大阪地方裁判所 昭和63年(ホ)3260号・平元年(ホ)2308号
被審人
日本シェーリング株式会社
右代表者代表取締役
ヨルグ・グラウマン
右被審人代理人弁護士
中筋一朗
同
益田哲生
右の者に対する頭書事件について、昭和六三年九月二一日化学一般日本シェーリング労働組合から、平成元年七月四日中央労働委員会から、緊急命令不履行通知がそれぞれあったので、当裁判所は、被審人役員垣見満の陳述を聴き、検察官の意見を求めて、審理のうえ、次のとおり決定する。
主文
被審人を過料一〇〇万円に処する。
手続費用は被審人の負担とする。
理由
一 本件記録によれば、次の事実が認められる。
1 大阪府地方労働委員会は、申立人を化学一般日本シェーリング労働組合(以下「組合」という)、被申立人を被審人とする昭和五〇年(不)第五九号、同五二年(不)第四八号及び同五三年(不)第六六号併合事件について、同五五年六月六日付別紙一記載(略)のとおりの救済命令を発した。
2 被審人は中央労働委員会に再審査の申立をしたが、同委員会は、同五八年八月三日付で別紙二(初審命令主文の一部変更)記載(略)のとおり、初審命令主文の一部を変更したが、その余の再審査申立を棄却する命令(以下「本件救済命令」という)を発した。
3 被審人は東京地方裁判所に本件救済命令の取消の訴えを提起した(同裁判所昭和五八年(行ウ)第一三三号行政処分取消請求事件)ところ、同裁判所は、右委員会の申立(同裁判所昭和五八年(行ウ)第一〇五号緊急命令申立事件)により、同六〇年一月二四日、被審人に対し別紙三記載(略)のとおり、緊急命令(以下「本件緊急命令」という)を発した。
二 本件緊急命令主文第一項の「被申立人(被審人)は補助参加人(組合)からの団体交渉の申入れに対し、被申立人から日時、交渉時間、場所、出席人員、議題を限定して団体交渉を申入れ、この申入れに補助参加人が文書で応諾しない限り団体交渉を行わないとの態度に固執することなく、誠意をもって速やかに団体交渉に応じなければならない」との趣旨は、労働組合法七条二号の禁止する「使用者が雇用する労働者の代表者と団体交渉をすることを正当な理由なく拒むこと」の一場合として、被審人が、組合の団体交渉申入れに対し、これに応じられない正当理由がないのに、これとは異なる日時、交渉時間、場所、出席人員、議題等を内容とする団体交渉を逆に提案し、この提案に組合が応諾しない限り団体交渉を行わないとの対応をすることを禁じたものであり、被審人が、自らの提案に組合が応諾しない限り団体交渉を行わないとの対応をとる以上、必ずしも組合に対し、文書による応諾まで要求していない場合も含むと解される。
三 本件記録によれば、以下の事実が認められる。
1 組合は昭和六〇年一一月七日被審人に対し、<1>日時 一一月一二日、<2>場所 本社会議室、<3>メンバー 組合三役と執行委員四名、<4>議題 組合提出の秋季年末一時金要求の件、という内容の団体交渉を申入れたところ、被審人は同月一一日これを拒否した。さらに組合は、同月一二日及び一五日に開催日を一一月一八日、一一月一九ないし二〇日とし、その他は前記と同内容の団体交渉を申入れた。これに対し被審人は、組合の右申入れを応諾できない理由を何ら示すことなく、同月一八日逆に組合に対して、<1>日時 「一月二〇日午後師(ママ)四時三〇分より二時間以内、<2>場所 サニーストンホテル、<3>メンバー 会社組合双方とも四名以内、<4>議題 組合要求事項に対する会社回答並びに申入れについて、という内容の団体交渉の提案をし、組合がこれに従わない限り団体交渉を行わないとの姿勢を示した。そこで組合は、被審人に対し本件緊急命令に従うよう抗議したが拒否され、被審人が右姿勢を継続したため、右議題との時期的関連等の事情からやむなく同月二二日及び二七日被審人の提案に従い団体交渉を行った。
2 さらに、被審人は、同年三月二六日から同六三年四月二二日まで組合の度重なる団体交渉の要求に対し、その都度1記載と同様の対応により対処し続けた(被審人が1記載と同様な提案を行いかかる対応をした回数は、少なくとも合計二五回を下らない)ため、組合はこれに抗議しつつもやむなく被審人の提案に従い団体交渉を行う、という事態が続いた。なお、被審人は、本件緊急命令は団体交渉を行うについて被審人の条件提示を禁じたものではなく、被審人の右対応をもって何ら本件緊急命令に違反するものではないと解釈していた。
四 右事実によれば、被審人は、同六〇年三月二六日から同六三年四月二二日までの間、日時、交渉時間、場所、出席人員、議題についての提案を含んだ組合からの団体交渉申入れに対し、何らその理由を示すことなく、一度もその提案どおりにこれを応諾したことはなく、常に右申入れとは内容を異にする団体交渉を逆提案し、他方、組合は、被審人との間の団体交渉が議題との時期的関連等の事情により不可能になるとの懸念から、やむなくこれを受諾して被審人との間で団体交渉を行ってきたことが認められる。そうすると、被審人は、組合からの団体交渉申入れに対し、右申入れとは異なる日時、交渉時間、場所、出席人員、議題等を内容とする団体交渉を提案し、これに組合が応諾しない限り団体交渉を行わない、との対応を続けていたものである。そして、本件記録を精査しても組合からの右申入れはいずれも被審人が応じられない正当理由の存在を認めるに足りる事実は認められない。したがって、被審人の組合に対する右対応は、いずれも本件緊急命令に違反し、労働組合法二七条八項、三二条前段に該当する。
五 よって、本件記録から窺われる諸事情を考慮し、被審人を過料一〇〇万円に処することとし、手続費用の負担につき非訟事件手続法二〇七条四項を適用して、主文のとおり決定する。
(裁判長裁判官 蒲原範明 裁判官 市村弘 裁判官 鹿島久義)