大阪地方裁判所堺支部 平成20年(ワ)1246号 判決 2009年12月18日
原告
X1
原告
X2
原告
X3
原告
X4
原告
X5
上記5名訴訟代理人弁護士
戸谷茂樹
同
山﨑国満
同
岸本由起子
同
十川由紀子
同
下迫田浩司
被告
学校法人Y学園
同代表者理事長
F
同訴訟代理人弁護士
勝井良光
同
田中崇公
同
中井崇
主文
1 原告X5が、被告に対し、雇用契約上の権利を有する地位にあることを確認する。
2 被告は、原告X5に対し、平成20年5月から本判決確定の日まで、毎月20日限り月額47万9214円の割合による金員及びこれらに対する各支払期日の翌日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
3 原告X1、同X2、同X3及び同X4の請求をいずれも棄却する。
4 訴訟費用は、被告に生じた費用の5分の1と原告X5に生じた費用を被告の負担とし、その余を原告X1、同X2、同X3及び同X4の負担とする。
5 この判決は、第2項に限り、仮に執行することができる。
事実及び理由
第1請求
1 原告らが、被告に対し、それぞれ、雇用契約上の権利を有する地位にあることを確認する。
2 被告は、原告X1(以下「原告X1」という)に対し、平成20年5月から本判決確定の日まで、毎月20日限り月額50万2051円の割合による金員及びこれらに対する各支払期日の翌日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
3 被告は、原告X2(以下「原告X2」という)に対し、平成20年5月から本判決確定の日まで、毎月20日限り月額52万4940円の割合による金員及びこれらに対する各支払期日の翌日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
4 被告は、原告X3(以下「原告X3」という)に対し、平成20年5月から本判決確定の日まで、毎月20日限り月額49万0989円の割合による金員及びこれらに対する各支払期日の翌日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
5 被告は、原告X4(以下「原告X4」という)に対し、平成20年5月から本判決確定の日まで、毎月20日限り月額45万8700円の割合による金員及びこれらに対する各支払期日の翌日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
6 被告は、原告X4に対し、14万5048円及びこれに対する平成20年2月21日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
7 被告は、原告X5(以下「原告X5」という)に対し、平成20年5月から本判決確定の日まで、毎月20日限り月額47万9214円の割合による金員及びこれらに対する各支払期日の翌日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
第2事案の概要
1 事案の要旨
本件は、被告が設置する高等学校の教員であった原告らが、被告が平成20年3月29日付けで原告らに対して行った整理解雇が無効であると主張して、被告に対し、原告らが雇用契約上の権利を有する地位にあることの確認並びに賃金及びこれに対する遅延損害金の支払を請求するとともに、原告X4が、被告が平成20年1月24日付けで原告X4に対して行った10日間の出勤停止の懲戒が無効であると主張して、被告に対し、同懲戒に伴う未払賃金及びこれに対する遅延損害金の支払を請求した事案である。
2 当事者間に争いがない事実等(当事者間に争いがないか、後掲証拠及び弁論の全趣旨によって認められる)
(1) 被告等
ア 被告は、昭和48年4月、Y高等学校を設置し、これを管理しており、平成11年に、Y高等学校の校名をa高等学校に変更した(以下、a高等学校を「本件高校」という)。
イ 被告の代表者である理事長は、平成11年4月から、Fである(以下、同人を「被告代表者」という)。
ウ 平成19年度及び平成20年度の本件高校の募集人員は、合計240名(男女共学)であり、そのうち、それぞれ、40名が特進コース、120名が進学コース、40名が体育コース、40名が美容コースの募集であった。
平成19年度の当初ころの本件高校の専任教諭は30名(休職者1名を含む)であり、非常勤講師は11名であり、嘱託教員が6名であったところ、平成20年度の当初ころの専任教諭は17名(休職者1名を含む)であり、非常勤講師は22名であり、嘱託教員は5名であった。
(2) 原告ら等
ア 原告らは、平成18年度ないし平成19年度、いずれも、本件高校の専任教諭であった。
また、原告X1、原告X2及び原告X3の生年月日は、それぞれ、昭和○年○月○日生まれ、昭和○年○月○日生まれ及び昭和○年○月○日生まれであった(弁論の全趣旨)。
イ 原告X4を除く原告らは、いずれも、大阪私学教職員組合a高校分会(以下「本件組合」という)の組合員である。
ウ 原告らの賃金は、毎月末日締めの翌月20日支払であった。
そして、原告X1の平成19年1月から同年12月までの平均月額賃金は50万2051円であり、原告X2のそれは52万4940円であり、原告X3のそれは49万0989円であり、原告X4のそれは45万8700円であり、原告X5のそれは47万9214円であった。
(3) 平成20年2月26日の早期退職希望者募集等
被告は、平成20年2月26日、同月28日までを募集期間とする希望退職者募集要綱を掲示板に掲示したが、同要綱には、「希望退職者募集について相当数の希望退職者が出ない場合には、法人として断腸の思いではありますが、相当数の教員につき近々整理解雇を行わざるを得ないこととなります。」旨記載されていた(書証省略)。
このため、教職員は、平成20年2月27日、授業を実施せず、教頭は、同日午前12時ころ、生徒を下校させて、臨時休校とした。そして、教職員は、同日、生徒に対し、職員一同の名義で、「保護者の皆様へ・生徒の皆様へ」と題する文書を配布した。
(4) 整理解雇等
ア 被告は、原告らに対し、平成20年3月29日付けで、就業規則36条に基づいて、同月31日をもって、原告らを解雇する旨の意思表示をした(以下、同解雇を「本件整理解雇」という。書証(省略))。
イ 被告は、平成20年4月18日付けで、解雇予告手当として、原告X1に対し46万2790円、原告X2に対し48万2663円、原告X3に対し45万4721円、G(以下「G」という)に対し43万9217円、原告X4に対し44万2303円、原告X5に対し45万9025円をそれぞれ支払った。
(5) 原告X4及び原告X5に対する懲戒等
ア 原告X4は、平成19年12月17日、被告に対し、始末書を提出した。
イ 被告は、平成19年12月21日付けで、原告X5に対し、譴責の懲戒とした。
ウ そして、被告は、平成20年1月24日付けで、原告X4に対し、10日間の出勤停止の懲戒とした(以下、同懲戒を「本件出勤停止」という)。
同懲戒の理由は、平成19年9月中旬の2回の業務命令違反、同年11月25日から同年12月11日までの業務命令違反、及び同月22日の業務怠慢である。
エ そして、被告は、平成20年2月20日、原告X4に対し、前記ウの懲戒を理由として、14万5048円を控除して賃金を支払った。
(6) 平成19年度の被告の就業規則
平成19年度の被告の就業規則には、以下のとおり、規定があった。
ア 職員は、この規則が定めるところに従って、その職責を遂行し、被告の教育事業の発展に努力しなければならない(3条)。
イ 職員は、その職務を遂行するに当たって、法令、諸規則並びに、学校長、事務局長(事務長)及びそれに準ずる者の指示命令に従わなければならない(4条1項)。
職員は、この規則を知らないことを理由として、違反の責めを免れることはできない(4条2項)。
ウ 職員は、次の各号の一に該当する場合は、30日前に予告するか、または、1か月分の賃金を支給して、解雇する(36条)。
学校経営上、過員が生じたとき、その他経営上やむを得ない理由が生じたとき(5号)
エ 職員は、服務に当たって、次の事項を遵守しなければならない(39条)。
上長の指示に従うとともに、規律を重んじて秩序を保つこと(3号)
オ 懲戒は、譴責、減給、出勤停止、降職降格、諭旨解雇及び懲戒解雇の6種類とし、始末書をとることがある(56条)。
(ア) 譴責 将来を戒める(1号)。
(イ) 減給 1日の平均賃金の半額以内の金額を減給する(2号)。
(ウ) 出勤停止 14日以内の期間の出勤を停止し、その間の賃金を支払わない(3号)。
カ 職員が次の各号の一に該当する場合は、出勤停止又は減給に処する(57条)。
(ア) 39条に定める服務規律に違反したとき(1号)
(イ) 業務命令に違反したとき(5号)
(ウ) その他前各号に準ずる行為があったとき(9号)
3 争点
(1) 就業規則36条5号に該当する事実はあるか。
(2) 本件整理解雇は、不当労働行為に当たるか。
(3) 本件出勤停止の効力
4 争点に対する当事者の主張
(1) 争点(1)(就業規則36条5号に該当する事実はあるか)
(被告の主張)
ア 整理解雇
被告は、就業規則36条5号に基づいて、「学校経営上、過員を生じたとき、その他経営上やむを得ない理由が生じたとき」に該当することを理由として、本件整理解雇をした。
そして、就業規則36条5号に該当する事実はあるかどうかは、①人員削減の必要性、②解雇回避努力、③人選の合理性、④手続の相当性を総合的に考慮して判断するべきである。
私立学校が経営破綻すると、生徒に甚大な影響が発生するため、営利企業と比較して、私立学校の存続性は強く要請されるというべきである。学校法人会計基準において、一般の会計基準よりも内部留保金の確保が厳しく要求されているのも、このためである。
したがって、私立学校における整理解雇は、一般企業の場合と同等か、むしろ緩やかな基準によって認められるべきであって、前記①ないし④を4要件とみるべきではなく、整理解雇の有効性を判断するための4要素とみるべきである。
イ 人員整理の必要性
(ア) 生徒数及び収入の減少
a 本件高校の生徒数は、少子化のために減少し、平成元年度に1843名と最大となったが、その後は平成11年度863名、平成12年度861名、平成13年度843名、平成14年度741名と減少し、平成17年度506名、平成18年度476名、平成19年度412名とさらに減少した。
b 本件高校の主要な収入である学生生徒等納付金(授業料及び入学金等の生徒の保護者から得られる収入)も減少し、平成8年度には4億6578万8120円であったが、平成19年度には2億0890万0000円となり、半額以下の金額となった。
(イ) 14年度連続の消費収支差額マイナス
本件高校に関する消費収支差額(消費収入から消費支出を控除した残額)は、平成6年度から平成19年度まで、14年度連続でマイナスとなり、平成19年度の累積赤字(翌年度繰越消費収支差額)は、12億6513万8718円に達した。
なお、消費収入とは、帰属収入から、基本金組入額を控除した金額のことであり、また、基本金とは、学校法人会計基準によって、学校法人の維持存続に必要不可欠な資産を構成するために確保されるものであって、固定資産の再生資金となる固定資産減価償却引当特定預金相当額等の財源となる。
そして、本件高校に関する消費収支差額が14年度連続でマイナスとなった結果、基本金を維持できない状態にあり、例えば、固定資産減価償却引当特定預金相当額も0円となった。したがって、校舎及び体育館等の固定資産が耐用年数を過ぎたり、地震及び風雪害によって損壊したとしても、固定資産を再生する資金がない。
(ウ) 資金繰りの悪化
a 平成19年度末時点において、退職給与引当特定預金が1200万円しかなく、また、平成19年度末時点において、日々の支払い資金である現金預金も1389万8536円しかなかった。
他方、被告があらかじめ生徒から徴収していた修学旅行代金及び教材費等の前受金の金額は、3645万円であり、被告は、業者等に対しこれを支払わなければならなかったが、上記現金預金の額を超えていた。
b 平成16年度から平成19年度まで、本業にかかるキャッシュフローが4期連続マイナスとなった。
また、教育研究活動のキャッシュフローも、全国の私立学校の中の最低ランクB4である。
c また、被告の流動比率は、平成18年度及び平成19年度の2期連続において、100パーセントを下回り、短期的な支払能力が低下していた。
なお、流動比率とは、流動負債に対する流動資産の割合であり、短期的な支払能力を判断する重要な指標である。
d 被告の運用化資産外部負債比率は、平成17年度以降減少し、平成19年度には100パーセントを下回り、外部負債の返済能力が不十分な状態にあった。
なお、運用化資産外部負債比率とは、外部負債(総負債から退職給与引当金及び前受金を控除した、外部への返済が必要な負債の合計)の返済原資となる資産の保有状態を表す指標である。
e 以上からすると、資金切れの現実的危険があった。
(エ) 教員数の過剰
a 教職員数
本件高校における教職員数は、平成11年度67名、平成12年度64名、平成13年度61名、平成14年度64名とほぼ横ばいであり、平成17年度48名、平成18年度52名、平成19年度45名と減少しているものの、大幅な生徒数の減少と比較すれば、減少の幅は小さい。
そして、本件高校の平成19年度における専任教員数は38名であり、専任教員一人当たりの生徒数は10.8人である。これは、大阪府の私立高等学校における教員一人当たりの生徒数が平均16.8人であることと比べると、6.0人も少ないのであり、専任教員数が著しく過剰であった。
b 人件費比率及び人件費依存率
平成18年度の帰属収入に占める人件費の割合を示す人件費比率は79.1パーセントであった。しかし、平成18年度の大阪府の私立学校におけるそれは平均77.8パーセントであり、全国私立学校におけるそれは平均68.6パーセントであって、これらよりも高かった。
また、人件費依存率とは、人件費から退職給与引当繰入額及び退職金を除いた残額を、学生生徒等納付金で除した比率であるが、本件高校における人件費依存率は、平成18年度144.7パーセント、平成19年度143.5パーセントである。他方、全国の私立高等学校におけるそれは、平成18年度平均122.3パーセント、平成19年度平均122.5パーセントであり、また、大阪府の私立高等学校におけるそれは、平成18年度平均135.4パーセント、平成19年度平均134.5パーセントであり、本件高校における人件費依存率は、非常に高い。
c 収入補正人件費比率等
本件高校においては、帰属収入の70パーセントが、退職金以外の経常的な人件費の支出にあてられ、また、教員人件費がそのほとんどを占めており、教員にかかる人件費が過大であった。
d 教員一人当たりの人件費
教員一人当たりの人件費は、大阪府の平均水準と比較して、低かったので、被告は、人件費の削減ではなく、教員数の減少により教員過剰を解消せざるを得なかった。
e したがって、平成19年度末の本件高校において、生徒数に比して教職員数が過剰であり、人件費が過剰であった。
(オ) 整理解雇の対象者の人数の決定
平成18年度末に作成された平成19年度当初予算において、消費支出超過額(消費収入から消費支出を控除した金額)が1億0184万0311円であったところ、この消費支出超過額を常勤教職員一人当たりの人件費(給与及び福利厚生費)の平均である590万3697円で除すると、17.25となることから、被告は、平成19年3月23日の理事会において、平成19年度中に最低でも18名の教員を削減することを目安とすることを決定した。
そして、嘱託教員1名が平成20年3月末日をもって自主退職することとなり、また、被告は、平成20年2月25日付で、嘱託教員4名に対し、雇止めを通知した。さらに、平成19年度の早期退職希望者募集に応じて、6名が平成20年3月末日をもって退職することとなったが、目安の18名には7名足りなかった。
そこで、被告は、7名を整理解雇することとした。
(カ) 原告らの主張について
a 原告らは、第3号基本金引当特定資産9605万9257円の運転資金としての利用を主張するが、同特定資産は、篤志家からY学園奨学基金として寄付を受けた基金であり、奨学金以外の目的で使用することはできない。そして、本件高校においては、奨学金を受給している相当数の学生がいるから、奨学金を廃止することはできず、上記特定資産を運転資金として利用することはできない。
b また、原告らは、平成19年3月期の短期借入金1億450万8000円が、平成20年3月期には139万2000円に減少しており、被告は1億311万6000円の短期借入金を借り換えすることなく返済する能力を有していると主張するが、以下のとおり理由がない。
すなわち、本件高校においては、平成19年3月末退職者に対する退職金支払日は同年4月末日であったが、大阪府私学退職財団からの法人積立退職金相当額の交付日は同年5月末日とされていた。
そこで、被告は、銀行から短期借入を受け、平成19年4月末に退職金を支払った上で、同年5月末に上記退職財団から交付された法人積立退職金相当額で、銀行に対し前記借入金を全額返済したのである。
c さらに、原告らは、被告は運転資金を借り入れることが可能であったと主張するが、被告において、平成6年度から14年度まで連続して消費収支がマイナスになったのであるから、被告が金融機関から借入を行うことは事実上不可能であり、実際にも、被告が銀行に対して融資を依頼したことがあったが、断られた。
d 原告らは、消費収支超過額により解雇対象者の人数を決定することには合理性がないと主張する。しかし、被告の消費収支差額が平成6年度から平成19年度まで14年度連続でマイナスとなった結果、本来確保しておかなければならない基本金を維持できず、現金預金も1389万8536円のみとなった状況において、これ以上消費収支差額がマイナスとなると、被告の存続が不可能となるのであるから、原告らの主張には理由がない。
また、平成19年度当初予算における消費支出超過額と決算におけるそれとの間に差が発生することは予想されたが、本件整理解雇時点において決算が明らかになっていなかったのであるから、平成19年度当初予算における消費支出超過額を基準として削減人員数を決定したことにも合理性があるというべきである。
(キ) 結論
以上のとおり、平成19年度末時点において、被告は極めて切迫した財務状況にあり、人員を削減して消費支出を削減しなければ、被告の存続が不可能であったから、人員削減の必要性があった。
ウ 解雇回避努力
(ア) 生徒数確保の努力
本件高校において、財務状況が逼迫した一番の原因は、生徒数が減少したことにより、収入の大部分を占める学生生徒納付金が減少したことであった。
そこで、被告は、平成11年度から、コース編成の改編、校名及び制服の変更を行った(第一次教育改革)。しかし、平成11年度の入学者数が378名であったのに対し、平成12年度の入学者数は287名であった。
また、被告は、コンサルタント会社の協力を得て、本件高校の教育の問題点及び改革について分析及び研究を行った結果、本件高校の入学志望者の学力水準が非常に低いこと、本件高校の併願率が高く、本件高校が併願校として扱われていることが分かり、平成14年度から、コース編成の大幅な改変など、より抜本的な施策を実施した(第二次教育改革)。しかし、平成13年度の入学者数は297名であったのに対し、平成14年度のそれは257名、平成15年度のそれは191名であった。
被告は、その後も、コースの改編を実施したが、生徒数は減少し、入学者数の増加には結びついていない。
(イ) 諸経費の削減
被告は、水道の水量を調節する装置を取り付けて、水道料の節減を図ったり、管理者が校内の巡回を行って電気料金の節約を図ったりするなど、人件費以外の諸費用の削減についても努力した。
(ウ) 人件費の削減
a 平成15年度
被告は、平成15年度に、希望退職者を3回募集したところ、11人が、これに応じて、平成16年3月末日をもって退職した。
また、期末手当(賞与)についても、前年度は5.1か月分の賃金に7万円を加えた金額が支払われていたが、平成15年度は大幅に削減して2か月分の賃金が支払われた。
そして、被告は、平成16年度から、理事の報酬を大幅に削減し(理事長30パーセント削減、顧問20パーセント削減、事務長20パーセント削減)、賞与も支払わないこととした。その後も、平成20年度まで、毎年、理事の報酬を削減した。
b 平成16年度
被告は、平成16年度、希望退職者を3回募集したが、一人の希望者もいなかった。
また、被告は、平成17年度の理事の報酬を、平成16年度のそれと比較して、30パーセント削減することとした。
c 平成17年度
被告は、平成17年12月から、賃金を10パーセント削減し、また、期末手当を支払わなかった。
また、被告は、希望退職者を2回募集したが、希望者は1人であり、目標人数の10人に及ばなかった。
d 平成18年度
被告は、平成18年度に、退職後も継続して雇用を希望し、かつ、一定の要件を満たした者を、嘱託教員又は非常勤教員として新たに雇用することを条件として、希望退職者を募集したところ、希望者は7人であったが、目標人数の10人に及ばなかった。
そして、7人の希望者は、平成19年3月末日付けで退職することとなった。
e 平成19年度
(a) 第一回希望退職者募集及び個別の退職勧奨
被告は、平成19年12月19日、同月20日から平成20年1月10日までを募集期間と定めて、希望退職者を募集した。
また、被告は、平成19年12月21日から同月25日にかけて、満51歳以上の教職員10名に対し、個別に退職勧奨を行った。
しかし、上記希望退職者の募集及び個別の退職勧奨に応じた教職員はいなかった。
(b) 第二回希望退職者募集
被告は、平成20年2月26日、同月28日までを募集期間とする希望退職者募集要綱を掲示板に掲示して、希望退職者を募集したところ、6名が、退職を希望し、同年3月末日をもって退職することとなった。
(c) 嘱託教員の雇止め
被告は、平成20年2月、嘱託教員4名を雇止めにすることとし、また、別の嘱託教員1名が自ら退職を希望した。
(d) 以上のとおり、平成19年度に、希望退職者6名、雇止めの嘱託教員4名、自主退職の嘱託教員1名の合計11名が退職することになった。
しかし、人員削減の目標の18名に7名足りず、被告は、7名の整理解雇を行うこととした。
(エ) 原告らの主張について
原告らは、報酬委託手数料、スクールバス費及び諸会議費等の経費を節約するべきであると主張するが、具体的な節約方法が明らかではないし、また、平成19年度の役員報酬は、年間総額わずか約718万円であり、これをさらに削減しても、その効果はそれほど大きくないから、原告らの主張には理由がない。
そして、寄付金についても、寄付金の具体的な申し出がなかったのであるから、原告らの主張には理由がない。
さらに、本件整理解雇時において、c大学との提携について何ら見通しが立っていなかったのであるから、c大学との提携の効果が発生する前に本件解雇を実施したとする原告らの主張には、理由がない。
(オ) 結論
以上のとおり、被告は、最後の手段として本件整理解雇を実施したのであって、解雇を回避するための努力を尽くした。
エ 人選の合理性
(ア) 本件整理解雇の人選基準
a 被告は、本件整理解雇の対象者である7名の教員について、①直近の2年度である平成18年度、平成19年度の懲戒歴から、勤務態度及び能力に問題がある者3名を対象とし、②平成20年3月31日現在満52歳以上の者4名を対象とした。
b ①の基準については、直近2年度に懲戒を受けた者は、平成18年度2名、平成19年度9名の合計11名であった。
しかし、平成18年度に懲戒を受けた2名及び平成19年度に懲戒を受けた1名は、すでに退職し、または、平成19年3月末に退職することとなっていた。
そして、残りの8名のうちの5名については、懲戒処分の対象行為が、平成20年2月27日の授業ボイコット及び生徒に対するビラ配りの扇動に関するものであり、被告と本件組合との対立が先鋭化する中で発生したことであったので、勤務態度及び能力を評価する上であまり参考にならなかったので、被告は上記5名を整理解雇の対象者としなかった。
そして、原告X4、原告X5、Gの3名が、直近2年度に2回懲戒を受け、その他の事情を考慮しても、勤務態度及び能力に問題があったため、被告は同人ら3名を本件整理解雇の対象者とした。
c ②の基準については、被告が年功序列型賃金を採用し、年齢が高い教員ほど賃金も高かったこと等から、被告は、年齢を人選基準として採用した。
そして、平成20年3月31日現在満52歳以上の者は、原告X1(56歳)、H(昭和○年生まれの53歳)、原告X2(53歳)及び原告X3(52歳)であり、被告は同人らを本件整理解雇の対象者とした。
d 原告らは、年齢を人選基準としても、経費削減効果があまりないと主張するが、福利厚生費も含めた一人当たりの人件費を比較すると、教員の中で最も若い者と最も年齢が高い原告X2との間には、年間で200万円以上の金額の差があるから、原告らの主張には理由がない。
また、原告らは、被告が本件整理解雇後に数名の生徒及び保護者等から、原告ら解雇対象者の授業内容及び指導等について事情聴取したと主張するが、そのような事実はない。
(イ) 勤務態度や能力に問題があるとされた3名の選定理由
a 原告X4
原告X4は、硬式野球部の監督であったが、被告の指示に従わず問題を起こすことが多かった。
(a) 高野連への報告懈怠
① 平成19年9月中旬ごろ、野球部において部員同士のトラブルが発生したところ、被告代表者は、平成19年10月4日、上記事件を認識した。
そして、校長は、同月15日、原告X4に対し、高野連に至急電話をするよう指示したにもかかわらず、原告X4はこれを怠った。
そして、同年10月下旬に、再び野球部において同種のトラブルが発生し、教頭自身がすぐに高野連に届け出たが、平成20年1月7日付けで、大阪府高等学校野球連盟から、本件高校に対し日本学生野球協会から警告を受けたと通知を受け、新聞にも報道され、対外試合を自粛させられる等の重い措置を受けた。これは、本件のような怪我人等が発生していない人間関係上のトラブルでここまで重い措置が下るということは通常考えられず、これは1回目のトラブルの際に高野連への報告がなかったことを重く見ての措置である。
以上のことから、原告X4が1回目のトラブルの際に、高野連に報告するよう指示を受けていたにも関わらず、これを怠ったために、本件高校は警告を受けたのであり、原告X4の任務懈怠の結果は重大である。
② 原告X4は、高野連に対し、1回目のトラブルについて報告したところ、理事から「そちらで処理できるのであればそちらで処理して下さい」と言われたと主張する。
しかし、高野連は、些細な事件であっても、報告を要求しており、理事が「そちらで処理して下さい」と言うとは考えがたいこと、原告X4が記載した始末書の内容と齟齬することからすると、同主張には理由がない。
(b) b中学校訪問の件
① b中学校の生徒2名が、平成19年11月25日、本件高校の入試説明会に出席したところ、被告代表者は、同日、渉外担当者でもある原告X4に対し、早急にb中学校を訪問して本件高校への入学を勧めるよう指示した。
しかし、原告X4は、一向にb中学校を訪問しなかったため、被告代表者が、平成19年12月5日、原告X4に対し、進行状況を尋ねたところ、原告X4は、同月11日、被告代表者に対し、b中学校を訪問したところ、校長及び担任の教員から、当該生徒2名は他の私立学校への入学を決めたと言われた旨報告した。
原告X4が理事長から指示を受けたのは、保護者対象入試説明会当日の11月25日であり、原告X4がb中学校を訪問したのはそれから16日が経過した12月11日なのである。このように、原告X4は、被告代表者の業務に違反した。
② 原告らは、原告X4が被告代表者の指示を受けた日から約1週間後にb中学校に行ったと主張するが、原告X4の始末書の内容と齟齬するから、原告らの上記主張には理由がない。
(c) クラブだよりの執筆懈怠
原告X4は、職員朝礼において、平成19年12月22日発行のクラブだよりへの寄稿を依頼されたにもかかわらず、クラブだよりを執筆しなかった。
仮に原告X4が職員朝礼を欠席したとしても、職員朝礼に欠席した教員は、学校日誌を閲覧して捺印するよう指導を受けていたにもかかわらず、原告X4が平成19年10月18日の学校日誌の閲覧を怠ったため、寄稿依頼を認識せずに、クラブだよりを執筆しなかった。原告X4もその旨の始末書を作成した。
(d) 出勤停止処分
原告X4は、上記(a)ないし(c)のような度重なる業務指示違反により、平成20年1月24日付けで出勤停止10日間の懲戒処分を受けた。
(e) 喫煙について
さらに、原告X4は、喫煙指定場所ではない体育教官室で喫煙していたことにより、平成20年2月8日付けで譴責処分を受けた。
なお、原告X4は、主尋問においては、分煙が実施されてから喫煙指定場所以外の場所において喫煙していないと供述したが、原告X4の始末書の内容と矛盾するし、また、原告X4は、反対尋問において、分煙実施後も喫煙指定場所以外の場所において喫煙していたことを認めている。
b 原告X5
(a) 英語の知識及び指導力の欠如
原告X5は英語担当教員であったが、英語の知識及び指導力について、生徒から、「質問をすると、『こんなものも分からないのか』と怒られ、質問したことに答えてくれない」、「(原告X5が)知らない単語及び熟語が多々ある」という苦情があり、また、原告X5は、平成15年度末、当時のI校長から特進コースの授業を担当するよう命令されたところ、「教える自信がありません」と言って、これを断った。
さらに、原告X5は特別講義及び補習等の担当を避けており、英語科教員からも、原告X5が補習等に積極的でないとの声が出ていた。
このように、原告X5の英語の知識及び指導力は非常に低かった。
(b) 粗暴な言動
原告X5は、平成14年度の職員朝礼において、当時のJ校長に対し、「辞めろ。帰れ」と言って罵倒し、また、平成15年6月11日午前8時30分の職員朝礼時において、第二次教育改革推進委員会のK委員長に対し、「辞めてしまわんか。まだいるのか。早く辞めてしまえ」との暴言を吐いて、厳重注意を受けた。
その他にも、原告X5は、美容コースのスクーリングの引率の問題について、L教頭に対し激しく詰め寄ったり、同僚と大声で張り合いながら言い争ったりするなど、粗暴な言動を繰り返していた。
(c) 説明会での虚偽発言
① 原告X5は、過去に、第二次教育改革に関する説明会において、「関関同立のノウハウがある」と述べたところ、被告代表者は、同ノウハウを英語科の教育に役立てるため、平成19年11月9日、原告X5に対し、関関同立のノウハウを書面に記載するよう指示した。
しかし、原告X5が同書面を作成しなかったので、M事務長が、同月22日、原告X5に対し、関関同立のノウハウについて問い合わせたところ、原告X5は、「実はありません」と回答した。
② 原告X5は、教育改革に関する説明会という公の場において、「関関同立のノウハウがある」と虚偽の発言をしたのであって、上記虚偽発言により、原告X5は平成19年12月21日付けで譴責となった。
(d) 授業における誹謗・中傷発言
① 原告X5が、英語の授業中に、生徒に対し、平成20年2月27日に発生した授業ボイコット等について、「昨日のストは法人が悪いので仕方がないこと」と発言するなど組合の正当性を主張し、さらに、被告代表者及び校長を誹謗中傷したため、平成20年2月29日、生徒の保護者から、子供が非常に動揺して困っていると苦情があった。
② 原告X5が、生徒に対し、被告代表者及び校長を誹謗中傷し、教員と被告との間の問題に生徒を巻き込むことは、教員として著しく不適切な行動であり、これにより、原告X5は譴責となった。
(e) まとめ
以上のとおり、原告X5は、英語の知識及び指導力が不足し、また、暴言を吐いたり、公の場において虚偽発言をしたり、被告と教員との間の問題に生徒を巻き込んだりしており、原告X5は不適切な人材であると判断し、整理解雇の対象とした。
オ 手続の相当性
(ア) 被告は、本件整理解雇以前に、合計11回(平成15年度3回、同16年度3回、同17年度2回、同18年度1回、同19年度2回)の希望退職者の募集を実施し、また、説明会等において、教職員に対し、賃金の減額、定年年齢の引下げ及び退職金の減額等の人件費削減並びに希望退職者募集による人員削減の必要性を説明した。
また、整理解雇の時期、規模及び方法については、被告は、平成20年2月26日、希望退職者募集要綱を掲示板に掲示し、その中において、希望退職者募集について相当数の希望退職者がない場合には、被告は相当数の教員について近々整理解雇を実施する旨明記し、その後、説明会及び団体交渉において、教職員及び組合員に対し、整理解雇の方針について説明した。
(イ) 本件組合の分会長であった原告X1は、平成20年1月29日の団体交渉において、整理解雇があり得ることを認識し、解雇対象者は、退職勧奨を受けた年齢が高い者から10名程度であると予測しており、本件組合も整理解雇の基準及び規模について予測していた。
他方、本件組合は、平成20年1月29日の団体交渉において、さらなる人件費削減について協議に応じる態度を示したとしながら、具体的な削減方法については何も検討しておらず、また、整理解雇の人選基準について、具体的な意見を有していなかった。
このような状況において、被告が、本件組合に対し、本件整理解雇の時期、規模及び人選基準等を説明しても、何ら協議が進展しないばかりか、学校運営に混乱を来したというべきである。
したがって、被告が、本件整理解雇について、前記(ア)記載の程度の説明をしたことについて、合理的な理由があるというべきである。
(ウ) これに対し、原告らは、整理解雇の必要性並びに時期、規模及び方法等について、説明するべきであると主張する。
しかし、仮に本件整理解雇以前に解雇対象者が特定された場合、当該解雇対象者のモラル低下を含め、年度末まで教育指導に多大な支障を来すのであって、現に、労働組合は、被告が希望退職者募集要綱を掲示した平成20年2月26日の翌日である同月27日に、授業をボイコットしたり、帰宅する生徒に対し、職員一同名義の文書を配布したりするなど、生徒及び保護者を巻き込んだ運動を展開した。
被告は、子女を預かるものとして職責を全うし、このような事態を避けるために、人選基準を明示せず、整理解雇の規模については、前記希望退職者募集要綱記載の限度で説明することにとどめたのであって、原告らの主張には理由がない。
(エ) 以上のとおり、本件整理解雇の手続は相当である。
(原告らの主張)
ア 整理解雇
(ア) 整理解雇は、使用者が、事業の不振等の経営上の理由をもって、特に帰責事由がない労働者を解雇するものであること、労働者及びその家族に大きな影響を与えるものであることのほか、労働契約法16条の趣旨から、整理解雇は慎重であるべきである。
したがって、整理解雇の4要件はすべて充足されなければならず、一つの要件が欠けても、整理解雇は無効であるというべきである。
(イ) そして、生徒の教育を受ける権利を保障するため、教員には教育権が保障されているところ、教員の教育権の保障のためには、教員の身分保障が不可欠であり、それは教育の本質及び教育基本法16条1項、9条2項の要請である。
したがって、教員の整理解雇の場合は、一般的な私企業における整理解雇の場合よりも、整理解雇の4要件の具備が厳しく要求されるべきである。
(ウ) さらに、解雇対象者である従業員の納得の重要性からすると、手続の相当性が重視されるべきであり、労働組合及び当事者との間で、整理解雇について具体的な協議がない場合は、それだけで整理解雇は無効となるというべきである。
イ 人員整理の必要性
(ア) 消費収支差額
被告は、平成19年度の累積赤字(翌年度繰越消費収支差額)は12億6513万8718円であると主張する。
しかし、帰属収入から基本金を控除して消費収入を算出し、消費収入から消費支出を控除して消費収支差額を算出するのであるから、被告に実際に12億円の債務超過があるというわけではない。また、消費収入の金額が基本金の金額の多寡により左右されるため、健全な財務状態であっても、消費収支差額がマイナスになることがある。したがって、被告の主張には理由がない。
(イ) 資金繰り
a 被告の貸借対照表によると、平成19年度末(平成20年3月31日現在)の総資産(資産の部合計)は19億4478万0478円であり、総資産から総負債(負債の部合計)3億1799万6912円を控除した純資産は、16億2678万3566円であるから、被告の自己資金比率(総資産に占める純資産の割合)は83.6パーセントである。
これは、平成18年度の大阪府の高等学校の自己資金比率平均80.5パーセントより高く、また、資本金10億円以上の大企業の自己資本比率が39.3パーセントであることと比較しても、被告の財務安定性は高い。
したがって、被告の主張には理由がない。
b 平成19年度末(平成20年3月31日現在)の被告の有利子負債は、長期借入金1410万円及び短期借入金139万2000円の合計1549万2000円である。
これに対し、被告は、現金預金、有価証券及び特定資産等として、金融資産1億2205万7793円を有しており、これに短期債権額1億9881万0446円を合わせると、3億2086万8239円の資産を有している。
また、金融資産のうちの第3号基本金引当特定資産9605万9257円はY学園奨学基金であるところ、その運用利回りは年間約38万円であるから、同特定資産は、実質的には奨学基金として機能しない資産である。そして、同特定資産の取崩しは法的に禁止されていないから、被告は同特定資産を運転資金として利用することができる。
c 被告において、平成19年3月期の短期借入金1億0450万8000円が、平成20年3月期には139万2000円に減少しているから、被告は、借換えせずに、1億0311万6000円の短期借入金を返済する能力を有していた。
また、被告において、平成19年度末、ほとんど借入金はなく、被告は運転資金を借り入れることが可能であった。
(ウ) 教員の人件費
被告において大幅な人件費の削減が実施されたので、以下のとおり、教員一人当たりの人件費は、他校におけるそれと比較して、相当低くなっている。
a 平成15年度の教員の人件費が合計4億6554万9723円(帰属収入の52.5パーセント)であるのに対し、平成19年度のそれは合計2億6115万9635円(帰属収入の44.9パーセント)であるから、教員の人件費はおおむね半減している。
b また、平成18年度の人件費総額は5億0556万8432円であるが、これには、退職給与引当金繰入額1031万6993円及び退職金1億5424万2400円が含まれている。そして、上記人件費総額から退職給与引当金繰入額及び退職金を控除した金額は3億4100万9039円であり、これを帰属収入6億2711万4773円で除すると、人件費比率は、54.4パーセントとなり、平成18年度の大阪府の私立学校における人件費比率平均77.8パーセントを大幅に下回る。
また、平成19年度の本件高校における退職金等を除く人件費の帰属収入に占める割合は51.5パーセントであって、同年度の全国平均62.7パーセント及び大阪府平均64.8パーセントのいずれをも大きく下回っている。
c 被告が主張する平成19年度の本件高校における人件費依存率143.5パーセントは、同年度の大阪府の私立高等学校における平均人件費依存率134.5パーセントと比較して、9パーセントの差しかない。
(エ) 教員の新規採用等
被告は、専任教員数が生徒数と比較して著しく過剰であったから、本件整理解雇を実施したと主張するが、以下のとおり、理由がない。
a 被告は、本件整理解雇前である平成19年4月1日から平成20年2月26日までの間に、立命館大学及び同志社大学の学生就職課に対し、新卒者対象の教員募集を行った。
b また、被告は、平成20年3月30日、希望退職者の中から、理科のNを常勤講師として雇い戻した。
そして、被告は、本件整理解雇後に、非常勤講師の募集を行ったところ、被告の専任教諭の年収は約400ないし500万円であるところ、時給1万円の非常勤講師が専任教諭の職務(講義150時間)を行うと、1か月当たり150万円以上の費用がかかるから、専任教諭を整理解雇し、非常勤講師を雇用する合理性はない。
c 平成20年度の入学者数が145名であったのに対し、平成21年度のそれは81名であり、入学者数が大幅に減少したにもかかわらず、被告は、平成21年4月に専任教員を7名も増員した。
(オ) 整理解雇の対象者の人数
被告は、平成19年度当初予算における消費支出超過額を、常勤教職員一人当たりの人件費の平均金額で除した数値である17.25を基準として、教員の削減人数を決定したと主張するが、以下のとおり、理由がない。
a 消費収入及び消費支出超過額は、基本金の多寡により左右されるため、財務状態の分析の際には、より適切な財務数値である帰属収入が使用されるから、消費支出超過額を基準として教員の削減人数を決定することは、不合理である。
b また、平成19年度当初予算における消費支出には、予備費として、1000万円が含まれており、また、平成19年度の消費支出超過額の予算額1億0184万0311円と決算額7570万9996円との間には、大きな差があるのに、被告は、年度末に教員の削減人数について再度検討していないから、被告が主張する教員の削減人数は、不合理である。
c 本件高校の平成19年度における専任教員一人当たりの生徒数を、大阪府の私立学校における教員一人当たりの平均生徒数にするためには、本件高校の専任教員を38名から25名にすることが必要となり、13名の専任教員の削減が必要となるが、平成19年度に合計11名の退職者があったことからすると、本件整理解雇の対象者は2名で足りたことになる。したがって、本件整理解雇の対象者として被告が主張する7名は、不合理である。
(カ) 以上のとおり、平成19年度末の平成20年3月31日において、被告の財務状況は、7名の教員を整理解雇しなければならないほど逼迫した状況になかった。
ウ 解雇回避努力
(ア) 生徒数確保の努力
大阪府においても、泉州地域においても、小中学校の生徒数は減少しておらず、被告に入学する可能性がある中学3年生の人数は、今後、約10年間減少しない。
したがって、被告は、生徒、保護者、教員及び地域の住民の意見を採り入れつつ、教育改革を実施し、生徒に対し、懇切丁寧な指導を実施すれば、生徒数が減少することはなかった。しかし、被告は、教職員の意見を無視して、進学校を目指す改革を実施したため、生徒数が減少した。
(イ) 報酬委託手数料、スクールバス費及び諸会議費等の経費の節約
被告は、平成19年度の報酬委託手数料約1384万円、スクールバス費約3306万円及び会議費等の経費を節約するべきであった。
また、修繕費(平成18年度約4776万円、平成19年度約1503万円)についても、修繕が完了すれば、その支出が減少する。
(ウ) 役員報酬の削減
役員報酬は、平成16年度約981万円、平成17年度約966万円、平成18年度約965万円、平成19年度約718万円であり、ほとんど減少しておらず、また、被告の理事長は、泉州銀行の監査役を兼務し、O理事は、週2回のみ出勤し、会議に出席するだけであるから、被告は、さらに、役員報酬を削減するべきである。
(エ) 寄付金募集の努力
被告は、保護者及び卒業生に対し、寄付金募集の努力をすれば、寄付金は少なくとも60万円増額した。
(オ) c大学との提携
被告は、本件整理解雇実施前から、生徒数の確保のために、c大学との提携を準備していたが、その効果が発生する前に、本件整理解雇を実施したのであるから、解雇回避努力をしたとはいえない。
(カ) 本件組合との関係
本件組合は、平成20年3月28日の団体交渉において、さらなる賃金削減に応じるので整理解雇を実施しないよう要求したが、被告は、教員の賃金を削減することなく、本件整理解雇を実施した。
エ 人選の合理性
(ア) 被告が事前に人選基準を設定しなかったこと
①被告は、本件整理解雇前も本件整理解雇後も、なかなか人選基準を明らかにしなかったこと、②被告は、本件整理解雇後に、数名の生徒及び保護者等から、原告ら解雇対象者の授業内容及び指導等について事情聴取するなどし、本件整理解雇を正当化するための証拠を収集していたこと、③被告は、原告X4ら3名の人選の経過を説明することができず、また、人選基準を訂正し、変更したこと、④基準の決定過程も曖昧かつ矛盾していることからすると、被告が事前に整理解雇基準を設定していたとはいえない。
(イ) 近年の懲戒歴、勤務態度及び能力等の基準の合理性
被告は直近2年度の懲戒歴の有無を基準としたが、これによると、被告が、直近2年度に特定の者に対し意図的に懲戒をして、その者を整理解雇の対象者とすることができ、被告の恣意が介入する余地がある。
また、懲戒の理由として様々な非違行為があるから、懲戒を受けたことから、直ちに教員の勤務態度及び能力が著しく劣ることにはならない。
(ウ) 年齢の基準の合理性
被告においては、賃金が低額であり、定期昇給もないため、年齢によって賃金にあまり差がなく、また、高年齢の教員が希望退職したため、教員間の年齢が近かった。したがって、年齢を人選基準としても、あまり経費削減効果はない。
また、年齢が高い教員には経験及び実績等があるから、機械的に年齢を基準として解雇対象者を選定すると、学校の教育力及び学校の個性が失われ、また、教育現場に大きな混乱が生じるところ、本件整理解雇後もそのような事態が発生した。
さらに、52歳以上の者という人選基準は、働き盛りの労働者に与える影響が大きい。
(エ) 本件整理解雇が原告らを排除するために実施されたこと
a 原告X4は、野球部の監督であったが、野球部の成績が振るわなかったところ、原告X4が解雇される2か月前の平成20年1月又は同年2月ころに、被告は、後任の野球部の監督を決めていた。
b また、原告X1は、数学科の教師であるが、被告は、平成19年9月11日、同志社大学に対し、数学科の教員の新規採用を募集した。
c このように、本件整理解雇は、原告らを排除するために実施されたものであり、人選の合理性がない。
(オ) 原告X4について
a 教育権の侵害
教員には教育権が保障され、学校管理者による不当な支配が禁止されているから、教員は学校管理者の指示に盲目的に従う必要はない。
しかし、被告は、原告X4が被告代表者らの指示に盲目的に従わなかったことを理由として解雇しており、本件整理解雇は原告X4の教育権を侵害するので許されない。
b 高野連への報告
(a) 原告X4は高野連に対し口頭により報告したこと
原告X4は、同年10月15日、高校野球連盟の理事に対し、電話により、野球部員同士のトラブルを報告したところ、理事は、「その件は生徒同士のふざけあいの中で起こったことであるし、すでに生徒、保護者の間で解決しているのだから報告は不要である」と述べた。このように、原告X4は、被告の指示に従って、高野連理事に対し、上記トラブルを報告した。
(b) 原告X4が始末書を作成したこと
原告X4は、始末書を作成しなかった場合業務命令違反になること、反抗することができる状況ではなかったことから、意に反して始末書を作成したが、原告X4は、高野連に対しては文書により報告していないという趣旨で始末書を作成した。
(c) 被告が、平成20年の事件を報告していないこと
野球部の3年生の生徒が平成20年8月に窃盗事件を起こし、警察官が捜査した事件が2件あったが、被告は、高野連に対しこれを報告しておらず、不公平な取扱いをした。
これに対し、被告は、2件の事件とも高野連に対し報告したとするが、仮にそうであれば、当該事件は警察官が捜査した窃盗事件であるから、高野連から重い措置があるはずであるが、高野連からは何もなかった。
c b中学校の訪問
原告X4は、平成19年11月25日ころの被告代表者の指示を受けて、速やかにb中学校を訪問することはなかったが、同月28日ころにb中学校の担任教員に電話したところ、担任教員は、「既に2人とも進路が決まっているので、被告には入学しない」と述べたため、原告X4は、被告代表者に対し、その旨報告した。
また、原告X4は、平成20年12月4日ころ、生徒2名の保護者に電話したところ、保護者も、もう進路が決まっていると述べたため、原告X4は、被告代表者に対し、その旨報告した。
さらに、原告X4は、同月11日ころ、b中学校を訪問したところ、2人とも他の私立学校への進学を考えていると言われた。
このように、生徒2名は、当初から被告以外の学校への進学を決めていたのであり、原告X4の訪問が遅かったために、生徒が他の私立学校への進学を決めたとはいえないし、また、被告代表者の指示に従っても生徒の勧誘にはつながらなかった。
d クラブだよりの寄稿
(a) クラブだよりの原稿依頼を受けなかったこと等
原告X4は、毎朝校門において生活指導をして職員朝礼に欠席していたので、クラブだよりの硬式野球部の原稿依頼を受けなかった。
また、毎朝校門において生活指導をしていた6、7人の教員並びに休暇及び出張中の教員は、職員朝礼に欠席していたところ、学校日誌には、職員朝礼に欠席した教員全員の押印がないから、職員朝礼に欠席した教員全員が学校日誌を閲覧していたとはいえない。
(b) 他の教員を懲戒していないこと
被告は、学校日誌に押印しなかった他の教員を懲戒しておらず、また、原告X4に対しクラブだよりの原稿を催促しなかった責任者を懲戒しておらず、不公平である。
e 喫煙
原告X4は、分煙が実施されてから、喫煙指定場所以外の場所において喫煙したことはなかった。
また、喫煙指定場所以外の場所において喫煙していた体育教員は3名いたが、被告は、原告X4及びGしか懲戒しておらず、不公平な取扱をした。
f その他
当時野球部の監督であった教員のPは、平成12年に、生徒をバットで殴って傷害を負わせたが、被告はPを解雇しておらず、被告は、原告X4を恣意的に解雇した。
(カ) 原告X5について
a 関関同立のノウハウがあるとの発言について
原告X5は、平成14年の説明会において、被告が平成13年に経営コンサルタントに対し講師派遣を要請したことについて、「我々には、関関同立のノウハウがあるので、経営コンサルタントは不要です」という趣旨の発言をしたが、関関同立のノウハウがないとは認めておらず、また、原告X5が作成した始末書にも、その旨記載されていない。したがって、原告X5は、説明会において、虚偽の発言をしていない。
また、原告X5の関関同立のノウハウがあるとの発言は、平成14年度中のものであって、原告X5は、これまで、注意も、懲戒も、受けなかったにもかかわらず、被告は、平成19年12月17日、原告X5に対し、無理に始末書を書かせて、同月21日、譴責とした。
このような譴責は無効であり、かかる譴責を理由として原告X5を解雇対象者とすることはできない。
b 平成20年2月28日の授業における発言について
原告X5は、平成20年2月27日に授業をすることができなかったことについて、生徒から質問を受けたため、その経緯について説明しただけであって、被告代表者及び校長を誹謗中傷したことはない。
これに対し、被告は、原告X5が、被告代表者及び校長を誹謗中傷したなどと主張するが、教学分野の現場責任者であるL教頭は、原告X5の授業中の発言について、何ら対応していないし、また、M事務長も、L教頭も、原告X5の誹謗中傷の具体的な内容を明らかにしないから、被告の主張には理由がない。
したがって、平成20年3月18日の譴責は無効であるから、かかる懲戒を理由として、原告X5を解雇対象者とすることはできない。
c その他の被告があげる理由について
(a) 原告X5の英語力及び指導力について
① 被告は、原告X5の英語の知識及び指導力について、生徒から苦情があったと主張するが、否認する。
原告X5は、何回も英語科の主任をしており、英語の知識及び指導力について何ら問題はなく、また、原告X5は、英語の知識及び指導力について、注意、指導及び懲戒を受けたことはない。
そして、M事務長は、具体的に誰がいつ苦情を述べたのかについて明らかにしない。
② また、被告は、原告X5が、平成15年度末、特進コースの授業の担当を断ったと主張するが、そのような事実はないし、これについて原告X5は懲戒を受けていない。
③ さらに、被告は、原告X5は特別講義及び補習等の担当を避けていたなどと主張するが、特別講義及び補習は、特進コース及び進学コースの授業担当教員から、優先的に担当することになっていたので、原告X5が特別講義及び補習を担当することが少なくなったからにすぎない。
(b) 粗暴な言動について
① J校長に対する罵倒
原告X5のJ校長に対する罵倒は平成14年度のことであり、これについて原告X5は懲戒を受けていないから、入選基準には該当しない。
② K委員長に対する暴言
原告X5は、K委員長に対する暴言について、厳重注意を受けたが、それは平成15年のことであるから、人選基準には該当しない。
オ 手続の相当性
(ア) 協議義務
整理解雇が有効となるためには、使用者は、労働組合又は労働者に対し、整理解雇の必要性並びに時期、規模及び方法について、納得を得るための説明を行い、誠意をもって協議すべき義務を尽くさなければならない。
(イ) 被告が説明及び協議義務を尽くしていないこと
被告が、教職員に対し、整理解雇の実施を初めて明らかにした時は、被告が平成20年2月26日に希望退職者募集要綱を掲示板に掲示したときであった。
そして、被告代表者は、同年2月27日の説明会において、教職員に対し、上記要綱をそのまま読み上げただけであった。
また、労働組合は、同年2月29日の団体交渉において、整理解雇の人数、対象者及び根拠について説明するよう求めたが、被告のM事務長は、「今はまだ言えない」と答え、「併願受験者の戻りで生徒数が確定する3月25日以降でないと言えない」と述べた。
さらに、被告は、同年3月28日の団体交渉においても、整理解雇について、「理事会で決めたこと」、「整理解雇は行う。人数も通知の仕方も言えない」とのみ述べた。
そして、被告代表者は、翌29日、労働組合3役(X1・X2・Q)と協議したが、同人らに対し、「整理解雇はする。人数、方法は言わない」とのみ述べた。
なお、被告は、非組合員の教職員らとの間においても、整理解雇について一切協議していない。
以上のとおり、被告は、労働組合又は労働者に対し、整理解雇の必要性、時期、規模及び方法等について、一切説明しなかった。
(ウ) 被告の主張に対する反論
a 被告は、整理解雇の必要性並びに時期、規模及び方法等について説明すると、教育指導に支障を来し、生徒に対し悪影響を及ぼすと主張する。
しかし、被告が、整理解雇の必要性並びに時期、規模及び方法について、協議すべき義務を尽くさなかったからこそ、教育指導に支障を来し、生徒に対し悪影響を及ぼしたのであって、被告の主張には理由がない。
b 被告は、平成20年2月26日よりも前から、労働組合及び労働者に対し、人員削減の必要性を説明したと主張する。
しかし、被告が、教職員に対し、整理解雇の実施を初めて明らかにした日は平成20年2月26日であるから、それ以前に行われた説明をもって、整理解雇の必要性を説明したということはできないから、被告の主張には理由がない。
(2) 争点(2)(本件整理解雇は不当労働行為に当たるか)
(原告らの主張)
ア 本件整理解雇は、必要性自体がないにもかかわらず、あえて労働組合員及びその同調者等を対象とするように解雇基準を強引に策定して、行ったものであり、不当労働行為に当たる。
被告は、これまで進学校指向及び人件費削減を中心とした学園改革を実施し、労働組合と対立してきたのであって、労働組合を嫌悪していた。
そこで、被告は、労働組合の中心である、原告X1分会長、原告X2書記長、原告X3執行委員のほか2名の組合員を解雇し、労働組合の同調者であるG及び原告X4を解雇した。
したがって、本件整理解雇は、不当労働行為であり、無効である(労働組合法7条1号3号)。
イ また、被告は、平成21年度、組合を嫌悪する意図に基づいて、組合員である教員のみを担任から外し、同組合員の授業時間を減らすなどして、不当労働行為をした。
被告の行為は、組合潰しをねらった一連の不当労働行為であって、したがって、本件整理解雇も、もともと、不当労働行為であった。
(被告の主張)
争う。
原告X4及びGは組合員ではなく、被告には同人らが労働組合の同調者であるという認識もなかったのであり、本件整理解雇は労働組合の弱体化を目的として実施されたものではない。
(3) 争点(3)(原告X4に対する本件出勤停止の効力)
(被告の主張)
被告は、就業規則3条、4条及び39条3号に違反し、57条1号、5号、9号に基づいて、原告X4を10日間の出勤停止の懲戒とした。
(原告らの主張)
出勤停止の理由となった3つの懲戒は無効である。
また、原告X4には弁解の機会が与えられなかったし、また、10日間の出勤停止は重きに失する。
したがって、出勤停止は懲戒権の濫用に当たり無効である。
第3当裁判所の判断
1 争点(1)(就業規則36条5号に該当する事実はあるか)について
(1) 整理解雇について
被告は、就業規則36条5号に基づいて、整理解雇を実施しているので、当該就業規則36条5号に定める「学校経営上、過員が生じたとき、その他経営上やむを得ない理由が生じたとき」に該当する事由があるかどうかについて検討する。
そして、同事由の有無を判断するに当たっては、整理解雇が、使用者における業務上の都合を理由とするものであり、解雇される労働者にとっては、落ち度がないのに、一方的に収入を得る手段を奪われるのであって、労働者に重大な不利益をもたらすものであるから、①人員削減の必要性、②解雇回避努力義務の遂行、③解雇対象者の選定の合理性、④解雇手続の相当性を総合考慮して判断するべきである。しかし、他方において、上記①ないし④のすべてが具備されなければ、整理解雇が無効となると解すべき根拠はないと考えられる。
原告らは、教員の教育権の保障のため、教員の整理解雇の場合は、一般的な私企業における整理解雇の場合よりも、整理解雇の4要件の具備が厳しく要求されるべきであると主張する。
しかし、原告ら主張のとおりであるとすると、他方において、学校設置者における業務上の必要性を軽視することとなり、ひいては、学校経営の破綻を招き、生徒が教育を受ける機会を奪うこととなりかねないから、原告らの主張を採用することはできない。
また、原告らは、解雇手続の相当性が重視されるべきであると主張するが、整理解雇が解雇対象者に及ぼす影響を考えると、他の要件(人員削減の必要性、解雇回避努力義務の遂行、解雇対象者の選定の合理性)も重視されるべきであることは当然であって、特に解雇手続の相当性のみが重視されるべき理由はないと考えられるから、原告らの主張を採用することはできない。
(2) 人員削減の必要性
ア 前記当事者間に争いがない事実等、後掲証拠及び弁論の全趣旨によれば、以下の事実を認めることができる。
(ア) 生徒数及び学生生徒等納付金の減少
a 本件高校の生徒数は、平成元年度に1843名であったが、その後、毎年度減少傾向が続き、平成8年度には1162名、その後更に減少して平成19年度には412名となった(書証省略)。
b 被告の主要な収入である学生生徒等納付金(生徒から得られる授業料及び入学金等)も減少し、平成8年度には4億6578万8120円であったが、平成19年度には2億0890万0000円となった(書証省略)。
(イ) 帰属収支差額及び帰属収支比率
被告の帰属収支差額(帰属収入から消費支出を控除した残額)は、平成15年度から平成19年度まで、5年連続でマイナスであり、平成19年度のそれは、7500万円であった(書証省略)。
また、被告の帰属収支比率(消費支出の帰属収入に対する割合)も、平成15年度から平成19年度まで、5年連続で100パーセントを超え、平成19年度のそれは、112.9パーセントであったところ、平成19年度の全国の641の私立高等学校法人の平均は99.0パーセント、大阪府の37の私立高等学校法人の平均は98.0パーセントであり、被告の収支バランスは悪化していた(書証省略)。
なお、帰属収入とは学校法人の負債とならない収入であり、消費支出とは、当該会計年度において消費する資産の取得価額及び当該会計年度における用役の対価である(私立学校振興助成法(昭和50年法律第61号)14条1項に基づく学校法人会計基準(昭和46年文部省令第18号)16条1項、2項、書証(省略))。
(ウ) 消費収支差額
被告の消費収支差額(消費収入から消費支出を控除した残額)は、平成6年度から平成19年度まで、14年度連続でマイナスとなり、平成19年度の翌年度繰越消費収支差額は、12億6513万8718円であった(書証省略)。
他方、平成19年度の基本金の当期末残高は、28億9192万2284円であり、このうち、1号基本金の当期末残高は26億8286万3027円であり、3号基本金のそれは9605万9257円であり、4号基本金のそれは1億1300万円であった。(書証省略)。
なお、消費収入とは、帰属収入から、基本金組入額を控除した金額のことであり(書証省略)、また、基本金とは、学校法人がその諸活動の計画に基づき必要な資産を継続的に保持するために維持すべきものとして、その帰属収入のうちから組み入れた金額のことである(学校法人会計基準29条、書証(省略))。
(エ) 前受金
平成19年度末において、現金預金は1389万8536円であったのに対し、翌年度の帰属収入となるべき授業料及び入学金等の前受金は3645万円であった(書証省略)。
したがって、被告は、平成19年度末において、前受金の38パーセントしか現金預金を所有しておらず、極めて資金繰りに窮した状態であった(書証省略)。
(オ) 流動比率
被告の流動比率は、平成18年度98.4パーセント、平成19年度78.9パーセントであったが、平成19年度の全国の641の私立高等学校法人の平均は188.1パーセント、大阪府の37の私立高等学校法人の平均は164.0パーセントであり、被告の短期的な支払能力が低下していた。
なお、流動比率とは、流動負債に対する流動資産の割合であり、一年以内に償還され、支払われなければならない流動負債に対する、現金預金又は一年以内に現金にすることが可能である流動資産の割合のことである。(書証省略)
(カ) 補正運用資産外部負債比率
平成19年度の被告の補正運用資産外部負債比率は91パーセントであったが、平成19年度の全国の641の私立高等学校法人の平均は249パーセント、大阪府の37の私立高等学校法人の平均は268パーセントであり、外部負債の返済能力が不十分であり、金融機関からの借入れ等の外部資金の調達が相当困難であり、極めて資金繰りに苦しい状況であった。
なお、補正運用資産外部負債比率とは、外部負債に対する運用資産から奨学基金引当特定資産を控除した資産の割合であり、運用資産とは、現金預金等の流動資産並びにその他の固定資産に含まれる有価証券及び特定資産の合計であり、外部負債とは、総負債から退職給与引当金及び前受金を控除した負債の合計であり、外部への返済が必要である負債の合計である。(書証省略)
(キ) 人件費等
a 専任教員数
平成19年度の専任教員数一人当たりの生徒数は10.8人であり、これは、大阪府の37の私立高等学校法人の平均が16.8人であることと比べると、6.0人少ない(書証省略)。
b 収入補正人件費比率等
平成19年度の被告の収入補正人件費比率は69.4パーセントであり、帰属収入の69.4パーセントが、退職給与引当金繰入額及び退職金以外の経営的な人件費支出に充てられており、また、そのうち60.4パーセントが教員人件費に充てられ、1.6パーセントが役員報酬に充てられている。
なお、収入補正人件費比率とは、人件費から退職給与引当金繰入額及び退職金を控除した残額の、帰属収入から退職金財団交付金収入を控除した残額に対する割合のことである。(書証省略)
c 教員一人当たりの人件費
平成19年度の専任教員(専任教諭及び常勤講師)の一人当たりの人件費は628万2000円であり、平成19年度の非常勤教員の一人当たりの人件費は204万1000円である(書証省略)。
また、平成18年度の専任教員(専任教諭及び常勤講師)の一人当たりの人件費は、636万2000円であり、大阪府の37の私立高等学校法人の平均は932万円と比較して、約68パーセントである(書証省略)。
(ク) 整理解雇の対象者の人数の決定
平成19年度予算における消費支出超過額が1億0184万0311円であったため、被告は、平成19年3月23日の理事会において、上記消費支出超過額を専任教員一人当たりの人件費の平均である590万3697円で除した数値17.25を根拠として、平成19年度の専任教員の人員削減数を18人と決定した(証拠省略)。
なお、平成19年度予算における専任教員の本俸及び所定福利費の合計金額2億1183万8178円を、平成19年5月1日時点における専任教諭及び常勤講師の合計人数36名で除すると、約588万4394円となり(書証省略)、上記消費支出超過額1億0184万0311円を上記588万4394円で除した数値は約17.31となり、この数値からも上記人員消滅数18人は首肯できる。
そして、専任教諭1名が平成20年3月末日をもって自主退職することとなり、また、被告は、平成20年2月25日付で、常勤講師4名に対し、雇止めを通知した。さらに、平成19年度の早期退職希望者募集に応じて、専任教員6名が平成20年3月末日をもって退職することとなった。
しかし、上記人員削減数18名には7名足りなかったため、被告は、専任教員7名を整理解雇することとした。(証拠省略)
イ 以上からすると、被告の財務状態が非常に悪化しており、専任教員の人件費も低額であった反面、専任教員数は過剰であり、教員の収入補正人件費比率が高かった。したがって、専任教員の人数を削減する必要性が認められるところ、前記のとおり、整理解雇の対象者である専任教員の人数7名にも合理性があったというべきである。
ウ 原告らの主張
(ア) 原告らは、消費収支差額について主張する。
しかし、学校法人会計基準29条は、「学校法人が、その諸活動の計画に基づき必要な資産を継続的に保持するために維持すべきものとして、その帰属収入のうちから組み入れた金額を基本金とする。」と規定し、法が、帰属収入から基本金を組み入れることを要求していることからすると、私立学校の資産状況を判断する際には、消費収支差額も考慮するべきである。
のみならず、前記の被告の消費収支差額の悪化に加えて、1号基本金について、学校法人会計基準30条1号は、学校法人が設立当初に取得した固定資産で教育の用に供されるものの価額又は新たな学校の設置若しくは既設の学校の規模の拡大若しくは教育の充実向上のために取得した固定資産の価額と規定しているところ、平成19年度の貸借対照表によれば、有形固定資産の価額が1号基本金の価額よりも、10億6071万6224円少なくなっているにもかかわらず、被告にはその差額に見合う財産は存在しない。これは、有形固定資産の減価償却費が蓄積されず消費されてしまっていることを示しているから、被告においては、学校法人の永続的維持のために必要不可欠である1号基本金に関してさえ、多額の不足が発生しており、固定資産の耐用年数が経過したときに固定資産の再取得が困難になるおそれがあったと認められ、被告においては資産状態が悪化していたというべきである(書証省略)。
しかも、被告においては、帰属収支差額も平成15年度から平成19年度まで、5年連続でマイナス(赤字)であったから(書証省略)、基本金の組入れどころか、既に発生している1号基本金に関する多額の不足を放置しても、赤字が更に累積し続ける状態であったということができる。この点に関し、甲第8号証(省略)には、帰属収支差額は平成15年度が最も採算がとれておらず、その後は右肩上がりで改善している旨の記載があるが、帰属収支差額は平成19年度において7500万円のマイナスであり、これが翌年以降自然に黒字化する理由はないから、上記記載は、被告の財務状態について、非常に悪化しており人件費を削減する必要があったとの前記認定に反するものではない。
したがって、原告らの主張には理由がないというべきである。
(イ) また、原告らは、自己資金比率について主張する。
確かに、平成19年度の貸借対照表(書証省略)によれば、平成19年度末(平成20年3月31日)の総資産(資産の部合計)は19億4478万0478円であり、総負債(負債の部合計)は3億1799万6912円であることが認められるから、純資産は16億2678万3566円である。そして、総資産に占める純資産の割合は、約83.6パーセントであることも認められる。
しかし、上記貸借対照表によれば、平成19年度末(平成20年3月31日)の有形固定資産の価額は、合計16億2214万6803円であり、総資産の大部分を占めることが認められ、被告における有形固定資産は、被告が教育の充実向上のために使用するものであって、売却等の処分を想定することが適当でない財産であることからすると、上記総資産に占める純資産の割合をもって、被告の財務が安定しているということはできず、原告らの主張には理由がない。
(ウ) さらに、原告らは、金融資産等について主張する。
確かに、平成19年度の貸借対照表(書証省略)によれば、平成19年度末(平成20年3月31日現在)において、長期借入金1410万円及び短期借入金139万2000円の合計1549万2000円があったこと、被告は、現金預金1389万8536円、有価証券10万円、Y学園奨学基金引当特定資産9605万9257円、退職給与引当特定預金1200万円の合計1億2205万7793円を有し、さらに、未収入金1億9851万3535円及び立替金29万6911円の合計1億9881万0446円があることが認められる。
しかし、上記Y学園奨学基金引当特定資産は、本件高校の生徒の奨学金に使用するための資産であるから(書証省略)、本来取崩しが予定されていない資産であって(書証(省略))、また、取崩しが相当ではない資産であるというべきである。また、退職給与引当特定預金も、教職員の退職金の支払いのための資産であるから(書証省略)、取崩しが予定されていないというべきである。さらに、未収入金も、具体的な回収時期及び回収可能性が不明であって、かえって、前記のとおり、被告の流動比率が悪化しており、被告の短期的な支払能力が低下していたのである。したがって、原告らの主張には理由がない。
(エ) さらに、原告らは、被告の短期借入金の返済能力及び運転資金の借入可能性について主張する。
確かに、証拠(省略)によれば、平成19年4月の短期借入金1億0450万8000円が、平成20年3月には139万2000円となったことがみとめられる。
しかし、証拠(省略)によれば、この理由は、本件高校において、平成19年3月末退職者に対する退職金支払日は同年4月末日であったが、大阪府私学退職財団からの法人積立退職金相当額の交付日は同年5月末日とされていたため、被告は、銀行から短期借入を受け、平成19年4月末に退職金を支払った上で、同年5月末に上記退職財団から交付された法人積立退職金相当額で、市中銀行に対し前記借入金を全額返済したためであることが認められる。したがって、被告が短期借入金を返済する能力を有していたということはできない。
また、前記のとおり、被告の補正運用資産外部負債比率が悪化したため、被告の外部負債の返済能力は不十分であり、金融機関からの借入れ等の外部資金の調達が相当困難であったのであり、また、証拠(省略)によれば、被告が、数年前に、銀行に対し、融資を依頼したが、断られたことが認められる。したがって、被告が運転資金を借り入れることが可能であったとはいえない。
以上からすると、原告らの主張には理由がない。
(オ) 原告らは、教員の新規採用等について主張する。
a 確かに、証拠(省略)によれば、被告が、本件整理解雇前である平成19年4月1日から平成20年2月26日までの間に、立命館大学及び同志社大学の学生就職課に対し、新卒者対象の教員募集を行ったことが認められ、また、証拠(省略)によれば、被告は、平成20年4月1日付けで、希望退職者の中から、専任教諭であった理科のNを常勤講師(嘱託教員)として雇用したことが認められる。しかし、被告は年功序列型の賃金体系をとっているから、同一人物であっても、長年勤務したベテランの専任教諭としての給与より、採用されたばかりの常勤講師としての給与が相当低いことは容易に推認し得るところである。そうだとすると、例えば、ベテランの専任教諭であって余人に代え難い人物が、常勤講師として採用されるならば希望退職に応じる意向を示した場合、学校側としては、その意向を受入れても人件費削減効果があり、かつ相当安い人件費で同人を活用できるから、採用を拒否して同人が希望退職に応じないという結果になるより有利であるため、その意向を受け入れることに合理性がある。このように、専任教諭で希望退職に応じた者の処遇は、希望退職に応じるに当たっての本人の意向等とも関係し、新規採用と同列には論じられない面もあるから、退職後常勤講師として雇用された者が1名いることをもって、直ちに本件整理解雇の必要がなかったとすることはできない。ちなみに、証拠(省略)によれば、平成18年度に早期希望退職に応じた者のうちでも4名が嘱託教員となっていることが認められるところである。
b また、証拠(省略)によれば、本件高校における本件整理解雇直後(平成20年4月1日)の1学年の生徒数は146名であり、その1年後(平成21年4月1日)のそれは81名であったことが認められる。他方、証拠(省略)によれば、平成19年5月1日から平成21年5月1日までの被告における各教科の専任教諭、常勤講師及び非常勤講師の人数は、別表1のとおりであり、本件整理解雇直後(平成20年5月1日。ただし、同年4月1日も同じである)における専任教員数は22名(専任教諭17名、常勤講師5名)、平成21年3月31日時点における専任教員数は20名(専任教諭14名、常勤講師6名)であるところ、平成21年5月1日時点における専任教員数は26名(専任教諭16名、常勤講師10名)となっていて、同日には、専任教員数が、本件整理解雇直後と比べると4名増加(専任教諭は1名減、常勤講師は5名増)、本件整理解雇の1年後である平成21年3月31日と比べると6名増加(専任教諭は2名増、常勤講師は4名増)したことが認められるので、検討する。
(a) 高等学校教育においては様々な教科があり、同じ「教諭」であっても、別の教科の担当(例えば地歴公民の教諭が数学を教えること)や入試問題作成採点は困難である。ところが、本件整理解雇は、教科を考慮せずに、懲戒歴等に照らした勤務態度や能力、年齢という基準で解雇対象者を選定しているため、残った専任教員が特定の教科に偏る結果となっている。
具体的には、38人の専任教員から、18人が退職した場合、各教科からまんべんなく退職者が出た場合には、各教科の専任教員数は約53%になることになる。ところが、本件整理解雇の基準が教科に関係なく設定されているため、本件整理解雇の前(平成20年3月31日)と後(同年5月1日)の専任教員(専任教諭及び常勤講師)数を比較すると、地歴公民は5名から4名(80%)に、理科(理科・情報を含む。以下同じ)は6名から5名(約83%)に、それぞれ減少し、国語も5名から3名(約60%)に減少しているに止まるが、数学は5名から2名(40%)に、保健体育は7名から3名(約43%)に、英語は6名から2名(約33%)にと、それぞれ大幅な減少をしている。
そして、これに対応して、同年5月1日には、非常勤講師が、地歴公民と理科はそれぞれ1名の増加に止まるのに対し、国語は2名、数学は3名、英語も3名(その他にc大学からの派遣講師が1名)増加しており、英語については、同年度末である平成21年3月31日には5名(その他にc大学からの派遣講師が1名)の増加となっている。
他方、平成21年3月31日から平成21年5月1日にかけて専任教員数が増加した教科と増加数は、国語1名、数学2名、保健体育1名、英語2名である。これに対応して、上記各教科の非常勤講師は、平成21年3月31日から平成21年5月1日にかけて、国語3名、数学3名、保健体育1名、英語3名減少している(ただし、c大学からの派遣講師は国語1名、数学1名、英語1名それぞれ増加している)。
(b) 上記事実からすれば、本件高校においては、本件整理解雇(整理解雇による解雇対象者のいない国語については希望退職者過多)により、専任教員の教科が偏り、一部の教科において教員数が不足することになったため、平成20年4月1日から平成21年3月31日にかけては非常勤講師で賄い、平成21年5月1日の段階では、当該一部の教科について常勤職員を採用したものと認められる。その結果、本件整理解雇による解雇対象者のいる教科について、解雇対象者数と、その直後(平成20年5月1日)から平成21年5月1日にかけての増加を対比すると、数学は、専任教諭1名の整理解雇に対し2名の常勤講師が増加、理科は専任教諭1名の整理解雇に対し増加数は0名、保健体育は専任教諭2名の整理解雇に対し1名の常勤講師が増加(ただし、平成20年5月1日までに新規採用された常勤講師がもう1名いた)、英語は専任教諭3名の整理解雇に対し専任教諭と常勤講師が各1名増加したことになっている(なお、当裁判所は、後記のとおり、教科が英語である原告X5の解雇を無効と判断しているところ、同人の解雇を除いて考えると、英語については、専任教諭2名の整理解雇に対し、被告は常勤講師が1名必要と判断したことになる)。
(c) ところで、整理解雇の結果、担当教科が偏ってしまった場合には、その分の授業を非常勤講師で補えば、授業担当者の不足は生じない。これにより非常勤講師の分だけ人件費は増加するが、非常勤講師はクラス担任・部活指導・生徒指導・進路指導・入試問題の作成採点等の校務は担当しないことなどから人件費が専任教員よりも格段に低いことは前記(2)ア(キ)c認定のとおりであって、専任教諭の整理解雇による人件費削減の効果はそれほど減殺されるわけではない。
したがって、本件整理解雇の時点で、担当教科の偏りを非常勤講師で補うこととしたことをもって、本件整理解雇の必要がなかったとすることはできない。
(d) しかし、非常勤講師の供給源は、もともと常勤の教職を得ていない人材であって、適切な人材が必要なだけ得られるとは限らない。証拠(省略)によれば、平成20年度の被告の非常勤講師には、勤続状況が不安定な者も多く(平成20年5月1日にいた22名中、年度途中の退職者が6名にのぼる。また、平成21年5月の非常勤講師11名のうち、前年度から非常勤講師をしている者は5名にすぎない)、年輩者も多い(平成21年3月31日には24名中10名が60歳以上で、そのうち4名は70歳以上である)などの問題があったことが認められる(原告も「非常勤で穴埋めをしようとしたが、適切な人材を得ることができず、短期で退職する者が出ている」(原告準備書面(1)の23頁)としている)。
上記事実からすれば、前記平成21年5月1日段階での常勤教員の増加は、本件整理解雇による特定の教科の教員不足を非常勤講師で賄おうとしたものの、適切な非常勤講師が得られず、結局、本件整理解雇の1年後には、当該特定の教科について専任教員(主として常勤講師)を雇用しなければならなくなったように思われるところである。
(e) しかし、以下の点を考慮すれば、被告が、結局、本件整理解雇によって7名の専任教諭を解雇した後(年度として翌々年度)である平成21年度のために、本件整理解雇直後よりも専任教員を4名増(専任教諭1名減、常勤講師5名増)、ただし、平成21年3月31日と比べると6名増(専任教諭2名増、常勤講師4名増)としたことは、平成20年度(本件整理解雇後)に新たに発生していた事態(非常勤講師の人材難)に対する新たな対処策であって、本件整理解雇時に予想できた事柄とはいえないから、本件整理解雇の時点において、整理解雇の必要性があったとの前記認定を覆すに足りるものとまでいうことはできない。
ⅰ 非常勤講師で適切な人材確保ができるかどうかは、やってみなければわからない面がある。したがって、上記平成21年度のための常勤職員増加は、被告が1年間非常勤講師をもって担当教科の不均衡を賄うという方策を採ったものの、それが奏功しないことが判明したために行った新たな対処策ということになる。そうだとすると、本件整理解雇時点で想定していた方策が奏功しないことにより、平成21年度以降に新たな対処策を採ったとしても、それは、新たな対処策が必要となった時点の問題であって、本件整理解雇の時点まで遡って、上記対処策が必要であったと判明していたことを前提として判断されるべきものではないこと。
ⅱ 被告においては、年功序列型の賃金体系が採られているから、人件費は、長年勤務したベテランの専任教諭より、若い専任教諭は相当低く(ちなみに、本件整理解雇の頃、最も年齢の若い教諭は最も年齢の高い原告X2よりも人件費が年間200万円以上低かったと被告は主張する)、常勤講師の給与は更に低いと推認される。また、証拠(省略)によれば、被告は、年齢が若い者の雇用の際には、賃金を低くしたことが認められる。そして、証拠(省略)によれば、上記で増加した専任教員は22歳から35歳までの者であったこと、専任教諭の数は本件整理解雇直後よりも更に減少していることが認められるから、被告は、上記担当教科の不均衡を、より人件費の負担の少ない常勤講師で補っているというべきである。すると、被告は、人件費の少ない常勤講師で賄えるからこそ、専任教員を採用できたように思われるから、常勤講師数が増えたことをもって、ベテラン専任教諭の人件費も同様に賄えたとすることはできない。したがって、上記事実をもって、本件整理解雇の必要がなかったということまでは直ちにできないこと。
ⅲ 証拠(省略)によれば、専任教員1人当たりの生徒数は、平成21年4月1日には、約11.0名となっており、大阪府の37の私立高等学校法人の平成19年度の平均が16.8人であること(前記(2)ア(キ)a)と比べると、被告における専任教員の割合は、生徒数の減少と相まって再び他校より相当多くなっているように思われること。したがって、被告において、新たに専任教員を採用したことをもって、本件整理解雇時に、被告の専任教員が過剰でなかったことの証左とすることはできないこと。
なお、証拠(省略)によれば、第1学年の生徒数が、平成20年4月1日には146名であったのが、平成21年4月1日には81名となっており、65名の減少となっているが、4月1日付けで採用する職員の採用内定は、4月1日現在の現実の入学者数(入学辞退者数を除いた数)が判明してからするものではないから、前年から大幅に落ち込むことが予想できたとの事清も認められない本件では、採用段階では、このように減少することを前提として、被告が専任教員を採用した(被告がこのように減少した場合にも専任教員がこれだけ必要であり、専任教員1人当たりの生徒数が約11.0名となるべきであるとして採用した)ことを前提することはできない。
(f) このような問題を避けるためには、整理解雇の基準として、教科を考慮した基準を設定すればよかったと考えられないこともない。しかし、仮に教科毎に解雇対象者数を決定しようとすると、その基準は恣意的になりかねず、具体的に適切な解雇対象者の選定基準を見出しがたい。なぜなら、被告においては、教科ごとに専任教員の人数にばらつきがあるため、各教科の53%が整数とならず、その端数をどの教科に割り当てるかで解雇対象者が大きく変わるうえ、養護教諭、家庭科等、もともと専任教員が1名しかいないために「約53%にする」ことが不可能な学科もあるからである。したがって、教科を考慮しない本件整理解雇の基準を、本件において不合理とまでいうことはできない。
c 証拠(省略)によれば、被告が、同志社大学の学生就職課に対し、初任給を50分の授業当たり1万円として、非常勤講師を募集したことが認められるが、当該非常勤講師が、1か月当たり、50分の授業を150回担当したと認めるに足りる証拠はないし、また、証拠(省略)によれば、平成20年度の非常勤講師1人当たりの人件費は、約204万9552円であることが認められるから、非常勤講師の1か月当たりの人件費が150万円以上であるとの原告らの主張には理由がない。
d 以上からすると、原告らの主張には理由がない。
(カ) そして、原告らは、整理解雇の対象者の人数についても主張する。
a 証拠(省略)によれば、消費収入及び消費支出超過額は、基本金組入額の多寡により左右されるため、財務状態の分析の際には、より適切な財務数値である帰属収入が使用されることが認められる。しかし、他方、前記のとおり、法が、帰属収入から基本金を組み入れることを要求しており、また、平成19年度の翌年度繰越消費収支差額が、12億6513万8718円と多額であったことからすると、消費支出超過額を基準として教員の削減人数を決定することも、不合理であるということはできない。
なお、証拠(省略)によれば、平成19年度における被告の基本金組入額は約100万円、基本金取崩額は約200万円であったことが認められるから、帰属収支差額を考慮したとしても、大きな違いが生じるものとは認められない。
b また、証拠(省略)によれば、平成19年度当初予算における消費支出には、予備費として、1000万円が含まれ、平成19年度の消費支出超過額の予算額は1億0184万0311円であり、決算額は7570万9996円であったことが認められる。しかし、本件整理解雇実施時は、平成19年度終了前であり、平成19年度の決算は未だ確定していなかったのであるから、原告らが主張する教員削減人数の再検討は困難であったし、また、平成19年度の翌年度繰越消費収支差額が12億6513万8718円もあり、被告は収支差額を削減する必要があったのであるから、被告が原告ら主張の再検討をしなかったとしても、被告が主張する教員の削減人数が不合理であるということはできない。
c そして、証拠(省略)によれば、本件高校の平成19年度における専任教員一人当たりの生徒数を、大阪府の37の私立高等学校法人における教員一人当たりの平均生徒数にするためには、本件高校の専任教員を38名から25名にすることが必要となり、13名の専任教員の削減が必要となることが認められる。しかし、被告と大阪府の37の私立高等学校法人とでは、帰属収支差額及び消費収支差額等の財務状態が異なるのであるから、大阪府の37の私立高等学校法人における平均値から、直ちに、被告において、13名の専任教員の削減で足りるということはできない。
d 以上からすると、原告らの主張には理由がないというべきである。
(3) 解雇回避努力
ア 証拠(省略)によれば、前記第2、4(1)(被告の主張)ウの(ア)生徒数確保の努力及び(イ)諸経費の削減記載の事実を認めることができる。
そして、当該事実によれば、被告は、本件整理解雇を回避するための努力を尽くしたというべきである。
イ 原告らの主張について
(ア) 原告らは、生徒数確保の努力について主張し、大阪府の泉州地域の小中学校の生徒数に関する証拠(省略)がある。しかし、原告らが主張する生徒数確保に関する措置の具体的な内容は明らかではないし、仮に被告が同措置を実施したとしても、生徒数が減少することがなかったとは証拠上も認められないから、原告らの主張には理由がない。
(イ) また、原告らは、報酬委託手数料、スクールバス費及び諸会議費等の経費の節約について主張し、かかる主張に沿う証拠(省略)がある。
しかし、原告らが主張する節約の方法の具体的内容が明らかではないし、証拠(省略)によれば、和歌山等の遠方の地域から通学する生徒のためにスクールバスの充実が必要であることが認められる。
また、証拠(省略)によれば、平成19年4月1日に落雷があり、教室の電気系統の復旧工事費用324万3345円の支出が必要となったことが認められ、修繕費も一定額は毎年必要であるから、修繕費の節減の効果の程度は不明である。
したがって、原告らの主張には理由がない。
(ウ) そして、原告らは役員報酬の削減について主張する。
証拠(省略)によれば、平成19年度の被告の役員報酬は約718万円であることが認められる。
しかし、前記のとおり、平成19年度の被告の収入補正人件費比率69.4パーセントのうちの1.6パーセントが役員報酬の占める割合であるから、役員報酬を削減するべきであるとは直ちにいえないし、また、約718万円という金額からすると、仮に役員報酬を全額削減したとしても、本件整理解雇がなかったとは直ちにいえない。
したがって、原告らの主張には理由がない。
(エ) また、原告らは寄付金の募集について主張するが、被告が、寄付金募集の努力をすれば、寄付金が少なくとも60万円増額したことを認めるに足りる証拠はないし、また、寄付金の増額にも一定の限界があり、寄付金の増額があれば、本件整理解雇がなかったとも直ちにいえないから、原告らの主張には理由がない。
(オ) さらに、原告らはc大学との提携について主張するが、証拠(省略)に照らし、被告が、本件整理解雇実施前から、c大学との提携を準備していたとは認められない。のみならず、c大学との提携後である平成21年度にも入学者数が更に減少していることにみられるとおり(書証省略)、c大学と提携をしたとしても入学者数が確実に増えることが予見できるわけでもないから、原告らの主張には理由がない。
(カ) そして、原告らは本件組合との団体交渉について主張する。
しかし、前記のとおり、平成18年度の専任教員の一人当たりの人件費は、大阪府の37の私立高等学校法人の平均と比較して、約68パーセントであったから、これ以上の人件費の削減には一定の限界があるし、人件費の削減に関する被告と本件組合との妥結の見通しも不明であるから、原告らの主張には理由がない。
(4) 人選の合理性
ア 人選の基準
(ア) 証拠(省略)及び弁論の全趣旨によれば、以下の事実が認められる。
a 被告は、本件整理解雇の対象者である7名の専任教員について、①直近2年度の平成18年度、平成19年度の懲戒歴を基準として、勤務態度及び能力に問題がある3名を選定し、②平成20年3月31日現在満52歳以上の者4名を選定した。
b ①の基準について、懲戒を受けた者は、平成18年度2名、平成19年度9名の合計11名であった。
しかし、平成18年度に懲戒を受けた2名及び平成19年度に懲戒を受けた1名は、すでに退職し、または、平成19年3月末に退職することとなっていた。
そして、残りの8名のうちの5名については、懲戒の対象行為が、平成20年2月27日の授業ボイコット及び生徒に対するビラ配りの扇動に関するものであり、被告と本件組合との対立が先鋭化する過程において発生したことであったので、被告は、当該懲戒の対象行為が勤務態度及び能力を評価する上であまり参考にならないと判断し、上記5名を整理解雇の対象者として選定しなかった。
そして、原告X4、原告X5、Gの3名が、平成18年度及び平成19年度に2回懲戒を受け、勤務態度及び能力に問題があったため、被告は同人ら3名を本件整理解雇の対象者として選定した。
c ②の基準について、被告が年功序列型賃金を採用し、年齢が高い教員ほど賃金も高かったこと等から、被告は、平成20年3月31日現在満52歳以上という年齢を整理解雇の対象者の選定基準とした。
そして、同日現在満52歳以上の者は、原告X1(56歳)、原告X2(53歳)、原告X3(52歳)及びH(昭和○年生まれの53歳)であり、被告は同人らを本件整理解雇の対象者として選定した。
(イ) 原告らの主張について
a 原告らは、被告が事前に人選基準を設定しなかったと主張する。
しかし、被告は、本件整理解雇前も本件整理解雇後も、なかなか人選基準を明らかにしなかったとしても、そのことから、直ちに、被告が事前に人選基準を設定しなかったとはいえない。また、被告が、本件整理解雇後に、数名の生徒及び保護者等から、原告ら解雇対象者の授業内容及び指導等について事情聴取するなどしたことを認めるに足りる証拠はない。
さらに、証人M及び証人Lの陳述書及び証言等を検討しても、整理解雇の対象者の選定基準について、同証拠の信用性を減殺するほどの供述の変遷があったということはできないし、M証言について、Mの記憶が減退している部分があるものの(証拠省略)、Mは、本件整理解雇の対象者の選定過程について、被告の準備書面を確認し、準備書面記載のとおりであると一応証言していることからすると(証拠省略)、M証言の信用性を減殺するとまではいえない。また、証人Mの尋問後に提出された陳述書(書証省略)についても、上記理由から、M証言の内容と大きく齟齬しているとまではいえず、同陳述書について、原告らの反対尋問を経ていないことを考慮しても、信用性が減殺されるとまではいえない。
そして、本件整理解雇の対象者の選定基準の決定過程について証人Mの陳述書(書証省略)及び証言(証拠省略)と証人Lの証言(証拠省略)とを比較しても、同証拠の信用性を減殺するほどの矛盾があるということもできない。
以上からすると、被告が事前に本件整理解雇の対象者の選定基準を設定していなかったとはいえない。
b また、原告らは前記①の基準の合理性について主張する。
しかし、整理解雇に当たって、そのころの勤務態度及び能力により、対象者を選定することは合理的である。そして、被告が教職員に対し懲戒をする際には、合理的な懲戒事由の存在が要求されるから、被告の恣意が介入する余地があるとはいえないし、直近2年度の懲戒歴の有無は、本件整理解雇のころの教職員の勤務態度及び能力を判断する際の合理的な基準であるということができるから、原告らの主張には理由がない。
c さらに、原告らは前記②の基準の合理性について主張する。
しかし、被告は年功序列型賃金を採用しているところ、被告において、年齢によって賃金にあまり差がないと認めるに足りる証拠はなく、また、年齢が高い教員には経験及び実績等があること、解雇対象者に対する影響を考慮しても、ほかに合理的な選定基準がない以上、年齢を選定基準とすることはやむをえないというべきであるから、原告らの主張には理由がないというべきである。
d そして、原告らは、本件整理解雇が原告らを排除するために実施されたと主張する。
しかし、被告が、平成20年1月又は同年2月ころに、後任の野球部の監督を決めたこと(証拠省略)、また、被告が、平成19年9月11日、同志社大学に対し、数学科の教員の新規採用を募集したことから(書証省略)、直ちに、本件整理解雇が原告らを排除するために実施されたということはできない。
イ 原告X4について
(ア) 後掲証拠及び弁論全趣旨によれば、以下の事実が認められる。
a 高野連に対する報告懈怠
平成19年9月中旬ごろ、野球部において部員同士のトラブルが発生したところ、被告代表者は、平成19年10月4日、上記事件を認識した。
そして、校長は、同月15日、硬式野球部の監督であった原告X4に対し、高野連に至急電話をするよう指示したにもかかわらず、原告X4はこれを怠った。
そして、同年10月下旬に、再び野球部において同種のトラブルが発生し、教頭自身がすぐに高野連に届け出たが、1回目のトラブルの高野連に対する報告がなかったこともあって、平成20年1月7日付けで、大阪府高等学校野球連盟から、本件高校に対し日本学生野球協会から警告を受けたと通知を受け、新聞にも報道され、対外試合を自粛させられる等の重い措置を受けた。(証拠省略)
b b中学校訪問の件
b中学校の生徒2名が、平成19年11月25日、本件高校の入試説明会に出席したところ、被告代表者は、同日、渉外担当者でもある原告X4に対し、早急にb中学校を訪問して本件高校への入学を勧めるよう指示した。
しかし、原告X4は、一向にb中学校を訪問しなかったため、被告代表者が、平成19年12月5日、原告X4に対し、進行状況を尋ねた。原告X4は、被告代表者の指示に違反して、同月11日になって、b中学校を訪問し、被告代表者に対し、校長及び担任の教員から、当該生徒2名は他の私立学校への入学を決めたと言われた旨報告した。(証拠省略)
c クラブだよりの執筆懈怠
職員朝礼において、平成19年12月22日発行のクラブだよりへの寄稿依頼があったところ、原告X4は職員朝礼に欠席した。
職員朝礼に欠席した教員は、学校日誌を閲覧して捺印するよう指導を受けていたにもかかわらず、原告X4が平成19年10月18日の学校日誌の閲覧を怠ったため、学校日誌に記載されていた寄稿依頼を認識せずに、クラブだよりを執筆しなかった。(証拠省略)
d 出勤停止処分
原告X4は、前記aないしcを理由として、平成20年1月24日付けで出勤停止10日間の懲戒処分を受けた(証拠省略)。
e 喫煙について
原告X4は、喫煙指定場所ではない体育教官室で喫煙していたことにより、平成20年2月8日付けで、譴責処分を受けた(証拠省略)。
(イ) 原告らの主張について
a 原告らは、懲戒事由について、上記認定事実と反する主張をし、主張に沿う原告X4の陳述書(書証省略)及び供述がある。
しかし、原告X4の上記陳述書及び供述は、いずれも、原告X4自身が作成した始末書(書証省略)の内容に反する。原告X4は意に反して同始末書を作成したなどと供述するが(証拠省略)、採用することができない。
b 高野連への報告の件に関し、原告X4は、高野連の理事に対し、1回目のトラブルについて電話で報告したところ、理事から「そちらで処理できるのであればそちらで処理して下さい」と言われた旨供述する。しかし、「高野連の理事の地位にある者に対する電話での話」と「高野連に対する報告」は、別の事柄である。理事の地位にある者であっても、「高野連に対する報告」と明示されずに知人から電話されれば個人的な相談と受け止める可能性が高く、「高野連」の立場で原告X4の話を聴取していたとも、事実関係や事態を正確に聞かされて把握していたとも、高野連としての責任を持った返答をしたとも認めるに足りる証拠がないから、これをもって、原告X4が「高野連に対する報告」をした、又はそれと同視し得る行為をしたとすることはできない。すなわち、原告X4の始末書(書証省略)には、「一回目の時に大阪府高校野球連盟に届けていたら二回目は無かったと予測されます」「私としては、一回目の時に、大阪府高校野球連盟に報告しなさい、という指示に従わなかったことを深く反省し」との記載があるが、それは、原告X4の、自分のした電話が「大阪府高校野球連盟への届出」や「報告」に当たるものではなかったとの認識を示すもののように理解される。
また、原告らが主張する平成20年8月の野球部の3年生の生徒による窃盗事件については、被告は高野連に対し報告しており(書証省略)、報告を怠ったX4に対する取扱いが不公平であるということはできない。
c b中学校の訪問の件について、原告らは、入試説明会に来た生徒2名は、当初から被告以外の学校への進学を決めていたから、被告代表者の指示に従っても生徒の勧誘にはつながらなかったと主張する。しかし、卒業を控えた中学生が入学する意思が全くない高校の入試説明会にわざわざ出席するということは考え難く、むしろ、入学する気持ちが、少なくとも幾分かはあるからこそ出席したものと認められる。そうだとすると、高校側の熱意によっては、生徒の勧誘に成功する可能性があり、被告代表者の指示に反して勧誘を行わなかった行為を業務指示違反として懲戒事由とした被告の行為は正当である。
d さらに、被告は、原告X4に対しクラブだよりの原稿を催促しなかった責任者を懲戒していないが(証拠省略)、そのことから直ちに原告X4に対する懲戒が無効であるとはいえない。
また、喫煙指定場所以外の場所において喫煙していた体育教員3名のうち、被告が、原告X4及びGしか懲戒していないとしても、そのことから直ちに原告X4に対する懲戒が無効であるとはいえない。
e 野球部の監督であった教員のPは、平成12年に、生徒をバットで殴って傷害を負わせたのに対し、被告はPを解雇していないが(証拠省略)、同事件は平成12年の事件であり、本件整理解雇の選定基準に当たらないから、被告が原告X4を恣意的に解雇したということはできない。
f 以上からすれば、原告X4の解雇は原告X4に対する懲戒を理由としており、被告が、原告X4が被告代表者らの指示に盲目的に従わなかったことを理由として解雇したとはいえず、原告X4の教育権を侵害したともいえない。
ウ 原告X5について
(ア) 前記のとおり、被告は、直近2年度の平成18年度、平成19年度の懲戒歴を基準として勤務態度及び能力に問題がある者を選定基準としたところ、被告が主張する解雇事由のうち、(a)英語の知識及び指導力の欠如並びに(b)粗暴な言動について、原告X5は、平成18年度、平成19年度に懲戒を受けておらず、同基準に該当するものとして考慮されるべきは譴責に該当する事実であるから、以下検討する。
(イ) 説明会における虚偽発言
被告は、説明会における虚偽発言について主張し、かかる主張に沿う証拠(省略)がある。
しかし、被告の前記①の整理解雇の基準は、直近2年度の懲戒歴を基準として、勤務態度及び能力に問題がある者というものであって、これは、整理解雇に当たって、そのころの勤務態度及び能力により、対象者を選定するというための基準である。
原告X5の前記説明会における発言は平成14年度中頃に、被告側当局者を始めとする多数の者の面前でされたことであって(証拠省略)、被告も直ちにこれを認識している。したがって、その発言の真否に重要な意味があり、虚偽発言であれば懲戒が必要だというのであれば、その当時において行われるべき事柄である。ところが、原告X5は、平成19年12月21日付け譴責のころまで、発言の真否を問い質されることもなく、注意も懲戒も受けていない(証拠省略)。上記事実によれば、原告X5の同発言は、発言の時点では真否に重要な意味がなく、懲戒を必要とする客観的に合理的な理由を欠いていたために、譴責が権利の濫用として無効であるか、又は本件整理解雇のころの原告X5の勤務態度及び能力に問題があるというにはあまりに古すぎる事柄であって、「整理解雇のころの勤務態度及び能力に問題がある者」に該当する行為とすることはできない。
よって、前記発言を前記①の整理解雇の基準に該当する事実ということはできない。
(ウ) 平成20年2月28日の授業における誹謗及び中傷発言について
被告は、平成20年2月28日の授業における誹謗及び中傷発言について主張し、かかる主張に沿う証拠(省略)がある。
しかし、被告は、平成20年2月27日の授業ボイコット及び生徒に対するビラ配りの扇動により懲戒を受けた5名の者について、被告と本件組合との対立が先鋭化する過程で発生したことであって、勤務態度及び能力を評価する上であまり参考にならないと判断している。そして、原告X5の平成20年2月28日の授業における誹謗及び中傷発言とされる行為も、同じく被告と本件組合との対立が先鋭化する過程で発生したことであるところ、証拠(省略)によっても、誹謗及び中傷発言の具体的な内容は不明であり、反対証拠(省略)に照らし、平成20年2月28日の授業における原告X5の発言が、上記5名の行為とは異質な行為であって、勤務態度及び能力に問題があると評価するに足りる内容のものであったと認めるに足りる証拠はない。そうだとすると、原告X5の上記発言については、上記5名の者と別異に判断する理由はないものといわざるを得ない。
(エ) 以上からすると、原告X5は、本件整理解雇の対象者の選定基準には当たらないから、原告X5に対する解雇は無効である。
(5) 手続の相当性
ア 証拠(省略)及び弁論の全趣旨によれば、以下の事実が認められる。
(ア) 被告は、本件整理解雇以前に、平成15年度から平成18年度にかけて合計7回の希望退職者の募集を実施し、説明会等において、教職員に対し、人員削減の必要性を説明していた。
(イ) 被告は、平成17年度から、財政難を理由に、①定期昇給の廃止、②給与等のカット、③期末手当の不支給を行い、本件組合は、平成17年9月と平成18年3月に、これに反対してストライキを実施した。被告は、上記①ないし③を継続したが、給与削減に対する教職員の抵抗は強く、平成18年度には全教職員に一律8万円の手当を支給せざるを得なかった。
(ウ) 平成19年11月、被告は、本件組合に対し、退職金規程と通勤燃料費支給の改訂(減額)を提案した。同年12月10日の団体交渉において、本件組合は、これに反対を表明するとともに、平成20年度の雇用保障を要求した。被告側の回答は「生徒減であり、教員の過員が生じている。学園の存続を第一に考える。財務状況を鑑みればこの先の保障を約束できない」等の内容であった。
(エ) 被告は、同年12月20日ころから平成20年1月10日ころにかけて、早期退職希望者を募集し、希望用紙を配付したが、本件組合は、その撤回を要求した。
被告は、平成19年12月21日から25日にかけて、満51歳以上の教職員に対して個別の退職勧奨も行い、人員削減の必要を説明した。しかし、これに応じた教職員はいなかった。本件組合は、平成20年1月20日の団体交渉において、被告に対し、個別の退職勧奨の撤回を要求したが、被告は応じなかった。
(オ) 本件組合は、同年1月29日の団体交渉において、「早期退職の要請を撤回して全員の雇用を確保する、ついては、財政危機の打開のため、理事改定案の退職金規程や通勤燃料費支給の改訂に組合も協力してほしいというなら話はわかる」という態度を示した。しかし、それ以上具体的な人件費削減方法や限度については、特に詰めていなかった。本件組合の態度としては、被告から人件費削減の提案を出した場合、これを見た上で応じるか否かを決定するということであった。
(カ) 同年2月19日に本件組合からの団体交渉申入れがあり、被告は、同月22日に団体交渉に応じる旨の回答をした。ところが、団体交渉の参加者について、本件組合は、分会員全員及び分会だけでなく本部執行役員の同席を要求し、被告は、従来どおり組合執行部との交渉を求めて、折り合いがつかなかったため、団体交渉は先延ばしになった。
(キ) 被告は、同月26日、同月28日までを募集期間とする希望退職者募集要綱を掲示板に掲示し、その中において、「既に再三お伝えしておりますとおり、生徒数の激減とそれに伴う法人財政の悪化により、現行の教員数のままで次年度以降の法人経営を行うことは到底不可能な状況となっております。……希望退職者募集について相当数の希望退職者が出ない場合には、法人として断腸の思いではありますが、相当数の教員につき近々整理解雇を行わざるを得ないこととなります。」旨記載した。被告は、同月22日の団体交渉において、上記掲示を行う旨説明する予定であったが、団体交渉が先延ばしとなったため、説明する機会を失したまま、掲示を行ったものである。
(ク) 同月27日、本件組合は、職員朝礼の後、上記掲示の撤回要求をしたところ、被告側は理事長が不在で、校長と事務長が「意見は聴いておく」「伝える」と回答したが、本件組合側は上記撤回要求を繰り返し続けて授業を実施しなかった。結局、午前12時ころ、教頭は生徒を下校させて本件高校は臨時休校となった。
本件組合は、帰宅する生徒に対し、職員一同の名前で、「保護者の皆様へ・生徒の皆様へ」と題する文書を配布し、保護者・生徒を巻込んだ反対運動を開始した。
被告は、同日夕刻より、全教職員を対象として説明会を行ったが、被告代表者は上記要綱をそのまま読み上げた段階で、批判の怒号が飛び交う状況であり、被告代表者はそれ以上の説明をしていない。
(ケ) 同月29日に団体交渉が開かれ、本件組合は、早期希望退職要請の撤回を求めるとともに、整理解雇の人数、対象者及び根拠について説明するよう求めたが、被告のM事務長は、「今はまだ言えない」と答え、「併願受験者の戻りで生徒数が確定する3月25日以降でないと言えない」と述べた。
(コ) 被告は、同年3月11日に、同年2月27日の前記職員朝礼の後に授業に行かなかった件で、参加者全員を減給とした。本件組合は、早期希望退職要請の撤回と減給撤回等を要求し、団体交渉を要求するとともに、同年3月24日及び25日に時限ストを行った。
(サ) 同月28日に団体交渉が行われ、本件組合は整理解雇の必要がない旨主張し、被告は、整理解雇は行うことを明示したが、人数も通知の仕方も明らかにしなかった。
同月29日、被告の理事長・校長と本件組合の3役(原告X1・原告X2・Q)と協議したが、理事長は整理解雇をすることは説明したのみで、人数、方法はについては言えないと述べた。
イ 以上のとおり、被告は、本件組合及び労働者に対し、本件整理解雇の人数及び方法等について説明していないなど、事前の協議が十二分になされていたかについては問題がある。しかし、上記ア(キ)のとおり早期退職希望者募集の掲示に、応募者が少ない場合の話として整理解雇に論及しただけで、上記ア(ク)のとおり、本件高校は授業ができず臨時休校となり、保護者・生徒を巻込んだ反対運動が展開される状況であるなど、前記ア認定の事実からすれば、被告が、本件組合及び労働者に対し、本件整理解雇の時期、規模及び人選基準等を説明しても、協議の進展の見込みは非常に疑問であり、被告において、仮に、本件整理解雇以前に解雇対象者が特定された場合、当該解雇対象者の動揺を含め、年度末までの教育指導に多大な支障を来す可能性があると考えて、前記ア認定の程度の説明にとどめたとしても、これを全く不合理とも断定し難いところである。
(6) まとめ
人員削減の必要性について、ある程度高度の必要性が認められること、前記解雇回避努力についても、被告は、希望退職者募集を何回も実施し、解雇回避努力を十分に尽くしたといえること、前記人選の合理性についても、原告X5を除けば、特に不合理な点がないことを総合的に考慮すれば、前記(5)イのとおり、手続の相当性について、事前の協議が十二分にされたかについては問題があるものの、全く不合理とも断定し難いから、原告X5以外の原告については、就業規則36条5号に該当する事実が認められ、本件整理解雇は有効と認められる。他方、原告X5については、人選の合理性が欠けるため、解雇は無効であるというべきである。
2 争点(2)(本件整理解雇は、不当労働行為に当たるか)について
原告らは、本件整理解雇が不当労働行為に当たると主張する。
しかし、本件整理解雇の必要性が認められることは前記のとおりであり、また、本件整理解雇の要件が満たされていることも前記のとおりである。そして本件整理解雇が、労働組合員であることないし労働組合の正当な行為をしたことの故をもってされたと認めるに足りる証拠はない。
さらに、本件高校において、平成21年度に、労働組合員である教員が担任から外されたり、同組合員の授業時間が減らされたとしても、それが労働組合員であることや労働組合の正当な行為をしたことの故をもって行われたと認めるに足りる証拠はないし、まして、そのことを平成19年度に行われた本件整理解雇が不当労働行為に該当することの証左とすることはできない。
したがって、本件整理解雇は不当労働行為に当たらない。
3 争点(3)(本件出勤停止の効力)について
前記原告X4に関する説示からすれば、就業規則3条、4条及び39条3号に違反し、57条1号、5号、9号に該当する事実が認められる。
そして、前記のとおり、原告X4は始末書を何通も提出しており、弁解の機会があったといえること、また、前記懲戒事由の内容からすれば、10日間の出勤停止が重きに失するということはできないから、上記出勤停止が懲戒権の濫用に当たり無効であるとはいえない。
したがって、原告X4に対する10日間の出勤停止の懲戒は有効である。
4 結論
以上からすると、原告らの請求は主文の限度で理由があるから、主文の限度でこれを認容し、その余の請求にはいずれも理由がないから、これをいずれも棄却することとし、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 山田知司 裁判官 檜皮高弘 裁判官 後藤英時郎)
(別表1)
(平成)
年月日
19.5.1
20.3.31
20.5.1
21.3.31
21.5.1
国語
専任教諭
5
5
3
3
3
常勤講師
0
0
0
0
1
非常勤講師
2
2
4
4
1
地歴公民
専任教諭
4
4
3
3
3
常勤講師
1
1
1
1
1
非常勤講師
1
1
2
2
2
数学
専任教諭
4
4
2
1
2
常勤講師
1
1
0
1
2
非常勤講師
1
1
4
4
1
理科
(理科・情報)
専任教諭
6
6
4
4
4
常勤講師
0
0
1
1
1
非常勤講師
1
1
2
2
1
保健体育
専任教諭
3
3
1
1
1
常勤講師
3
4
2
2
3
非常勤講師
1
1
1
1
0
英語
専任教諭
5
5
1
1
2
常勤講師
1
1
1
1
2
非常勤講師
2
2
5
7
4
家庭
専任教諭
1
1
1
0
0
常勤講師
0
0
0
0
0
非常勤講師
1
1
1
1
1
芸術
専任教諭
1
1
1
0
0
常勤講師
0
0
0
0
0
非常勤講師
2
2
2
2
1
養護教諭
専任教諭
1
1
1
1
1
常勤講師
0
0
0
0
0
非常勤講師
0
0
0
0
0
フランス語
1
1
小計
47
48
44
44
37
c大学からの
派遣非常勤
講師
1
(英語)
1
(英語)
5
(国語1、
数学1、
理科1、
英語2)