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大阪地方裁判所堺支部 昭和40年(ワ)230号 判決 1968年4月01日

原告 山本政次郎

被告 山口敏子

<ほか一四名>

右被告ら訴訟代理人弁護士 岩田嘉重郎

右訴訟復代理人弁護士 中嶋輝夫

右同 篠田桂司

主文

一、原告が

被告山口敏子同宮口清二同鷺岡明治同宇野様一同杉本俊夫同金谷昭治同浜田義也同隅野絹江らに対し、原告と同被告ら間の別紙第一目録記載建物内の店舗に関する賃貸借契約に基づき昭和三九年一二月一四日以降一日金一五〇円(ただし一ヶ月中三日間の休日を除く)被告谷口宏同上原梅松同中辻富造同松原十二郎同岡茂太郎同松野繁造同中野恵介らに対し、原告と同被告ら間の別紙第二目録記載建物内の店舗に関する賃貸借契約に基づき昭和三九年一二月一四日以降一日金一二五円(ただし一ヶ月中三日間の休日を除く)の右割合で賃料債権を有することを確認する。訴訟費用は被告らの負担とする。

事実

一、当事者双方の申立

原告は主文同旨の判決を求めた。

被告らは原告の請求を棄却する。訴訟費用は原告の負担とするとの判決を求めた。

≪以下事実省略≫

理由

一、≪証拠省略≫を綜合すると、原告は昭和三〇年一二月頃約一九八、三四平方メートル(約六〇坪)の建物を新築し、約一六八、五九平方メートル(約五一坪)の建物を改造補修して、生鮮魚介類の店舗を含む三五の店舗を擁する本件小売市場を開設し、被告ら商人に対して、店舗一戸につき一日金九〇円(月三日間の休業日を除く)にて賃貸して小売市場を経営してきた。そして昭和三六年一〇月頃被告らを含む賃借人全員に対し、賃料を一戸当り一日金一三〇円に値上げをする旨要求した。ところが、賃借人らはこれに応じないので、調停の申立をなし、約一ヶ年間調停がなされ、調停中二名の鑑定人により相当賃料の鑑定がなされたりなどしたが、結局その調停が不調となった。そこで、原告は昭和三八年三月初め頃右鑑定の結果に基づき、当時商人会の役員であった訴外山本二三を通じ賃借人全員に、一戸当り一日金一二五円ないし金一五〇円に値上げすることを通告する一方、右訴外人のみを被告として、右賃料増額の確認を求めるため、堺簡易裁判所に提訴し、該訴訟進行中昭和三八年三月一四日裁判所の勧告により、昭和三八年四月一日以降賃料一日金一二五円とする旨の和解が成立した。けれどもその後同訴外人は堺市内所在の市場連合会の役員から、賃料の値上げには知事の許可が必要であることを聞かされ、前記和解の無効確認の訴を、右裁判所に提起した結果、昭和三九年九月一〇日同裁判所において、右和解が無効である旨の確認判決がなされた(右訴訟が控訴審に係属中原告が知事の許可を得たので、右訴外人の賃借店舗の賃料額は、知事の許可の日から一日金一二五円であることを確認するとの和解がなされた)。一方原告も前記簡易裁判所での和解成立の直後、賃料の増額には知事の許可を要することを知り、昭和三八年三月二五日付で、本件市場の右商人との間の賃料を、平屋店舗一戸につき一日金一二五円、中二階付店舗一戸につき一日金一五〇円に増額するにつき、堺市長を通じ大阪府知事に対し、許可申請手続をなした。これを受理した堺市長としては、右の申請を知事に上申するに当り、事務処理上の慣例として、申請賃料額につき商人会の同意書を添付せしめているので、同意書を添付するよう求めたが、その提出がないので、市内二〇数ヶ所の市場の実情を調査すると同時に、原被告ら双方に協議を斡旋すべく、堺市商工課吏員と堺市内の市場連合会々長らに、その斡旋の労をとらしめた。その結果昭和三九年一月頃同連合会副会長らの尽力によって、原告と被告ら賃借人を代表する商人会役員らが、数次にわたり交渉を遂げたが、原告が一戸当り一日金一二五円を主張するのに対し、賃借人らは金一一五円が相当だとして、譲らないので、堺市経済部長同商工課長らが一戸につき一日金一二〇円との仲裁案を呈示した。しかし当事者双方ともこれを拒否したため協議が決裂するに至ったので、堺市長は大阪府知事に右事情を具申するとともに、調査資料を添付して昭和三九年九月頃右許可申請書を右知事に宛て廻付した。そこで大阪府知事は右申請理由を審査した上同年一二月一四日付を以て、原告申請にかかる本件市場の貸付条件変更につきこれを許可するに至ったものであることおよび原告は昭和三九年一二月二〇日府知事より右の許可のあったことを知ったので、昭和四〇年一月八日頃口頭を以って、市場商人会の役員を通じ被告らに対し、中二階付店舗は一戸につき一日金一五〇円平屋店舗は一戸につき一日金一二五円に、それぞれ値上げになったことを告げ、同額の賃料を支払われたき旨告知したものであることを認めることができる。≪証拠判断省略≫

二、ところで前記市場貸付条件変更の知事の許可の性質および効力に関し争いがあるので検討する。

おもうに、小売市場店舗の賃貸人と賃借人間の市場店舗貸付条件変更に関する小売商業調整特別措置法第七条一項二号の制約規定中には、「小売商業の事業活動の機会を適正に確保しおよび小売商業の正常な秩序を阻害する要因を除去し、もって国民経済の健全な発展に寄与する」という公共の福祉の要請から、本来当事者の自由な意思表示により定めうる法律行為の内容およびその効力に国家が後見的立場から制限を加え、もって右の趣旨を達成せんとの目的も含まれおることは同法の規定の趣旨に徴し明らかである。さればかかる目的達成のための賃貸人の賃借人に対する賃料変更に関する都道府県知事の許可は、当該知事が当事者に対し、賃料変更なる法律関係を発生せしめることを欲する意思表示を内容とする行政行為であるが、その許可自身店舗の賃料を決定し確定せしめるものではなく、当事者の市場店舗の賃料値上げにつき必要な法律要件を補充するもの、換言すれば適正な賃料額を形成する当事者の意思表示を補充して、その法律上の効力を完成させるいわゆる補充行為の性質を有するものにすぎない、とすれば知事の許可を得た場合といえども、それは賃料変更なる法律要件中、特別有効要件を充足させただけのことである故、成立要件および一般有効要件に関し当事者間に争いがあるときは、裁判所はこれを審査し判定せざるを得ないところ、右賃貸人の増額請求は、知事の許可の内容に従わねばならぬ制限こそあれ、その他の要件およびその性質は借家法第七条に基づく賃料増減請求権と何ら異なるところがないものと解する。

ところが、被告らは、右知事の許可は、その範囲内において当事者が自由に協定して賃料の額を定めうる標準を示す効力を有するに過ぎないものであり、賃金の額はあくまで当事者の協定によって決定すべきものであるのにかかわらず、本件当事者間には未だ協定がなされていない旨主張するが、賃料変更についての知事の許可の性質およびその効力ならびに当事者の増額請求権の性質が前記のとおりである以上、当事者の行為に基づく賃料増額の成立ならびに一般有効要件は、当事者の協定によらなければ充しえられないというものではない。この点成立に争のない乙第二号証(大阪府知事より堺市長に対する前記法第七条一項二号の許可についての事前協議申出書)の記載は、前記のごとき成立要件ならびに一般有効要件は、当事者間の関係において別途決定せられるべきものであることの当然の理を記載したにすぎないもの(許可庁である知事としては、賃料の確定につき当事者が争うことなく協定による円満裡に解決することを願うのは当然のことである)であるから、被告らにとって有利な証拠にならない。これに反し、もし被告らの主張のごときものとすれば、賃借人らにおいて協議を拒否した場合は、永久に賃料の増額をなしえない不当な結果が生ずることからみても、被告らの主張の失当なることは明らかである。

三、そこで本件賃料増額について成立要件および一般有効要件が充足されているかどうかの点であるが、原告が昭和三六年一〇月頃本件市場店舗一戸につき、一日金一三〇円に賃料を増額する旨商人会役員を通じ被告らに申出て以来、幾度となく値上げ交渉をしたことおよび昭和三八年三月二五日前記賃料変更許可申請書を堺市長のもとに提出してから以後、堺市長が原被告らをして賃料額を協定させるべく、堺市の商工課係員および市場連合会役員に協議斡旋方尽力せしめたところ、原告は一戸当り一日金一二五円ないし金一五〇円を主張し、被告らは金一一〇円を主張して互に譲らなかったため、協議が決裂するに至ったものであることは、前記のとおりであるから、本件事案としては原告の、賃料値上げの意思表示があり、この効力が前示知事の許可のあったときまで継続しておることは明らかである。

とすれば、次に原告の請求額が相当であるかどうかの点であるが、本件契約の既定賃料が定められた昭和三〇年から、原告が初めて賃料増額の請求をなした昭和三六年十月まで、既に約六ヶ年前記大阪府知事の許可があったときまで、約九ヶ年を経過しており、その間不動産価格(特に土地)の上昇ならびに諸物価が高騰したものであることは、当裁判所において明らかであり、かつ≪証拠省略≫に徴し明らかな本件市場の存在する位置と環境、市場建物の構造と利用価値、市場店舗の収益力、店舗賃貸人の投資と利潤との関係、近隣市場の賃料との比較および近隣新設市場との競争力と将来の見通し等諸般の事情を参酌考慮した上鑑定した訴外下湯北木之助、清水久米治、荒木久一らが、いずれも昭和三七年八月ないし同年一一月の時点において、既に当市場店舗一戸につき一日金一二五円ないし金一五〇円が、本件市場店舗の相当賃料である旨鑑定しており、その後値下りの事由が生じたと認めうる資料がない本件としては、原告請求の昭和三九年一二月一四日現在において、本件市場のうち中二階付店舗は一戸につき一日金一五〇円、平屋店舗は一戸につき一日金一二五円(ただし休日を除く)の賃料は相当であると認めざるをえない。≪証拠判断省略≫従って建物の老朽化その他近隣市場店舗の賃料と比較して不相当であるとの被告らの主張は理由がない。

四、そうすると、原告の本件店舗の賃料増額請求は、右知事の許可により効力が完成したものというべきであるから、原告は被告らに対し、右許可の日よりそれぞれ請求の趣旨記載どおりの賃料請求権を有することは明らかであるので、これが確認を求める原告の本訴請求を正当として認容し、民事訴訟法第八九条第九三条第一項本文を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 依田六郎)

<以下省略>

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