大阪地方裁判所堺支部 平成12年(ワ)408号 判決 2001年6月12日
主文
1 被告は,原告Aに対し金169万0081円,同B及び同Cに対し各金84万5040円,及びこれらに対する平成8年11月14日から各支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
2 原告らのその余の請求を棄却する。
3 訴訟費用はこれを5分し,うち2を原告らの,その余を被告の各負担とする。
4 この判決は,第1項に限り,仮に執行することができる。
事実及び理由
第1請求
被告は,原告Aに対し287万8545円,原告B及び同Cに対し各143万9272円,及び右各金員に対する平成8年11月14日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
第2事案の概要
本件は,被告運転の普通乗用自動車(以下「被告車」という。)とD(以下「D」という。)運転の自動二輪車(以下「D車」という。)が衝突し,Dがこの交通事故による傷害による入院中,同傷害とは別個の病気により死亡したところ,Dの相続人らが被告に対し,自賠法三条に基づき,同交通事故によるDの傷害につき損害賠償を請求した事案である。
一 争いのない事実等
1 平成8年11月14日午後零時15分ころ,大阪府泉南市a丁目A番先路上で,被告車とD車が衝突した(以下「本件交通事故」という。)。
2 Dは,本件交通事故により,右肩腱板断裂等の傷害を負い(甲5の3),野上病院に入院していたが,右傷害のため右肩の挙上が30度程度であったため(甲3),同月19日に腱板修復の手術を受け,ギプス固定していた(甲5の3,乙1の4)が,同月21日に脳卒中により死亡した(甲5の1,乙1の5)。
3 Dの相続人は,妻である原告A,子である同B及び同Cである(甲2)。
4 被告は,原告らに対し,2の治療費のうち92万2934円を支払った。
二 争点
1 過失相殺の有無とその割合
(被告の主張)
被告車は,東側路外の駐車場から北へ右折進行しようと道路へ出る際,右(北)方の見通しが悪いので,少し頭出しをして一旦停止し,通過車両を3,4台やり過ごしたところ,北から南へ道路上を進行してくるD車を認めたため,クラクションを鳴らして注意を促したが,D車が被告車の右前部に衝突したものであり,Dにも前方を注視し,路外からの車両の有無及び安全を確認する注意義務を怠った過失がある。
(原告の主張)
被告は,路上へ出る際に,右前方のカーブミラーが左方の安全確認のために設置されたものであるのに,右方の安全確認のためのものと勘違いし,何も写っていなかったことから,右(北)方からの通行車両はないものと誤信して,漫然と道路に出たため,D車の進路をふさぐこととなり,Dがとっさにブレーキをかけ,左へハンドルを切って避けようとしたが間にあわなかったのであり,Dには過失はない。
2 損害(主に,後遺症慰謝料及び逸失利益)
(原告の主張)
原告らはDの死亡による損害を請求しているものではなく,Dの右肩腱板断裂が大きなものであり,修復手術をしても,62歳という高齢であったことから,Dが死亡しなかったとすれば,右肩関節部に障害を残し,又は右肩部分に頑固な神経症状を残した蓋然性は高く,いずれにしろ自賠法施行令第2条の別表(後遺障害別等級表)12級6号又は12号に該当したであろうことから,その損害の賠償を求めているのである。
(被告の主張)
交通事故からDの死亡までは8日しか経過しておらず,Dの手術後の経過は良好であって,後遺症についても元どおりに機能が回復する可能性も十分あったものである。Dの死亡時において,後遺症が残存するかについては判明せず,これを前提とした原告の主張は失当である。
第3争点に対する判断
一 過失相殺について
1 本件交通事故の状況
証拠(甲9の1ないし13,乙1の6,8,12)によれば,次のとおり認められる。
本件事故現場は,最高速度時速30キロメートルの速度制限のある片側1車線の直線道路であり,東側路外の駐車場から右折進行しようと出てきた被告車の右側には小屋があって,右(北)方の見通しは不良であり,北から南進してきたD車の見通しも前方は良好であったが,左(東)方の見通しは不良であった。被告車は,前方の左方の安全確認用カーブミラー上に車両が見えなかったことから,右方から進行してくる車両はないものと考えて,道路を半分近く横断する位置まで路上へ出て停止したところ,折から右(北)方から時速約40キロメートルで進行してきたD車の進路をふさぐ形となり,Dはとっさにブレーキをかけ,左へハンドルを切ろうとしたが,間に合わず,被告車の右側方前部にD車の前部が衝突して,Dは路上に転倒した。
2 被告車は,路外から道路へ進入するに際し,右方の安全確認ができなかったのであるから,自車前部を出して停止することを繰り返し,右方の安全を確認したうえで進入するべきだったのであり,一気に進入してから停止したやり方には安全確認の方法として過失があることは明らかである。しかし,D車も,左(東)方の見通しがきかず路外へ出てくる車のあることも予想された(現場は職場と自宅の間にあり,道路状況はよく知っていたものと推測できる。)にもかかわらず,漫然と時速約40キロメートルで進行していたため,被告車を発見後停止することができなかったものであるから,この点において,Dにも過失があり,その割合は被告85対D15とするのが相当である。
二 損害について
1 Dが本件交通事故による傷害に要した治療費は,乙3の1,2から,E病院における93万0614円と認められる。
Dの入院期間は事故日である平成8年11月14日から死亡日である同月21日までの8日間であり,入院雑費としては1日当たり1300円が相当であるから,計1万0400円となる。
2 Dは,前記第2一2のとおり平成8年11月21日に死亡したが,その死因は脳卒中であって,本件交通事故との因果関係は認められない(乙1の11)。また、本件交通事故の時点で,脳卒中の原因となる身体的状況の存在や近い将来におけるDの死亡が予測されていたことを認めるに足りる証拠はない。そうすると,Dの死亡は,本件交通事故の損害を算定するに当たってはこれを考慮すべきではない。
甲8の1,2によれば,DはF店でアルバイトとして稼働しており,平成8年10月には9万6001円の報酬を受けていたものと,乙1の4及び調査嘱託の結果によれば,Dの傷害は本件事故当初の診断で,加療約7週間(入院4週間及び通院3週間)を要すると診断されていたところ,最低限必要な入院期間は,手術(同月19日)後4週間であったと認められるから,Dの本件交通事故による休業損害は,17万0324円であると認められる。
(9万6001円÷31日×(6日+49日)=17万0324円)
3 入通院慰謝料
2で認定のとおり,Dは本件事故により,入院約1か月及び通院3週間が最低限必要な傷害を負ったのであるから,その入通院慰謝料は,50万円が相当である。
4 後遺症による損害
甲2及び調査嘱託の結果によれば,Dは本件交通事故当時62歳であり,右肩腱板断裂の程度は大きく,修復手術後の経過は良好であったものの,主治医は,通常加療7週で挙上可能になるが,全方向へのスムースな運動のためにはリハビリに3か月程度が必要であり,患側が健側と同じ可動域にまで改善する可能性はあるものの,年齢とともに治療成績は低下する傾向にあるとしており,手術前Dの家族に手術をしても右腕は肩から上へは挙がらない可能性もあると話し,可動域の回復は個人差が大きく,通常は日常生活に大きな支障がない程度にまでは回復できるであろうが,後遺症が残るとすれば筋力の低下や関節可動域の低下で,前記後遺障害別等級表8級以下であろうと推察している。
以上によれば,Dに,右肩の可動域低下という器質的な障害の後遺症が残った可能性は否定できないものの,その程度は前記後遺障害別等級表8級6号(1上肢の3大関節中の1関節の用を廃したもの)から10級10号(1上肢の3大関節中の1関節の機能に著しい障害を残すもの),12級6号(1上肢の3大関節中の1関節に障害を残すもの)までの差があり,このうちのいずれかに該当する高度の蓋然性があるとまでいうことはできない。しかし,Dの年齢からして,神経症状として,右肩関節の可動域にある程度の症状が残ることは,かなりの蓋然性をもって予想できたといえる。その症状は,日常生活に大きな支障がない程度にまでは回復できるであろうとの上記主治医の推察からして,前記後遺障害別等級表9級10号(神経系統の機能に障害を残し,服することができる労務が相当な程度に制限されるもの)に該当するとはいえないが,12級12号(局部に頑固な神経症状を残すもの)には該当するものといえる。そうすると,その後遺症慰謝料としては240万円,これによる逸失利益は,労働能力喪失期間が5年程度と考えられることから69万8188円となる。
(9万6001円×12×0.14×4.329=69万8188円)
5 1ないし4の合計額470万9526円に,前記一の過失相殺を考慮すると,被告が賠償すべきDの損害は448万5241円となる。
(470万9526円×(1-0.15)=400万3097円)
このうち,被告は既に92万2934円を支払っているから,残りは308万0163円となる。本件事案の内容,請求認容額等を考慮すると,被告に負担させるべき弁護士費用としては30万円が相当である。
三 結論
Dの被告に対する損害賠償請求権は,二のとおり338万0163円の限度で生ずるから,前記第2一3のとおりDの相続人である原告Aは169万0081円,同B及び同Cは各84万5040円を相続したことになる。
よって,原告らの請求は上記の額とこれに対する本件交通事故の日である平成8年11月14日から支払済みまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があるけれども,その余は理由がないから,これを棄却することとして,主文のとおり判決する。
<編注:原文に裁判官名の記載なし。>