月六日付けで同原告の昭和五八年分の所得税についてした、課税長期譲渡所得の金額及びこれに対して納付すべき税額を更正する旨の処分並びに重加算税の賦課決定を、いずれも取り消す。

2  被告が、原告小田中順に対し、昭和五九年七月六日付けで同原告の昭和五八年分の所得税についてした、課税長期譲渡所得の金額及びこれに対して納付すべき税額を更正する旨の処分並びに重加算税の賦課決定を、いずれも取り消す。

3  訴訟費用は被告の負担とする。

二  請求の趣旨に対する答弁

主文と同旨

第二当事者の主張

一  請求原因

1  原告小田中貞(以下「原告貞」という。)及び同小田中順(以下「原告順」という。)は、昭和五八年分の課税長期譲渡所得の金額及びこれに対して納付すべき税額につき、それぞれ、別表1及び2の確定申告欄記載のとおり確定申告をしたところ、被告は、昭和五九年七月六日付けをもって、各原告に対し、同表の更正処分欄記載のとおり、課税長期譲渡所得の金額及びこれに対して納付すべき税額を更正する旨の処分(以下「本件更正処分」という。)並びに同表賦課決定欄記載のとおりの重加算税の賦課決定(以下「本件重加算税賦課決定」という。)をした。

2  しかし、本件更正処分は、長期譲渡所得の金額の認定を誤った結果されたものであり、また、本件重加算税賦課決定はその要件がないにもかかわらずされたものであって、いずれも違法であるから、その取消しを求める。

二  請求原因に対する認否

請求原因1の事実は、すべて認める。

三  被告の主張

1  各原告の昭和五八年分の課税長期譲渡所得

各原告の昭和五八年分の課税長期譲渡所得の金額は、別紙物件目録1ないし3記載の土地及び建物(以下、右土地を「本件土地」、右建物を「本件建物」という。)の譲渡価額から取得費及び譲渡費用の額を控除し、その残額の合計額(長期譲渡所得金額)から、長期譲渡所得の特別控除額及び所得控除額を控除して算出したものであり、その根拠は次のとおりであるほか、計算関係の明細は、別表3及び4記載のとおりである。

(一) 譲渡価額

(1) 原告らは、昭和五八年三月二六日、本件土地及び建物を、有限会社幸運住宅(以下「幸運住宅」という。)に対し、合計一億九〇〇〇万円で売却し、その譲渡代金として、同日二〇〇〇万円、同年五月三〇日に一億七〇〇〇万円を受領した。

(2) 右売買契約において、各物件ごとの売買代金額が明らかにされていないので、右売買代金の額を、本件土地及び建物の相続税評価額(その額は、別表3及び4の譲渡価額欄記載のとおり)の割合で按分して本件土地及び建物の各譲渡価額を算出すると、本件土地の譲渡価額は一億四四四一万一七九二円、本件建物譲渡価額は四五五八万八二〇八円となる。

(3) 原告らは、本件土地及び建物を、別紙物件目録所有者欄記載の割合で共有しているので、(2)のとおり算出された本件土地及び建物の譲渡価額にそれぞれ各原告の共有持分の割合を乗じて各原告に帰属する譲渡価額の金額を算出すると、本件土地及び建物の譲渡価額一億九〇〇〇万円のうち、原告貞に帰属する金額は一億七二〇二万六七八一円、原告順に帰属する金額は一七九七万三二一九円となる。

(二) 取得費

(1) 本件土地の取得費

本件土地の取得費を租税特別措置法三一条の四第一項の規定に基づき算出すると、原告貞の取得費は七〇八万一七三二円、原告順のそれは一三万八八五七円となる。

(2) 本件建物の取得費

ア 本件建物は、原告貞及びその妻小田中弥生(以下「弥生」という。弥生は、昭和五五年九月五日に死亡し、同女の持分は、原告順が相続した。)が、昭和四二年六月一五日、株式会社幸陽に二四九一万六四〇〇円で建築させたものであり、その外、原告貞及び弥生は、同年八月三一日に登記費用として八万五〇〇〇円を支出した。したがって、本件建物の取得に要した金額は合計二五〇〇万一四〇〇円となる。

イ 本件建物取得後、その改造費用として、原告貞及び弥生は昭和五四年一〇月二五日に二〇万円を、原告らは同五七年一月三一日に六五万円を支出した。

ウ ところで、本件建物は、居住用部分と非居住部分から構成されているので、本件建物の取得に要した金額及び改造費用の額を右利用区分の面積の割合(右面積割合は別表3及び4記載の建物取得費欄の(注1)ないし(注4)記載のとおり)により按分し、右按分した金額を基礎として、所得税法三八条二項の規定に従い、右利用区分に応じた減価償却の額の累計額を算出した。そして、右減価償却の額の累計額を本件建物の取得に要した金額及び改造費用の額の合計額から控除した上、その残高に各原告の本件建物の共有持分割合を乗じることにより、各原告の本件建物の取得費を算出すると、原告貞の取得費は一四二〇万四六七一円、原告順のそれは七一〇万二三三五円となる。

(三) 譲渡費用

(1) 原告らは、昭和五八年五月三〇日、和伸住建こと泉ユミ子に対し、本件土地及び建物の売買の仲介手数料として二一六万円を支払った。

(2) 右仲介手数料の額を各原告に帰属する本件土地及び建物の譲渡価額の割合で按分することにより、各原告の本件土地及び建物の譲渡費用を算出すると、原告貞の譲渡費用は一九五万五六七三円、原告順のそれは二〇万四三二七円となる。

(四) 長期譲渡所得金額

各原告に帰属する本件土地及び建物の譲渡価額から、各原告の取得費及び譲渡費用の額の合計額を控除して各原告の長期譲渡所得金額を算出すると、原告貞のそれは、一億四八七八万四七〇五円に、原告順のそれは、一〇五二万七七〇〇円になる。

(五) 特別控除額

(1) 原告らの本件土地及び建物の所有期間は一〇年を超える。

(2) 原告貞は、本件土地及び建物を譲渡するまで、これらの一部を居住の用に供していたので、租税特別措置法三五条一項に基づき、その特別控除額は三〇〇〇万円となる。

(3) 原告順の特別控除額は、租税特別措置法(昭和六二年法律第九六号による改正前)三一条三項に基づき、一〇〇万円となる。

なお、原告順の昭和五八年分の確定申告書には、租税特別措置法三五条一項の適用を受ける旨の記載がないから、同原告について同条項の適用を認める余地はない。

(六) 所得控除額

原告貞の所得控除額は別表1所得控除欄記載のとおり一一四万四三七〇円、原告順のそれは別表2記載のとおり三〇万円である。

(七) 課税長期譲渡所得金額

各原告の長期譲渡所得金額から、各原告の特別控除額及び所得控除額を控除して各原告の課税長期譲渡所得金額を算出すると(ただし、一〇〇〇円未満は、国税通則法一一八条一項に基づき切捨て。)原告貞の課税長期譲渡所得金額は一億一七六四万円、原告順のそれは九二二万七〇〇〇円となる。

2  本件更正処分の適法性

1の(七)の主張したとおり、原告貞の課税長期譲渡所得金額は一億一七六四万円、原告順のそれは九二二万七〇〇〇円となるところ、本件更正処分は、原告貞の課税長期譲渡所得金額を一億一七五二万九〇〇〇円、原告順のそれを九一九万八〇〇〇円と認定してされたものであるから、いずれも各原告の課税長期譲渡所得金額の範囲内でされたものであって、適法であることが明らかである。

3  本件重加算税賦課決定の適法性

原告らは、昭和五八年三月二六日、幸運住宅に対し、本件土地及び建物を一億九〇〇〇万円で譲渡したにもかかわらず、「原告らは、昭和五八年二月二〇日、高島登陽(以下「高島」という。)に対し、本件土地及び建物を七〇〇〇万円で譲渡した。」旨を仮装した虚偽の売買契約書を作成し、右虚偽の売買契約書に基づき、別表5及び6の各確定申告欄記載のとおりの金額を記載した確定申告書を提出した。なお、右1の(四)の長期譲渡所得金額と確定申告額との差額のうち、隠ぺい仮装されていない事実に基づく額は、別表5及び6の各<5>欄記載のとおりであった。

そこで、右1の(七)記載の課税長期譲渡所得金額に対する税額(原告貞については、源泉徴収額九三一〇円を控除した金額)から、仮装されていない事実に基づく税額(確定申告額及び別表5及び6の各<1>と<5>の課税長期譲渡所得金額欄記載の合計額に対する税額)を控除した上(ただし、一万円未満は、国税通則法一一八条三項に基づき切捨て)、これに一〇〇分の三〇を乗じて重加算税の額を計算すると、原告貞に対する重加算税の額は八七一万二〇〇〇円、原告順に対する重加算税の額は五四万九〇〇〇円となる。

したがって、原告らに対してされた本件重加算税賦課決定は、いずれもその範囲内でされたものであって、適法であることが明らかである。

四  被告の主張に対する認否及び原告の反論

1  被告の主張1の(一)の(1)の事実は否認する。

原告らは、昭和五八年二月二〇日、高島に対し、本件土地及び建物を七〇〇〇万円で譲渡したにすぎない。

なお、幸運住宅が本件土地及び建物の売買代金として支払った一億九〇〇〇万円を、被告主張の日に、原告らが最終的には受領している事実は認めるが、これは、高島が、昭和五八年三月二六日に、幸運住宅に対し、本件土地及び建物を代金一億九〇〇〇万円で転売した上、その転売代金受領後ただちに、原告らに対する本件土地及び建物の譲渡代金七〇〇〇万円と、高島の原告貞に対する借入金債務の一部弁済金一億一〇〇〇万円を支払うとともに、原告らとの間の約定に従い、紛争解決金一〇〇〇万円を交付したものである。

2  被告の主張1の(五)の(3)は争う。

原告順も本件土地及び建物を居住の用に供していたのであるから、原告順についても、租税特別措置法三五条一項に基づく特別控除を認めるべきである。

3  被告の主張2は争う。

ちなみに、高島は、昭和五八年分の所得税の確定申告において、本件土地及び建物の売買による収入金額一億八〇〇〇万円を計上しており、被告もこれをそのまま受理しているのである。それにもかかわらず、原告が、本件土地及び建物を、幸運住宅に対して一億九〇〇〇万円で譲渡したとして本件更正処分をすることは、被告自身が自己矛盾を犯し、二重に課税をする結果となる。

4  被告の主張3の事実は、このうち、原告らは、昭和五八年二月二〇日、高島に対し、本件土地及び建物を七〇〇〇万円で譲渡した旨の売買契約に基づき、別表5及び6の各確定申告欄記載のとおりの金額を記載した確定申告書を提出したことは認めるが、その余の事実は否認する。原告らと高島との間の、右売買契約書が、まさに実体に合致したものであることは、既に1に述べたとおりである。

第三証拠

証拠関係は、本件記録中の証書目録及び証人等目録記載のとおりであるから、これをここに引用する。

理由

一  請求原因1の事実は、当事者間においてすべて争いがない。

二  被告の主張1の(一)の売買契約の成否及び代金の受領について

成立に争いのない乙三、四、一〇ないし一二号証、証人吉田の証言及び弁論の全趣旨により成立が認められる乙五及び九号証、同証人の証言並びに原告貞本人尋問の結果(ただし、いずれも後記採用しがたい部分を除く。)に弁論の全趣旨を総合すると、原告らは、昭和五八年三月二六日、幸運住宅に対し、本件土地及び建物を代金一億九〇〇〇万円で譲渡し、右同日、手付金二〇〇〇万円(ただし、幸運住宅振出の小切手)を、同年五月三〇日、残代金一億七〇〇〇万円(ただし、内一億四〇〇〇万円は、泉州信用金庫の保証小切手)を受領したことが認められる。

三  反対証拠の検討

もっとも、原告らは、昭和五八年二月二〇日、高島に対し、本件土地及び建物を代金七〇〇〇万円で譲渡したと主張するとともに、幸運住宅が本件土地及び建物の売買代金として支払った一億九〇〇〇万円を、最終的には原告らが受領したことは自認した上で、この間の事情については、高島は、昭和五八年三月二六日に、幸運住宅に対し、これを代金一億九〇〇〇万円で転売した上、その転売代金受領後ただちに、原告らに対する本件土地及び建物の譲渡代金七〇〇〇万円と、高島の原告貞に対する借入金債務の一部弁済金一億一〇〇〇万円とを支払うとともに、原告らとの間の約定に従い、紛争解決金一〇〇〇万円を交付したものであると主張する。

そして、吉田証人の証言により成立が認められる甲六号証及び同証人の証言及び原告貞本人尋問の結果により成立が認められる甲八号証の各記載中並びに同証人及び原告貞本人の供述中には右原告らの主張に副う部分が存在するのみならず、成立に争いのない甲三、四号証、原告貞本人尋問の結果により成立が認められる甲一、五号証、吉田証人の証言により成立が認められる甲二号証、原告貞本人尋問の結果及び弁論の全趣旨により成立が認められる甲七号証が存在する事実に吉田証人の証言及び原告貞本人尋問の結果を総合すると、<1>原告らと高島との間において、原告らが高島に対し、本件土地及び建物七〇〇〇万円で売り渡す旨を約した、昭和五八年二月二〇日付けの売買契約書(甲一号証)(以下この契約書を「甲一契約書」という。)が作成されていること、<2>また、高島と幸運住宅との間においては、昭和五八年五月三〇日に、高島が幸運住宅に対し、本件土地及び建物を一億八〇〇〇万円で売り渡す旨を約した同年三月二六日付けの売買契約書(甲二号証)(以下この契約書を「甲二契約書」という。)が作成されたこと、<3>本件土地及び建物の売買に関し、和伸住建こと泉本ユミ子が高島から仲介手数料として二八五万円を受領した旨の昭和五八年五月三〇日付けの和伸住建こと泉本ユミ子名義の領収証(甲七号証)が作成されていること、<4>原告貞と高島との間においては、原告貞を貸主、高島を借主として、昭和五三年八月一一日に三〇〇〇万円(甲三号証)の金銭消費貸借契約公正証書及び昭和五七年六月二五日に九七三二万八〇〇〇円の金銭消費貸借契約公正証書(甲四号証)が作成されており、右貸金に関し、昭和五八年五月三〇日付けで、原告貞名義をもって貸付金返済証(甲五号証)が作成されていることなど原告らの主張する法律関係に副う契約関係書類が存在することが認められる。

しかし、前掲乙三ないし五及び九ないし一二号証、成立に争いのない乙六、七号証、証人吉田の証言及び弁論の全趣旨により成立が認められる乙一三号証の一、二、同証人の証言並びに原告貞本人尋問の結果(ただし、いずれも後記採用しがたい部分を除く。)に弁論の全趣旨を総合すると、以下の1ないし9の各事実が認められ、これらの事実に照らして判断すれば、右甲一契約書(甲一号証)、甲二契約書(甲二号証)はもとより、仲介手数料の領収書(甲七号証)や貸付金返済証(甲五号証)は、いずれも、原告ら主張のような法律関係の成立を仮装するために作成されたものと認めるよりほかはなく、そのほか、原告らの主張に副う前掲各証拠が採用できないことは、以下に認定説示するとおりである。

1  原告貞、本件土地及び建物に居住するとともに、同所において歯科医院を開設していたが、昭和五七年五月一〇日付けで保険医療期間の指定の取消処分を受けたのを機に、本件土地及び建物を売却することを決意し、不動産業者の泉本二二夫(以下「泉本」という。)に本件土地及び建物の売却の仲介を依頼した。

2  一方、泉州信用金庫は、本件土地付近において支店を開設することを計画し、幸運住宅を通じてその用地を物色中であったところ、原告貞が本件土地及び建物を売却する意思であり、売主である原告らの希望する売買価額は、移転費用等を含めて総額一億九〇〇〇万円程度であるとの情報が、泉本から幸運住宅の代表取締役である吉田光春(以下「吉田」という。)に伝えられ、さらに遅くとも昭和五七年末ころには、吉田を介して、泉州信用金庫の担当者にも伝えられた。

3  そこで、泉州信用金庫は、昭和五八年一月二一日に理事会を開催し、この理事会において、本件土地及び建物(ただし、五八坪ないし六八坪)を坪評価一九〇万円をもって買い取ること、支店開設費用として総額約二億円の範囲内で支出をすることが承認された。

4  泉州信用金庫が、本件土地及び建物を買い取ることを決定したのを受けて、幸運住宅は、本件土地及び建物を泉州信用金庫への転売のために買い取ることになり、幸運住宅からその仲介を依頼された大東商事こと東野実(以下「東野」という。)と泉本を仲介人として、本件土地及び建物の売買の具体的条件が煮詰められたが、この交渉に高島が関与したことはなかった。

5  昭和五八年三月十六日、原告貞方において、原告貞、吉田、泉本及び東野が立会い、原告らが売り主として、幸運住宅に対し、本件土地及び建物を代金一億九〇〇〇万円で売り渡す旨の契約書(以下「乙契約書」という。)を作成したが、高島はこの場所に立会っていなかった。そして、右同日、吉田は、本件土地及び建物の売買契約に基づく手付金として二〇〇〇万円の小切手を原告貞に交付したが、それに対し、原告貞は、乙契約書に基づく手付金として二〇〇〇万円(小切手)を受領した旨の「小田中貞一名」名義の領収証を作成して吉田に交付した上、直小切手を原告貞の使用人名義の銀行預金口座に入金した。

6  その当時、吉田は、本件土地及び建物の所有者は原告らであると信じており、高島が所有者であるとの認識を有していなかったことはもちろん、高島とは面識すらなかった。乙契約書作成に際して泉本から幸運住宅に交付された重要事項説明書にも、本件土地及び建物の所有者は登記簿謄本記載のとおり原告らであることが明記されていた。

7  昭和五八年五月三〇日、幸運住宅の事務所に、原告貞、吉田、泉本、東野、高島が集まり、原告貞は吉田に対し、本件土地及び建物の登記済権利証及び原告らの印鑑証明書等その移転登記手続きに必要な書類を交付し、吉田は、本件土地及び建物の売買代金残金として、現金三〇〇〇万円及び七〇〇〇万円の泉州信用金庫の保証小切手二枚を差し出し、原告貞は右現金と小切手を持帰った。そして、原告貞は同日中に、泉州信用金庫の本店に赴き、吉田から受領した右保証小切手をただちに換金した上、これを、岡三証券株式会社堺支店の原告貞名義の口座に入金するなどした。

8  右7記載のように、昭和五八年五月三〇日に、関係者が幸運住宅事務所に集まった際、吉田は、この席に高島がいたかどうかの記憶さえ定かではなく、甲二契約書は売り主側の都合により所得税の申告用に作成するものであるとの認識で同契約書に記名押印した。

9  その後、本件更正処分がされるに及んで、吉田は、泉本の要求により、原告ら主張のような法律関係が成立した旨の本件土地及び建物の実体契約説明書なる文書(前掲甲八号証)及び国税不服審判所宛の同趣旨の文書(前掲甲六号証)に原告らと共に記名押印した。

以上の事実が認められる。

以上の事実関係に徴すると、次のようにいうことができる。

すなわち、甲一契約書に記載された売買代金額七〇〇〇万円は、原告貞から本件土地及び建物の売買の仲介を依頼された泉本を介して吉田に伝えられた原告らが希望する売買価額や幸運住宅に売却された価格である一億九〇〇〇万円の半分にも満たない金額である上、原告らは本件土地及び建物の売却可能価格が七〇〇〇万円というような低い価格であると信じていたとは到底認めることはできない。それにもかかわらず、原告貞が、自己の希望額を大きく下回る総額七〇〇〇万円で本件土地及び建物を高島に譲渡したとするのは極めて不自然であるといわなければならない。

しかも、甲二契約書上、高島と幸運住宅との間における本件土地及び建物の売買契約成立の日と記載されている昭和五八年三月二六日当時、幸運住宅の代表者である吉田は、高島との間で本件土地及び建物の売買契約を締結する意思などは全く有していなかったことは前記5の事実から推認され、従って、右同日幸運住宅が高島との間で本件土地及び建物の売買契約を締結したと認める余地はないというほかはない。

更に、吉田に本件土地及び建物の売却の情報がもたらされてから後、昭和五八年五月三〇日までの間に、高島が吉田に対して、本件土地及び建物の売主として何らかの法律行為をした形跡さえうかがわれない。

そして、昭和五八年三月二六日に幸運住宅から支払われた手付金は、高島の立合っていない席で原告貞に交付され、原告貞がその領収証を作成交付し、同年五月三〇日に支払われた残代金一億七〇〇〇万円も原告貞がその席より持帰っていることは、これら売買代金が高島には属していないことを示している。

原告貞は、本人尋問の結果において、右金員は甲一契約書の残代金のほか、貸金の返済として受取ったものと供述するが、その貸金、特に前掲昭和五七年六月二五日作成の金銭消費賃借契約書に関するものについては、それが極めて多額なものであるにもかかわらず、契約内容についてさえ明確な供述をなし得なかったこと、原告貞本人尋問の結果によるも、原告貞が高島から一億一〇〇〇万円もの貸金の返済を受けたとする昭和五八年五月三〇日時点で貸金残高の確認すらしていないことが認められることなどの事情に照らして、到底信用しがたい。

また、甲一契約書には手付金として五〇〇万円を支払う旨が記載され、原告貞は、本人尋問の結果において、この五〇〇万円は甲一契約書作成のころに受取り、後に返還したと供述するが、この返還の領収書や受領金・支払資金の出入りを示す預金通帳等は証拠として提出されず、この手付金五〇〇万円が高島から現に支払われその後に原告らから返還されたとは認めることはできない。

以上認定説示したところにかんがみれば、原告らの前記主張に副う甲一契約書及び甲二契約書はもとより、仲介手数料の領収証(前掲甲七号証)や貸付金返済証(前掲甲五号証)は、いずれも、原告ら主張のような法律関係の成立を仮装するために作成されたものと認めるよりほかはなく、そのほか、原告らの主張に副う前掲各証拠は到底信用しがたいものであることは明らかというべきである。

四  課税長期譲渡所得金額

三に認定説示したほか、本件記録を調べてみても、原告らが、幸運住宅に対し、本件土地及び建物を譲渡し、その譲渡代金一億九〇〇〇万円を受領した旨の前記二の認定を左右するに足りる証拠はないので、前記二の認定を前提として、昭和五八年分の原告貞及び原告順の課税長期譲渡所得金額を算出すると以下のとおりとなる。

1  譲渡価額

(一)  本件土地及び建物の譲渡価額が総額一億九〇〇〇万円であることは既に認定したとおりであるところ、前掲乙三号証によれば、本件売買契約においては、各物件ごとの価格は明らかにされていないことが認められる。このような場合において、被告の主張1の(一)の(2)のように、各一億九〇〇〇万円を本件土地及び建物の相続税評価額の割合で按分して本件土地及び建物の各別の譲渡価額を算出する方法は、相続税評価額が相続税法上の時価であること、相続税評価額と実勢価額との間には差異があるとはいうものの、相続税評価額自体においては、各資産の価格の均衝が図られていることなど公知の事実に照らすならば、合理的で、適正な方法であると認めることができ、この認定を左右するに足りる証拠はない。

そして、本件土地及び建物の相続税評価額が別表3及び4の譲渡価額欄記載のとおりであることは、原告らにおいて明らかに争わないからこれを認めたものとみなし、一億九〇〇〇万円を右相続税評価額の割合で按分して本件土地及び建物の各譲渡価額額を算出すると、本件土地の譲渡価額は一億四四四一万一七九二円、本件建物の譲渡価格は四五五八万八二〇八円となることが計算上明らかである。

(二)  原告らが、本件土地及び建物を、別紙物件目録所有者欄記載の割合で共有していた事実は、原告らにおいて明らかに争わないからこれを認めたものとみなし、右(一)に認定した本件土地及び建物の各別の譲渡価額にそれぞれ各原告の共有持分の割合を乗じて各原告に帰属する譲渡価額の金額を算出すると、本件土地及び建物の譲渡価額のうち、原告貞に帰属する金額は一億七二〇二万六七八一円、原告順に帰属する金額は、一七九七万三二一九円となることが計算上明らかである。

2  取得費

(一)  租税特別措置法三一条の四第一甲の規定に基づき算出される本件土地の取得費は、原告貞のそれが七〇八万一七三二円、原告順のそれが一三万八八五七円となることが右規定に照らし明らかである。

(二)  被告の主張1の(二)に(2)にアないしウの事実はいずれも原告らにおいて明らかに争わないからこれを認めたものとみなす。そうすると、租税特別措置法三八条二項の規定に従って算出される本件建物の取得費は、原告貞のそれが一四二〇万四六七一円、原告順のそれが七一〇万二三三五円となることが右規定に照らし明らかである。

3  譲渡費用

被告の主張1の(三)の(1)の事実は、原告らおいて明らかに争わないからこれを認めたものとみなす。そうすると、原告貞の譲渡費用は一九五万五六七三円、原告順の譲渡費用は二〇万四三二七円となることが、計算上明らかである。

4  長期譲渡所得金額

右認定の各原告に帰属する本件土地及び建物の譲渡価額から、各原告の取得費及び譲渡費用の額の合計額を控除して各原告の長期譲渡所得金額を算出すると、原告貞のそれは、一億四八七八万四七〇五円に、原告順のそれは、一〇五二万七七〇〇円になることが、計算上明らかである。

5  特別控除額

被告の主張1の(五)の(1)及び(2)の事実は原告らが明らかに争わないからこれを認めたものとみなす。

そして、その成立に争いのない乙二号証によれば、原告順の昭和五八年分の確定申告書には、租税特別措置法三五条一項の適用を受ける旨の記載がないことが明らかである。

そうすると、原告貞の特別控除額が三〇〇〇万円となること、原告順の特別控除額が一〇〇万円となることが、租税特別措置法三一条三項(昭和六二年法律第九六号による改正前)及び三五条一項の規定に照らして明らかである。

6  所得控除額

被告の主張1の(六)の事実は、原告らが明らかに争わないからこれを認めたものとみなす。したがって、原告貞の所得控除額は、一四万四三七〇円、原告順のそれは三〇万円となる。

7  課税長期譲渡所得金額

以上の認定を前提に各原告の昭和五八年分の課税長期譲渡所得金額を算出すると(ただし、一〇〇〇円未満は、国税通則法一〇八条一項に従い切捨て。)、原告貞のそれは一億一七六四万円、原告順のそれは九二二万七〇〇〇円となる。

五  本件更正処分の適法性

被告が、昭和五八年分の原告貞の課税長期譲渡所得金額を一億一七五二万九〇〇〇円、原告順のそれを九一九万八〇〇〇円であるとして本件更正処分をしたことは前記一に説示したとおり当事者間において争いがない。そうであれば、本件更正処分は、右四の7において認定した各原告の課税長期譲渡所得金額の範囲内でされたものであって、いずれも適法なものであるということができる。

なお、原告らは、被告が、高島から、本件土地及び建物の売買による収入金額一億八〇〇〇万円を計上した昭和五八年分の所得税の確定申告を受理していながら、原告らに対して、本件更正処分をすることは自己矛盾であるし、本件土地及び建物の譲渡利益に関し二重に課税する結果になる旨を主張する。原告貞本人尋問の結果及び弁論の前趣旨により真正に成立したものと認められる甲九号証の一によれば、高島は、昭和五八年分の確定申告書に営業所得にかかる収入金額を一億八〇〇〇円、その必要経費を一億七九五〇万円と記入していることが認められるけれども、被告が、この確定申告書を受理したからといって、本件更正処分をすることの妨げとなると解する余地はないし、また、右甲九号証の一によれば、高島の申告納税額は、〇円と記載されており、被告が本件土地及び建物の譲渡利益に関し二重に課税する結果となる旨の原告らの批判も当たらない。したがって、原告らの右主張は失当としての排斥を免れ得ない。

六  本件重加算税賦課決定について

1  原告らは、昭和五八年三月二六日、幸運住宅に対し、本件土地及び建物を一億九〇〇〇万円で譲渡したと認められることは、すでに認定説示したとおりであるところ、原告らが、昭和五八年分の所得税につき、甲一契約書に基づき、別表5及び6の確定申告欄記載のとおりの金額を記載した確定申告書を提出したことは当事者間に争いがない。

2  そして、原告らが、昭和五八年二月二〇日に、高島に対して本件土地及び建物を七〇〇〇万円で譲渡した旨の甲一契約書が、そのような売買契約の成立を仮装するために作成された虚偽の契約書であることは前記三において認定説示したとおりであり、原告貞が自らこれを作成したことは、前記三に認定した事実関係に微し明らかである。

また、原告貞本人尋問に弁論の前趣旨を総合すれば、原告順は、本件土地及び建物の売買契約及び昭和五八年分の確定申告当時、東京在住の学生であって、本件土地及び建物の売買及び昭和五八年分の確定申告については、すべて原告貞に任せていたことが認められ、このような事情に照らせば、重加算税制度上は、原告順もその確定申告を代行した原告貞を介して、前記認定のごとき虚偽の売買契約の成立を仮装し、その仮装したところに基づいて確定申告をしたものと評価することができ、この認定を左右するに足りる証拠はない。

3  そこで、原告らに対する、重加算税の額を検討すると、前掲甲一号証と弁論の全趣旨を総合すれば、前記四の4に認定した原告らの長期譲渡所得金額と右確定申告書記載の額との差額のうち、隠ぺい仮装されていない事実に基づく額が、別表5及び6の<5>の欄記載のとおりとなることが認められる。

前記四の7に認定した原告貞の課税長期譲渡所得金額に対する税額(原告貞については前記源泉徴収額九三一〇円を控除した額。なお、右源泉徴収額については原告貞が明らかに争わないから、これを認めたものとみなす。)から、右仮装されていない事実に基づく税額(確定申告額及び別表5及び6の<1>と<5>の課税長期譲渡所得金額欄記載の合計額に対する税額)を控除した上(ただし、国税通則法一一八条三項に従い一万円未満は切捨て。)、これに一〇〇分の三〇を乗じて重加算税の額を計算すると、原告貞に対する重加算税の額は八七一万二〇〇〇円に、原告順に対する重加算税の額は五四万九〇〇〇円になることが明らかであり、したがって、その範囲内でされた本件重加算税賦課決定は、適法なものということができる。

七  以上のとおり、原告らの請求はいずれも理由がないからこれを棄却し、訴訟費用の負担について行政事件訴訟法七条、民事訴訟法八九条を各適用して主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 井南正裕 裁判官 綿引万里子 裁判官 朝日貴浩)

物件目録

<省略>

(注)原告小田中順は昭和55年9月25日小田中弥生(母)から相続により取得。

別表1

小田中貞

<省略>

別表2

小田中順

<省略>

別表3

原告小田中貢の昭和58年分の分離長期譲渡所得金額の計算明細

<省略>

<省略>

別表4

原告小田中順の昭和58年分の分離長期譲渡所得金額の計算明細

<省略>

<省略>

別表5

原告小田中貢の加算税の基礎となる昭和58年分の長期譲渡所得金額の計算明細

<省略>

別表6

原告小田中順の加算税の基礎となる昭和58年分の長期譲渡所得金額の計算明細

<省略>

注 <5>の増差額は、土地と家屋の金額按分の割合等の訂正によるものである。

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