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大阪地方裁判所 昭和63年(チ)1号 決定 1988年2月24日

申請人

有限会社久保マンション

右代表者取締役

久保マツエ

申請人

酒井清

申請人

協和貿易株式会社

右代表者代表取締役

山本晃

主文

大阪市淀川区西中島町三丁目二三番一四号新大阪ダイヤモンドビジネス内 但し、建物登記簿上の所在地は大阪市淀川区西中島三丁目三二一番地(仮換地 新大阪駅周辺地区ブロック一二一符号二)に事務所を有する新大阪ダイヤモンドビジネス管理組合の仮理事長を行なう者として

住所 西宮市川西町五―四―四〇三

事務所 大阪市北区西天満四―六―一二サン・アロービル四階

弁護士 在間秀和

を選任する。

(裁判官佐野正幸)

申請の趣旨

裁判所の定める者を左記権利能力なき社団の仮理事長に選任する。

新大阪ダイヤモンドビジネス管理組合

(事務所所在地)

大阪市淀川区西中島三丁目二三番一四号新大阪ダイヤモンドビジネス内

但し、建物登記簿上の所在地は

大阪市淀川区西中島三丁目三二一番地

(仮換地 新大阪駅周辺地区ブロック一二一符号二)、

との裁判を求める。

申請の理由

第一 新大阪ダイヤモンドビジネス管理組合

一 概要

1 右管理組合(以下「管理組合」という。)は、申請の趣旨記載の所在地に存在する左記区分所有建物の全区分所有者で構成される団体である。

建物の番号 新大阪ダイヤモンドビジネスマンション

構造 鉄骨鉄筋コンクリート造陸屋根地下一階付一一階建

床面積 一階 578.52平方メートル

二ないし一一階 604.68平方メートル

地下一階 630.00平方メートル

(建物敷地)

大阪市淀川区西中島町五丁目一二四番

923.99平方メートル

2 管理組合は、団体の根本規則である管理規約を有し、これに基づいて総会・役員の機構を備え、管理組合名義の預金口座を備えて、内部的な運営及び対外的取引活動を営んでいるもので、いわゆる権利能力なき社団にあたる。

3 新大阪ダイヤモンドビジネスマンション(以下「本マンション」という。)は、昭和四九年三月一〇日に築造された地上一一階地下一階のビルで、区分所有権数は車庫部分も含めて二〇二戸である。

地階は駐車場(車庫)になつており、一階部分は管理人事務室・共用ラウンジの外、喫茶店・スナック・食堂・マージャン店が入居する店舗部分、二階以上はいわゆるワンルームで、住居として使用されている部分の外かなりの数がオフィスに使用されている。区分所有者自ら店舗・住居に使用する戸もある(約三〇戸)が、かなりの部分は投資の対象として賃貸に供されてきた。

JR新大阪駅から徒歩数分、地下鉄御堂筋線西中島南方駅のすぐそばという立地条件に恵まれ、近年地価上昇の著しい地域である。

第二 申請人

申請人有限会社久保マンションは、六〇九号室(専有部分の家屋番号三二一番の三三)の区分所有権者、申請人酒井清は、七一一号室(専有部分の家屋番号三二一番の一三七)の区分所有権者であり、いずれも管理組合の組合員である。

申請人協和貿易株式会社は、一一二〇号室の賃借人である。

第三 従前の管理の概要

一 役員

管理規約上、管理組合に、理事長一名、副理事長一名、理事二名を置くこととされている(管理規約第二四条)。

しかし、管理組合成立以来昭和六一年三月頃までは、役員の選任は行われなかつたようで、昭和六一年三月頃になつてようやく、隣地との建築・境界紛争を契機として初めて、役員選任がなされた。

昭和六二年五月当時、理事長山本昇(八〇九号室の専右部分の区分所有者)の外、副理事長井上和子、理事宮野進の役員が存在した。

二 管理委託

マンションの管理業務の大半は、管理組合設立当初より、管理会社である株式会社大阪サポート(以下「大阪サポート」という。)に委託してきた。

管理委託料は、昭和六二年五月までは月額一一〇万円、同年六月からは月額一二五万円であつた。

三 管理に要する費用の徴収

1 定額管理費及び積立金

管理規約一九条に基づき、区分所有者は管理組合に対し、毎月定額の管理費及び積立金を支払うこととされている。右金額は、後記昭和六二年五月三一日の定期総会において同年四月分からの減額が承認されたものである。

右管理費(積立金を含まない)の総額は、月額二、三一六、〇〇〇円、年額二七、七九二、〇〇〇円であり、これが管理委託費・保守点検費・共用部分の電気料金その他の管理組合の通常経費の財源とされていた。

なお、管理委託費・電気料金以外の固定経費として、エレベーター保守費月額一四七、五〇〇円等、毎月四〇万円程度が支出されていたようである。

2 電気料金等

(一) 電気料金

電気の供給契約は、共用部分・専有部分全て管理組合と関西電力(三国営業所取扱)との一括契約(但し、関西電力との契約当事者は管理会社である大阪サポートになつているようである)であり、管理組合の後記銀行口座から一括して引き落とされて、専有部分の電気料金については、検針に従い、管理組合(ないし大阪サポート)から区分所有者ないし使用者に対し、毎月求償するという関係になつている。

(二) 水道料金

水道の供給契約も電気と同様で、大阪市水道局(豊里営業所)と管理組合が一括契約し、基本料金(右同表のとおり)及び使用量に応じた代金を、管理組合が求償している。

(三) ガス料金

ガスの供給契約も同様に、大阪ガス(北支社)と管理組合との一括契約である。但し、ガスの使用は、一階の店舗部分のみである。

3 徴収

右管理費・積立金・電気料金等の請求及び徴収は、大阪サポートが行つており、毎月管理組合の銀行口座に請求金額を入金して支払うものとされていた。

第四 管理機能の麻痺

一 前記のように、昭和六一年三月頃までは、管理組合の役員の選任もなされず、管理業務は挙げて大阪サポートに委ねられていたように、管理組合は本来期待される機能を果たしていなかつた。大阪サポートに対する監督も不十分だつたようで、管理費等の未収金がかなり多額に発生していたようである。

しかし、役員が選任されて以後は、自治意識も芽生え始め、管理組合による管理の充実が期待されるところであつた。

二 業者の買占進行と管理状況の悪化

ところが、その後まもなく、本マンションは特定業者の買占の波にさらされることとなつた。

買占は昭和六二年初め頃から目立ちだし、空室になつた部屋のドアには、『管理物件(株)マツヤマ』の貼り紙が次々に掲示された。

区分所有権を譲り受け、あるいは所有権移転の前に明渡を受けた業者側は、自らは一切管理費・積立金・電気料金・水道料金の支払をしなかつたので、業者の手に渡る数が増すにつれ、管理組合の財政状況は極度に悪化していつた。

三 役員の辞任、管理会社の撤退

1 昭和六二年五月三一日、管理組合の定期総会が開催された。

このとき報告された財政状況は、昭和六二年二月分までの未収金総額五、二一八、六五四円という状態であつた。

そのような状況の中で、山本昇理事長以下全理事が、後任理事が選任されないまま、役員を辞任してしまつた。

2 右総会において、資金不足により管理組合の運営が不可能になつた場合には、大阪サポートは管理業務を終了させることができるものとされ(なお、同社の管理委託料が月額一一〇万円から一二五万円に増額されている)、事態は当然悪化の一方をたどつたので、昭和六二年八月末をもつて大阪サポートは本マンションの管理業務を打ち切つた。

同年八月一五日現在の未収金総額は金一三、五七四、二七一円に上り、そのうち入居者が「三和企画」となつている全室の未収金総額は、金一〇、六八六、二九五円であつた。

これにより、検針をして電気料金・管理費等の請求を行う者がいなくなつたので、それまで送付された請求書に従つて入金していた区分所有者・入居者も管理費等を納入する者が少なくなり、財政状況悪化に拍車をかけた。また、管理人室は不在となつて防犯・防災の上でも大きな問題が生じ、清掃等ビルの維持管理も全く行われない状態に至つた。

3 このように、役員の辞任と管理会社の撤退により、本マンションの管理機能は全てストップすることとなつた。

第五 買占の実態及び現状

一 現時点の区分所有者の状況

昭和六三年二月二日現在の登記簿謄本によれば、区分所有者の状況は次のとおりである。

全区分所有権数 二〇二

① 松山麻男     一〇五

② 大平産業株式会社  五〇

③ 李珍勛        九

小計 一六四

④ その他(頭数三三人) 三八

二 買占の実態

1 買占は主として、「松山麻男」名義で進められている。松山麻男は、株式会社マツヤマの取締役であるから、松山麻男の背後に右会社があることは明らかである。

松山麻男への売買の仲介は、前記「三和企画」が行つているようである。「三和企画」は、正式には株式会社三和企画であり、もともと本マンションの売買、賃貸等の仲介業務に関与していたようであるが、株式会社マツヤマの買収工作に手を貸すようになつた。前記のように、松山麻男が取得した室は、明渡を受けた後はほとんど「三和企画」が入居したものとされており、室のドアには「管理物件(株)マツヤマ」の貼紙がされている。

株式会社マツヤマの意図は、本マンションの全区分所有権を買い占めて、本マンションを取り壊して更地にし、地価上昇著しい本マンションの前記敷地を転売して多大な譲渡益を得ようとするものであること疑いをいれない。

ちなみに、本マンションの敷地は一坪三、〇〇〇万円は下らないといわれているので、公簿上の約二二七坪で六八億円となる。区分所有権の買収は一、五〇〇万円から二、〇〇〇万円程度で行なわれているようであるから、単純に二、〇〇〇万円で二〇〇戸を買収するとしてかかる費用は四〇億円であり、二八億円の利益が生み出されることになる。

2 現在までのところ、二〇二戸のうち一六四戸(区分所有者の頭数にすれば、三六人のうち三人)が、松山グループの手に渡つていることになる。

第六 最近の状況

一 財政状況

1 前記のように、昭和六二年二月分までの未収金総額金五、二一八、六五四円であつたのが、大阪サポートが撤退する直前の同年八月一五日現在では金一三、五七四、二七一円に膨らんでいる。

2 昭和六二年五月には金四、〇二〇、八二七円が徴収されている。しかし、これとて、管理費・積立金・給湯冷暖房基本料の合計が金三、一四二、六〇〇円であり、これに後記のように月額二〇〇万円を超える電気・水道・ガスの料金を加えた金額が本来徴収されるべき金額であること及び既に極めて多額の未収金が存在することからすれば、財政状況の極度の悪化が伺える。

そして、同年八月には入金額は、金二、七六〇、四八六円まで落ち込んでいる。

3 このような中で、支払(出金)はもちろんそれと無関係に発生し、電気・水道・ガス料金の状況は、毎月二五〇万円ないし四〇〇万円の出金となつている。

4 昭和六二年五月末日の時点の管理組合の前記銀行口座残高は、金六三八、八五七円にすぎなくなつた。

そこで、大阪サポートは、管理組合の経費の支払に充てるため、次のように積立金を取り崩し、管理組合の前記銀行口座に振り替えた(これは、昭和六二年五月三一日の総会で、やむをえない場合の措置として承認されていた)。

六月二九日 定期預金 金二、〇〇一、〇二六円

七月三〇日 定期預金 金三、〇六〇、八二〇円

八月一〇日 普通預金 金一、二五一、〇〇九円

定期預金 金八〇〇、〇六〇円

定期預金 金四、二三三、九五三円

合計 金一一、三四六、八六八円

同年五月三一日の総会で報告されている積立金の総残高が金一〇、九〇五、二六四円であるから、右によつて積立金は全額取り崩されたものと思われる。

5 大阪サポートが撤退した後の昭和六二年九月以降は、請求書を送付する者がいなくなつたので、入金状況は極度に悪化している。それに伴い、前記銀行の残高も極めて僅少になつていつた。

そして、昭和六二年一〇月に支払われるべき電気料金一、七二九、四〇四円が残高不足で引き落としができず、以後電気料金は管理組合からは支払われていない。

水道料金は昭和六二年一二月分まで引き落としがなされたが、昭和六三年一月分金一四〇、四二三円が残高不足で支払不能になつている。

昭和六二年一一月以降は入金が一〇万円を割つている状況なので、銀行残高が零になる日は遠くない、極めて危機的な状況である。

6 右の関西電力に対する昭和六二年一〇月分の未納電気料金は、関西電力が契約当事者である大阪サポートに請求し、大阪サポートが立替払いをしたようである。

また、同年一一月分(一、五九八、六五九円)、一二月分(一、五五七、〇七七円)は、後記のとおり昭和六三年初め、松山側が立て替えて、大阪サポートの名で支払を完了している。

二 その他の状況

大阪サポートが撤退した昭和六二年九月以降、管理人室は無人化し、廊下やトイレ等の清掃も行われなくなり、空室が次々に増えていつたこともあり、日々ゴーストタウン化が進行している(女性などは、一人でエレベーターに乗るのも怖いという状況である)。

管理人不在のため、防犯・防災上大きな不安があることもあつて、本マンションは通常の使用は極めて困難になりつつある。電気・水道の供給がいつ停止されるかわからないという状況の中で、本マンションに入居している店舗・事務所・居住者らは、日々大きな不安を抱えている。

なお、大阪サポート撤退後は、トイレが詰まつた等の問題処理には、第一次的に三和企画が大阪サポートから任せられてあたつているようである(管理人室の鍵も大阪サポートの外、三和企画が所持しているようである)が、十分な対応は到底望めず、入居者が自ら清掃をしたりしている状況である。

三 松山グループの動き

1 昭和六二年一二月二五日、松山麻男の呼び掛けで、本マンション近くのホテルで区分所有者の集まりが持たれた。区分所有者数名の出席があつたようだが、松山側は、買収を希望していること、集会の趣旨がその挨拶にあることを明言した。

当日大阪サポートの畑社長も出席し、関西電力から昭和六二年一一月分・一二月分の電気代を同年末日までに支払わなければ、電気の供給をストップする旨の文書による送電停止勧告が大阪サポート宛にあつたことを明らかにした。

これを巡つて出席した区分所有者から、今日まで多額の管理費等を滞納している松山氏の方が立て替えてでも関西電力に払うべきである、管理体制を早期に修復して管理費等の徴収を再開することが急務であり、そのためには現時点の区分所有者が協力して正式な集会を開催し、適正な管理を行える人物を管理者に選任すべきである等の意見が出された。

2 前記のように、右一一・一二月分未納電気代合計金三、一五五、七三六円は、その後昭和六三年一月初め、松山側が立替払いし、とりあえず関西電力による送電停止という最悪の事態は避けることができた。

しかし、松山側からの総会開催の動きはなく(松山側の協力がなければ少数招集権による総会招集も不可能である)、昭和六三年一月分以降は、前記のように電気代に加え水道料金も支払えない状況に至つている。

また、昭和六三年一月分の電気代金一、一五〇、九一八円については、松山側も立替払いを拒否しているようである。

第七 仮理事長選任の必要性等

一 以上のように、本マンションは、管理主体を喪失し、また管理に要する資金が底をついて、瀕死の状態である。

その元凶は松山グループの不当な方法による買占であるが、右事態を招いた最大の原因は、厳正な管理費等の徴収がなされなかつたこと及び管理組合の運営にあたる理事長が存在しなくなつてしまつたことにある。

特に大阪サポートが撤退した昭和六二年九月以降は、誰も管理費等の徴収に当たるものがいなくなつたことは、まさに致命的であつた。

二 管理組合の再生のためには、管理費等の徴収に当たる法的正当性のある者の選任が不可欠である。これ以上管理費の徴収をしないまま放置しておけば、遠からず電気・水道等の供給がストップし、本マンションは早晩死亡宣告を受けることになろう。そうなつてしまえば、松山グループの思う壺である。

三 右のように、今仮理事長を選任しなければ、管理組合は遅滞のため致命的な損害を被るおそれがある。

四 申請人らは、本マンションの区分所有者(管理組合の組合員)ないし賃借人として、管理組合の仮理事長選任に重大な利害関係を有することは多言を要しない。

もちろん、従前のような快適なマンションを取り戻すことが、松山グループが区分所有権の大部分を買い占め、そのほとんどが空室になつてゴーストタウン寸前の状況の中では、大きな困難が予想されることは、申請人らも承知しているが、このまま本マンションが死滅することになれば、申請人らの権利が侵害されることは明らかであり、松山グループのそのような暴挙は到底容認できないところである。

第八 結論

よつて、緊急に仮理事長を選任していただきたく、本申請に及んだ次第である。

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