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大阪地方裁判所堺支部 平成18年(ヲ)79号 決定 2006年3月31日

異議申立人

エム・ユー・フロンティア債権回収株式会社

代表者代表取締役

上記代理人弁護士

高橋悦夫

西島佳男

目方研次

駒井慶太

妻鹿直人

坂根智和

主文

本件執行異義の申立てを却下する。

異議申立費用は異議申立人の負担とする。

理由

1  本件執行異議の申立ての趣旨及び理由は、別紙「執行異義申立書」≪省略≫記載のとおりであり、異議申立人は、①民法389条1項による一括競売における建物に関する賃借権は、一律に売却によって消滅し、買受人の負担すべき権利とはならないと解すべきであり、②また、仮に一般的に①のように解することはできなくとも、本件においては、建物賃借人B(以下「賃借人B」という。)は執行妨害目的で賃借権を主張している者であり、このような非正常な賃借権は買受人の負担すべき権利とはならないと解すべきであるところ、当裁判所書記官が作成した平成18年2月1日付け物件明細書(以下「本件物件明細書」という。)では、賃借人Bの賃借権につき、買受人の負担することとなる他人の権利として記載されているので、誤りがあるとして、本件物件明細書の作成に対して異議を申し立てているものと解される。

2  そこで、まず、異議申立人の主張の第1点について検討する。

民法389条が土地の抵当権者にその土地上にある建物の競売まで認めたのは、抵当権の実行の対象を建物にまで拡大したものであって、同条による一括競売の法的性質は、債権の満足を目的とし、土地と建物とを一体として売却する競売、すなわち担保権の実行としての競売であると解するのが相当である。もっとも、このように建物の競売の基礎が土地の抵当権にあるとはいっても、土地と建物を別個の不動産とする我が国の法体系及び民事執行法59条の文理からすれば、建物に関する権利の取扱いは、同条に従い、建物に設定された抵当権の有無等に応じ、これを基準として決すべきものと解するのが相当である。

そして、一件記録によれば、本件において一括売却の対象となる別紙「執行異議申立書」添附の物件目録≪省略≫記載3の建物(以下「本件建物」という。)には、同条1項の規定によって消滅する抵当権等は存在せず、また、申立債権者である異議申立人のほかには差押債権者又は仮差押債権者はないこと、及び、申立債権者の申立てによる本件建物についての差押登記は平成17年12月14日付けでなされているのに対し、賃借人Bはこれに先立つ同年10月1日から本件建物を賃借権に基づいて占有していることが認められるところ、これらの事実によれば、同条2項の反対解釈により、賃借人Bの賃借権は、売却によりその効力を失わず、買受人の負担すべき権利となるものというべきである。

この点に関する異議申立人の主張は採用できない。

3  次に、異議申立人の主張の第2点について検討する。

ところで、一件記録によれば、賃借人Bは、別紙「執行異議申立書」添附の物件目録記載1・2の土地建物につき本件担保不動産競売事件が開始されていることを知りながら、その後に本件建物について賃貸借契約を締結し、その占有を始めたことが認められるところ、本件執行異議の申立後に当裁判所が行った審尋の結果等を考慮しても、賃借人Bがそのような時期にあえて本件建物について賃貸借契約を締結する合理的な理由は見当たらず、賃借人Bが執行妨害目的で本件建物を占有している疑いがあることは否定できない。しかしながら、一件記録からうかがわれる賃借人Bの本件建物の使用状況、賃貸借契約の内容、賃料の支払状況等からすると、賃借人Bが執行妨害目的で本件建物を占有しているとまでは断定することはできず、ほかにこれを認めるに足りる資料もない。

そうすると、仮に、異議申立人の主張するように、執行妨害目的で建物を占有する者の賃借権は土地の抵当権者である差押債権者(及び買受人)に対抗できないということができたとしても、本件においては、賃借人Bが執行妨害目的で本件建物を占有していると認めることはできないのであるから、この点に関する異議申立人の主張はその前提を欠き、これを採用することはできないといわざるを得ない。

4  なお、異議申立人の所論にかんがみ、若干付言する。

異議申立人の主張するように、前記2に述べたような解釈をした場合には、結果的に執行妨害を助長する事態が生じる可能性があることは否定できず、この点を考慮して、異議申立人の主張に沿う学説も有力に主張されているところである。また、本件において、賃借人Bが執行妨害目的で本件建物を占有している疑いがあることは先に述べたとおりである。

しかしながら、前者の点については、従前の競売実務において当裁判所の見解に沿った運用がなされてきたことは当裁判所にとって顕著な事実であり、公刊物の中にも異議申立人の主張に沿う判断がなされた判例や裁判例も見当たらない状況である。また、後者の点については、買受人において賃借人Bに本件建物の明渡しを求めることができるか否かは、信義則に照らして、賃借人Bが賃借権を主張することが許されないということを基礎付ける事実を買受人において立証できるか否かにかかってくるところ、一件記録上、賃借人Bが執行妨害目的で本件建物を占有していると断定することができないことは先に述べたとおりである。

以上に述べたような事情にかんがみると、債権者の正当な権利の実現という面だけではなく、買受人保護の要請も考慮せざるを得ない執行裁判所としては、本件における賃借人Bの賃借権が売却によって消滅するものと取り扱うことは困難であるといわざるを得ない。

5  以上によれば、賃借人Bの賃借権が買受人の負担すべき権利となることを前提として作成された本件物件明細書は正当であって、異議申立人の主張には理由がないので、本件執行異議の申立てを却下することとし、異議申立費用の負担につき、民事執行法20条、民事訴訟法61条を適用して、主文のとおり決定する。

(裁判官 宮尾徹)

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