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大阪地方裁判所 昭和63年(ヨ)1273号 決定 1988年4月22日

申請人1 山田保數

<ほか九二名>

右申請人ら代理人弁護士 中谷茂

同 村木茂

同 山口勉

同 白根潤

被申請人 西日本旅客鉄道株式会社

右代表者代表取締役 角田達郎

右被申請人代理人弁護士 原井龍一郎

同 占部彰宏

同 小原正敏

同 田中宏

主文

一  申請人らの本件仮処分申請は、いずれもこれを却下する。

二  申請費用は申請人らの負担とする。

理由

第一当事者双方の申立

一  申請の趣旨

1  被申請人は、新大阪駅から西九条駅間に、快速電車を運行させてはならない。

2  申請費用は被申請人の負担とする。

二  申請の趣旨に対する被申請人の答弁

主文同旨

第二当裁判所の判断

一  当事者間に争いのない事実

1  別紙当事者目録記載の申請人1ないし54らは、大阪市福島区福島一丁目から八丁目の区域内に居住する地域住民及び右同区域内で店舗又は会社を経営するものであり、申請人55ないし93らは、大阪市大淀区大淀南一丁目、大淀中一丁目から三丁目、大淀北、中津、豊崎一丁目から七丁目の区域内に居住する地域住民及び右同区域内で店舗又は会社を経営するものであり、被申請人は、旅客鉄道事業を経営する株式会社である。

2  被申請人は、昭和六二年七月二二日、梅田貨物線と大阪環状線と阪和線、関西本線を一本に接続するため、右接続工事の認可を近畿運輸局に申請をなし、右認可を受けたとして、昭和六三年四月二四日から、主に「なら・シルクロード博」(同日から同年一〇月二三日まで開催)への来場客の旅客運送のため、新大阪駅から梅田貨物線を経由して大阪環状線西九条駅に至り、同駅から大阪環状線を経由し、天王寺駅から関西本線を経由して奈良駅に至る直通の快速電車(以下、「本件直通電車」という。)を運行させるべく計画している。

3  被申請人が右計画通り本件直通電車を運行させた場合、同電車は、新大阪駅―大阪環状線西九条駅間で、右梅田貨物線と市道海老江・梅田線が平面交差する踏切(以下、「西梅田一番踏切」という。)及び同貨物線と市道加島・天下茶屋線(通称なにわ筋)が平面交差する踏切(以下、「浄正橋踏切」という。)を通行することになるが、右梅田貨物線には現在貨物列車が運行しており、一日合計二一回前記両踏切を通過しているうえ、右浄正橋踏切の近くに同じくなにわ筋と平面交差する形で設置されている阪神電気鉄道株式会社(以下、「阪神電鉄」という。)の浄正橋踏切(以下、「阪神浄正橋踏切」という。)は同社の電車が一日約五九〇本通行し、同踏切の遮断時間は一〇時間にものぼっている。

二1  そこで、申請人らは、現在すでに、右貨物列車の通行による前記西梅田一番、浄正橋両踏切の遮断に加え、浄正橋踏切では、近くに設置されている阪神浄正橋踏切の遮断が複合して、それぞれ各踏切と交差する前記各市道における交通渋滞が激しく、申請人らの居住する福島、大淀区内の社会経済活動はもとより大阪市内北部の都市機能にまで障害を与えているのに、これに加えて、被申請人において本件直通電車を運行させることになると、前記両踏切における遮断時間が増加し、両踏切付近道路における交通渋滞がさらに激化することとなって、申請人らは①自動車の渋滞や通行電車による排気ガス、騒音、振動、粉塵等による公害のため、精神的苦痛は言うに及ばず、頭痛、食欲不振、不眠等の被害を受け、その程度は受忍限度を優に超えるものであり、② また、交通渋滞による交通事故発生の危険や事故、災害発生時の緊急車の走行の妨害となって事故等の被害が増大するおそれもあり、③ さらに、交通渋滞地域における車の出入れが益々困難となって、右地域内に店舗、会社を経営する申請人らの顧客が遠のくことになり、経済的損失を被ると主張して、本件直通電車の運行禁止を求めるというものである。

2  よって検討するに、前記当事者間に争いのない事実及び本件疎明資料によれば、一応次の事実が認められる。

(一)(1) 本件直通電車の運行経路は、前記のとおりであるが、右計画は、昭和六二年七月に決定され、直ちに工事に着工し、その完成をみた。右計画が決定されるに至った主な理由は、①政府の方針(新大阪駅から梅田貨物線、大阪環状線、阪和線ルートを整備し、直通列車の運行等鉄道による利便性の高いアクセスルート乗入れを図る)に従って関西国際空港新設によって発生する旅客需要に対処するため、新大阪駅と同空港を結ぶ連絡鉄道を建設する必要があること、②和歌山県の要望に答え、新空港レールアクセスに先行して紀勢特急「くろしお」を新大阪へ乗り入れ、新幹線と直結することによって輸送サービスの抜本的改善を行い、紀勢線の利便性を高めて和歌山県の利用客の利便を図るとともに、南紀観光客の増加による同県の観光立県への寄与に資すること、ということにあり、単に、「なら・シルクロード博」のためのみの旅客輸送を目的としたものではない。

そして、右空港アクセス及び「くろしお」関連工事は、天王寺駅での阪和線と関西線とをつなぐ短絡線新設、西九条及び新大阪駅の配線変更であって、全体の工事が完成するのは昭和六四年度末の予定で、このうち、新大阪、大阪環状線西九条各駅の配線変更が完成すれば、現在、関西線から環状線に乗り入れている快速電車を新大阪駅に乗り入れることが可能となる。

(2) ところで、被申請人は、紀勢線、阪和線及び関西線方面からの旅客列車を天王寺駅経由で環状線に乗り入れ、これを新大阪駅まで直通運転する方法として、①新規路線の建設、②大阪駅での連結、等を検討したが、前者は莫大な費用と長期の工期を必要とするし、後者は直通列車が四六時中頻繁に往来する多くの線路を横断しなければならず、運行の安全性に大きな問題があること及び停止信号による列車ダイヤの乱れが予想され、定時運行が困難となること等が問題となり、結局、現有設備を利用する以外に考えられないと判断し、梅田貨物線を利用するのが最も安全かつ効率的であるとして、本件直通電車運行経路を採用、完成するに至った。

(3) 被申請人は、「なら・シルクロード博」開催日である昭和六三年四月二四日から同年一〇月二三日の終了日まで、本件直通電車を運行させるべく計画し、それによると右電車は四両編成の短いもので、運行時間帯も、朝・夕のラッシュ時を避け、平日は午前一〇時から午後四時までの間に一八往復、合計三六本(一時間当り三往復、六本。)を運行させ、日・祝日は、その外に午後四時以降午後八時までの間に合計七本を追加運行するというものである。

(4) ところで、本件直通電車が運行されると、同電車が前記梅田貨物線(単線)に設置されている西梅田一番踏切及び浄正橋踏切を通過することになり、両踏切の遮断時間が増加することになって、両踏切と交差する市道上における交通渋滞もある程度増長されることが予想できたため、被申請人は、現在運行されている貨物列車の西梅田一番踏切及び浄正橋踏切における踏切遮断時間並びに阪神浄正橋踏切の遮断時間帯を二回(昭和六二年一二月七、八日及び同六三年四月一二、一三日)にわたって調査測定をし、これをもとに本件直通電車と右各列車の速度、連結車輌数の違い等を考慮して、本件直通電車を運行させた場合の右両踏切における踏切遮断時間帯を設定し、右各踏切遮断時間帯との関係を試算したが、その結果は、別表1ないし6及び別紙図面1ないし7記載のとおりとなった。

(二) そこで、本件直通電車を運行することによって生じる両踏切における遮断時間について検討する。

(1) まず、西梅田一番踏切についてこれを見るに、前認定の、本件直通電車を運行させた場合の同踏切の遮断時間を被申請人において試算した結果からすると、本件直通電車が一回通過する際の遮断時間は約一分前後と考えるのが相当である。そうすると、本件直通電車の運行に伴う同踏切の遮断時間は、平日の午前一〇時から午後四時までの間で、一時間当り約六分(日・祝日の午後四時以降午後八時まではさらに短くなる。)ということになり、仮に、被申請人が主張するように本件直通電車一本の通過に約一分三〇秒の遮断時間を要するとしても、一時間当りの遮断時間は約九分間にとどまる。

(2) 次に、浄正橋踏切についてこれをみるに、同踏切と前記西梅田一番踏切との規模等全く同一とはいえないことを考慮にいれても、前認定の事実からすると、本件直通電車の通過に伴う右踏切遮断時間も約一分程度と認めるのが相当であって、前認定の調査測定の結果によれば、阪神浄正橋踏切の遮断時間が電車一本あたり約五〇秒ないし約六〇秒であることが認められるから、これと対比しても十分肯認しうるところである。そうすると、本件直通電車の運行によって増加が予想される右踏切の遮断時間も午前一〇時以降午後四時までの間は一時間あたり約六分、日・祝日の午後四時以降はそれより短くなることになる。

しかも、疎明資料並びに前認定の事実によれば、浄正橋踏切の場合、それに近接せる阪神浄正橋踏切が「あかずの踏切」と呼ばれ、昭和六三年四月一二、一三日に実施された被申請人の調査測定によると、一日の遮断時間は八時間余りにものぼり、本件直通電車が運行される午前一〇時から午後四時の時間帯では、一時間あたりの遮断時間は約二三分ないし二八分になっていること、現在、貨物列車の通過による浄正橋踏切の遮断時間帯の約五〇%は右阪神浄正橋踏切の遮断時間帯と重なっていること、他方、被申請人において出来る限り本件直通電車の右踏切通過時間帯を阪神浄正橋踏切の遮断時間帯に合わせるべく工夫したこともあって、本件直通電車の通過による遮断時間の約五五%は阪神浄正橋踏切のそれと重なり合うであろうことが、一応認められる。

そこで、これを前提に、両踏切が近接していることを考慮すれば本件直通電車の運行のみによる右踏切の遮断時間の増加は、約三分弱になるとも考えることができる。

(三) 以上のとおり、本件直通電車が運行されることによって増加が見込まれる踏切遮断時間は、西梅田一番踏切で一時間あたり約六分、浄正橋踏切についても一時間あたり約六分で、さらに、阪神浄正橋踏切と重なり合う点を考慮すると、約三分弱にとどまるものといえよう。

3  ところで、一般に、社会経済生活上高い公共性を有する旅客輸送事業において、電車の運行禁止を求めうるためにはその被害の程度が社会生活上一般に受忍すべき限度を超えたというに止まらず、右受忍限度の逸脱が著しいと認められる程度の違法性の強い場合であることを要すると解するのが相当である。

これを本件についてみるに、本件直通電車の運行もその運行の趣旨、目的に照らし、極めて公共性の高いことは自明のことであるところ、前認定のとおり、本件直通電車の運行により、なるほど前記両踏切の遮断時間が増加し、その分付近道路における交通渋滞が増長されること、それに伴う自動車の排気ガスや騒音、振動、粉塵等による精神的苦痛あるいは頭痛、食欲不振、不眠等の身体的被害がある程度生ずることも肯認できるが、本件疎明資料上、右被害の程度が社会生活上一般に受忍すべき限度を超え、著しい限度の逸脱があることについて、これを疎明するに足る資料はない。また、本件直通電車の通行による騒音、振動についても、電車の走行に伴う通常程度の騒音、振動が生じることは避けられないところであるが(なお、この点について、本件疎明資料によれば被申請人は、その対策として枕木をPCコンクリート枕木に変え、レールをロングレールに変える他、大型車の踏切通過時の振動防止のため踏切を連接軌道構造に変える工事を実施する予定にしているなど、騒音、振動対策に積極的な姿勢を示していることが一応認められる。)、右被害が社会生活上一般に受忍すべき限度を超え、著しい限度の逸脱があることについて、これを疎明するに足る資料はない。

さらに、交通渋滞の増幅により交通事故等の発生の危険や緊急車の走行妨害等の事態が生じる可能性も一応考え得るが、それを超えて右危険等が現在することを疎明するに足る資料はなく、また、申請人ら主張の経済的損失という点についても本件疎明上、それを理由に現に、右のような損害が生じたことを疎明するに足りる資料もないし、一応申請人らの経営する会社企業等の顧客が不便を感ずることは考え得るとしても、そのことから直ちに現実の財産的損害につながると推認することは、到底できない。

三  以上のとおりであって、本件仮処分申請は、結局、その被保全権利についての疎明がなく、事案の性質上、疎明に代る保証を立てさせることも相当でないから、本件仮処分申請は、いずれもこれを却下することとし、申請費用につき民訴法八九条、九三条を適用して、主文のとおり決定する。

(裁判長裁判官 田畑豊 裁判官 大西嘉彦 髙橋亮介)

<以下省略>

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