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大阪地方裁判所堺支部 平成20年(ワ)1739号 判決 2010年5月14日

当事者の表示

別紙当事者目録記載のとおり

主文

1(1)  原告X31と被告有限会社Y2との間で,被告有限会社Y2が,原告X31に対して行った平成20年5月2日付け減給10分の1の懲戒処分が無効であることを確認する。

(2)  被告有限会社Y2は,原告X31に対し,3万1601円及びこれに対する平成20年9月5日から支払済みまで年6分の割合による金員を支払え。

2(1)  原告X8と被告Y1株式会社との間で,被告Y1株式会社が,原告X8に対して行った平成20年5月2日付け減給20分の1の懲戒処分が無効であることを確認する。

(2)  被告Y1株式会社は,原告X8に対し,1万7298円及びこれに対する平成20年9月6日から支払済みまで年6分の割合による金員を支払え。

3(1)  原告X33と被告有限会社Y2との間で,被告有限会社Y2が,原告X33に対して行った平成20年5月2日付け出勤停止7日間の懲戒処分が無効であることを確認する。

(2)  被告有限会社Y2は,原告X33に対し,6万5758円及びこれに対する平成20年9月5日から支払済みまで年6分の割合による金員を支払え。

4(1)  原告X4と被告Y1株式会社との間で,被告Y1株式会社が,原告X4に対して行った平成20年5月17日付け減給10分の1の懲戒処分が無効であることを確認する。

(2)  被告Y1株式会社は,原告X4に対し,3万1539円及びこれに対する平成20年9月6日から支払済みまで年6分の割合による金員を支払え。

5  被告Y1株式会社は,原告X19に対し,4万1690円及びこれに対する平成20年6月8日から支払済みまで年6分の割合による金員を支払え。

6  原告らのその余の請求をいずれも棄却する。

7  訴訟費用は,原告X31,同X33,同X8及び同X4に生じた費用の2分の1を原告X31,同X33,同X8及び同X4の負担とし,原告X31,同X33,同X8及び同X4に生じたその余の費用と,被告らに生じた費用の40分の1とを被告らの負担とし,被告らに生じたその余の費用と原告X31,同X33,同X8及び同X4を除くその余の原告らに生じた費用は,原告X31,同X33,同X8及び同X4を除くその余の原告らの負担とする。

8  この判決は,第1(2)項,第2(2)項,第3(2)項,第4(2)項及び第5項に限り,仮に執行することができる。

事実及び理由

第1請求

1  主文1(1)及び(2),2(1)及び(2),3(1)及び(2)並びに4(1)及び(2)と同旨

2  原告X2(以下「原告X2」という。)と被告Y1株式会社(以下「被告Y1社」という。)との間で,被告Y1社が,原告X2に対して行った平成20年5月3日付け戒告の懲戒処分が無効であることを確認する。

3(1)  原告X19(以下「原告X19」という。)が,被告Y1社に対し,雇用契約上の権利を有する地位にあることを確認する。

(2)  被告Y1社は,原告X19に対し,4万1690円及びこれに対する平成20年6月8日から支払済みまで年6分の割合による金員,並びに,同年7月から本判決確定の日まで,毎月7日限り,月額34万5945円の割合による金員及びこれに対する各支払期日の翌日から支払済みまで年6分の割合による金員を支払え。

4  被告Y1社は,原告番号1ないし21の原告らに対し,それぞれ,別紙請求金目録1<省略>「合計」欄記載の金員及びこれに対する平成20年9月6日から支払済みまで年6分の割合による金員を支払え。

5  被告有限会社Y2(以下「被告Y2社」という。)は,原告番号22ないし33の原告らに対し,それぞれ,別紙請求金目録2<省略>「合計」欄記載の金員及びこれに対する平成20年9月5日から支払済みまで年6分の割合による金員を支払え。

6  被告らは,原告大阪自主労働組合日光支部(以下「原告日光支部」という。)に対し,連帯して,100万円及びこれに対する平成20年8月20日から支払済みまで年6分の割合による金員を支払え。

第2事案の概要

1  事案の要旨

本件は,①被告らの従業員である原告1ないし18,20ないし33の原告らが,被告らが行った懲戒処分が無効であると主張して,被告らに対し,懲戒処分の無効の確認並びに懲戒処分により減額された賃金及びこれに対する支払期日の後の日から支払済みまでの遅延損害金の支払を,②被告Y1社の従業員である原告X19が,被告Y1社が行った懲戒解雇が無効であると主張して,被告Y1社に対し,雇用契約上の権利を有する地位にあることの確認並びに未払賃金及びこれに対する支払期日の翌日から支払済みまでの遅延損害金の支払を,③原告1ないし33の原告らが,被告らが行ったロックアウトが不当であると主張して,被告らに対し,ロックアウトにより減額された賃金及びこれに対する支払期日の後の日から支払済みまでの遅延損害金の支払を,④原告日光支部が,被告らの不当労働行為により損害を被ったと主張して,被告らに対し,共同不法行為に基づいて,慰謝料及びこれに対する不法行為の日の後の日から支払済みまでの遅延損害金の支払を,それぞれ請求した事案である。

2  当事者間に争いがない事実等(当事者間に争いがないか,後掲証拠(枝番号を含む。以下同じ)及び弁論の全趣旨によって認められる。)

(1)  当事者

ア 原告ら

原告1ないし21の原告らは被告Y1社の従業員であり,原告番号22ないし33の原告らは被告Y2社の従業員である。

また,原告1ないし33の原告ら(以下「個人原告ら」という。)は,労働組合である原告日光支部の組合員である。

イ 被告ら

被告Y1社は,昭和61年3月25日,堺市塵芥清掃受託業務を目的として設立された株式会社であって,堺市より委託を受けたゴミ収集運搬業務を営業内容としており,資本金額は1000万円である(<証拠省略>)。現業業務を行う従業員は,原告1ないし21の原告らを含めて,32名である。

被告Y2社は,昭和63年8月24日,塵芥収集清掃業務等を目的として設立された有限会社であって,大阪狭山市より委託を受けたゴミ収集運搬業務を営業内容としており,資本金額は1000万円である(<証拠省略>)。現業業務を行う従業員は,原告22ないし33の原告らを含めて,21名である。

被告らの専務取締役は,平成17年5月ころから,B(以下「B専務」という。)であり(<証拠省略>),被告Y1社の常務取締役は,同月から,C(以下「C常務」という。)である(<証拠省略>)。

(2)  賃金の締め日及び支払日

被告らにおける賃金は,毎月末日締め翌月7日支払である(<証拠省略>)。

(3)  原告らに対する懲戒処分等

ア 原告X31(以下「原告X31」という。)に対する減給10分の1の懲戒処分

(ア) 被告Y2社は,平成20年5月2日,原告X31に対し,遅刻及び無断欠勤等を理由として,減給10分の1の懲戒処分を行った。

(イ) 被告Y2社は,前記減給10分の1の懲戒処分を理由として,原告X31に対し,平成20年5月分の賃金31万6010円から3万1601円を減額して,同月分の賃金を支払った(<証拠省略>)。

イ 原告X8(以下「原告X8」という。)に対する減給20分の1の懲戒処分

(ア) 被告Y1社は,平成20年5月2日,原告X8に対し,遅刻及び無断欠勤を理由として,減給20分の1の懲戒処分を行った。

(イ) 被告Y1社は,前記減給20分の1の懲戒処分を理由として,原告X8に対し,平成20年5月分の賃金34万5974円から1万7298円を減額して,同月分の賃金を支払った(<証拠省略>)。

ウ 原告X33(以下「原告X33」という。)に対する出勤停止7日間の懲戒処分

(ア) 被告Y2社は,平成20年5月2日,原告X33に対し,遅刻及び無断欠勤等を理由として,出勤停止7日間の懲戒処分を行った。

(イ) 被告Y2社は,前記出勤停止7日間の懲戒処分を理由として,原告X33に対し,平成20年5月分の賃金から6万5758円(日額9394円×7日=6万5758円)を減額して,同月分の賃金を支払った(<証拠省略>)。

エ 原告X2に対する戒告の懲戒処分

被告Y1社は,平成20年5月3日,原告X2に対し,原告X2が平成18年6月20日から同年9月30日までの間に派遣労働者に対し清掃車両を運転させたこと,平成19年5月5日の勤務時間中に知人の事業系一般廃棄物を収集したことを理由として,戒告の懲戒処分を行った。

オ 原告X4(以下「原告X4」という。)に対する減給10分の1の懲戒処分

(ア) 被告Y1社は,平成20年5月17日,原告X4に対し,原告X4が,被告Y1社において派遣労働者として就労していた際に,清掃車両を運転したこと(原告X2の懲戒事由に対応する。),暴力団系金融業者を名乗る人物から,被告Y1社に対し,原告X4に対する貸金の返還催促の電話があったこと等を理由として,減給10分の1の懲戒処分を行った。

(イ) 被告Y1社は,前記減給10分の1の懲戒処分を理由として,原告X4に対し,平成20年5月分の賃金から3万1539円を減額して,同月分の賃金を支払った(<証拠省略>)。

(4)  原告X19に対する解雇の意思表示

ア 解雇の意思表示

被告Y1社は,平成20年5月21日,原告X19に対し,原告X19が遅刻及び欠勤し,また,運転免許の取消処分を受けたこと等を理由として,同月31日をもって解雇するとの意思表示をした(以下,同解雇を「本件解雇」という。)。

イ 被告Y1社は,原告X19に対し,退職金の支払手続を行ったが,原告X19は退職金の受取を拒否した。

ウ 被告Y1社は,原告X19に対し,それぞれ,平成20年3月分の賃金として34万1844円(所得税等の控除前金額)を,同年4月分の賃金として34万4592円(所得税等の控除前金額)を,同年5月分の賃金として33万2648円を支払った(<証拠省略>)。

被告Y1社は,平成20年6月,平成19年4月1日に遡って,月額2200円の昇給を実施したものの,原告X19に対し,以下のとおり,昇給に伴う賃金及び一時金の各差額合計4万1690円を支払っていない。

(ア) 平成19年4月ないし平成20年3月の賃金及び一時金の各差額

a 賃金差額

2200円×12か月=2万6400円

b 一時金差額

2200円×4.95か月(一時金支払月数,弁論の全趣旨)=1万0890円

c 合計

2万6400円+1万0890円=3万7290円

(イ) 平成20年4月分及び同年5月分の賃金差額

2200円×2か月=4400円

(ウ) 合計

3万7290円+4400円=4万1690円

(5)  平成20年5月20日及び同月21日のロックアウト

ア 原告日光支部は,平成20年5月20日,始業時刻である午前6時に,ストライキを実施したところ,これに対し,被告らはロックアウトを実施した。

そして,原告日光支部の代表者である原告X24(以下「原告X24」という。)は,平成20年5月20日午前8時ころ,被告らに対し,「仕事をするので車両に乗らせて欲しい。」と申し出たものの,順法闘争を開始すると宣言したため,被告らはロックアウトを継続した。

そして,被告らは,同日のロックアウトを理由として,個人原告らを欠勤とした。

イ 被告らは,平成20年5月21日,始業時刻である午前6時ころまでロックアウトを継続し,原告らは,ロックアウト解除後に,タイムカードを打刻したが,打刻時刻は午前6時過ぎであった。

このため,被告らは,個人原告らを遅刻とした。

(6)  被告のロックアウトを理由とする個人原告らの賃金減額等

ア 平成20年5月分の賃金(同年6月7日支払)のカット

被告らは,個人原告らに対し,それぞれ,前記(5)アの平成20年5月20日の欠勤を理由として,別紙請求金目録1及び同2の「欠勤分」欄及び「皆勤分」欄記載の金額を減額して,賃金を支払った。

なお,別紙請求金目録1及び同2の「欠勤分」欄記載の金額は,同日午前8時以降の個人原告らの不就労に対応する金額である。

また,被告らは,個人原告らに対し,それぞれ,前記(5)イの平成20年5月21日の遅刻を理由として,別紙請求金目録1及び同2の「遅刻分」欄記載の金額を減額して,賃金を支払った。

イ 一時金の減額

被告らは,平成20年7月15日,個人原告らに対し,それぞれ,前記(5)アの同年5月20日の欠勤を理由として,別紙請求金目録1及び同2の「一時金」欄記載の金額を減額して,一時金を支払った。

(7)  被告Y1社の就業規則

ア 平成20年5月13日施行の被告Y1社の就業規則(以下「被告Y1社新就業規則」という。<証拠省略>)及び同日より前の被告Y1社の就業規則(以下「被告Y1社旧就業規則」という。<証拠省略>)には,以下のとおり,規定がある。

(ア) 被告Y1社新就業規則52条,同旧就業規則49条(制裁)

制裁は,その情状により,次の区分に従って行う。

a 訓戒(1号)

始末書を提出させ,将来を戒める。

b 減給(2号)

始末書を提出させ,1回の金額が1日分の平均賃金の半額,総額が1賃金支払期における賃金総額の10分の1の範囲内において行う。

c 出勤停止(3号)

始末書を提出させ,7日以内の出勤を停止し,その期間中の賃金は支払わない。

d 諭旨免職(4号)

辞表を提出させ,退職させる。指定時期までに辞表を提出しない場合は,懲戒解雇する。

この退職に応じた場合は,退職金を支払うことがある。

e 懲戒解雇(5号)

予告期間を設けることなく,即時に解雇する。

この場合,所轄労働基準監督署長の認定を受けた時は,解雇予告手当を支払わず,退職金も支払わない。

(イ) 被告Y1社新就業規則55条及び同旧就業規則50条(訓戒,減給及び出勤停止並びに降格)

次の各号の一つに該当するときは,減給,出勤停止又は降格に処する。ただし,情状により,訓戒にとどめることがある。

a 正当な理由なく,無断欠勤したとき(1号)

b 正当な理由なく,しばしば,遅刻,早退又は欠勤したとき(2号)

c 就業期間中に職務を怠ったとき(3号)

d 素行不良で会社内の秩序及び風紀を乱したとき(5号)

e 越権又は専断な行為があったとき(6号)

f 正当な理由なく,上司に反抗し,また,その命令を守らなかったとき(9号)

(ウ) 被告Y1社新就業規則63条及び同旧就業規則56条(解雇及び解雇手続)各1項

従業員が次の各号の一つに該当する場合は,30日前に予告するか,または,労働基準法12条に規定する平均賃金30日分を支払って,解雇する。ただし,臨時に雇い入れた者,及び試用期間中の者で入社後14日を経過していない者は,予告手当を支払わないで,即時解雇する。

a 勤務成績不良,または,能率が悪く就業に適さないと認められるとき(4号)

b 法令又は諸規則等の軽微な違反を再三犯し,反省が見られないとき(5号)

c 被告Y1社新就業規則56条及び同旧就業規則51条に定める諭旨免職又は懲戒解雇の基準に該当したとき(12号)

d その他,前各号に準ずる事由があったとき(13号)

イ 被告Y1社新就業規則には,以下のとおり,規定がある(<証拠省略>)。

56条(諭旨免職及び懲戒解雇)

次の各号の一つに該当するときは,懲戒解雇する。ただし,状況により,諭旨免職にする場合がある。

a 数回にわたり,訓戒,減給及び出勤停止等の制裁を受けたにもかかわらず,改善の見込みがないとき(9号)

b 公私を問わず,法令違反により,運転免許の取消処分を受けたとき(17号)

c その他,前各号に準ずる程度の不都合な行為があったとき(20号)

ウ 被告Y1社旧就業規則には,以下のとおり,規定がある(<証拠省略>)。

(ア) 37条(出退勤)

従業員は,出勤及び退勤の時は,次の事項を守らなければならない。

a 始業時刻までに出勤し,タイムレコーダーに自ら打刻し,就業の態勢を整えておかなければならない(1項)。

(イ) 40条(欠勤の手続)

従業員は,病気その他やむを得ない事由により欠勤しようとするときは,事前に会社に申し出なければならない(1号)。

(ウ) 51条(諭旨免職及び懲戒解雇)

次の各号の一つに該当するときは,懲戒解雇にする。但し,状況により,諭旨免職にする場合がある。

a 数回にわたり,訓戒,減給及び出勤停止等の制裁を受けたにもかかわらず,改善の見込みがないとき(9号)

b 公私を問わず,飲酒運転を理由として,運転免許の取消処分を受けたとき(16号)

c その他,前各号に準ずる程度の不都合な行為があったとき(19号)

(8)  被告Y2社の就業規則

被告Y2社の就業規則(以下「被告Y2社就業規則」という。)には,以下のとおり,規定がある(<証拠省略>)。

ア 41条(遅刻及び早退)2号

現業部門について,15分を超える遅刻の場合は,出社に及ばない。

イ 49条(制裁)

制裁は,その情状により,次の区分に従って行う。

(ア) 訓戒(1号)

始末書を提出させ,将来を戒める。

(イ) 減給(2号)

始末書を提出させ,1回の金額が1日分の平均賃金の半額,総額が1賃金支払期における賃金総額の10分の1の範囲内において行う。

(ウ) 出勤停止(3号)

始末書を提出させ,7日以内の出勤を停止し,その期間中の賃金は支払わない。

(エ) 諭旨免職(4号)

辞表を提出させ,退職させる。指定時期までに辞表を提出しない場合は,懲戒解雇する。

この退職に応じた場合は,退職金を支払うことがある。

(オ) 懲戒解雇(5号)

予告期間を設けることなく,即時に解雇する。

この場合,所轄労働基準監督署長の認定を受けた時は,解雇予告手当を支払わず,退職金も支払わない。

ウ 50条(訓戒,減給及び出勤停止並びに降格)

次の各号の一つに該当するときは,減給,出勤停止又は降格に処する。ただし,情状により,訓戒にとどめることがある。

(ア) 正当な理由なく,無断欠勤したとき(1号)

(イ) 正当な理由なく,しばしば,遅刻,早退又は欠勤したとき(2号)

(9)  確認の利益

被告らは,原告X31,原告X8,原告X33,原告X2及び原告X4に対する懲戒処分が有効であると主張し,また,原告X19に対する解雇が有効であり,原告X19と被告Y1社との間の雇用契約が終了したと主張している。

3  争点

(1)  争点(1)(原告X31に対する減給10分の1の懲戒処分の有効性)

(2)  争点(2)(原告X8に対する減給20分の1の懲戒処分の有効性)

(3)  争点(3)(原告X33に対する出勤停止7日間の懲戒処分の有効性)

(4)  争点(4)(原告X2に対する戒告の懲戒処分の有効性)

(5)  争可(5)(原告X4に対する減給10分の1の懲戒処分の有効性)

(6)  争点(6)(原告X19に対する本件解雇の有効性)

(7)  争点(7)(懲戒処分及び本件解雇は不当労働行為に当たるか。)

(8)  争点(8)(被告らによるロックアウトの正当性)

(9)  争点(9)(原告日光支部の損害の有無及び慰謝料の金額)

4  争点に対する当事者の主張(省略)

第3当裁判所の判断

1  争点(1)(原告X31に対する減給10分の1の懲戒処分の有効性)

(1)  懲戒事由の有無

ア 前記第2,2(当事者間に争いがない事実等),後掲証拠及び弁論の全趣旨によれば,以下の事実を認めることができる。

原告X31は,平成19年6月に被告Y2社の従業員となった(<証拠省略>,原告X31<以下頁数省略>)。

そして,原告X31は平成19年7月5日に無断欠勤したため,被告Y2社は,同月26日,原告X31に対し,「心より反省し,二度と遅刻や無断欠勤等をしないことを誓約いたします。」と記載された始末書を提出させて,訓戒の懲戒処分を行った(<証拠省略>)。

しかし,原告X31は,平成19年8月13日に10分間,同月14日に2分間,同年11月26日に3分間,それぞれ遅刻し,平成20年1月18日には,午前6時15分を過ぎても出勤することができず,欠勤扱いとなった(<証拠省略>)。

なお,被告らにおいては,清掃車両が一定時間までに会社を出発してしまうこととの関係で,従業員から被告らに対し遅刻の連絡があった場合に,出勤時刻が15分以上遅れると「欠勤扱い」となり,1日賃金を減額するという就労実態が,労使合意の下で行われている。これは,連絡なく欠勤する「無断欠勤」とは別のものとされ,被告らも,懲戒処分の是非・軽重を検討するに当たっては,両者を厳正に区別している(被告ら代表者<以下頁数省略>,<証拠省略>)。

イ これに対し,原告X31は,平成19年7月5日の無断欠勤について,同日午前6時過ぎに,B専務に対し連絡したところ,B専務からもう無断欠勤であると言われたのであって,実際は無断欠勤ではないと供述する(原告X31)。

しかし,平成19年7月5日に無断欠勤した旨記載された原告X31作成の同月26日付け始末書(<証拠省略>)に照らして,原告X31の供述を採用することはできない。

(2)  就業規則上の根拠の有無

前記(1)アの認定事実が,被告Y2社就業規則50条1号及び同条2号に該当することは明らかであり,また,これについての制裁として減給を選択しても,重きに失するということはできない。

(3)  労働基準法91条違反

前記第2,2(当事者間に争いがない事実等)(3)ア(イ)のとおり,被告Y2社は,減給10分の1の懲戒処分を理由として,原告X31に対し,平成20年5月分の賃金31万6010円から3万1601円を減額して,同月分の賃金を支払ったことが認められる。

しかし,原告X31について,平均賃金の算定期間から控除されるべき休業期間等を認めるに足りる証拠はなく,上記減給の金額3万1601円が,平均賃金の1日分の半額を超えていることは明らかであるから,原告X31に対する減給10分の1の懲戒処分は,労働基準法91条に違反し(被告Y2社就業規則49条2号にも違反する。),無効であるというべきである。

2  争点(2)(原告X8に対する減給20分の1の懲戒処分の有効性)

(1)  懲戒事由の有無

ア 前記第2,2(当事者間に争いがない事実等),後掲証拠及び弁論の全趣旨によれば,以下の事実を認めることができる。

原告X8は,平成5年1月5日に被告Y1社の従業員となってから,平成6年4月9日まで,度々注意を受けたにもかかわらず,遅刻及び無断欠勤を度々繰り返し,同日,「今後このような事があれば退社することを誓約いたします」と記載された始末書を提出した(<証拠省略>)。

その後,原告X8は,平成17年4月5日に5分間(<証拠省略>),同年8月19日に1分間(<証拠省略>),同年9月17日に短時間(<証拠省略>),同年12月13日に短時間(<証拠省略>),平成18年4月26日に1分間(<証拠省略>),それぞれ遅刻した。

そして,原告X8は,平成20年1月26日,無断欠勤した(<証拠省略>)。

イ これに対し,原告X8は,平成20年1月26日の無断欠勤について,同日午前6時20分過ぎころ,D常務に対し連絡したのであるから,無断欠勤ではないと供述する(原告X8)。

しかし,平成20年1月26日に無断欠勤した旨記載された原告X8作成の同年5月2日付け誓約書(<証拠省略>)に照らして,原告X8の供述を採用することはできない。

なお,原告X8は,被告Y1社が原告日光支部との間で懲戒処分について話合いがついたので,始末書に署名するよう述べたため,原告X8は平成20年5月2日付けの誓約書(<証拠省略>)に署名したところ,実際には,被告Y1社と労働組合との間において,懲戒処分について話合いがついていなかったと供述し(<証拠省略>,原告X8),また,被告ら代表者は,原告X8に対し,労働組合も処分を了承していると説明して,同誓約書(<証拠省略>)に署名押印してもらったと供述する(被告ら代表者)。

しかし,原告日光支部が,原告X8に対する懲戒処分について了承していたかどうかという問題と,原告X8の懲戒事由の有無の問題とは,別の問題であるから,仮に原告日光支部が原告X8に対する懲戒処分について了承していなかったとしても,平成20年1月26日の無断欠勤の事実の存否についてまで疑いを生ぜしめるものではない。

(2)  就業規則上の根拠

前記(1)アの認定事実が,被告Y1社旧就業規則50条2号に該当することは明らかであり,また,これに対する制裁として減給を選択しても,重きに失するということはできない。

(3)  労働基準法91条違反

前記第2,2(当事者間に争いがない事実等)(3)イ(イ)のとおり,被告Y1社は,減給20分の1の懲戒処分を理由として,原告X8に対し,平成20年5月分の賃金34万5974円から1万7298円を減額して,同月分の賃金を支払ったことが認められる。

しかし,原告X8について,平均賃金の算定期間から控除されるべき休業期間等を認めるに足りる証拠はなく,上記減給の金額1万7298円が,平均賃金の1日分の半額を超えていることは明らかであるから,原告X8に対する減給20分の1の懲戒処分は,労働基準法91条に違反し(被告Y1社旧就業規則49条2号にも違反する。),無効であるというべきである。

3  争点(3)(原告X33に対する出勤停止7日間の懲戒処分の有効性)

(1)  懲戒事由の有無

ア 前記第2,2(当事者間に争いがない事実等),後掲証拠及び弁論の全趣旨によれば,以下の事実を認めることができる。

原告X33は,平成19年6月,被告Y2社の従業員となった(<証拠省略>,原告X33)。

そして,原告X33は,平成19年8月25日に無断欠勤し,同年10月2日に遅刻し,さらに,平成20年2月27日には,午前6時15分を過ぎるまで,被告Y2社に対し連絡せず,欠勤扱いとなった(<証拠省略>,被告ら代表者)。

イ これに対し,原告X33は,平成19年8月25日の無断欠勤について,同日,B専務に対し連絡をしたから,無断欠勤ではないと供述する(原告X33)。

しかし,平成19年8月25日に無断欠勤した旨記載された原告X33作成の平成20年5月2日付け誓約書(<証拠省略>)に照らして,原告X33の供述を採用することはできない。

(2)  就業規則上の根拠

前記(1)アの認定事実が,被告Y2社就業規則50条2号に該当することは明らかである。

(3)  原告X33について,懲戒事由は,平成19年8月25日の無断欠勤,同年10月2日の遅刻及び平成20年2月27日の欠勤扱いであるところ,原告X33が,出勤停止7日間の懲戒処分を受けるまで,被告Y2社の従業員となった後に発生した懲戒事由を理由として,他の懲戒処分を受けたことを認めるに足りる証拠がないことからすると,原告X33に対する出勤停止7日間の懲戒処分は,重きに失しており,懲戒権の濫用に当たるというべきである。

これに対し,被告らは,原告X33が,派遣労働者の際の平成19年4月30日,同年5月22日に無断欠勤したと主張するが,原告X33の派遣労働者の際の無断欠勤については,被告らは懲戒権を有しておらず,懲戒権の濫用の有無の判断の際に,このような被告らが懲戒権を有しない無断欠勤を考慮することは許されないというべきである。

また,被告らは,原告X33が,懲戒処分後に,傷害事件により逮捕勾留され,罰金刑を受けたと主張するが,同傷害事件は私生活上のものであり(原告X33),傷害事件と遅刻及び無断欠勤等とは内容及び性質が異なるから,原告X33が傷害事件を起こしたことから,原告X33が懲戒処分時に欠勤や遅刻について反省していなかったとはいえない。

以上からすると,原告X33に対する出勤停止7日間の懲戒処分は無効である。

4  争点(4)(原告X2に対する戒告の懲戒処分の有効性)

(1)  懲戒事由の有無

ア 派遣労働者の清掃車両の運転

(ア) 前記第2,2(当事者間に争いがない事実等),後掲証拠及び弁論の全趣旨によれば,以下の事実を認めることができる。

被告Y1社は,平成18年当時,派遣会社から人材派遣を受け,派遣会社との契約により,派遣労働者に対し,車両を運転させてはならないこととされていた(<証拠省略>)。

このため,被告Y1社の代表者は,朝礼等において,派遣労働者に対し清掃車両を運転させないように業務命令を発していた(<証拠省略>)。

原告X2は,平成18年6月20日から同年9月30日まで,勤務時間中に,派遣労働者である原告X4に対し,数回,清掃車両を運転させた(<証拠省略>)。

(イ) これに対し,原告X2は,当時,派遣労働者の運転禁止について知らなかったと供述する(原告X2)。

しかし,原告X2が,被告Y1社からの業務命令を受けて,派遣労働者に対し清掃車両を運転させてはならないことを知っていた旨記載された原告X2作成の平成20年5月3日付け始末書(<証拠省略>)及び被告Y1社が,かねてから,朝礼等において,派遣労働者に清掃車両を運転させないように注意していた旨のDの陳述(<証拠省略>)に照らして,原告X2の供述を採用することはできない。

イ 事業系一般廃棄物の収集

(ア) 証拠(<証拠・人証省略>,被告ら代表者)によれば,事業系一般廃棄物は有料で収集するべきものであるにもかかわらず,原告X2は,平成19年5月5日,勤務時間中である午前10時5分ないし10分ころに,堺市<以下省略>付近において,被告Y1社の許可を得ずに,民家の前に停車していたサッシ店の2トントラックに積んである段ボールを被告Y1社の清掃車両に積み込み,知人が排出した事業系一般廃棄物を無料で収集したことが認められる。

(イ) これに対し,原告X2は,民家の住民が出した段ボールを収集したと供述する(原告X2)。

しかし,証拠(<証拠省略>,原告X2)によれば,Eは,民家の玄関のエクステリア工事をしており,知人である原告X2に対し,Eが施工した門扉を梱包していた段ボールの収集を依頼し,原告X2も,同段ボールが,Eが施工した門扉を梱包していたものであることを認識して,同段ボールを収集したことが認められる。そして,同段ボールは,施工業者が施工した門扉を梱包していたものであるから,門扉の施工自体は民家の工事であるとしても,同段ボールは,施工業者が排出した事業系一般廃棄物であるというべきである。

また,証拠(<証拠・人証省略>)によれば,原告X2の同段ボールの収集を目撃したDは,平成19年5月5日午前11時15分ころ,原告X2に対し,「あんなこと止めといて。問題になるで。」と問い質したところ,原告X2は,「すいませんでした。もうしません。」と言ったことが認められる。なお,原告X2は,「すみません。」と言った理由について,段ボールの収集の経過を説明するのが嫌だったからであると供述するが(原告X2),同供述は採用できない。

さらに,原告X2は,平成19年5月5日に事業系一般廃棄物を収集した旨の平成20年5月3日付け始末書(<証拠省略>)を作成している。なお,原告X2は,同始末書を作成した理由について,もめ事を大きくせずに,また,原告X2が誤解を招いたことが悪かったことから,署名押印したと供述するが(原告X2),同供述は採用できない。

したがって,民家の住民が出した段ボールを収集した旨の原告X2の供述は採用できない。

(2)  就業規則上の根拠の有無

証拠(<証拠省略>)によれば,平成20年5月3日に被告Y1社が原告X2に対してした「戒告」とは,被告Y1社旧就業規則所定の「訓戒」であることが認められる。そして,前記(1)ア(ア)及びイ(イ)の各認定事実が,被告Y1社旧就業規則50条3号,6号,9号に該当することは明らかである。

(3)  解雇権濫用該当性

原告らは,原告X4の清掃車両の運転回数は約2ないし3回であり,1回の運転時間は約20ないし30分であって,被告らの業務に支障が発生していないと主張する。

しかし,原告X4の清掃車両の運転が,被告Y1社の業務命令に違反することに変わりがなく,証拠(<証拠省略>)によれば,被告Y1社の従業員が,原告X2に対し,「(原告X4に)運転さしたらいかんでしょ。」と注意したが,原告X2は,これを無視して,その後も,原告X4に清掃車両を運転させたことが認められるから,職場規律への影響も小さくないといえる。

以上のほか,派遣労働者の清掃車両の運転及び事業系一般廃棄物の収集の内容からすると,清掃車両の運転時期が平成18年6月20日から同年9月30日までであり,段ボールの収集時期が平成19年5月5日であることを考慮しても,原告X2に対する戒告(訓戒)の懲戒処分が,重きに失するとはいえず,懲戒権の濫用に当たるとはいえない。

(4)  事前協議について

証拠(<証拠省略>)によれば,被告らと原告日光支部とが,平成20年11月15日に締結した労働協約では,団体交渉付議事項の中に組合員の解雇及び懲戒処分に関する事項が挙げられている(8条3項)。しかし,同条項は,団体交渉の議題となり得ることを定めたものであって,予め協議しなければならないとの趣旨と解することはできないうえ(事前通知・協議条項は23条である。),上記労働協約締結は,原告X2に対する戒告の懲戒処分後であって,これをもって,被告らが,原告日光支部の組合員の懲戒処分について,予め,原告日光支部と協議しなければならないとする根拠とすることはできないし,他にこれを認めるに足りる証拠はない。原告らの主張には理由がない。

5  争点(5)(原告X4に対する減給10分の1の懲戒処分の有効性)

(1)  清掃車両の運転等

前記第2,2(当事者間に争いがない事実等),後掲証拠及び弁論の全趣旨によれば,以下の事実を認めることができる。

原告X4は,派遣労働者であった平成18年6月20日から同年9月30日まで,派遣労働者の車両運転が禁止されていたにもかかわらず,清掃車両を運転した(<証拠省略>)。

そして,原告X4は,被告Y1社の従業員となった後である平成19年8月13日,B専務から,派遣労働者の際の清掃車両の運転について事情を聴かれたところ,清掃車両の運転を否定した(<証拠・人証省略>,原告X4,被告ら代表者)。

また,原告X4は,平成20年5月17日にも,派遣労働者の際の清掃車両の運転を否定したものの,B専務から,原告X2が運転させたと言っていると言われると,清掃車両の運転を認めた(<証拠省略>,原告X4,被告ら代表者)。

(2)  暴力団系金融業者を名乗る人物からの電話等

ア 前記第2,2(当事者間に争いがない事実等),後掲証拠及び弁論の全趣旨によれば,以下の事実を認めることができる。

原告X4は,暴力団系金融業者を名乗る人物から,借金をしたところ,平成19年秋ころ,同人物から,被告Y1社の専務及び事務員に対し,借金の返済の催促の電話が何度もかかるようになり,事務に支障が発生した(<証拠・人証省略>,被告ら代表者)。

イ 原告X4は,暴力団系金融業者を名乗る人物から借金をしたことはないと供述する(<証拠省略>,原告X4)。

しかし,原告X4は,暴力団系金融業者を名乗る人物からの電話の原因が自分にある旨の平成20年5月17日付けの始末書(<証拠省略>)を作成していることからすると,上記供述を採用することはできない。

なお,原告X4は,暴力団系金融業者を名乗る人物からの電話の原因が自分にあることを否定する供述をしているが(原告X4),その内容からして,これを採用しない。

また,原告X4は,社長室において,社長,専務及び常務に囲まれ,始末書に署名しなければ社長室から出られない状況であったので,仕方なく上記始末書(<証拠省略>)に署名したと供述する(原告X4)。

しかし,原告X4は,他方で,社長,専務及び常務が,原告X4を威嚇したり,原告X4が社長室から出ることを妨害したりしていないと供述しているから(原告X4),上記供述は,上記認定を左右しない。

(3)  就業規則上の根拠の有無及び懲戒権の濫用

ア 清掃車両の運転等

前記(1)の原告X4の清掃車両の運転は,派遣労働者の際の行為であるところ,原告X4が派遣労働者であった際には,原告X4と被告Y1社との間には雇用関係がなかったのであるから,原告X4の清掃車両の運転自体は,懲戒事由とならない。

前記(1)のとおり,原告X4は,被告Y1社から,清掃車両の運転について事情を聴かれたところ,被告らとしては,他の関係者がいる可能性や,類似事案の今後の防止措置等を検討するために事実関係を把握しておく必要があるから,原告X4は,当該事情聴取において虚偽の供述等をして供述を変遷させたことにより,一応被告Y1社の事実関係把握を妨げたということができる。しかし,当該事情聴取の対象となっているのは,原告X4の懲戒事由となる事柄ではないうえ,上記供述の変遷も一時的なものであって軽微であり,被告Y1社旧就業規則50条5号(同新就業規則55条5号)が,そのような軽微な程度のものまで想定しているのかは疑問であり,仮にこれに該当し得るとしても,それのみを理由として,減給の懲戒処分をするならば,あまりに重きに失し,懲戒権の濫用に該当するものといわざるを得ない。

イ 暴力団系金融業者を名乗る人物からの電話等

借金自体は素行不良に当たるとはいえず,借金の相手方が暴力団系金融業者を名乗る人物であっても,同人物からの借金が直ちに素行不良に当たるということはできない。

また,暴力団系金融業者を名乗る人物からの電話についても,電話をかけた者は,同人物であって,原告X4ではないのであるから,同電話が,原告X4の素行不良に当たるということはできない。

したがって,前記(2)アの暴力団系金融業者を名乗る人物からの電話等は,被告Y1社旧就業規則50条5号(同新就業規則55条5号)に該当しない。

(4)  以上からすると,原告X4に対する減給10分の1の懲戒処分は無効である。

6  争点(6)(原告X19に対する本件解雇の有効性)

(1)  解雇事由の有無

ア 原告X19の遅刻及び欠勤

原告X19は,平成16年7月から平成19年1月13日まで18回遅刻し,平成16年4月には2日連続して無断欠勤し,さらに,平成18年12月30日に無断欠勤したため,被告Y1社は,平成19年1月13日,原告X19に対し,「心より反省し,二度と無断欠勤などしないことを誓約いたします。今後,このようなことがあれば,退職致します。」と記載された始末書を提出させて,訓戒の懲戒処分を行った(<証拠省略>)。

その後,原告X19は平成19年3月24日に無断欠勤したため,被告Y1社は,同年7月3日,原告X19に対し,「2度とこのようなことをしないことを誓約いたします。」,「今後,無断欠勤等を私が行った場合には,懲戒解雇処分とされてもやむを得ないことは,十分承知しています。」と記載された始末書を提出させて,出勤停止5日間の懲戒処分を行った(<証拠省略>)。

さらに,原告X19は,平成19年8月21日,同月24日,同月30日,同年9月11日に遅刻したため,被告Y1社は,同月26日,原告X19に対し,「今後,2度と,1分たりとも,遅刻致しません。無断欠勤などもっての外です。今後,私が,1度でも遅刻しました場合には,貴社から処分していただくまでもなく,自ら退職致します。」と記載された始末書を提出させて,出勤停止7日間の懲戒処分を行った(<証拠省略>)。

しかし,原告X19は,平成20年3月22日に1ないし2分間遅刻した(<証拠省略>,被告ら代表者)。

イ 運転免許の取消処分等

原告X19は,平成19年6月,自動車を運転して36km毎時の制限速度超過違反をし,同年12月29日,脇見運転を原因として,信号待ちをしていた軽四輪自動車に自車を追突させる人身事故を起こし,また,平成20年1月4日,自動車を運転して48km毎時の制限速度超過違反をし,これにより,同年3月4日,運転免許の取消処分を受けた(<証拠省略>,原告X19)。

(2)  就業規則上の根拠の有無

ア 原告X19の遅刻及び欠勤

前記(1)アの事実は,被告Y1社旧就業規則51条9号,56条1項12号に該当する。また,前記(1)アの事実からすると,原告X19の勤務成績は不良であって,前記(1)アの事実は,被告Y1社旧就業規則56条1項4号に該当する。さらに,遅刻及び無断欠勤は,被告Y1社旧就業規則37条1項,40条1号に該当するところ,原告X19は遅刻及び無断欠勤を再三繰り返し,反省が見られないといえるから,前記(1)アの事実は,被告Y1社旧就業規則56条1項5号に該当する。

確かに,前記(1)アの事実からすると,原告X19は,平成19年3月以降,欠勤しておらず,また,遅刻についても,原告X19は,平成19年9月に遅刻を理由として出勤停止7日間の懲戒処分を受けてから,平成20年3月22日までは遅刻しておらず,また,平成20年3月22日の遅刻時間は1ないし2分間である。

しかし,原告X19は,平成16年7月から平成19年1月13日までの18回の遅刻,平成16年4月の2日連続の無断欠勤,平成18年12月30日の無断欠勤を理由として,平成19年1月13日に訓戒の懲戒処分を受け,また,同年3月24日の無断欠勤を理由として,同年7月3日に出勤停止5日間の懲戒処分を受け,さらに,平成19年8月21日,同月24日,同月30日,同年9月11日の遅刻を理由として,同月26日に出勤停止7日間の懲戒処分を受け,このように,度々,懲戒処分を受けながら,半年後の平成20年3月22日には,1ないし2分間とはいえ,遅刻したのであるから,改善の見込みがないというべきであって,前記(1)アの事実は被告Y1社旧就業規則51条9号,56条1項12号に該当するというべきである。

イ 運転免許の取消処分等

前記(1)イの運転免許の取消処分等は,被告Y1社旧就業規則56条1項12号,51条19号に該当する。

すなわち,被告Y1社旧就業規則51条16号には飲酒運転を理由とする運転免許の取消処分が規定されているところ,同号の規定振りからすれば,飲酒運転だけでなく,運転免許の取消処分にも重点が置かれており,同号は,①飲酒運転という社会的非難を受ける行為により,②運転免許取消処分を受けた場合を指すと理解することができる。そして,前記(1)イからすると,原告X19の制限速度超過違反と人身事故は,回数,速度違反の程度,事故の原因,各行為の時期的近接性を考えれば,全体として飲酒運転にも匹敵するほどの社会的非難を受ける行為であると言い得るから,前記(1)イの運転免許の取消処分等は,被告Y1社旧就業規則56条1項12号,51条19号に該当するというべきである。

確かに,原告X19の人身事故及び制限速度超過違反は私生活上の行為である。しかし,同条16号は,「公私を問わず」と規定されているから,同条19号の規定されている行為のうち,「同条16号に準ずる程度の不都合な行為」も,やはり公私を問わず,私生活上の行為を含むものである。なお,被告Y1社の従業員は業務上清掃車両を運転しているところ,原告X19も,業務上清掃車両を運転することがあり(原告X19,原告X19は,平成19年12月6日,清掃車両を運転していたところ,後退の際に,清掃車両の後部を自動車の前部に衝突させ,当該自動車のバンパー及びヘッドライト等に傷をつける事故を起こしている(<証拠省略>)。),運転免許の取消処分が,原告X19の業務に支障を及ぼさないとか,純然たる私生活上の問題に止まるとか,ということもできない。

ウ 事前協議条項

証拠(<証拠省略>)によれば,被告らと原告日光支部とが平成20年11月15日に締結した労働協約では,団体交渉付議事項として,組合員の解雇及び懲戒処分に関する事項が挙げられていること(8条3項),被告らが組合員を解雇(懲戒解雇を除く。)するときは,あらかじめ原告日光支部に対し通知し協議することとされていること(23条)が認められる。そして,証拠(被告ら代表者)によれば,上記労働協約23条は,被告らが以前他の労働組合と締結していた協定の中にあったものを,同日に原告日光支部にも引き継いだものであることが認められる。

しかし,証拠(被告ら代表者)によれば,同労働協約の締結は,本件解雇後であって,本件解雇当時は,労働協約を原告日光支部と被告らとが引き継ぐか否かを巡って労働委員会で対立・交渉していた段階であるから,本件解雇が同労働協約に違反しているということも,いまだ原告日光支部に引き継がれていなかった他の労働組合との間の協定に違反するということもできない。

また,上記団体交渉付議事項(8条3項)は団体交渉の議題を定めたものであって,解雇に先立ち,団体交渉に付議する義務を定めたものと解することはできないし,他に,本件解雇が労働協約の事前協議条項に違反していることを認めるに足りる証拠はない。

エ 本件解雇

証拠(<証拠省略>)によれば,被告Y1社は,平成20年5月29日,原告X19に対し,解雇理由証明書を交付したこと,同証明書には,被告Y1社は,被告Y1社新就業規則63条1項5号及び同項12号に基づいて,原告X19を解雇する旨記載され,被告Y1社新就業規則63条1項5号,同項12号,56条9号及び同条17号の内容が記載されていたことが認められる。

また,証拠(<証拠省略>,被告ら代表者)によれば,被告ら代表者は,平成20年5月31日,原告X19に対し,退職金共済関係の書類を渡し,「必要事項を記載して会社に送り返すように。」と伝え,退職金の支払手続を行ったが,原告X19は,同書類を送り返さなかったことが認められる。

そして,上記解雇理由証明書の内容及び退職金の支払手続からすると,本件解雇は普通解雇であると解される。

上記解雇理由証明書には,懲戒解雇の条文である被告Y1社新就業規則56条9号及び同条17号の内容が記載されているものの,これは,同就業規則63条1項12号が,56条を引用しているからであると解されること,上記解雇理由証明書が解雇の直接の根拠としている同就業規則63条1項は,普通解雇に関する条文であることからすると,上記解雇理由書に記載された条文の記載をもって,本件解雇が懲戒解雇であるということはできない。

また,証拠(<証拠省略>)によれば,被告ら代表者は,平成20年8月21日,原告X19に対し,「諭旨免職やで。辞表を提出させ退職させる。なっ,規定期日までに辞表を提出しない時には,懲戒解雇とする。この退職に応じた時には,退職金を支払う事がある。やからな。事があるやで!だから,もう自主退職して」,「諭旨免職でなこの31日までに,よく考えてもうあれしてください。でなかったら,懲戒解雇になりますよ。何にもなくなりますよ。」,「今月いっぱいでな。まっ懲戒解雇にでもならへんかっただけでも」と発言したことが認められ,上記事実によれば,被告ら代表者は,同月21日の段階では,原告X19が指定期日までに辞表を提出しなければ懲戒解雇することを考えていたものと認められる。しかし,同日の段階で懲戒解雇を考えていたとしても,その後,懲戒解雇という処分の重さに照らし処分内容を再検討し,実際に処分する際にはより軽い普通解雇を選択するということはあり得ることである。したがって,同日の段階での被告ら代表者の考えから,直ちに,本件解雇が懲戒解雇であるということはできない。

7  争点(7)(懲戒処分及び本件解雇は不当労働行為に当たるか。)

原告らは,前記第2,4(7)(原告らの主張)のとおり主張するので,以下検討する。

(1)  前記第2,2(当事者間に争いがない事実等),後掲証拠及び弁論の全趣旨によれば,以下の事実を認めることができる。

ア 労働協約の引継問題

個人原告らは,従前,生コン支部に加入していたところ,平成19年1月生コン支部を脱退し,同年2月1日,大阪自主労働組合に加入し,原告日光支部を結成した(<証拠省略>)。

そして,被告らは,平成19年3月,原告日光支部との間で,団体交渉を行ったところ,被告らと生コン支部とが締結した労働協約等の引継が問題となった(<証拠省略>,被告ら代表者)。

原告日光支部は,被告らに対し,被告らが,原告日光支部成立以前に被告らとの間で成立した労働協約を全面的に承継することを要求したところ,被告らは,まず原告日光支部が承継を主張する労働協約の具体的内容を明らかにするよう要求した(<証拠省略>,原告X24,被告ら代表者)。

しかし,原告日光支部は労働協約の具体的な内容を明らかにせず,労働協約の引継問題は進展しなかった(<証拠省略>,被告ら代表者)。

イ 労働者派遣法違反の派遣労働者の就労問題

被告らは,平成19年4月の団体交渉において,原告日光支部から,労働者派遣法違反(派遣期間超過)を指摘された。

そして,団体交渉の結果,被告らが,派遣労働者全員を被告らの従業員とすることを提案して,同年6月2日付けで,派遣労働者全員を被告らの従業員とした(<証拠省略>,被告ら代表者)。

ウ 夏季休暇の連続取得問題

従来,被告らの従業員の大多数は,連続3日間の夏季特別休暇を取得していた。ところが,被告らは,平成19年8月に派遣労働者から被告らの従業員となったばかりの者9名についてまで同年夏の夏季特別休暇を3日も付与することは行き過ぎであると主張して,その者が連続3日間の夏季特別休暇の取得を申し出たときは有給休暇を前倒しして取得することを認めることで夏の休暇が取得できるようにするとの態度を取り,これに応じず有給休暇を取得しないまま連続3日間休んだ組合員を欠勤とし,賃金を減額したため,原告日光支部との間で問題となった(<証拠省略>,被告ら代表者)。

エ 高倉台手当の問題

高倉台手当とは,平成17年に入札によって落札した堺市高倉台地域における4年間の廃棄物収集業務に対して,堺市から被告Y1社に対して支払われる対価を,当時の被告Y1社の従業員に対し分配することを目的として支払われる手当である(<証拠省略>,被告ら代表者)。

そして,原告日光支部は,新しく派遣労働者から従業員となった者に対しても,高倉台手当を支払うよう要求した(<証拠省略>,被告ら代表者)。

これに対し,被告らは,堺市から支払われる対価の総額が変わらないため,対価の総額を,新しく派遣労働者から従業員となった者を含む従業員全員で分配し直すことを提案した(<証拠省略>,被告ら代表者)。

オ 争議予告

原告日光支部は,平成20年3月3日,労働協約の引継問題,平成19年度春闘問題及び賃金差別支払の問題について,争議予告をし,同月4日,被告との間で,事務折衝をしたところ,被告らは,同事務折衝において,原告X31,原告X8及び原告X33に対する懲戒処分を提案し,懲戒処分について,原告日光支部との間で引き続き協議することとなった(<証拠省略>)。

(2)  前記(1)の事実からすると,労働協約の引継問題,夏季休暇の連続取得問題及び高倉台手当の問題については,被告らの言い分にも一応合理的な理由があるといえる。

また,労働者派遣法違反の派遣労働者の就労問題についても,被告らが,派遣労働者全員を被告らの従業員とすることを提案して,同年6月2日付けで,派遣労働者全員を被告らの従業員としたことにより,一応の解決をみたといえる。

さらに,被告らは,原告日光支部が争議予告をした日の翌日である平成20年3月4日,事務折衝において,原告X31,原告X8及び原告X33に対する懲戒処分を提案したものの,同懲戒処分について,原告日光支部との間で引き続き協議することとなっている。

また,証拠(<証拠省略>,被告ら代表者)及び弁論の全趣旨によれば,被告ら代表者は,平成20年5月1日,原告X24から,同月8日まで順法闘争を止める旨連絡を受けたため,順法闘争が同日に開始されるまでの間に,懲戒処分を行おうと考え,原告X31,原告X8,原告X33及び原告X2に対する懲戒処分を平成20年5月2日及び同月3日に行ったことが認められる。しかし,被告らが順法闘争中に懲戒処分を行えば,懲戒処分が争議行為を妨害・対抗するためのものではないかと疑われる可能性があるから,順法闘争が行われていない時期に懲戒処分を行うべきであるという被告ら代表者の上記考えにも一応の合理性があるといえる。

そして,本件解雇には,被告Y1社旧就業規則によっても,理由があるのであるから,被告Y1社が,原告X19を解雇するために,就業規則を変更したとは直ちに認められないし,また,被告Y1社が原告X19が労働組合に加入したことを嫌悪して,原告X19を解雇したことを認めるに足りる証拠はない。

また,原告X2に対する懲戒処分にも理由があるから,原告X2に対する懲戒処分が不当労働行為であることを推認することはできない。

原告X33に対する懲戒処分については,原告X33は,派遣労働者の際の平成19年4月30日,同年5月22日に無断欠勤しており,仮にこれが懲戒事由となるならば,出勤停止7日間の懲戒処分は重きに失するとはいえない。このことに,原告X33から被告Y2社が徴求した誓約書(<証拠省略>)の記載を併せて考慮すると,被告目光鍛治本は,原告X33に対する懲戒処分に当たり,上記無断欠勤について懲戒事由該当性の法律的判断を誤ったにすぎないものと認められる。したがって,原告X33に対する出勤停止7日間の懲戒処分が無効であることから,上記処分が不当労働行為であることを推認することはできない。

原告X4に対する懲戒処分については,原告X4が派遣労働者の際に禁止行為である清掃車両運転を行っていること,原告X4を原因として暴力団系金融業者を名乗る人物からの電話によって被告Y1社の事務に支障が発生したこと及び被告Y1社が原告X4から徴求した始末書(<証拠省略>)の記載からすれば,被告Y1社は,それらの事実について懲戒事由該当性の法律的判断を誤ったにすぎないように思われる。したがって,原告X4に対する減給10分の1の懲戒処分が無効であることから,上記処分が不当労働行為であることを準認することはできない。

さらに,原告X31及び原告X8に対する懲戒処分についても,同人らが遅刻及び無断欠勤を繰り返しており,それらの行為についての制裁として減給を選択することが重きに失するとはいえないことからすれば,被告らは,減給の金額について,労働基準法及び就業規則が定める限度の判断を誤ったにすぎないものと解される。したがって,原告X31及び原告X8に対する減給の懲戒処分が無効であることから,上記処分が不当労働行為であることを推認することはできない。

以上の事実に加えて,懲戒処分及び本件解雇の対象者が,原告日光支部の組合員33名のうちの6名であることをも考慮すると,被告らが,原告日光支部の順法闘争及び争議行為等の労働組合活動を嫌悪し抑圧するために,懲戒処分及び本件解雇を行ったとは認められず,ほかにこれを認めるに足りる証拠はない。

したがって,懲戒処分及び本件解雇は不当労働行為であるとは認められない。

8  争点(8)(被告らによるロックアウトの正当性)

(1)  前記第2,2(当事者間に争いがない事実等),後掲証拠及び弁論の全趣旨によれば,以下の事実を認めることができる。

ア 順法闘争(<証拠省略>,被告ら代表者)

(ア) 順法闘争

a 原告日光支部は,夏季休暇の連続取得問題及び平成19年度春闘問題等について労使交渉が進展しなかったため,平成20年4月11日,同月15日ないし同月30日,順法闘争を行った(<証拠省略>,被告ら代表者)。

b 個人原告らは,順法闘争の日は,通常業務の日と比較して,ゴミ収集業務の速度を遅くしており,また,平均して43%しかゴミを収集しない(<証拠省略>,被告ら代表者)。

(イ) 経済的打撃

被告らは,平成20年4月の原告日光支部による順法闘争により,以下のとおり,合計380万8451円の経済的打撃を被った。

a アルバイト料 合計172万3551円

被告らは,原告日光支部による順法闘争により,個人原告らの替わりとしてアルバイトを雇って,ゴミを収集し,その人件費は,被告Y1社について,平成20年4月41万2056円,同年5月31万6943円,被告Y2社について,同年4月45万7880円,同年5月53万6672円の合計172万3551円であった(<証拠省略>,被告ら代表者)。

b 知人に対する日当等 合計20万円

被告らは,ゴミの収集を知人に手伝ってもらい,同人らに対し,以下のとおり,日当を支払った(<証拠省略>,被告ら代表者)。

すなわち,被告らはY1社は,F及びGに対し,平成20年4月24日の日当として,合計4万5000円を支払った(<証拠省略>)。

また,被告Y2社は,H及びIに対し,平成20年4月11日,同月12日,同月15日,同月16日,同月18日,同月25日の日当として,合計12万円を支払った(<証拠省略>)。

さらに,被告Y2社は,J,H及びIに対し,平成20年5月20日の日当として,合計3万5000円を支払った(<証拠省略>)。

c 時間外等割増賃金 合計125万4742円

被告らの従業員は,原告日光支部による順法闘争の日に,時間外労働及び休日労働を行ったため,時間外等割増賃金として,被告Y1社は65万3467円を,被告Y2社は60万1275円を,それぞれ支払った(<証拠省略>,被告ら代表者)。

d その他

被告らは,以下の費用を支出した(<証拠省略>)。

(a) アルバイトの制服費用 合計17万5108円(<証拠省略>,被告ら代表者)

(b) アルバイト募集の広告費用 合計6万3000円(<証拠省略>,被告ら代表者)

(c) 証拠収集のためのビデオ撮影業者に対する費用 合計23万2050円(<証拠省略>,被告ら代表者)

(d) 順法闘争のためにキャンセルしたISO14000第2回サーベイランス審査のキャンセル料 合計16万円(<証拠省略>,被告ら代表者)

(ウ) 信用失墜

a 住民からの苦情の申し出

(a) 堺市の住民は,堺市に対し,原告日光支部による順法闘争について,「ゴミの収集が遅い。」,「だらだらしている。」などと苦情を申し出た(<証拠省略>,被告ら代表者)。

(b) 大阪狭山市の住民は,大阪狭山市に対し,原告日光支部による順法闘争について,「ゴミの収集が未だ来ない。」,「だらだら仕事をしている。」,「市と業者はどういう話合いをしているのか。」などと苦情を申し出た(<証拠省略>,被告ら代表者)。

(c) 堺市及び大阪狭山市の住民は,被告らに対し,原告日光支部による順法闘争について,「ゴミを早く回収して欲しい。」,「だらだらしないで欲しい。」などと苦情を申し出た(<証拠省略>)。

b 新聞報道

被告らにおける順法闘争は,平成20年4月23日の産経新聞において,「ごみ回収に遅れ」,「収集会社労使紛争の影響」,「市民から苦情多数」,などと報道された(<証拠省略>,被告ら代表者)。

(エ) 堺市及び大阪狭山市との間の業務委託契約

被告らは,原告日光支部による順法闘争により,堺市及び大阪狭山市から,清掃業務の委託契約を解除されるおそれがあり,解除された場合,被告らが倒産するおそれがあった(<証拠省略>,被告ら代表者)。

イ 平成20年5月20日

(ア) 原告日光支部は,平成20年5月20日,始業時刻である午前6時に,ストライキを実施したところ,これに対し,被告らはロックアウトを実施した。

そして,原告X24が,同日午前8時ころ,被告らに対し,「仕事させてほしい。」と述べたので,被告ら代表者が,ロックアウトを解除して,原告X24に対し清掃車両の鍵を渡そうとしたところ,原告X24は,被告らが今すぐ話合いをするのであれば,個人原告らは仕事をすると述べた。

これに対し,被告ら代表者が団体交渉を申し込むよう述べたところ,原告X24は順法闘争を行うと述べたので,被告らはロックアウトを継続して行った。(<証拠省略>,被告ら代表者)

(イ) 被告ら代表者は,平成20年5月20日の夕方,大阪狭山市の職員から,「原告日光支部が役所に来ている。明日からストをやめると言っている。」,「事務折衝でもいいから話合いをしてくれたら,組合員が明日から仕事をする。」旨伝え聞いた(<証拠省略>,被告ら代表者)。

しかし,被告ら代表者は,原告X24が,同日,仕事をすると言いながら,順法闘争を行うと言ったので,原告日光支部の役員である原告X24らから,直接順法闘争をやめる旨聞かなければ,信用することができないと考えた(<証拠・人証省略>,被告ら代表者)。

ウ 平成20年5月21日

個人原告らは,平成21年5月21日午前5時40分ころ,「シャッターを開けて。」などと言っていたが,被告ら代表者は,原告日光支部の役員から,直接順法闘争をやめる旨聞いていなかっため,同役員から,直接順法闘争をやめる旨聞かなければ,本当に順法闘争をやめるのか,それともこれをやめるについて更に条件を持ち出すのか分からないという考えを維持したまま,シャッターを開けなかった(<証拠・人証省略>,被告ら代表者)。

その後,B専務が,同日午前5時40分ころ,原告日光支部の役員に対し直接順法闘争をやめるかどうかについて確認するため,個人原告らに対し,「役員2,3人だけ来て」と声を掛けた(<証拠・人証省略>,被告ら代表者)。

そして,原告X24らが,同日午前5時57分ころ,2階の事務所に上がってきて,争議行為を終了して,仕事をするから,本日中に団体交渉を行うよう要求し,これに対し,被告ら代表者が,近日中に事務折衝を設けるよう調整する旨述べたところ,結局,2,3日のうちに事務折衝をすることになり,原告X24が,近日中に事務折衝を設けるという条件で,争議行為を終了する旨述べたので,被告らは,ロックアウトを解除した(<証拠・人証省略>,被告ら代表者)。

その結果,個人原告らのタイムカードの打刻時刻が,同日午前6時を数分間過ぎた(<証拠省略>)。

(2)  個人原告らの就労の申し入れ

まず,被告らは,個人原告らが就労を申し出なかったと主張するので,以下,検討する。

ア 平成20年5月20日午前8時

前記(1)イ(ア)のとおり,原告X24が,平成20年5月20日午前8時ころ,被告らに対し,「仕事させてほしい。」と述べたことに引き続いて,順法闘争を行うと宣言したことが認められる。

そうすると,個人原告らは,順法闘争を行うことを前提とした就労申出をしていると理解される。そして,後記のとおり,原告日光支部による順法闘争は,怠業争議行為であるところ,怠業により,個人原告らが,契約上要求された労務を履行しなかった割合で賃金請求権を取得しないことはあるとしても,順法闘争をすることを前提とした就労の申出が,全く就労の申し出ではないとまでいうことはできない。

イ 平成21年5月21日

原告日光支部が,平成21年5月20日に順法闘争を行うと宣言し,これを解除する旨を被告らに直接告知しないまま,,前記(1)ウのとおり,個人原告らは,平成21年5月21日午前5時40分ころ,「シャッターを開けて。」などと言っている。そうだとすると,個人原告らは,後記(4)のとおり,前日に引き続き順法闘争をすることを前提とした就労の申出をしていると理解されるが,前記アと同様に,これを全く就労の申出ではないとまでいうことはできない。

(3)  平成20年5月20日午前8時以降のロックアウトの正当性

使用者のロックアウトが正当な争議行為として是認されるかどうかは,個々の具体的な労働争議における労使間の交渉態度,経過,組合側の争議行為の態様,それによって使用者側の受ける打撃の程度等に関する具体的諸事情に照らし,衡平の見地からみて労働者側の争議行為に対する対抗防衛手段として相当と認められるかどうかによってこれを決すべきである。

ア 前記(1)ア(ア)bからすると,原告日光支部による順法闘争は,怠業争議行為であると解される。

そして,前記(1)イ(ア)のとおり,被告らは,原告X24が平成20年5月20日午前8時ころ順法闘争を行うと述べたので,被告らはロックアウトを継続して行ったことが認められる。

イ 前記(1)ア(イ)のとおり,被告らは,平成20年4月の原告日光支部による順法闘争により,合計380万8451円の経済的打撃を被ったことが認められる。

そして,順法闘争において個人原告らの誰がどれだけ怠業したのかが明らかでないため,被告らが個人原告らの賃金を減額することが困難であり(<証拠省略>),被告らが順法闘争を行った個人原告らの賃金を全額負担しなければならないことをも考慮すると,被告らが順法闘争によって被る経済的打撃は,ストライキ等の場合と比較して大きく,さらに,前記第2,2(当事者間に争いがない事実等)(1)イのとおり,被告らが,いずれも,資本金額1000万円の中小企業であることも考慮すると,原告日光支部による順法闘争により被告らが被る経済的打撃は大きいといえる。

ウ 前記(1)ア(ウ)のとおり,堺市及び大阪狭山市の住民が,堺市及び大阪狭山市並びに被告らに対し,原告日光支部による順法闘争について,苦情を申し出ており,また,被告らにおける順法闘争は,平成20年4月23日の産経新聞において報道されたことが認められ,被告らの信用が失墜したことが認められる。

そして,個人原告らは,順法闘争において,清掃車両を使用して占有してしまうため,アルバイト等によるゴミの収集が遅れるのであって(<証拠省略>,被告ら代表者),順法闘争の場合,ストライキ等の場合と比較して,ゴミの収集作業が遅れ,住民からの苦情の申し出も,ストライキ等の場合と比較して,多くなることが推認されるから,順法闘争の場合,ストライキ等の場合と比較して,被告らの信用が失墜する程度も大きいといえる。

エ 前記(1)ア(エ)のとおり,被告らは,原告日光支部による順法闘争により,堺市及び大阪狭山市から,清掃業務の委託契約を解除されるおそれがあり,解除された場合,被告らが倒産するおそれがあったことが認められる。

したがって,順法闘争により,被告らの存立が脅かされるおそれがあったといえる。

オ 以上の事実に,前記7(1)認定に係る労使双方の交渉態度(被告らの言い分にも一応合理的な理由があることは前記7(2)のとおりである。)をも加えて総合すれば,被告らが平成20年5月20日午前8時以降ロックアウトを行ったことは,衡平の観点から見て,原告日光支部による順法闘争に対する対抗防衛手段として相当であり,使用者の正当な争議行為であるといえる。

(4)  平成20年5月21日のロックアウトの正当性

前記(3)のとおり,平成20年5月20日午前8時以降のロックアウトは正当な争議行為であるところ,前記(1)イ及びウのとおり,原告X24が,同月21日午前5時57分ころに,2階の事務所に上がって,被告ら代表者との間で,事務折衝の開催について交渉し,交渉の結果,争議行為を終了する旨述べ,被告らは,これを受けて,ロックアウトを解除したのであって,それ以前には,原告X24ないし原告日光支部から被告らに対し,争議行為を終了する旨の告知がされていないことが認められ,上記事実によれば,それは順法闘争をする前提に立つものとみられてもやむを得ないものであるから,被告らが,同日午前6時ころまで,ロックアウトを行ったことも,同様に,原告日光支部による順法闘争に対する対抗防衛手段として相当であり,使用者の正当な争議行為であるといえる。

(5)  原告らの主張等の検討

ア 順法闘争

(ア) 原告らは,前記第2,4(争点に対する当事者の主張)(8)(原告らの主張)ウ(ア)のとおり,順法闘争は怠業争議行為ではないと主張する。

そして,原告X24は,個人原告らは,通常業務の日には,道路交通法等の関連法規に違反して,清掃車両を逆行走行させたり,徐行せずに走行させたりすると供述する(原告X24),

しかし,同供述によっても,原告らが主張する道路交通法等の関連法規の不遵守の具体的内容は明らかではないし,また,順法闘争の内容として,堺市直営の清掃業務と同程度のゴミを収集しなければならない合理的理由も見出しがたいから,原告らの上記主張には理由がないというべきである。

なお,証拠(<証拠省略>)によれば,平成20年4月18日及び同月30日の順法闘争時には,原告日光支部組合員の運転する清掃車両が合計5台,一旦停止標識を無視して進行していることが認められ,上記事実によれば,原告らの順法闘争は,道路交通法を遵守することをも内容とするものとすることは疑問である。

(イ) また,証拠(<証拠省略>)によれば,順法闘争中の原告日光支部組合員の清掃作業は,堺市直営の作業員の清掃作業と比べて,動作が明らかに緩慢であることが認められ,また,証拠(<証拠省略>)によれば,被告Y1社の作業員は,32名で2万7059世帯ないし2万0665世帯程度(ただし,時々4000世帯以下の日もある。)を担当し,したがって1人当たりの担当は846世帯ないし646世帯であるのに対し,堺市直営の清掃業務では,1人当たりの担当は,平成19年は699世帯,平成20年は761世帯であることが認められる。

以上の事実によれば,個人原告らは,順法闘争においては,堺市直営の清掃業務と同程度の作業もゴミの収集も行っていなかったものと認められる。

(ウ) また,原告らは,前記第2,4(争点に対する当事者の主張)(8)(原告らの主張)ウ(イ)のとおり,被告らが,堺市及び大阪狭山市から,委託契約を解除されることはないと主張する。

しかし,原告日光支部が堺市及び大阪狭山市に対して行った順法闘争等に関する要請及び説明の具体的な内容が明らかではなく,同要請及び説明から,直ちに,被告らが,堺市及び大阪狭山市から,委託契約を解除されることはないとはいえないから,原告らの上記主張には理由がないというべきである。

イ 平成20年5月21日

原告X24は,被告ら代表者が,平成20年5月21日午前5時40分ころ,「報告があるから待ってくれ。」と言ったため,個人原告らが待機したこと,その後,個人原告らが,被告らからの報告を待っていたが,午前6時になるのに,報告がなかったこと,このため,原告日光支部の役員が,「通常作業をするのだから早くシャッターを開けてほしい。」と申し入れたところ,被告らがロックアウトを解除してシャッターを開けたことを供述する(<証拠省略>,原告X24)。

しかし,被告ら代表者は,同日,「報告があるから待ってくれ。」と言ったことを否定しており(<証拠省略>),同日午前5時57分ころ,原告日光支部の役員が2階事務所に上がって来てからのやりとりでも,同役員らは「報告」に関する疑問も,就労申出をしているのになぜ待機させるのかという点についての疑間も呈していない事実(<証拠省略>)に照らし,原告X24の上記供述は採用することができない。

また,同月20日に,大阪狭山市の職員から被告ら代表者に対し,原告日光支部が「明日からストをやめると言っている。」旨の連絡があり,平成21年5月21日午前5時40分ころ,「シャッターを開けて。」などと言っていたとしても,原告日光支部が,前日である同月20日に,「仕事をさせてほしい。」と述べた後,仕事をするについて被告らが今すぐ話合いをすることを条件とし,被告ら側から団体交渉の申込みを求められたのに対しては順法闘争を行う旨宣言したという経緯に照らせば,労使関係の信義則上,原告日光支部がそれ以降に順法闘争を終了しようというのであれば,原告日光支部において,被告らに対し,自ら,順法闘争を終了する旨を申し入れるべきである。それが行われていない本件において,被告ら代表者が,原告日光支部の役員である原告X24らから,直接順法闘争をやめる旨聞かなければ,信用することができないと考えてロックアウトを解除しなかったことには合理性があり,自ら順法闘争を終了する旨申し入れなかったことの不利益は,原告日光支部が負担するべきである。

9  争点(9)(原告日光支部の損害の有無及び慰謝料の金額)

原告らは,前記第2,4(争点に対する当事者の主張)(9)(原告らの主張)のとおり,主張するものの,前記8のとおり,個人原告らに対する懲戒処分及び本件解雇は,いずれも,不当労働行為であるとは認められない。

したがって,原告日光支部の請求には理由がない。

10  結論

以上からすれば,原告らの請求には,原告X31,原告X8,原告X33及び原告X4の各請求並びに各未払賃金に対する遅延損害金の限度で理由があり,かつ,原告X19の請求のうち,前記第2,2(当事者間に争いがない事実等)(4)ウの昇給に伴う賃金及び一時金の各差額合計4万1690円及びこれに対する遅延損害金の限度で,理由があるから,これらの限度で原告らの請求を認容し,その余の請求にはいずれも理由がないから,これらをいずれも棄却することとし,主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 山田知司 裁判官 後藤英時郎 裁判官世森亮次は,転補につき,署名押印することができない。裁判長裁判官 山田知司)

(別紙)

当事者目録

原告1 X1

原告2 X2

原告3 X3

原告4 X4

原告5 X5

原告6 X6

原告7 X7

原告8 X8

原告9 X9

原告10 X10

原告11 X11

原告12 X12

原告13 X13

原告14 X14

原告15 X15

原告16 X16

原告17 X17

原告18 X18

原告19 X19

原告20 X20

原告21 X21

原告22 X22

原告23 X23

原告24 X24

原告25 X25

原告26 X26

原告27 X27

原告28 X28

原告29 X29

原告30 X30

原告31 X31

原告32 X32

原告33 X33

原告34 大阪自主労働組合日光支部

上記代表者支部長 X24

上記34名訴訟代理人弁護士 徳井義幸

同 横山精一

被告 Y1株式会社

上記代表者代表取締役 A

被告 有限会社Y2(商業登記簿上の商号 有限会社Y2)

上記代表者代表取締役 A(商業登記簿上の上記代表者の表示 A)

上記両名訴訟代理人弁護士 村井潤

同 片山文雄

同 上将倫

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