大阪地方裁判所堺支部 平成15年(ワ)460号 判決 2004年8月30日
原告
A野太郎
法定代理人成年後見人
A野花子
訴訟代理人弁護士
川西渥子
被告
東京海上火災保険株式会社
代表者代表取締役
石原邦夫
訴訟代理人弁護士
楠眞佐雄
同
本郷誠
同
田中正和
同
小西輝明
主文
一 被告は、原告に対し、一八七万八五九六円及び一二八万九六二三円に対する平成一五年四月一七日から、五八万八九四六円に対する平成一六年二月二〇日から各支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
二 原告のその余の請求を棄却する。
三 訴訟費用は被告の負担とする。
四 この判決は、第一項につき、仮に執行することができる。
事実及び理由
第一請求
被告は、原告に対し一八七万八五六九円及びこれに対する平成一五年四月一七日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
第二事案の概要
一 本件は、自分を被保険者として介護費用保険契約を締結し、脳内出血により要介護状態となった原告が、保険者である被告に対し、保険金及び遅延損害金の支払を請求した事案である。
被告は、原告の要介護状態の原因は高血圧性脳出血であり、これは保険期間開始前に発症していたから、免責事由である「保険期間開始前に、傷害、疾病その他の要介護状態の原因となった事由が生じた場合」に該当すると主張している。
二 前提となる事実(争いがない事実、争うことを明らかにしないため自白したものと見なすものも含む。及び、証拠によって容易に認定できる事実)
(1) 被告は、損害保険を業とする株式会社であり、原告は、昭和四年一二月一一日生まれの男性である。
(2) 原告は、平成八年一一月一五日(保険期間開始日)、被告との間で、原告を被保険者、被告を保険者とする「SSタイプ」の介護費用保険契約(以下「本件契約」という。)を締結した。
本件契約では、被保険者が要介護状態となり、その要介護状態が支払対象期間の開始日からその日を含めて一八〇日を超えて継続した場合には、保険者から下記保険金が支払われる。
記
ア 医療費用、介護費用保険金
病院、診療所に支払った費用または介護施設の利用に要した費用で月額五万円の限度額
イ 介護諸費用保険金
支払対象期間の各月について、介護諸費用限度額月額(五万円)に次の被保険者の状態に応じ次の割合を乗じた金額
a 在宅介護を受けている状態、有料老人ホームで介護を受けている状態などb及びc以外の状態……一〇〇パーセント
b 病院、診療所に入院して介護を受けている状態……五〇パーセント
c 介護施設に入所して介護を受けている状態……一五パーセント
ウ 臨時費用保険金
介護機具の購入費用、在宅の改造費用。ただし、保険期間を通じて五〇万円の程度
(3) 原告は、平成一三年一〇月二〇日(当時七一歳)、愛知県内の単身赴任先のマンション内で、意識不明の状態で倒れているのを妻A野花子(以下「花子」という。)により発見された。原告は、直ちに愛知県厚生農業協同組合連合会加茂病院に運ばれたが、同病院で右視床出血(以下、この原告の脳内出血を「平成一三年出血」ということがある。)による左上下肢完全麻痺、右上下肢不全麻痺で寝たきりの要介護状態であることが判明した。
(4) 原告の要介護状態については、同日から平成一五年一二月三一日まで別紙介護状態一覧表のとおりであり、同期間内について(2)により算定した保険金は、別紙保険金請求金額一覧表(その明細は、後続の表のとおり)である。(この項につき、被告は争うことを明らかにしないため、自白したものと見なす。)
(5) 原告は、保険期間開始日(平成八年一一月一五日)に先立つ平成二年七月一二日(当時六〇歳)、左被殼出血(以下、この原告の脳内出血を「平成二年出血」ということがある。)を発症して入院し、同年八月一八日退院し、同年九月ころから社会復帰していた。
(6) 本件契約には「保険期間開始前に、傷害、疾病その他の要介護状態の原因となった事由が生じた場合」には保険者は保険金の支払を免れる旨の定めがある(介護費用保険普通保険約款第三条③(1))。
(7) 原告は、被告に対し、本件訴訟提起前、所定の手続により本件契約に基づく保険金の支払を請求し、被告は支払を拒んだ。原告は、本件訴訟の訴状において、平成一三年一〇月二〇日から平成一五年三月三一日までの事由に係る保険金一二八万九六二三円を請求し、同訴状は平成一五年四月一六日送達された。原告は、被告に対し、平成一六年二月一九日に送達された請求の趣旨拡張申立書により、平成一五年四月一日から同年一二月末日までの事由に係る保険金五八万八九四六円を請求した。
三 争点
原告について、平成二年出血は「傷害、疾病その他の要介護状態の原因となった事由」に該当するか。
四 争点についての当事者の主張の要旨
(被告)
(1) 本件では、「要介護状態の原因となった事由」である高血圧性脳出血は、平成二年七月に発症していたから、「保険期間開始前に……要介護状態の原因となった事由が生じた場合」に当たる。
(2) 高血圧性脳出血の発症の機序は次のとおりである。すなわち、長期間にわたる高血圧症により脳循環の自動調整能が破綻すれば、脳動脈中膜筋細胞(動脈を形成する三層の中央に位置する平滑筋層)の壊死が進行し、その結果として小動脈瘤が形成される。そして、何らかの理由により血圧が急激に上昇すれば、この小動脈瘤に破綻を来たし、脳出血がもたらされる。治療を要するほどの高血圧症患者にあっては、生理的な範囲を超えた著明な血圧の上昇を来たし、これが出血の引き金になる。
原告は、高血圧に起因する脳血管の病的変化(脳動脈の中膜筋細胞の壊死)を共通の基盤として、左被殼出血(平成二年出血)と、右視床出血(平成一三年出血)を発症したのであり、これらは医学的に同一疾患とみるべきものである。
(3) 脳動脈中膜筋細胞数は加齢によっても減少するが、加齢に比して高血圧による中膜細胞の変化は著明であるから、高血圧症患者について加齢を重視することは当を得ていない。
また、脳血管の病的変化は不可逆的であり、たとえ先行する脳出血に伴う神経学的脱落症状が改善し、降圧剤治療により高血圧がコントロールされていたとしても、脳血管の病的変化そのものは何ら改善されない。したがって、再発事例において、初回出血から再出血までの期間を問題とすることは当を得ていない。
(4) 高血圧性脳出血における脳動脈中膜筋細胞壊死は、大脳全体の穿通枝系及び皮質系すべての血管系に発症するものである。すなわち、脳動脈は同じ管径を有する他の動脈に比して壁が薄く(中膜筋細胞が少ない。)、外弾性板がなく、外膜結合組織が乏しく、中膜筋細胞の再生増殖能が低いといった特徴を有しており、高血圧が持続すれば大脳全体で脳動脈中膜筋細胞壊死が進行する。しかも脳動脈中膜筋細胞壊死は、穿通枝系動脈に顕著に発生し、「被殼」や「視床」はこれに当たり、高血圧性脳出血の七ないし八割は「被殼」及び「視床」に集中している。
脳出血の再発率は高く、年間再発率は年間発症率の二〇倍であり、脳出血症例七四例を、わずか平均二・八年のみ経過観察しただけでも、実に八例に再出血が発症している。
原告が平成二年出血において「被殼」に、平成一三年出血において「視床」に脳出血を発症したことは、高血圧性脳出血の最も典型的な部位に繰り返して発症したものにほかならず、平成一三年出血が、脳動脈中膜筋細胞壊死に基づく同一の病態であることの証左であり、平成二年出血の「再発」ととらえるべきことを示している。原告にあったのは、単なる脳血管の脆弱性ではなく、右視床出血という高血圧性脳出血であって、発症していない脳血管の脆弱性とは同列に論じることはできない。
(5) 再発予防に特に重要なことは、血圧の管理であるところ、原告は、平成一三年出血に先立つ二五八日間において、一七〇日から一九八日分の投薬処方しか受けず、直近通院予定日(平成一三年一〇月一二日)には通院せずに投薬処方を受けていなかった。血圧が管理されていなかったことが、高血圧性脳出血の再発の契機となったものとみられる。
(原告)
(1) 原告の要介護状態の原因となった事由たる疾病は、平成一三年出血であり、平成二年出血ではないから、本件は「保険期間開始前に……要介護状態の原因となった事由が生じた場合」には当たらない。
(2) 平成二年出血の経過は良好で、原告は平成二年八月に退院し、九月には講演に行き、平成七年四月からはB山大学教授に就任しており、その後も大学教授としての業務や多数の講演を精力的にこなしており、主治医も平成二年出血について治癒したと判定している。保険事故となった平成一三年出血は、脳出血としては二度目の発症であり、脳出血として平成二年出血の「再発」ととらえることは当然であるが、疾病としては、まったく時点の異なる疾病ととらえるべきである。
(3) 平成二年出血により、全脳に均一に血管の病的変化があったとはいえないし、平成一三年出血の右脳血管に病的変化があったともいえない、もし、右脳血管に病的変化があったとすれば、もっと早い時期に今回のような脳出血があったはずである。平成二年出血が良好な経過をたどっていることや、左脳に再出血がないことからも、左脳血管にも広範な病的変化があったとはいえない。
(4) 仮に、脳血管の病的変化、脆弱性があったとしても、このような病的変化は疾病の発症とは厳格に区別されなくてはならない。脳血管は加齢のみによっても脆弱となり、血圧上昇や、中年になり肥満体となると血管年齢も上がる(病的変化が強くなり、動脈硬化の度合いが強まる。)。
被告の主張によれば、高血圧だけでも脳出血の基盤となる血管の病的変化を来しているとして、発病と同視すべきこととなるが、保険約款にいう「疾病」とは単なる病的変化としかいえない脳血管の状態をさすとはいえない。
被告は、平成二年出血と平成一三年出血の病態が異なることを前提として、高血圧に起因する脳血管の病的変化という疾患の基盤に共通性があると主張しているが、疾患の「基盤」を「疾病」とするには飛躍がある。
何らかの病的変化が生じていても、その状態に止まっていれば要介護状態となるわけではない。
(5) 一度脳出血を起こしたからといって、再度脳出血を起こすことは少なく、血圧のコントロールにより再発しないことも多い。脳出血の発症率、死亡率は、時代とともに減少したが、これは高血圧治療の普及にあるとされる。また、軽症化も指摘されるが、これは初期治療の重要性が認識され、早期治療により要介護状態とならなくなったからである。
(6) 再度脳出血を起こしても、早期の治療により、要介護状態となることはまれである。本件の場合は単身赴任先のマンションで発症したため発見が遅れ、要介護状態となったものである。
第三当裁判所の判断
一 前記第二の二の争いがない事実及び《証拠省略》によれば、以下の各事実が認められる。
(1) 平成二年出血から平成一三年出血までの経過
原告は、平成二年当時、教育問題等の評論家として活動していた。平成二年七月一二日、原告は、講演終業後、ろれつがまわりにくくなり、右上肢の麻痺を感じたため、富田林病院を受診したところ、左被殼出血(三センチメートル×四センチメートル)を発症していることが判明し、即日入院した。来院時の血圧は一八〇/一〇〇(単位はmmHg。以下省略。)であった。原告は、医師に対し、「以前高血圧を指摘されたが、治療は受けていなかった。」旨申告した。入院中、血圧管理による保存的治療及びリハビリテーションが行われた。同年八月一六日、出血は吸収されていることがCT検査で確認され、同月一八日、退院した。
その後から平成一三年出血まで、原告は、富田林病院に通院し、高血圧降下剤等を処方されていた。平成七年四月以降は通院頻度は一か月に一回程度となり、同月から平成八年一二月まで血圧は、一四〇/八〇、受診が遅れると一八〇/九〇になることがあった。平成八年一二月から平成一三年出血までは、血圧は一三〇/七〇から一六〇/八〇までであり、直近の血圧は一五〇/八〇で著変はなかった。
退院後、原告は、平成二年九月には福井県で講演を行う等して評論家としての活動を行い、平成七年四月からはB山大学の教員に就任し、平成一三年出血まで、講義、執筆等の業務を行っていた。
(2) 平成一三年出血
原告は、平成一三年一〇月二〇日(当時七一歳)、単身赴任先の愛知県のマンション自室内で倒れているのを妻花子に発見され、直ちに救急車で愛知県厚生農業協同組合連合会加茂病院に搬送された。原告は、病院搬送時、意識障害、左半身麻痺の状態であった。原告は、同病院で「右視床出血、脳室内穿破」と診断され、左上下肢完全麻痺、右上下肢不全麻痺により、日常生活動作のすべてに介護を要する状態(全介助)であることが判明した。同病院では、脳出血の拡大はないため血圧調整による保存的治療を行っていた。現在まで、原告の日常生活動作の状態にほとんど変化はなく、改善の見通しはたっていない。
原告は、平成一三年一〇月一九日に肩書住所地所在の自宅に帰る予定であったため、同日倒れたものと考えられる。
(3) 高血圧性脳内出血の発生機序、特徴
脳出血には種々の原因があり、出血機序も異なるが、このうち高血圧性脳出血は、次のような機序により発症すると考えられている。すなわち、脳動脈の中膜筋細胞(動脈を形成する三層の中央に位置する平滑筋層)の壊死が進行し、その結果として小動脈瘤が形成され、何らかの理由で血圧が急激に上昇した際、小動脈瘤が破綻を来たし、脳出血がもたらされる。
そして、中膜筋細胞の壊死については、高血圧は、加齢、飲酒と並ぶかまたはそれ以上の危険因子であり、高血圧により脳血管の内圧の負荷が上昇することで、中膜筋細胞が傷害され壊死が起きるといわれている。ヒトの脳動脈は、壁が薄く(すなわち中膜筋細胞が少なく)、外弾性板がなく、外膜結合組織にも乏しいという特徴を有するが、このことにより高血圧による内圧の負荷が、常に中膜筋細胞を傷害する方向で働く、と指摘されている。
脳実質内動脈のうち、特に穿通枝系動脈は、大脳皮質系動脈より動脈の直径に比して壁が薄く(中膜筋細胞が少なく)、脳底部主幹動脈からの距離が解剖学的に短く、高い圧力がかかりやすいことから、高血圧による中膜筋細胞の傷害(そして壊死)は顕著に発生する。そして、「被殼」や「視床」は穿通枝系動脈により支配されており、高血圧性脳出血の七ないし八割は「被殼」及び「視床」に集中している。
脳動脈中膜筋細胞数は加齢によっても減少するが、高血圧の若年者の症例が加齢によるものより顕著であることからして、加齢に比して高血圧による中膜筋細胞の減少は顕著であるとされている。
また、脳血管の中膜筋細胞の壊死は不可逆的であり、たとえ先行する脳出血に伴う神経学的脱落症状が改善し、降圧剤治療により高血圧がコントロールされていたとしても、いったん起こった脳血管の病的変化そのものは何ら改善されない。
(4) 高血圧性脳出血の再出血の頻度
脳出血の再発はまれでなく、一〇パーセント程度再発するといわれている。
また、海外の研究では、外来観察中の拡張期血圧九一以上の症例には再出血が多いと報告されている。同研究では、七四例のうち八例が再出血し、再出血部は初回とは異なる部位に多く、年二パーセントの割合で発症したとされている。
二 以上を前提に判断する。
(1) 原告に発症した平成二年出血及び平成一三年出血は、原告が、平成二年出血前に高血圧を指摘されていたこと、平成二年出血から平成一三年出血までの一一年間も高血圧を指摘されていたこと(一(1))、高血圧による脳出血の原因である中膜筋細胞の傷害が顕著に発生するとされる部位で、高血圧性脳出血の七、八割を占めるとする被殼(平成二年出血)ないし視床(平成一三年出血)における出血であることから(一(1)ないし(3))、高血圧を原因とする高血圧性脳出血であったことが認められる。
そして、高血圧性脳出血の基礎病変と指摘される脳血管の中膜筋細胞の壊死は不可逆的であり、たとえ先行する脳出血に伴う神経学的脱落症状が改善し、降圧剤治療により高血圧がコントロールされていたとしても、いったん起こった脳血管の病的変化は改善されないことからすれば(一(3))、初回の平成二年出血から、保険事故となった平成一三年出血までの間に一一年もの期間が経過していること、その間原告が高血圧について治療を受けつつ社会復帰を遂げていることをもってしても(一(1))、平成二年出血と平成一三年出血が、脳血管の中膜筋細胞の壊死という病変を共通の基礎とすることは否定されないというべきである。
したがって、平成一三年出血は、高血圧性脳出血すなわち高血圧を原因とする脳出血という意味において、平成二年出血の再発であると評価できる。なお、平成二年出血は左脳に、平成一三年出血は右脳に発症したものであるが、再出血の部位は初回と異なる部位に多く発症し、被殼と視床とのいずれもが高血圧性脳出血が顕著に発生する部位とされていることから、発症部位が異なることで、上記評価は妨げられない。
(2) ところで、本件契約において、「保険期間開始前に、傷害、疾病その他の要介護状態の原因となった事由が生じた場合」に保険者を免責するとされているのは、傷害、疾病その他の要介護状態の原因となった事由が、保険期間開始前に生じている場合には、保険期間中に保険事故すなわち要介護状態が生じる蓋然性が高いため、このような場合にも保険金の支払を受けられるとすれば、保険制度の趣旨、すなわち、不確実な危険にさらされた者が、危険率に相応した出捐をすることにより形成された備蓄から、保険事故が発生した場合に支払を受けるという趣旨に反するからである。そうすると、要介護状態の発生を保険事故とする本件契約において、「傷害、疾病その他の要介護状態の原因となった事由」とは、傷害、疾病その他これらに準じる事由であって、かつ、要介護状態を生じる蓋然性が高い事由をいうと解するのが相当である。
本件では、平成二年出血の約一か月後には、CT検査で出血の吸収が確認され、右視床部を含めて、脳血管について特に病変は指摘されていなかったこと(一(1))、血圧管理のため高血圧症の治療を継続する必要があったものの、ろれつや上肢のしびれは回復し、評論家ないし大学教員として活動するなど社会復帰をとげていたこと(一(1))、保険期間開始までに「左被殼出血としては治療した。」と主治医から診断されていること、高血圧性脳出血において再出血はまれではないが、それでも一〇パーセント程度、年二パーセントにとどまっていること(一(4))が認められる。そうすると、平成二年出血は「疾病」ではあるものの、要介護状態を生じる蓋然性が高い疾病であるとまではいえないから、「傷害、疾病その他の要介護状態の原因となった事由」ということはできないというべきである。
被告は、保険事故の原因となった平成一三年出血が、高血圧性脳出血としては平成二年出血の再発であることを理由として、平成二年出血が「傷害、疾病その他の要介護状態の原因となった事由」であるとする。たしかに、平成一三年出血が高血圧性脳出血としては平成二年出血の再発として評価すべきことは、前記(1)のとおりである。
しかし、疾病には、慢性疾患なども含め様々な病態があり、一口に疾病に罹患しているといっても、疾病の内容によって保険事故たる要介護状態を発生する危険率について様々な段階があり得る。そして、保険事故を発生する蓋然性が高いといえない疾病まで、当該疾病の再発と評価できることをもって、当初の発症の段階で保険事故の原因疾病が生じているとすることは、前記保険制度の趣旨に反するものである。原告の平成一三年出血は、高血圧性脳出血という疾病としては再発と評価できるが、高血圧性脳出血の再出血は、一〇パーセント程度、年二パーセントにとどまり、将来要介護状態となる蓋然性が高い疾病とまでいえないことからすれば、平成二年出血が「要介護状態の原因となった事由」に当たるということはできない。
三 以上の次第で、原告の請求は、保険金一八七万八五九六円及び一二八万九六二三円に対する請求日の翌日である平成一五年四月一七日から、五八万八九四六円に対する請求日の翌日である平成一六年二月二〇日から各支払済みまで年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があるので、主文のとおり判決する。
(裁判官 伊藤由紀子)
<以下省略>