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大阪地方裁判所 昭和62年(ワ)9007号 判決 1990年9月13日

第一事件原告・第二事件被告 株式会社オーケー模型

第一事件原告 株式会社木曽製作所

第一事件被告・第二事件原告 株式会社ノバ

編注 以下、本判決において、第一事件原告・第二事件被告株式会社オーケー模型及び第一事件原告株式会社木曽製作所をそれぞれ「原告」、第一事件被告・第二事件原告株式会社ノバを「被告」という。

主文

一  原告らの訴えのうち「被告は、原告らに対し、登録第一六四五四〇一号実用新案権に基づいて、別紙物件目録記載の模型用エンジンスターターの製造、販売の差止を求める権利を有しないことを確認する。」との部分を却下する。

二  被告は、原告らが製造、販売する別紙物件目録記載の模型用エンジンスターターが被告の前項の登録実用新案権を侵害するものであるとの事実を文書または口頭で第三者に言い触らしてはならない。

三  被告は、原告株式会社オーケー模型に対し、金一〇〇万円及びこれに対する昭和六三年五月八日から支払済に至るまで年五分の割合による金員を支払え。

四  原告株式会社木曽製作所のその余の請求を棄却する。

五  被告の請求を棄却する。

六  訴訟費用は、第一事件について生じた部分のうち、原告株式会社オーケー模型に生じた費用の三分の一と被告に生じた費用の六分の一を同原告の負担とし、原告株式会社木曽製作所に生じた費用の三分の二と被告に生じた費用の三分の一を同原告の負担とし、原告らと被告に生じたその余の費用を被告の負担とし、第二事件について生じた部分は全部被告の負担とする。

七  この判決は第三項に限り仮に執行することができる。

事実及び理由

第一当事者の求めた裁判

一  第一事件

(原告らの請求の趣旨)

1 被告は、原告らに対し、登録第一六四五四〇一号実用新案権に基づいて、別紙原告ら物件説明書記載の模型飛行機用エンジンスターターの製造、販売の差止を求める権利を有しないことを確認する。

2 被告は、原告らが製造、販売する前項の模型飛行機用エンジンスターターが被告の前項の登録実用新案権を侵害するものであるとの事実を文書または口頭で第三者に言い触らしてはならない。

3 被告は、原告らに対し、それぞれ金一〇〇万円宛及びこれに対する昭和六三年五月八日から支払済に至るまで年五分の割合による金員を支払え。

4 訴訟費用は被告の負担とする。

5 第3項につき仮執行宣言

(請求の趣旨に対する被告の答弁)

1 原告らの請求をいずれも棄却する。

2 訴訟費用は原告らの負担とする。

二  第二事件

(被告の請求の趣旨)

1 原告株式会社オーケー模型は、被告に対し、金五一〇八万八二〇〇円(右金額につき後記判示参照)及び内金一〇〇〇万円に対する昭和六一年一一月一一日から、内金四一〇八万八二〇〇円(右同)に対する昭和六十三年四月二六日から各支払済に至るまで年五分の割合による金員を支払え。

2 訴訟費用は原告株式会社オーケー模型の負担とする。

3 仮執行宣言

(請求の趣旨に対する原告株式会社オーケー模型の答弁)

1 主文第五項同旨

2 訴訟費用は被告の負担とする。

第二事実経過(証拠等を注記した部分以外は争いがない。)

一  被告の権利

被告は、左記の実用新案権(以下「本件実用新案権」といい、その考案を「本件考案」という。)を有していた(3、4については甲一)。

1  出願日   昭和五四年九月一八日

2  出願番号  昭五四―一二八一二七号

3  公開日   昭和五六年四月二七日

4  公開番号  昭五六―四七二六〇号

5  公告日   昭和六〇年八月七日

6  公告番号  昭六〇―二六二三三号

7  登録日   昭和六一年七月三〇日

8  登録番号  第一六四五四〇一号

9  考案の名称 模型レーシングカー用スターター

10  実用新案登録請求の範囲

円筒状の把持ケースに始動モーターを内蔵し、ケース外側に操作用スイッチを設け、ケース後側の端部材にクリップ付電源コードを通し、ケース前側の端部材より突出しているモーター軸に回転子を装着してある模型レーシングカー用スターターに於いて、前記回転子のモーターと反対側にモーター軸と同心の円筒部を突設し、且つ回転子の円筒部外周には環状の停止縁を設けると共に、前記円筒部には停止縁より一段と大径のゴム環を嵌合固着してなる模型レーシングカー用スターター(別添実用新案公報―以下「本件公報」という―該当欄参照)。

二  被告及び原告らの営業と競争関係

1  被告は、本件考案の実施品(商品名「スーパー・スターター」)を製造、販売していた。

2  原告株式会社オーケー模型(以下「原告オーケー模型」という。)は、モーター付模型飛行機及びそのエンジンスターター等の製造、販売を業とする会社であり、原告株式会社木曽製作所(以下「原告木曽製作所」という。)は、工具類及び模型飛行機用エンジンスターター等の製造、販売を業とする会社である。

3  原告らは、いずれも昭和五七年九月以前から、別紙物件目録記載のモデルエレクトリックスターターSS4(イ号物件(一))、同スターターSS6(イ号物件(二))、同スターターSS8(イ号物件(三))、ハイパワースターター(イ号物件(四))及びカー用ゴム環(「カーリングゴム」ともいう。イ号物件(五))を製造、販売している(但し、物件の説明については後記当裁判所の判断参照)。

4  イ号物件(五)のカー用ゴム環は、イ号物件(一)ないし(四)の各スターターとは別個に、別売品として販売されているが、別紙物件目録の第8、第9図に示すようにイ号物件(一)ないし(四)の回転子の円筒部に嵌合固着可能なものである。

三  出願公開後、公告前の警告

被告は、昭和五七年九月三〇日、原告オーケー模型に対し、本件考案の内容を記載した書面を提示して、イ号物件(一)ないし(五)について警告をした。

四  雑誌広告による権利侵害の警告・販売先への通知

被告は、雑誌「ラジコン技術」昭和五七年一一月号に、別紙広告目録記載の広告、すなわち原告オーケー模型が製造、販売するイ号物件(一)ないし(四)は本件実用新案権を侵害する旨の「ご警告」と題する広告(以下「本件広告」という。)を掲載し(弁論の全趣旨)、また、同月ころ、被告及び同原告の販売先であるJRリモート・コントロール・オーストラリア社(オーストラリア国法人)に同趣旨の通知(以下「本件通知」という。)をした(乙三、弁論の全趣旨)。なお、本件広告中の「大阪府のO社」が原告オーケー模型を指すことは、同業者であれば、右広告を見て容易に理解するところであると認められる(弁論の全趣旨)。

五  被告の提訴

被告は、昭和六一年一〇月三一日、原告オーケー模型に対し、「イ号物件(一)ないし(四)は、いずれも円筒部にゴム環を嵌合固着してなるという点(後記本件考案の構成要件(5))を除き、その余の構成要件全てを具備するものであって、イ号物件(一)ないし(四)はいずれも必ずイ号物件(五)を嵌合固着して使用するものであり、一方、イ号物件(五)は必ずイ号物件(一)ないし(四)のいずれかに嵌合固着して使用されるものであるから、イ号物件(一)ないし(四)にイ号物件(五)を嵌合固着したもの(以下「イ号物件合体物」という。)は、本件考案の構成要件を全て充足し、イ号物件(一)ないし(五)はいずれも本件考案に係る物品の製造にのみ使用される物である。すなわちイ号物件(一)ないし(五)の製造、販売は実用新案法二八条にいう登録実用新案の間接侵害行為である。」として、

1  イ号物件(一)ないし(五)の製造、販売の差止と廃棄(実用新案法二七条一、二項に基づく差止、廃棄請求)、

2  原告オーケー模型が前記三記載の警告後本件考案の出願公告前(昭和五七年一〇月から昭和六〇年七月まで)に販売したイ号物件(一)ないし(五)についての実施料(販売額の三パーセント)相当の補償金二六八四万四三六〇円(同法一三条の三第一項に基づく補償金)、

3  同原告が右公告後(昭和六〇年八月から昭和六三年三月まで)に販売したイ号物件(一)ないし(五)についての実施料相当(右同)の損害金二四二四万三八四〇円(同法二九条二項・民法四四条一項に基づく損害賠償金)、

4  右補償金及び損害金の合計金五一〇八万八二〇〇円の内金一〇〇〇万円に対する昭和六〇年一一月一一日(本件第二事件訴状送達の日の翌日)から、内金四一〇八万八二〇〇円に対する昭和六三年四月二六日(同日付被告第八回準備書面送達の日)から、各完済に至るまで年五分の割合による遅延損害金(民法所定の遅延損害金)の各支払

を求める本件第二事件を提起した(なお、右2ないし4の各請求金額は、右訴え提起後に拡張請求されたものである。但し、同年六月一四日付被告第一四回準備書面の第二の一、二に右4の合計金が五一〇八万八三〇〇円、右内金が四一〇八万八三〇〇円であるとの旨の記載があるが、右各記載はそれぞれ五一〇八万八二〇〇円、四一〇八万八二〇〇円であるとすべきところ、これらを誤記したものであると認める。)。

六  原告らの提訴

これに対し、原告らは、昭和六二年四月二四日、被告に対し、イ号物件(一)ないし(四)はいずれも本件考案の技術的範囲に属しないとして、

1  本件実用新案権に基づく被告の原告らに対するイ号物件(一)ないし(四)の製造、販売の差止請求権が存在しないことの確認(差止請求権不存在確認請求)、

2  前記四記載の本件広告掲載、原告らの販売先に対する本件通知などの被告の行為が、不正競争防止法一条一項六号の「競争関係ニアル他人ノ営業上ノ信用ヲ害スル虚偽ノ事実ヲ陳述シ又ハ之ヲ流布スル行為」に該当することを理由とする右行為の差止(同法一条一項に基づく虚偽事実陳述流布行為差止請求)

3  被告の右行為による原告らの営業上の信用毀損、販売先に対する説明、説得等を余儀なくされたことによる無形損害金一〇〇万円(同法一条ノ二・民法四四条一項に基づく損害賠償金)及びこれに対する昭和六三年五月八日(本件第一事件訴状送達の日の翌日)から完済まで年五分の割合による遅延損害金(民法所定の遅延損害金)の支払い

を求める本件第一事件を提起した。

七  被告の権利の消滅

ところが、本件実用新案権は、昭和六三年八月七日、登録料不納付により消滅した(消滅原因については甲七)。

八  被告の訴えの一部取下げ

被告は、右本件実用新案権の消滅に伴い、平成元年一二月六日の本件第二四回口頭弁論期日において、本件第二事件の前記差止及び廃棄請求の訴えを取り下げ、原告オーケー模型はこれに同意した(本件訴訟手続上明らかな事実)。

第三争点

本件の基本的な争点は、イ号物件(一)ないし(四)は、いずれも円筒部にゴム環を嵌合固着してなるという点(後記本件考案の構成要件(5))を除き、その余の本件考案の構成要件を全て具備し、かつ、イ号物件(一)ないし(四)はいずれも必ずイ号物件(五)を嵌合固着して使用するものであり、一方、イ号物件(五)は必ずイ号物件(一)ないし(四)のいずれかに嵌合固着して使用されるものであるから、イ号物件(五)を嵌合固着したイ号物件合体物は本件考案の構成要件を全て充足し、イ号物件(一)ないし(五)は、いずれも本件考案に係る物品の製造にのみ使用される物であるといえるかどうかである。

第四当裁判所の判断

(第一事件)

一  差止請求権不存在確認請求について

本件実用新案権が既に消滅し、これに伴い、被告が平成元年一二月六日の本件第二四回口頭弁論期日において、本件第二事件で請求していたイ号物件(一)ないし(五)の製造、販売の差止と廃棄請求の訴えを取り下げたことは、前記のとおりである。

右事実に照らすと、現在、被告が右差止請求権の存在しないことを認めていることは明らかであり、かつ、将来被告が再び原告らに対して右差止請求権の存在を主張し、これを行使するおそれがあるとは考えられない。現時点では、既に原告らと被告の間の右差止請求権の存否をめぐる法律上の紛争は解決され、この点に関する原告らの法律上の地位の不安定は除去されたものと認められる。被告は、右確認請求の棄却を求めているが、それは、原告らが右差止請求権不存在確認請求を維持している以上やむえないことである。また、原告らと被告との間には、現在も、なお原告らのイ号物件(一)ないし(五)の製造・販売行為による本件実用新案権の侵害の成否及びこれに伴う損害賠償責任の存否等についての争いは残っているが、そのことは右差止請求権の不存在確認の利益を認めさせるに十分なものではない。

従って、原告らの第一事件における訴えのうち右差止請求権の不存在確認を求める部分は確認の利益がなく、却下を免れない。

二  陳述流布禁止・損害賠償請求について

1 本件考案の構成要件とその作用効果

(一) 本件考案の構成要件

本件考案の構成要件は、次のとおり分説するのが相当である。

(1) 模型レーシングカー用(エンジン)スターターであって、

(2) 円筒状の把持ケースに始動モーターを内蔵し、ケース外側に操作用スイッチを設け、ケース後側の端部材にクリップ付電源コードを通し、ケース前側の端部材より突出しているモーター軸に回転子を装着し、

(3) 前記回転子のモーターと反対側にモーター軸と同心の円筒部を突設し、

(4) 且つ回転子の円筒部外周には環状の停止縁を設けると共に、

(5) 前記円筒部には停止縁より一段と大径のゴム環を嵌合固着してなる。

(二) 本件考案の作用効果

本件考案の作用効果は、次のとおりである(甲一―本件公報一欄一四行~二欄二行・三欄一行~四欄一行―、弁論の全趣旨)。

本件考案に係る模型レーシングカー用(エンジン)スターターは、本件公報の第4図に示すように、模型レーシングカーのフライホイール19に回転中のスターターのゴム環16を斜めに強く圧接させ、ゴム環の回転をフライホイールに伝えて、模型レーシングカーのエンジンを始動させるものである。そのため、エンジンを始動させる際、高速で回転するゴム環にはこれをモーター側へ移動させようとする力が働くが、本件考案においては、回転子のモーターと反対側にモーター軸と同心の円筒部を突設し、且つ回転子の円筒部外周には環状の停止縁を設けると共に、前記円筒部には停止縁より一段と大径のゴム環を嵌合固着するという構成をとっているので、ゴム環に働く右のモーター側へ移動させようとする力は、環状の停止縁15で抑止され、ゴム環の円筒部14からの離脱が防止される。

従って、本件考案においては、模型レーシングカーの始動操作を一定の短時間内に確実に行うことができるので安心して競技を行うことができ、また、構成が極めて簡単であって、容易に製作できるという作用効果を奏する。

2 イ号物件(一)ないし(五)の特定とその技術的構成

(一) イ号物件(一)ないし(四)の特定とその技術的構成

イ号物件(一)ないし(四)は、別紙物件目録記載のとおりのものであり(乙一、二、五、一一、検乙一ないし六、弁論の全趣旨)、その技術的構成は、次のとおり分説できるものである。

(1) 模型用エンジンスターター1′であって、

(2) 円筒状の把持ケース2′に始動モーター3′を内蔵し、ケース外側に操作用スイッチ4′を設け、ケース後側の端部材5′にクリップ6′付電源コード7′を通し、ケース前側の端部材9′より突出しているモーター軸12′に回転子13′を装着し、

(3) 前記回転子13′のモーター3′と反対側にモーター軸12′と同心の円筒部14′を突設し、

(4) 回転子13′の円筒部14′の外周の始動モーター側端部に環状の〇・二~〇・五ミリメートル程度の段部15′を設け、

(5) 前記円筒部14′は段部15′より一段と大径のゴム環16′を嵌合固着可能なようになっており、

(6) 前記円筒部14′にはその内周にゴム筒30′を、該円筒部14′の先端より突出させて嵌合固着してなる。

なお、右のイ号物件(一)ないし(四)の特定は、当裁判所が当事者双方の主張(その具体的内容は、それぞれ別紙原告ら、被告各物件説明書記載のとおり。)を参酌して整理してたものである。双方の意見が喰違っている点について、右のように整理した理由を述べておくと、次のとおりである。

(イ) 「模型用エンジンスターター1′」について

原告らは、イ号物件(一)ないし(四)は、いずれも模型飛行機用エンジンスターターとして使用されるものである(別紙説明図参照)から、「模型飛行機用エンジンスターター1′Lとすべきであると主張するところ、それらが模型飛行機用エンジンスターターとして使用されるものであることは明らかである(乙五、検乙一~五)。

しかしながら、イ号物件(一)ないし(四)が模型飛行機用エンジンスターターとして使用されるだけでなく、その他の各種ラジコン模型(ヘリコプター、レーシングカー、ボート等)のエンジンスターターとしても使用可能なものであることは明らかであり、それらは、多用途型スターターであると認められる(前同)。

従って、ここでは、被告の主張を採用し「模型用エンジンスターター」とした。

(ロ) 「環状の段部15′」について

被告は、別紙物件目録の第1ないし第4図記載15′の部材の呼称を「環状の停止縁」とすべきであると主張するが、そのようにすると、それだけで当事者間で争点となっている同部材のゴム環離脱防止機能を肯定したように受けとられるおそれもあり、訴訟の対象物の特定としては必ずしも適当でない。そこで、右の点は、技術的範囲の属否を検討する際に論ずることとし、ここでは、同部材の呼称はそのおそれの少ない「環状の段部」とした。

(ハ) 「環状の段部15′」の高さについて

「環状の段部15′」の高さについて、原告らは、製造工程上の都合によって生じたもので「〇・二ミリメートル程度」に過ぎないと主張するが、その裏付けとなる客観的な資料は提出されていない。一方、被告は、「〇・五ミリメートル」と主張し、その測定方法に関する報告書(乙一一)を提出しているが、その測定結果の正確性を担保する資料の提出はない。右事実及びイ号物件(一)ないし(四)の現物(検乙二ないし五)に照らし、ここでは、一応、同部材の高さを、「〇・二~〇・五ミリメートル程度」としておくこととした。

(二) イ号物件(五)の特定とその技術的構成

イ号物件(五)は、別紙物件目録記載のとおりのものであり(乙一、二、五、検乙一ないし六、弁論の全趣旨)、その技術的構成は、次のとおり分説できるものである。

(1) イ号物件(一)ないし(四)の回転子13′の円筒部14′の外周に嵌合固着可能な、

(2) 前記円筒部14′の外周に設けられた〇・二~〇・五ミリメートル程度の環状の段部15′より一段と大径の

(3) ゴム環16′。

なお、被告は、イ号物件(五)の説明として、「その(イ号物件(一)ないし(四)の円筒部14′の外周に設けた)環状の停止縁15′に係止して使用する」及び「イ号物件(五)の嵌合用孔の角には案内傾斜面がない。」との説明を加えるべきであると主張する。しかしながら、前者については、それは、対象物件の構成それ自体ではなく、当事者間で争点となっているイ号物件(五)の用途を特定することであると考えられることからみて、また、後者については、そのような消極的要件は構成の説明としては、必ずしも適当でないと考えられることからみて、いずれも訴訟の対象物の特定としては相当ではない。これらの点は、いずれも技術的範囲の属否又は間接侵害の成否を検討する際に必要に応じ論ずることとし、ここでは、被告の右主張は採用しない。

3 本件考案とイ号物件(一)ないし(四)の対比

以上にみてきた本件考案の構成要件とイ号物件(一)ないし(四)の技術的構成を対比してみると、次のように考えられる。

(一) 本件考案の構成要件(1)は「模型レーシングカー用(エンジン)スターター」であるのに対し、イ号物件(一)ないし(四)の技術的構成(1)は「模型用エンジンスターター1′」である。

そして、右の本件考案の構成要件(1)にいう「模型レーシングカー用(エンジン)スターター」の意味を文字どおりに解すると、模型レーシングカー専用のエンジンスターターということになり、一方、イ号物件(一)ないし(四)の技術的構成(1)にいう「模型用エンジンスターター1′」は、前記のように各種のラジコン模型(飛行機、ヘリコプター、レーシングカー、ボート)のエンジンに使用可能な多用途型スターターのことであるから、これを文字どおりに解すると、イ号物件(一)ないし(四)の技術的構成(1)は本件考案の構成(1)とは別異のものであるということになるように考えられる。

しかしながら、本件公報四欄二~五行には「なお、実施例のようにV溝を介してプーリーを形成しておくと、これにVベルトを掛けることにより、模型のヘリコプター、及びボート等を始動させる場合にも利用できる。」との記載があり、これを参酌すると、本件考案の技術的構成(1)にいう「模型レーシングカー用(エンジン)スターター」とは、必ずしも文字どおり模型レーシングカー専用のエンジンスターターに限られるものではなく、模型レーシングカー以外の各種ラジコン模型のエンジンスターターとしても使用できる多用途型スターターも含む趣旨であると解する余地もある。

(二) 本件考案の構成要件(2)、(3)とイ号物件(一)ないし(四)の技術的構成(2)、(3)を対比すると、両者はそれぞれ同一であることが明らかであり、後者の技術的構成(2)、(3)は、前者の構成要件(2)、(3)をそれぞれ充足する。

(三) 本件考案の構成要件(4)とイ号物件(一)ないし(四)の技術的構成(4)を対比してみるに、本件考案の構成要件(4)にいう「環状の停止縁」の高さの程度については、本件考案は何ら具体的な限度をしていないが、右の「環状の停止縁」が予定している作用効果が、前記のとおり高速回転するゴム環を斜めにフライホイールに圧着した際、当該ゴム環がモーター側に移動するものを抑止し、回転子の円筒部からゴム環が離脱するのを防止することにあることからすると、右「環状の停止縁」の高さは右の作用効果を奏するのに適当な高さであることが要求されると解される。

ところが、イ号物件(一)ないし(四)の技術的構成(4)にいう「環状の段部15′」の高さは、前記のとおり〇・二~〇・五ミリメートル程度であって、高速回転に伴う遠心力によるゴム環自体の拡大、フライホイールへの圧着による斜め方向への力、フライホイールに付着したオイルがゴム環に付着して滑りやすくなる等の条件を考えると、それだけの高さで、果して高速回転中のゴム環の移動・離脱を防止できるかどうか疑問を生じ、右効果を否定する原告らの主張は、十分傾聴に値するものであるといえる。

しかしながら、一方、右ゴム環の移動・離脱を防止できるかどうかは、嵌合固着されるゴム環の固さ、構成等とも関係すると考えられ、〇・二~〇・五ミリメートル程度の高さであっても、それとの関係で多少はゴム環移動・離脱防止機能を有すると考える余地はあり、イ号物件(一)ないし(四)の「環状の段部15′」をもって、直ちにゴム環移動・離脱防止機能が皆無なものであるとまでは断定できない。

従って、右「環状の段部15′」は、本件考案の「環状の停止縁」に一応該当し、イ号物件(一)ないし(四)の技術的構成(4)は本件考案の構成要件(4)を充足すると解する余地はある。

(四) 以上のようにみてくると、イ号物件(一)ないし(四)の技術的構成は、円筒部にゴム環を嵌合固着してなるという点(本件考案の構成要件(5))を除き、本件考案の構成要件を全て充足するという被告の主張を肯定する余地はある。

しかるところ、イ号物件(五)の技術的構成は、前記のとおりであり、それがイ号物件(一)ないし(四)の円筒部に嵌合固着されうるものであることは明らかである。

そこで、以下、イ号物件(一)ないし(四)にイ号物件(五)を嵌合固着させたイ号物件合体物と本件考案とを対比してみることとする。

4 イ号物件合体物の技術的構成と本件考案の対比

(一) イ号物件合体物の技術的構成

これまでにみてきたところによると、イ号物件合体物の技術的構成(分説)が、その技術的構成(5)を「前記円筒部14′には段部15′より一段と大径のゴム環16′(イ号物件(五))を嵌合固着し、」とする以外は、イ号物件(一)ないし(四)の技術的構成((1)ないし(4)及び(6))と同じになることは明らかである。

(二) イ号物件合体物と本件考案との対比

そして、イ号物件合体物の右技術的構成(5)が、これに対応する本件考案の構成要件(5)を充足することは明らかである。

従って、イ号物件合体物の技術的構成が、本件考案の構成要件全部を充足するとみる余地のあるものであることは明らかである。

5 イ号物件(一)ないし(五)の用途

そこで、仮に、イ号物件合体物が本件考案の構成要件を全て充足するとして、イ号物件(一)ないし(五)が、本件考案に係る物品の製造にのみ使用されるものであるか否かを検討する。

(一) イ号物件(一)ないし(四)各単体の実用性

(1) 原告オーケー模型は、模型飛行機及びその関連商品を主たる取扱商品として販売しているが、イ号物件(一)ないし(四)は、いずれもそれ自体が完成した模型用エンジンスターターとして製造されたものであり、イ号物件(五)とは別々に販売されている。そして、イ号物件(一)ないし(四)は、いずれもイ号物件(五)を嵌合固着すれば模型レーシングカー用エンジンスターターとして使用できるものであるが、これを嵌合固着しなくとも、それ自体として、その円筒部の内周に嵌合固着している「ゴム筒」を模型飛行機のプロペラに圧着して模型飛行機用エンジンスターターとして使用できるものである(別紙説明図参照)ことは明らかである(乙五、弁論の全趣旨)。

(2) 右事実からすると、イ号物件(一)ないし(四)が、いずれもイ号物件(五)を嵌合固着して模型レーシングカー用エンジンスターターとして使用するという用途の他に、それだけで、模型飛行機用エンジンスターターとして商業的、経済的に実用性のある用途を有するものであることは否定できず、本件考案に係る物品の製造にのみ使用されるものであるとはいえない。イ号物件(一)ないし(四)を収納している化粧箱、イ号物件(五)を収納しているパッケージ及び原告オーケー模型の商品カタログには、イ号物件(五)がイ号物件(一)ないし(四)の適応物、付属物であることを示唆する記載があることが認められる(乙五、検乙六)が、右のようにイ号物件(一)ないし(四)それ自体が完成品といえるものであり、イ号物件(五)が別売品に過ぎないことからすると、右事実は、前記認定、判断を左右するものではない。

従って、イ号物件(一)ないし(四)の製造、販売は、本件考案に係る物品の製造にのみ使用される物の製造、譲渡に該当しない。

(二) イ号物件(五)の汎用性

(1) イ号物件(五)は、前記のとおり、イ号物件(一)ないし(四)とは別々に販売されているものであり、イ号物件(一)ないし(四)のみならず、サリバン・プロダクツ社(米国法人)製の「ハイトルクスターター」、松下電池株式会社製の「ゴールディー」及び株式会社こうべ技研製の「ビッグスターター」といった回転子の円筒部外周に「環状の停止縁」又は「環状の段部」を設けていない模型用エンジンスターターにも嵌合固着可能な汎用品であることが認められる(検甲一ないし三の各一、二、弁論の全趣旨)。

(2) 右事実からすると、イ号物件(五)は、イ号物件(一)ないし(四)のいずれかのみならず、他社製の模型用エンジンスターターにも嵌合固着して模型レーシングカー用エンジンスターターとして使用するという用途があることになる。

被告は、右他社製スターターに使用することの実用性を否定し、イ号物件(五)のパッケージや商品カタログに前記のとおりイ号物件(一)ないし(四)に使用される旨の記載があることに加えて、「原告らは、イ号物件(一)ないし(四)の〇・五ミリメートルという低い停止縁によりゴム環の移動・離脱を防止するために、原告らが従前製造、販売していたゴム環(検乙七)の内径(ゴム環の嵌合用孔の直径)を三九・五ミリメートル~三八ミリメートルに縮めて回転子の円筒部を締めつける力を強化しイ号物件(五)(検乙六)としたが、前記他社製スターターには、いずれも回転子の円筒部先端外周に案内傾斜面が設けられていないから、嵌合用孔の角に案内傾斜面が設けられていないイ号物件(五)を、その円筒部に嵌合するのは極めて困難である。そのうえ、折角苦労して嵌合させても、右各スターターの回転子の円筒部外周には、いずれも嵌合したイ号物件(五)を係止する停止縁が設けられていないため、本件公報第4図に示す方法で模型レーシングカーのエンジン始動に用いた場合、イ号物件(五)は、簡単に移動・離脱してしまい模型レーシングカー用スターターとしての実用に耐えない。右他社製スターターにイ号物件(五)を嵌合して模型レーシングカー用スターターとして使用することは、結局『使用しようと思えば無理に使用できる』という程度のものであって、到底商業的、経済的に実用性のあるものではない。」旨主張する。

しかしながら、前記他社製スターターの回転子の円筒部先端外周には、「案内傾斜面」というかどうかは別として、いずれも傾斜面が設けられていることが認められるうえ(検甲一ないし三の各一)、そもそも、かなり固いゴム環であるイ号物件(五)をスターターの回転子の円筒部外周に「嵌合固着」させるという以上、「嵌合」が容易な作業でないことは当然予想されるところである。また、右他社製スターターにイ号物件(五)を嵌合して模型レーシングカー用スターターとして使用した場合、移動・離脱し易いといっても、それは、いわば本件考案以前の技術的構成からなる模型レーシングカー用スターターでの使用ということにほかならず、本件考案が登録されたからといって、右使用が直ちに商業的、経済的に実用性のないものになるとまではいえない。被告の右主張は採用できない。

従って、イ号物件(五)の製造、販売は、本件考案に係る物品の製造にのみ使用される物の製造、譲渡に該当しない。

6 営業上の信用を害する虚偽の事実を陳述流布する行為と営業上の利益を害されるおそれ

右のように、イ号物件(一)ないし(四)は、いずれも本件考案を間接侵害する物でないとする以上、本件広告による被告の権利侵害警告及び原告オーケー模型の販売先に対する同趣旨の本件通知は、虚偽事実の陳述流布にあたるというべきである。また、それが、イ号物件(一)ないし(四)に関する営業上の信用を害するものであることも、本件広告・通知の内容自体から明らかである。

ところで、被告が、原告オーケー模型との関係で同原告を名宛人として、本件広告・通知をしたことは前記のとおりであるが、原告木曽製作所との関係では、被告がこれまでに右のような広告・通知をしたことを認めさせるに足る証拠はなく、又、本件広告・通知がその直接的名宛人である原告オーケー模型のみならず原告木曽製作所に対して向けられたものであることを認めさせるに足る証拠もない。

しかし、原告オーケー模型のみならず原告木曽製作所もイ号物件(一)ないし(四)を製造、販売していること、被告が過去において原告オーケー模型につきその営業上の信用を害する虚偽の事実を記載した本件広告をラジコン模型専門雑誌に掲載し、同原告の販売先に同趣旨の本件通知をしたこと、かつ、現在においても、イ号物件(一)ないし(四)は本件考案を間接侵害する物であると主張していること、その他弁論の全趣旨を総合して考えると、たとえ本件実用新案権が昭和六三年八月七日をもって消滅し、原告木曽製作所については過去においてその営業上の信用を害する虚偽事実の陳述流布行為がなかったとしても、被告が、将来において、少なくとも、原告オーケー模型や原告木曽製作所が本件実用新案権消滅までの間に製造、販売したイ号物件(一)ないし(四)について、本件考案を侵害して製造、販売された物である旨の虚偽の事実を陳述し、またはこれを流布して原告らの営業上の利益を害するおそれはあるものと考えられる。

右によれば、第一事件における原告らの被告に対する虚偽事実陳述流布行為の差止請求は理由がある。

7 被告代表者の故意又は過失・被告の責任

前述のように、イ号物件(一)ないし(四)はいずれも本件考案の技術的範囲に属さず、かつ本件考案を間接侵害する物でもないことに、弁論の全趣旨を総合すると、被告が本件広告をラジコン模型専門雑誌に掲載し、原告オーケー模型の販売先に本件通知をしたのは、少なくとも被告代表者の過失に基づくものと認めるのが相当である。

従って、被告は原告オーケー模型が被った後記損害を賠償する責任(義務)がある。

しかし、原告木曽製作所に関しては、前記広告・通知の事実が認められないし、又、前記のとおり、本件広告・通知がその直接的名宛人である原告オーケー模型のみならず原告木曽製作所に対して向けられたものであるとも認められない。しかも、本件においては、イ号物件(一)ないし(四)に関する営業上の信用につき、同原告と原告オーケー模型とが同一視しうる関係にあることの主張・立証がない以上、原告木曽製作所の損害賠償請求は理由がない。

8 原告オーケー模型の損害

本件広告の記載内容、本件広告がラジコン模型専門雑誌に掲載されたこと、本件通知の通知先が外国法人であること及び弁論の全趣旨を総合すると、被告の本件広告掲載及び本件通知により原告オーケー模型が受けた営業上の信用毀損に基づく損害は小さくなく、これを金銭で評価すると一〇〇万円は下らないものと認めるのが相当である。

(第二事件)

第一事件でみたように、イ号物件(一)ないし(五)は、いずれも本件考案を間接侵害する物でないとすれば、これを前提とする第二事件の被告の請求は、その余の点について判断するまでもなく全て理由がないというべきである。

(結論)

よって、第一事件については、差止請求権不存在確認を求める原告らの訴えは不適法であるからこれを却下し、原告らの虚偽事実陳述流布行為差止請求及び原告オーケー模型の損害賠償請求(損害金一〇〇万円及びこれに対する不法行為の後である昭和六三年五月八日から完済まで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払請求)は理由があるからこれらを認容し、その余(原告木曽製作所の損害賠償請求)は理由がないからこれを棄却し、第二事件については、被害の請求は理由がないからこれを棄却することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条、九二条本文、九三条一項但書を、仮執行の宣言につき同法一九六条一項をそれぞれ適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 上野茂 長井浩一 森崎英二)

別紙

物件目録

一 図面の説明

第1ないし第4図は、いずれも模型用エンジンスターター(商品名は順次「モデルエレクトリックスターターSS4」、「モデルエレクトリックスターターSS6」、「モデルエレクトリックスターターSS8」、「ハイパワースターター」であり、以下順次「イ号物件(一)」、「イ号物件(二)」、「イ号物件(三)」、「イ号物件(四)」という。)の側面図である。

第5ないし第7図は、模型レーシングカー用ゴム環(以下「イ号物件(五)」という。)を示す図面であり、第5図は平面図、第6図は側面図、第7図は横断面図である。

第8図及び第9図は、イ号物件(一)ないし(四)の回転子及びイ号物件(五)の形状、並びにイ号物件(一)ないし(四)の回転子の円筒部の外周にイ号物件(五)を嵌合させた状態を示す図面である。

二 図面の符号の説明

第1ないし第4図記載の符号は、イ号物件(一)ないし(四)の左記の部材(但し、8′、10′及び11′は、イ号物件(四)だけが有する部材である。)を示すものであり、第5、第6図記載の符号16′はゴム環を示すものである。

1′……スターター、2′……把持ケース、3′……始動モーター、4′……操作用スイッチ、5′……後端部材、6′……クリップ、7′……電源コード、8′……後端部材の脚部、9′……前端部材、10′……グリップガード、11′……前端部材の脚部、12′……モーター軸、13′……回転子、14′……円筒部、15′……環状の段部、17′……プーリー、18′……V溝、30′……ゴム筒。

三 イ号物件(一)ないし(四)の説明

イ号物件(一)ないし(四)は、いずれも、

(1) 円筒状の把持ケース2′に始動モーター3′を内蔵し、ケース外側に操作用スイッチ4′を設け、ケース後側の端部材5′にクリップ6′付電源コード7′を通し、ケース前側の端部材9′より突出しているモーター軸12′に回転子13′を装着し、

(2) 前記回転子13′のモーター3′と反対側にモーター軸12′と同心の円筒部14′を突設し、

(3) 回転子13′の円筒部14′の外周の始動モーター側端部に環状の〇・二~〇・五ミリメートル程度の段部15′を設け、

(4) 前記円筒部14′は段部15′より一段と大径のゴム環16′を嵌合固着可能なようになっており、

(5) 前記円筒部14′にはその内周にゴム筒30′を該円筒部14′の先端より突出させて嵌合固着してなる。

(6) 模型用エンジンスターター1′

である。

なお、イ号物件(一)ないし(三)は、各モーターの長さと回転数が異なり、イ号物件(四)は把持ケースにグリップガード10′が付加されている点がイ号物件(一)ないし(三)と異なる。

四 イ号物件(五)の説明

イ号物件(五)は、

(1) イ号物件(一)ないし(四)の回転子13′の円筒部14′の外周に嵌合固着可能な

(2) 前記円筒部14′の外周に設けられた〇・二~〇・五ミリメートル程度の環状の段部15′より一段と大径の

(3) ゴム環16′

である。

以上

第1図~第9図<省略>

別紙

原告ら物件説明書

一 図面の説明(但し、図面は別紙物件目録の第1ないし第4図と同じである。)

第1ないし第4図は、いずれも模型飛行機用エンジンスターター(以下順次「イ号物件(一)」、「イ号物件(二)」、「イ号物件(三)」、「イ号物件(四)」という。)の側面図である。

二 図面の符号の説明

第1ないし第4図記載の符号は、イ号物件(一)ないし(四)の左記の部材(但し、8′、10′及び11′は、イ号物件(四)だけが有する部材である。)を示すものである。

1′……スターター、2′……把持ケース、3′……始動モーター、4′……操作用スイッチ、5′……後端部材、6′……クリップ、7′……電源コード、8′……後端部材の脚部、9′……前端部材、10′……グリップガード、11′……前端部材の脚部、12′……モーター軸、13′……回転子、14′……円筒部、15′……環状の段部、17′……プーリー、18′……V溝、30′……ゴム筒。

三 イ号物件(一)ないし(四)の説明

イ号物件(一)ないし(四)は、いずれも、

(1) 円筒状の把持ケース2′に始動モーター3′を内蔵し、ケース外側に操作用スイッチ4′を設け、ケース後側の端部材5′にクリップ6′付電源コード7′を通し、ケース前側の端部材9′より突出しているモーター軸12′に回転子13′を装着し、

(2) 前記回転子13′のモーター3′と反対側にモーター軸12′と同心の円筒部14′を突設し、

(3) 前記回転子13′の円筒部14′の外周の始動モーター側端部に環状の〇・二ミリメートル程度の段部15′があり、

(4) 前記円筒部14′はその形状より、一段と大径のゴム環が嵌合可能であり、

(5) 前記円筒部14′の内周には、ゴム筒30′を該円筒部先端より突出させて嵌合固着してなる

(6) 模型飛行機用エンジンスターター1′

である。

なお、イ号物件(一)ないし(三)のそれぞれは、単に円筒状の把持ケースの長さとモーターの回転数等が異なり、イ号物件(四)は把持ケースにグリップガード10′が装着されている点がイ号物件(一)ないし(三)と異なる。

以上

別紙

被告物件説明書

一 図面の説明(但し、図面は別紙物件目録第1ないし第9図と同じである。)

第1ないし第4図は、いずれも模型用エンジンスターター(商品名は順次「モデルエンジンスターターSS4」、「モデルエンジンスターターSS6」、「モデルエンジンスターターSS8」、「ハイパワースターター」であり、以下順次「イ号物件(一)」、「イ号物件(二)」、「イ号物件(三)」、「イ号物件(四)」という。)の側面図である。

第5ないし第7図は、模型レーシングカー用ゴム環(以下「イ号物件(五)」という。)を示す図面であり、第5図は平面図、第6図は側面図、第7図は横断面図である。

第8図及び第9図は、イ号物件(一)ないし(四)の回転子及びイ号物件(五)の形状、並びにイ号物件(一)ないし(四)の回転子の円筒部の外周にイ号物件(五)を嵌合させた状態を示す図面である。

二 図面の符号の説明

第1ないし第4図記載の符号は、イ号物件(一)ないし(四)の左記の部材(但し、8′、10′及び11′は、イ号物件(四)だけが有する部材である。)を示すものであり、第5、第6図記載の符号16′はゴム環を示すものである。

1′……スターター、2′……把持ケース、3′……始動モーター、4′……操作用スイッチ、5′……後端部材、6′……クリップ、7′……電源コード、8′……後端部材の脚部、9′……前端部材、10′……グリップガード、11′前端部材の脚部、12′……モーター軸、13′……回転子、14′……円筒部、15′……環状の停止縁、17′……プーリー、18′……V溝、30′……ゴム筒。

三 イ号物件(一)ないし(四)の説明

イ号物件(一)ないし(四)は、いずれも、

(1) 円筒状の把持ケース2′に始動モーター3′を内蔵し、ケース外側に操作用スイッチ4′を設け、ケース後側の端部材5′にクリップ6′付電源コード7′を通し、ケース前側の端部材9′より突出しているモーター軸12′に回転子13′を装着し、

(2) 前記回転子13′のモーター3′と反対側にモーター軸12′と同心の円筒部13′を突設し、

(3) 回転子13′の円筒部14′の外周には環状の〇・五ミリメートルの停止縁15′を設け、

(4) 前記円筒部14′は停止縁15′より一段と大径の模型レーシングカー用ゴム環16′(イ号物件(五))を嵌合固着可能なようになっており、

(5) 前記円筒部14′にはその内周にゴム筒30′を該円筒部14′の先端より突出させて嵌合固着してなる

(6) 模型用エンジンスターター1′

である。

なお、イ号物件(一)ないし(三)は、各モーターの長さが異なり、イ号物件(四)は把持ケースにグリップガード10′が付加されている点がイ号物件(一)ないし(三)と異なる。

四 イ号物件(五)の説明

イ号物件(五)は、

(1) イ号物件(一)ないし(四)の回転子の円筒部14′の外周に嵌合固着するもので、

(2) その環状の停止縁15′に係止して使用する

(3) ゴム環16′

である。

なお、イ号物件(五)の嵌合用孔の角には案内傾斜面がない。

以上

別紙 広告目録<省略>

別紙

説明図<省略>

実用新案公報

実用新案出願公告昭六〇―二六二三三

公告 昭和六〇年(一九八五)八月七日

考案の名称  模型レーシングカー用スターター

実願   昭五四―一二八一二七

出願   昭五四(一九七九)九月一八日

公開   昭五六―四七二六〇

昭五六(一九八一)四月二七日

考案者    横堀智明  東京都足立区千住元町二五番二号

出願人    株式会社ノバ  松戸市三谷小台四丁目四番地の二四

代理人    弁理士 本多輝雄

審査官    原慧

参考文献   特開 昭五〇―三七九三二(JP、A)

実用新案登録請求の範囲

円筒状の把持ケースに始動モーターを内蔵し、ケース外側に操作用スイッチを設け、ケース後側の端部材にクリップ付電源コードを通し、ケース前側の端部材より突出しているモーター軸に回転子を装着してある模型レーシングカー用スターターに於いて、前記回転子のモーターと反対側にモーター軸と同心の円筒部を突設し、且つ回転子の円筒部外周には環状の停止縁を設けると共に、前記円筒部には停止縁より一段と大径のゴム環を嵌合固着してなる模型レーシングカー用スターター。

考案の詳細な説明

本考案は模型レーシングカー用スタータに関するものであって、従来のこの種スターターには、円筒状の把持ケースに始動モーターを内蔵し、その回転軸に摩擦用ゴム環を装着した回転子を設けてあり、而してレーシングカーのエンジン始動に際しては、エンジンに連結しているフライホイールに回転中の摩擦用ゴム環を接触させているが、始動モーターの回転速度が非常に速い上に、第4図に示すようにゴム環を斜めにしてフライホイールに強く圧接するため、ゴム環がモーター側にずれて回転子より屡々外れる惧があった。しかるに、模型レーシングカーではスタート前の一定の短時間内に始動操作を確実に行わなければならないものである。そこで、本考案では上記従来の欠点を除去し、摩擦ゴム環の離脱する惧がなく、確実に始動走査できるスターターを提供しようとするものである。

次に図面につき本考案の実施例を説明すると、1はスターターであり、2は始動モーター3を内蔵した円筒状の把持ケースであって、その下側には操作スイッチ4を付設してある。5はケース後側に設けた後端部材であって、該後端部材にはクリップ6を連結した電源コード7が通されている。8は後端部材の脚部を示す。更に9はケース前側に設けた前端部材であって、その上部には保護縁10を突設し、下部には前記脚部8に対応する脚部11を設けてある。

12は前端部材9から突出しているモーター軸であって、回転子13を装着し、該回転子のモーター3と反対側にはモーター軸と同心の円筒部14を突設し、且つ回転子13の円筒部側外周には環状の停止縁15を設けると共に前記円筒部14には停止縁15より一段と大径のゴム環16を嵌合固着してある。更に、円筒部14の先端外周にはゴム環16の装着作業を容易にするために案内傾斜面14′を設けてある。又17は必要に応じ回転子13のモーター側にV溝18を介して形成したプーリーを示す。なお第3図に示すようにV溝及びプーリーを形成しない場合もある。

図中19はレーシングカーのエンジン20に連結したフライホイール、21はクラッチベルであって、図示しないがピニオンギヤーを介して動力軸に連結している。

上記構成の如く、本考案に於いては、回転子のモーターと反対側にモーター軸と同心の円筒部を突設し且つ回転子の円筒部側外周には環状の停止縁を設けると共に、前記円筒部には停止縁より一段と大径のゴム環を嵌合固着したから、このスターターを用いて模型レーシングカーを始動させるには、第4図に示す如くレーシングカーのフライホイール19に、回転中のゴム環16を接触させて行う。その際ゴム環は高速回転しており、且つゴム環を斜めにしてフライホイールに強く圧接されることにより、ゴム環にモーター側へ移動しようとする力が働くが、環状の停止15で抑止されるためゴム環の離脱する惧は全く存しない。従って、模型レーシングカーの始動操作を一定の短時間内に確実に行うことができるので安心して競技を行うことができる。又本考案は構成が極めて簡単であって、容易に製作できる利点もある。

なお、実施例のようにV溝を介してプーリーを形成しておくと、これにVベルトを掛けることにより、模型のヘリコプター、及びボート等を始動させる場合にも利用できる。

図面の簡単な説明

図面は本考案の実施例を示すものであって、第1図はスターターの側面図、第2図は要部の断面図、第3図は別実施例の要部断面図、第4図は使用状態図を示す。

1……スターター、2……把持ケース、3……始動モーター、4……操作スイッチ、5……後部材、7……電源コード、9……前端部材、12……モーター軸、13……回転子、14……円筒部、15……停止縁、16……ゴム環、17……プーリー、18……V溝。

第1図~第4図<省略>

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