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大阪地方裁判所堺支部 平成10年(ワ)657号 判決 2001年2月26日

大阪府<以下省略>

原告(亡X1訴訟承継人)

X2

同所同番地

X3

兵庫県<以下省略>

X4

大阪府<以下省略>

X5

上記4名訴訟代理人弁護士

村本武志

東京都<以下省略>

被告

国際証券株式会社

上記代表者代表取締役

上記訴訟代理人弁護士

竹越健二

主文

1  被告は、原告X2に対して184万1995円及び同金員に対する平成10年6月20日から支払済みに至るまで年5分の割合による金員を支払え。

2  被告は、原告X3、同X4、同X5に対し各61万3998円及び同金員に対する平成10年6月20日から支払済みに至るまで年5分の割合による金員を支払え。

3  原告のその余の請求を棄却する。

4  訴訟費用はこれを10分し、その8を原告らの連帯負担とし、その余を被告の負担とする。

5  この判決は、第1項及び第2項に限り仮に執行することができる。

事実及び理由

第1請求

被告は、原告X2に対して、950万0965円及び同金員に対する平成10年6月20日から支払済みに至るまで年5分の割合による金員を支払え。

被告は、原告X3、同X4、同X5に対し各316万6989円及び同金員に対する平成10年6月20日から支払済みに至るまで年5分の割合による金員を支払え。

第2事案の概要

本件は、被告とワラント取引をしていた原告が、被告の担当者の説明義務違反、過当売買等により損害を受けたとして損害賠償請求した事案である。

1  原告らの主張

(1)  亡X1(以下、「X1」という。)は、昭和9年○月○○日生まれの男性で、昭和25年に新制中学校を卒業した後、家業の農業に従事していた。

その後、昭和35年頃a社に入社して集金業務を行い、昭和39年12月にb銀行に入社した。

X1は、同銀行では、外国為替の使送金係、掃除、警備などのいわゆる現業業務を30年間にわたって行っており、営業や事務業務には携わったことはない。

(2)  ワラント取引の危険性

ワラントとは、株式を買う権利であり、ワラント債として普通社債に付随する形で発行される。ワラント価格は、ワラントの理論価格(パリティ)とプレミアムで構成される。

パリティは、株価と行使価格との差額を行使価格で割った数値を100倍したもので、ポイントと言われ、株価と行使価格が同じであれば、パリティはゼロになる。実際には、パリティがゼロの場合にも、ワラント価格は20ポイントとか15ポイントの価格がついている。

ワラント価格は、パリティとは別の要因である、相場のムード、行使期間までの時間の長短、人気の程度、需要と供給により決定される。

以上のことからすれば、ワラント価格は株価のみで決定されるものではなく、前記の要因により決定されるのであるから、仮に、株取引の経験があったとしても、ワラント取引に精通しているとは言い得ない。

(3)  外貨建てワラント取引の危険性

外貨建てワラントは、投資家と証券会社の相対取引であるので、売手である投資家が価格を引き下げても、証券会社が引き取らない場合がある。

悪質な場合には証券会社が投資家の保有するワラントを引き取らないまま放置しておくことがある。

(4)  被告の債務不履行責任

被告には、商品先物取引で認められるような、取引の対等性を確保するための顧客に対する善管注意義務ないし忠実義務があり、顧客に対してリスクの高い取引を勧誘して反復継続する場合には、取引のリスク、不合理性を説明すべき義務が生じる。

被告の証券外務員たるB(以下、「B」という。)は、この義務に違反しているので債務不履行責任がある。

(5)  B及び被告の不法行為責任

被告の担当者であるBは、原告に対してアないしエの違反行為があり、不法行為を構成する。

Bは被告の従業員であり、業務の執行としてX1に対して不法行為をなしたのであるから、被告には使用者責任がある。

ア 説明義務違反、断定的判断の提供

原告は平成5年7月19日からワラント取引を開始したが、Bからは電話で「ワラントという商品がある。株より儲かる。」と言われて取引をしたのであり、ワラントの仕組みについてはほとんど説明がなく、またワラントには行使期限がある旨の説明はなされていない。

Bは、X1に対してワラントがギアリング効果のある場合やマイナスパリティになったりして極めてリスクの高いものであることを説明していなく、また、X1に対して「間違いのない商品で、儲かる。」と断定的判断を用いてワラントを購入させた。

イ 適合性違反

X1は、b銀行に勤務していたが、仕事の内容は、外国為替の送金、掃除、警備等の現業部分を30年間にわたりなしてきたものであり、営業や事務業務はしておらず、証券取引についての知識が乏しく、そのような者に対してBは高いリスクのワラント取引を勧め、取引をさせたのは適合性に反する行為である。

証券会社は、投資者の知識、経験、投資傾向等を正確に把握して、投資者が不測の損害を被らないように調査する義務があり、これは投資契約に付随する信義則上の義務である。

ウ 過当売買の違法性

X1と被告間の取引は、過当取引であり違法である。

過当取引が認められる要件として以下のものがあり、本件ワラント取引はその要件を満たしている。

① 取引の数量、頻度が顧客の投資知識、経験や投資目的あるいは資金の量及び性格に照らして過当である。

② 証券会社が一連の取引を主導していたこと(コントロール性の要件)

③ 証券会社が顧客の信頼を濫用して自己の利益を図ったこと(悪意性の要件)

①については、本件で取引されたワラントは、12銘柄に及んでおり、ワラントの買付けは34回の多数回であり、かつ買付けの間隔は短く、平均値は19日間であるがそのうち7日以内の取引となっているのは18取引にもなる。

同一銘柄で同一限月のものが繰り返し買われている。

過当販売の判断については、ポイントとなるのは売買回転率であるが、売買回転率は、各月の投資額を合計して投資総額を算出し、月の平均投資額を基準として買付け総額の何倍まで取引されているかを算定したものである。

算式は、取引期間月数A、投資額B、月平均投資額C、買付け総額Dとすると、売買回転率E=D÷C×12÷A となる。

売買回転率について、原告のなしたワラント取引の売買回転率は、3.4倍と高率である。

このように短期間で頻繁に売買を繰り返したのは、被告が高額の手数料収入を得るためのものである。更に、本件ワラント取引には、短期間での乗換売買、出し入れ取引、利乗建株がある。

また、本件取引には、高リスクワラントの購入、価値のないワラント(屑ワラント)の多量購入があり、これらの購入は、適合性の要件にも反している。

すなわち、X1の34回のワラント取引のうち、過半数の18回の取引が、流通性の極めて低い10ポイント以下の屑ワラントを購入させたものである。

低価格ワラントの場合には、プレミアム部分が大きいので株価と連動せず、売るにも売れない流通性の極めて低いワラントとなる。

②のコントロール性については、本件ワラント取引は、前記のとおり、頻回多量なもので、またナンピンワラントが購入されているので、このような取引は、いわゆるプロの相場師か機関投資家がなせるものであり、X1の如き者がなせるものではなく、本件取引はBが主導し、同人のコントロールのもとになされたものである。

③の悪意性として、Bは原告の利益を犠牲にして、自己の業績を上げる目的でX1にワラント取引をすすめ、X1の利益を配慮することなく、過当販売を行ったものである。

エ 本件ワラント取引における説明義務、忠実義務違反

被告には商品先物取引で認められるような、取引の対等性を確保するための顧客に対する善管注意義務ないし忠実義務があり、顧客に対してリスクの高い取引を勧誘して反復継続する場合には、取引のリスク、不合理性を説明すべき義務が生じる。

本件ワラント取引は、買付けワラント総数34回のうち、過半数の18回の取引が10ポイントを切っており、屑ワラントの取引であった。

また、平成6年8月のヤオハンワラント購入以降の18回のワラント取引のうち値上がりをしたのは東洋建設ワラントだけであり、他はすべて値下がりしているものであり、被告は屑ワラントを頻繁に原告に売付けたものである。

被告の行為は説明義務、忠実義務に違反する。

2  被告の主張

(1)  説明義務について

ア 原告の投資経験等

X1は、原告X2と結婚した昭和40年には既に株式を保有しており、昭和61年に被告大阪支店で証券取引を開始する以前から証券取引を行っていた。

X1は、被告で取引を開始した後も、他の証券会社で取引を行っていたものであり、X1は、b銀行に30年間の長期にわたって勤務しており、金融に関する情報も豊富に有していた。

更に、X1はb銀行では現業に従事していたことをもって金融情報に疎い旨を主張しているが、現業であっても銀行に勤務している以上、金融に関する情報を日々目の当たりにしているのは明らかであり、他の仕事に就いている者より金融の知識があるのは当然である。

X1が「エキュー」という概念通貨を理解していたのは、正に金融機関に勤務していたからである。

X1は、証券取引に積極的な投資家であった。

イ 本件ワラント取引について

Bは、平成5年6月ころ株式市況は更に活発になるものと考えて、X1に信用取引及びワラント取引を勧誘した。

X1は、信用取引についてはハイリスク・ハイリターンの取引であることを知っていたが、同年7月5日に開始することを決定し、同月9日ローム株式を買い付けて、信用取引を開始した。

更に、BはX1にワラント取引も勧誘したが、X1は同月14日ワラント取引を開始することを決定し、同月19日川崎重工等3銘柄のワラントを買い付けた。Bは、X1がワラント取引を開始するまで3回程度X1の自宅を訪問し、同人にワラント取引の特質を説明している。

Bは、X1に対して、①ワラントとは株式を買える権利であること、②その権利は債券と一緒に発行され、その後債券から切り離されること、③顧客が取引するのはその切り離されたワラントの部分だけであること、④ワラントには行使期限があって、その行使期限を過ぎてしまうと価値がゼロになってしまうこと、⑤ワラントの価格は株価の上下と連動するが、株式以上に上下すること、⑥ユーロドルワラントでは決済のときに為替が影響すること及び⑦ワラントは、現在訴訟になっていて新聞にも出ているが、これはワラントの行使期限が来て紙屑になったり、行使期限が近付いてほとんどゼロになってしまったからであること、を説明した。

更に、Bは、ワラントの値動きに関して、その行使価格を1000円と仮定したときのワラントの値動きについて、そのパリティとプレミアム及びギアリング効果について具体的数字を挙げて、詳細に、かつ平易に説明した。X1は、平成5年7月14日、Bの説明を聞いた後で、「分かった。やってみるわ。」と言って、ワラント取引を開始することを決定した。その際、Bはワラント取引の説明書(乙A10)をX1に交付すると共に、同人からワラント取引に関する確認書(乙A11)に署名、押印を受けている。同確認書に署名・押印を受ける際には、Bは同確認書をX1に向けたうえ、同確認書を読み上げてその内容を告知している。

Bは、その後本件各ワラントの買付けを勧誘しているが、個別のワラントの銘柄を勧誘する際には、コンピューターから打ち出した株価週足チャートとワラント週足チャートなどを持参したうえ(乙A21及び24)、株価動向とワラントの価格動向を説明し、同チャートに記載されている行使期限及び行使価格等を説明した。

平成6年3月以降、BはX1が買い付けて保有していたワラントに評価損が生じていたが、その時価を報告すると共に損失を挽回するために保有ワラントのナンピンを勧め、X1はナンピンを買い付けている。

ウ 従って、BからX1に対する説明義務は尽くされており、何ら違法行為はない。

(2)  原告らの過当売買との主張についての反論

ア 取引の数量、頻度が顧客の投資知識、経験や投資目的あるいは資金の量及び性格に照らして過当である、との主張に対して

原告は売買回転率を主張するが、回転率算定について誤りがあり、回転率は3・4倍ではなく、2倍強に過ぎない。

本件ワラント取引では、短期損切り、出し入れ取引、利乗建株はない。

イ 証券会社が一連の取引を主導していたこと(コントロール性の要件)の主張に対して

BがX1の意思を無視してワラント取引をした事はなく、コントロール性もない。

原告らは、20ポイント前後の銘柄が取引に適しているのであって、10ポイント以下のワラントは、「安かろう、悪かろう」の典型であると主張するが、それは投資判断に関する事実であって、説明義務の対象とならない。

株価とワラント価格の関係は、一部の例外もあるが、株価が上昇すれば、ワラント価格も上昇するのであり、逆に株価が下落すれば、ワラント価格も下落する。

ワラント価格が下落してナンピンになっていたとしても、株価が上昇すれば、ワラント価格も上昇することがあるのだから、一概に10ポイント以下のナンピン取引の場合は屑ワラントの取引であるとは言い得ない。

ナンピンワラントを購入した場合、価格が下落しており、その後も引き続きその価格の下落が予想されるとして損失を出しても売却するか、そのまま様子をみるか、その後に反騰すると判断して買い増しするかは、投資家の判断である。価格下落の際にナンピン買いをするのも、投資判断としては理由がある。

その理由としては、価格は下落しているのであるから、買付け金額は少なく、相対的に価格下落によるリスクは少なく、その反面価格が上昇すれば、利益率は大きくなる。そのような投機的な取引を好む者にとっては、特別な商品でもなく、X1は、投機的な取引を好む顧客であった。

原告の本件ワラント取引の損失のうち、ナンピン取引によるものは、ヤオハン及び千代田化工建設のみであり、損失の合計額は、147万1582円にすぎない。

ウ 証券会社が顧客の信頼を濫用して自己の利益を図ったこと(悪意性の要件)の主張に対して

Bに短期での損切り取引もなく、特定売買のような取引もなく、Bの背信性はない。

3  争点

(1)  本件ワラント取引の経緯

(2)  Bによる説明義務違反の有無及び断定的判断の提供の有無

(3)  過当売買取引が認められるか

第3裁判所の判断

証拠(甲1ないし24、乙A1ないし26、乙B1ないし36、証人B、原告X2)及び弁論の全趣旨によれば、以下の事実が認められる。

1  本件ワラント取引の経緯

原告は、昭和39年12月にb銀行に入行し、同銀行の子会社であるc株式会社(以下、「c社」という。)に出向した。c社は、大阪市<以下省略>にあったが、被告会社大阪支店が近くにあったので、昭和61年頃から、X1は、被告大阪支店で株式取引を始めた(乙A4)。

X1が被告大阪支店に口座を開設した当時、所有の株式を持ち込んでいるが、勤務するb銀行の株式が中心であった(乙A4)。

その後、X1の被告における取引は、多量の株式、国債、転換社債などに増大した。

また、X1は、勤務先が変更し、d社に勤務となったので、被告会社の口座も被告堺支店へと移した。

Bは、昭和61年に被告に入社し、被告京都支店で店頭営業課に勤務していたが、平成元年2月頃被告堺支店に転勤し、X1との取引を担当することになった。Bは、平成8年4月にX1の担当がCに代わるまで担当であった。

X1は、被告との間で平成5年7月5日に信用取引口座を開設する約諾書に署名して(乙A8)、被告との間で担保を提供して一定の範囲内で取引をすることになった。

同時期ごろワラント取引を開始しているが、ワラント取引の内容についてBがどのように説明したかについては、X1とBとでは主張が異なる。

X1は、同年7月19日Bから「ワラントという商品がある。ドル建てで買うものだ。株より儲かる。」と言って勧めてきたもので、ワラントの仕組みについては、権利を買うものとの説明以外にほとんど説明がなく、行使期限の説明もなかった、と陳述する(甲7)。

他方、Bは、X1の自宅で、メモ用紙を用いて、ワラント取引の仕組み、リスクがあること、ギアリング効果、行使期間を過ぎると権利が失効することなどの説明を、被告のレクチャー用の資料(乙A22)を用いてなし、X1はワラント取引を了解した、と供述する(B18ないし26)。

X1は、同年7月14日付「国内新株引受証券及び外国新株引受証券の取引に関する確認書」(乙A11)に署名をしている。

X1が署名するに当たり、Bから、取引説明書(乙A10)をX1に渡してその内容を説明したとする。

ところで、X1は、平成11年4月に死亡しており、本件公判での供述は得られていないので、Bの供述との対比もできないところであるが、ワラント取引を開始するに当たり、前記書面にX1が署名していることや、これまでの被告との取引を継続していたことを考慮すると、後述の過当販売での判断は留保して、ワラント取引の仕組みや危険性についての一応の説明はなされていたものと認められる。

2  断定的判断の提供の有無について

BがX1にワラント取引を勧める際に、「間違いのない商品で、必ず儲かる。」と断定的判断を提供したとX1は陳述するが(甲7)、Bの供述及び被告からX1に対して定期的に「ワラント証券時価評価のお知らせ」と題する書面(乙A18の1ないし18の13)を送付していることからすれば、直ちに断定的判断を提供したものと認められるものでもない。

3  適合性について

X1は、中学校を卒業し、農業をしていたが、a社に勤務後、昭和39年に銀行に入行し、それ以降長年にわたり勤務していたが、従事する業務内容は外国為替の送金、警備、掃除等のいわゆる現業職であった。

従って、銀行での取引に関する業務内容については詳しくなく、専門的な証券取引についての知識を有するものではなかった。

しかしながら、被告との間で平成元年頃から株式、転換社債取引を頻繁に繰り返していることや、銀行に勤務しているのであるから、たとえ現業職であっても取引に関する知識を得られる環境にあるので、適合性については、後述の判断を留保して、一応その要件を満たしているものと認められ、適合性違反の点はない。

4  過当売買について

本件ワラント取引は、対象銘柄が12になり、ワラント買付けは34回、取引は極めて短い期間になされており、他方被告は、頻繁に取引を繰り返すことにより高額の手数料収入(スプレッド)を得ており、金額にして1149万0031円にもなる、と原告らは主張する。

(1)  売買回転率について

売買回転率とは、各月の投資額を合計して投資総額を算出し、月の平均投資額を基準として買付け総額の何倍まで取引されているかを算定したものであり、算式は、取引期間月数A、投資額B、月平均投資額C、買付け総額Dとすると、売買回転率E=D÷C×12÷Aである。

原告の主張は、本件での売買回転率について、X1のなしたワラント取引の売買回転率は、3.4倍と高率である、とするものであるが、その計算根拠は正確なものではなく、直ちにその数値を認めることはできない。

しかし、原告のワラント取引は、平成5年7月19日から平成7年4月11日の期間に12銘柄のワラントを34回行っており、多額かつ頻繁な取引であったことが認められる(原告準備書面(1)添付の原告ワラント取引一覧表)。

(2)  高リスクワラントの購入、価値のないワラント(屑ワラント)の多量購入

X1の34回のワラント取引のうち、過半数の18回の取引が、流通性の極めて低い10ポイント以下の低ワラントを購入させており、低価格ワラントの場合には、プレミアム部分が大きいので株価と連動せず、流通性の極めて低いワラントであり、被告は、X1に対して、価値の低いナンピンワラントを大量に購入させて、頻繁に取引を繰り返して損害を与えた、と原告は主張する。

D作成の意見書(甲8、以下、「D意見書」という。)によれば、ワラント投資は、①ワラントの価格が不明瞭である、②ワラント価格の変動が個人投資家には分かりにくい、③ワラント価格によっては投資家に不適切な銘柄がある、④行使期間までの残存期間によっては売却に不適切な銘柄がある、との点で投資に難しいものである。

そして本件ワラント取引の問題点として、以下の点が認められる。

本件ワラント取引は、①10ポイント以下の低価格ワラントが多量に購入されており、34回のワラント取引のうち18銘柄は10ポイント以下の低価格ワラントである。低価格ワラントは、株価に対する反応が鈍いため流通性は低く、そのことが更に流通性を低めることになり、行使期限まで持てば紙屑化する(ヤオハン株)。②残存行使期間が2年以内のワラントが多い。2年以内のワラントは、流通性が低く、このようなワラントを購入する投資家はほとんどいない。③権利行使直前のワラント買取りが多い。権利行使直前でまで全く安価で買い取られており(甲8、13頁表5)、担当者の説明及び助言がなされていないことが明らかである、④頻繁な売買取引を繰り返しており、同一銘柄のナンピン買いを繰り返したり、一度売却した銘柄を短期間のうちに再び購入しており(住友セメント第4回)、極めて不可解な、戦略性のない取引を重ねている。

そして、本件ワラント取引については、以上の点の指摘から、被告の説明義務、助言義務の不履行と被告が原告名義の口座を支配していた可能性が極めて高い、と結論付けている。

これに対する被告の反論は次のとおりである。

10ポイント以下のワラントが取引比率が低いとは一概に言い得ないものである。また、本件での10ポイント以下のワラント取引は、川崎重工、住友セメント、帝人精機、ヤオハン、千代田化工建設、東洋建設、国土開発であるが、これらのワラント取引は、いずれも当初の買付け後その価格が下落したので、買付け価格を平均化するために買い増ししたワラントである。

価格が下落していた場合の投資判断は、その後も引き続きその価格の下落が予想されるとして、損失を出しても売却するか、そのまま様子をみるか、その後に反騰すると判断して買い増しするかは投資家の判断となるのであるから、価格下落の際にナンピン買いをするのも投資判断としては理由がある。

その場合には、価格は下落しているのであるから、買付け金額は少なくてすみ、相対的に価格下落によるリスクは少なく、その反面価格が上昇すれば利益率は大きくなる。原告の本件ワラント取引の損失のうち、ナンピン取引によるものは、ヤオハン及び千代田化工建設のみであり、損失の合計額は、147万1582円にすぎない。

ところで、本件ワラント取引の経過からすれば、D意見書が指摘するように高リスクのナンピンワラントの多量購入が認められる。

(3)  コントロール性については、本件ワラント取引についての判断については、取引開始以来、ほとんどはBから提案して決めており、X1が独自に提案することもなかった。

そして、Bの誤った景気判断で、非常に投機性の高い取引を勧め、前記多数回のナンピン取引を繰り返しており(B78ないし82)、このことは、Bが取引をコントロールしていたとも言いうる。

(4)  悪意性については、ワラント取引を頻繁に繰り返すことによる手数料収入があることから、X1の収益よりもBの業績をあげるためになされたものと認められる部分もある。

5  本件ワラント取引と説明義務、適合性について

ところで、ワラント取引については、前記D意見書によっても、或いは他の裁判事例からしても、その取引の仕組みは複雑であり、リスクの高い商品であり、その判断をなすについては、高度の知識と経験が必要であり、顧客にワラント取引を勧める場合には、ワラント取引の特徴をよく説明する必要がある。

また、その説明は、ワラント取引開始の際の一般的な説明にとどまらず、取引相手方の知識、経験に応じて、取引の経過の中においても、顧客が重要な判断をなす場合には、その旨の説明がワラント取引を勧める会社及び担当者において必要である。

上記説明義務は、取引相手方の適合性判断とも関連するが、前記3でX1について適合性を肯定しているが、それは、取引の過程の全ての場合について肯定されるのではなく、取引の内容において、顧客の当初予想できないような危険性のある取引を勧める場合には、新たに適合性判断が必要である。

本件で見られる様な価格が下落しているワラントの多量購入を勧める場合には、価格が上昇しない限り利益はなく、そのまま行使期限を過ぎれば、全く価値がなくなることを説明して、取引相手方の判断を求めなければならない、との説明義務が証券会社側に生じ、また、このような取引を勧める時点で、顧客がそのような取引について適合性を有するか否かを判断しなければならない。

適合性の判断としては、Bは、X1の性格について、ナンピン取引のようなリスクの高い取引を好む性格であると供述するが、X1の経歴、X2の供述や本件取引の経過からして、そのような投機性の高い取引を好む性格とは直ちに認められなく、投機性の高い取引についての適合性が認められるものでもないない。

本件取引のうち、6で述べる取引については、過当売買であり、かつ特に前記説明義務や適合性違反が認められる取引である。

6  ヤオハン、千代田化工建設、東洋建設のワラント購入について

平成6年3月以降、X1は、住友セメント、ヤオハン、帝人精機、千代田化工建設、東洋建設、国土開発の各ワラントを頻繁に購入することになる。

ところが平成6年3月以降に購入したワラントで利益が出たのは、同年3月9日、6月16日の住友セメント、同年7月19日、同年8月3日の帝人精機、平成7年1月30日の東洋建設のワラントのみであり、他は全て損失が出ているか或いは権利行使期間を過ぎたものである。

ヤオハンについては、買約定日平成6年3月9日、同年8月10日の分がいずれも売却価格が0.75ポイントと極めて大きく下がり、価値がなくなったことからすれば、平成7年3月13日及び3月22日の買付けは、当時のヤオハンの経営状態からして理解し難く、X1がこのような取引を承諾していたものとは思われなく、現にこのワラントは行使期限を過ぎて紙屑化している。

また、千代田化工建設ワラントは、買約定日平成7年3月8日は1.75ポイント、同年3月13日は1.25ポイント程度であり、いずれも極めて低ポイント購入であり、また売りも価値なしに近い価格(0.2ポイント)である。

そうすると、前記日時買約定日の千代田化工建設ワラントの購入もヤオハンと同様に理解し難く、低価格ワラントの値上りが期待できる銘柄でもない。

東洋建設については、同年3月15日及び同年4月6日にいずれも低価格ワラントで購入し、同様に0.01ポイントで売却している。

以上によれば、ヤオハンの平成7年3月13日及び3月22日の買付け、千代田化工建設の同年3月8日及び同3月13日の買付け、東洋建設の同年3月15日及び同年4月6日の買付けはいずれも5ポイント前後の低価格ワラントであり、残存行使期間も1年強のナンピンの購入であり、いずれも、投資の感覚からは理解し難い取引であることから、Bから同取引の内容をX1に説明し、X1の了解のもとに取引があったものとは認められない。

Bは、X1にこのような屑ワラントを勧めるに当たり、ワラント取引頭書の一般的な説明ではなく、具体的に屑ワラントを購入することのリスクについてX1に説明して確認を求める義務があるにもかかわらず、その義務を尽くした形跡がない。そうすると、前記取引については、Bにおいて、取引内容についての説明義務に違反した取引であり、不法行為が成立する。

Bは被告の従業員であるところ、前記取引についてはBの不法行為が認められるので、被告は損害賠償義務があり、X1の受けた損害の合計は、原告ワラント取引一覧表によれば、368万3989円である。

被告は、原告に対して同金額である368万3989円の支払義務があるものと認められる。

7  X1は、平成11年4月に死亡しており、相続人である原告らは各自法定相続分に従って相続したものと認められるので、被告は、同相続分に相当する金員である原告X2に対して184万1995円及び同金員に対する平成10年6月20日から支払済みに至るまで年5分の割合による金員を、原告X3、同X4、同X5に対し各61万3998円及び同金員に対する平成10年6月20日からから支払済みに至るまで年5分の割合による金員の支払義務がある。

8  結論

よって、主文のとおり判決する。

(裁判官 島川勝)

<以下省略>

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