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大阪地方裁判所 昭和63年(行ウ)73号 判決 1990年12月19日

堺市錦綾町一丁七番九号

原告

朝井開発株式会社

右代表取締役

朝井弘

右訴訟代理人弁護士

浅井得次

堺市南瓦町二丁二〇番

被告

堺税務署長 宝官一磨

右訴訟代理人

井越登茂子

主文

一  原告の請求を棄却する。

二  訴訟費用は原告の負担とする。

事実及び理由

第一請求

被告が原告に対し、昭和六一年二月一三日付けでした、原告の昭和五七年一月一日から同年一二月三一日までの事業年度(昭和五七年一二月期)及び同五八年一月一日から同年一二月三一日までの事業年度(昭和五八年一二月期)の法人税の更正は、いずれも取り消す。

第二事案の概要

一  争いのない事実

1  課税の経緯

(一) 原告は、昭和五七年一月一日から同年一二月三一日までの事業年度及び同五八年一月一日から同年一二月三一日までの事業年度(以下、両事業年度をあわせて「係争事業年度」という。)の法人税につき、別表1、2記載のとおり確定申告をした。

(二) 被告は、原告に対し、昭和六一年二月一三日付けで、同表更正欄記載のとおり、原告の係争事業年度の法人税につき、租税特別措置法六三条一、二項、同法施行令三八条の四第四項一号、五項一号イ、六項に基づき、課税土地譲渡利益金額及びこれに対する税額を更正する処分(以下「本件各更正」という。)をした。

2  係争事業年度における原告名義の土地売買の存在等

(一) 係争事業年度において、原告名義をもって、別表3―1、2及び同4―1、2記載のとおり、短期所有土地の譲渡が行われた。

(二) 右各土地の譲渡の収益(租税特別措置法六三条二項、同法施行令三八条の四第四項一号)、原価(租税特別措置法六三条二項、同法施行令三八条の四第五項一号イ)、法定の経費の額(租税特別措置法六三条二項、同法施行令三八条の四第六項)の総額は、別表3―1、2及び同4―1、2の当該各欄記載のとおりである。

二  争点についての当事者の主張

本件の争点は、右各土地のうち別表3―1、2記載の物件番号2、3、5ないし13、17、19ないし21、23、24、26、28ないし33、35の各土地及び別表4―1、2記載の物件番号1ないし6、9ないし13、16、17、21の各土地(以下、以上の各土地を「本件各土地」という。)の譲渡の収益が、すべて原告に帰属するものとして、租税特別措置法六三条二項、同法施行令三八条の四第四項ないし六項に従い係争事業年度における原告の課税土地譲渡利益金額を算出し、租税特別措置法六三条一項に基づく課税(以下「土地重課税」という。)をすることの適否である。

1  被告

(一) 原告は、本件各土地の譲渡に先立ち、これを競落し、競落代金を納付し、その所有権を取得した。

(二) 原告は、本件各土地の競落に当たり、別表3―1、2及び同4―1、2の出資者欄記載の各出資者(以下、「本件出資者」という。)から、金員の出資を得ているが、右出資によって原告と本件出資者との間に成立した法律関係は、原告を営業主とする商法上の匿名組合又はこれに準ずる関係であり、本件各土地の譲渡は、いずれも、営業主である原告の計算においてされたものである。

(三) したがって、本件各土地の譲渡における収益は、すべて原告に帰属するものとして、係争事業年度における原告の課税土地譲渡利益金額を計算すべきである。

2  原告

(一) 実質的な共同入札による共有関係の成立

原告が、原告名義で本件各土地を競落し、競落代金を納付したことは認めるが、その結果、原告が単独でその所有権を取得したことは否認する。

本件各土地は、原告と共に、本件出資者が、別表3―1、2及び同4―1、2の持分欄記載の割合により、本件各物件の競落代金及びその登録免許税、不動産取得税等その所有権取得に係る費用を支出して、共同で競落した。すなわち、本件各土地は、原告名義で競落されているが、これは、民事執行規則に基づく共同入札の許可基準の運用は極めて厳格であって、原告を含む本件出資者による共同入札が許可される見込みはないため、やむを得ず、原告は、単独名義で本件各土地を競落したにすぎない。したがって、原告名義で競落代金が納付された時点で、本件各土地は、本件出資者の共有(本件出資者の共有持分は、右各表の持分欄記載のとおり。)に属することになった。

(二) 組合契約の成立

仮に、本件各土地を原告が単独で競落し、その所有権を取得したとしても、原告を含む本件出資者は、別表3―1、2及び同4―1、2の持分欄記載の割合により、本件各物件の競落代金並びにその所有権の取得及び売却に要する費用を出資し、本件各土地の売買という共同の事業を営むことを約した。したがって、本件各物件は、右合意(民法上の組合契約又はこれに準ずる契約)に基づき、原告を含む本件出資者の共有に属する組合財産となり、その譲渡による収益は右組合に帰属し、その利益は、右出資割合に応じて原告及び本件出資者に分配されるべきことになる。

(三) 実質課税の原則違反

右(一)及び(二)に述べた本件各土地の譲渡の実態にかんがみれば、本件各土地の譲渡による収益がすべて原告に帰属するものとして土地譲渡利益金額を算出してされた本件各更正は、実質課税の原則に違反する。

(四) 禁反言の原則違反

原告は、従前から、同業者から競売代金並びに当該物件の取得及び売却に要する費用の一部の出資を受けて、不動産を競落したうえで、これを転売し、その転売利益を、出資者である同業者の出資割合に応じて分配するという取引を続けていた。その間、被告は、原告が右取引により出資者に分配する利益の額を、土地譲渡の計算上、土地譲渡の原価に当たるものと認めてきた。

ところが被告の部下職員は、昭和五五年七月ころに行った税務調査において、原告に対して、土地譲渡所得に関する収支の総額を記帳するように指導し、原告が右指導に従った記帳を行うや、出資者に対する利益の分配金が土地譲渡の原価に当たることを否定して本件各更正を行ったのであり、本件各更正は、禁反言の原則に違反する。

第三判断

一  認定事実(争いのない事実を含む。)

後記各項掲記の証拠及び原告代表者尋問の結果に弁論の全趣旨を総合すると、次の各事実が認められる。

1  原告及び本件出資者は、いずれも、競売物件の転売による利益の取得を目的とする事業を営む不動産業者である。

2  本件各土地は、いずれも、原告がその名義で保証金を納付して入札を行い、最高価買受申出人として、執行裁判所の売却許可決定を受けたうえで、その競落代金を納付し、所有権移転登記を完了した土地である。

3  原告は、右入札に先立ち、本件出資者との間で、競売手続に付されている物件のうちどの物件に入札するのか、その入札金額をどうするのかについて協議を行い、この点について意見が一致した場合には、概ね次のような合意(以下、「本件合意」という。)をし、本件各土地の競売代金、登録免許税及び不動産取得税相当額については、競落代金の納付に先立ち、本件合意に従った出資割合による金員の交付を受けたうえで、本件各土地を競落していた(甲一ないし四号証)。

(一) 原告は、本件出資者との間で合意決定した価格で、本件各土地につき入札をする。

(二) 本件出資者は、別表3―1、2及び同4―1、2の持分欄記載の割合により、本件各土地の競売代金並びにその取得及び売却のために要する諸費用を負担する。

(三) 原告が本件各土地を競落したときは、これを転売し、転売による利益(損失が生じたときは損失)は、右割合に応じて出資者に分配する。

4  本件合意は、口頭のみでされることが多かったが、従来取引関係のない者との間で右のような合意をするときは、「協同購入に関する契約書」と題する書面が作成されることもあり、右書面には、原告名義で競落する不動産につき、各出資者の持分が記載されていた(甲一ないし四号証)。

5  原告及び本件出資者の本件合意の目的は、本件各土地の転売による利益の取得にあり、その使用収益は目的とされていなかった。現に、本件各土地は、原告名義で競落された後、利用されることもないまま、短期間のうちに転売がされた。

6  本件各土地の競落及び転売に当たっては、原告のみが当事者として表示され、本件出資者が共有者として表示されたことや共有名義の登記手続がされたことはなく、また、原告と本件出資者との合意によって成立した組合が登記又は売買契約書上の当事者として表示されたこともなかった(甲一ないし四号証、乙一七、一八号証)。

7  原告は、本件各土地の取得及び転売に係る収支については、転売により得た代金の総額を原告の収入として計上する一方で、競売代金並びにその取得及び売却のために要した費用の総額を支出として計上し、その収支計算により、本件各土地の取得及び転売による利益(損失)の総額を算出するという経理処理を行っている(甲一五号証ないし二五号証の各二)。

そして原告は、本件各土地が転売できた段階で、本件出資者に出資金相当額を「不動産借入金」として返還するとともに、右のとおり算出された利益の額に本件出資者の各出資割合を乗じて本件出資者に分配すべき利益の額を算出したうえ、右分配利益金額からその一割を原告の一般経費の負担分として天引きした額を各出資者に「不動産借入利息」として支払っている(乙二ないし九号証、甲三四号証)。

8  原告は、係争事業年度の法人税の確定申告及び修正申告に当たり、本件各土地の譲渡による収益については、その全額が自己に帰属することを前提に、本件出資者に対して、不動産借入利息名下に支払った金員を本件各土地の譲渡の原価に算入して、その利益金額を算出して法人税の申告を行った。

更に、本件出資者が、原告から分配を受けた転売利益につき、土地重課税の申告を行ったことをうかがわせる証拠はない。また、原告は、他の業者の名義で競落された物件につき、本件出資者と同様の出資を行い、転売利益の分配を受けることもあったが、右転売利益については、受取利息として確定申告を行っており、これを、土地譲渡利益として計上して法人税の申告をしたことはなかった(乙二〇、二一号証)。

二  本件各土地の競落による原告の所有権取得

右一の2に認定したように本件各土地については、原告が単独で入札を行い、最高価買受申出人として執行裁判所の売却許可決定を受け、その競落代金を納付しているのであるから、原告は、右競落により、本件各土地の所有権を単独で取得したことが明らかであり、右競売手続に現れていない本件出資者が、本件各土地の共同の競落人となったと認める余地はない。原告と本件出資者との間において、本件合意が成立しており、右合意に基づき、原告が競落代金の一部につき、本件出資者から出資を受けていたことは、右の認定を左右するものではない。

三  本件出資者の共有に帰属させる合意の成否

そこで、原告と本件出資者との間に成立した本件合意が、原告が競売により取得した本件各土地を、原告と本件出資者の共有に帰属させる合意を含むものと認めることができるか否か、換言すれば、右合意が、民法上の組合契約ないしこれに準ずる契約にあたるのか商法上の匿名組合契約ないしこれに準ずる契約にあたるのかの点について検討する。

本件各土地の競落から転売までの法律行為は、一貫して、原告のみを当事者と表示して行われており、本件出資者ないし原告と本件出資者との合意によって成立した組合が、当事者ないし本件土地の共有者として表示されることはなかったことは前記一の6に認定したとおりであり、法形式上は、本件各土地の譲渡は、原告を売主とする原告所有土地の売買であることが明らかである。このような法形式の下に、本件各土地の競落及び転売がされたことに加え、原告及び本件出資者は、本件各土地の転売による利益の取得を目的として本件合意をしており、これを保有して、使用収益することは予定されていなかったことをも考え合わせれば、本件出資者は、本件合意に当たり、その出資割合に応じて、本件各土地の転売による利益の分配を受けることを意図していたにすぎず、本件各土地を使用収益したり、転売先に対して代金を請求するなど、本件各土地の共有者ないし共同の売主としての行為や権利を行使することは意図していなかったものと認められる。そして、原告は、本件土地譲渡による対価の全額を原告の収益としてその経理や法人税の申告を行っていること、本件出資者が本件各土地の譲渡による利益につき、これを土地譲渡利益金額に計上して法人税の申告をしていることをうかがわせる証拠はないこと、原告が他の業者の名義で競落された物件につき、本件出資者と同様の出資を行い、転売利益の分配を受けた場合に、原告も、右転売利益については、受取利息として確定申告を行い、これを、土地譲渡利益金額に計上した法人税の申告はしていないことなど前記認定の事実も、原告及び本件出資者が、本件土地譲渡が共有財産の売買に当たるとの認識を有していなかったことをうかがわせるものということができる。

以上に認定したところによれば、原告と本件出資者が、原告において競落した土地につき、本件出資者にその出資割合に応じた共有持分を帰属させることまで合意したとは認め難く、本件合意は、原告が当事者となって行う本件土地の競落及び転売という営業により生じる利益の分配を約して、本件出資者において、出資を行うことを内容とする商法上の匿名契約に当たるものと認めるのが相当である。

もっとも、原告と本件出資者との間で、本件合意を書面化する場合に作成されていた「協同購入に関する契約書」と題する書面には、原告名義で競落する不動産について、本件出資者の持分が記載されていること、本件各土地の取得及び転売については、原告と本件出資者が協議をしたうえで実行していたことなど、本件合意が、本件出資者において、本件各土地の競落代金、登録免許税及び不動産取得税相当額につき、本件合意に定められた出資割合による金員を交付することにより、本件各土地の共有持分を取得するとの合意も含むものであることをうかがわせる事情も認められないではない。しかし、右に認定説示したところに照らすならば、「協同購入に関する契約書」の右文言は、本件各土地の転売による利益の分配に当たっての、分配基準を合意したものと理解することが可能であり、また、営業主が、出資者との間でその営業活動に関して協議を行うことが、匿名組合契約に矛盾するものともいえない。したがって、右のような事情は、なお、前記認定を左右するには足りないものというほかはない。

したがって、本件各土地は、その譲渡の時点において、原告の所有に係るものと認められるから、譲渡による収益はすべて原告に帰属する。

四  実質課税の原則違反

原告は、本件出資者に対して、本件土地譲渡による利益をその出資割合に応じて分配していることは前記一の7に認定したとおりである。そこで、それにもかかわらず、本件各土地の譲渡利益金額がすべて原告に帰属するものとして、土地重課税を課することが、実質課税の原則に違反するか否かについて検討する。

原告は、本件各土地の所有者として本件各土地を譲渡しており、その譲渡による収益が法律上原告に帰属することは、右三に認定説示したとおりである。本件出資者に対する本件各土地の転売利益の分配は、原告と本件出資者との間の本件合意に基づくものであって、本件譲渡そのものから当然に、本件出資者に収益が生ずるものではない。そして、法人が短期所有土地に該当する土地の譲渡をした場合に課される土地重課税は、当該土地の譲渡の対価(収益)から、当該譲渡に係る土地の譲渡直前の帳簿価額(原価)及び租税特別措置法施行令三八条の四第六項所定の法定の経費の額を控除して得た譲渡利益金額を課税標準として、当該土地を譲渡した法人に、土地重課税を課するものである(租税特別措置法六三条一項一号、二項一号、同法施行令三八条の四第四項一号、五項一号イ、六項)。従って、右法令の規定にしたがって算出した本件各土地の譲渡利益の金額を課税標準として、原告に土地重課税を課することが実質課税の原則に違反するとはいえない。

もっとも、原告は、本件各土地の譲渡により得た利益の額から、本件出資者に対してその出資割合による利益を分配したため、本件各土地の譲渡による利益のうち、現実に原告の手元に残った利益金額に着目すると、原告は過大な土地重課税を負担することになるようにも考えられないではない。しかし、原告は、本件各土地の譲渡により課される土地重課税相当額をも、本件各土地の競落と転売という原告の営業の経費として控除したうえで、本件出資者に分配する利益の金額を算出することにより、このような事態を容易に回避することができるのである。したがって、現実に原告の手元に残った利益金額に着目すると原告が過大な土地重課税を負担することになるというような事情も、右の認定を左右するものではない。

五  禁反言の原則違反

甲一四号証、一五ないし二五号証の一、二、二八、ないし三三号証及び原告代表者本人尋問の結果に弁論の全趣旨を総合すると、原告は、昭和五五年当時、本件各土地の譲渡と同様の取引を行った場合には、土地の転売によって得た代金の総額を収入に計上する一方で、競売代金及び物件の取得及び売却に要した費用については、各支出項目毎に原告の出資割合に応じた額のみを支出として計上し、他の出資者から得た出資額相当額は「諸口」、「立替金」、「不動産借入金」等の項目の下に支出として計上し、その収支計算により算出される利益金額のうち、出資者の出資割合相当額について、「不動産借入利息」の項目の下に支出として計上し、その収支計算により算出される利益金額のうち、出資者の出資割合相当額について、「不動産借入利息」の項目の下に支出に計上して、原告の利益(損失)を算出するという経理処理を行っていたこと、右収支の記帳の末尾において物件の転売代金額のうち、出資者の出資割合に相当する金額を売買代金の減算分として収入から減算し、次いで、右減算額相当額を出資者に対する不動産売上の項目の下に支出から減算するという帳簿記載がされていたこと、原告は、昭和五六年ころ、被告の部下職員から、右のような経理処理を改め、競落及び転売に係る土地の競売代金並びに当該物件の取得及び売却に要した各費用の総額を支出として記帳するように指導を受け、その結果、前記一の7に認定したような経理処理を行うようになったことが認められる。しかし、右の指導の前後を通じて、被告の部下職員が、原告が、「不動産借入利息」名下に、出資者に支払っている金員を土地重課税上の譲渡利益金額の算出に当たり、原価の額又は経費の額に算入することができる旨の教示をしたとの事情を認めるに足りる証拠はない。したがって禁反言の原則違反をいう原告の主張は、既に、この点において失当というほかはない。

六  結論

以上によれば、本件各土地の譲渡による収益の総額が原告に帰属するものとしてその譲渡利益金額を算出してされた本件各更正は、いずれも適法である。

よって、原告の本訴請求は、理由がない。

(裁判長裁判官 井関正裕 裁判官 綿引万里子 裁判官 和久田斉)

別表1

課税の経緯

自 昭和60年1月1日

至 昭和60年12月31日

<省略>

別表2

課税の経緯

自 昭和61年1月1日

至 昭和61年12月31日

<省略>

別表3-1

自 昭和57年1月1日

至 昭和57年12月31日

<省略>

別表3-2

自 昭和57年1月1日

至 昭和57年12月31日

<省略>

別表4-1

自 昭和58年1月1日

至 昭和58年12月31日

<省略>

別表4-2

自 昭和58年1月1日

至 昭和58年12月31日

<省略>

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