大阪地方裁判所 昭和62年(ワ)8625号 判決 1988年6月23日
原告
山村艶子
被告
石田敬三
ほか一名
主文
被告らは、各自、原告に対し、金一五八万九七九〇円及びこれに対する昭和六二年九月一二日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
原告のその余の請求を棄却する。
訴訟費用はこれを四分し、その三を原告の負担とし、その余を被告らの負担とする。
この判決は、原告勝訴の部分に限り、仮に執行することができる。
事実
第一当事者の求めた裁判
一 請求の趣旨
被告らは、各自、原告に対し、金五七九万一五四〇円及びこれに対する昭和六二年九月一二日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
訴訟費用は、被告らの負担とする。
仮執行の宣言。
二 請求の趣旨に対する答弁
原告の請求を棄却する。
訴訟費用は、原告の負担とする。
第二請求原因
一 事故の発生
1 日時 昭和六〇年五月二八日午後一時一〇分頃
2 場所 門真市桑才新町一九の五先交差点
3 加害車 普通乗用自動車(泉五七と七九三六)
右運転者 被告石田敬三(以下「被告石田」という。)
4 被害者 自動二輪車(一大阪け三〇六一)
右運転者 原告
5 態様 西から東に直進していた被害車に、東から交差点に進入し北西角のガソリンスタンドに右折進入しようとする加害車が衝突した。
二 責任原因
1 運行供用者責任(自賠法三条)
被告株式会社安松谷組(以下「被告会社」という。)は、加害車を所有し、自己のために運行の用に供していた。
2 一般不法行為責任(民法七〇九条)
被告石田は、本件交差点を右折するに際し、前方及び左方に対する注意を怠つた過失により、本件事故を発生させた。
三 損害
1 受傷・治療経過等
(一) 受傷
左膝関節傷、頸椎捻挫等
(二) 治療経過等
入院 福徳医学会病院
昭和六〇年五月二八日から同年七月九日まで四三日
通院
福徳医学会病院
昭和六〇年七月一〇日から昭和六一年三月三一日まで(実日数一二日)
柔道整復師安藤朋子(医師の指示により)
昭和六〇年七月一一日から昭和六一年九月三〇日まで(実日数一七四日)
2 治療関係費
(一) 治療費 二三五万五四二〇円
福徳医学会病院 一五〇万七八二〇円
安藤朋子 八四万七六〇〇円
(二) 入院雑費 五万一六〇〇円
入院中一日一二〇〇円の割合による四三日分
(三) 入院付添費 二一万五〇〇〇円
入院中付添いを要し、一日五〇〇〇円の割合による四三日分
(四) 通院交通費 一〇万〇九二〇円
安藤朋子への通院につき、一日五八〇円の割合による一七四日分
3 休業損害 三一〇万円
原告は当時三九歳で、鍼灸及び柔道整復師の資格を有し、竜王山接骨院を経営し、一か月平均七〇万円の収益を得ていたが、本件事故により、入院期間中及び通院期間の二分の一にあたる間休業を余儀なくされ、その間少なくとも三一〇万円の収益を失つた。
4 入通院慰藉料 一七〇万円
原告は、本件事故による傷害により入通院したが、その精神的苦痛を慰藉するためには右金額が相当である。
四 損害の填補 一七三万一四〇〇円
原告は、被告から次のとおり支払を受けた。
福徳医学会病院の治療費 一四六万一四〇〇円
安藤朋子の治療費 二七万円
五 本訴請求
よつて、請求の趣旨記載のとおりの判決(遅延損害金は反訴状送達の翌日から民法所定の年五分の割合による。)を求める。
第三請求原因に対する被告らの答弁
一の1ないし4は認めるが5は争う。
加害車は直接ガソリンスタンドへ入ろうとしたのではなく、交差点をいつたん右折してから入ろうとしたものである。
二は認める。
三の1のうち、安藤朋子の治療を受けたことが医師の指示によるものであることは否認し、その余は認める。
三の2の(一)は認めるが、その余は争う。
三の3・4は否認または争う。
四は認める。
第四被告らの主張
一 損害について
原告は福徳医学会病院を退院して後、昭和六〇年八月一〇日頃から柔道整復師の仕事を始め、同年九月中旬頃から通常どおり仕事をしていたのであるから、長期間の治療は相当性を欠き、本件事故と相当因果関係のある治療はせいぜい同月末日までと思われる。
原告の休業期間は昭和六〇年八月九日までの七四日間であり、損害の算定は昭和五九年度の申告所得金額(二〇一万一四二〇円)によるべきである。
二 過失相殺
原告は、制限速度(三〇キロ)を超える時速四五キロの速度で道路中央付近を漫然と走行したため、右折の合図をだして右折を開始した加害車の発見が遅れ、狼狽して転倒しそのまま加害車の右前部に衝突したものである。
したがつて、原告にも前方不注視、制限速度違反、左側通行違反の過失がある。
三 損害の填補 二七万六四二〇円
本件事故による損害については、原告が自認している分以外に、次のとおり損害の填補がなされている。
福徳医学会病院の治療費 四万六四二〇円
安藤朋子の治療費 三万円
原告に対し内金として 二〇万円
第五被告らの主張に対する原告の認否
被告らの主張三の事実は認める。
第六証拠
証拠関係については、本件記録中の書証目録及び証人等目録の記載のとおりであるから引用する。
理由
第一事故の発生
請求原因一の1ないし4の事実は、当事者間に争いがなく、いずれも成立に争いのない甲第三七号証の二ないし六及び一〇並びに原告及び被告石田の各本人尋問の結果に弁論の全趣旨を総合すると、同5の事故の具体的な態様については、以下に認定するとおりと認められ、原告の供述中この認定に反する部分は他の関係証拠に照らしにわかに信用することができない。
1 本件事故現場は、交通整理の行われていない三差路交差点で、制限速度は時速三〇キロである。
2 被告石田は加害車を運転して東から西に向かつて進行し、本件現場で北に右折してその後北西角にあるガソリンスタンドへ東側から入ろうと考え、右折の合図をして前方をみたところ、三八・五メートルかなたに普通貨物自動車の存在を認めたものの被害車に気付かず、先に右折できると考え、右折先の北側道路に駐車していた車両の様子等を見ながら時速約五キロの速さで右折を始め、視線を前方(西方)に戻した時には被害車との距離は約一六・八メートルにすぎず、急ブレーキをかけたが及ばず被害車前輪付近に加害車前部右側を衝突させた。
3 原告は、被害車を運転して時速約四五キロで西から東に直進し、加害車の右折の合図に気付かず、右折してきた加害車を認めて急ブレーキをかけたため、車体が左に傾き、倒れるように滑りながら加害車に衝突した。
4 なお、衝突場所は片側三メートルの車線のうちセンターラインから一・二メートルの所である。
第二責任原因
請求原因二の1、2の事実は、当事者間に争いがない。したがつて、被告会社は自賠法三条により、被告石田は民法七〇九条により、それぞれ本件事故による原告の損害を賠償する責任がある。
第三損害
1 受傷・治療経過等
請求原因1の事実のうち、安藤朋子の治療を受けたことが医師の指示によるものである点を除き、当事者間に争いがなく、成立に争いのない乙第三号証によると安藤朋子の治療は医師の指示によるものであることが認められる。
また、昭和六〇年一〇月以後の治療が本件事故と相当因果関係を欠くものであることを認めるに足りる的確な証拠はない。
2 治療関係費
(一) 治療費 二三五万五四二〇円
福徳医学会病院 一五〇万七八二〇円
安藤朋子 八四万七六〇〇円
治療費は当事者間に争いがない。
(二) 入院雑費 五万一六〇〇円
原告が四三日間入院したことは前認定のとおりであり、右入院期間中一日一二〇〇円の割合による合計五万一六〇〇円の入院雑費を要したことは、経験則上これを認めることができる。
(三) 入院付添費 一五万三〇〇〇円
いずれも成立に争いのない甲第二、第三号証及び原告本人尋問の結果によれば、原告は前記入院期間中昭和六〇年六月三〇日までの三四日間困難のため近親者の付添看護を要し、その間一日四五〇〇円の割合による合計一五万三〇〇〇円の損害を被つたことが認められる。右金額を超える分については、付添看護を必要としたことを認めるに足りる証拠がなく、また本件事故と相当因果関係がないものと認める。
(四) 通院交通費 一〇万〇九二〇円
原告本人尋問の結果によれば、原告は前記安藤朋子への通院のため合計一〇万〇九二〇円の通院交通費を要したことが認められる。
3 休業損害 四四万八五七三円
原告本人尋問の結果によれば、原告は事故当時三九歳で、鍼灸及び柔道整復師の資格を有し、竜王山接骨院を経営していたことが認められる。
原告は、右接骨院の収益は月額七〇万円である旨主張し、原告本人は一か月平均一〇〇万円の収入を得ていた旨供述するが、原告本人尋問の結果いずれも真正に成立したと認められる乙第一号証の一ないし四によれば、原告は右接骨院の経営による昭和五九年分の事業所得の金額は二〇一万一四二〇円(収入金額六一五万八九九九円)であるとの所得税の確定申告をしていることが認められる。
このように自ら自己の所得金額を申告しながら、これと異なる金額が真の所得金額であると主張する場合には、その主張金額が真実の所得金額であることにつき、合理的な疑いを入れない程度に立証する必要があるものと解するのが相当である。
本件の場合、原告の供述を裏づける証拠はなく、結局その主張金額が真実の所得金額であるとは到底認めることはできない。
したがつて、休業損害の額は申告所得金額により算定すべきである。
そして、原告本人尋問の結果によると、原告は、福徳医学会病院を退院した後昭和六〇年八月一〇日頃から仕事を始めたものの八割程度の患者しか治療できず、通常どおりの仕事ができるようになつたのは同年九月中旬であることが認められる。
以上の事実にしたがい、原告は、事故当日から昭和六〇年八月九日までの七四日間は収益の一〇〇%を、その後同年九月一五日までの三七日間は収益の二〇%を失つたものと認めるのが相当である。
そうすると、原告の休業損害の額は次式のとおり、四四万八五七三円(円未満切捨て)となる。
2,011,420×(74/365+37/365×0.2)=448,578
4 入通院慰藉料 一二〇万円
本件事故の態様、原告の傷害の部位、程度、治療の経過その他諸般の事情を考え合わせると、原告の入通院慰藉料額は一二〇万円とするのが相当であると認められる。
5 以上の総額は四三〇万九五一三円である。
第四過失相殺
前記第一認定の事実によれば、本件事故の発生については、原告にも前方不注視及び制限速度違反の過失が認められるところ、前記認定の被告石田の過失の態様等諸般の事情を考慮すると、過失相殺として、原告の損害の二割を減ずるのが相当と認められる。
被告らは、原告に左側通行違反の過失がある旨主張するが、前認定の事故の態様からすると、原告は右方向へ滑りながら衝突したことが推認されるので、衝突地点がセンターライン寄りであることから直ちに原告に左側通行違反があつたとまでは認められず、他にこれを認めるに足りる証拠もない。
そうすると、被告らの負担すべき損害額は三四四万七六一〇円(円未満切捨て)となる。
第五損害の填補 二〇〇万七八二〇円
請求原因四及び被告らの主張三の事実は、当事者間に争いがない。
よつて、原告の前記損害額から右填補分二〇〇万七八二〇円を差し引くと、残損害額は一四三万九七九〇円となる。
第六弁護士費用 一五万円
本件事案の内容、審理経過、認容額等に照らすと、原告が被告に対して本件事故による損害として賠償を求め得る弁護士費用の額は、一五万円と認めるのが相当である。
第七結論
よつて、被告らは、各自、原告に対し、本件損害賠償金一五八万九七九〇円及びこれに対する反訴状送達の翌日である昭和六二年九月一二日から支払済みまで年五分の割合による遅延損害金を支払う義務があり、原告の本訴請求は右の限度で正当であるからこれを認容し、その余の請求は理由がないから棄却することとし、訴訟費用の負担につき民訴法八九条、九二条、九三条、仮執行の宣言につき同法一九六条を適用して、主文のとおり判決する。
(裁判官 中村隆次)