大阪地方裁判所 昭和63年(ワ)8023号 判決 1990年11月19日
兵庫県多紀郡<以下省略>
原告
X
右訴訟代理人弁護士
小泉哲二
大阪市<以下省略>
被告
岡安商事株式会社
右代表者代表取締役
A
右訴訟代理人支配人
B
主文
被告は原告に対し、金六三二万円及びこれに対する昭和六三年三月三〇日から支払いずみまで年六分の割合による金員を支払え。
訴訟費用は被告の負担とする。
この判決は仮に執行することができる。
事実
第一申立
(原告)
一 主位的請求
主文一項同旨
二 予備的請求
被告は原告に対し、金六九二万円及びこれに対する昭和六二年六月一日から支払いずみまで年五分の割合による金員を支払え。
三 訴訟費用は被告の負担とする。
四 仮執行宣言
(被告)
一 原告の請求をいずれも棄却する。
二 訴訟費用は原告の負担とする。
第二当事者双方の主張
(請求原因)
一 被告は、東京工業品取引所、大阪繊維取引所及び大阪穀物取引所に所属する商品取引員である。
二 原告は被告との間で、昭和六一年六月ころ、東京工業品取引所に上場される金、白金及び銀並びに大阪繊維取引所に上場される綿糸四〇番手の先物取引を被告に委託して行う旨、昭和六二年四月ころ、大阪穀物取引所に上場される小豆及び大豆の先物取引を被告に委託して行う旨の各先物取引の委託契約を締結した(以下、東京工業品取引所上場商品の取引を「工業品取引」、大阪繊維取引所上場商品の取引を「繊維取引」、大阪穀物取引所上場商品の取引を「穀物取引」という)。
三 原告は被告に対し、本件各委託取引の委託証拠金として、昭和六二年四月ころ金九五〇万円、同年五月ころ金二五〇万円をそれぞれ預託した。
四 原告は被告から、委託証拠金の内金の返還として、昭和六二年四月一七日ころ金四五万七三〇〇円、同年五月二二日ころ金一〇〇万円、同年七月一四日ころ金五〇万円、同年九月八日ころ金一二万〇五〇〇円、同年一一月二一日ころ金七〇万円、昭和六三年四月二八日に金二九〇万二二〇〇円の支払いを受けた。
五1 穀物取引は昭和六二年一〇月ころ、工業品取引及び繊維取引は昭和六三年三月二三日までにそれぞれ終了した。
2 右各取引所の定める受託契約準則には、
(一) 商品取引員は、委託証拠金の預託の必要がなくなった時は、必要がなくなった委託証拠金を、その必要がなくなった日から起算して六営業日以内に委託者に返還しなければならない。
(二) 商品取引員は、委託者との間に継続的な売買取引関係があり、前項によることが委託者にとって不適当であるため、当該委託者から当該委託保証金をその都度返還することを要しない旨の書面による申出があったときは、前項の規定にかかわらず、当該委託者の請求をまって返還するものとする。
旨定められている。
3(一) 本件各委託取引は、昭和六三年三月二三日にはすべて終了しているから、被告は原告に対し、右(一)の定めにより、同月二九日限り、三項記載の委託証拠金合計金一二〇〇万円から四項記載の既払額合計金五六八万円を控除した残額金六三二万円の委託証拠金を返還すべき義務がある。
(二) 仮に、原告の書面による申し出により右(二)の定めが適用されるとしても、原告は被告に対し、昭和六三年三月一七日付内容証明郵便をもって、委託証拠金の返還を請求し、右郵便は同月一八日に被告に到達した。
したがって、被告は原告に対し、遅くとも同月二九日限り委託証拠金残額金六三二万円を返還すべき義務がある。
六 仮に、委託証拠金返還請求が認められないとすれば、
1 訴外C(以下「訴外C」という)は、被告大阪南支店の営業課長であり、訴外D(以下「訴外D」という)は、同支店の営業主任である。
そして、原告は、右両名の勧誘により、本件各委託取引を行うようになった。
2 訴外Cらは、前記取引期間中、原告に無断で売買を行い、三項記載のとおり原告をして被告に対して委託証拠金名目で合計金一二〇〇万円を預託させた。
3(一) 右不法行為により、原告は、右金一二〇〇万円から四項記載の原告が支払いを受けた合計金五六八万円を控除した残額金六三二万円の損害を被った。
(二) 原告は、本件訴の提起及び追行を、弁護士である原告訴訟代理人に委任し、その費用として金六〇万円を支払う旨約した。
七 よって、原告は被告に対し、主位的に委託証拠金残額金六三二万円及びこれに対する弁済期日の翌日である昭和六三年三月三〇日から支払いずみまで商事法定利率年六分の割合による遅延損害金の支払いを、予備的に不法行為による損害賠償として金六九二万円及びこれに対する不法行為の日の後である昭和六二年六月一日から支払いずみまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払いを求める。
(答弁)
一 請求原因一、二項の事実は認める。
二 同五項1の事実は認め、同項3の主張は争う。
三 同六項1の事実は認め、同項その余の事実は否認する。
(抗弁)
一1 昭和六二年一〇月、原告から被告に対し、本件各委託取引については無断売買である旨の申し出がなされた。
2 そこで、被告は原告と話し合い、同年一一月二一日、原告と被告との間で、原告と被告との間の本件各委託取引につき、
(一) 被告は原告に対し、繊維取引及び穀物取引について和解金七〇万円を支払う。
(二) 原告と被告は、同月二〇日現在、預り証拠金、帳尻損失金、差引預り金、必要証拠金及び工業品取引の建玉が別紙一の表記載のとおりであることを相互に確認する。
(三) 原告は、今後も原告の責任で委託取引を継続する。旨の和解契約(以下「本件和解契約」という)が成立した。
3 本件和解契約の成立により、原告と被告との間の昭和六二年一一月二〇日以前の委託取引についての紛争はすべて解決した。
二 昭和六二年一一月二一日以降、原告が被告に委託した取引は、別紙二記載のとおりであり、原告の指示により、昭和六三年三月二三日建玉の手仕舞をした結果、金八〇二万一〇〇〇円の損失となり、預り証拠金をこれに充当した。
(抗弁に対する答弁)
一 抗弁一項の内、原告が被告に対し、本件各委託取引について無断売買である旨を申し出たことは認め、その余の事実は否認する。
二 同二項の事実は否認する。
第三証拠
本件記録中の証拠関係目録記載のとおりであるから、これを引用する。
理由
一 請求原因一、二項の事実は当事者間で争いがない。
二 同三項の事実は被告において明らかに争わないのでこれ自白したものとみなす。
三1 そこで被告の和解契約締結の主張につき判断する。
成立に争いのない乙第一号証の一、二、原告本人尋問の結果により真正に成立したものと認められる甲第六号証、原告本人尋問の結果により原本の存在及びそれが真正に成立したものと認められる甲第八ないし第一一号証、証人Eの証言により真正に成立したものと認められる乙第二号証の一ないし四、第三号証、証人Eの証言、原告本人尋問の結果並びに弁論の全趣旨によれば、
(一) 原告は、被告大阪南支店の営業課長である訴外C及び同支店の営業主任である訴外Dの勧誘により、本件各委託取引を行うようになったこと、そして、原告の取引については訴外Cが担当していたこと
(二) 原告は、昭和六二年一〇月初旬、被告からの同年九月二九日現在の残高照合通知に対し、また同年一一月初旬、被告からの同年一〇月二八日現在の残高照合通知に対し、いずれも、原告名義の各取引は訴外Cが原告に無断で行ったものであり、訴外Cは原告に対し、責任をもって建玉を売買しトータルで収益をあげ建玉及び差損金をなくし帳尻残高を零以上プラスにする旨言っているとの回答をしたこと
(三) 被告大阪南支店の支店長である訴外E(以下「訴外E」という)は、昭和六二年一一月二一日、訴外Cと共に原告方を訪れ、原告と交渉したこと、原告は終始原告名義の売買は訴外Cの無断売買である旨を主張したが、訴外Eらは原告に対し、各取引の明細の説明はしなかったこと、そして、同日、被告は原告に対し、金七〇万円を支払い、原告は、訴外Eらが持参した別紙一記載のとおりの原告宛の説明書の下部に、訴外Eが指示するとおりの内容の「私の取引口座が上記の通りに相違なきこと本日確認いたしました。今後も私の責任で取引を続行いたします。」との記載をして署名押印し、訴外Eらに交付したこと
(四) 同月二〇日現在、原告名義の取引は、繊維取引及び穀物取引については、建玉がすべて手仕舞されており、繊維取引については金三五万一〇〇〇円、穀物取引については金一〇七万六八〇〇円の損失となっており、工業品取引については、建玉が別紙一の下段の表記載のとおりであり、かつ利益が計上されており、これを差し引き計算すると金三万四四〇〇円の損失となっていたこと
(五) その後も、原告は被告に対し、昭和六三年二月六日、被告からの同年一月二八現在の残高照合通知に対し、同年三月五日、被告からの同年二月二七日現在の残高照合通知に対し、いずれも訴外Cの無断売買によるものである旨の回答をしたこと
以上の事実が認められる。
ところで、証人Eは、原告からの無断売買である旨の回答を受けた後二、三度原告方を訪れ、原告と話し合った結果、工業品取引については原告が納得し、繊維取引及び穀物取引については原告の損失金合計約金一四〇万円を原告と被告とが半々負担する旨を提案し、後日、原告からこれに同意する旨の返答を得たので、昭和六二年一一月二一日原告方を訪れ、本件和解契約が成立した旨供述するが、右供述どおりとすれば、少なくとも右合意した金七〇万円の支払いに関する条項が記載された書面が作成されてしかるべきところ、そのような書面はなく、訴外Eらは昭和六二年一一月二〇日現在の原告名義の預り金、建玉、値洗金額、帳尻を記載した原告宛の説明書に原告をして前示のとおり記載させたものであり、契約書の形式となっておらず、かつその後も原告は、無断売買である旨の回答をしていること及び原告本人尋問の結果に照らせば、証人Eの和解契約が成立した旨の供述部分はたやすく信用できず、訴外Eらは、前示説明書に原告の署名押印をさせるため、その趣旨を明確にせずに金七〇万円を支払ったものと認められ、他に被告主張の本件和解契約が締結されたとの事実を認めるに足る証拠はない。
2 請求原因五項1の事実は当事者間で争いがなく、同項2(一)の事実は被告において明らかに争わないのでこれを自白したものとみなす。
そして、本件和解契約締結の事実が認められないから、被告は、本件各委託取引の内容の明細につき主張立証すべきところ、右事実についての主張立証がない。
したがって、被告は原告に対し、本件各委託取引がすべて終了した昭和六三年三月二三日から六営業日以内である同月二九日限り原告が預託した委託証拠金を返還すべき義務がある。
3 請求原因四項の事実は原告において自認するところである。
そうすれば、被告が原告に対して返還すべき委託証拠金の残額は金六三二万円となる。
四 以上によれば、原告の本訴主位的請求は理由があるのでこれを認容し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条を、仮執行の宣言につき同法一九六条をそれぞれ適用して、主文のとおり判決する。
(裁判官 寺崎次郎)
<以下省略>