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大阪地方裁判所 昭和63年(ワ)11635号 判決 1996年8月28日

原告

株式会社伊達商店

右代表者代表取締役

伊達孝

原告

株式会社福源商店

右代表者代表取締役

榎木秋光

原告

株式会社北部蔬菜四番

右代表者代表取締役

熊本喜代四

原告

岩崎食品販売株式会社

右代表者代表取締役

岩崎欣二

右四名訴訟代理人弁護士

上野勝

加納雄二

荻原研二

原告

伊藤ハム食品株式会社

右代表者代表取締役

中崎保

右訴訟代理人弁護士

堅正憲一郎

右訴訟復代理人弁護士

上野勝

加納雄二

原告

株式会社読宣

右代表者代表取締役

冨田明正

右訴訟代理人弁護士

大藏永康

井上元

塩野隆史

原告

日興鶏卵荷受株式会社

右代表者代表取締役

宮崎昭嘉

右訴訟代理人弁護士

横清貴

原告

株式会社大トウ

右代表者代表取締役

米谷晴生

右訴訟代理人弁護士

瀬戸康富

中武靖夫

原告

日本フード関西株式会社

右代表者代表取締役

東平八郎

右訴訟代理人弁護士

阿部清司

芝康司

藤井勲

山本彼一郎

泉薫

矢倉昌子

橋本真爾

被告

菊川正宣

東原吉伸

山中伸一

右三名訴訟代理人弁護士(但し、平成二年(ワ)第八三八六号事件については、被告菊川正宣及び同東原吉伸を除く。)

熊野勝之

加島宏

被告

福岡信孝

右訴訟代理人弁護士

野田英二

野田邦子

被告

関西大学生活協同組合

右代表者理事

柴橋圭介

右訴訟代理人弁護士

北島元次

西畑肇

川合宏宣

川崎全司

川崎裕子

主文

一  被告らは、別表一記載のとおり、それぞれ対応する原告らに対し、各自、「認容額」欄記載の各金員及びこれに対する「遅延損害金の起算日」欄記載の日から各支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

二  原告株式会社読宣、同日興鶏卵荷受株式会社及び同株式会社大トウのその余の請求を棄却する。

三  訴訟費用は被告らの負担とする。

四  この判決は、原告ら勝訴部分に限り、仮に執行することができる。

事実及び理由

第一  請求

被告らは、別表二記載のとおり、それぞれ対応する原告らに対し、各自、「請求額」欄記載の各金員及びこれに対する「被告並びに遅延損害金の利率及び起算日」欄記載の各金員を支払え。

第二  事案の概要

一  争いのない事実及び容易に認められる事実

1  原告らは、それぞれ別表二の「営業内容」欄記載の事実を営む株式会社である。

2  被告関西大学生活協同組合(以下「被告生協」という。)は、消費生活協同組合法(以下「生協法」という。)に基づき、学校法人関西大学(以下「関西大学」という。)の学生及び教職員からなる組合員の生活に必要な物資を購入して組合員に供給する事業等を行うことを目的として昭和三七年二月一四日に設立された生活協同組合である。

昭和六〇年当時、被告福岡及び同山中は被告生協の理事(福岡は常務理事)であり、被告菊川は被告生協の従業員(企画調査室長)であった。

3  被告生協は、その理事会及び総代会の決議に基づき、昭和六〇年一二月、スーパーマーケットの経営を目的とする株式会社関西リテイラー(以下「リテイラー」という。)を設立した上、同被告の理事及び従業員である右被告福岡ら三名をリテイラーの取締役(被告菊川は代表取締役)に就任させた。また、被告生協は、昭和六一年二月、被告東原を雇い入れた上、リテイラーの常勤取締役として出向させた(以下、これらの被告四名を併せて「被告取締役ら」という。)。

4  リテイラーは、昭和六三年七月二六日、大阪地方裁判所において破産宣告を受けた(同庁昭和六三年(フ)第四三九号破産宣告申立事件)。

(以上1ないし4の事実については当事者間に争いがない。)

5  原告らは、リテイラーに対し、右の破産に至るまでの間に、別表二の「契約内容」欄記載のとおり、継続して商品を納入するなどして、同表「売掛金」欄記載の売掛債権を取得するに至った。

(甲A一ないし四、五の1ないし5、六の1ないし3、七、八の1ないし5、甲B一の1ないし4、甲C一ないし三、甲D一の1ないし8、二の1ないし6、三の1ないし10、四の1ないし5、五の1ないし5、甲F七の1ないし5、八の1ないし3、九の1ないし4、一〇の1、2、一一の1ないし4、一二の1、2、一三の1ないし4、一四の1ないし3、一五、一六、甲G一の1ないし4)

6  原告らは、リテイラーの右破産手続において、それぞれ別表二の「A破産配当金、B和解金の受領」欄記載Aの各配当金を受領したほか、原告株式会社読宣及び同日本フード関西株式会社は、本件訴訟手続において、同欄B記載の各和解金の支払を受けたが、原告らの同表「請求額」欄記載の各売掛金は回収不能となり、原告らはそれぞれ同額の損害を被った。

(甲A九ないし一三、甲B二ないし五、甲C四ないし六、甲D六の1、2、甲Gの二)

二  争点

1  被告取締役らの責任原因

(原告らの主張)

被告取締役らは、リテイラーの業務運営に当たり、取締役として忠実に職務を遂行して企業利益を図る職務上の義務があるにもかかわらずこれを怠り、過剰な設備投資を行い、営業総利益を上回る人件費を支出したほか、多額の金員を接待交際費、仮払金、貸付金等の名目で支出してこれを費消したり、実体のない子会社の設立、不必要な関連事業への投資を繰り返すなどしてリテイラーの資産を蕩尽し、リテイラーを破産に至らせたものであるから、被告取締役らは、商法二六六条ノ三に基づき、原告らに対して前記一6記載の損害を賠償する義務を負う。

(被告取締役らの主張)

被告取締役らには任務の懈怠はない。

被告取締役らは、リテイラーの取締役として誠実にその職務を遂行し、利益の追求に努めていたところ、リテイラーを設立した被告生協自身が、その内部の権力争いを原因として、リテイラーの破産宣告を申し立てるという異常事態に及んだものである。

(被告福岡の主張)

被告福岡は、ほとんどリテイラーに出社せず、同社の経営に関与していなかったのであって、実質的にリテイラーの取締役であったとはいえない。なお、同被告は、昭和六三年五月以降、被告菊川及び同東原に対し、再三リテイラーの帳簿書類を明らかにするよう要請したが、同被告らはこれに応じなかった。

2  被告生協の責任原因

(原告らの主張)

(一) 生協法四二条、民法四四条一項に基づく責任

前記一3記載のとおり、被告生協は、その理事会及び総代会の決議に基づいてリテイラーを設立した上、その理事及び従業員である被告取締役らをリテイラーの取締役に就任させ、被告生協の業務のために同社の運営に当たらせていたところ、被告福岡及び同山中を含む被告生協の理事らは、リテイラーからの決算報告等により、被告取締役らの前記1の放漫経営により同社の経営が破綻に瀕していること、したがって、早期にリテイラーの経営陣及び経営方針を刷新しない限り、原告らを含むリテイラーの取引先に被害が及ぶ明白な蓋然性があることを知悉していたのであるから、同社を早期に整理したり、経営改善を促すなどして、取引先に与える損害の発生及び拡大を未然に防止する義務があったにもかかわらず、これを怠り、かえって漫然リテイラーに融資を繰り返すなどして同社の経営規模を徒らに拡大させ、その経営破綻を助長促進させたばかりか、同社の経営再建が不可能と見るや、被告生協自ら同社の破産宣告を申し立て、同社を破産に追い込み、原告らの売掛債権回収を不能ならしめたものであるから、右理事らの一連の行為は、原告らに対する不法行為を構成する。

したがって、被告生協の理事らは、その職務を執行するにつき、原告らに前記一6記載の損害を与えたものであるから、被告生協は、生協法四二条、民法四四条一項に基づき、右損害を賠償する責任がある。

(二) 民法七一五条に基づく責任

被告生協は、その従業員である被告菊川及び同東原をリテイラーに出向させ、それぞれ同社の代表取締役、専務取締役として(被告生協の)業務執行に当たらせていたところ、同被告らは、前記1記載のとおり、その任務を懈怠して放漫経営を行い、原告らに対し前記一6記載の損害を与えたものである。

(三) リテイラーの法人格の否認(売掛金)

(1) 法人格の濫用

生協が組合員を対象としない事業を営むこと及び組合の目的に反して株式会社を設立することは生協法によって禁止されているところ(同法一〇条、一三条)、被告生協は、これらの規定を潜脱する目的でリテイラーを別法人として設立し、スーパーマーケット経営を行っていたものであるから、原告らは、リテイラーの法人格を否認し、被告生協に対して前記一5記載の売掛金債務の履行を請求することができる。

(2) 法人格の形骸化

被告生協は、資本金を全額出資してリテイラーを設立したのみならず、リテイラーに対して四億六三〇〇万円に上る貸付、借入金等の保証を行い、被告生協の理事ないし従業員である被告取締役らをリテイラーの取締役に就任させたほか、昭和六二年七月まではリテイラーの従業員の給料及び賞与を立替払いし、自己を事業主とする雇用保険に右従業員らを加入させるなどしていたので、リテイラーの法人格は全くの形骸にすぎないから、原告らは、リテイラーの法人格を否認し、被告生協に対して前記一5記載の売掛金債務の履行を請求することができる。

(四) 権利濫用又は信義則

リテイラー及び被告生協の前記(三)のような実態に鑑みると、被告生協は、信義則上、リテイラーの原告らに対する売掛金債務と同一の債務を負うものというべきであり、被告生協が右債務の支払を拒絶することは権利の濫用である。

(五) 商法二六六条ノ三の類推適用

株式会社の経営に関して実質的な決定権を有する者は、同社の取締役と類似の地位に立つから、同社の業務に関して第三者が損害を被った場合、右損害発生について悪意又は重過失の存する限り、商法二六六条ノ三を類推して、右損害を賠償する責任を負うと解すべきところ、被告生協は、リテイラーの取締役と類似の地位にあり、リテイラーの放漫経営によりその取引先が損害を被り得ることを知りながら、これを放置し、同社を破産に至らしめたのであるから、原告らに対して前記一6記載の損害を賠償する責任がある。

(被告生協の主張)

(一) 被告生協は、昭和六二年三月三一日、被告菊川及び同東原を解雇した。また、被告山中及び同福岡は、昭和六三年六月四日及び一七日限り、それぞれ被告生協の理事たる地位を喪失した。

(二) 被告生協の全額出資によるリテイラーの設立は、生協法に違反するものではないし、その趣旨を潜脱するものでもない。

(三) リテイラーは、法律上も事実上も被告生協とは別個の法人であり、リテイラーの法人格が形骸化していた事実はない。すなわち、被告生協とリテイラーとの間に、人員、業務、財産、収支等に関する混同は一切なく、単に設立の経緯から発生する人的、資金的な協力ないし援助の関係及び監視の関係が存したにすぎない。

(四) 被告生協は、リテイラーが被告生協からの独立を志向するようになってから、同社に対する支配権を喪失していたから、同社の経営が破綻していることを知ることはできなかった。また、被告生協は、リテイラーの設立及び運営によって些かも利益を受けていないのみならず、多額の債権が回収不能となっているのであり、むしろ、同被告こそリテイラーの放漫経営の被害者であるというべきである。

第三  争点に対する判断

一  基礎となる事実関係

前記第二の一の各事実に、証拠(甲E一の1、2の(1)ないし(14)、3ないし5、二、三の1、2、四の1ないし4、五、六の1、2、七、八の1ないし13、九ないし一五、一六の1ないし56の各(1)、(2)、一八、一九(一部)、二〇、二一の1ないし5、二二ないし二四の各1、2、二六の1ないし20、二七の1ないし4、二八の1ないし6、二九、三〇、三一の各1、2、三二の1ないし25、三三の1ないし9、三五ないし三九、乙A一ないし四(各一部)、五、乙C一ないし三、四の1ないし8、五の1ないし7、六の1ないし8、七の1ないし6、八の1ないし29、九の1ないし3、一〇(一部)、一一の1、2(各一部)、一二、一三の1、2(各一部)、一四、一五、一七、一八の1ないし5、一九の1ないし6、二〇の1ないし6、二一、二二の各1、2、二四ないし二七、二八の二、二九の2、三〇ないし三七、証人須田勝巳、被告東原、同菊川、同福岡(各一部))を総合すると、次の事実が認められる。

1  リテイラー設立の経緯

(一) 被告生協は、昭和三七年二月に設立されて以来、関西大学千里山学舎において飲食、物販事業を行ってきたが、昭和五五年頃から、慢性的な赤字経営を改善するため、中期事業活動基本計画として、余剰人員の削減、出資金の増強、施設の拡充等の機構改革を推進し(第一次組織改革運動)、昭和五七年頃までに一応の経営安定化を達成した。

しかしながら、被告生協を取り巻く情勢は厳しく、学生の生協加入率が関西大学の学部全体で九〇パーセント程度まで落ち込み、学生総数の減少も確実視されていたほか、昭和六一年度からは大学のカリキュラム変更により年間営業可能日数が二〇〇日程度から一五〇日ないし一八〇日程度まで減少することが見込まれていた。

(二) 被告生協は、昭和五七年末頃、被告生協内に「業態研究会」を設置し、当時常務理事の地位にあった被告福岡、理事の地位にあった柴橋圭介(現在被告生協の代表者。以下「柴橋」という。)及び被告生協の従業員であった被告菊川らを会員に任命し、被告生協の経営改善策を検討させた。その結果、右業態研究会は、子会社の設立により商品の仕入価格の低下、営業ノウハウの交換、職員の再就職先の確保等を図ることができるとして、子会社の設立を提言した。

これを受けて、被告生協は、昭和五九年六月二日、通常総代会において、学外への出店を検討するために専門部署を設置することを決定し、同年一二月一日、常務理事会の決議に基づき、専務理事直轄の総務部所属機関として「企画調査室」を設置した。企画調査室は、被告菊川を室長として、概ね前記業態研究会のメンバーで構成され、実験的に三年間でディスカウント形式の小規模店舗数店を設置し、大量購入・大量販売の方式で一六ないし一八パーセント程度の粗利益を上げるとの事業計画を立て、その内容は、昭和六〇年六月八日の通常総代会において承認された。

(三) 被告生協の理事会は、昭和六〇年一〇ないし一一月、被告生協が子会社の設立資本金五〇〇万円を全額出資し、将来三億ないし四億円程度の範囲で右子会社に対する資金援助を行うこと、子会社の代表取締役は企画調査室長の被告菊川とし、被告福岡、同山中及び同東原(同被告はディスカウントストアに勤務した経験があった。)を取締役に就任させ、被告菊川及び同東原については被告生協からの出向扱いとし、従前どおり被告生協から給料を支給すること、将来右子会社が雇用する従業員についても、被告生協を事業主とする雇用保険に加入させ、被告生協から給料を支給することなどを決議した。これを受けて、被告菊川らは、同年一二月一八日、被告生協から資本金五〇〇万円全額の出資を受けてリテイラーを設立し、被告菊川及び同東原が常勤の取締役(菊川は代表取締役)に、被告福岡及び同山中が非常勤の取締役に、それぞれ就任した。

被告福岡は、昭和六一年六月七日に被告生協の専務理事に昇格し、その業務に大半の時間を費やしていたが、リテイラーの月次損益計算書及び貸借対照表を点検したり、時にはその本店や店舗に出向くなどして、リテイラーの経営状況を把握するように努めていた。一方、被告山中は、リテイラーの業務を実際に担当することはなく、他の三被告に任せ切りにしていた。

2  設立当初のリテイラーの経営状況

(一) リテイラーは、本店を関西大学千里学舎に程近い大阪府吹田市江坂町に置き、第一店舗(以下「長居店」という。)を大阪市阿倍野区長居に設置する方針の下に、店舗の賃貸借契約、内装工事契約等を締結した。ところが、これに伴う設備投資費用が、当初の予定を上回ったことから、被告生協は、昭和六一年四月九日、リテイラーの資本金を一五〇〇万円増資して、右追加出資金全額を負担したほか、同年一〇月までの間に、別紙一覧表記載のとおり、リテイラーの一〇〇〇万円の借入金債務やリース債務を保証したり、リテイラーに対して自動車及びオープンケースを転リースしたりするなどした。また、当時、被告生協の専務理事は、理事会の決議を経ることなく六億円以内の資金を運用する権限を有していたところ、同年六月七日、被告福岡が専務理事に就任したことにより、被告生協は、リテイラーに対して簡易な手続で融資を行い得るようになった。

リテイラーは、被告生協の右資金援助の結果、長居店開設の目処がついたため、同年八月末頃、卸業者を中心として二〇ないし三〇名の業者を集め、業者説明会を開催した。右説明会の席上、被告菊川は、リテイラーの代表取締役の立場から、今までにない新しいディスカウントストアを展開したい旨説明し、被告福岡は、被告生協の専務理事の立場から、リテイラーが被告生協の完全子会社であって、被告生協としては、可能な限り同社を支援していく意向である旨述べ、業者の協力を求めた。

(二) リテイラーは、長居店開設に続いて、大阪府東大阪市荒本新町に第二号店(以下「荒本店」という。)を設置する計画を立て、被告生協から、同年一一月二七日、一億円の融資を受けたほか、同年一二月までの間に、別紙一覧表記載のとおり、リース債務の保証、オープンケースの転リースを受けるなどし、同年一二月、荒本店を開設した。

(三) さらに、リテイラーは、東大阪市菱屋東に第三号店(以下「菱屋店」という。)を設置する計画を立て、被告生協から、昭和六二年一月三一日、二五〇〇万円の融資を受けたほか、同年四月までの間に、別紙一覧表記載のとおり、リース債務の保証、オープンケースの転リースを受けるなどし、同年四月、菱屋店を開設した。

3  リテイラーの経営悪化の経緯

(一) リテイラーは、長居店、荒本店及び菱屋店の三店舗を開設したものの、過剰な人件費、高額な名義料の支払等によって経費が嵩み、一向に利益の上がらない状態であった。ところが、被告菊川及び同東原は、店長会議の名目で高級クラブやバー等において飲食を繰り返し、昭和六一年三月決算期には一三八万七〇〇〇円、昭和六二年三月決算期には一五九六万九〇〇〇円、昭和六三年三月決算期には一六二六万四〇〇〇円にも及ぶ接待費等を支出したほか、さらに、仮払金、旅費交通費、調査費、調査研究費、厚生費等の名目でリテイラーの資金を費消し、その総額は、昭和六二年三月決算期には二億円以上、昭和六三年三月決算期には三億円以上に達した。

また、リテイラーは、海外市場調査の名目で、昭和六二年及び六三年にそれぞれ役員及び従業員一〇名程度が参加する海外旅行を催したり、資本金三二〇〇万円、立替金九五九万円を投入して不動産業を目的とする子会社である株式会社アピーネ(以下「アピーネ」という。)を設立したり、配膳人斡旋業の認可、酒類販売業免許取得のために八〇〇万円以上を費やすなどしたが、実際には、これらの事業活動は殆ど行われなかった。

このため、リテイラーの経営状況は、昭和六二年頃から極度に悪化し、同年四月一日時点における借入金は、被告生協からのものが一億九二五〇万四五〇二円、訴外関西相互銀行からのものが一億〇九七五万円に達した。

(二) 被告福岡は、前記のとおり、リテイラーの経理課長である須田勝巳(以下「須田」という。)から、毎月リテイラーの月次損益計算書及び貸借対照表の交付を受け、リテイラーの経営状態を認識していたが、被告菊川及び同東原に対して経費削減のための努力を促しただけで、同被告らの経営責任を追及するために取締役会や株主総会の招集手続をとったことはなく、従前どおり、被告生協の専務理事として、リテイラーから求められるままに、毎月経営資金を融資する手続をとり続けた。これら貸付金の累積により、リテイラーが当初予定していた期間内にこれを返済することは困難となったため、被告生協は、昭和六二年九月一六日、右貸付金を長期貸付に変更する手続をとったが、その後もリテイラーに対し、二五〇〇万円を追加融資したり、同社の銀行借入金債務やリース債務を連帯保証したりするなどした。

(三) 被告福岡は、リテイラーの経営状態が一向に好転しないことから、昭和六二年一〇月頃、同社に対する資金援助を見直すため、被告菊川、同東原、須田を被告生協に呼び寄せ、同社の資金繰りに関して協議した。その席上、被告菊川及び同東原は、被告生協に対し、六〇〇〇万円の追加融資を要請したが、右協議に被告生協の立場から出席した被告福岡及び当時被告生協の常務理事であった榎和行は、リテイラーの経営を改善させることが先決であるとして、右融資に難色を示し、これ以上店舗を増設置せず、被告生協からの借入金を期限どおり返済するよう求めた。もっとも、被告生協は、結局、リテイラーに対する資金援助により同社の経営を立て直すことが可能であると判断し、同社に対し、同月三〇日に一〇〇〇万円、同年一一月三〇日に三〇〇〇万円をそれぞれ融資した。

(四) 被告菊川及び同東原は、右の協議後、次第に被告生協に対する反感を深め、リテイラーの被告生協に対する経済的依存状況からの脱却を目指すようになった。そこで、リテイラーは、被告生協からの借入金のうち九〇〇〇万円程度を返済する資金を調達するため、被告東原と親交のあった篠田邦雄(以下「篠田」という。)が代表取締役を務める株式会社共栄サービス(以下「共栄サービス」という。)から、同年一二月三日、利息を年24.33パーセント、弁済期を昭和六三年一月三一日と定め、一億一〇〇〇万円を借り受け、そのうち九〇〇〇万円を被告生協に対する借入金の返済に充てた。

(五) 被告菊川及び同東原は、大阪府門真市脇田町に第四店舗(以下「脇田店」という。)を設置することを計画し、被告生協に対し、昭和六二年一二月一日、出店費用二億二二〇〇万円のうち不足する一億一五〇〇万円の融資を要請した。被告生協は、リテイラーから右九〇〇〇万円の返済がなされたこともあり、融資に応じたものの、融資額は一五〇〇万円に止まった。被告生協は、右融資のほか、リテイラーに対し、別紙一覧表記載のとおり、脇田店出店に必要な冷凍ショーケース、電話設備及びファックス機のリース債務を保証するなどした。

(六) 被告菊川及び同東原は、被告福岡との意見対立から、被告生協に対する不信感を強め、昭和六二年一二月以降は、それまで毎月行っていた被告生協に対する月次決算書の報告を怠るようになったが、被告生協は、なおも同社に対し、昭和六三年一月三〇日、五〇〇〇万円を融資したほか、同年二月二九日、リテイラーに対する昭和六二年一月三一日付の前記二五〇〇万円の貸付金の返済期を一年猶予するなどした。このような被告生協の資金援助にもかかわらず、リテイラーの経営状態は、過剰な人件費、接待交際費の支出に加えて、共栄サービスからの前記一億一〇〇〇万円の借入金の金利負担や長居店、荒本店及び菱屋店の改装工事に多額の金員を出資したことからいっそう悪化し、昭和六三年三月決算期におけるリテイラーの負債総額は八億五一六九万三一二円、損失は三億六七九〇万一〇〇〇円まで膨れ上がり、累積赤字は四億七二七三万三〇〇〇円に達した。

4  リテイラーの破産に至る経緯

(一) リテイラーが、共栄サービスからの前記借入金一億一〇〇〇万円を弁済期に返済することができなかったことから、被告生協は、被告菊川及び同福岡が連帯保証人として加わることなどを条件にリテイラーの右債務を引き受けた上、昭和六三年五月一三日、共栄サービスに対し、一億一一〇四万五〇〇〇円を弁済した。また、同月二五日、リテイラーの脇田店出店を巡り、地元商店街から大規模小売店舗における小売業の事業活動の調整に関する法律違反等を理由とする同店の一部使用禁止を求める仮処分が申し立てられたこともあって、被告生協内部では、生協が子会社を設立してスーパー経営に乗り出すことに対する反対が強まった。

(二) 被告菊川及び同東原らは、これ以上被告生協の支援を受けることは困難であると判断し、同年五月三〇日、被告生協に無断で、篠田をリテイラーの取締役に就任させ、同年六月一五日には、同人から二〇〇〇万円の出資を受けて増資を行った。さらに、リテイラーは、同月、大阪府吹田市山田西に第五号店(以下「千里店」という。)を設置したほか、同年七月五日、淀川公共職業安定所において、同年六月二日をもって、それまで被告生協を事業所とする雇用保険の適用を受けていたリテイラーの従業員について、同社を事業所とする雇用保険に切り替える手続をした。

(三) 被告福岡は、同年六月一七日、被告生協理事会において、従前の経緯を報告した上、専務理事の権限内でリテイラーを支援すべく融資や保証等の資金援助を行ってきた立場も踏まえ、専務理事辞任を申し出た。被告生協の理事会は、被告福岡の右辞任を承認するとともに、リテイラーを通じた学外の事業から撤退するため、被告菊川及び同東原に対し、同日付にて同被告らを懲戒解雇する旨通知するとともに、大阪地方裁判所に対し、同月二〇日、リテイラーの破産宣告を申し立てた。被告菊川及び同東原は、その後も、右申立が却下されるとの見通しから、通常どおりリテイラーの営業活動を継続したが、同裁判所は、同年七月二六日、リテイラーの破産を宣告し、同決定が確定した。右破産宣告当時、リテイラーの破産債権者は一二〇名以上であり、その破産債権は総額四億三一七六万円に上った。

以上の事実が認められ、被告菊川、同東原及び同福岡の各供述中右認定に反する部分並びに甲E一九、乙A一ないし四、乙C一〇、一一の1、2、一三の1、2の記載中右認定に反する部分は、前掲各証拠に照らして採用することができず、他に右認定を左右するに足りる証拠はない。

二  争点1(被告取締役らの責任)について

1  被告菊川及び同東原

前記一で認定した事実によれば、被告菊川及び同東原は、リテイラーの常勤取締役としてその経営を担当していた者であるが、高級クラブ等での飲食を繰り返し、交際費等の名目で毎年二億円以上の金員を費消したばかりか、具体的な事業計画もないままに五〇〇〇万円以上の金員を投入して子会社を設立するなどしながら、実際には何ら事業活動を行わずに右投入資金を無意味なものとした上、被告生協からこのような無計画な事業拡大を批判されたことに反発し、返済の目処も考えずに年24.33パーセントもの高利で一億円以上の借入をし、その金利負担等によってリテイラーの負債を増大させたというのであるから、同被告らは、重大な過失により取締役としての忠実義務に違反して、リテイラーを倒産に至らせ、よって原告らの同社に対する売掛金を回収不能にさせたというべきである。

2  被告福岡

前記一で認定した事実によれば、被告福岡は、月次損益計算書等を通じて、リテイラーの過剰な経費支出、累積赤字の拡大等を認識していたにもかかわらず、被告菊川及び同東原に対し、経費削減努力を抽象的に促しただけで、同被告らにリテイラーの経営を任せ切りにし、同被告らによる交際費費消、高利借入金等を看過し、ついにはリテイラーを倒産に至らせたというのであるから、被告福岡は、重大な過失により取締役としての忠実義務に違反し、よって原告らに前記売掛金相当額の損害を被らせたというべきである。

3  被告山中

前記一で認定した事実によれば、被告山中は、リテイラーの業務一切を被告菊川及び同東原に任せ切りにし、同被告らによる交際費費消、高利借入等を看過したというのであるから、重大な過失により取締役としての忠実義務に違反し、よって原告らに前記売掛金相当額の損害を被らせたというべきである。

4  なお、原告読宣は、商法二六六条ノ三に基づく損害賠償債務の遅延損害金として年六分を請求しているが、右の利率は年五分と解すべきである。また、同条に基づく損害賠償債務は、期限の定めのない債務であるから、同原告の求める遅延損害金は、被告取締役らに対して訴状が送達された日の翌日(別表一遅延損害金の起算日欄記載の日)を起算日とする限度で認容することができる。

三  争点2(被告生協の責任)について

1 被告菊川らに対する監督義務を怠り、同被告らの放漫経営を放置した被告福岡の所為がリテイラーの取締役としての忠実義務に違反することは、前記二2で説示したとおりであるが、さらに、被告福岡の右所為は、被告生協の専務理事という同被告の立場に照らして見た場合には、原告らに対する違法な権利侵害として、不法行為を構成するものというべきである。

すなわち、前記一で認定した事実関係によると、①リテイラーは、被告生協の経営戦略の一環として設立された会社であり、その資本及び役員の構成からして、被告生協の完全子会社であって、あたかも被告生協の一部門ともいうべき地位にあったということができること、②そして、被告福岡は、被告生協内に設置された業態研究会及び企画調査室のメンバーに理事(当時は常務理事)の立場から参加するなど、リテイラーの設立に当初から主導的に参画し、その設立に当たっては、取締役に就任したが、その任務は、被告生協の理事の立場からリテイラーの経営を支援するとともに、常勤役員である被告菊川及び同東原らを指導監督するということであったものと認められること、③現に、被告福岡は、被告生協の専務理事に就任して間もない昭和六一年八月末頃、業者説明会の席上、リテイラーが被告生協の完全子会社であって、被告生協としては可能な限り支援して行く方針であることを対外的に表明するとともに、リテイラーから毎月月次決算書を提出させるなどして、その経営内容を掌握していたこと、以上の事実を指摘することができるのであって、これらの事実を併せ考えると、被告福岡は、被告生協の専務理事として、リテイラーの経営が健全に行われるように部下である被告菊川及び同東原を指導監督すべき注意義務を負っていたものということができるのであり、しかも、この義務は、被告生協に対してのみならず、同被告と取引関係に立つ原告ら納入業者に対する関係でもこれを肯認することができるというべきである。

そうすると、被告福岡の前記所為は、被告生協の職務遂行上における原告らに対する不法行為に該当するということができるから、被告生協は、生協法四二条、民法四四条一項に基づき、原告らが被った前記損害を賠償する義務がある。

2  被告生協は、①被告福岡は、昭和六三年六月一七日、被告生協の理事の地位を喪失した、②被告生協は、リテイラーが被告生協からの独立を志向するようになってから、同社に対する支配権を喪失していた、③被告生協は、リテイラーの設立及び運営によって利益を受けていないなどと主張するけれども、これらはいずれも右の結論を左右する事由とはなり得ないものというべきである。

3  なお、原告日興鶏卵荷受及び同大トウの請求原因に鑑みれば、同原告らの被告生協に対する年五分を超える遅延損害金の請求は失当である。

(裁判長裁判官鳥越健治 裁判官福井章代 裁判官清野正彦は、転官により署名捺印することができない。裁判長裁判官鳥越健治)

別紙別表<省略>

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