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大阪地方裁判所堺支部 昭和46年(ワ)100号 判決 1972年8月31日

原告

堤幸子

被告

日本火災海上保険株式会社

主文

被告は原告に対し、金五〇〇、〇〇〇円およびこれに対する昭和四六年三月二六日から支払済みまで年五分の割合による金銭を支払え。

訴訟費用は被告の負担とする。

この判決は仮に執行することができる。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

主文第一、第二項同旨の判決および仮執行の宣言

二  請求の趣旨に対する答弁

1  原告の請求を棄却する。

2  訴訟費用は原告の負担とする。

第二当事者の主張

一  請求原因

別紙のとおり

二  請求原因に対する認否および抗弁

1  第一項は認め、第二、第三項は不知である。

2  本件加害者は被害者たる原告の夫であるところ親子もしくは夫婦間においては原則として不法行為に因る損害賠償請求権は発生しないし、少くとも行使することはできないから、本件の場合、原告に保険金請求権は存在しない。

3  仮に、右賠償債権が発生したとしても、夫たる加害者が死亡し、原告が右債務の三分の一を相続し、従つて前記債権の三分の一は混同によつて消滅した。仮に、右債権の債務者を保有者堤生三としても、両者は不真正連帯債務関係であるから、混同については絶対効が認められ、従つて、右堤生三の右債務も右の限度において消滅した。

三  抗弁に対する認否

否認する。

第三証拠〔略〕

理由

一  請求原因事実中、原告主張のとおりの自動車損害賠償責任保険の契約が締結されたことは、当事者間に争いがなく、その余の点については、〔証拠略〕によつて認めることができる。

二  原告は、親子もしくは夫婦間においては原則として不法行為に因る損害賠償請求権は発生せず、少くとも行使できないと主張するが、親族間の事故で被害を受けた者は自動車運行供用者または運転者でない限り自賠法三条の「他人」として保護されると解されるので、被告の主張は本件には適切でなく、採用できない。

三  次に、被告は、原告の夫たる訴外堤康洋の死亡により原告は本件債務の三分の一を相続し、従つて本件債権の三分の一は混同により消滅したと主張するが、前記のとおり親族間の事故で被害を受けた者が自賠法三条の「他人」として保護される場合は、相続による混同を認めるべきでないと解するのが相当であるから、相続による混同を前提とする被告の主張はその余の点を判断するまでもなく失当である。

四  よつて、原告の本訴請求は理由があるから認容し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八九条、仮執行の宣言につき同法第一九六条をそれぞれ適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 新月寬)

別紙 請求の原因

一 訴外堤生三は、昭和四三年二月二八日、被告との間で同訴外人が所有し自己のため運行の用に供する普通乗用車(泉五は二四五)について、保険期間同月二九日から同四五年三月二九日まで、保険料金一七、九〇〇円とする自動車損害賠償責任保険の契約を締結した。

二 右訴外堤康洋は、同四四年三月二一日午後八時五五分ごろ、右自動車に原告を同乗させたうえ、これを運転し堺市大浜中町三丁一番地先路上を北から南に向つて進行中、同番地先交差点において右折のため停車していた木英一運転のトラツク(大八か四五六八)に追突し、よつて原告に対し、上口唇打撲裂創、上歯一、二門歯骨折下右一、左一、二肉歯左第一切歯骨折、両前腕挫傷、頭蓋内出血、両足関節挫傷、上顎骨々折、左橈骨々折の傷害を負わせた。

三 原告は、右負傷の治療のため次のような治療費を支出せざるをえなくなり、損害を蒙むつた

1 医療法人仁悠会吉川病院に対し前記傷害による治療費として 金三九一、五八八円

2 医療法人サンジヨウ会山上歯科診療所山上一郎に対し、外傷性歯牙欠損症による治療費として 金二二〇、〇〇〇円

四 そこで訴外堤康洋は、原告に対し、右事故にもとづいて右合計金六一一、五八八円の損害賠償責任を負うに至つたので、原告は、被告に対し、自動車損害賠償保障法一六条一項にもとづき保険金額の限度において金五〇〇、〇〇〇円とこれに対する本訴状送達の日から支払済まで年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。

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