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大阪地方裁判所 昭和62年(ワ)9105号 判決 1988年9月13日

原告

山村隆

ほか一名

被告

中村敬一

ほか二名

主文

一  原告らの請求をいずれも棄却する。

二  訴訟費用は原告らの負担とする。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1  被告らは各自、原告らに対し、各金一一二四万五七〇八円及び内金一〇二四万五七〇八円に対する本訴状送達の日の翌日から支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。

2  訴訟費用は被告らの連帯負担とする。

3  仮執行宣言

二  請求の趣旨に対する答弁

主文と同旨

第二当事者の主張

一  請求原因

1  交通事故の発生

次のとおりの交通事故(以下「本件事故」という。)が発生した。

(一) 日時 昭和六二年二月六日午前三時四〇分頃

(二) 場所 大阪市東住吉区中野四丁目一五番二五号先路上

(三) 加害車 被告中村敬一(以下「被告敬一」という。)運転の普通乗用自動車(なにわ五五み五一六六号)

(四) 被害者 加害車に同乗中の亡山村哲二(以下「亡哲二」という。)

(五) 態様 加害車が路上駐車中の普通貨物自動車に追突し、亡哲二が頚髄離断の傷害により即死した。

2  責任原因(共同不法行為責任、民法七一九条)

被告らは、次のとおりの理由により、本件事故による亡哲二及び原告らの損害を連帯して賠償すべき義務を負う。

(一) 被告敬一の責任(一般不法行為責任、民法七〇九条)

被告敬一は、多量に飲酒して加害車を運転中、前方を注視して追突事故を防止すべき注意義務があるのに、これを怠つた過失により、本件事故を発生させた

(二) 被告中村榮二及び同中村栄子(以下「被告榮二ら二名」という。)の責任(一般不法行為責任、民法七〇九条)

被告榮二ら二名は、未成年者である被告敬一の親権者として同人に対し監護及び教育の義務を負担していたものであるが、同人が日頃外出してどのような行動をとつているかについて十分な監督及び指導を怠つた過失により、本件事故を発生させた。

3  損害

亡哲二原告らは、本件事故により、以下に述べるとおりの損害を被つた。

(一) 亡哲二の死亡による逸失利益 三〇五五万三八六六円

亡哲二は本件事故当時一九歳の男子であり、中学校卒業後松原職業訓練校において三か月溶接工の訓練を受けて、父親の営む水道配管業の手伝いをし、当初は日給四〇〇〇円程度、昭和六一年八月以降は日給七〇〇〇円宛で月額一八万円程度の賃金を得ていたところ、本件事故により死亡しなければ六七歳までの四八年間就労が可能であつたと考えられるから、一九歳の中卒男子労働者の平均賃金である年間収入一八〇万八〇〇〇円を基礎とし、生活費割合を三割として、亡哲二の死亡による逸失利益を年別のホフマン式により年五分の割合による中間利息を控除して算定すると、三〇五五万三八六六円となる。

(計算式)

1,808,000×0.7×24.126=30,553,866

(二) 慰藉料 一八〇〇万円

亡哲二分及び原告ら分を含めた慰藉料の総額としては、右金員が相当である。

(三) 葬儀費用 一九五万七五五〇円

(四) 弁護士費用 二〇〇万円

(五) 損害額合計 五二五一万一四一六円

4  権利の承継

原告らは、亡哲二の両親でありその相続人であつて、他に相続人はいないところ、同人の死亡により、同人の被告らに対する損害賠償請求権を各二分の一宛相続により承継取得したから、原告らの被告らに対し賠償を請求し得る損害額は二六二五万五七〇八円となる。

5  損害の填補

原告らは、本件事故による損害につき、自賠責保険金として二五〇〇万円の支払を受け、各一二五〇万円宛各損害に充当した。

6  本訴請求

よつて請求の趣旨記載のとおりの判決(各残損害額一三七五万五七〇八円の内金請求。遅延損害金は本件事故発生の日より後の日である本訴状送達の日の翌日から支払ずみまで民法所定の年五分の割合による。但し、弁護士費用に対する遅延損害金は請求しない。)を求める。

二  請求原因に対する認否。

1  請求原因1の(一)ないし(五)は認める。

2  同2の(一)は認める。(二)の内、被告榮二ら二名の義務については認めるが、その余は認否する。

3  同3の(一)ないし(五)は不知。

4  同4の内、原告らが亡哲二の両親であることは認めるが、その余は不知。

5  同5の内、原告らが自賠責保険金として二五〇〇万円の支払を受けたことは認めるが、その余は不知。

三  抗弁(好意同乗及び過失相殺)

亡哲二は、被告敬一及び訴外小中学(以下「訴外小中」という。)とともに、本件事故当日の午前〇時頃から事故直前の午前三時半頃まで飲酒しており、その後三人で加害車に乗車するにあたつて比較的酔いの少ない被告敬一が運転することになつたものであるうえ、亡哲二は本件事故に至るまでの約二二〇〇メートルの間にわたり、車外に上体を乗り出した状態で乗るいわゆる「箱乗り」をし、積極的に暴走行為をしていたものと認められ、仮にこのような「箱乗り」をしていなければ、被告敬一や訴外小中のように傷害でとどまり、一命を失うまでに至らなかつたのではないかと思われるから、亡哲二及び原告らの損害賠償額の算定にあたつては、好意同乗及び過失相殺により、その全損害額から少なくとも五割減額されるべきである。

四  抗弁に対する認否

抗弁の内、亡哲二が「箱乗り」をしていたことは不知。その余の事実は争う。

亡哲二は、積極的に被告敬一に運行指示をしたことはなく、むしろ誘われてついていつただけであり、好意同乗減額をすべきケースではない。

また仮に、亡哲二が「箱乗り」をしていたとしても、被告敬一は多量に飲酒したうえ、時速九〇キロメートルもの速度で暴走しており、極めて重大な過失があり、亡哲二らの損害額を減額するとしても、せいぜい四割にとどめるべきである。

第三証拠

本件記録中の書証目録及び証人等目録に記載のとおりであるから、これを引用する。

理由

一  交通事故の発生

請求原因1の(一)ないし(五)の事実は、当事者間に争いがない。

二  責任原因

1  被告敬一の責任

請求原因2の(一)の事実は、当事者間に争いがない。

従つて、被告敬一は民法七〇九条により、本件事故による亡哲二及び原告らの損害を賠償すべき責任がある。

2  被告榮二ら二名の責任

請求原因2の(二)の内、被告榮二ら二名の過失の点以外の事実については、当事者間に争いがなく、その余については争いがあるが、これらの点に先立つて、まず好意同乗及び過失相殺の点について判断することとする。

三  好意同乗及び過失相殺

成立に争いがない乙第一号証の一ないし二五並びに証人小中学の証言によれば、次のとおりの事実が認められ、他に右認定を左右するに足る証拠はない。

1  亡哲二、被告敬一及び訴外小中は、中学の同窓生であり、同じく同窓生の土谷某とともに、本件事故の前日の昭和六二年二月五日午後九時頃から、訴外小中所有の加害車(ホンダシビック)に同乗し、同人の運転で金剛山ヘドライブに行き、その帰りの同日午後一一時三〇分頃右土谷を降ろした後、三人で酒を飲みに行くことになり、翌六日の午前〇時頃亡哲二と被告敬一の行ったことのあるスナツク「アカネ」に入つた。

2  亡哲二ら三人は、右スナックで、VSOPのブランデーの水割りをそれぞれ七杯ずつ程飲んで、そのボトルを一本弱空けたが、同日の午前二時三〇分頃訴外小中はほろ酔い機嫌となり運転が困難となつたため、比較的酔つていなかつた被告敬一に帰りの加害車の運転を頼み、同被告はこれを了承して加害車のキーを受け取り、午前三時三〇分頃三人で同店を出た。

3  被告敬一は、近くに置いてあつた加害車を運転し、亡哲二はその助手席に、訴外小中は後部席にそれぞれ同乗して帰途についたが、まもなく亡哲二は、助手席側のドアの窓枠に腰をかけ、車外に上半身を乗り出す状態で乗車するいわゆる「箱乗り」を始め、本件事故が発生した地点までの約二二〇〇メートルにわたつてこれを継続した。

4  被告敬一は、帰途を急ぐ余り、制限時速が四〇キロメートルの道路を時速約九〇キロメートルという高速で西から東へ走行中、対向車に気を取られ、道路前方の左側に駐車中の普通貨物自動車にその手前約五・二メートルに至つてようやく気付き、右ヘハンドルを切つたが及ばず、加害車の左前部を右自動車の右後部に激突させ、亡哲二は車外に投げ出されて即死し、被告敬一は前額部挫傷を、後部席で寝ていた訴外小中は両足打撲をそれぞれ負つたが、両名とも本件事故当日治療を受けただけの軽傷で済んだ。

5  本件事故後の検査で、被告敬一の呼気一リットル当たりに〇・二五ミリグラムのアルコールが検出された。

右認定の事実によれば、本件事故の発生については、被告敬一において、酒気を帯びた状態で、かつ制限時速を約五〇キロメートルも超える高速で走行中、前方に対する注視を怠つた過失が認められるところ、他方において亡哲二にも、被告敬一らとともに飲酒した後同人運転の加害車に同乗して帰宅途中、同人が酒気を帯びた状態で制限速度を大幅に超過して走行しているにもかかわらず、いわゆる「箱乗り」と称される極めて危険な乗り方で乗車していた過失があり、本件事故の際、被告敬一と訴外小中は軽微な傷害しか受けていないのに、亡哲二は頚髄離断で即死するという対象的な結果となつていること等の事情を考慮すれば、過失相殺により、本件事故による亡哲二及び原告らの全損害額から少なくともその六割を減ずるのが相当であると考えられる。

そうすると、仮に、本件事故による亡哲二及び原告らの損害額が、原告ら主張のとおりであり、かつ原告らが被告榮二ら二名に対しても損害賠償を請求できるとしても、弁護士費用を除くその主張額の合計である五〇四九万一四一六円から過失相殺として六割を減額すると、亡哲二及び原告らが被告らに対し賠償を請求し得る損害額は二〇二〇万四五六六円となる。

四  権利の承継

請求原因4の内、原告らが亡哲二の両親であることは当事者間に争いがなく、弁論の全趣旨によれば、原告らは亡哲二の相続人であり、他に同人の相続人はいないことが認められるから、原告らは、亡哲二の死亡により、同人の有していた損害賠償請求権を各二分の一宛相続により承継取得したというべきである。

そうすると、原告らが被告らに対し賠償を請求し得る損害額は、各一〇一〇万二二八三円となる。

五  損害の填補

請求原因5の内、原告らが本件事故による自賠責保険金として二五〇〇万円の支払を受けたことは、当事者間に争いがなく、前記四において認定した事実によれば、原告らはそれぞれその二分の一の各一二五〇万円宛各損害につき支払を受けたとみるのが相当であるから、原告らが被告らに対し請求し得る損害額は既に全額填補ずみというべきである。

六  結論

よつて、その余の店につき判断するまでもなく、原告らの本訴請求は理由がないからこれをいずれも棄却することとし、訴訟費用の負担につき民訴法八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 細井正弘)

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